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にしまきとおる Tohru Nishimaki
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夢の楽園、大人の遊園地①

プロローグ:「墓前にて」


初夏の風が、柔らかく木々の葉を揺らしていた。

榊優馬はシャツの襟元を指で緩め、隣を歩くエマをそっと見た。

今日は、エマの亡き夫――ユリカの父であり、エマがかつて愛した人の命日。

二人きりでこの地を訪れるのは、初めてだった。


「来てくれて…ありがとう、ユウくん」


エマはそう言って、小さな花束を墓前に捧げた。ラベンダーの香りが、微かに漂う。


「当然です。…オレはエマさんと、ご主人に、ちゃんと向き合いたかったから」


「…あなたがそう言ってくれて、救われる気がする」


エマは墓石に手を添え、微笑んだ。その表情には、どこか懐かしさと、ほのかな迷いがあった。


「オレは…愛してます。エマさんも…ユリカも、両方とも」


ユウの声は真剣で、しかしどこか震えていた。

エマは静かに目を伏せ、指先でラベンダーの花弁を撫でる。


「わたし…ずっと、自分を罰してきた気がするの。

若くして恋をして、愛して、子を産んで…そして、夫を亡くして。

ずっと、“あの人の妻”として、娘の母として生きてきた。でも――」


彼女は、ユウのほうへ顔を向けた。

金髪が初夏の陽に揺れて、光のヴェールのようにその横顔を包んでいた。


「あなたが“わたし”として見てくれた時、心のどこかが…ほどけたの」


ユウは唇を結び、ゆっくりと跪いた。墓前に両手をつき、深く頭を下げる。


「…彼の代わりにはなれません。でも、オレは…あなたを、そしてユリカを、一生愛して守る覚悟です。

だから、どうか……生きてください。エマさんとして。笑って、欲望して、愛して。

それが、オレの願いです」


エマの瞳が潤んだ。

この若者の純粋すぎる祈りが、あまりに眩しくて、罪深くて――それでも、救いだった。


「ユウ…あなたって、本当に、どうしようもなく愛おしい人ね」


彼女はしゃがみこみ、ユウの頭をそっと抱きしめた。

頬が触れ合い、吐息が混じる距離で、誰にも聞こえない声で囁く。


「…じゃあ、これからは、わたしも“わたし”に戻っていいかしら」


「……もちろん」


「ユウ。あなたと出会って、恋して、抱かれて……わたし、死んだ人に後ろめたくなるくらい、生きてるって感じるの」


「……それでいいんです。エマさんが“生きて”いてくれるなら」


やがて、二人は立ち上がり、しばらく墓前で手を合わせた。


風がラベンダーの花びらをさらい、ふたりの間をくるりと舞っていく。

それはまるで、静かな祝福のようだった。


そして車に戻る頃には、もうふたりの表情には、あの影のような迷いはなかった。

エマがそっとユウの手を取り、指を絡めて言う。


「…ねえ、ユウ。帰ったら……また抱きしめて。静かに、強く。わたしを確かめて」


「はい。何度でも」


車のドアが閉まり、ふたりを包む静けさのなか――

愛は静かに、しかし確かに燃えはじめていた。




第一部:「大人の城、迷い込むふたり」

午後の陽射しが車窓から差し込むSUVの中。

亡き夫の墓参りを終えた帰り道、エマは助手席で豊満な乳房に食い込むシートベルトをそっと直しながら、静かに景色を眺めていた。


「ねぇ、ユウくん、あれ見て!……あのお城みたいな建物なにかしら!?」


「え? ああ……あれは……」


ユウはハンドルを握ったまま、視線をそらした。



「……いわゆる“ラブホテル”です。もしくは“ファッションホテル”って言ったりもしますけど」


「ラブ……って、カップルが行く場所?」


「はい。そうです。あの中には、一般的なホテルにはない、ユニークな外装や内装、シャンデリアとかジャグジーとかが…あるらしいです…」


「面白そう。入ってみたいわ」


「えっ?」


「だって、わたしたちもカップルでしょ?」


ユウの足が思わずブレーキをかけそうになった。


「ええ、まあ……でも……エマさん、そういうとこ行ったことないですよね?」


「もちろん。だからこそ、気になるのよ。あんなメルヘンなお城みたいな建物に、

大人たちがわざわざ入ってくって……文化的にも興味深いわ」


「文化的……」


「ユウくん……ちょっと照れてる?」


「い、いや……照れてなんか……でもオレも正直、一度も入ったことないので、ある意味ちょうどいいです。取材のつもりで、行ってみましょうか」


「取材ね。そう、取材。じゃあ、行きましょう。お城の秘密、解き明かさなくっちゃ」


「ねぇホテルの名前が見えたわ、オテル・ド・ベルサイユ、ですって!」

「絶妙に不敬な感じがしますね」

「これは絶対に行ってみなくちゃ」


エマの興味津々な様子に押されるように、ユウはウインカーを出した。

SUVが緩やかにお城のような建物のゲートをくぐると、建物の中は一瞬で空気が変わった。



パネルに並ぶ無数の部屋の写真。

「露天風呂付き」「天蓋ベッド」「回転ベッド」「星空天井」……。


「うわぁ……部屋、選べるのね。どれもキラキラしてるわ」


「初見殺しですね……どれにします?」


「これ。“ナポレオン・スイート”って書いてある」


ユウがパネルにタッチすると、「ピンポーン」と音が鳴って、奥の扉が開いた。



部屋に入った瞬間、ふたりは無言になった。

天蓋ベッドにシャンデリア、全身ミラーにLED間接照明、バスルームにはグラス張りのジャグジー。

明らかに“そのための場所”なのに、どこかファンシーで高級な造り。


「ねぇ……ここって、ほんとに遊園地みたいね」


「ええ。夢と欲望の国ですね、これは……」


エマはクッションだらけのベッドに座り、周囲をぐるりと見渡す。


「キラキラしてる……清潔だし、意外と品がある。

あっ、バスルーム、広い!見て、ユウくん!」


彼女が立ち上がり、スカートの裾を揺らしながら浴室に駆けていく。

その後ろ姿に、ユウは思わずゴクリと喉を鳴らした。


「ちょっとお湯、溜めてみようかしら。見て、この蛇口……うふふ、何このオブジェ。パリのホテルよりも派手かも」




「じゃあ、溜めますよ。さっきクルマの中で……あの、汗かいたし、オレのせいでエマさんをベトベトにしちゃったし」


「……うん、そうね。身体中、ユウくんの匂いで包まれてるみたい」


「すいません。初めてのカーセックスに、つい興奮しちゃって」


「いえ……わたしも。とても刺激的な体験だった」


ふたりの視線がふと絡み、熱が走る。


「でもまずは、シャワーね。ちゃんと洗って、すっきりしましょ」


「了解。……じゃあ、準備してきます。…“取材”は、これからが本番ですね」


「ふふ……記者さん、今夜のレポートは濃厚になりそうね」



バスルームに響くお湯の音と、心地よい緊張感。


ふたりの“文化体験”は、やがて本物の愛の交歓へと変わっていく。



to be continued...)



夢の楽園、大人の遊園地①

Comments

背景だけのイラストがあるのも良い所があるような気がしました。

waldo


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