旧校舎に存在する今は使われていない古い体育館で、鈴はりなの伝言が書かれた手紙を読んでいた。
『今から2年前、私は有里先輩の監視を命じられ、異界から来たの。こんなふうになったのはあなたの存在を知っていながら隠した私の責任。先輩がそういうことになったのも… 鈴、あなたのせいじゃない。今まで騙してごめんね。しった以上あなたは私を許すことができないだろう。でも、聞いて。私がここに残ることを選んだのはその理由だけではない。この2年間、先輩を監視しながらも、私はその真意については何も知らなかった。今からそれを確認してみるつもりよ。それが最後に残った贖罪だと思うから。ごめんね...。』
鈴が手紙を静かにたたみ、低くつぶやく。
「...バカ。」
....
...
..
「もう一度、チャンスを...!」
ヘルズフレアの拠点。幹部たちが集まっている中、レッドウィップがマリアの前でドゲザをしている。コロセウムで鈴に思い切りぶん殴られた面付きは大変なかっこうをしていた。
「それは今までの失策は認めないということですか。」
「そ、それは…!」
「ウィップ。これまでの失策によってあなたをサイドアームズのリーダー職から罷免します。」
「!!く...!」
サイドアームズのリーダーだからといって、別に大きな権限があったわけではないが、序列上のその位置は4幹部のすぐ次、すなわち現在空席として存在する最後の幹部の第1候補を暗示した。
「サイドアームズのリーダーは当分の間空席。一週間の自粛後、通常のメンバーとしてリングに復帰するのがあなたに対する処分です。以上。」
(くぅっ…!夢原 鈴!彼のガキのせいで、私がこんな屈辱を···!私はこのままでは終わらない…!絶対に...!)
ウィップが席を離れると、ネロミがマリアに向かって皮肉る。
「人手不足だとして、甘すぎんじゃないの?」
(とはいっても、自分の手先な奴を幹部候補から放出させたから、こいつにもかなりの打撃だろうな?)
「本題に戻り、今回の議題はコロシアムの興行及び天使の処分です。」
「天使ですって?ふふ、そんなの、いまでは何の脅威にもなりません。」
シスターの発言にマリアが眼尻をつり上げる。
「魔界の異能を持った人間をそのまま放置するということですか。」
「天使など些細な問題。それより今はコロセウムの興行という大切な時期です。興行に先ほど、サイドアームズの残りのメンバーたちを呼び出す事にしましょう。特に、魔界の人気アイドルのローズなら、興行のいい宣伝になるはずですよ。」
シスターの案件にマリアが唇を噛む。確か見た目にはその案件に悪いところはなかった。
人気アイドルロックバンドのメインボーカルを務めているポイズンローズは、ヘルズフレアのレスラーとして契約し、活動を始め、落ちぶれた団体の新規ファンを流入させることに多大な公言をしていた。正統派プロレス団体にアイドルファンの流入とはどういうことかと不満の声もあったが...。
しかし、だとしてもポイズンローズはサイドアームズのマンバー5人の中で唯一シスターの推薦で入ってきた人物。彼女が契約中のアイドル事務所も財団の後援を受けている完璧に財団側に立っている人物だった。しかも今サイドアームズのリーダーは空席。シスターの権限だけを増やす件数をマリアが喜ぶはずがなかった。
「異論はないが…天使の件もはっきりさせる必要があります!」
「ふふ、本当未練を捨てられないんですねぇ。マリアさんて。」
マリアは天使に対するシスターの態度に何処か違和感を持っていた。
(矢張り天使について何か隠している…。)
「見張り役を付けるのはどうですか?」
マリアとシスターが冷戦をしているとき、突然リリーナが現れ、自分の意見を披瀝する。
「天使の動向さえ知ってればコロシアムにも大きな妨げにはならないはずですよ。」
「見張り役?じゃあ私が…!」
「あなたは結構です。」
マリアがきっぱり黙殺すると、ネロミが虫をかみつぶしたような顔になる。
「けっ...!じゃあパプリカのやつはどうなの? 正直必要ないじゃない?あいつ…。」
....
...
「ふん、ウィップの奴ももう終りよ。それに、幹部のやつら、ローズを呼び出すつもりだし、このままマリア様の下にいたらどうにもならん。」
ブラディーオークのバーミルとアルラウネのパプリカが幹部会議の話をしていた。
「えぇ…それ… マリア様を裏切ろうって?」
「ああん!?誰が裏切りって言った!手前、ちょっとアレだ?」
「で、でもそれは、その、ちょっと...。」
普段、小量なパプリカがダサくに反対意見を披瀝すると、むかついたバーミルがパプリカにチンロックをかけて顎を圧迫する。
「こいつまじキレるな!おい、ちんちくりん。前は私のパシリだったくせに大きくでたな!もう一度わからせてやろうか!ああん!?」
「えッ...!けッ...!やめっ!私が悪かった!」
後進の育成のためエリート達を集めて組織したサイドアームズ。しかし、その実情は人材難に急造してメンバー間の実力偏差が大きく、パプリカはその中でも著しく落ちる実力を持っていた。関節技の腕だけを見て編入されたため、サイドアームズのメンバーたちはもちろん、ちょっと腕がある他の団員たちにも見下されるのが常だった。
その時、一般団員一人がパプリカを呼び出す伝言を伝える。
「ちんちくりん!マリア様のお呼びだ。」
「えぇ...。」
....
...
..
「…といって私がどうして天使の見張なんて…!」
数時間前、
「パプリカ。あなたはしばらくの間天使の見張り役をしてください。」
「は、はい...。」
「それから、どんなつまらない事でもいいから、毎日、気づいた事を一つ私に報告するように。」
以後、パプリカは鈴の足跡を追って、旧校舎の体育館まで来ていた。
マリア様、なんだか不機嫌そうに見えたし...。それはともかく、なんでネロミ様まで同じ注文するの!
体育館の鈴は、一人で古いサンドバッグをけとばしていた。
「こんなところで一人で練習?正体ばれたのにのんびりじゃん。くぅぅ…!なんで私だけいつもこんなありさまなの!それからあのでか乳…!」
(なんでさっきから喧嘩うってんのよ!此れ絶対変なの!罠なの!...いや、ちょっと待ってよ。あいつ、普段のように髪がピンクでもないし、天使の力とかないと大したことないんじゃない?ここでにぎりつぶすと見張も必要ないじゃん。コロシアムのダメージも まだ回復してないよね?)
「くふふ...!見てなさいよ!お前の顔とそのでか乳を木っ端微塵にしてあげる!」
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