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《前編》発情期に入ったオスはチンポが敏感すぎて自分ひとりでは射精できないので、プロデューサーさんをヌいてあげる優しい桑山千雪(というのは大嘘でPを長ったるいデカ乳の授乳手コキで依存させる気満々の桑山千雪)《24000文字弱》

 昼時にも関わらず、事務所の中は静まり返っていた。アイドルたちが忙しなく出入りしているこの空間は、平日の昼下がりがいちばん人の気配が少ない。籍を置くアイドルの多くが、今頃は学業に勤しんでいるからだ。もともと『私生活とアイドル業のどちらとも疎かにしない』がプロデュース方針だったものの、説得力を強めたのは大人組のはたらきかけによる部分が大きい。  社長や俺はもちろん、事務員としてはたらくはづきさん。そして同じ立場でありながら、先達として意見をくれる存在が有難かった。『今を大切にする気持ちは、未来を思い描くのと同じくらい大切なもの』。それは彼女たちの将来を考えての、実体験に裏打ちされたアドバイス、だったはずだ。  本心から出た言葉だったと俺は信じている。けれど、時折勘ぐってしまう。あれは、昼間の事務所から人払いを済ませるためのうまい方便でもあったのではないか、と。  周りに人がいないことを見計らったのだろう、俺のすぐ隣に千雪は腰を下ろした。大人二人分の重みでソファが沈み、それとなく身体が密着する。衣類越しだというのに輪郭が重なり合ったところから、女体の甘やかさが伝わってくる。それだけで、俺はにわかに総毛立ってしまった。  ——あぁ、まずい。  咄嗟に席を立とうとするも、袖口を捕まえられてしまった。膝を伸ばすことは叶わず、前に傾いた重心がおそるおそる元に戻ってゆく。真横をもうまともに確認できない。  そのせいで真っ赤になった耳に直接、囁きを吹きかけられることとなる。 「プロデューサーさん、みんながいない今のうちにお射精しておきませんか?」 「っ、ぁッ」  みっともなく肩が跳ねた。一体どうして、という疑問がたちまち胸の内を埋め尽くす。症状は未だ現れていない。時期が近づくとうっすら発せられる特有の匂いには気を張っていて、ここ数日は香水も撒いていた。それなのにまさか見透かされていたのだろうか。  千雪の手のひらが、そっと俺のを覆い包む。手の甲を女のやわらかな指になぞられるだけで、言いようのないゾクゾクが全身に広がり、やがて股間へと収束してゆく。 「なんとなく、ですけど。そろそろなんだろうなぁって。数日前から、栗の花を煎じたような匂いがだんだん強くなってきてます。香水じゃごまかされませんよ。……分かっちゃうんですから、」  ——プロデューサーさんの、発情期……❤︎  今日から始まる生理周期をぴたりと言い当てられ、思わず身震いした。自分では細心の注意を払っていたつもりなのに、まるっきり筒抜けになっていただなんて。ならば周りに気づかれまいという俺の影の努力についても、勘付いたうえで微笑ましく観察されていたのかもしれない。  急激に膨らんできた恥ずかしさで、目頭が熱い。 「おつらいですよね。金玉さんがずっしりと重たくなって、なんにも考えられなくなっちゃうんですもんね」  まるで子どもを宥めるようなやわらかな話ぶりからは、ままならない男性の性事情に寄り添おうとしてくれているのが分かる。だがその気遣いがかえって、羞恥心を逆撫でしてくる。  よりにもよって千雪に、自分で自分の世話もできない男だと思われてしまうことが俺には何よりたまらないのだ。いくら身体のつくりがそうなっているからといって、こればかりは簡単に割り切れない。 「私で良かったら……また、ずっしり重くなった金玉の中身を軽くするお手伝いをさせてもらえませんか?」 「っ、そ、れは……っ」  耳を疑うような提案に返答が上ずる。必死に忘れようと記憶の底に沈めていた強烈な体験を、その一言で生々しく思い出してしまった。数ヶ月前の発情期にたった一度だけ、千雪に抜いてもらった性欲処理。あの時の過ちを万が一にも繰り返すわけにはいかない。わずかに残された良識が必死に正論にしがみつき、理性を鼓舞する。  一方で、身体はあまりにも本能に貪欲だ。熱いのはもう羞恥心のせいではない。視線を落とせば、股間は直上にテントを屹立させて期待を表明している。それどころか既に下着を浸食して、ズボンにまで先走りのシミが広がっているではないか。  俺は良識と性欲との激しい板挟みに陥って、俯いたままビクビクと痙攣した。拮抗していられるのは今のうちだけだ。性欲の勢いは発散させるまで衰えることはない。徐々に勢いを増してゆき、じきに仕事すら手につかなくなる。だがなんとか時間まで間に合えば、と一縷の望みにかけて俺は耐え忍ぶことを選ぶ。 「予約、もう済ませちゃってるんですか?」  おずおずと頷く。ここからほど近い、都営の性欲処理施設を17時に予約してある。発情期の敏感になったペニスの世話を身の回りの女性に申し出るのが一般的だ。だが、俺は職業柄そうもいかないので、これまで幾度となく利用している。  搾精希望者の嗜好を自動解析し、映像や音声、VR体験にて搾精を行ってくれるオートメーション化された完全個室制の公共施設。射精の際の無様な姿を女性に晒さなくても済むという理由で、今では多くの男たちが利用している。  千雪は俺が握りしめたままになっているスマホに指を滑らせた。勝手知ったる様子でパスコードを難なく突破すると、ホーム画面に並んだアイコンの中からアプリを立ち上げる。 「キャンセルしますね?」 「っ、ぁ、ま、まってくれっ……」 「まだ三時間以上も我慢しなきゃなんて、体に良くないですよ」  それに、と一旦言葉を区切った千雪は眉を八の字に困らせて、頬を赤らめた表情を作って、俺のいちばん弱いところをつつく。 「……プロデューサーさんは、今日も私のグラビアで、お射精なさるんですよね?」 「うっ、ぅ〜〜ッッ……!!」  普段のお姉さん然とした姿からは及びもつかない、いじけたような囁き。心臓が飛び出しかけるほどのいじらしさで羞恥心を詰られた俺は、図星と相まって何も言い返せない。返事の代わりに、チンポがビクッビクッと跳動する。    搾精履歴は誤魔化せない。アプリを遡るだけで俺が過去に利用した全ての射精が詳らかになる。プレイはもっぱら、足を閉じられないように固定されてのねっとり全自動オナホコキ。投影されるお気に入りのオカズは、桑山千雪の水着PV、写真集、ツイスタに投稿された動画の切り抜きなど。一介のプロデューサーごときが、担当アイドルに欲情した明らかな証拠が並んでいる。  けれども、それを見つけた千雪は気まずそうにするでも、ぎこちなく取り繕ってみせるでもなく—— 「私の知らないところで、私のことを想いながら、機械に射精させてもらうだなんて。そんなの寂しすぎますよぅ……❤︎」  ——ただ、拗ねたのだ。  どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか、と唇を尖らせて。私だってお手伝いを申し出たかったのに、と頬を膨れさせて。  手元の画面を隣から白い指が操作する。申請の手続きをする手順に迷いはない。参考までにお聞かせくださいと前置きされたキャンセル理由には『親しい間柄の女性に処理してもらえることになったから』を選択。そして、搾精の備考欄に書きこむその内容を、俺に言い聞かせるようにわざとらしく囁いた。 「ちょっぴりいじわるな授乳手コキで、お射精させてもらいます、っと……❤︎」  向き合った相手をありのまま包み込む優しさの塊のような女性から、『恥ずかしい思いをさせて射精させますね』とおちんちんのK.O予告をされたのだ。その衝撃に打ち負かされた俺は、フリックされる指の動きをただ呆然と見つめることしかできない。  やがて申請取り消しの操作を終えた千雪は、スマホを抜き取って傍のテーブルに置いた。そして空っぽになった俺の手を包みこみ、慈しむように撫でてくる。 「今でもこんなにおつらそうなのに、みんなが来る頃にはもっと苦しくなっちゃいますよ。……私、そんなの見ていられません。プロデューサーさんの恥ずかしいところ、他の人には見られないようにしますから。ね、私だけ、ですから」  勃起と射精欲に苛まれる恥ずかしい姿を隠して、男の面子を保たせようとしてくれる気の利いた心配り。しかし、俺が痴態を晒したくない相手こそ千雪本人なのだから、もどかしさでどうにかなってしまいそうだ。  強がって断ろうにも、もはや説得力は欠片もない。少し動くだけで亀頭の先に下着が擦れて、瞼の裏が明滅する。 「立てますか、プロデューサーさん?」 「うっ、ぁ、ぁッ、ぐ……」  結局俺は、千雪の申し出に頷かざるをえなかった。  ゆっくりソファから立ち上がらせてもらい、股間を庇った前屈みの姿勢のまま、両手を引かれてよたよたと歩かせてもらう。足元を気をつけさせるための『いち、に。いち、に』と足取りを補助する掛け声つき。  顔から火が出るような思いだった。これではまるで歩行訓練だ。オムツが取れたばかりの子が、保母さんに連れられてお散歩をさせられている境遇と全く同じ。 「いち、に。いち、に。はい、お上手ですよ。プロデューサーさん。大丈夫です、すぐにヌキヌキして差し上げますからね。……ほら、あんよがじょうず、あんよがじょうず。お部屋まで、あとちょっとですよ」  連れられて向かう先は、事務所の奥まった場所にある仮眠室。何枚もの壁に隔てられていて、物音が外に聞こえる心配はないことだけが救いだ。  時たまアイドルが試着室がわりに使うこともあるため、内側から鍵がかけられるようになっている。もちろん後付のものだから、外から開けるための鍵穴はない。  千雪は万が一にも後から来た誰かに俺の痴態が漏れないよう配慮してくれて——誰にも漏らさず独り占めするために——ドアをしっかりと施錠した。 ーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーー    発情期は男性のみに起こる生理現象だ。フェロモンの分泌が盛んになるせいで、五感が鋭敏に女性の気配を拾うようになってしまう。それを繁殖の機会だと解釈し、身体はたちまち熱い疼きに苛まれる。街中では前屈みになった男性がその場から動けなくなっている光景も珍しくない。  特に俺はフェロモンの濃度が高い体質で、三ヶ月に一週間ほどやってくるこの期間に昔から悩まされてきた。施設の処置と薬とで誤魔化してみても、ひどい時には日がな一日中射精への渇きが持続する。加えて、初めての発情期で吐精した姿をクラスの女子に見られて以来、俺はこの人一倍動物めいた習性に強いコンプレックスを患ってしまっていた。  間抜けにチンポをおったてている姿なんて、他人に見せられたものではない。性欲処理はできればこっそりと、誰にも知られないように済ませたい。さらにここは今をきらめくアイドルが籍を置く活動の拠点だ。プロデューサーの個人的な事情で彼女たちに迷惑をかけるなどもってのほか。良好な関係を維持するためにも、この極めてデリケートな話題は匂いすらさせないようにするのが望ましい。  だが、俺の生理時期が近づくにつれ、示し合わせたかのようにアイドルたちはそわそわし始める。まるで何かを切り出す頃合いを見計らっているように思えるのは、気のせいではないはずだ。  八宮めぐるは言葉数が少なくなる。あの明朗快活はなりを潜め、頬を染めて妙にもじもじとしおらしい。そのくせスキンシップだけは依然として前のめりなのだ。16歳とは思えない大人びた身体つきで遠慮なく寄りかかってくる。素気無くあしらおうとしてもかえって逆効果で、「どうしてそんなこと言うの? 困ってるなら、その、教えてほしくて……」としょげた上目遣いで食い下がられる。絶対に確信犯だ。  白瀬咲耶はやけに心配性になる。重たいものを肩代わりしたくれようとしたり、車道側を歩かせてくれなかったり。極めつけは、二人きりの時に限って「寂しくはないかい?」と気遣ってくる。意味はわざわざ詳らかにするまでもなく明白だ。その響きがやけに真剣みを帯びていて、色っぽい。もし頷いてしまったら。そんな妄想に何度取り憑かれそうになったことか。きっと箍が外れる時は、同時で、一瞬なのだ。  西条樹里は唯一、普段と変わらないように見える。だが、俺は知っている。樹里のスケジュール帳には俺の発情予定時期まで仔細に書き込まれていて、何かの符丁を示すシールが貼ってある。そしてその日の帰りがけには必ず「他のみんなに頼みにくいことがあったら、アタシに言ってくれていいからな……ちゃんと用意してるからさ」と、意味深にほのめかしてくるのだ。目元を伏せながらのいじらしい照れ顔に、女を感じさせられる。  黛冬優子は二秒だけ。同じ空間にいるといつのまにやらスマホの音声データの中に、二秒のお情けが忍ばされている。「つらくなったらつかいなさいよ」とのメモ書きとともに、スマホの集音部分に吐息を思いっきり吹きつける、「びゅ〜〜っ……❤︎」なんて囁きが。猫かぶりの声から冷ややかな地声まで、これまでの全て合わせると数十本にものぼる。いつかその生声を聞かされたら、俺はそれだけで下着をダメにしてしまうかもしれない。  浅倉透は汗を拭ってくれる。常に性欲に苛まれている発情期はほんの少し異性と会話をしただけでも、緊張してじっとりと汗ばんでしまう。そんな折、いつのまにやら隣を陣取っている透は、献身的に俺の額や首筋を拭ってくれる。ハンカチであれば有難い。しかしこの前は手首に巻いたシュシュを使って俺の汗を拭ってきて、つい最近は他にないからと着替え用のキャミソールを取り出してきた。やたらと私物を擦り付けようとしてくる。  アイドルが切実な夢だと語る緋田美琴さえも、例外ではない。遅くまでレッスンに付き合った俺に「よかったら一緒にシャワー、浴びる?」とか、「お互いの体調管理をしあうのとか、どうかな?」とか。そう言って大きく一歩踏みこんでくる。気もそぞろになる深夜では上手く返す余裕もないので、からかわないでくれと話を切り上げるのだが、冗談だと笑ってお茶を濁してくれた試しはない。  事務所のアイドルたちが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる中、千雪だけは俺が性欲に悶えている様子を遠巻きに眺めていたように思う。今にして思えば、きっとアイドルたちとの一線を必死に超えまいとしていた俺の意思を尊重し、ささやかな体裁を守らせてくれていたのだろう。  あるいはオスの過激な性欲につけ込むような接し方に思うところがあって、見て見ぬ振りをしてくれていたのかもしれない。    通りすがりの人の取れかけのボタンすら放っておけない女の子の厚意に甘え、心を押さえつけさせるような振る舞いを強いてしまっていた。だから俺が隠れて、画面越しの桑山千雪をオカズに劣情を晴らしていたことが露呈してしまった時、千雪は拗ねに拗ねて俺の胸板をぽかぽかと叩いたのだ。 ーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーー  カーテンが引かれると、畳敷きの室内はほんのりと薄暗くなる。そうしてお天道様の下を避け、他人の目の届かない場所を指定した最たる理由は俺の面目のため、などではない。アイドル桑山千雪の手で直接性処理をしてもらうことが絶対に他の誰にも知られてはならない行為だからだ。  千雪に憧れている男は数ほどいる。公共の性処理施設に提出した、資料用PV——といえば聞こえは良いが、要するに男の射精を手助けするためのオカズ動画——は何十億という再生数を記録している。単純計算で、国内に在住する全てのオスが数十回ずつ視聴したに等しい、とてつもない数字だ。  おかげで千雪のもとには毎週のように新しい資料用PVのオファーが舞い込んできている。企画を持ち込んでくる担当者からは『10代から20代に多いのはもちろん、それから恋人や配偶者のいる男性にも大人気なんですよね千雪さんのオカズPV』との話を書く。  本能とは時に残酷であり、数字は真実をはじき出す。もしチンポのわがままだけでつがいにできるメスを好き勝手に選べるのならば、桑山千雪が国内で最多票を集めるらしい。交際相手や配偶者のいるオスですら、それらを差し置いて23歳のお姉さん系アイドルに惹かれてしまうと、確たるデータが物語っているのだ。  誰しもがその蜜をすすりたくてたまらない高嶺の花。しかし断崖の頂に咲くその花には手が届かないので、勃起チンポたちは仕方なくそこらへんの花を摘んで我慢するしかない。  しかしその中で、俺は、俺だけは。 「お手手はお腹の上ですよ。 んっ、しょ……❤︎」  小気味好い掛け声とともに、首からニットが抜き取られた。直後、二重の下着に包まれていながらたっぷんたっぷん横着に揺れまくる薄い胸が、目と鼻の先にまろび出る。膝に寝そべった体勢で千雪を見上げる形となっているため、視界のほとんどを占領して弾む乳揺れはまさに圧巻。まったり跳ねる重たそうな乳が、体温で蒸れて衣服の内側でこもっていた甘い香りを撒き散らす。  反射的に太腿と尻に力を入れ、ペニスの根元をカンカンに締め上げた。けれども間に合わず、股間に生あったかく湿った感触が広がってゆく。情けないことに、ドロついた我慢汁を下着の中に甘漏らししてしまったのだった。 「吐息、あついですよぅ……❤︎ すぅすぅって、すごく一生懸命で。ふふっ。くすぐったぁい……❤︎」  脱いだ衣類を畳む時間すら惜しみ、傍らにぱさりと落とした千雪がおどけて眉を垂らしてみせる。そうやって指摘されて初めて、俺は自分の息遣いの荒々しさにはっとした。強く固執していたはずの良識も、情けない姿を見られることへの恥じらいも。そのどちらともがいつのまにやらマグマのように湧き上がった射精欲に溶かされ、呑み込まれかけている。  咄嗟に口元を引き結んだものの、口呼吸をやめたせいで鼻息が尚更激しくなる。鼻から吐き出した呼気が肌に吹きかかり、千雪がくすぐったがっている。それだけで俺は物凄くやましいことをしている気分に陥った。しかし、それも一瞬のうちだけだった。  深く息を吐き出したのなら、深く息を吸い込まなければならない。千雪の衣服の中で蒸され体温によって揮発したところにほんのりとコロンが混じった、香り立つようなメスの匂いがたちまちに鼻孔を満たす。 「っ、ぁッ——❤︎」  吸い込んだメスの『格』に応じて、本能的に陥る発情の深みが異なるのだが、その中でもとりわけ桑山千雪のフェロモンは劇薬と言っていい。    ——きた、こいつだ。こいつが番にするべき女だ。これよりいいメスなんていない、絶対にいない。逃すな。今すぐ繁殖しろ。他の何を捨ててもいい。種を植えつけて、自分のものにしろ。  たちまちに荒々しく邪な感情がムクムクと湧き上がってくる。包容力を感じさせる穏やかな笑みはきっと献身的なチンポ奉仕に尽くしてくれそうだ、だの。長い髪の中で蒸れた首筋に鼻を埋めて、その匂いを思いっきり吸い込んでみたい、だの。華奢に見えるくせにどこもかしこもやわらかそうなその肉厚な身体は、下に組み敷いてのしかかってやったらさぞかし気持ちがいい柔肌のマットレスになるだろう、だの。  目の前の女性が『夢を応援してあげたい大切なアイドル』から『孕ませたくてたまらない極上のメス』へ、その認識を書き換えられてゆく。  数多の発情チンポから熱い羨望を集めている高嶺の花が手の届く距離にあると気づいたばっかりに、ケダモノじみたオスの肉欲が種の悲願を訴えて理性を乗っ取ろうとしてくるのだ。 「うっ、ぅ、ぁ、千雪っ、千雪ぃッ……」  涙でぼやける視界には、まん丸な瞳を垂らして千雪が見下ろしている。見慣れた、優しい面持ちだ。  だから俺はこの荒々しい激情をどうにか穏便な手口で宥めてくれるのではないかと、期待して縋るような思いを向けるのだけれど——。 「いつも私たちのお目目をちゃんと見てお話ししてださるのに……ふふっ、脱ぎかけの胸元、見過ぎです。すごく我慢なさってるお顔ですね。ひょっとして……女の子が精液びゅーびゅー吐き出すための、むちむちな穴ぽこに見えちゃってます?」 「ち、千雪ぃっ……!!」 「ふふっ、ちがうんです?」  ——宥めるどころか千雪はふざけて、女の子をマンコの代名詞扱いしてみせた。その発言は普段の彼女を知るだけにあまりに衝撃的で、俺は言いようのない焦りに苛まれてしまった。  反射的にその細指を絡め取る。性欲のためではない。俺のよく知るあの優しい女性が何処かへ消えていってしまう気がして、繋ぎ止めたい一心がそうさせたのだ。発情期に入ってから女性への接触は避けるようにしているものの、今ばかりは我慢ならなかった。 「う、ぅぅっ、ぅぅぅッッ……! やめ、やめてくれっ、だめだっ、千雪っ……」  なんとなく分かる。千雪は自身の優しさの気質を蔑ろにしてまで、俺を苦しめている性欲をいち早く発散させようとしてくれているのだ。  だがそんなこと望んじゃいない。望んでいないはずなのに、身体の方はすっかり射精を期待して悦んでしまっているのがひどく恨めしい。きっと俺は今、他人には見せられないひどい顔をしているのだろう。チンポをガチガチに硬くしておきながら、理性を振り絞って首を横に振る。  そうして頑なに拒み続けていると、意外なことに先に痺れをきらしたのは千雪の方だった。だんだんと眉の形が八の字に困ってきて、ふてくされたような面持ちを浮かべている。沈痛な静寂ののち、千雪はぼそりと口を開いた。   「……ここまで追い詰められても、頼ってくださらないんですか?」  どきり、とした。図星を言い当てられた後ろめたさは勿論ある。だがそれ以上に、千雪がその慎ましやかな表現で、俺を精いっぱい詰ろうとしているのが分かってしまったのだ。  わなわなとふるえる唇が、意を決したように呟く。 「めぐるちゃんのハグは止めなかったじゃないですか。咲耶ちゃんの手は振りほどかなかったじゃないですか」 「……っ、ぁ」  溜め込んでいた全てを吐き出すつもりらしいのか、事務所に在籍するアイドルを次から次へと引き合いに出し、千雪は不平不満を積み上げてゆく。 「樹里ちゃんの質問にはなんでも答えるのに、冬優子ちゃんとはこっそりイヤホン半分こしてて……」 「っ、そ、れは……」  全てが事実で、そして言い訳不可能である。結局俺は発情期に抗えきれずに、いつもアイドルたちの厚意の申し出を断りきれず、気圧されてしまいがちなのだ。 「どうしていつも透ちゃんのハンドタオルやハンカチを借りちゃうんですか? 女の子の肌を拭ったものを、発情期の男性が受け取るなんて……そんなの、餌付けですよぅ」 「ち、ちがっ」 「ちがいませんっ」  正直に白状すると、千雪以外の事務所のアイドル全員に、性処理を頼みそうになってしまったことがある。だが唯一、千雪にだけは近づこうとしなかった。  本命であるがゆえに。他のアイドルのようにすんでのところで踏みとどまれないと、確信していたからだ。 「女の子と二人きりにならないよう、気をつけてるっておっしゃってたじゃないですか。なのに、美琴さんだけ特別扱いなんて。……私には全然そんなそぶり、見せてくださらないのに」    どうやら、千雪はずっとそれが気に入らなかったらしい。  皆がよく知るお姉さんじみたアイドルの姿とは一線を画す、いじけた表情、拗ねた口ぶり。その裏にあるのは他のアイドル——否、『女たち』への嫉妬であり、自らを蔑ろにする男への糾弾だ。  しまった、と思ったがもう遅い。千雪は限界まで抱えてしまうタイプなのだ。溜めに溜めて我慢ならなくなり、どこかで踏ん切りがついてしまったら、とんでもなく頑固になる。 「遠慮なんてもうヤですよう。私たち、似た者同士の寂しがりやなんですから。性処理なんて、寂しい名前じゃなくって……身体を寄せ合って、あたためあいませんか」  耳ざわりの良い言い回しで包まれているが、千雪は暗に『性処理を体裁の笠に着て、お互いの気持ちを隠し合うのはもうやめにしませんか』と言っているのだ。こっちが先に捕まえたはずの白く長い指が、谷間深くまでスリスリと絡んできている。  千雪はもう、誤魔化されてはくれないらしい。胸を焦がす焦燥感が猛然と急き立ててきて、頭のてっぺんまでの毛根がぶわぁっと逆立つ。  不安そうに眉を高く聳やかしていながら、その眼差しは真っ直ぐにこちらを見つめてくる。潤んでいるのに、視線を外そうとしてくれない。長くあたためてきた万丈の思いを胸の最奥から取り出すように、千雪はゆっくりと口を開き、一語一句を噛みしめて音を紡いだ。 「この手で、摘まれたいんです」    口説き文句と形容するにはあまりに生ぬるい、男の息の根を止める殺し文句が、アイドル桑山千雪の口から放たれる。 「咲くだけが花のしあわせなんだって、決めつけちゃ嫌です。……私ちゃんとわかってますよ? 男性の皆さんが私のことをアイドル以前に女性として見てるってこと。いいんです、男の人はそういうふうにできてるんですから。……でも肝心な人は、私を女の子として見てくれなくって、もうずっと特別扱いのアイドルのままなんです。……私、普通の女の子じゃ、だめなんでしょうか」  千雪は俺がチンポの世話を申し付けてこなかったことを拗ねていじけて責めたてているのだ。他のメスにうつつを抜かしかけるほど追い詰められておきながら、自分のところには泣きついてこようとしない俺の痩せ我慢に、悶々ともどかしさを溜め込んでいたのだという。   「プロデューサーさんに召し上がってもらいたいんですよ、私の……いちばん甘くておいしいところ」  誰もが手を伸ばして摘み取りたいと願う高嶺の花が、天に向かって聳える茎を自ら折り、断崖の上から花弁を垂らしている。たっぷりと蓄えたその蜜を他でもないたった一匹のオスに——俺に吸われることを望んでいると打ち明けられて、平静を保っていられるはずがなかった。  心臓が圧縮されたような胸が詰まるような思いと、それから激しいチンポの疼きに急かされるようにして、俺はたどたどしく口を開く。 「しゃ、射精、させて、くれっ……」 「……ただのお射精で、いいんです?」 「っ、す、吸わせてっ……」 「もう。ちゃんと教えてください。私も勇気だしたんですから。……ね?」 「む、胸をっ……」 「だぁめ……❤︎」 「っ、千雪の、おっぱい吸わせてくれっ……」 「赤ちゃんみたいにおっぱいに吸いつく、授乳手コキがお好きなんですもんね……❤︎」 「う、ぁッ……❤︎」 「赤ちゃんになりきっちゃう、甘々なおっぱいちゅっちゅお射精もありますけど。ちょっぴり恥ずかしい、いじわるなお手コキもできますよ……❤︎ プロデューサーさんは、どっちがお好みですか?」 「いっ……いじわるな、ほうで……たのむっ……!」 「はい、恥ずかしいほう、ですね❤︎」 「うぅぅッ……!」  俺がようやく素直に射精をねだったことで、千雪はもう気兼ねなく手練手管を尽くすと決めたらしかった。手始めに格好つけたオスの見栄をぺりぺりと剥がすために、わざといじわるな言葉選びをしてみせる。柔和な笑顔を浮かべたまま性癖をからかわれる効果はてき面で、俺は膝の上で羞恥に悶え狂う。 《後編に続く》


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