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ウェルター級キックボクシング プレミナリーファイト 須藤大和vs鳴宮蒼響

 某県某所のとあるアリーナ。スポーツや音楽ライブ他諸々のイベント事に使われるそこには、数多の客席が並んでいる。最大収容人数はおよそ7000人。  しかし、今日も催しの真っ最中だというのに、客席への入りは少ない。いや、正確に言うならば「まだ」少ないのだ。  その理由は至極単純。メインイベントの開始にはまだ程遠いからだ。それ目当ての観客からしてみれば、その開始に合わせて会場に入ればいいのだから、席に座る影が疎らなのも当然のことだ。  このキックボクシングの大会において、今から始まる試合はいわゆるプレリミナリーファイト、すなわち前座も前座である。  しかし、これからリングに立つ二人の男にとっては、いずれも関係のない事柄だった。  派手な入場曲がスピーカーから鳴り始めたのに合わせて、二人の男が入場口から現れた。  金髪の青年は興奮を隠しきれずに足早に、もう一方、灰髪の青年は一歩一歩を着実に踏み締めるように、会場の中央に聳えるボクシングリングへと向かう。  リングの四方を囲むようにしてピンと張られたロープはしめ縄のようなものである。何者にも汚されるべきではない神聖な闘いの場と、外とを隔てる結界だ。天井から吊り下げられた照明は、そこを照らす篝火とでも言うべきか。  二人がそのロープを通る。一人は潜り、一人は軽々と跳び越えて。闘いの場に下りた両者は既に闘いの準備を終えていた。最終調整も万全に終え、ウォームアップもこなして、各々がその時を心待ちにしている。 「これよりウェルター級キックボクシングルール、3分3ラウンドを行います」  リングアナウンサーの声が場内に広がる。まだ人が少ない分、より大きく響いていた。 「青コーナー178cm、67.2kg、鳴宮蒼響」  リングアナウンサーに名前を呼ばれた金髪の青年が元気よく両腕を突き上げると、周囲の客席から疎らな拍手、そして、すぐ近くからセコンド陣の熱い声援が聞こえた。  彼は両腕を高く突き出したまま、明朗な笑みを観客席へと向ける。普段から口角を上げている時間の方が多いのだろう。快活な表情はごく自然なものだった。  だが、その爽やかな面付きとは裏腹に、その肉体は鍛え上げられている。四肢にも胴にもしっかりと筋肉の付いた、格闘家としての雄偉な体だ。尚且つ機動力を削がぬようにとことんまで無駄を殺しており、全身のどこを見ても脂肪など欠片もない。特にその土台である両脚は入念に整えられてきたと思しく、しなやかな厚みを伴っている。それが彼の主武器なのだろう。  その身に、青いグローブと、そして彼自身の頭髪に似た色を基調にして所々に青でラインの入ったものを纏う。これが彼の戦装束だ。 「赤コーナー178cm、66.9kg、須藤大和」  蒼響に続いて、対戦相手の名前が呼ばれる。  鋭い眼光を湛えた青年が、呼び掛けに応えるように軽く片腕を上げた。大和の肉体も、キックボクサーとして洗練されている。筋肉質な肉体には至る所に陰影が見え、胴体、特に腹などは鑿で以て直に彫り込んだのではないかと思うほどにくっきりと形が浮かんでいる。こちらはインファイターに寄った選手であるらしく、二の腕、肩の隆起が顕著に見えた。  彼は赤いグローブを嵌め、下には黒に赤で意匠の入れられたキックパンツと、同様のデザインをしたアンクルサポーターを着けている。  蒼響に負けず劣らず派手な印象の灰色の髪といい客席に一瞥さえもくれない態度といい、幾分ガラが悪く映るものの、対戦相手や場への敬意を欠いているわけではない。その証拠に、大和は蒼響のことを真剣な眼差しで見ていた。  前日のフェイスオフの時点からそうだったが、対戦相手を真っ直ぐに捉えるその目は既にギラギラとした闘志に溢れている。蒼響からしてみれば、それは可愛い女の子からのデートの誘いよりもよほど心を擽るものだった。  もちろん刺激されたのは男心などではなく闘争心なのだが、背骨を駆け上がる異様な感覚を大別するなら興奮で間違いない。 (やっぱすげぇ気合い入ってんなー、あの人! よし、俺も……)  触発された蒼響もまた烈々と炎を灯した瞳で大和へ真っ向から視線をやりながら、自らに気合いを入れ直すように両の拳をぶつけ合った。  そしてレフェリーから促され、両者がいよいよリング中央で向かい合う。  ルール説明の最中も、二人は見つめ合ったままだった。ルールは既に把握しているのだから、それよりも集中すべきは目の前の相手と言わんばかりだ。  二人の間に負の感情は欠片もなく、ただ倒すべき対戦相手に熱く鋭い闘志を向けるのみ。これから熾烈な闘争が始められるはずなのに、どことなく静謐で、爽やかさでさえあった。  そんな言葉を介さないやり取りが、蒼響から強い疼きを引き出す。早く、早く闘いたい、と。力強く脈打つ心臓の鼓動が俄かに速まり始めて、肉の内を巡る血の流れすらもむず痒く感じる。  いよいよ、リングの上に残るのはレフェリーを除けば大和と蒼響の二人のみとなった。  それにより、会場内の空気が、特に大和と蒼響の間に広がる空気が張り詰めたものへと変わる。互いに真向かいのコーナーに立ちながらも、やはり視線だけは外さない。冷たかったリングマットにも、知らず識らずの内に熱が籠り始めているようだった。  その空気が、リングアナウンサーの宣言に間を置かぬゴングの高らかな音により弾ける。即ち、開戦の時だった。

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ありがとうございます! 完結までかなりかかってしまうと思いますが、楽しみに待っていて頂けると嬉しいです!

ていてい

試合の展開が楽しみです!

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