クラウストラムの後継者 #4 誓い
Added 2023-04-12 10:41:49 +0000 UTC「思った通り。ユートさん、とっても良く似合っているわ」 少しはしゃいだ様子で、エマが両手を遊跳の肩に乗せた。 しばらくの間茫然としていた遊跳は、やっとのことで少しだけ冷静さを取り戻していた。 つばを飲み込むと、そろそろと姿見から目を離し、エマの方に向き直る。 「ねえ、エマ。それよりも、聞きたいんだけど……」 エマは小首を傾げ、言葉の続きを促した。 「これ、どうすれば戻れるの?」 成り行きに流されて、メイド姿にまで成りきってしまったが、考えてみればそんなことをする必要は別になかったように思う。 ようするに宝玉の力を止めて、元の姿に戻れば良いだけなのだ。 「簡単よ。戻りたいと心から願えばいいだけ」 エマが示した答えはいたって単純なものだった。 「それだけ?それだけでいいの?」 甲高い声で、遊跳は聞き返した。 エマは両手を腰にあてて、あきれた顔をしてみせる。 「だってその姿はそもそも、あなたがそうなりたいと、思った姿なのよ。戻るのだって、同じことでしょう」 エマの答えは、理屈が通っているようには、思えた。 遊跳はしばらく考えてから深呼吸をすると、両腕を組み、目をつぶってそのことに意識を集中してみた。 (戻りたい……そうだ、僕、本来の姿に、戻るんだ……) だが、しばらくそうやって見ても、一向に変化が生じる気配はなかった。 「戻らないね……」 エマがつぶやいた。 遊跳は目を開けて、エマに目線を向けた。 両腕を握りしめて、問いかける。 「どうして、どうして戻れないの?」 エマは、苦笑いして、答えた。 「そうね。たぶんユートさんが心から戻りたいと思っていないからだと思う」 その答えに、遊跳は絶句してしまった。 元に戻りたくないなんて、そんなことはないはずだ。 だが、エマの言葉通り、この変身が遊跳の望んだものであるのなら、こころの奥底でこうありたいと遊跳が望んでいたのなら。 それが遊跳の本当の気持ちだということに、なるのだろうか。 現に自分は、この姿で、少女の姿で、エマにメイド服を着せられて、絶頂してしまったのだ。 「ね。あわてること、ないよ」 黙ってしまった遊跳を慰めようとするかのように、エマはそう言ってひらひらと手を振った。 それから。 「しばらくは、女の子の生活を楽しめばいいじゃない」 この状況を招いた責任の幾分かはエマにもあるというのに、まったく無責任なことを言い始める。 遊跳は呆れた表情で、エマの顔を見上げた。 エマは遊跳の瞳を見返すと、両手の指を広げて胸の前で合わせた。 少しもじもじとした調子で、言葉を続けた。 「それにあたしも……できればその……しばらくはユートさんにそのままでいてほしいかも」 思わぬ言葉に遊跳は目を丸くした。 「……実を言うと、あなたみたいな妹が欲しかったの」 そう言って、エマは両手を前に出して、ぎゅっと遊跳の手を握った。 その瞳がいつになく、きらきらと輝いている。 あっけにとられたままの遊跳を後目に、エマはなおも言葉を続けた。 「そうだ!フェイとノルンにもはやくあなたの姿を見せてあげましょう」 「だ……ダメだよ!」 思わず、大きな声をあげてしまう。 少し驚いた様子で言葉を止めた後、エマは微笑んだ。 両手を背中で組んで、少しだけかがみこむ。 そうやって視線の高さを遊跳に合わせてから、優しく問いかけた。 「どうして?」 少し、どぎまぎとしながら、遊跳は答えた。 「どうしてって……僕がこんな……女の子の姿をしていることを2人に知られるなんて」 両手を広げ、自分の姿をエマに指し示す。 「でも、だからといってずっと隠れているわけには、いかないでしょう」 それは道理だ。 元に戻れない以上、この館にいる限り、フェイとノルンから隠れ続ける、というわけにはいかない。 「だけど……」 「そんなに恥ずかしいの?」 遊跳は無言で頷いた。 精霊であり、しもべである2人が遊跳のことを嘲るなどといったことはあり得ないにしても、このジュニアメイドの少女の正体が自分であることを2人に晒すということは、とてつもなく恥ずかしいことだった。 「わかったわ。それじゃあ、ここにいるかわいい精霊の女の子がホントはユートさんだってことはフェイとノルンには内緒にしておきましょう」 そう言ってエマは、遊跳の亜麻色の髪の毛をひと撫でした。 それから姿勢を正すと右手の人差し指立てて頬に近づけ、左手を右手のひじに添えて、何事か考え始める。 「……2人には、あなたのことは新入りの精霊だって説明することにしましょう」 遊跳は、こくんと頷いた。 少女のなりで2人と対しなくてはならないことはどのみち避けられないにしても、その少女の正体が満月遊跳であるということを知られるのは、できれば避けたいことだった。 エマは、自分の提案に遊跳が同意したのをみてとると、いたずらっぽい笑みを顔に浮かべて、言葉を続けた。 「それじゃあ、新人さんの名前を考えないとね」 しばらく、考えてエマは何かを思いつき、ぽんと手を叩いた。 「そうだ。宝玉の名前をとって、マヤにしましょう。あなたは今から新米のジュニアメイドのマヤになるのよ」 遊跳は、どう答えてよいかわからなかった。 自分に女の子の、新米メイドとしての名前がつけられてしまう。 それは自分の存在が、館の主である満月遊跳ではなく、館のメイドであるマヤに、置き換えられるということではないのか。 だけど、仕方がないではないか。 自分が、満月遊跳であることを、2人に知られるわけにはいかないのだ。 「さぁ、新米メイドさん。わかったら自分の名前を言ってごらんなさい」 エマが遊跳の顔を優しくのぞきこむ。 鼓動が速くなるのを感じながら、遊跳はしばらくの間、言い淀んでいた。 それから、意を決して口を開く。 「ぼ……」 間髪を入れず、エマが口をはさんだ。 「ダメよ。女の子がボクなんて言っては。ちゃんと女の子らしくらしく振る舞わないと2人にバレてしまうかもしれないよ」 その言葉にどきりとして、咄嗟に遊跳は言い直した。 「わ……わたしは……マヤです」 その声は少しだけ、震えていた。 「ふふっ、よくできました」 エマはにっこりと微笑んだ。 すっと前に出ると、目の前で緊張するメイドの少女を優しく抱きしめた。 エマの胸に顔をうずめた少女が息を飲む気配が伝わってくる。 「ねぇ、マヤ……」 少女の名を呼びながら、エマはいとおしげにその背中と髪を撫でた。 「あたし、気がついていたんだよ」 抱きすくめられたまま、少女は顔を上げた。 エマはなおも独白する。 「あなたがいつもあたし達のことを目で追っていたこと……」 少女と化した遊跳が、その身をぎゅっと固くしたのが、感じられる。 その呼吸が、はやくなっている。 それは確かに、本当のことだった。 遊跳は彼女たちをいつも目で追っていた。美しく可憐な精霊たちを。 「それだけじゃない。あたし達の身につけているメイド服のことを、いつも羨ましそうに見つめていたこともね」 エマの胸の中で、遊跳は耳が熱くなっていくのを感じた。 確かに遊跳はいつも目で追っていた。メイド服を纏った彼女たちを。 それは、自分が、メイド服に憧れていたから、なのだろうか。 エマに体を優しく撫ですされるにつれ、鼓動がどんどんはやくなっていく。 「ずっと、そう、思ってたんでしょう。あたし達と同じ輪に入りたい。あたし達と同じ女の子になりたい、館に仕えるメイドになりたいって」 少女の装いの下で、またもや股間が固くなっていることに遊跳は気がついた。 そうかもしれない。 メイドにされて、女の子にされて、自分はこんなに興奮しているのだから。 そうなりたいと、思っていたのかもしれない。 息を荒くしながら、エマの胸の中で遊跳は羞恥に身もだえた。 甘い香りが鼻孔を満たし、頭が痺れたようになっていく。 「恥ずかしがらなくてもいいのよ。素直な気持ちを、言ってごらんなさい」 エマに促され、遊跳はぼんやりとした頭で自分が言うべきことを、探した。 自分の興奮を、切ない欲求を、もっとも満たす答えを。 「ぼ……ボクは……」 「あたし」 耳元で聞こえたエマのささやきが、脳裏を満たす。 「あ……たしは……」 まるで、操り人形にでもなってしまったかのように、遊跳はエマの言葉を繰り返した。 いつのまにか、エマは遊跳の背後に周り、その胸と腰に手を回す体勢となっていた。 胸のあたりを撫でられると、それまでとは比べようのない、心地よい、切ない感覚が遊跳の全身に広がっていく。 今まで感じたことのない未知の感覚に遊跳は喘いだ。 身体から力が抜け、エマにその身を委ねるしかない。 エマに、すべてを、委ねるしかない。 「女の子になるの?館に奉仕する、メイドになるの?」 愛撫を続けながら、エマは少女に問いかけた。 その答えは、すでにわかっている。 いまや彼女もすっかりと興奮し、その瞳は妖しく輝いている。 手の中にあるいたいけな少女を、正しく導かなくてはならない。 「な……なります……女の子に……あたし……なります……」 絞り出すようにして、エマの手の中の少女はそう答えた。 鈴のような、少女そのものの声色だ。 「誓約、するのね?」 「ち……誓います……」 喘ぎながら、熱に浮かされたような陶酔しきった表情で、自身とエマの望むとおりに、少女は答えた。 「あたしは、マヤは、メイドに……クラウストラムのしもべになります」 その答えを聞いたエマの顔に、満足げな表情が浮かんだ。 その右手は、いつのまにか少女のエプロンとスカートの内側に潜り込んでいた。 ショーツとタイツのその上から、軽くひと撫でする。 それだけで、十分だった。 「ひゃ……ふぁっ!」 軽い悲鳴を漏らして、少女は初めて味わう快感にうち震えた。 その瞬間、少女の奥底で遊跳の精がほとばしり出た。 それは目もくらむような、絶頂だった。 脱力した少女はエマの腕に身を任せ、エマに髪の毛を撫でられながら、しばらくの間、ふたつの快感の余韻に浸っていた。 少女はぼんやりと、自分自身が選んでしまったことについて、考えをめぐらせた。 誓約は、なされてしまった。 依然として自分はクラウストラムの後継者だ。 だが同時に、クラウストラムの5人目のしもべにも、なってしまったのだ。 (続く)