NokiMo
ていてい
ていてい

fanbox


ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響5

 熱気立ち込めるボクシングリングの上で、二人の男が拳を交わし合う。

 蒼響の優勢という状況は変わっていない。だが、喰らい付く大和の忍耐力としつこさも相当のものだ。


 何度目になるだろう。相手に読まれないよう、不規則なリズムを刻みながら前へと踏み込むと同時に、視線であからさまにちらりと下を見る。狙いは下半身への蹴りである、と言わんばかりに。

 しかし、実際に蹴り出した右脚は軌道を滑らかに変え、鋭角な弧を描いて大和の頭部へと迫った。


「ッ!」


 辛うじて、大和はそれを片腕に阻む。その表情がより険しくなったように見えるのは、決して見間違いではないだろう。ガードはされたが、蒼響の脚には心地良い反動があった。

 意識の誘導を狙った単純なフェイントだ。闘い慣れている相手にはそうそう決まるものではないが、寸前のところまで行けたのは、偏に蒼響の蹴りの軌道の変え方の巧みさによるものだろう。

 だが、やはり向こうも黙ってはいない。

 怯みもせず、間髪を容れずに右の拳を蒼響目掛けて放つ。


「うおぉっ!?」


 頭部を横から刈り取ろうとするその拳を、蒼響も辛うじて腕に阻む。

 

「っ、てぇ~……!」


 じん、と染み入る痛みと熱とにごく小さな声で唸る。

 先ほど受け止めたときと変わらない重さ。これは紛れもなく鈍器だ。相手を倒すためにのみ洗練された鈍器。肌と筋肉の層を隔てても、なお骨まで響く。

 これを何の緩衝もなく受けることは避けたい。

 ──が、ここで一歩退くのも何となく癪だった。

 蒼響はあえて後ろに下がらず、脇を締める。蹴りのために上がっていた脚を戻し、受けた力に逆らわずに体を横へと流して、体勢を低くしながらもう僅かに前へと出る。

 そして、下半身で改めてしっかりとキャンバスを踏み締め、突き出した拳の先は大和の腹を確実に捉えた。


「ぐ……っ」


 先ほど当てたときよりも、綺麗に食い込んだのが感触で分かる。凹凸を描く筋肉の、見た目以上の重みがグローブの革越しにも拳へ伝わってくる。

 今まではヒットアンドアウェイで堅実に攻めていたところに、変化球を織り交ぜてやったのだ。期せずして二重のフェイントとなったというところか。やや不格好ではあるものの、大和の意表を突くことはできたようだ。

 ここに来て、秒単位で繰り広げられる一進一退の攻防に、観客たちの反応にも熱が籠り始める。先に控えるメインに比べれば前菜に過ぎない自分たちにも視線が注がれているのだと思うと、蒼響の精神は更に高揚した。


「逃がさねぇよ!」


 大和よりも、蒼響の動く方が速かった。即座に体勢を戻しながら、膝頭を相手の胴体目掛けて突き上げる。打撃というよりも、押し込むためのものだ。

 一点への圧力で前へと押し出し、大和の足が一歩後ろへ下がったのを視認すると同時に、駄目押しで前蹴りをくれてやる。これは腕に防がれたが、最早関係ない。

 大きくたたらを踏んだ大和が、ロープを背負う。蒼響が背負わせてやったのだ。

 ぎし、と軋み、撓むロープの感触に一瞬大和の意識が逸れたのを、蒼響は見逃さなかった。


「──シッ!!」


 後ろへと引いた左脚を斜め下から鋭く蹴り上げる。三日月の弧のような軌道を描いて、爪先がガードのために上げられた腕のすぐ真下を潜り抜けた。

 蒼響の狙い通り、蹴りは大和の脇腹へと命中した。足が熱い肌に深く食い込み、肉の隙間へずぶりと僅かに沈む。


「ガッ、ハ……ッ!」


 大和の表情が大きく歪み、開かれた唇から小さな唾液の粒が散る。

 そして、彼はふらりと横によろめいたかと思うと、自分の体を支え損ねたかのようにその場に片膝を突いてダウンした。

 客席側からも、小さく歓声が聞こえた。

 即座にレフェリーが間に入り、蒼響をコーナーへと下がらせる。


「ゴホッ!……カハッ」


 頭の位置は低く下がり、もう表情は窺えないが、咳き込む声が聞こえる。

 蹴りの軌道は下から上、衝撃もそれに沿う。あの軌道と角度ならば、確実に肝臓まで衝撃は届いたことだろう。

 重要臓器である肝臓の周辺には、その分、密に神経が集まっている。そこに衝撃が及べば、当然のごとくその神経群を一気に刺激することになる。即ち、激痛である。ついでに、その神経が横隔膜にも近いために呼吸困難までセットで付いてくる。

 苦しみはいわずもがなだ。蒼響も、試合やスパーリングで何度かレバーブローを喰らったことはあるが、その度に二度と喰らいたくないと思うものだ。

 心なしか、大和の背に浮かぶ汗の量も増しているように見える。


 テンカウントが徐々に数字を刻んでいく。

 蒼響はコーナーポストにもたれ掛かり、束の間の休憩としながら大和を見ていた。

 蒼響も疲労は募りつつある。深呼吸を繰り返せば自ずと心臓の音が激しく胸を叩くのが分かった。

 それでも、まだ気は抜けない。あの男は必ず立ち上がってくると、半ば確信じみた予感があったからだ。



エフェクトと汗無し




試し、表現




ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響5 ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響5 ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響5 ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響5 ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響5 ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響5

Comments

ありがとうございます! はばねろさん宅の大和くんはいつもここからの追い上げが見所ですからね!今後の展開も楽しみにしていてください!

ていてい

足でロープへ押し込んでからの、レバーを抉る強烈な蹴り!何というテクニシャン……。足の使い方は蒼響君のほうが一枚上手という感じでしょうか。息もつかせぬ攻防に、読み手にも緊張感が伝わってきました。 腹を打たれてからの爪先で突き刺すような強烈なレバーブローに流石の大和君も片膝をつきましたが、どんなに追い込まれても必ず立ち上がるのがこの男ですよね!今後の展開にますます目が離せなくなってきました。 イラストも体に反射する光から熱気が伝わってくるようで、最後の明暗の演出も含めてとても美しく、光の表現にこだわりを感じました。実際、観客からはこの通り勝敗が決まったような印象に見えているかもしれませんね。 それにしても1枚目、脇腹の食い込みがえぐいですw

笹熊


Related Creators