第2幕:前半 控え室にて
最初のキスは、ふわりと触れるだけの静かなものだった。
だが、その口づけは徐々に熱を帯び、舌と舌が絡まり合うにつれて──
ふたりの呼吸は、明らかに変わっていく。
「……ん、ふ……」
小夜子が理人のジャケットを脱がせてフロアに落とす。さらに彼の背に腕をまわし、指先でシャツ越しに爪を立てた。
理人は彼女の腰に手をまわし、タイトスカート越しの臀部を鷲掴みにして、ぐいと自分の身体に引き寄せる。
密着する身体。
押し付けられる下腹部の熱量。
小夜子は息を飲んだ。
「……っ、すごく……熱くて……硬い……」
頬を染めながら、小さく呟く。
その感触に、身体の奥が、キュンッと疼いた。
(……普通の男なら……この時点でもう、終わってしまってるのに……)
ふたりの間の空気が、甘く、張りつめる。
理人は彼女のジャケットに手をかけ、ゆっくりと脱がせていく。
ノースリーブのブラウスから、かすかに透けて見えるレースの縁。
持ち上げるようにめくりあげると──そこには陶器のように白く、滑らかな肌と、今にもこぼれそうな乳房が現れた。
薄く透ける静脈さえ神秘的で、理人はしばし言葉を失う。
やがてブラジャーの端を指先でひっぱり、強引に露わにされたその双丘は──ぷるん、と感動的な揺れを見せた。
「……こんな細い身体なのに、こんなに大きな……」
理人はその胸を、両手で捧げ持つように包みこみ、指の腹でやさしく揺らした。
「……しっとりと…やわらかくて……まるで、つきたてのお餅みたいだ……」
その感触に酔いしれるように、手のひらで揉みしだく。
やがて、指先が先端に触れると、小夜子の身体がぴくりと反応した。
「……っ、あ……んっ……」
乳首は、愛撫に応えるように硬さを増していく。
理人はそれを親指と人差し指でつまみ、円を描くようにこすりながら、そっと顔を寄せた。
「……この淡い色……すごく綺麗だ……」
舌先をのばし、先端を優しく舐めとる。
唇でやわらかく吸い上げ、ふわりと含んで転がすたびに──
「はぁっ……あっ……んんっ……!」
小夜子の声が、かすれた吐息に変わっていく。
理人は片手で乳房を揉み続けながら、もう片方の手をスカートの裾から滑り込ませた。
触れた太ももは、緊張と熱をはらんでいて、手を進めるほどにわずかに震えていた。
彼の好みに合わせて、小夜子はガーターストッキングを身に着けていた。
布地の隙間から、そっと中心に触れると、そこはすでにほんのりと湿り気を帯びていた。
「……もう、こんなに……」
ショーツ越しに指を滑らせる。
やわらかく、しっとりと熱を帯びた布地の奥を感じながら──指先で中心をゆるくなぞる。
「っ……ん、ふぁっ……あ……っ」
小夜子は喉を震わせ、細い腰をわずかにのけぞらせた。
「……直接、触れたい」
「……はい……お願いします……」
理人は、ショーツの布をそっとずらし、指を忍び込ませた。
中は、すでにとろりと濡れていた。
中指をゆっくり入れて、内部を探るように回す。
「ふっ、あぁっ……!」
そのまま、円を描くように掻き混ぜ──抜いて、また入れる。
小夜子の膝がかすかに崩れた。
「……っ、あ、だめ……だめ、理人様……もう……っ!」
身体を揺らし、小刻みに震えながら、小夜子は腕の中で小さく弾けた。
軽く、しかし確かな“快感の波”が彼女の奥から広がっていった。
理人はその様子をやさしく見つめながら、濡れた指先をそっと引き抜いた。
「……綺麗だよ、小夜子。全部が……すごく、愛しい」
「……そんなふうに……言われたら……また……」
彼女は、すがるように理人の胸に顔をうずめた。
──このあとの続きを望む気配が、言葉でなく、肌と呼吸で伝わってくる。
灯りの落ちた控え室のなか、ふたりの時間は、さらに深く──甘く沈んでいく。
──ソファの上、静寂の中で、小夜子が横たわっていた。
ブラウスは胸元まで捲られ、ふたつの柔らかな乳房が白く浮かび上がっている。
タイトスカートは腰のあたりに押し上げられ、下着だけがかろうじて彼女の秘められた領域を守っていた。
理人は、そんな彼女の姿を見下ろしながら、深く息を吸う。
いつもなら、もっと丁寧に焦らし、彼女の身体の声をひとつひとつ拾い上げるような前戯を重ねていた。
けれど今は、違った。
今夜の彼は──ただ、早く、小夜子とひとつになりたかった。
「……小夜子、もう入れたい」
「……はい……わたしも……ずっと……欲しかったから」
小さく返る声は、やや上ずっていた。
けれど、拒む響きはどこにもなかった。
理人は無駄な動作をせず、素早くズボンとブリーフを脱ぎ捨てる。
下半身だけを露出した、どこか滑稽で、しかし奇妙な現実感のある姿。
だが今、その裸身を見つめる小夜子の目に映るのは──圧倒的な“彼だけの存在”だった。
理人の手が、そっと彼女の足に触れる。
その熱が伝わっただけで、小夜子の身体はわずかに跳ねた。
理人は、小夜子の腰に手を添え、そっとパンティの股間を指で引き寄せる。
やわらかな布がずらされると同時に、その奥に隠された熱と湿り気が、空気に触れた。
熱く脈打つ理人のものが、小夜子の割れ目にそっとあてがわれる。
その瞬間──
「っ……!」
粘膜同士の接触に、小夜子の肌が細かく震えた。
「……もう……早く……来て……」
彼女の声はかすれて、それでも甘い。
「うん、入れるよ……」
理人はゆっくりと腰を沈めた。
──ヌプッ……という感触。
控えめな入口が押し広げられ、熱が伝わってくる。
「……っ、あぁー……っ!」
小夜子の喉から、抑えきれない喘ぎが洩れる。
理人はその狭さ、奥に続く感触に思わず息を詰めた。
(……さすが名器だ、小夜子の……この締まり……)
まるで意志を宿しているかのように──
小夜子の膣の内側が、理人の肉棒を吸い寄せ、包み込んで絞り上げる。
「……小夜子の中……すごい……まるでオレのこと、離したくないって言ってるみたいだ」
理人が低くつぶやくたび、小夜子は恥ずかしそうに目を伏せながらも、しっかりと理人の背中に腕をまわす。
「理人様の……動きが……やさしくて、でも深くて……ううん、もう……気持ちよすぎて……」
ゆっくりとした律動。
粘膜同士がやさしく触れ合い、きゅっと吸い合っては、また離れていく。
そのたびに、彼女の腰が小さく跳ね、息が震えた。
理人の動きは乱れない。
まるで彼女の反応を確かめるように、ひとつひとつの繋がりを慈しむように、深く、ゆっくりと──
「小夜子……ずっと、こうしていたい。
身体だけじゃなく、心まで……全部、繋がっていたい」
「……わたしも……」
ふたりの肌がふれあう部分から、熱が伝わり合い、重なってゆく。
静かな空気のなか、ふたりの呼吸と、淡く響く濡れた音だけが、時を刻んでいた。
やがて──
「体勢、変えてもいい?」
「……はい」
理人はそっと小夜子を抱き起こした。
そのまま、身体を引き寄せるように膝を折り、彼女を自分の太ももの上に座らせる。
向かい合ったふたりの視線が交わる。
「……小夜子はゾクゾクするほど綺麗だな」
「……そんな、見ないで……恥ずかしい……」
「見たいんだ。恥ずかしがる小夜子も、愛おしいから」
小夜子は理人の肩に額を預けると、そっと動き出した。
自ら角度を調整し、理人の奥深くまで自分を沈めていく。
「んぁっ……また……入ってきた……っ」
対面座位──ふたりの心音が、ぴたりと重なる距離。
抱き合ったまま、揺れる。
深く、ゆっくりと。
小夜子の脚が理人の腰に絡み、唇が、肩に、首に、そっと触れていく。
「……好き、です……理人様……好きで、好きで、どうにかなりそう……」
「……オレも……小夜子が好きだよ」
理人は、小夜子の身体を優しく引き寄せ、その豊かな胸元に顔を埋めた。
柔らかく、しっとりとした感触。
肌のぬくもりと、ほんのり甘い香りが鼻をくすぐる。
「……んあっっ……たまんないや…この感触…」
頬で確かめるように押し当て、唇で谷間をなぞりながら、ゆっくりと上へ。
ふたつの山の頂に咲いた小さな蕾を、やさしく吸い上げる。
小夜子の身体がぴくんと震えるたび、下腹部で彼女の奥がきゅうっと収縮するのがわかった。
「っ……ん、あぁっ……」
「……それ、中で締められるの……ヤバいっ……気持ちよすぎて、ガマンできなくなる……」
「知りません……わたしのアソコが……勝手に、そうなっちゃうんです……」
理人は、思わず喉の奥で笑いながら、首をすくめた。
どうしようもないほど愛おしい──それが今の、小夜子だった。
「……じゃあ、次は小夜子が……上になって」
「えっ…あっ…はい……」
戸惑いながらも、小夜子はそのまま、ふたりの熱が切れることのないように、腰を浮かせてゆっくりと跨がる。
「いいよ。小夜子のペースで、好きに動いて」
理人の両手が小夜子の太ももに添えられる。
その安心感に背中を押されるように、小夜子は角度を調整し、自らの奥深くへと理人を迎え入れた。
「んぁっ……」
深く沈み込み、完全に重なった瞬間、ふたりの目が合う。
静かに、何も言わずに──互いの存在を確かめ合うような視線だった。
「……これ、すごく……」
小夜子は少しずつ、腰を前後に動かし始めた。
器用な動きの中にも、誠実な愛しさがこもっていて──
理人の胸の奥にまで、じんわりと染みてくる。
「……理人様のが、奥まで……あたってる………」
彼女の瞳がうるみ、言葉を詰まらせた。
理人はそっと手を伸ばし、小夜子の指に触れた。
「……うん。感じてるの、伝わってくる」
その言葉に、ふっと緊張がほどけたように、小夜子の動きがさらに滑らかになっていく。
身体が語るすべての仕草に、彼女の“好き”が込められていた。
角度、リズム、深さ。
そのどれもが、無意識のうちに理人の心の奥を優しく叩く。
声が震えるたびに、小夜子の表情が微かに揺れる。
頬は火照り、視線は霞んでいた。
愛しさが、理人の胸をひどく切なくさせた。
小夜子の動きが、ふわりとやわらかく、滑らかになってゆく。
「……理人様、これ……気持ちいい?」
「うん……小夜子の中、すごい……気を抜いたら、すぐにイッちゃいそうだ」
その言葉に、小夜子はふっと微笑んだ。
「好きな時にイッていいですよ……理人様は何度でも射精できるから…」
そして、自分の感覚を頼りに、少し角度を変えて腰をゆっくりと回す。
「でも小夜子にいっぱい気持ちよくなってほしいから、先にイクのを確認してからじゃないと」
──トクン。
ふたりの呼吸が、また重なる。
理人は、小夜子の胸元が上下に揺れるさまに、ひときわ深く息を飲んだ。
あまりに美しく、あまりに生々しくて。
手が、無意識にその柔らかさに伸びていた。
「……っ、理人様の…手つき……気持ちいいっ…………」
そう囁いた直後、乳房を包み込む手に反応するように、小夜子の腰が小さく跳ねた。
「敏感だね……小夜子の乳首」
「……えぇ………………」
理人は親指と人差し指の腹で、彼女の蕾をそっと愛でる。
小夜子の吐息が、震えながら漏れる。
「……あっ……だめ……そんなふうにされたら……」
彼女の腰が、熱に浮かされたように速く、深く、動き始める。
そのたびに、奥の奥で柔らかな快感が花開いていくのが分かった。
「……も、もう……わたし……っ……」
小夜子は理人の胸に手をついたまま、背中を大きくそらす。
その一瞬、身体中の神経がひとつに結ばれ、感覚が白く弾けた。
「──っ……ぁあ……あぁっ……!」
身体が波打ち、全身が細かく震える。
時間が止まったような静寂の中、ふたりの鼓動だけが響いていた。
ぬくもりと、とけあう感覚と、言葉では言い表せない満たされ方。
その余韻の中で、小夜子はそっと理人に寄りかかり──
彼の胸元に、顔を埋めた。
「……んっ……イッちゃった……ねぇ、次は理人様もいっしょに……」
「……うん、次は、オレもイクよ」
静かに流れる時間。
ふたりの肌が、心が、溶け合っていく。
「……後ろから突きたい。小夜子、ソファにつかまって」
理人の声は低く、少しだけ熱を帯びていた。
小夜子は、ためらいがちに頷くと、静かにソファに手をつき、膝をついた。
四つん這いの姿勢──羞恥と昂ぶりが背中を伝って走る。
その姿を見た瞬間、理人の理性がかすかに軋んだ。
彼はゆっくりと、しかし躊躇なく彼女の後ろにまわり、腰を寄せる。
「んっ……!」
ふたりの身体がまた繋がる。
次第にその律動は、パン、パンと小気味よい音を立てて室内に響いた。
肌と肌がぶつかる湿った音が、まるでふたりだけのリズムを刻んでいく。
「すごい……っ、そこ……っ、あぁ、また……イッちゃう……!」
小夜子の声が、甘く、かすれながら跳ねる。
理人の手は彼女の腰をしっかりと支え、深く、的確に、何度も奥をなぞる。
「……オレも、限界近い……」
彼の息が荒くなる。
全身が火照り、感覚が研ぎ澄まされていく。
「……小夜子、最後は……小夜子の顔を見ながら……キスして、つながりたい」
その言葉に、小夜子は静かに頷いた。
瞳が少し潤んでいて、それでもどこか嬉しそうに微笑む。
「……はい……わたしも、そうしたい……」
彼の想いに応えるように、そっと仰向けになる。
肩までの髪がソファの上にふわりと広がり、白い胸元が静かに上下している。
小夜子は知っていた。
この体勢が、理人にとっていちばんイキやすく満たされる形であることを。
何度も重ねたふたりだけの記憶の中で、心地よさと信頼が染みついた姿勢。
「……小夜子……」
理人の声が、熱を含んで、少しかすれる。
その声音を聞いただけで、小夜子の胸はきゅんと鳴いた。
理人はゆっくりと彼女に覆いかぶさる。
肌が触れ合うと同時に、ふたりの熱が再びひとつになる。
小夜子は腕をまわし、首筋に指を添えた。
「……キス、して……」
囁くような声が重なり、ふたりの唇がゆっくりと溶け合っていく──。
舌と舌が絡まり、甘く溶けるようなキスが交わされる。
その合間にこぼれる唾液すら、官能の一部のように感じられた。
「……小夜子……」
理人は、その美しい顔を見下ろしながら、もう一度唇を重ねた。
快感に染まる瞳、薄く汗ばむ額、少し開いた口元──
すべてが愛おしく、彼の心を強く締めつける。
「あっ、あぁっ……! すごい……っ、理人様……!」
「くぅっ……小夜子……もう、イキそうだ……!」
そして彼は、彼女の胸に顔をうずめた。
その柔らかさと香りに包まれながら、腰を打ちつける。
「……もう、小夜子の中……オレの形に、すっかり馴染んでるな」
囁きかける理人の声は、どこかくすぐるような甘さを帯びていた。
「……はい……ちゃんと……理人様のかたち……覚えてます……」
小夜子は恥じらいを滲ませながらも、確信を持った声音で答える。
彼に触れられるたびに、深く刻みこまれていく感覚。
自分の奥が、彼を待ち受けるように、ぴたりと包み込むその不思議な一体感。
「……わたしのアソコは……理人様専用ですから……いっぱい……感じて、いっぱい気持ちよくなってください……」
その言葉に応えるように、理人の動きがわずかに変わった。
深く、強く、熱が増していく。
濡れた熱の結び目からは、甘く粘るような音がふたりの耳に届く。
理人が低く呻いた。
「……小夜子は、オレだけのものだ」
そう思うたびに、優越感がじわりと湧き上がり、理人の気分はますます高まっていった。
男たちの憧れ──誰もが手の届かぬ存在として見上げる、人気No.1女子アナの小夜子。
そんな彼女が、いまこの瞬間、誰でもない「理人」だけを見つめ、声を震わせ、すべてを委ねている。
その事実が、理人の胸に抗いようのない高揚感をもたらしていた。
その奥で、小さく震えるように小夜子が応じる。
「……っ、あ……中で……っ……」
彼女は息を詰めながら、目を見開いた。
内側で膨らむ圧──それが彼の昂ぶりだと、身体が先に察してしまう。
「……中で……また、大きく……なってきてる……」
その囁きは、戸惑いと期待が入り混じる、どこまでも純粋な声だった。
ふたりは、たがいの身体と心の高まりを確かめながら、まるで最後の一滴まで重なろうとするかのように──
ただ、ひとつになっていった。
彼の動きは次第に荒く、深く、激しさを増していく。
ふたりの結び目から伝わる濡れた感触が、余すところなく快感を押し上げた。
「……出して……わたしの中に……全部……」
その声は、震えていた。
けれど、それは恐れや不安からくるものではなかった。
むしろ──静かな、確固たる決意だった。
小夜子の頬は赤く染まり、瞳には涙のような光が宿っていた。
彼女は、そっと微笑んだ。
愛しい人にしか見せたことのない、どこまでも穏やかで、どこまでもまっすぐな微笑みだった。
「たとえ何が起きても、あなたの全部を受け止められるって……不思議と、そう思える。頭じゃなくて、心が、身体が……それを望んでるから」
それは恋ではなく、ただの情熱でもなく。
小夜子にとっては、祈りに近い想いだった。
──愛する人の、存在のすべてを受け入れたい。
ただその一心で、彼の中にあるものを、自分という器にすべて刻み込みたいと願った。
「理人様の……精子、欲しいの」
声はやわらかく、けれど抗えないほどの重みをもっていた。
言葉にならないほどの感情が、部屋の空気を震わせる。
「……そんなふうに、思ってくれてたんだ……」
理人の瞳にも、熱いものがにじんでいた。
彼は、ただ抱いていたのではない。
愛されていたのだ。心の奥の奥まで──。
「……わかった。全部出すよ、小夜子の中に……」
ゆっくりと、ふたりの呼吸が重なる。
鼓動が、時間を追い越すように速まっていく。
やがて、その瞬間は、まるで光の粒がはじけるように訪れる──
「うあぁっ、出るっ!!」
「はぁっ…あっ!…あぁーーっ…イク…イク、イッちゃうっ!!」
小夜子は目を閉じ、身体の奥深くまで注がれる想いを──
ただ「熱」ではなく、「証」として──彼女はすべて、自分の中に抱きしめた。
そしてその瞬間、小夜子は心から確信する。
これは、ひとつの行為ではなく──
ふたりが、「未来」へと、静かに手を伸ばした証そのものだと。
第2幕・後半:月下の囁き ― 兆しの予感
理人の腕に抱かれたまま、静かに肌を重ねていた小夜子が、小さく息を吐いた。
それは満ち足りた余韻とも、不安を滲ませる揺らぎともつかない、かすかな呼吸だった。
「……ねぇ、理人様」
「ん?」
「……ちょっとだけ、気になる話があるんです」
彼女は理人の腕に、そっと指を這わせる。やわらかなぬくもりが伝わる距離。
「“お月見の会”とは別に……天童さんの主催する飲み会に、呼ばれたの」
理人の表情に、微かに緊張が走る。
「局の編成部長から、“顔を出しておいたほうがいい”って……やんわりと、そう言われて」
“お月見の会”──それは小夜子を囲む建前上の親睦会。実際には、スポンサー接待や芸能界の“しきたり”が交錯する非公式の夜会だ。
だが、その裏の事情を知る理人にとって、天童が主催する別枠の会合は異例だった。
(彼には、昔から良くない噂が絶えない。なのに一度も表沙汰にならないのは、所属事務所の威光と影響力のせいだと言われている。その肩書きを笠に着て傍若無人な振る舞いをしても、スタッフたちは口止めされて泣き寝入り。…今じゃ、局の編成幹部まで、言いなりってことか…)
「……それ、いつ?」
「明後日。都内の高級ホテルのスイート。参加は、ごく限られたメンバー……って聞いてる」
「“限られた”って、他に誰が?」
「わたしの他には局内の女子アナ数人。それと、番組に出演してるアイドルの子たちも……たぶん」
理人は短く息を吸った。
「当然、まひるさんも?」
小夜子は小さく頷く。
「ええ。天童さんの飲み会には、まひるさん……常連みたいですから。
それでも今回は、“推薦枠”でわたしの名前が入ってたって」
「人気者だから、当然だな」
「でも……気が重いの。わたしが出ることで、まひるさんの立場を脅かすんじゃないかって……」
理人は、黙って彼女の肩に手を置いた。
「もし局側が命令のように仕掛けてきたなら──無理に応じる必要なんてない」
「……でも、断れなかった。“これからのキャリアを考えて動け”って、編成部長に言われて……」
その声には、迷いよりも決意がにじんでいた。
そして──ほんのわずかな震えも。
「……社員の立場じゃ拒めないこともあるのはわかるよ。」
「それに、“何も起きない”って確信があるの。……わたしには、“チャーム”があるし。誰にも触れられないわ。理人様以外は」
理人の瞳が揺れる。
小夜子に宿る“チャーム”──彼女の持つ強力なフェロモンは、他の男を遠ざけてきた。
彼女に触れようとした者は、理性を失い、果ててしまう──ハッピーによってその効力を中和できる理人以外は。
「……確かに、それがずっと小夜子を守ってくれてた。けど、天童は何か……違う気がするって、ハッピーが言うんだ」
「違う?」
理人は少しだけ目を伏せ、そして静かに問うた。
「天童さんとは……まだ、会ったことないよね?」
「ええ。これが初めて。まったく面識がないわ」
理人は深く頷く。そのことが、逆に不安を強くする。
「小夜子。何かあったら、迷わず逃げるんだ。誰に遠慮も、義理もいらない。自分を一番に守って」
「……ええ」
彼女は静かにうなずいた。けれど、その瞳には見えない霧のような不安が漂っていた。
「……わたしの身に何か起こると?」
「……いや、そうなる前にオレが止める」
その言葉に、小夜子がそっと顔を上げる。
チャーム──それは彼女の誇りであり、孤独の象徴でもあった。
それを超えて彼女に触れられた、唯一の男──理人。
だからこそ、彼を信じられた。
「……なんだか、怖くなってきた……」
彼女の声が、風のように細くなる。
理人は、彼女の手を包み込み、ゆっくりと力をこめた。
「何があっても、オレが守る。絶対に」
「理人様……」
「だから、オレのことを信じて」
小夜子は、彼のまなざしをじっと見つめ──そして、うなずいた。
「……信じてます。理人様を」
それは願いであり、祈りでもあった。
理人はワイシャツのボタンを留め直しながら、ふとつぶやいた。
「──そうだ。今夜、姫川まひるさんと飲みに行くことになった」
小夜子が、ぴくりと動きを止める。
さっきまで理人の腕の中で蕩けていたはずの彼女が、上半身をゆっくり起こして、じっと彼を見つめた。
「……まひるさんと?」
「誤解しないで。天童大牙の情報を引き出すためだから」
理人は、あくまで冷静に言った。
が、小夜子のまなざしは、どこか鋭さを含んでいた。
「誤解なんて、してません」
「そう?」
「ええ。まひるさんは……美人だけど、理人様のタイプじゃないと思いますから」
「……わかってるんだ?」
「もちろんです」
小夜子はにこりと笑った。
ただ、その笑みにはほんのわずかな火花が見え隠れしていた。
「……だって、理人様は──おっぱいフェチ、ですもんね?」
その一言に、理人は思わず咳き込んだ。
「……って……はっきり言われるとテレるな……」
「事実でしょ?」
小夜子はいたずらっぽく、胸元のシャツを少しだけ開いてみせた。
さっきまで理人に愛されたその場所が、まだほんのりと紅潮している。
「……でも、心配ですわ。まひるさんが、どんな誘惑をしてくるか……」
「誘惑って……」
「わからないでしょ?そういう気まぐれで、理人様の気を引こうとするかも」
小夜子は唇を尖らせ、理人のネクタイを掴んで引き寄せた。
「……まだ、時間はありますわ」
小夜子の声は、低く甘やかで──どこか熱を含んでいた。
理人のシャツのボタンにそっと手をかけながら、いたずらっぽく微笑む。
彼女は理人をソファに押し戻すと、そのまま膝をついて彼の前に座る。
視線は熱を帯び、まるで獲物を慈しむような優しさと、確かな欲望をその奥に湛えていた。
「……さっきまで、あんなにしたのに……まだ理人様の、こんなに……」
彼の昂ぶりにそっと指先が触れると、小夜子の頬がほんのりと染まった。
自分の手の中で熱を持つその感触に、彼女はわずかに息を呑む。
「……ふふ。嬉しい……」
いたずらっぽく笑ったかと思えば、ゆっくりと身体を倒して、彼の下腹部へと顔を寄せる。
柔らかく伸びた長い舌が、その存在をやさしくなぞるたびに、理人の指先がかすかに揺れた。
湿った音が控え室の静けさに、ひそやかに響く。
小夜子の髪が肩からふわりと垂れ、理人の太腿に触れたとき──
その動きは、まるで愛おしさで満たされた儀式のようだった。
「……次は……わたしのおっぱいで……いっぱい、気持ちよくなってくださいね」
顔を上げ、潤んだ瞳で理人を見上げながら、彼女はそっと囁く。
ほんの少しの不安と、たっぷりの独占欲と愛しさが入り混じった──
まさに、小夜子という女性のすべてを物語る表情だった。
理人は苦笑しながら、彼女の背をそっと撫でた。
「……まったく、油断も隙もないな」
「誘惑されてもヘンな気持ちにならないように、もっと抜いて、理人様の精巣を空っぽの状態にしないと。」
その言葉とともに、ふたたびふたりの距離は──ゆっくり、熱を帯びて近づいていった。
──そしてそのころ
都内某所、VIP専用の高級ラウンジ。
フロアにはグラビアアイドル、読者モデル、バラエティ崩れの“元アイドル”たちが数人。
ソファにも床にも、女たちがしなだれかかり、男たちは酒と煙と笑いの渦にいた。
重厚な革張りのソファに胡坐をかき、堂々と肘をついているのは──天童大牙。
元アイドルグループ出身で、今や芸能界の頂点を張るバラエティMC。
笑いと毒舌と“人間関係”でのし上がった男。
「昨日、ナオトが飲み屋でナンパしとった女、まさかの俺の元カノやってん。アイツ、ほんま人のシケた飯に箸つけよるで、ははは!」
「いや天童さん、それ聞いてたから引いたんですよ、俺!」
「やりますなぁ天童さん、オンナも芸人も全員手玉ですやん!」
編成幹部のひとり、飯田が太鼓持ちのように笑いながらグラスを掲げた。
隣にいるのは、大牙の後輩アイドルやフリーの構成作家たち。
誰もが媚びた笑顔を浮かべ、媚を売り、気をつかう。
(この場で“浮かない顔”をした瞬間──次のシーズン、呼ばれない)
それが、この空間の空気だった。
女性たちは誰もがタイトドレスやボディラインを強調した衣装。
胸元をさりげなく見せ、笑顔で酒を注ぎ、天童の膝に乗るようにして甘える。
「天童さん、今日も渋いですぅ。最近また肌、ツヤ戻ってません?」
「おまえ、どこ見とんねん……ははっ、しゃーないな、ちょっとキスぐらいしといたろか」
女の顎をぐいっとつかみ、唇を押し当てる。
女は営業笑顔でそれに応じた。
だが──大牙は苛立っていた。
(……これちゃうねん。これは“商品”。こっちは“商売”や)
抱いても、キスしても、酔っても──“火”が起きない。
むしろ、心の奥に沈んでいくような虚無。
(ホンマに欲しいのは──こっちが牙を剥けば本気で抵抗してくる、そういう“生きのいい獲物”や)
そんな大牙が、再びグラスを口に運びながら、さも当然のように訊いた。
「で? 飯田。次の番組打ち上げ、あの……何や、小夜子ってアナ、来るんか?」
「もちろんですよ! 輝月小夜子、ちゃんと招待してます。今ノリに乗ってますしね。帝都テレビの顔ですよ!」
「おう、よう言うた。……あの女、いい目ぇしてるやろ? 一筋縄ではいかん感じ。ああいうの、ええわぁ」
グラスの底に残ったウイスキーを一気に飲み干すと、重い息を吐いた。
「──俺が欲しいのは、“物”やない。
安く手に入るモンに、価値なんかあるかいな。
お高くとまっとる女が、俺の女になったら、どんな気持ちになると思う?」
周囲が、一瞬だけ空気を止めた。
だが誰も、大牙に「それはまずい」と言えない。
飯田が気を利かせて笑う。
「いやぁ、天童さん、言うことが違いますわ……!
そりゃ、小夜子が“屈服”したら──業界、震えますよ」
「せやろ……せやろがい……!」
天童は高らかに笑い、傍らの女の太ももを平手で叩いた。
女は痛みに顔をしかめながらも、作り笑いを浮かべて頷いた。
(──あの女が、俺の膝の上で震える姿。
あの勝ち気な目が潤んで、許しを請う声を……見てみたい。聞いてみたい)
内なる獣が、喉奥で低く唸った。
血の中に、欲望という名の熱が滾りはじめる。
(次の“宴”が、楽しみや)
天童大牙は、完全に自分が“世界の中心”だと信じていた。
芸能界も、女も、ルールも、すべては“自分の物”。
だからこそ、その夜の宴は、彼の“崩壊”の序章でもあった。
誰も、まだ気づいていなかった。
この“王”の座の下には、すでに罠が──
静かに、だが確実に、張り巡らされ始めていたのだ。
・・・・・・・・・
ベタな関西弁が面白過ぎたかもしれない。
waldo
2025-07-24 07:54:25 +0000 UTC