一と七の境界 3
Added 2024-02-26 23:15:21 +0000 UTC「灰色って何色なんだろ」
「灰色では」
「そーゆうことじゃなくて、青ってもネイビーとか水色とかあるじゃん」
「ネイビーはネイビーだし水色は水色では」
「お前ほんと急に脈略無くIQ下がるよな」
「そもそも脈略無く灰色って何色とか言い出したのそっちじゃん」
「脈略、無くないよ」
「ギターに灰色要素ある?」
「や、ギターじゃなくって歌の方、なんか灰色がどうとか歌ってたじゃん、今」
「歌ったっけ」
「記憶力」
「雰囲気で歌ってるから」
「嫌いじゃないが」
「いうてあたしもそんな正確に覚えてないけどさ、なんか、青でも透明でもない灰色みたいな」
「そんなん歌ったっけ。今?わたしが?」
「今じゃなきゃ言わねーっつーの。脈略」
深夜一時少し前、駅の構内にあるTSUTAYAとコンビニは夜通しやってて、その前の通路だけ夜通し明るい。
小便とゲロとタバコと酒とケンタッキーとハンバーガーの匂いを雑にかき混ぜて悪い部分だけ抽出したみたいな臭いがいつもしてる。
一時期はここで歌う度にお香とか炊いて浄化を試みたけど無駄すぎて諦めた。
10代の頃はちゃんと曲作って、ちゃんと歌詞も書いてやってたけど、なんか、自分がやりたいことってそういう事じゃないなって思うようになって、曲も詞もアドリブでその時に気分でテキトーにやるようになった。
だって、どんな曲練り込んだってそれっぽい詞書いたって翌日には気分も変わってるし、毎日のように同じ詞の同じ曲歌ってたら普通に飽きるし「今こういう気分じゃないんだよな」ってなるし、なのにお客さんに求めれて応えないと愛想悪いみたいな険悪な雰囲気なる。
だからじゃあもう詞も曲もなしで、テキトーにアドリブ、その曲はその時その瞬間その場所にしかありませんみたいなほうが本当の事だけを音に出来る気がした。本音言えば単に曲を作り込むとか詞を覚えるとかめんどすぎたっていうのもある。
ただ「今この瞬間全然そういう気分じゃないのに、求められてそれを歌う」みたいなのは死ぬほど嫌だった。それだけは本当。
ライブに出させてもらう時は絶対リハでやった曲本番でやらなかったし、ブースの人にイヤな顔されることもあったけどそういう箱はもう二度と出なかった。
別にそういう種類のライブハウスをどうこういう気もなくて、もう単純に相性が合わなかっただけ。
「灰色って色々あるじゃん」
「あるね」
「例えばあたしが今寄りかかってるこれ、このぶっとい丸い柱の下50センチくらいの部分灰色だけど、階段の灰色となんか違うじゃん。あと配送トラックの鉄っぽい部分とか。
「うん」
「グラデーションとかそういう意味とも違うくて、なんか別の灰色って感じする」
「ふむ」
「それこそ水色と緑くらい違う気がする」
「緑どっからきた」
「今階段登ってった人の上着」
「モッズコートの人」
「それ。水色とモッズコートの薄い緑って同系色とは言わんやん」
「でも、まあ、どっちも煤けた薄味って意味では同系と言えるかも」
「うーん、チョイス間違えた。どぎつい口紅の赤とか」
「うん」
「水色とは違うじゃん。モッズコートとも違うじゃん」
「せやね」
「そのくらい違うって思うわけ」
「ふうん」
数時間ギター弾いて歌った後は放心状態に似た独特の疲労感があって、脳がじんじんして頭がうまく働かなくなる。
彼女が言ってる言葉はなんとなくうっすら理解できてると思うけど、精度は30パーくらい。正確に拾っていこうみたいなガッツ沸かない。億劫。
「この灰色はどの灰色なんだろって」
「どの灰色が?」
「この灰色」
「どれ」
「今この瞬間ってゆうのかな、あたしがここにしゃがみこんでぼんやりビール飲んでて、お前がギター弾いて、謎の散文詩みたいな言葉撒き散らして、気付いたら終電終わってて」
「まだ終わってないよ」
「でもさっき終電のアナウンス」
「上りはね。下りはまだ次くらいまであるよ」
「お前さ、脳幹だけで情報処理して喋るのやめよ?」
「自分だってするくせに」
「あたしは脳梁までは最低限使用するから」
「誤差やん」
「まあ」
「で?」
「でって?」
「灰色」
「何の話だっけ」
「灰色」
「ああ、そう。灰色。今この瞬間が灰色って感じある。あたし的に」
「単に深夜の駅の構内でコンクリートに囲まれてるからとかじゃなく?」
「なんか、無性に否定したいが…否めない。言われてみれば単に視界が物理で灰色なだけかも」
「うん」
「でもなんか、同じここでも良い感じの灰色の時とびみょい感じの灰色の日あるじゃん」
「あるか?」
「あるじゃん」
「あるかも」
「な」
「ある気がしてきた。今日はどっち?」
「どっちでもない」
「普通の灰色」
「普通ってのともちょっと違う、かな」
「ようわからん」
「ギター弾いてていいよ」
「飽きたってゆうか、いい加減指痛い」
もう弾かねーぞアピール兼ねてケースの上にギターを置く。
「灰色について話そうや」
「や、別にあたしもそんな深い意味あって言ったわけないけど」
「なんでもいいよ。朝に生まれて夜に死んだ者たちへの供物」
「夜に生まれて朝に死ぬ者たちへの供物は?」
「わたしたち」
「食われたくねぇな。食われるら丸呑みが良い」
「丸呑みって生きたまま胃の中で溶かされるんだよ最悪じゃん」
「じゃあどんなのがいいの?」
「縦2m横2mくらいの透明な膜みたいなのがあって、そこにバーンってしたらその瞬間消えるの」
「どこに?」
「どこにも。ただパって消えるだけ」
「お前酒飲んでないのに下手な酔っぱらいよりガンギマリ気味な事唐突に言い出すとこあるよな」
「音楽は麻薬」
「まあ、せやな」
「供物として捧げられてやるんだから最期くらい慈悲深い感じでお願いしたい」
「まあ、わかるが」
「てか何の話?」
「灰色」
「なんでこうなった?」
「あたしたち夜の供物だから」
「ああ」
「みずきは恋人とか作んないの?」
「あんたみたいに夜の供物になれと?物理で」
「棘あるんだよなぁ」
「や、別に他意はないよ。わたしだって付き合ったりすることあるよ。すぐ別れちゃうから一々報告するまでもないかなってだけ」
「まじか。今まで一度もそうゆう話してくんなかったじゃん」
「だってほんと毎回付き合ったに数えていいかわかんないくらい秒で別れるから」
「何人くらい?」
「カナよりは全然少ないよ」
「あたしがヤリマンみたいじゃん」
「ちがうん?」
「否めないが」
「変な意味に取らないで欲しーんだけど、彼氏云々とかよりカナとこうしてる時間のほうが心が潤うってか、なんだろ、潤ってもないな…むしろ焦燥感…なんだろ、滾る感覚ってゆうか、欠乏感?」
「わかるようなわからんよーな」
「なんか、わたしにとって彼氏とかって、別にいてもいなくてもどっちでもいいんだよ。あればまあ多少ありがたい、なくても別に困らない、みたいな、そんくらいの感じ」
「ふむ」
「カナみたいにボワァアアって燃え盛って捨てられたり飽きられたり捨てられたりするようなそういう恋愛観に憧れる気持ちはあるよ」
「リスペクト1ミリも感じないし捨てられるニ回言ったが」
「大事なので」
「まあそのくらいの頻度で捨てられてるのも事実やし」
「それでもまた猪突猛進みたいに新たな恋にGOしますやん、あなた」
「しちゃうなぁ」
「性懲りもなく自爆テロしまくれるそうゆうガッツすごいなーって」
「大分ディスられてんなぁって思うけど、まあそれはとりまおいといて、お前枯れてんよなぁ」
「まあ、枯れてんのかな」
「干物」
「干物女子って何歳から?」
「さあ。知らんけど30歳くらい?」
「まだ22やで」
「あっとゆー間だよ」
「そうなんだろうね」
「悲しくなるね」
「誰のせいやねんて」
「すまん」
「なんかさ、ゲームあんましないんだけど、たまにゲームでさ、セーブデータに日付あったりするじゃん。最後に遊んだ日」
「あー」
「その最後に遊んだ日から1年とか経っててさ、ついこないだ遊んだような気がするのに、でも1年やってないんだよそのゲーム、実際どこまで進めてどこでセーブしたのかも覚えてる」
「うん」
「どうしても続きやる気になれなくて、起動するのもめんどくさくて、久々に気まぐれに起動してみたら既に1年経ってて、えー…あれからもう一年?早すぎない?みたいな」
「わかるようなわからんような」
「カナと知り合った頃は毎日がハイライトみたいな感じでさ、なんか、一週間が永遠みたいに長かった」
「分かる気がする」
「一ヶ月後とか想像つかんくらい一週間が長くて、一ヶ月だけで単行本10巻分くらいいけそうな」
「盛りすぎやろって思ったけど、でも、まあ、実感としてそのくらいはあった気がする。凝縮されてた。密度エグかった」
「じゃん」
「うん」
「このままどこまでいくんだろ?って思ってたら、ご覧のありさまにござんすよ」
「ご覧の有り様なぁ」
「どこまでも行けちゃう気がしたんだけどな」
「海」
「海行ったなぁ、夜通しで二人でオールして、そのまま電車で江ノ島まで」
「行ったなぁほぼ死んだ状態で」
「もう行きの電車で既に死んでたよな」
「でも覚えてるよ。江ノ島の駅についてドアが開いた瞬間夏の海の匂いめっちゃして」
「江ノ島、海汚すぎて思ってたのとなんか違ったけどなw」
「まーね。でも、なんか、あの日は青春って感じした。夜通し遊んで、朝までここで話してさ、なんか、ノリでどうせ二人共今日仕事ないし、じゃあ行っちゃう?行っちゃうか!みたいなノリでさ」
「覚えてる覚えてる。若かったなあ。体力無限にあった」
「死んでたが」
「まあ仕事行ってそのまま朝まで歌ってそっから
だかんねw」
「カナが謎テンションで水着現地調達して一人で泳ぎ行っちゃった時どうしよーかとおもった」
「ごめんてw」
「わたしは肌のアレあるから海入れなかったけど、カナが割りとがちでクロールしだして、チラチラこっちみてんの普通にウケたw」
「変なとこばっか覚えてるよなお前w」
「毛が若干はみ出してた」
「まあ、未処置で徹夜で水着も海の家の売店で買った安いやつだったからな…てかその場で言えよそれ」
「いや、ああいうのって指摘してあげるのが優しさなのか、気づかないフリしてあげんのが優しさなのか、みたいなとこあんじゃん」
「いや、毛は言えよw普通にw全く無自覚だったんだけどw」
「知らぬが仏いいますやん」
「じゃあ今更言うなよww墓場まで持ってけよww」
「それな」
「それなじゃねーしw」
「綺麗だなって思ったんだよ」
「あたしのハミ毛?」
「断じてちがうwww」
「みずきも浜辺に打ち上げられた海藻みたいで綺麗だったよ」
「綺麗な要素ある?w海藻」
「一緒に泳げなかったのは若干悔やまれるっていうか、どうしようもないんだけどさ」
「や、あたしが海入れないからって遠慮されんのとかもっと無理だし、一緒に海行けただけで最高に青春!って感じしたし、卑屈な感情1ミリもないよ」
「なんか、なんだろ、あたしが海の中から見た浜辺のみずきの姿がさ、なんだろ、逆の視点で見せたいなって、つまりお前が水の中で、あたしが浜辺で、そうゆう」
「うん」
「同じ場所に二人で行ってもさ、なんか、全部完全には共有できないじゃん」
「まーね」
「だから、なんか近未来SF的なロストテクノロジー的なやつでさ」
「未来なのか旧文明なのか」
「や、そうゆう細かいことどうでもええんやて」
「ごめん」
「一緒に過ごした時の分だけでも、お互いの記憶、共有できたら、お互いの違う視点、見れるじゃん。あたしがみた、みずきがみれない景色、みずきがみた、あたしには見つけられない情景、そうゆうの」
「うん」
「たまにさみしいなって思ったりする」
「急に乙女じゃん」
「常時1000%乙女だが」
「たまにさみしいなって思ったりする」
「みずきはないの?」
「わたし?急に振るじゃん?」
「ないの?」
「んんんんん…どういう答えを求められてんの?今」
「率直な意見」
「安直じゃないやつ?」
「しっかりめで」
「んん…」
カナのこういうところ、正直少し嫌い。
自覚あってやってるならまだギリこっちも駆け引きで対応できるけど、彼女は完全に無色透明でこれやってくるから、たまにしんどい。
さみしいに決まってるじゃん。とか。言えるわけないじゃないですか。
でも濁す感じで嘘ついても、誤魔化したって事だけ秒で見抜かれて詰問されるじゃないですか。
際どいライン取りしてみても、この子、局所的に絶望的に愚鈍だから察してくれないじゃないですか。
限られた手札のどれを切っても不正解、みたいな。
別にわたしを困らせようとしてこういう事言ってくるわけじゃないって理解ってるから、余計困る。
安直なやつでいいならいくらでも捏造できるけど、しっかりめでと言われちゃうと、ほんとしんどい。ずっとIQ3で会話してたのに急に突然IQ100底上げ要求される感じ。
「共有しきれないさみしさはやっぱあるよ。そりゃ」
彼女の表情的にタイムアウト。
と感じたから強引にスタートを切る。
うまく乗り切れるかどうかは毎度いつも通り運任せの綱渡り。
「でも人と人が完全に解り合うとか無理じゃん?どっかで割り切るしか無いっていうか」
「や、言うてること分かるけど、でも彼氏とかには思わないんだよ。なぜか。別に。わかるかな、この感覚」
「んん…」
「そりゃ彼氏と会えない日が続くと寂しいとかはあるよ?でも同じ場所行って、一緒に同じもの見て、一緒に過ごして、実際には見てるものも感じてる事も違うんだろうけど、それでいいやって思えるの。彼氏は、なんか、違う星の生命体だからその辺は違って当然みたいな、思える。でもみずきとは少しでも多く重ねたい、重なってたい、みたいな」
ただでさえ追い詰められてドン詰りなのにぐいぐいきますやん…
精神的な壁ドンですかってくらいドンドンきますやん…
「や、うん、わかる、けど。わかる、と、思う」
突然日本語下手になる現象。
情緒と言語能力が連動しすぎ。自分でも嫌になる。
「わたしもそうゆう感覚あるけどさ、なんだろね、これ」
回答放棄。
うまくいけば彼女が勝手に自問自答的にそれっぽい答案並べてくれる。はず。こういう時の彼女は「わたしと」っていうより自分自身の情緒と会話してる感じだから。
「男と女って物理で繋がれちゃうから、そこがゴールでいいやみたいな、あたしその辺謎にサバサバしてて、それ以上を別に求めてないってゆうか。肉良く満たせれば良いとかそういう意味じゃなくてさ。さっきも言ったけど精神的にもやっぱ男女の生物学的な構造的な違いみたいな、感じちゃって、でも別にそれが虚しいとか寂しいとか思わんくて、別にそれで良いと思っちゃうし、男と女違うから惹かれ合うわけだし」
「うん」
相槌に専念、することで、黙秘権行使。
姑息な自覚あります。だいじょうぶです。わかってます。
「みずきと物理で繋がりたいとかじゃないよ?物理的に不可能だし、いや、可能だったとしてもそういうアレじゃなくて」
「や、だいじょうぶです。補足なしでおけです」
「うん、みずきがいなかったら、あたし多分普通に何も感じないんだよ。好きな男に好きなように扱われて、燃え上がって燃え尽きるみたいに放物線描いて最後捨てられて、また別の誰か好きになって、そういう繰り返しで別に全然いいってゆうか、人生にそれ以上のもの求めて無くて」
「うん」
無欲なのか欲望の傀儡なのか…とか突っ込みたくなるけどこういうモードの時に茶化すとしっかりめに怒られるので、自重。
「みずきに対してだけ沸く感情っていうのが沢山あって、友情っていわれても人間愛って言われてもなんか、こう、微妙にしっくりこなくて、自分でもよくわからん」
「それなー」
「みずきもある?」
「普通にある」
「どんな?」
墓穴掘った。
みずき、埋まります。
「概ねそのまんま」
「なるほど」
破れかぶれのNO思慮カウンター綺麗に決まった。勝利の兆し。
「みずきの、それ、知りたい」
だめでした。
逃がしちゃくれませんでした。
カウンター1撃で沈む子ならそもそもこんなややこしい事になってないんだよな…
『おまえ』呼びじゃない時のカナは、ある種のゾーン入っちゃってる時。ゾーン入っちゃってて、色々余裕無い時。
「彼氏となんかあった?」
「ん、なんで?特になんもないよ?」
「や、カナがそういうナイーブな感じ漂わす時って、大体彼と上手くいってないとかそういう時多くない?」
「まあ、そういうアレで落ちる時もあるけど、今は別にそういうんじゃなくて、なんか、なんだろ、灰色」
「灰色」
「うん」
「グラデーションじゃないやつ」
「うん」
「倦怠期」
「なんの?」
「わたしとあんたの?」
「ふむ」
カナがしゃがみこんで寄りかかってる柱の脇に500ミリのアサヒスーパードライの缶がふたつ。
「でもさ、ずっとあるよ?この感覚」
「うん」
多分、そういうこと。
「ずっとある。出会った頃から、ずっと。わたしもある。なんか、カナとどんだけ仲良くなって、どんだけ沢山一緒に過ごしても、どんだけ思い出増やしても、永遠に満ち足りない飢餓感みたいな」
「うん」
「青春っぽいイベント大体やりつくしちゃって、状況的には倦怠期、だけど飢餓感だけあって、飽食の飢餓感」
「そんな感じ。どうしたらいいんかな」
「わたしに聞かれてもな…わたしも同様の袋小路にドン詰まってるクソですから」
「あ、クソで思い出した。トイレ」
「あ、いてら」
「ちな小のほうだから」
「いらねぇ報告ww」
「いや、大だと思われたらあたしの名誉に関わるから」
「大か小かで損なわれる名誉なんて便器に流してこーい」
「そうする」
よたよたと、それでいて若干巻き気味に階段駆け上がってく彼女の背中を見守る。危なかっしい。
お互いに、心のなかに他の誰かでは埋められない種類の穴が空いてて、その穴は何をどんだけ詰め込んでも一向に埋まる気配がなくて、関係性とかそういう意味でいえば常時袋小路で、行き止まりで、だけど穴があるから、飢餓感あるから埋めるしか無くて、貪るように二人の時間を重ねてきた。
カナと知り合ったのが19の時で、今が22歳。
恋愛感情は大体2年で消滅するって言われてる。
恋愛は脳が炎症起こしてる状態で、2年するとその炎症が収まって、恋い焦がれる感覚というのも消えちゃうらしい。
少しだけ分かる気もするし、じゃあ3年目の、わたしのカナに対するこの永遠に満ち足りない飢餓感はなんだって話だし、でも普通に恋人取っ替え引っ替えのガチ恋愛体質のカナも同じようなものをわたしに対して感じてるんだとしたら、やっぱりそれは恋愛的な執着や依存とも違う種類の何かなのかなっても思う。
カナと知り合う前も何人かの人と付き合って別れたりしてきたし、カナと知り合った後もなんだかんだで誰かしらと付き合ったり別れたりしてきた。
でもやっぱり特別と言えるほど特別な感情は抱けなくて、誰と付き合っても「カナより特別」とは思えなくて、だから最終的に全部お別れに至ったわけで、だけど恋愛感情が2年で消滅するものだとするなら、3年目を過ぎても一向に終わりの見えない飢餓感の正体は一体なんだろうと思う。
多分だけど、カナが言わんとする事もそういう類の事なんじゃないかなって気がする。
あの子は酒に強いほうじゃない。
500ミリ2缶いったら普通にガチ酔いのライン越える。
酔ってる時の彼女はいつも以上に正直になる。
だから、いつも敢えて隠してるわけでもないけど、敢えて口にもしない種類の彼女の本音を聞けて、嬉しいような気持ちと、でもやっぱり彼女もいうように得体のしれないさみしさのような感覚と、お互いにどれだけ求め合う気持ちがあっても、この関係があと何年続いたとしても、結局どこにもたどり着かないのだという、知り合った頃から感じてた漠然とした感覚が3年目の倦怠感と共に実体を帯びてきて、今、この瞬間、この関係性に不満があるわけじゃないんだけど、寸断される前の麺みたいに平たくぺったんこに薄く均一に引き伸ばされた絶望みたいな質感がわたしと彼女の間に漂っていて、灰色。
幕間や行間のような空白のようにも感じられるし、わたしと彼女の関係の本質は結局のところ常にそうだったようにも思う。
劇的な場面だけ切り抜いてハイライトすればドラマチックに見えるかもだけど、全体としては、いずれどこかで行き止まりが確定してる緩やかな下り坂をゆっくり淡々と転げ落ちてくだけみたいな、そういう種類の灰色。
彼女の透明は、そんな灰色もあけすけに透過してしまう。
そもそもこの文章は誰に見せる為の娯楽でもない、ただの個人的な記録だから、山場も見せ場もいちいち用意する必要ないし、用意する気もない。
彼女がそこにいて、わたしもそこにいた。
そんな灰色の日の記憶の記録。