「天の国」―――
世界の中心と称される先進国であり、人種や国籍の垣根を越えて世界中から多くの人々が移り住み、生活をしている。まさに夢の国だ。
そんな本国の首都に《天の国インターコンチネンタル・スポーツエデン》は有る。
最新の設備・環境・カリキュラムの下、明日のトップアスリートを目指す有望な学生たちが、自身の専攻するスポーツの練習を優先的に行いながら勉学に励むことができる。世界有数のスポーツ特化型学校機関だ。
物語は、そんなエデンの中でも特に高い人気を誇るバストボール部を舞台に幕を開ける……
「お疲れさまでした~!」
「ごきげんよう」
「お疲れ様~」
夕刻。部活動の時間が終わり、笑顔で帰路に就く生徒たち。
その中でただ一人、浮かない顔で空を見上げる、青い瞳の少女がいた。
「はぁ……今日は最低な日です……」
ぽつりと独り言を口にする少女を、まるで慰めるかのように夏の夕風が優しく撫でる。日中、照り付ける太陽に晒されていた白い肌に、その風はたしかに心地良いものではあったが……
「なんだか……帰りたくありません……」
まるで元気を出して帰れと言われているようで、少女の心は休まらない。
長く綺麗な黒髪が風に吹かれサラサラと靡くが、彼女にはそれが煩わしく感じられた。
「あれ……オーラさん?どしたの、そんな所で。」
「え……?」
不意に声を掛けられ、”オーラ”と呼ばれたその少女が後ろを振り向く。
そこには、自分と同じ青い瞳・そして自分より短い黒髪を風に靡かせ、笑顔でこちらを見ている少女の姿があった。どうやら彼女も部活帰りのようだ。
「考え事?」
「あ……いえ別に……」
「え~?何もない人の顔には見えないけどなぁ。せっかくの美人さんが台無しだよ~?」
不思議そうに顔を覗き込んでくるその少女の距離感と屈託の無さに、慌てて一歩引いてしまうオーラだったが……ふと彼女が小さなトロフィーを手にしているのが目についた。
「あ……それは?」
「あぁこれ?今日はね、女子プロ部の定期トーナメントの決勝戦だったんだ~」
「ということは……優勝されたんですか?」
「えへへ、一応ね!これで三連覇。すごいでしょ~」
「すごい……!おめでとうございます、アイさん!」
”アイ”と呼ばれた少女が、満面の笑みでVサインをして見せた。
「今日はこの後、女子プロ部のみんなと食事なんだ~。決勝で戦ったライバルの子とどっちが食事代おごるか賭けてたから、今日は私タダでご飯が食べれるんだよ?やりぃ♪」
「えっ、ライバルと戦った直後に……一緒に食事をするんですか?」
「ん~?そうだよ~?」
「それって……気まずくは……ないんですか?」
オーラは暗い顔でアイに問う。
その神妙な面持ちに、アイは何かを察した。
「……そっか。さては誰かとケンカしたんだ?」
「えっ!?どうして……」
「ふふっ、同じ水の国出身だから心が読めたのかもね♪」
「もう、はぐらかさないでください!」
後ろで手を組み陽気に歩き出すアイ。その背中を追いかけるオーラ。
「ん~、バスボ部のことはよくわかんないけど~。そういう時は思い切りぶつかってみればいいんじゃないかな?」
「え?」
アイがくるりとその身を反転させる。振り向きざまに、異国の物と思しき赤い髪飾りがふわりと揺れて、対照的な青い瞳がまっすぐにオーラを捉えた。
「一度思いっきりぶつかってみればいいんだよ。自分はこう思ってるんだ!ゆずれないんだ!って、気が済むまでぶつかってみればいいと思うよ?」
「アイさん……」
「それで向こうもぶつかり返してきたら、お互い納得いくまでやりあえばいいんだよ!ここでモヤモヤしてるより、その方がすっきりするんじゃないかな?」
突拍子もないことを言われている筈なのに、妙に説得力がある。
この人は、きっとそうやって今の自分を築いてきたんだ。同い歳で、同郷で、けれど自分より一歩先を歩いている、この人は。
「……そうかも知れません。私、頑張ってみます……!」
「その意気その意気!上手くいくといいね!」
「はい!ありがとうございましたっ!」
礼儀正しくお辞儀すると、オーラは学生寮へ向かい歩いて行った。
「ふふっ、がんばれ頑張れ♪」
迷いが晴れたようなオーラの後ろ姿を見つめ、小さな声でエールを呟いたアイ。
「……ん?学生寮……」
しかし、しばらくして彼女は首を捻った。
「寮に帰っていったって事は……ひょっとしてケンカ相手って……」
ゴーーン!ゴーーン!!
その時、夜7時を告げる鐘の音が学園に響き渡った。
「やばっ!打ち上げ遅刻しちゃう!ごはんごはん~!!」
用事を思い出したアイ。直前までの考え事が食事の件で上書きされ、大急ぎで大食堂へ走ってゆくのだった。
《第2話につづく》
ミニラ
2021-12-16 14:23:18 +0000 UTCsonya
2021-12-13 14:31:51 +0000 UTC