湯けむり立ちこめるバスルーム。
ベリルは湯船に浸り、一日の疲れを癒していた。
「はぁ……今日はひどい目に遭いました…。」
小さくため息をつくと同時に、まん丸な彼女の双球が湯船に沈み込む。
入浴剤が溶け込んだ黄金色の水面に波紋が立つと、肌色のボールがまるで浮き輪のように再び浮き上がってきて《ぽよん…ぽよん…》と悩ましく揺れていた。
「まったく……あの生意気女、本当に腹が立ちます。私は悪くないのに……」
そう呟くと、ついムスッとしてしまう。
一度は自分が悪かったかも知れないと感じていたベリルだったが、一向に帰って来ないオーラに苛立ちだけが募り、申し訳なさは当に消え去っていた。
「帰ってきたら……がつんと言ってやるんですから!」
その時だった。
「まったく、あの高飛車女……このままにしておけません……っ!」
バスルームの外から、誰かの声が聞こえて来た。
否。この声は紛れもなく彼女。苛立ちの原因であり、昼間に大喧嘩をしたばかりのルームメート・オーラの声であった。
そしてあろうことか、バスルームの扉が開き、彼女が入って来たのだ。
ガチャッ!
「!!」
「!!」
目が合った途端、予想外のことに驚く二人。
まさか入っているなんて。
まさか入って来るなんて。
一瞬膠着してしまった両者だったが、次の瞬間には積もりに積もった相手への不満が二人の心を飲み込んだ。
「どうしてあなたが先に入っているのですか…?今日は私が先に入る日の筈ですけど…!」
先に声をあげたのはオーラだった。
無理もなかった。昼間の大喧嘩のあと、ずっと彼女との関係性について悩み、ようやく吹っ切れて帰宅してみれば部屋はひどい散らかり様。おまけにルールを破って先に入浴しているとなれば、もはや喧嘩を売られているとしか思えない。
「あら?いつまで経っても帰って来られないので、今日はもうお入りにならないものとばかり……。違ったのですね?」
これにベリルも応戦する。
彼女だって思いは同じだった。どう考えても悪いのは向こうなのに、どうして「私は悪くない」とでも言いたげな顔をして文句を言ってくるのか。ごめんなさいと一言謝罪されても良いものを、これはいよいよ喧嘩を売られているとしか思えなかった。
「だ……誰が入らないなんて言ったのですか!こんなの、私への当てつけでしょう!?」
「当てつけ……!?人聞きの悪いことを……!あなたの方こそ、言いがかりではありませんか!!」
「言いがかり!?心外です、訂正してください!!」
「本当のことではありませんか!!昼間のことで腹を立ててこんな奔放な振る舞いをなさるなんて、本当に子供ですね!」
「ひ、昼間のことを引きずっているのはベリルの方でしょう!?初等部からやり直されてはいかがですか!?」
「な……なんですって…!?この分からず屋!出て行ってください!!」
「何を馬鹿な!私が先に入る日なのですから、あなたが出て行ってください!!」
バスルームの中で、エコーが掛かったような2人の声が響き渡る。
両者が言い合いを続けていた中、ベリルが湯船の中で左腕を振り抜き…
「出ていけと……!言っているんですっ!!」
バシャッ!!
オーラに向かって思い切りお湯をぶっかけた。
「っ!!!?」
熱いお湯を顔から全身にかけてぶっ掛けられたオーラ。
ポタポタと水滴が滴る中、悔しそうにキッとベリルを睨み返した。
「やりましたね……もう許しません…」
オーラは浴槽のほうへ歩き始めた。
勝手な主張ばかりを並べて反発してくるこの同級生が、憎らしくて仕方がない。
「何ですか、その顔は…」
ベリルも湯船の中で立ち上がった。
自分は悪くない。なのにどうしてこの人は、こうも反抗的な態度で突っかかってくるのか。そう思うと苛立ちが止まらない。
ざば…
黄金色の湯船の中で、二対の身体が対峙した。
「いい加減、はっきりさせた方が良さそうですね…」
「こちらの台詞です…」
2人の頭に、もはや和解の文字は無かった――
《第4話に続く》
ミニラ
2022-01-04 12:23:04 +0000 UTCミニラ
2022-01-04 12:19:12 +0000 UTCミニラ
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