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クラウストラムの後継者 #3 着替え

 ほの明かりに照らされた廊下をふたりの少女が歩いている。  前を歩くのは、メイド服に身を包んだ鳶色の髪をした美しい少女だ。  亜麻色の髪の小柄な少女が、所在なげな様子でその後に続く。  小柄な少女は、周りの様子をしきりに気にしている。  無理もない。  彼女は、大きすぎる男物のシャツの上から、鳶色の髪の少女から借りたショールを羽織っただけの恰好なのだ。  余ったシャツのすそに下半身こそ隠されているが、その下から細く白い生足がつきだしている。  だが、少女の様子がおかしいのは、自身の恰好を気にしているからというだけではない。 (こんな姿を……フェイやノルンに見られたら……)  少女は、いや、少女の姿に変貌した遊跳は、そんなことを考えていた。  その名は、不在のアデラと遊跳の前を歩くエマのほかに館に仕える、残る2人のしもべの名だ。  冷静に考えれば、今の自分の姿を見られたとしても、フェイやノルンは、それが遊跳であることには気がつかないに違いない。  だが、エマは2人に平気で真実をしゃべってしまいそうではあった。  それ以外にも遊跳を心細く感じさせることはある。   体に感じる、違和感だ。  以前と変わらずに、自分自身の身体の感覚が存在する。  全身をぴったりと、宝玉が変化した偽りの皮膚に覆われている、感覚だ。  だが、表面を覆う少女の肌の敏感な感覚も、それと同時にもたらされている。  それだけではない。  ただ歩くにしても、体のバランスが違うのだ。  平衡感覚は元の自分自身のそれなのに、実際に体に生じる物理的な作用は、今の姿のそれなのである。 「なんだか、とても変な感じ……」  遊跳はつい、そう口にした。  エマが足を止めて、振り向く。  見慣れた彼女の顔が、自分の目線よりもやや上にあることに、遊跳は戸惑う。 「だいじょうぶ。すぐに慣れるよ」  遊跳のことをしばし見つめた後、にっこりと微笑んで、エマはそう言った。  どうして、そんなことが断言できるのだろうか。  それに。 (慣れるだなんて……)  この姿に、慣れてしまうだなんて、考えたくない。  ずっと、こんなたよりない、少女の姿で過ごすなんて。  そのことを想像してしまい、遊跳は赤面した。 [newpage] 「これが、ちょうどいいくらいだと、思うんだけど」  エマは、クローゼットから何点かの衣類を引っ張り出してきて、ベッドの上に腰かけて所在なげにしていた遊跳の脇に並べる。  遊跳はいささかげんなりした様子で並べられた衣類を眺めていた。 「あたしがもっと小さかった時の、お古なんだけど」 (小さかったときとか、あるのか……)  なんの根拠もなく、精霊は顕現したときから姿が変わらないものと、遊跳は思っていた。  精霊の成長というものがどんなものかは遊跳にはわからない。  並べられた衣類はそんなに古びた様子はないものの、新品という感じでもないから、少なくともこれらの衣類がエマのお下がりだということにまちがいはないのだろう。  目の前の可愛らしい少女が実際に着ていた衣類をこれから身につける、ということを想像し、遊跳は思わずゴクリとつばを飲み込んだ。  のどがカラカラになっていく。 「あの……やっぱり、着ないとダメ?」 「あたりまえでしょう。ずっとその恰好でいるつもりなの?」  まるで駄々をこねる子供を諭すような、調子だ。  エマは、遊跳のとなりに座り、肩に手を置いた。 「もしかして、あたしのお下がりでは、いやなの?」  吐息の動きが感じられるほど間近に迫られ、遊跳の心臓は飛び上がりそうになる。  ふるふると首を振った後、気恥ずかしさをごまかすように立ち上がり、遊跳は、羽織っているシャツのボタンに手をかけた。  そろそろとシャツを脱ぎ、一糸まとわぬ姿となる。 「ね。みてごらんなさい」  背後からエマが両肩を抱きすくめるように寄り添ってきた。  背中にエマの柔らかい胸が押しあてられるのを感じる。  首筋に彼女の吐息を感じ、森の花々と木々の発する香りが入り混じったようなほの甘い香りが鼻孔をくすぐる。 「……ふぅぁ……」  柔らかく、甘い感覚に包まれて、遊跳は息を漏らした。  力が抜け、身じろぎすることも忘れてしまう。  エマは、優しく遊跳の体の、向きを変えた。  遊跳の目の前には、大きな姿見が置かれていた。  メイド姿のエマに抱きすくめられ、一回り小柄な少女が、一糸もまとわず陶器のように白く染みひとつない肌を晒し、何かに陶酔したような潤んだ瞳でこちらを見返していた。  並んで見ると、その顔立ちがどこかエマに似ているように感じられた。  鏡の中の2人は、まるで姉妹だ。 「……これが、護り?」  か細い声だ。  姿見に映る弱々しい姿は、むしろ自らを護る力を少しも持たない存在のそれだ。  エマに抱きすくめられ、庇護されなくては何もできない、無力な存在。 「そう。護り、だよ」  耳元でエマがささやく。 「[[rb:幻力の面紗 > マーヤーのヴェール]]に包まれている限り、その内にあるものに傷をつけることは、難しい」  遊跳は左ひじを曲げて目の前に持ってくると、右手で手首のあたりをさすってみた。  自分の体に重ねられた滑らかな少女の肌に、そんな強さがあるようには、とても思えなかった。  エマが、遊跳から体を離した。  ベッドの上に置かれた衣類から彼女が取り上げたのは、女の子が履く、シンプルな木綿色のショーツだった。 「ね、履かせてあげましょうか」  いたずらっぽい微笑みを浮かべながら、エマはそう言った。  遊跳は頬を赤らめる。  エマに子供扱いされて、女の子のパンツを履かせてもらうなんて。  できるはずがない。 「自分で……履くよ……」  やっとのことで、そう答えた。  こうなっては覚悟を決めるしかない。  おずおずと手を伸ばし、エマの手からショーツを受け取ると、両手で口を広げた。  少女のショーツを、自分の意志で、履くのだ。  広げた口に、片方ずつ足を通していく。  引き上げたショーツが、遊跳の下半身を覆った。 (!……)  いつの間にか、遊跳は勃起していた。  自分のモノに痛いほど血が集まり、ガチガチに固くなっているのを、感じる。  だがショーツに覆われた少女の股間には、ほんの少しの盛り上がりも、見られない。 「両手を上げて」  エマが手にしているのは、ショーツと似通った飾り気のないキャミソールだ。  言われるままに遊跳が手を上げると、その上からキャミソールが被せられた。  肩紐と裾を整えられてから、ポンと背中を叩かれる。  下着を身につけた遊跳は、その感触に困惑していた。  普段身につけている男物の下着とは、全く違う感触だ。  とても柔らかく、繊細な肌触りだ。  生まれたばかりの幼い精霊の少女の姿に閉じ込められ、さらにその上から柔らかい少女の下着で覆われてしまった。  逃れようもなく、エマの妹分の精霊の少女に仕立て上げられていくようだった。  そのことに、どうしようもなく興奮してしまう。  手渡されたタイツをそろそろと履いていく。  エマとおそろいのメイド服に、身を通す。  それは、誂えたかのように今の遊跳の体躯にぴったりとあっていた。  エマが背中のファスナーを上げてしまい、さらにフリルのついた白いエプロンが結ばれると、遊跳は完全にメイド服の中に閉じ込められてしまった。  姿見に映るメイド姿の自分自身を見つる遊跳の表情は、熱に浮かされたようになっていた。  決して表に見えることはない股間の緊張は、もう限界に達していた。 「さ、これでできあがり」  エマがメイドキャップを両手に携えて自分の頭に手を掲げるのを、陶酔しきった遊跳はなすすべもなくただ眺めていた。  ポニーテールに整えられられた亜麻色の髪の毛に最後にメイドキャップが被せられてしまえば、遊跳の存在は完全に書き換えられてしまうのだ。  無垢な精霊の少女から、館に仕えるジュニアメイドに。 「あ……」  メイドキャップがぴたりと髪に取り付けられた瞬間、遊跳は、思わず甘い吐息を漏らした。  限界に達した怒張から精が噴き出していく。  それは遊跳を覆う肌の内側に吸い込まれ、それと同時にさざ波のような快感が全身に伝わっていく。  滑らかな股間の奥底で、急激に萎えていくのを感じながら、遊跳はその心地よい感覚にただ身をゆだねるしかなかった。  ただひとつの慰めは、傍らに立つエマには遊跳がメイドにされて絶頂を迎えたことを知られていないということだげたった。  クラウストラムの主であるはずの満月遊跳は、生まれたばかりの幼い精霊の少女の肢体とメイドの衣装に閉じ込められ、今や完全に、館に仕えるメイドに変貌してしまったのだ。  (続く) 2023/04/09掲載


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