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クラウストラムの後継者 #12 屈服

「アデラ!」  森の中を館へと急ぐアデラはよく見知ったその声に、歩みを止めた。  正面の木々の合間から姿を現したのは、アデラ以外の館のしもべ達であった。 「あなた達……」  3人が健在であったことにほっとしたように、アデラの険しい表情が緩んだ。 「一体何があったの」 「蜍没の仕業よ」  緊張した面持ちでそう告げたのは、エマだ。  その横で、ノルンが頷いた。 「あのやろう、生きていやがったんだ」  アデラはその場に遊跳の姿が見えないことに気がつき、そのことについて3人に問いかけた。 「遊跳様は、ここにはいないの?」 「わからないよ……でもね……」  答えるフェイの脇で、エマは胸の前でぐっと拳を握りしめて目を伏せた。  遊跳のことを案じ、気が気でないという様子だ。 「……アデラ。実はアデラに見てもらいたいものが、あるんだけど……」  そう言ってフェイが、下げていたポシェットに手を突っ込んだ。  中から手のひらに収まるくらいの、玉を取り出す。  フェイが握りしめた指のすき間から黄色く濁った光が、漏れている。 「ほら。これだよ。もっと近づいて、よく見て。アデラ……」  次の瞬間。 「うひゃっ!」  衝撃音と共に、フェイの体が後方にふっ飛ばされた。  それはアデラの、術だ。   「ェイヤァ!」  間髪をいれず、大剣を抜き払ったノルンがアデラに斬りかかった。  両腕に防御魔法を展開し、アデラはノルンの重く鋭い斬撃をなんとか受け流す。  二撃、三撃……。 「いまだ、エマ!」  ノルンが叫ぶと、アデラの足元の地面が裂け、紫色をした何本もの太いつる草が姿を現した。  つる草は生き物のようにのたうちながら広がり、アデラに巻きついていく。 「!」  ノルンの攻撃への対処に集中していたアデラは、完全に不意をつかれる形となってしまった。  縛めのつる草にがんじがらめにされ、アデラはたちまち身動きが取れなくなってしまった。 「あー、痛かった……」  肩の辺りを押さえながらフェイがよろよろとエマの隣に戻ってきた。 「お願い。アデラ。これ以上抵抗しないで。あたし達を信じて」  つる草の縛めから脱しようと四肢に力を込めるアデラに、エマは、あくまでもエマを装って呼びかけた。 「幻力の魔玉のことは聞いたことがあるわ……」  落ち着いた調子でアデラは続けた。 「なるほど。3人とも障魔に姿と力を奪われて、成り変わられてしまったという訳ね」 「なんだ。知っていたの……」  アデラの言葉を聞いたエマは、そう言うと下を向いてほっとため息をついた。  再び顔を上げると、その容貌は一変していた。  目は黄色く濁り、瞳孔は縦に裂けて魔性を帯びている。  口は耳元まで避けるようほど釣り上がり、邪悪な笑みを浮かべている。  顔だけではない。  よく見れば両手の指が節くれだって、うっ血したような色の爪が長く伸びている。  両手だけでなく露出した首筋にまで血管が緑色に浮き上がっている。  エマに化けていた障魔は邪悪な正体を露わにした。  エマだけでなくフェイもノルンも同じように内側に潜んでいた邪悪な本性を仮初めの覆いに浮き上がらせていた。 「アデラ。何も心配することはないんだ……アデラのことはあたし達の仲間がちゃんと引き継ぐんだから。あなたはただおとなしく幻力の宝玉の力を受け入れれば、いいだけなんだ」  そう言ってノルンの姿をした魔性は、尖った舌で舌なめずりをした。 「ノルンの言う通りよ。アデラ」  エマのフリをした魔性が、胸に手を当ててうっとりとした口調で言葉を継いだ。 「ゴブリンにされるのって、とっても気持ちがいいことなんだから。ね、アデラ。お願い。蜍没さまにあなたの全てを捧げるの」  つる草に完全に絡め取られたアデラはもはや身じろぎすることを止め、瞳に怒りの炎を湛え、エマの姿をした障魔を、変わり果てた3人を、静かに睨みつけていた。   「あなたはとても強いから、幻力の作用もその分強くなる。きっとすぐに馴染むわ」  アデラの唇が動いた。 「お前達は弱い……」  障魔達を睨みつけたまま、アデラは続けた。 「奪った力が馴染みきっていないからだ。だからそうやって下劣な本性を隠しきれなくなる」  ニセモノのフェイがわざとらしく鼻で笑った。 「ふふん。強がってもムダだよアデラ。あなたはもう逃げられないんだから」  そう言うとフェイに化けた障魔は、もう一度魔玉をかざして、身動きのできないアデラにゆっくりと歩み寄った。


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