八坂家の朝は、混沌の匂いから始まる。
けたたましいアラーム音でも、窓から差し込む陽光でもない。
階下からのドタドタという地響きにも似た足音と、鼓膜を突き破らんばかりのハイテンションな声。
それが、八坂真尋にとっての日常の合図だった。
バァン!
「真尋さーん! 朝ですよー! あなたの隣に這いよる混沌、ニャルラトホテプです! さあ、今日も私と愛の歴史を紡ぎましょう!」
と、もはや蝶番の悲鳴など意にも介さない勢いで寝室のドアが吹っ飛ぶ。
そこに立っていたのは、銀髪を朝日よりも眩しく輝かせ、碧眼を期待に満ちてキラキラさせる美少女――の皮を被った、形容しがたい宇宙的邪神、ニャル子その人だった。
「……ドア、直しとけよー…」
布団から顔だけを出し、真尋は心底うんざりした声で呟いた。
毎朝毎朝、繰り返される光景。
そのたびに削られていく自宅の耐久性と、自身のSAN値。もはや彼の日常は、このやかましい邪神によって完全に支配されていた。
「何を水臭いことを! ドアの一枚や二枚、真尋さんと私の愛の巣の礎ですよ! さあ、そんなことよりモーニングキッスを!」
「誰がするか! こっちに来るな!」
ベッドから飛び起き、枕元に常備された銀色の得物――フォークを構える。
邪神にすら特効を持つ、八坂家に伝わる最強の迎撃武装。
それを見たニャル子の瞳が、しかし、恐怖ではなく恍惚に濡れるのを真尋は見逃さない。
「ああ! その警戒心に満ちた瞳! 私を拒絶するその冷たい声! たまりません! もっと罵って! そしてそのフォークで私の身体に愛の証を刻んでください!」
「変態が!」
枕を投げつけるが、ニャル子はそれを軽々とはたき落とし、猟犬のような速さでベッドに飛び乗ってきた。甘いシャンプーの匂いと、とんでもない圧力が真尋を襲う。
「さあさあ! 諦めて私と一つになりましょう! 今ならお子様の名前も真尋さんが決めていいですよ!」
「重い! どけ! っていうか話が飛びすぎだろ!」
ニャル子の身体を押し返そうともがくが、見た目からは想像もつかない力で押さえつけられる。
宇宙CQCだか何だか知らないが、無駄に高性能なその技術は、常にこういう形で濫用されていた。
その、地獄のようなじゃれ合いの真っ最中。ぬるり、と新たな気配が部屋に侵入してきた。
「……ニャル子……はぁはぁ……クー子の可愛いニャル子……朝から元気……」
そこにいたのは、燃えるような赤髪をツインテールにした、無表情な美少女。
ニャル子の幼馴染にして、偏執的なストーカー邪神、クー子だった。
その手には、なぜか撮りたてであろうニャル子の写真が握られており、その瞳は尋常ではない光で濁っている。
「ゲッ、クー子! あんたまた人の家に勝手に入り込んで!」
ニャル子が真尋から注意をそらした、その一瞬。
クー子は音もなく距離を詰め、背後からニャル子の腰に抱き着いていた。
「……ニャル子の匂い……はぁはぁ……今日もいい匂い……クー子の嫁に相応しい……」
「ひっ! やめなさいこの変態! どこを触ってるんですか! セクハラですよセクハラ!」
クー子の無表情で淡々とした、しかし的確にニャル子の下着のラインをなぞるような手つきに、ニャル子が悲鳴を上げる。
その光景に、真尋は深いため息をついた。カオスが、カオスを呼んでいる。
「……ニャル子……クー子の子供を産む準備は万端……さあ、今すぐここで……」
「誰がですか!私の子宮は真尋さんのものです! 先約済みです! ほぉら加減にしてくださーい!」
バキィッ!と、いう鈍い音。
ニャル子の回し蹴りが、クー子の側頭部にクリーンヒットした。
常人なら即死、邪神でなければ耐えられない一撃。クー子の身体は綺麗に宙を舞い、廊下の壁に叩きつけられてズシャッと崩れ落ちる。
何事もなかったかのように制服のスカートの乱れを直すニャル子。
その額には汗一つ浮かんでいない。床に伸びるクー子は、しかし、ダメージを受けた様子はなく、むしろ恍惚とした表情で「……今の蹴りも……最高だった……はぁはぁ……♡ い、イク゛」と呟いている。もうダメだこいつら。
「……お前ら、いい加減にしろよ。朝飯、食うならとっとと下に降りてこい」
真尋は、もうツッコむ気力すら失せ、部屋を出て行こうとした。
その背中に、ニャル子が慌てて声をかける。
「あ、待ってください真尋さん! 私も行きます!」
「‥‥‥ニャル子まって‥‥未来のお嫁さんを置いていかないで‥‥」
「誰が未来のお嫁さんですか!っちょ! 離れてくださいッよ!」
これがいつもの日常で、ニャル子がいつも通りハイテンションで真尋に愛のアプローチで熱く絡み、それを真尋がフォークやらで撃退しツッコミ、そこにクー子がニャル子に絡んで愛のアプローチをして真尋のツッコミのように突き放してぶっ飛ばしてそれをクー子がめげずに喜ぶ…それが、いつもの日常である。
◇
あれから数日。
この間のアプローチは激しい物だった。
受験もあるなかで、何かとニャル子のアプローチはストレスになっていた真尋。
季節は変わり映えしないが、八坂家の日常という名のカオスは、今日も元気に稼働していた。
リビングのソファで、ニャル子が何やら分厚いアルバムのようなものを抱えてそわそわしている。
その表紙には、ピンクのレースとけばけばしいラメで『あなたと私の愛の軌跡♡』と書かれているのが見えただけで、真尋はこめかみが引き攣るのを感じた。
「ねえ、アナタ! 見てください! 私が真尋さんの為に、徹夜で作ったんですよ!あ、まあ、クー子も一応入れたんですけども、おまけで。 幼馴染ですしね一応」
ニャル子は、最高の笑顔でそのアルバムを真尋の目の前に突き出した。
ページをめくると、案の定、そこには撮影されたであろう真尋の写真が、寝顔から食事中、いつ撮ったんだと思うどうでもいいものの瞬間まで、おびただしい数、貼り付けられている。
ただ、どこも別に気味が悪くなるような瞬間もなければ、それぞれのツーショットもあればクー子も入ってる(おまけで勝手にピースしたりキスしかけたり)していたりという、至って健全なアルバム。
いつものニャル子にしては本当に健全なアルバムである。
「どうです! 私の、真尋さんへの純粋な愛と努力の結晶です! 感動したでしょう!」
胸を張るニャル子は、純粋な好意と善意の塊。
いや、純粋な曇りなき愛情。
その瞳は、一点の曇りもなく、ただただシンプルな賞賛の一言を求めてきらきらと輝いている。
「誰がアナタだ! はぁ……」と深いため息をつき、彼は心底うんざりした顔で言った。
真尋はいつも通り、どうせ中身は自分の撮られたくもない見られたくない姿、あるいは自分を性欲的に見てとアピールするようなニャル子のあられもない姿が張りつめられたとんでもない物だろうと、口を開く。
「どうせいつものしょうもないもんだろ、本当にいい物だと思って時間使ってみたらしょうもないもんだった…ってパターン。こういうの、一番タチが悪いって」
それは、いつものツッコミの延長線上だった。
真尋にしてみれば、「変態が!」や「ストーカー!」と同じ、お決まりの罵倒の一つに過ぎなかった。
彼の言葉に、深い意味など何一つない。
だが、その言葉は、確かにニャル子の心の柔らかい部分を的確に刺し貫いた。
「――え…あ、あの少しでもいいので、見てくれませ――――――――――――」
「ほらあっちいった。 しっし」
ピシッ、と。ニャル子の、あの太陽のような笑顔が渇いた笑顔に。
太陽はまるで沈んだかのように。
しかし、それも一瞬。彼女はすぐに、ひきつったような笑顔を取り繕った。
「あ、はは……そ、そうですよね! ちょっと、やりすぎました! この手のベタなのは、あなたの好みじゃありませんでしたね! ごめんなさい!」
「はいはい。覚えてといてくれ」
ケラケラと、空々しい笑い声を立ててアルバムをパタンと閉じる。
その完璧な取り繕い様に、真尋は「分かればいいんだ、分かれば」と呟き、テレビのリモコンへと手を伸ばした。
「あっと、こんな時間か。買いだしいかないと。」
数分後、財布を片手に真尋がリビングを出ていく。
玄関のドアが閉まる音が聞こえた、その瞬間。
今まで必死に浮かべていたニャル子の笑顔が、徐々に口角が落ちていく。
ドサリ、とソファに深く沈み込み、その手から例の、しっかり丁寧にデコレーションされたアルバムが滑り落ちる。
テーブルの角にぶつかり、無様に開いたページは、真尋の寝顔の写真やツーショット、あるいはどうやって撮ったのか分からないドタバタする三人の日常。
そして、そのページに書き込まれた、明らかにメインのメッセージ。
「安らかな寝顔、ずっと見ていられます。 真尋さん、何だかんだクー子、私の三人でいるこの日常が大好きです。 あわよくば、私のこの気持ちが嘘ではないことがこれで伝わってくれればなって。今後とも、よろしくお願いします。 大好きな真尋さんへ♡ あなたを愛するニャルラトホテプより」という文字が、丁寧に書かれていた。
いつもはやかましいほどに感情を垂れ流す彼女が、今はただ、無言で。色の消えた瞳で、虚空を一点に見つめているだけだった。
◇
それから、数日が過ぎた。
八坂家の日常は、何事もなかったかのように元通りだった。
朝はニャル子が「あなたー!朝ですよ!」と奇声を上げて突撃し、真尋がフォークでそれを迎撃する。
そこに、クー子が「……ニャル子……私の……」と現れては、ニャル子の宇宙CQCで壁まで吹っ飛ばされる。
何も変わらない。いつもの光景だ。
ニャル子は、またいつものハイテンションな邪神に戻っていた。少なくとも、真尋の目にはそう映っていた。
その日の午後。
「悪い、ちょっと用事ができた」
真尋がそう言って、再び家を出ていった。
リビングには、ニャル子と、つい先ほどまで彼女に殴り飛ばされていたクー子の二人が残される。
燃えるような赤髪を揺らし、クー子は音もなく身体を再生させると、いつものように愛しの幼馴染へと這い寄った。
その紅い瞳は、獲物を狙う肉食獣のように、ニャル子だけを捉えている。しかし、今日はその瞳が、わずかに戸惑いの色を浮かべた。
「‥‥ニャル子、邪魔者はいなくなった‥…! さあ、ここからは二人の愛のランデブーポイントを作るじか―――――――――――――……ニャル子……?」
クー子は、思わず足を止めた。
ソファに座るニャル子の様子が、おかしい。
数日間、じわじわと心のHPを削られ続けたような、深い疲労の色。
トレードマークである頭のアホ毛も、心なしか普段よりもしんなりと垂れ下がっているように見えた。
クー子が知るニャル子は、いつだって自信満々で、傲岸不遜で、太陽のように輝いている存在だった。
こんな、雨に打たれた捨て猫のような姿は、初めて見る。
「……」
いつもなら、間髪入れずに背後から抱き着き、その匂いを堪能するところだ。
だが、今の彼女には、そんな変態行為すら躊躇われた。
クー子はただ、その場に立ち尽くし、心配そうに眉をひそめる。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……ニャル子、大丈夫‥‥?」
「‥‥‥‥え、あ、ああ! だ、大丈夫です! い、い、いやクー子に心配されるほどやわじゃないんですよ! 私の真尋さんへの愛は! さ! 次なるアプローチを考えて今日も頑張るますよー!」
ニャル子はまた太陽のように眩しい笑顔を浮かべてガッツポーズをすると、走る様にその場を去った。
「‥‥ニャル子…?」
そして去ったニャル子のいた場所に落ちていた、例のページがあったアルバムを見た。
「‥‥これって‥‥」
ページをめくって、まためくって、クー子はそれを全部見て、このアルバムに込められた気持ちが一切邪な気持ちが一切ない二週間もこっそり作っていた物だと理解した。
そして…決心する。
「‥…少年は、ニャル子に相応しくない‥‥私が、ニャル子を幸せにする。 アプローチを…変えないと…」
アルバムを大事に拾って、その後丁寧に壊れたデコレーションを直しにいったクー子。
その瞬間から、クー子はニャル子の気持ちを察してアプローチを変えることを決めた。
◆
1週間後。
八坂家の食卓。
エプロン姿のニャル子、真尋はいつも通りトーストをかじり、クー子はいつも通りニャル子をいやらしい目つきで観察している。
昨日、クー子が固めた決意など、知る由もない。
「あ、あの、真尋さん!」
唐突に、ニャル子がテーブルの下から、巨大な風呂敷包みを取り出した。
三段重ねはあろうかという、立派な重箱だ。
「これ! 真尋さんのの為に、お弁当を作ってきたんです!」
得意げに風呂敷を解くと、現れたのはもはや芸術品の域に達したお弁当だった。
一段目には、タコさんウィンナーや卵焼きといった定番おかずが、完璧な彩りで詰められている。
二段目には、栄養バランスを考え抜かれたであろう煮物や和え物。
そして三段目には、真尋の顔を模した、驚くほど精巧なキャラ弁が鎮座していた。
そのおかずの品数と手の込みようは、どう考えても早朝の数時間で作れるレベルのものではない。
彼女が、真尋の健康や好みを必死に勉強し、何度も夜を徹して準備したであろうことは、誰の目にも明らかだった。
「どうです! 昨日のアルバムはベタすぎましたけど、これなら実用的ですし、あなたの健康もサポートできるかと思いまして! 私の愛、受け取ってください!」
期待に満ちた瞳が、まっすぐに真尋を射抜く。
今度こそ、自己満足ではない、ただすこしでも力にでもなればとあなたの為を思った行動なのだと、その全身で訴えかけていた。
だが。
真尋は、その重箱を一瞥すると押しのけて、心底面倒くさそうに顔を顰めた。
「はぁ……。朝からこんな重箱みたいな弁当、誰が食うか。大体、お前が作ったもんとか何が入ってるか分かったもんじゃない。媚薬でも入ってそうだ。面倒くさいって。重いしさ。いいって」
それは、昨日と同じ、いつものツッコミの延長。
「手間がかかっていて、すごい」というシンプルに欲しかった言葉が、即ち「面倒くさい」「重い」という評価に直結するだけなのだ。
悪意はない。ただ、致命的に、少年は思春期であり、そして他人のその行為に隠された気持ちを慮る能力に欠けていた。
「…………」
その一言で、ニャル子の輝くような笑顔が、またしても凍り付く。
ああ、まただ。また、私の努力は、私の想いは、「面倒くさい」の一言で片付けられてしまうのか。
「……そう、ですよね。ごめんなさい、邪魔でしたね‥‥すぐ、片づけます‥‥」
ぽつりと、か細い声で呟き、ニャル子は重箱に再び風呂敷をかけようと、力なく手を伸ばした。
真尋は、彼女が素直に引き下がったことに安堵し、「分かればいいんだ」とばかりに牛乳を呷っている。
そのすぐ隣で、大切な存在の心が、静かにすり減っていることにも気づかずに。
「……ニャル子」
今まで沈黙を保っていたクー子が、すっと動いた。
いつもなら、「……ニャル子のお弁当……はぁはぁ……クー子が代わりに食べてあげる……」などと変態的なアプローチを仕掛けてくる場面。
だが、今日の彼女は違った。
クー子は、ニャル子の手から、そっとその重箱を受け取った。
そして、何の躊躇もなく蓋を開ける。
色とりどりのおかず、そして真尋を模したキャラ弁。
その完璧な出来栄えに、クー子の普段は感情の読めない紅い瞳が、わずかに見開かれた。
「……すごい。 美味しそう。 凄い勉強してるって私でも分かる。」
ぽつり、と。それは、紛れもなく、賞賛だった。
クー子は、おもむろに近くにあった箸を手に取ると、綺麗な形をした卵焼きを一つ、つまみ上げた。
そして、それを自分の口に運ぶ。
次にもう一つ、次の段を。
「え…あ、あの…そ、それは真尋さんには朝から重いって言われたものですよ…?」
「人間の話ならね……うん、美味しい。すごいよ、ニャル子。」
淡々とした、しかし嘘のない声。
クー子は、真尋のように「何が入ってるか分からない」などと疑うこともなく、ニャル子の努力の結晶を、その価値を正しく理解し、評価した。
そして、もう一度、今度は打ちひしがれているニャル子の顔をまっすぐに見て、こう言った。
「……少年には、もったいない」
その言葉は、ナイフのようだった。
無神経な少年(真尋)を切り捨て、そして同時に、傷ついた少女(ニャル子)を優しく包み込む、温かい毛布のようでもあった。
今まで向けられたことのない、純粋な賞賛と肯定。
それも、一番言われたくなかった相手――恋敵であるはずの、クー子から。
「え、えっと……く、クー子……?」
「私はニャル子の頑張り、知ってるから。 あ、私たちも早く食べよ? 学校の時間」
「え? え、あ、ああ! そ、そうですね! た、たまには一緒にいきますか…?クー子?」
「!? 行く…!」
この日、何かが動き出した。
◆
それから事あるごとに、クー子はニャル子をサポートした。
主に、まるで恋敵を応援するようなことを、クー子らしからぬイケメンムーブで。
しかし、気持ちが落ち込んでいる人間が、慰めてくれる相手にこそ、好意は上がっていくのだ。
◇
別の夜。
クー子は自室で新作のゲームに没頭し、リビングには珍しく真尋とニャル子の二人だけだった。
テレビのバラエティ番組が、空々しい笑い声をリビングに響かせている。
だが、ソファに座る二人の間には、気まずい沈黙が流れていた。
真尋はリモコンをいじり、ニャル子はただ、俯いて自分の膝を見つめている。
「……あの、真尋さん…真面目な、お話が、あります…」
沈黙を破ったのは、ニャル子だった。
その声は、いつもの太陽のような明るさとは無縁の、か細く、震えた声。
「なんだよ。 どうせいつものそういってしょうもない話で――――――――――」
真尋は、テレビから視線を外さずにぶっきらぼうに返す。
「――――――――――――真面目です……お、お願いが、あります……」
その必死な響きに、真尋はようやく彼女の方を向いた。
そこにいたのは、顔を真っ赤にし、唇をわななかせ、今にも泣き出してしまいそうな表情のニャル子。
彼女は、震える声で、一生分の勇気を振り絞って、こう言った。
「お、お願いです…! い、一回でいいので私と…し、してくれませんか…!」
「…………は?」
「…私を、抱いてください…一回だけで、いいです…お願いします…」
真尋は、思考が停止した。
いつもの「子作りしましょう!」という、冗談めかした、性欲丸出しの言葉とは全く違う。
抱いてくださいの、この雰囲気で意味が分からないほど初心じゃない。
ニャル子の言葉にあるのは、恥と、そして拒絶されることの恐怖を覚悟した上での、悲痛なまでの懇願。
その事実が、嫌というほど伝わってきた。
面倒だ、と思った。重い、とも思った。
だが、それ以上に。
ここまで言わせておいて、これを拒絶するのは、男としてどうなのか。
その日、夜…
八坂真尋の部屋のベッドの上で、シーツが乱れる音だけが響いていた。
「っ…ま、ひろさん……! は、ぁっ……! すご、いです……っ」
途切れ途切れに発せられる、甘い声。
それらが、真尋の理性の最後のタガを、いとも簡単に弾き飛ばした。
ああ、こいつも、感じているんだ。
そう思った瞬間、脳が真っ白に焼け付く。
「……っ、う、ぉ……! お、おれ…!射精る…!」
「え…? え、あ、は、はい! 来てください! 真尋さん…!」
ビュル…
短い衝動の果て。ごくわずかな熱が、体の奥からほとばしる。
ビクン、と一度だけ大きく体を震わせ、真尋の動きは、完全に止まった。
少量の、小さじに満たすか満たない量の白い液体が、入り口付近にかけられる。
ぜぇ、ぜぇ、と荒い自分の息遣いだけが、やけに大きく部屋に響く。
下敷きになっているニャル子は、ぐったりと目を閉じ、小刻みに肩を震わせていた。
その頬は上気し、額には玉の汗が光っている。
「ハァ…ハァ… ハァ…つっかれたぁ…俺、もう無理だ…」
「え、そ、そうですね! 疲れましたもんね! 私を抱いてくれて、幸せです!♡」
「そっか、ならよかっ…た…」
彼はそれだけいって、落ちるように眠りへ…
(……まあ、こんなもんだよな‥‥ニャル子も、満足してくれただろ…)
彼は、それが自分の拙さ故の、あまりに一方的で、短い行為だったことに気づかない。
ニャル子の熱っぽい吐息も、潤んだ瞳も、小刻みな痙攣も、すべてが自分の「おかげ」で引き出された、快楽の証だと信じて疑わなかった。
彼女が、痛みすら覚える暇もなく終わったこの行為の間、必死に感じている「フリ」をしていたことなど、知る由もなかった。
「……これで、約束は…果たしたからな」
真尋は、そうぶっきらぼうに呟くと、今度こそ完全に寝た。
◆
あれから、1ヶ月が経過した。
八坂家の日常は、一見すると何も変わっていないように見えた。
朝になればニャル子が突撃してきて、真尋がそれをフォークで迎撃し、クー子がニャル子に絡んでは宇宙の彼方へホームランされる。
その光景は、もはや様式美ですらあった。
だが、変化は静かに、しかし確実に起きていた。
ニャル子が、真尋に対して過剰なアプローチを仕掛けてくる頻度が、明らかに減っていたのだ。増えるかと、あの日を通してそう思った。
以前なら一日中、金魚のフンのように付きまとっていたのが、今では学校の休み時間や放課後、やたらとクー子と一緒にいることが多くなった。
図書室で勉強を教え合ったり、二人で新作ゲームの攻略に熱中したり、スーパーの特売に連れ立って出かけたり。
その隣に、真尋の姿はない。
「…………」
その変化に、真尋もなんとなーくではあるが、気づいてはいた。
正直、あしらう手間が減って楽になった、というのが本音だ。やかましい邪神が一人静かになれば、家での平穏な時間も増える。
だが、楽になったはずの胸のどこかに、ぽっかりと穴が空いたような、奇妙な物足りなさがあることも、彼は自覚し始めていた。
静かすぎるリビングに、言いようのない居心地の悪さを感じる。
……まあ、気のせいだろう。彼はそう結論付ける。
「っと…喉乾いたな。 水、水っとー」
その夜、真尋はいつもより遅いお風呂の後、喉の渇きを覚えて、リビングへ。
シン、と静まり返った暗い部屋。
いつもなら、この時間帯にニャル子が逆夜這いを仕掛けてきて、攻防戦が繰り広げられるのがお約束だったが、ここ最近はそれもパッタリと無くなっていた。
(アイツも、もう寝たのか……最近、寝るの速いな)
しかし夜は静かに越したことはない。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、グラスに注ぐ。
その時、ソファの足元で、ぼんやりと液晶の光が灯っているのに気が付いた。
ニャル子のスマートフォン。
宇宙テクノロジーとやらのスマホらしい。
「こんなところに置いて…踏んだら危ないだろうが」
独りごちて、それを拾い上げようと屈む。パスワードもかかっておらず、何かのアプリが起動したままの画面が見えた。
そっと指で触れ、テーブルの上にでも置いてやろうとした、その拍子だった。
『んっ…んほぉ!!おっほぅ゛…♡ チンポっ、ぶっと゛っ…!』
「ぶっ!?」
突如、スマホのスピーカーから、やけに生々しい、ぽるのっぽい喘ぎ声が響き渡った。
思わず麦茶を噴き出しそうになる。音量は決して大きくないが、静寂な深夜のリビングでは、心臓に悪いほどクリアに聞こえた。
自分がリビングでエロ動画でも見てると勘違いされかねないと。
「お、音量! ってこのスマホなんか変だぞ! 仕様が違――――――――――――――う…?」
真尋は、動画に違和感を感じた…
その動画の画面には――――――――――――女同士のはずのニャル子が、クー子の…自分なんかよりずっと逞しいペニスを自分に向けていた顔でしゃぶっている、幸せそうな動画だった。
その動画は、止め方も分からず、見ることを強制された。
実に2時間21分もあった。
◇
シン、と静まり返った暗い部屋。
その静寂を、ぼんやりと光るスマートフォンの液晶画面だけが照らし、そして、そこから漏れ出る、およそこの世の物とは思えない音が支配していた。
『ジュボッ…ん、く……んちゅ……♡ ズボッ゛゛っ♡♡』
ニャル子が、誰かのを、チンポを媚びるように貪っていた。
自分とは…そんなことされていない。
なら相手は…?
ニャル子に、そんな相手は…自分のみだったはずで…
(な、なんだよこれ!? ど、どういうことだよこれ!? それに、なんで女のクー子にあれが……!?)
真尋は、目の前の光景が理解できなかった。
そこは、ニャル子の部屋に間違いない。
何も穿いていない…そのニャル子にしゃぶられていた相手とは…真っ赤な髪、クー子が、堂々とソファに座っている。
問題は、そのクー子の股間から伸びる、禍々しいまでの存在感を放つ卑猥なチンポだった…♡
彼の、貧弱なソレとは比較にすらならない雄マラ♡
太く、咥えているニャル子の顎が外れないか心配なほどで、あんなの、生殖器と言われたら不安になるほどでとてもじゃないが交尾だなんてと。
おまけに長く、まるでバナナを舐めているのかと思うほどに傾斜が付いたそれは硬さと柔らかさがあるのか伺えるのだが…そこはやはり種族の差か。
そんな先端は、自分の先っぽまでずっぽり覆いかぶさって全く剥けないモノと別種のモノのように、皮膚色7.5割、赤色2.5割の亀頭が大きいのとズル剥けているのが当たり前と言わんばかりの剥け面積を晒す雁首はマンコを逃さないような返しがエグイカリ笠がニャル子の口から抜ける時に見えるレベルである。
血管をくっきりと浮き上がらせた肉棒は、クー子の可愛らしい容姿とはかけ離れた浮き上がりと、3本の血管から複数にミミズ走りしている具合は余りにも彼女の容姿とは不釣り合い。
キンタマなど、自分のはクルミサイズでいくら動こうと揺れない面積なのに、クー子のそれは世界一大きい鳥類の卵とされるダチョウの卵といい勝負。
デカい立て型の楕円の袋が二つもあり、ニャル子が手コキしながらしゃぶる動作の反動で振り子のように柔らかさにプルンプルン揺れるだけでも、この後あるかもしれない射精から放たれる子種の量に畏怖してしまう。
真尋は馬においての、子と大人の正確なサイズは知らないがどちらか、馬のそれにも匹敵するのではと思えるほどの、明らかに自分が格下だと本能で分からせられるチンポ。
その、女の子であるクー子であるにはありえないはずの巨根を、ニャル子が、恍惚とした表情で、その小さな口に含んでいた。
彼女の口は、クー子の巨根を限界まで含み、その表面を唾液でぬらぬらと光らせていた。時折、喉の奥を突かれて「お゛っ」と嗚咽を漏らすが、その瞳は嫌がるどころか、宝物をしゃぶるように蕩けている。
『……んぉ゛♡……ニャル子……上手……最初と、全然違う‥‥♡』
クー子の、いつもは感情の読めない声が、快感に甘く掠れる。
その手は、ニャル子の銀髪を優しく撫で、まるで愛しいペットを労わるかのようだ。
『んん……♡ そ、そりゃあ私ですからね! 回数を重ねていけばどんなチンポもイカせれる屈指のテクにもなるのは必然ってんですよ! まあ、他のチンポなんて興味もないし相手しませんが…! ジュブブブ♡♡ このぉ…おっき、なぉちんぽだけぉ……♡ おいし、いですぅ……♡ さあ、本気出しますよぉ…!』
しゃぶりながら、ニャル子は上目遣いでクー子を見つめる。
その奉仕的な姿に、クー子の巨根がさらに一段、硬度を増すのが画面越しにも分かった。
『―――――――――――ズボボボボ‼‼‼❤♡♡❤♡』
『オッホぉおお!!!? ニャル子新゛フェ゛ラ゛ぁ♡♡♡❤!!』
画面から、とてもフェラの音だとは証明しようがない波外れたバキュームの音が響き始めてしまった。
その音源の正体はニャル子が、普段はしたないニャル子でも自分には見したことがない、頬が窄めて頬に影が出来るほどの、品のない顔で品のない行為であるチンポをしゃぶる音。
真尋はそれを見て、どんどん心が何か蝕まれる。
(な、なんだよ、この顔…! お、お前、そ、そんな顔する奴じゃ…!)
そう思うのも無理がない顔、テク。
バキュームに必要な酸素が足りなくなると、また頭を上目遣いでクー子の感じる顔を見ながらピストンしていくのだが、亀頭以外の赤が、舌であろう舐めまわす色も垣間見えるのが如何にニャル子が初心な回数ではないことを物語っていた…
そしてそんな、自分なら数秒で射精してしまえそうなのをクー子は当たり前のように受け止め‥‥
数分間の、濃密な愛撫の末。
『お゛っギッ♥ んお゛おぉっ♥♥♥ う゛んお゛っ、おおぉぉ~~っっ♥♥♥……ニャル子ぉ゛、もう゛……射精る……っ!!!♡♡♡』
「!♡ は、はいぃ……! ジュボボボ♡♡♡♡ ぜんぶ、ください……! ズルルルル‼‼‼❤❤❤❤!!!」
クー子の腰が、大きく、数回しなる。
それに合わせ、ニャル子は喉を大きく開いて、その全てを迎え入れた。
「イックッッッ‼‼‼❤❤❤」
ドッピュルルルル♡♡♡
ドッピュルルルルルル‼‼‼❤❤❤
竿の根元から、白濁した精液が、ドクン、ドクンと脈動しながら、とめどなくニャル子の口内へと注がれていく。
生温かく、そして生命の匂いが凝縮されたそれが、彼女の口の端から溢れ、顎を伝っていく。
『ん……んぐ……っ! ゴク……っ♡ ゴク‥‥♡』
『あ~~~♡♡ いっぱい飲まれるのいいのぉ‥‥♡♡』
ニャル子は、一滴たりとも零すまいと、必死にそれを嚥下した。
チュパ♡♡♡
『ぷはぁ♡』
最後の麺を顔を上げて吸い上げながら堪能するように、チンポに唇を吸いつかせたまま口元を放たしたニャル子の口から亀頭にかけて唾液まみれの亀頭が糸を引きながら現れた。
そして、精液で濡れた唇を舌でぺろりと舐めると、恍惚とした表情。
雌の顔。
自分に向けていた、女の顔じゃない。
本能で、相手を求めている顔。
「…………クー子の、いっぱいで……濃くて、おいしいですぅ♡ 量も相変わらずぅ、すっごいんですからねぇ。 いやぁ困ったものですよ、昨日も3時間くらいを二回もしたのに、相手するのも大変というもんですよ♡ 真尋さんのときみたいに、薄くなんかないのがいいですぅ……♡ 回数も精力も段違いですよぉ」
(あ……が……っ)
その一言で、真尋の心臓が、氷の手に握り潰されたかのように軋んだ。
知っていた。薄々感づいてはいた。
だが、こうして、彼女自身の口から、自分の惨めな現実を突き付けられるのは、想像を絶する苦痛だった。
『……当然。私のチンポは、ニャル子の為を【孕ませる為】にあるから。 宇宙幼稚園時代から溜めてきたザーメンとニャル子の為のチンポ』
射精の余韻に浸りながら、クー子は満足げにニャル子の頭を撫でる。
その光景は、どこからどう見ても、相思相愛の恋人同士のそれだった。
『そ、それは、お、お恥ずかしい嬉しい話ですね♡ 今まで見向きもせず、なにやってんだー!この変態ー!って跳ねのけてた私は失礼でしたね…』
『‥‥‥全然いい。 気にしてない。 今が大事。 今ニャル子に子種を注げるのが少年じゃなくて、私なんだから』
『うわ!』
そして、クー子はニャル子をソファに押し倒すと、今度は自らがその濡れた秘裂へと顔を埋める。
しばらくの間、生々しい水音が響いた後、クー子は体勢を入れ替え、ニャル子の両足を持ち上げた。
「……今度は、こっち……入れても、いい?」
「あ……♡ は、はい……♡ お、お願いします……今日も、クー子の、おっきいの……私の、おく、まで……全部……っ入れちゃってめちゃくちゃにマンコ抉ってくださいってんですよ♡」
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