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【小説】初めての一本勝ち

(注)嘔吐描写がありますので、苦手な方はご注意ください。



午前に型の部を終え、午後からは組手の部が始まる。

僕は大会で組手をするのは初めてということもあり、少し緊張していた。


昼ご飯を食べると動きが重くなってしまうという師範のアドバイスから、

僕は栄養補給用のゼリーだけ食べて、試合があるAコートの開始線で相手を待っている。


1~2分して、相手の子が慌てた様子でコートに入ってきた。組手は学年別に

分かれているから、相手の子も僕と同じ小学4年生なんだろう。僕より少し背が低い、

小柄な男の子だった。


帯の色は白・・・。

僕は一応オレンジの色帯だ。相手の方が格下・・・と、正直一瞬安心して

しまった。けど、帯の色なんて道場により難易度もまちまちで、

あまりあてにならない。僕は改めて気を引き締めた。


審判の人が相手の子に名前を確認し、いよいよ試合が始まる・・・

両方の陣営から、闘志を鼓舞する声援があがる。


「頑張れぇ!!」

「しっかり気合入れてけよ!」

「気持ちで負けんなよ!」


自分の中で、緊張感が高まっていくのがわかる・・・


「構えて!」


審判の人が言った。と同時に、大きなデジタルタイマーに“1:32”と表示された。

その数字が“1:31”に代わり、“1:30”になる直前に、再度審判の声が響いた。


「始めぇ!」


審判の声とともに、相手の子は一気に距離をつめてきた。

速い・・・小柄な体を生かしたスピードが武器なんだろう。素早く僕の懐まで

潜りこみ、ボディを狙って正拳突きを放ってくる。


それを捌きつつ、相手の右方向に回り込みつつお腹を狙って僕も下突きを放つ。

ただ、相手の身長が低いためにお腹を狙いづらい。


ドムッ!!

んぅっ!


攻撃に集中するあまり、ガードがおろそかになっていた。相手の右拳が僕のお腹に食い込む。


くふぅッ・・・


体がくの字に折れ曲がろうとするのを、歯を食いしばってこらえる。『空手はやせ我慢だ』と師範が言っていたのを思い出した。効いてたって、効いていない顔をしないといけない。


こらえつつ技をさばく。動くたびに効かされたお腹がうずいて、顔をしかめてしまう。

そしてそれを、審判の目は逃がさない。明らかに“ダメージ”としてとらえられてしまう。


押されている今の状況をなんとかしなきゃ・・・・。

でも焦れば焦るほど僕の攻撃は当たらない。自分で意識してなかったけれど、お腹の

ダメージもあってかなり単調な攻撃になっていたんだと思う。それに相手の子はすごく

すばしっこかった。


落ち着け・・・落ち着け・・・

必死に頭の中で繰り返し、自分に言い聞かせる。


相手の動きをよく見るんだ・・・


相手の子は僕の周りを細かく右に左に動きながら、攻撃を避けつつ隙を狙ってくる。

でも、攻撃の瞬間は踏ん張るために足が止まる・・・


左の突きの後は右の突き・・・なんとなく相手の動きにパターンが見えてきた。



ここだ!!


ズチィッ!!!

「んぐッ!!」


太ももの、膝関節の少し上を狙って思い切り下段蹴りを入れた。

しっかり相手の足を捉えた感触があったし、空気を揺らす衝撃音が聞こえた。

そして何より、相手が漏らした声で僕は効いている事を確信した。


蹴った直後に、相手の片足がカクンと崩れ、膝をついた。


「止めぇっ!」

すかさず審判が止めに入る。相手の子はすぐに立ち上がり構えた。


一本は取れなかった・・・・いやそれどころか、相手がすぐに立ち上がったから

技ありですらない。でも、確実に相手の顔色が変わっているのがわかった。


大丈夫だ、絶対に効いている!また自分に言い聞かせる。


「続行!!」

試合再開後、拳を交えて明らかに感じた変化。

相手のスピードが落ちている・・・と言うより、やはりさっきの下段が効いてるんだ。

少し右足を引きずっているし、痛みが顔に出てしまっている。


行けるぞ!倒せ!


熱くなっていく頭の中を力づくで冷やす。

焦りすぎるとまた自分がやられてしまう。


落ち着け!ちゃんと隙を狙え!


敵味方、どちらの声援も聞こえるけど、試合中はそれはただの音だ。

頭の中で意味を成しているのは自分の声だけ。

だから自分で自分をしっかりコントロールしないといけない。


ダメージだけじゃない・・・始めのスピードに目が慣れているのか、

明らかに相手のスピードが落ちている。それに大振りな攻撃。


相手のスタミナが切れてきている。

チャンスだ!よく見ろ!


相手の左足が踏み込まれる。勢いそのままに左の突きが・・・・


攻撃の前に、攻撃の流れが読めた・・・!


今!!!


どぷっ!!!

「ぐぷぅっ!」




こちらに相手が踏み込んだタイミングで、僕は全力で相手のお腹を膝で蹴り上げた。

柔らかいお腹の感触とともに、膝先がしっかり奥まで入る。

お腹の真正面から綺麗にめり込んだ。


瞬間的だったけれど、“入った!!”と言う確信があった。


相手の苦しげな声とともに、口から唾液が飛び散った。そして両手でお腹を抱え、

体がくの字に曲がる。




「そこまでっ!!」


審判の人が試合を止めた。僕の目の前では、お腹を押さえた相手が涙目で僕を

見上げている。半端に開いた口からは唾液が溢れていた。





まだ来るか・・・倒れろ・・・

頭の中で僕が思った瞬間だった。


「うぷっ・・・・」

相手の顔色が一気に青くなり、頬が少し膨らんだ。



そして・・・


「オエェェェえええ!!」ぼとっ、びちゃびちゃ・・・・




お昼はバナナを食べたのだろうか。相手の口からそれらしきものが溢れてきて、

床のマットにこぼれ落ちた。


ピーーーー!!


笛の音がなり、一斉に赤色の旗が上がる・・・赤は僕の色だ・・・


「君、開始線まで戻って!」

審判の人に言われて、僕は線まで戻る。


勝った・・・?勝ったの!?


吐いてしまった相手を見て、少しショックを感じた。頭の中が軽いパニックになる。

「おい、こっち向いて正座!」


先輩に言われて、相手に背を向ける形で座る。“今は敵意はありません”と言う空手の

仕草だ。


背後では、すすり泣くような相手の声と、優しく気遣うような審判の声が聞こえた。


右膝には相手のお腹を蹴った感触がしっかりと残っている。

相手のお腹を効かせた蹴り。相手を吐かせた蹴り。


こうして僕は一本勝ちで、初めての大会デビューを飾ることになった。



【作者コメ】

小説と言いつつ、イラストメインの作品です^^;

いわゆる一人称視点で、ボディを効かして倒す瞬間を描いてみました!

文中では名前の描写が無いようにしましたので、なりきって読んでください(笑)



おまけ(お腹を効かされて待ったをかける男の子かわいい・・・)














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Comments

ありがとうございます!午後からの試合はほんとにこういうのあるみたいですからね(*´Д`)妄想が捗ってしまいましたw

効きがじわりじわりと… こみ上げに続いて食べたバナナが💦 いいシチュです❤️

むうた


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