NokiMo
mayamayumaru
mayamayumaru

fanbox


クラウストラムの後継者 #4 誓い

「思った通り。ユートさん、とっても良く似合っているわ」  少しはしゃいだ様子で、エマが両手を遊跳の肩に乗せた。  しばらくの間茫然としていた遊跳は、やっとのことで少しだけ冷静さを取り戻していた。  つばを飲み込むと、そろそろと姿見から目を離し、エマの方に向き直る。 「ねえ、エマ。それよりも、聞きたいんだけど……」  エマは小首を傾げ、言葉の続きを促した。 「これ、どうすれば戻れるの?」  成り行きに流されて、メイド姿にまで成りきってしまったが、考えてみればそんなことをする必要は別になかったように思う。  ようするに宝玉の力を止めて、元の姿に戻れば良いだけなのだ。 「簡単よ。戻りたいと心から願えばいいだけ」  エマが示した答えはいたって単純なものだった。 「それだけ?それだけでいいの?」  甲高い声で、遊跳は聞き返した。  エマは両手を腰にあてて、あきれた顔をしてみせる。 「だってその姿はそもそも、あなたがそうなりたいと、思った姿なのよ。戻るのだって、同じことでしょう」  エマの答えは、理屈が通っているようには、思えた。  遊跳はしばらく考えてから深呼吸をすると、両腕を組み、目をつぶってそのことに意識を集中してみた。 (戻りたい……そうだ、僕、本来の姿に、戻るんだ……)  だが、しばらくそうやって見ても、一向に変化が生じる気配はなかった。 「戻らないね……」  エマがつぶやいた。  遊跳は目を開けて、エマに目線を向けた。  両腕を握りしめて、問いかける。 「どうして、どうして戻れないの?」  エマは、苦笑いして、答えた。 「そうね。たぶんユートさんが心から戻りたいと思っていないからだと思う」  その答えに、遊跳は絶句してしまった。  元に戻りたくないなんて、そんなことはないはずだ。  だが、エマの言葉通り、この変身が遊跳の望んだものであるのなら、こころの奥底でこうありたいと遊跳が望んでいたのなら。  それが遊跳の本当の気持ちだということに、なるのだろうか。  現に自分は、この姿で、少女の姿で、エマにメイド服を着せられて、絶頂してしまったのだ。 「ね。あわてること、ないよ」  黙ってしまった遊跳を慰めようとするかのように、エマはそう言ってひらひらと手を振った。  それから。 「しばらくは、女の子の生活を楽しめばいいじゃない」  この状況を招いた責任の幾分かはエマにもあるというのに、まったく無責任なことを言い始める。  遊跳は呆れた表情で、エマの顔を見上げた。  エマは遊跳の瞳を見返すと、両手の指を広げて胸の前で合わせた。  少しもじもじとした調子で、言葉を続けた。 「それにあたしも……できればその……しばらくはユートさんにそのままでいてほしいかも」  思わぬ言葉に遊跳は目を丸くした。 「……実を言うと、あなたみたいな妹が欲しかったの」  そう言って、エマは両手を前に出して、ぎゅっと遊跳の手を握った。  その瞳がいつになく、きらきらと輝いている。  あっけにとられたままの遊跳を後目に、エマはなおも言葉を続けた。   「そうだ!フェイとノルンにもはやくあなたの姿を見せてあげましょう」 「だ……ダメだよ!」  思わず、大きな声をあげてしまう。  少し驚いた様子で言葉を止めた後、エマは微笑んだ。  両手を背中で組んで、少しだけかがみこむ。  そうやって視線の高さを遊跳に合わせてから、優しく問いかけた。 「どうして?」  少し、どぎまぎとしながら、遊跳は答えた。 「どうしてって……僕がこんな……女の子の姿をしていることを2人に知られるなんて」  両手を広げ、自分の姿をエマに指し示す。   「でも、だからといってずっと隠れているわけには、いかないでしょう」  それは道理だ。  元に戻れない以上、この館にいる限り、フェイとノルンから隠れ続ける、というわけにはいかない。 「だけど……」 「そんなに恥ずかしいの?」  遊跳は無言で頷いた。  精霊であり、しもべである2人が遊跳のことを嘲るなどといったことはあり得ないにしても、このジュニアメイドの少女の正体が自分であることを2人に晒すということは、とてつもなく恥ずかしいことだった。 「わかったわ。それじゃあ、ここにいるかわいい精霊の女の子がホントはユートさんだってことはフェイとノルンには内緒にしておきましょう」  そう言ってエマは、遊跳の亜麻色の髪の毛をひと撫でした。  それから姿勢を正すと右手の人差し指立てて頬に近づけ、左手を右手のひじに添えて、何事か考え始める。 「……2人には、あなたのことは新入りの精霊だって説明することにしましょう」  遊跳は、こくんと頷いた。  少女のなりで2人と対しなくてはならないことはどのみち避けられないにしても、その少女の正体が満月遊跳であるということを知られるのは、できれば避けたいことだった。  エマは、自分の提案に遊跳が同意したのをみてとると、いたずらっぽい笑みを顔に浮かべて、言葉を続けた。 「それじゃあ、新人さんの名前を考えないとね」  しばらく、考えてエマは何かを思いつき、ぽんと手を叩いた。 「そうだ。宝玉の名前をとって、マヤにしましょう。あなたは今から新米のジュニアメイドのマヤになるのよ」  遊跳は、どう答えてよいかわからなかった。  自分に女の子の、新米メイドとしての名前がつけられてしまう。  それは自分の存在が、館の主である満月遊跳ではなく、館のメイドであるマヤに、置き換えられるということではないのか。  だけど、仕方がないではないか。  自分が、満月遊跳であることを、2人に知られるわけにはいかないのだ。 「さぁ、新米メイドさん。わかったら自分の名前を言ってごらんなさい」  エマが遊跳の顔を優しくのぞきこむ。  鼓動が速くなるのを感じながら、遊跳はしばらくの間、言い淀んでいた。  それから、意を決して口を開く。 「ぼ……」  間髪を入れず、エマが口をはさんだ。 「ダメよ。女の子がボクなんて言っては。ちゃんと女の子らしくらしく振る舞わないと2人にバレてしまうかもしれないよ」  その言葉にどきりとして、咄嗟に遊跳は言い直した。 「わ……わたしは……マヤです」  その声は少しだけ、震えていた。 「ふふっ、よくできました」  エマはにっこりと微笑んだ。  すっと前に出ると、目の前で緊張するメイドの少女を優しく抱きしめた。  エマの胸に顔をうずめた少女が息を飲む気配が伝わってくる。 「ねぇ、マヤ……」  少女の名を呼びながら、エマはいとおしげにその背中と髪を撫でた。 「あたし、気がついていたんだよ」  抱きすくめられたまま、少女は顔を上げた。  エマはなおも独白する。 「あなたがいつもあたし達のことを目で追っていたこと……」  少女と化した遊跳が、その身をぎゅっと固くしたのが、感じられる。  その呼吸が、はやくなっている。  それは確かに、本当のことだった。  遊跳は彼女たちをいつも目で追っていた。美しく可憐な精霊たちを。 「それだけじゃない。あたし達の身につけているメイド服のことを、いつも羨ましそうに見つめていたこともね」  エマの胸の中で、遊跳は耳が熱くなっていくのを感じた。  確かに遊跳はいつも目で追っていた。メイド服を纏った彼女たちを。  それは、自分が、メイド服に憧れていたから、なのだろうか。  エマに体を優しく撫ですされるにつれ、鼓動がどんどんはやくなっていく。 「ずっと、そう、思ってたんでしょう。あたし達と同じ輪に入りたい。あたし達と同じ女の子になりたい、館に仕えるメイドになりたいって」  少女の装いの下で、またもや股間が固くなっていることに遊跳は気がついた。  そうかもしれない。  メイドにされて、女の子にされて、自分はこんなに興奮しているのだから。  そうなりたいと、思っていたのかもしれない。  息を荒くしながら、エマの胸の中で遊跳は羞恥に身もだえた。  甘い香りが鼻孔を満たし、頭が痺れたようになっていく。 「恥ずかしがらなくてもいいのよ。素直な気持ちを、言ってごらんなさい」  エマに促され、遊跳はぼんやりとした頭で自分が言うべきことを、探した。  自分の興奮を、切ない欲求を、もっとも満たす答えを。 「ぼ……ボクは……」 「あたし」  耳元で聞こえたエマのささやきが、脳裏を満たす。   「あ……たしは……」  まるで、操り人形にでもなってしまったかのように、遊跳はエマの言葉を繰り返した。  いつのまにか、エマは遊跳の背後に周り、その胸と腰に手を回す体勢となっていた。  胸のあたりを撫でられると、それまでとは比べようのない、心地よい、切ない感覚が遊跳の全身に広がっていく。  今まで感じたことのない未知の感覚に遊跳は喘いだ。  身体から力が抜け、エマにその身を委ねるしかない。  エマに、すべてを、委ねるしかない。  「女の子になるの?館に奉仕する、メイドになるの?」  愛撫を続けながら、エマは少女に問いかけた。  その答えは、すでにわかっている。  いまや彼女もすっかりと興奮し、その瞳は妖しく輝いている。  手の中にあるいたいけな少女を、正しく導かなくてはならない。   「な……なります……女の子に……あたし……なります……」  絞り出すようにして、エマの手の中の少女はそう答えた。  鈴のような、少女そのものの声色だ。 「誓約、するのね?」 「ち……誓います……」  喘ぎながら、熱に浮かされたような陶酔しきった表情で、自身とエマの望むとおりに、少女は答えた。 「あたしは、マヤは、メイドに……クラウストラムのしもべになります」  その答えを聞いたエマの顔に、満足げな表情が浮かんだ。  その右手は、いつのまにか少女のエプロンとスカートの内側に潜り込んでいた。  ショーツとタイツのその上から、軽くひと撫でする。  それだけで、十分だった。 「ひゃ……ふぁっ!」  軽い悲鳴を漏らして、少女は初めて味わう快感にうち震えた。  その瞬間、少女の奥底で遊跳の精がほとばしり出た。  それは目もくらむような、絶頂だった。  脱力した少女はエマの腕に身を任せ、エマに髪の毛を撫でられながら、しばらくの間、ふたつの快感の余韻に浸っていた。  少女はぼんやりと、自分自身が選んでしまったことについて、考えをめぐらせた。  誓約は、なされてしまった。  依然として自分はクラウストラムの後継者だ。  だが同時に、クラウストラムの5人目のしもべにも、なってしまったのだ。 (続く)


Related Creators