桃香さんが悪いんですよ……(悪くない)
Added 2024-06-29 12:24:44 +0000 UTC暗闇が気を紛らわしてくれるのなんてほんの短い間、一分や二分もてばいいほうだ。まぶたを落ち着きなく閉じたり開けたりして拒んでも、私の瞳孔はひとりでに広がって、八つ当たりに電気を消したままでいる夜の空気に慣れてしまう。 浮き上がってくる感情は、ただ怒りと括るには入り組みすぎていたかもしれない。 でもやっぱり私は怒っている。今だって手足そのものが憤っているように、指先から上がってくる小さな振動が膝を、肘を揺らし、喉に集まって張り裂けそうになるのを感じる。 「桃香」 呼び捨てにしたのは、その名前への私のささやかな反抗だった。 そうだ、その桃香という人間が、私が今ここで自分を持て余していることの答えだ。私の鬱屈を一掃し、檻をぶち壊して、手を差し伸べて心を奪い、とうとう私の人生設計を台無しにしてしまった。河原木桃香。その名前を誰に支えられるでもなくつぶやくたびに、血を滴らせるほど新鮮な憎々しさが胸のうちに募った。 桃香さんはすぐ私のことをバカとか言う。確かに私は自分で思っている以上に、自分が一度でも考えたことを諦められないし、考えをすぐ実行に移して、その結果どんな事態になるかちゃんと想像できていない。バカだし、勢い任せで行き当たりばったり、他責思考でひがみ根性の甘えたガキだ。 でも、そんなバカなガキにさえ痛いところを突かれてうじうじしているもっとバカな桃香さんはなんなんだろう? まったく一貫性がない。自分から辞めたバンドを往生際悪く気にして、自分の音楽なんてものにこだわっているくせに諦めて故郷に帰ろうとした。それでその前日に自分のファンに出会って、ただのファンの歌声に、人生を救われたとか安っぽい言葉に心打たれて川崎にしがみついた。それどころかまた仲間を集めてバンドを始める、その仲間の一人にギターを持って追いかけてくるストーカーみたいなファンを選んでしまうのだから筋金入りのバカだ。 ときに切磋琢磨し、ときにぶつかり合いながらバンドとしての団結を強めていく桃香さん。まるで彼女自身の人生の焼き直しを演じて、また楽しくなってしまう桃香さんは、私から言わせてみればまだただ一人のガキなんだと思う。桃香さんはすぐ現実とかいう雑魚の言い訳にすがる。自分が、少なくともここでベッドに倒れている小娘の一生を変えてしまう、そしてそれだけで十分なほどの音楽を自ら手放した過去への煮え切らない言い訳を、今の腑抜けのダイヤモンドダストに託して、本当に惨めだ。 やりたいことがあるくせに。私やすばるちゃんじゃ何年かけても追いつけないくらいの、それでも足りなくて学校を辞めて退路を絶つくらいの夢と才能を持っているくせに。ぜんぜん隠せてない、自分が年上なのをいいことに、私は大人だから、みたいな顔をして、まったく大人じゃない、言い争ってもすぐに自分のほうが音楽で食べていくことの厳しさを思い知っているからまあこの無知なガキには言わせたいだけ言わせとけばいいって本当にムカつく態度で、大人ぶって、諦めて困ってないふりをして、その陰で私にめちゃくちゃなこと言われて気持ちよくなってるんだ。こいつが、現実の見えてないギターも弾けないガキの妄言なんてろくに金も稼いだことない赤んぼだから言えることなんだ、だからあの頃の私は、私たちダイヤモンドダストはほんの一瞬の輝かしいだけの夢にすぎないし、よかったよかった、この顔真っ赤で食ってかかってくるガキが間違ってるんだから、私も間違ってた、やっぱり好きなことやってしかも成功するなんて、そんな絵空事のために悩んで他人と衝突するなんて都合がよすぎて許されないことなんだって、ふざけんなよ!!!!! 「あ……またか」 桃香さんへの好むとも憎むとも言えない思いを噛み締めているといつも、あの目の前がかっと暗くなって、背中が一面熱くなるような感覚に襲われる。それだけですめばいいんだけど……私の身体は、まったく望ましくない反応を示してしまう。 唐突な話だけど、私には男の人の……いわゆるおちんちんが生えている。そういう人間は珍しいけど、まったくいないってほどじゃない。少なくとも桃香さんにはついていない、というくらいの珍しさだ。 わざわざ他人と比べることもないから、それが一般的に見てどの程度のものなのかはわからない。ただ、今勃起と呼ばれる現象に見舞われて滑稽に伸び上がった棒状の部分を片手なら余裕で握れる、両手だと長さが足りない、というくらいの中途半端なものだった。 「これで怒ってるつもりなの? 全然頼んでないのに、本当にバカ」 自分で口にはしてみたけど、煮え立つ情動を漲らせて竿を膨張させているなんていうのはあまりにも希望的観測すぎると思う。怒った結果おちんちんを勃てる人間が存在するとしたらおかしい。ということは、私はおかしいのかもしれない。こうやってベッドに寝転んでそっとおちんちんに手を伸ばすとき、私が憤慨しているのか、それとももっと他の濁った心理に支配されているのか、私自身にもわからない。 ただ、いつからかわからないけど、桃香さんへの不満と悔しいほどの期待を一人声にも出さずにぶちまけ、処理しようとするときには欠かさず、おちんちんは硬くなって、私は筋張ったそれを握らずにはいられなくなった、ということだけが事実だ。 「……ぁ」 丸めた手を、いきなりしっとりとした表皮の上で滑らせてはいけない。そうすると私は桃香さんを、桃香さんに対する信仰めいた気持ちを汚してしまうような気がした。だから最初は、小指から順番に握力を強める、小指を緩めて次は薬指、と人差し指まで繰り返す。まるでおちんちんを揉んでいるような格好になり、桃香さんのことをバカにできないふやけた声が漏れる。 そうしながら、しかたがない、しかたがない、だって桃香さんが私にウソをついて、怒らせて、おちんちんを腫れさせてしまったんだから、という弁明を、おちんちんを通じて私の脳に染みこませていく。 だってそれは嘘じゃない、桃香さんと出会うまでは、たとえ実家で、高校で、桃香さんの歌だけを頼りになんとか息をしていた頃だってこんなことなかった、桃香さんが私の目の前でやっぱり、桃香さんでしか歌えないメロディを形にして、家に帰れない私を自分の家に連れこんで翌朝私を置いて川崎を発とうとするまでは、私はおちんちんで性欲を催すことなんてなかった。いや、性欲なんかじゃない、これは子供じみた興味でおっかなびっくり女の子の穴の周りを撫で、怖くなってすぐにやめたときとは違う、もっと純粋で救いようのない衝動だったから、桃香さんのせいで。 「桃香さんが悪いんですよ、桃香さんが、私のことを誘惑してっ」 すでに私は間違え始めている。なのに目をぎゅっとつぶると、おちんちんはびっくりするくらい熱くて、どっちも自分から生えているものなのに、固く握った手を火傷させてしまいそうだと思った。 でもそう、大丈夫、これで大丈夫。私は決して桃香さんを思い浮かべてオナニーなんて、してるわけじゃない。背筋の産毛が一斉に逆立つみたいな苛立ち、あくまで何度言い訳を重ねても飽きずにぐずっている桃香さんに怒っている気持ち。もう完全に手の形を従わせる気まんまんに直立したおちんちんをただ触って、それに耐えていれば、いつかすっと消えていく。桃香さんにもう一回私の気持ちを伝えてみようと思えるようになって、おちんちんも反省して柔らかくなる。いつもやっていることだった。 「私が桃香さんでおちんちん大きくしてるなんて、知らないくせに……っ!」 そう言い訳するのに前後して、私の指は滑り始める。同じ身体の一部分なのに触ってるほうと触られてるほうで感じが違って気持ち悪い。 でも、本当に桃香さんは、私のこの悪い癖を知らないのだろうか。 練習の後汗を流しに銭湯に行くから、私にこんな男子のものが生えていることは当然知っている。それなら、と思わなくもないけど、私だって見境のない性欲の化け物じゃない。ひとりでうずくまって悶々としているときでもなければ、桃香さんを見たっておちんちんを反応させてしまったりしない。 「へー、なかなかかっこいいじゃん。仁菜の頭ん中と同じで反骨精神丸出しだな」 「桃香さんっ!」 思わず声に出てしまっていて自分でびっくりした。桃香さんは前に私がうっかり隠し忘れたおちんちんを目にして、歌のスタミナ配分がどう、ハイハットの軽さがどう、と演奏に注文を付けるのと変わらない素朴な様子で言った。 言葉の意味するところは全然わからなかったけど、疑問が残った。普通女の子のだろうと、丸出しのおちんちんを見たらもう少し驚くものじゃないんだろうか。それは、桃香さんがいまいちそういう方面に興味を持っていないからなのか…… 「男だよ」 知り合いどうしで始めたバンドがメンバー個人の恋愛で険悪になってしまう話とかを、桃香さんはさらっと披露する。そういえば桃香さんはかっこいい。ファンとバンドを組んでしまうくらい人付き合いも得意だ。ストイックでリーダーシップがある、ように見えて私生活は意外とだらしなく、面倒くさがりで何より挫折を知っている人の暗さがある。 息が荒くなる。私はダメだ、ダメだと思いながらも、一度そう考えてしまうともう止まらなくなる。桃香さんには過去、当然のようにおちんちんの付いた恋人がいて、夜の闇に包まれた二人の部屋で、そのおちんちん以外には見せたことのない、呆れたような嬉しいようなほほえみを浮かべて、そして……おちんちんをあの背が高くてスタイルがいい身体の、いちばん大切な部分に受け入れたことがある。 「最低、だよ、桃香さんっ。セックス、してるんだ、私に黙って、おちんちん入れられて気持ちいい声出してるんだ、最低だっ」 最低なのはどっちだろう。高校にいた頃、やっぱりクラスの中でも素行の悪い子は下品な話ばっかりしていた。その集まりを軽蔑して、なのに耳にはしっかり入れていた私が、空想とわずかな知識を組み合わせてぼんやりした映像を作り上げる。 私の頭の中の桃香さんは、くしゃくしゃのシーツの上に寝転がっていた。あおむけで、裸とも服を着ているとも言えない。なぜかと言うと、パンツは片方の足首に引っかかっているだけで、ブラジャーはカップをめくられて役立たずになってしまっているからだ。それで、桃香さん本人の姿は半分くらい隠れている、桃香さんより大きく、体格のしっかりした人影が覆いかぶさって、桃香さんはその人の肘を掴んで、自分のほうに引き寄せているみたい、下半身は、開いた膝の間に、知らない人のお尻がありえないくらい接近して、桃香さんが身体を曲げたり伸ばしたりするたびに前後に動く。桃香さんはセックスをしている!! 「あっあっ、あっ、おちんちん、がっ!」 棒のところをいきなり跳び上がらせたおちんちんを、私は取り落としてしまいそうになる。私はどうしたいんだろう? 妄想の桃香さんがバカとかもっと乱暴にやっていいとか、そっけないのに親しみをこめた声で言っている相手の部分に、どうしても自分を当てはめることができない……私は、桃香さんとセックスをしたい? 「で、出ちゃったっ、おちんちんのよだれ、出て、きたぁあ……」 違う、絶対そんなの違うはずなのに、私が桃香さんに何度突き放されても後を追いかけていくのは、胸ぐらを掴まれて殴られそうになっても自分を曲げないのは、そんな一日で終わっちゃう汚い夢のためじゃないのに! 私は桃香さんが自分の音楽にウソをついて楽しいとかふざけたことを言ってるのが嫌いで、本当に音楽をやめたいと思ったりして、でもしつこくギターとバンドにへばりついてかっこつけ続ける桃香さんが大好き、それは本当の、心の底からの私の、信仰にも近い思いだった。 でもおちんちんにはそんなこと関係ない。桃香さんとセックスする。一度その考えにたどり着いてしまったら、全体に欲望を詰めこんで勃起を余計かちかちにする。だってたぶん、それがいちばんおちんちんには大事なことだから。私にもついている、そして今、触る勇気はないけど力が抜けて熱いしずくを垂らした、おまんこの穴に入れてしまえればそれでいい。私が桃香さんのことをどんなに大切に思っていようと関係ない。セックス。セックス。セックスをするんだ。 「桃香さんっ、ふー、ふぅう、っ、桃香さん警戒心なさすぎ、すぐヤらせてくれそうすぎっ」 そして私は、本来自分の一部分のはずのおちんちんに悪い遊びを教わって、すっかり溺れるようになってしまっていた。頭で考えているのと真反対のことを思い浮かべておちんちんを擦ると、心の立ち入り禁止の部分に忍びこむみたいで、きっと桃香さんを好き好きと言いながらベッドに寝転ぶだけより何倍も棒が硬くなるんだ。 「桃香さんを壁際に追い詰めて、両手で押しつけて、逃げられないようにするっ」 私は桃香さんの、ギターを肩にかけるとすごくさまになるしなやかな身体を自分の腕で囲んでお腹をくっつける。そうすると手が使えないから、スカートを押し上げておちんちんが反り返っているのが見えてしまう。 上目遣いで桃香さんの顔を見上げる。桃香さんは意外と存在感のある眉毛をはっきりと幻滅した形に曲げて、それはいつもの私にいろいろ文句を言ってくる顔とは根本的に違う。私が何も言わなくても、桃香さんは私がセックスしたいことに気付いてしまう。私は見放される。殴られるかもしれない。でもセックスがしたい。 「あ……ダメだ、これじゃ」 私がいくら犬みたいに股間をすりつけたって、桃香さんのほうが身長が高い。せいいっぱい背伸びしてもおちんちんのぐちょぐちょ穴は桃香さんのパンツのファスナーにも届かない。桃香さんは最初は怒って、でも優しいから私をかわいそうに思って、一回だけオナニーを許してくれるかもしれない。そして冷静になった私に、その日のことを忘れるように諭す。 こんなの全然ダメだ。あの優柔不断でだらだらした桃香さんと、少しずつおちんちんで仲良くなっていくことなんてできない。最初の一回で桃香さんを私のものにしなくちゃいけない。そう考えると、絶対に最初、私が桃香さんに性欲を感じていることを知られたときか、知られる前にもうセックスしてしまうしかない。考えなきゃ、桃香さんがいちばん素直で、いちばん弱い、できれば抵抗なんて考えられないときがいい。 桃香さんとの思い出の中に答えはあった。 「お酒……」 すばるちゃんがそれとなく押しつけてくるから、酔い潰れた桃香さんに肩を貸すのは私の役目になっている。タクシーに押しこんであのギター以外のものが片付きすぎた部屋まで連れていって、なんだかんだですばるちゃんを追い返して二人きりになってしまえばいい。 桃香さんは普段抱えているものを裏返しにしたみたいに、なれなれしくべたべたすりついてくる。私はむしろ迷惑そうな顔でソファーに寝かせてあげる。すぐにでも眠ってしまいそうな桃香さんに水をくんであげるふりをして背中を向けて、一人だけ呼吸を荒くさせながらパンツをずり下ろす。信じられないくらい硬くて、長くて、桃香さんのことをすぐにでもどうにかできる女って理解したおちんちんが、私の股間から伸びている。 あはは、桃香さんがすりすりしてくるから、スカートめくれちゃいましたよ、ほんとしっかりしてくださいよ、普段はかっこいいのに飲みすぎなんですよ……震える声で、くらむ視界で、自分でもおちんちんが出ているなんて知らない。そんなバカみたいな計算で頭をいっぱいにしながら振り向いて、呆然とした。 桃香さんは気付いてない! お酒のせいで頬が赤くなって、大人っぽく目を潤ませた桃香さんが、私のおちんちんを見ている、でもおちんちんだとは思わない。むにゃむにゃと唇が動いている、口紅なんか塗らなくたって、寒いところで生まれた桃香さんの白い顔の中で気が強そうに浮き上がる、赤くていじわるな唇。 「あんだぁ、こりゃ、ニーナお前ぇ、いつの間にペットボトルなんか買ってたんだよ~」 「うっっ」 私より先におちんちんのほうがファーストキスを体験してしまった。 「うわ、なんかくっさいぞ、なんだよこれ」 桃香さんがひどいことを言う。女の子のおちんちん相手だっていうのに、桃香さんはそういうところがある。勝手に他人のことに気を回して落ちこむくせに、基本的にはがさつでおおざっぱだ。 桃香さんが、そんなことを言うから。くちゅ、くちゅ、棒の全体に潤いが行き渡ったのに、まだまだ先っぽからよだれを流して止まらないおちんちんが、いやらしい音を立てる。 「桃香さんの、ためのっ。特製のお薬、ですよ。たちの悪い酔っ払いによく効くんですから」 このままじゃ、床に桃香さんが言ったとおりの臭いお汁が垂れてしまう。もしかしたら本当に効くかもしれないし、もったいないから、私はおちんちんを上下に揺らして桃香さんの唇に、少しだけ粘り気のある体液を塗り広げた。 「んっ、んっ、ニーナぁ、お前ぇ、なんで飲ませてくれないんだよ、れろ、ちゅるっ」 「舐めないでくださいよ、おちんちんから出たお汁飲むなんて、桃香さんの変態」 変態、って言うときだけ、私の声は小さくなった。桃香さんは私がおちんちんの先をくっつけたところをすぐ舐めようとする。桃香さんの尖った舌先が滑り出して、薄く塗られた口紅と透明のおちんちんよだれが溶けて混ざった液を唇の裏に運んでいく。 桃香さんは、これからずっと私のおちんちんに汚された口でしゃべり、歌う。私と言い争いをするときだって、その吐息にはかすかに、おちんちんのにおいが混ざっている。 「おい~、もっと飲ませてよ、ニーナ」 おちんちんを引くと、先端の穴と桃香さんの間に糸が伸びて、あっ、結局落ちてしまった。まあ、ソファーの上だし、たぶんほとんど桃香さんのよだれだからたぶん大丈夫。 「なあ~。なんか、やみつきになりそうなんだよね、それ」 でも、桃香さんはだるそうに手足を動かして何もないところを探すばかりで、私に触れようとしない。私がどんなとんでもないことをしてるのか目を開けて確かめもしなければ、私を押さえこんで止めるなんてことも。 桃香さんのいくじなし。いつも手遅れ寸前になるまでわからないふりをして、それでもどうにもならなそうなら、自分だけ我慢してうまくいかせようとする。それが桃香さんの考える大人なんだろう。 桃香さんはそんなずるい大人のくせに、むにゃむにゃ口を開けたり閉じたり、わずかに残っているお汁を舐め取ったりする。たまに私の名前を呼ぶ。そんなことをしてまで求めているのが、私のおちんちんだなんて。大人のくせに、おっぱいを探す赤ちゃんみたいに、私のおちんちんを。 「そんなに、欲しいっていうんなら」 私は悔しいような、はにかむような表情で、桃香さんを見下ろした。私は、桃香さんの視線からは少しずれた位置に立っていた。 桃香さんは、ソファーの背もたれと座るところの隙間にお尻をはめこむようにして寝転んでいる。私の呼吸の音がうるさい。 「わっ、柔らか、ぁ」 指先に、わざとぼろぼろに加工したジーンズの生地が引っかかる。桃香さんはそれほど男の子と違わないような服を着ているのに、触ってみるとやっぱり女の人の丸い腰をしている。大胆に両手で掴むと、お尻の肉に指先が軽く沈んだ。 「っ、う!」 おちんちんは目の前の女性の身体に鋭く反応して、ひとかたまりの熱いお肉の棒を尖らせた。一瞬だけ現実に戻って、おちんちんを握る手に力を入れる。気持ちよくしようとしたんじゃなくて、そうしておちんちんの穴を閉じさせないと、大変なことになってしまいそうだったから。 「んっ……」 桃香さんのこもった息遣いで、私はふたたびおちんちんの夢に引き戻された。お尻をずらされ、完全なあおむけに姿勢を変えられているにもかかわらず、目を覚ます気配がない。 夢の中の私は、おちんちんを触っていない。なのに、桃香さんのズボンのボタン留めを外そうとする指が、まるでこっそり先っぽの赤い部分をこしょばしているみたいに思えて、落ち着きなくびん、びん、棒を振っている。 桃香さんの適度に鍛えられた太ももの上をズボン、それからタイツが滑り降りていった。どこまで下ろせばいいかわからなかったから、足首くらい……完全に脱がせると、バレてしまう気がした。 「あっ、あ、桃香さん、なんですか、偉そうなこと言ってるくせに、自分だって動物みたいな匂い、させてるじゃないですか……っ」 もう、下着におちんちんを擦りつけて目標を達成してしまおうかと思う、それくらい、桃香さんはもう、女の子なのがわかる果物の香りの中に、つゆだくにしすぎた牛丼みたいなにおいが混じって、どこか顔をしかめるような体臭を漂わせていた。まるで見た目を気にしない、飾り気のないパンツがかえって桃香さんの輪郭を暗い中に浮き上がらせている。 息を呑みこみすぎて、喉が変な音を立てる。意を決して、桃香さんの素朴な下着を引っ張った。 「うわ……桃香さん、パンツの裏までべっとりですけど」 私の都合のいい妄想だから、前戯っていうのか、そういう気分を盛り上げるようなことをしなくても、桃香さんの身体はもう濡れ、滴り、準備が整っている。そしてその妄想の中でも、私は桃香さんに悪態をつかないではいられない。 「もう本当に、取り返しがつかないん、ですよっ」 それはいつもの強がりだった。桃香さんの両脚を大きく開かせて、私はその中心にひざをついている。もうおちんちんよだれの味もしなくなったのか、無警戒に口を開けて寝息を立てている桃香さんと、自分のへその下、反り返るというよりは空中に吊り下げられるみたいに斜めに伸びたまま固まった「生殖器」を交互に見て、私の鼓動はどこまでも早くなっている。 取り返しなんてもうとっくにつかなくなっている。下半身が裸なだけなら、桃香さんが酔っ払って脱いだ、とごまかせばいいけど、お股の間に勃起したおちんちんを見れば、いくら自分のことにばかり鈍感な桃香さんだって、理解する。桃香さんがお酒でぼんやりしている間に……セックスしてしまおうとしていること。 「あ、っ、もうっ、もう、も、うぅ……」 桃香さんの「そこ」を見ないようにしていたのに、今、目に入る。髪の毛と同じ、くすんだ色の陰毛がぼわっと浮かび上がる湯気みたいに、「そこ」を取り囲んでいる。おちんちんなんて余計なものがついていないから、ほのかに丸く膨らんで、桃香さんが大人の身体をしているのが丸わかりだ。 教えてもらわないと、どうしていいのかわからない。ぴったり閉じた穴を、指で左右に広げて、その間におちんちんを入れてしまうものなのか、あんな、本当に奥に続いているのかもわからないお肉の筋に、このどっくんどっくん、たぶんもう握るには指の長さが足りない太さのおちんちんが入るのか。 「桃、香さん」 今から犯そうという相手に、私は情けなく呼びかけた。もしかしたら桃香さんは全部知っていて、私が緊張しないように眠ったふりをしてくれているのかもしれない。その上で、さりげなく私の身体を抱き寄せて、セックスするのに適切な姿勢を教えてくれるのかもしれない、なんて自分勝手すぎる期待をした。 ……でも、桃香さんは本当にすやすや眠っている。不明瞭な寝言を漏らすばかりか、シャツの裾から手を入れてお腹をかいて、その脳みそでは私のことを少しでも考えているだろうか。 「桃香さん、ふーっ、ふう、っ、起きないとおちんちん入っちゃいますよ、ぅぐっ、せ、セックス! されちゃうんですよっ!」 私はむしろ止めてほしかったのかもしれないと思った。その思いは、おちんちんがすべって、先っぽのつやつやした部分が桃香さんのお股に少しだけ埋まる、ぬめりを含んだ刺激を感じて余計に強くなる。 なのに、桃香さんは、左を向いたり右に倒れたりしていた首をふと正面に戻して、唯一意味のわかる言葉を口にした。 「……ニーナ」 ふざけんな!! 頭蓋骨の中が沸騰して、視界が真っ白になる、その瞬間にはもう、私のおちんちんは桃香さんの、おまんこ、の裏側に侵入しはじめていた。 ああ、そうだ、桃香さんってそうなんだ、いつもこんなことしてるんだ、よさげなおちんちんを見つけるたびに、さばさばして付き合いのいい態度で距離を縮めて、もしかしたらこの子は自分のことを好きなのかも、って勘違いさせる。それだけじゃない、隙のある態度で、意外と落ちこみやすくてずっと過去のことを気にしている、そんな弱みを見せて、それで告白する暇なんか許してくれない、酔わせてぼーっとさせたらセックスできるかもしれない、そう思ってる相手の前でわざと泥酔して肩になんか寄りかかったりする、家まで送らせてパンツの中から大人の女の匂いをさせて勃起させて、とうとうセックスまでさせるんだ、私が今まんまと罠にかかったみたいに! だまされた、だまされた、だまされた、私は桃香さんのことを好きなんだと思った、だからおちんちんだって大きくなってセックスをしたくなった。でも桃香さんは私のことを、童貞で扱いやすくて、桃香さんの大好きな誘惑セックス遊びに使うために育てた、今まで何人も何人もおまんこで食べてきたそんなおちんちんの中の一人だった! 桃香さんが私を気に入ってくれたんじゃない、桃香さんのおまんこが私のおちんちんを気に入ってくれてたんだ、桃香さんはヤリマンのビッチ女だ! 「うっっ!」 前のめりに沈みこんだ妄想の中で、私のおちんちんはそれ以上進めなくなった。全部おまんこに入ったからだ……ということになっていたが、現実は、肩で体重を支える不安定な姿勢のまま、両手でおちんちんを握る私がいるだけだった。桃香さんのおまんこをイメージした手の筒から亀頭だけが飛び出して、夜のぬるい空気に撫でられ、なぜだかつま先がそわそわする。 桃香さんとセックスをすれば、桃香さんのおまんこに私のおちんちんが入るだろう。でもそこから先がわからない。 おちんちんを突っこむためにあるおまんこという穴の中身を、私はまったくといっていいほど知らない。せいぜい、おちんちんの棒が柔らかく伸びる粘膜に包まれて、すごく熱いだろうな、というくらい……それから。 「桃、香さん。やっぱり処女膜、ありませんでしたね、桃香さんはセックスをしたことがあるんですね」 私はもう支えのいらないおちんちんをおまんこに突き刺さるままにしておいて、桃香さんの両脇に手をついて脅迫する。 処女膜。私にはそれがあり、桃香さんにはない。初めておちんちんを受け入れると破れて、痛かったり痺れたりするものらしい。でも、桃香さんのおまんこのきっと深いところまで私のおちんちんは入ってしまっているのに、ぶつりと鳴る感触はしなかった。私に初めてを取っておいてくれなかった。 でも桃香さんは悪びれる表情一つ、眉毛を傾けすらしない。釈明はおろか、誘惑し思わせぶりな態度で勃起させたおちんちんが自分のおまんこに滑りこんだことにさえ、リアクションを取らずに、私に腰を振らせるままで気持ちよくなろうとしているらしい。 「桃香さんは、ぁっ、そうやってセックスばっかりしてるみたいですけど、なんでそんなことするのかわかって、いるんですかっ」 だから、私はおちんちんとおまんことセックスの関係について唯一持っている知識を盾にして、桃香さんをやっつけるしかない。 「おちんちんがおまんこに入って、う、動いて、精子をびゅっ! ってすると、赤ちゃんができちゃうんですよ!? なのに桃香さんは、うぅ、うっ、う、ーっ!」 自分で言ったことなのに、精子、赤ちゃん、そんな言葉の形に唇が動くと、背筋が……一瞬遅れてきんたま袋の裏側がぞわりと波打つ。 セックスのことを子作りとも言うらしい。文字通り、セックスをする、具体的にはこのふだん邪魔なばかりのきんたま袋の、そのさらに中身で作られた精子という生き物が、おちんちんと繋がった桃香さんのおまんこの奥の奥、子宮で卵子と出会って、そこから赤ちゃんが始まる。 この事実を初めて知ったとき、私の世界は一気に色を変えたみたいだった、お姉ちゃんが彼氏の話をしているのを聞いて変な表情になり、心配された。それはお姉ちゃんがセックスをしているということを生々しく感じたからだった……桃香さんが「バンドがよければ男切って戻ってくる」とか「ガールズやってる子はモテるから」とか言うのを聞いたときにも、同じ居心地の悪さを覚えた。桃香さんは自分のおまんこの実体験を、私に教えたんだろうか? 「私が、桃香さんに、た、種付け! しちゃえばそんな悪い遊び、やめてくれるんですかっ!?」 私は今、自分でもそれを体験できる状況にあった。実際にはおまんこだと思いこんだ手と指めがけてへこへこ、ものすごく惨めにお尻を振ってるだけだけど、そんな私でも、桃香さんとセックスをして、「膣内射精」をすると、問題なく子供が作れてしまうはず。おちんちんは勃起した瞬間からそれを知っていて、一瞬で違和感が全身に鳥肌を立てさせる。 「孕ませちゃえばっ、いいんです、よね! そうすれば桃香さんは私のものになってくれるんですよね!? だって桃香さん、こうやってつまみ食いするくらい私のおちんちん好きなんですもんね! おちんちんしか見てないんですもん、ねぇっ!」 私の想像の中の桃香さんは返事をしない。 私は、桃香さんを妊娠させたい? 妊娠させて赤ちゃんのパパとママになって、桃香さんを自分だけのものにしたい? 違う! そんなの間違ってる! 私は桃香さんのことを絶対好きだし、もしかしたら恋愛的な意味なのかもしれないけど、それは桃香さんに、自分を貫き通して、好きな音楽にしがみついてほしいからで、うじうじかっこ悪くてもそれが私のいちばん好きな桃香さんだからなんだよ! ほとんど息が吸えてなくて、頭の真ん中のところが痛い。でも、もう大丈夫。私がこうやってオナニーをしているのは、私自身が桃香さんを自分の間違った思い込みの中に閉じこめていないか確かめるため。 だから、今気づいたみたいに、桃香さんとセックスしたくて近くにいるわけじゃないことがわかればすぐに手を止められる。いつもと同じように、寝ているのにうっすらと汗をかいて、おまんこの中が狭まった桃香さんに精子を吐き出して妊娠させてしまうぎりぎりで踏みとどまる。オナニーさえ桃香さんのせいで覚えてしまった私は、当然射精なんてしたことない。 ああよかった、今日も桃香さんを汚さずにいられる。想像の中で自分でも知らないような巧みな腰振りに励んでいる私にはかわいそうだけど、あとはおちんちんを抜いて、むりやりにでもパンツをかぶせてしまえば、すぐに勃起も治まる。最後に強くおちんちんの棒を握って、許されない考えに別れを告げようと息を吸う…… 「あっ、桃、香さんっ?」 と、私の身体は宙に浮かぶような心地になって、熱を持った感触に受け止められる。背中に腕が回っている。指先がリズミカルに私の肩甲骨を叩く。ギターを弾く人の硬い指先だ。 「……中に出してよ、ニーナ」 「あ、ーーーーーーーーーーっ!!!!!」 耳が聞こえなくなった。血が全部脳みその前のほうに集まって、自分が何をしているのかもわからない。私は、おちんちんが心臓よりはるかに強く、どくどくと脈打っているのを感じるだけの、おちんちんの部品になった。 びちゃ。おちんちんになった私には、それがなんの音かすぐに分かった。おちんちんの穴を通って初めて出てきた精子が、部屋の壁にぶつかった……違う。私は桃香さんに種付けしたんだ。肩を抱かれて、いつもの素っ気ないようでいて不器用な優しさに溢れた声で、中に出して、なんて言われて、おちんちんが、私が従った。 「あ、やっ、ダメ、ダメダメダメ、ぇえ、こんなの、おっ、お、~っ、まき散らしたら絶対部屋が臭くなっちゃう、桃香さんが来たらバレるっ!」 敗北に浸っている間もなく、おちんちんの中にきんたまの汁がこみ上げる。私は全身にめちゃくちゃに力を入れて射精を食い止め、枕元に置いてあったティッシュを四枚も五枚も引き抜く。紙箱が窓のほうに飛んでいった。 「出る、っ!」 思い通りに動かない手首で、ティッシュを重ねておちんちんの先に当てると、もうとっくに我慢できない精子が打ち上がる。ごわごわしていて乾いていて、とても桃香さんの穴とはかけ離れた即席のおトイレだったけど、動転した脳みそは問題なくおまんこだと思って、種付けを続けられるみたいだった。 「うっ、うーっ、ふっ、ふぐっ、ぐ、ぐぐっ、うぅう、うあっ、はぐぅう~~っ!」 自分でも怖いと思うくらい、言うことなんか聞かないおちんちん。まず棒が力を溜めてこわばる、その間に精子をたっぷり含んだ汁がおちんちん穴いっぱいに充填される。それを一気に噴き出させることで、おちんちんの内側を擦りながら勢いのある射精ができるという仕組みになっているらしい。きんたまも見たことがない状態で、袋全体に固く皺を寄せておちんちんの付け根に縮こまっている。これがセックスの最後、おまんこの中で起きていることなんだ。 私は、全身が引きつって射精する、動かせるのは口だけの状態で、絶対にダメだと思った、やめなきゃいけなかった言葉を形にする。 「桃香、さん……孕め、っ!」 ぶぴぴっ! おちんちんごと握ったティッシュが明らかに重たくなって、それだけの精子がきんたまから桃香さんのおまんこに移動した、ということを表してしまう。 もうおちんちんと自分の区別がつかなくなった私の脳がばちばちとスパークして、次々に最悪の想像が流れこんでくる。 私は桃香さんを酔わせて襲い、初めてのセックスで初めての射精、その上きんたまであたため続けた精子で、桃香さんを一発妊娠させてしまう。あんなにセックス大好きで、私に精通しろとささやいた桃香さんは、誰にも赤ちゃんができたことを言わずに北海道に帰ってしまう。私は連れていってほしくて空港まで追いかける。今度こそ桃香さんは私の言葉に耳を傾けない。すばるちゃんは私が桃香さんにひどいことをしたと気づいていて、でも責めない。トゲトゲは解散する。私はやりたくもない勉強しかやることがなくなって、一年遅れで大学に入る。桃香さんは誰が父親かもわからない赤ちゃんを産んで育てる。おっぱいをあげたりおしめを変えたりして、桃香さんの身体はギターを忘れる。桃香さんの音楽はこの世から消え去る。 一つ一つの情景を思い描くたびに、私のおちんちんは驚くほど元気に射精した。悪夢でしかないはずなのに、精通汁できちんとおまんこを孕ませられたことが嬉しいんだ。私はとんでもないことをしてしまった。泣きそうなのに出るのは精子ばかりで、それも止まると、きんたまがずきずきと言うばかりだった。 起き上がる気もしないから、おちんちんにくっつけていたティッシュを顔の上に運んできて、そっと開く。 「う……うわ……これが、精子」 おしっこと同じ穴から吐き出されたとは思えない、汚らしい体液。粘った糸が何本もティッシュの間に伸びて、紙越しに指に温度を伝えている、ということは、つきたてのお餅みたいに熱いんだろう。 塊になった汁が重みに負けて垂れ落ちてきそうになったのを見て、私は急いでティッシュを丸める。赤ちゃんの素だというのもわかるくらい、濃厚で量も多い汁をがんばってちんちんに押し上げたせいで、呼吸が荒い。すう、はあ、そんな私のすぐ目の前に、においをこもらせたティッシュが浮かんでいる。 「す、うぅ、く、っさ、うぇっ、ごほっ、ごほ、ちんちん汁、くさっ、ず、うぅう……っ」 私はおかしくなって、自身の精通精子をこれでもかと吸ったオナニー紙を注意深く鼻に押しつけた。 これが、トゲトゲを終わらせてしまったにおい。雨が降った後の雑木林みたいな、私が我慢できなくて、桃香さんが女の身体の本能にまかせて、きんたまからおまんこに注がれて、その次の日一日じゅうセックスの痕跡を残し続ける、心の底から嫌になるにおい。 「く、さいっ、うひっ!?」 もう出ないと思っていたのに、精子を嗅ぐとすぐ変態のおちんちんは気をつけして、精通のおかわりを発射した。最初ほど勢いはなく、お腹に飛んだだけだから、シャワーでも浴びれば大丈夫だろう。 「桃香さん、絶対……ぃ」 絶対に明日、桃香さんを説得して、トゲトゲのギターを続けさせてみせる。 へこ……へこ……膝を曲げて、腰まで前後に揺らして、おちんちんでセックスをすることしか考えてない身体で、精子のにおいに埋もれたままの思考回路で決意した。 私は桃香さんがいないとダメだ。桃香さんももう、というか最初からひとりじゃダメなんだ、私たちがいないと、上京してきたばっかりの田舎者の女の子におまんこを使わせるだけのクズバンドマンになってしまう。どんな手を使ってでも、桃香さんに音楽を諦めさせない。言葉ばかり勇ましい私の、いつも通り行き当たりばったりで何も考えてない決断に賛成するように、おちんちんが力強くうなずいた。 (終わり)