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137.ジャスミーナとメディアン

 メディアンの猛攻を受けて、今にも意識が途切れそうなミルフィーヌ。 駆け付けたジャスミーナの心配する声が遠くから聞こえてくる。 「ミ、ミルフィーヌ……!? 傷だらけだわ! すぐに回復するわ!」 (やはり……ジャスミーナ先生……か)  師の存在に気づき、よろよろと立ち上がる。 頼りなく立つミルフィーヌの肩をジャスミーナが支えた。 「負けた過去があっても……それでも、私はマリエーヌを……助けます……」  ミルフィーヌが小さな声で喋り出した。 「え、負けた過去? な、何を言っているのよ?」  弟子の唐突な発言に困惑するジャスミーナ。 ミルフィーヌの視線は定まらず、明らかに思考力が低下している。 先程までメディアンとしていた会話を続けているようだ。 「私は……負けたけど……それでも……」  ミルフィーヌは呟きながら再び倒れてしまう。 彼女を守るように、ジャスミーナがしゃがみ込む。 (もう……体力が……ない。魔力は温存できた……というより、魔法を放つことさえできなかった……。しかし皮肉にも、そのおかげでテンイスルーが唱えられる……)  自身の状態を確認しながら、そのまま気を失うミルフィーヌ。 「ヒールレイン……!」  ジャスミーナが回復魔法を唱えて傷を癒す。 弟子を心配しながらも、その眼光はメディアンを射抜いている。 「噂をすればジャスミーナ……か! 明確な敵意を私に向けているね!! これは厄介だなぁ……」  一連の様子を見ていたメディアンが喋り始めた。 その勢いは止まらない。 「……ジャスミーナまで来るなんて、本当に厄介だよ。レブリナートは何をやってんのかなぁ!? バリアントのスペシャリストが聞いて呆れるよ! ぜんっぜん防衛できていない!!」  メディアンが身振り手振りを大袈裟にしてボヤく中、ニラみを利かせ続けるジャスミーナ。 「さっきから何だい、その目は? 私とやる気かい? ……キミの弟子が私の邪魔をしようとしたのが悪いんだからね? ……それにしても、キミの弟子はポンコツだったね。ああ、本当にポンコツだった……!!」  ポンコツという言葉に嫌な表情を見せるジャスミーナ。 気絶しているミルフィーヌを一瞥した後で、ゆっくりと口を開いた。 「……ふんっ。あなたには分からないようね? この子の才能が……」 「んん? 才能? う~ん、分からないねぇ。王宮での召喚魔法には驚いたけどさ。それでも隊長である私の目を引くような特別な才能はないと思うよ。伸び代を感じなかったなぁ」 「見るべきところは戦闘力だけじゃないのよ。私はちゃんと、この子の長所を分かっている」 「教員らしいことを言っているけど、この里では戦闘力がなければ何の説得力もないよ。それがサンビュルーリカだろう?」  ジャスミーナは溜め息をついた後で、ミルフィーヌのことを見た。 「……ミルフィーヌ、ちょっと待ってなさい。すぐに終わらせるから」  気絶した状態の彼女にそう告げ、回復魔法を停止させた。 屋台の屋根の下に移動しミルフィーヌを寝かせた。 そしてメディアンに向かって前進し、静かに戦闘の構えをとるジャスミーナ。 そのゆっくりとした所作からは余裕が感じられる。 雨の中、商店街の通りで白衣の2人がニラみ合う。 周囲に集まる魔女達は、その光景を見て言葉を失う。 一瞬だけ静寂が訪れた後でザワつき始めた。 「こ、今度はこの2人が戦うの……!? どっちが強いんだろう……?」 「一体、この里で何が起こっているのかしら?」 「とりあえずミルフィーヌさんを遠くに避難させる?」 「バカッ! 魔女隊に捕まっちゃうって!!」  ザワつくのと同時に、メディアンが突進する。 左右に体を揺らしてフェイントを入れた後、右の拳で殴りかかる。 ジャスミーナは体を少しだけズラし、その拳を難なく避ける。 あっさりと攻撃をかわされ、メディアンは慌てて2、3歩ほど後ろに下がる。 「おっとっと……さすがに私の格闘術は通用しないかぁ! 弟子と同じような展開になるはずがないよね!! じゃあ……久々に魔法戦かな? まずは小手調べ……ウィンドボールだ!!」  さらに後退してジャスミーナとの距離を取り、そっと手の平から魔法を放つメディアン。 直径1メートルほどの大きさで、球体状に気流を纏った風属性の魔法が十数個放たれた。 「ちょっと! そんな魔法を商店街で放つなんて! あなた達、ここから早く離れなさい!!」  環境効果によってウィンドボールの威力は増強している。 被害を気にするジャスミーナ。 見物人の魔女達に大声で避難を促した。 「……ま、魔法戦が始まった!?」 「逃げろおおおっ!! 巻き込まれるうぅっ!」 「きゃあああっー!?」  逃げ惑うが人々が大声で次々と叫び出す。 放たれたウィンドボールの内部では、触れたら切り刻まれるであろう風の刃が高密度で荒れ狂っている。 「仕方がないわね……アースウォール!!」  すぐにジャスミーナが魔法を放って防御に回る。 商店街の道路にはレンガが敷かれている。 ジャスミーナの目の前に、道路からレンガの壁が発生した。 高さ2メートル、幅も2メートル、厚さ30センチほどの巨大な壁である。 魔法によって形成された壁が、ジャスミーナ自身と、彼女の真後ろの位置にいるミルフィーヌを守る。 メディアンが放った魔法は、驚異的な回転数を誇る。 威力も速度も申し分ない。 その攻撃魔法の全てをジャスミーナのアースウォールが弾いた。 弾かれた十数個の魔法が商店街の建物にぶつかっていく。 周囲の建物に被害が出て、あちこちから悲鳴が上がる。 「ほら、被害が出ちゃったじゃない……。そっちが修理費用を負担してよね」 「はははっ! そこら辺のルールも新魔女王次第だよね? 今の魔法はアースウォールだね。へぇ……たいして大きくなく、薄いレンガの壁なのに、私の魔法を簡単に弾いてくれちゃって……。あ、壁の体積を抑えて密度を上げたのか。判断も発動も早いねぇ。とは言え、風魔法を土属性の魔法で守るのは教科書通りだよね。じゃあ、お次は……」  再び後退し、道路の端にある建物まで下がるメディアン。 道路の中央付近にいるジャスミーナから限界まで離れ、両手に大きな魔力を込める。 「混合魔法……ウォーターストリーム!」  両手を大きく広げて発生させたのは、水で形成され、龍の形をした攻撃魔法。 胴回り5メートル、全長10メートルになろうかという長く巨大な胴体をもつ龍型の魔法が、その体を折り畳みながら、そして勢いよく回転させながら突進してくる。 「なんですって……!?」  ジャスミーナの顔色が変わる。 逃げ惑い距離を取っていた人々も、その魔法を見て再び騒然とする。 「え!? 規格外の魔法を放ったわ!!」 「ヤバい! もっと離れましょう……!」 「お、恐ろしい!!」  魔女達がさらに遠くへ逃げる。 ジャスミーナの顔色を見て、笑みを浮かべながら口を開くメディアン。 「ウォーターストリーム……ドラゴンver.だよ!」  本来、水属性と風属性の混合魔法であるウォーターストリームは、龍の形をしている魔法ではない。 巨大なホースを使って前方に水を放出し続けるような形式の魔法であり、さらに風属性の影響でその水流が激しく渦巻いている。  喜々として説明するメディアンに呆れ、冷静になるジャスミーナ。 (ドラゴンバージョン……? ふざけたことを言っているわ。龍の形をしているけど、ただの水属性と風属性の混合魔法よね。水でできた龍を風の推進力で進めているだけだわ……)  ジャスミーナが両手に魔力を込める。 「混合魔法……ブリザードストーム!」  両の手の平から放たれた混合魔法は、彼女の前方に激しい突風を巻き起こした。 その突風は強力な冷気を纏っている。 激しく降り注ぐ雨水を凍らし、道路も凍り付かせていく。 ジャスミーナに向かって勢いよく放たれた、水で形成された巨大な龍型の攻撃魔法。 その強大な魔法でさえも一瞬で凍り付かせてしまった。 龍の体全体が凍りつき、その動きが空中で停止する。 「おいおいおい!? 一瞬で……!?」   動揺するメディアン。 ジャスミーナが放ったブリザードストームは、かつてマリエーヌが使ったものと同じものだ。 アイスストームとウィンドストームを併せた混合魔法である。 氷結の効果に加えて、風の刃による攻撃が行なわれる。 氷の彫刻と化した龍型の攻撃魔法は、風の刃に切り刻まれて粉々に崩壊された。 「お、おお……!? おっとぉっ!?」  抜群の破壊力を目の当たりにし、動揺が収まらないメディアン。 まだブリザードストームの勢いは衰えていない。 激しい吹雪の刃がメディアンに襲い掛かってくる。 彼女は必死になって後ろに下がった。 しかし、魔法の勢いに押されて後方にあった建物の壁に、その体を打ちつけられた。 「ぐううぅっ!? う、うぅっ……ジャ、ジャスミーナめ!!」  体が凍えて動きが鈍る。 それでも壁に這いつくばりながら、なおも続く吹雪の刃を必死に避けるメディアン。 彼女は全身が凍えてしまった上に、風の刃で切り刻まれてしまう。 凍傷と裂傷を負った。 出血した彼女を見て、ジャスミーナが口を開く。 「……ダメージを与えたわね。これであなたの俊敏性は低下したわ。ねぇ、あなた……こんなものだっけ? 私が強くなり過ぎたのかしら?」  魔法の発動を止め、煽るジャスミーナ。 煽られはしたが、猛吹雪が止まったことによりメディアンは冷静になっていた。 切り刻まれた脚を引きずりながら前に出る。 「……言ってくれる! 私の魔法を凍り付かせて風の刃で崩壊させ、さらには私自身も攻撃するなんて! ウォーターストリームに対する教科書通りと言えば教科書通りの対応だけどね! それにしても、その判断と魔法の発動が早いなぁ! そしてイレギュラーな巨大な龍の造形を目の前にしても動じない、そのメンタル!!」  傷ついた状態で元気よく解説するメディアン。 それに対して、ジャスミーナは冷静に喋り始める。 「まぁ……当然、攻撃魔法を効率的に相殺する理論は熟知しているわよ。それより……そもそも私のほうが魔法の威力が高いことを気にしたほうがいいんじゃないの? あなたのほうが環境効果の恩恵を受けているのに完全に私の魔法のほうが強力よ」  本日は悪天。 水属性と風属性、そして雷属性の魔法に環境効果が生じている。 先ほどの魔法戦はウィンドボール(風)に対してアースウォール(土)、ウォーターストリーム(水+風)に対してブリザードストーム(氷+風)。 どちらも環境効果を考えるとメディアンのほうが有利であった。 「ううっ! う、うわぁ……容赦ないなぁ」  痛いところを指摘され、メディアンが頭を抱える。 環境効果が攻撃魔法の勝敗の全てを決めるわけではない……と反論したいところだが、完膚なきまでに負けているので、そのような反論をしても情けなく感じてしまう。 そのため、口を閉ざすメディアン。 「今度は私から攻撃を仕掛けようかしら? ミルフィーヌのことが心配だし、早く決着をつけないと。見物人は遠くに離れたから安心して戦えるしね」  後ろで倒れるミルフィーヌは未だに気を失っている。 激しさを増す魔法戦に、周囲の魔女たちは遠くに避難していた。 ジャスミーナが攻撃を仕掛けることを示唆したが、メディアンは何か別のことを考え始めていた。 「ああ、ジャスミーナ……教育者の道を選んでも、腕は落ちていないようだね。……嫌だ嫌だ! エリートの上に何でもできて嫌だ! 恵まれた人生だね」 「いきなり何の話よ? 昔から唐突なところがあるわよ、あなた。エリートって……あなたはサンビュルーリカ出身者が憎いのね? そういう感情はともかくとして、この里にいる魔女達のことを考えると、生まれと戦闘力は関係ないと思うけど。生まれは大きな問題じゃないでしょ」 「うん……そうだね。それはそうだ。……私とキミとの戦いで大切なのは生まれじゃないみたいだ。さっきからキミが教科書通りに魔法で相殺しているところを見て、本当にそう思う」 「は? なによ……?」  メディアンの言うことがよく分からなくなっていき、困惑するジャスミーナ。 「キミは教科書に頼りきりだよ。教科書の1ページを増やすために魔法の研究をしているんだからね。そりゃそうなるか! けどね、この戦いの勝敗を決めるのは、そこじゃないんだ。人を殺すために研究をしてきた奴が勝つんだと思うよ!!」  メディアンの目つきが変わる。 少し目が据わってきた。 「人を……殺すための研究? あなた、何をする気なの!?」 「この魔法にまだ名前はないけどね。もちろん勝利するのに名前はそれほど重要ではないから気にしないよ。さぁ、いくよ? ……毒魔法」  メディアンが大切なものを持つように両手を前に出した。 それと同時に差し出した両手の真上の空間から魔法が放たれ、2人の周囲が緑色の微粉末でいっぱいになる。 緑色に染まった空間に驚きを隠せないジャスミーナ。 「え、ちょっと……!?」  彼女は少し気分が悪くなるのを感じた。 (ど、毒……? 毒草は分かるけれど……『毒魔法』ですって? そんな魔法が存在するの!? ま……まずはミルフィーヌを守らないと!!)  見聞きしたことのない魔法に焦るジャスミーナ。 後ろで倒れているミルフィーヌのところまで下がる。 「待ちなよ……」  対するメディアンは、ゆっくりと前に出てジャスミーナとの距離を詰めていく。 毒魔法を使いたい衝動を抑えられず、ブリザードストームによる凍傷と裂傷の回復を後回しにしていた。 そのため、素早くは動けない。 ミルフィーヌのもとに近づくジャスミーナに対して、静かに指先を向けた。 「これはどうだい? ……熱線魔法」  彼女の指先から、熱を帯びた線状の光が直線的に飛び出す。 指向性が強く、レーザーのような軌道である。 (な、なんなの!? とても強い魔力! 速度もある! これは非常に危険な魔法ね)  エネルギーが増幅された、まさにレーザーのような魔法である。 この世界にレーザーを放つ技術はないが、その見た目から感覚的に危うさを感じるジャスミーナ。 迷わずに回避を選択する。 「くっ! ミルフィーヌも助けないと……!!」  彼女はミルフィーヌを抱え、ギリギリで熱線魔法を避ける。 後ろの建物の壁に直径1センチにも満たない円形の穴が開く その円周辺に焦げた後があるものの、綺麗な円になっていることが分かった。 (や、焼けている!! すごい威力だと、こんなに綺麗な円形になるの? こんなに小さい範囲で、しかも速い……。これも見たことがない魔法ね。もし体に当たったら……)  当たりどころによっては、即死すると判断した。 「あなた……嘘でしょ……? 本当に殺すための魔法……って感じね」 「お! さすがの天才も動揺しているね。じゃあ、とっておきを……」  メディアンが両手を上げ、バンザイのポーズを取った。 (まだ……何か新しい魔法があるの!?) 「爆破魔法」  再びメディアンが魔法を唱えた。 彼女を中心に、半径50メートル圏内が唐突に爆発した。 「う、うそっ……!?」  ジャスミーナの後方にある店が5件ほど崩壊する。 さらに、メディアンの後ろ側に建てられていた店舗も5件ほど崩壊した。 ジャスミーナはミルフィーヌを抱えたまま、彼女の後ろ側にあった建物の内部に吹っ飛ばされた。 その建物の天井も壁も吹き飛ばされてしまい、もはや原形をとどめてはいない。 (な、何よ……毒に、円形に焼く魔法、そして爆発!? これらは混合魔法ではないのかしら!?)  次々と繰り出される見たことのない魔法を目にし、ジャスミーナが焦り始める。 「はははっ! まだまだこんなもんじゃないよ? 初見だと、どれも避けるのはキツイいだろう? もう一度! もう一度爆破しようかな!?」  笑うメディアン。 その笑みは勝利を確信している。 (くっ! 今の爆破でダメージを受けた! 毒の症状もキツくなってきた! ミルフィーヌも毒魔法の影響を受けている! 早く治さないと!)  爆破によりダメージを受けた。 それだけではなく、毒魔法による吐き気に腹痛、頭痛も生じてきた。 倒れて気を失っているミルフィーヌの体を抱きしめたまま、魔法を唱えるジャスミーナ。 「……テレポス」  崩壊した建物内から、さらに後方にある商店街の1つ隣の通りに移動した。 メディアンが連続で爆破魔法を放ったとしても、直撃を受けずに済むほど離れた距離である。 敵との距離を取った後で、毒の状態を回復する魔法を唱える。 「……ドクトール!」  ジャスミーナとミルフィーヌを黄色く輝く光が包む。 両者を瞬時に解毒した。 そんな中、ゆっくりと近づいて来るメディアン。 その目はやはり据わり気味である。 「メディアン、あなた……狂っているわね。こんな攻撃魔法……里に大きな被害が出ているわよ?」  風に乗って広がる毒。 熱線と爆発による建物の破壊。 とくに爆破の規模は大きく人々への被害も出始めていた。 「まぁ、多少の犠牲は仕方がないよ。爆破圏内にいたってことは、逃げ出さないで野次馬をすることに時間を使っていたんじゃないかな? そういう人達にも非はあると思うよ。魔女隊が働いているのは分かっているはずなのに。……って、おいおい! 私から逃げた魔法は、時空魔法じゃないか……!?」  ジャスミーナは、時空魔法であるテレポスを使って距離を取った。 レアな時空魔法を使えることに疑問をもつメディアン。 「まあね。……だから何よ?」 「まさか時空魔法を使えるなんて! 昨日の会議で言わなかったんだね?」 「は? それが何か問題でも……?」 「ストマイドが時空魔法を使えることが話の焦点になっているときがあったはずだ。魔女学校で時空魔法を使える教員がもう1人いるのであれば、ストマイドの死刑に関して話が変わってくるだろう……!」  近づきながら喋り続けるメディアン。 ストマイドに関する極秘の会議内容ではあるが、とくに爆発の影響で見物人の魔女達は遥か遠くに逃げている。 周囲の建物内にいた人達も、慌てて遠くへ逃げ始めており、聞き耳を立てている余裕はない。 そんなパニックな状況の中で話し続ける2人。 「私が時空魔法を使えるとは言っても、時空魔法を教えるために教壇に立てるほどじゃないわ。それに、これを会議で言ったらストマイドの価値が下がるでしょう?」  ジャスミーナがメディアンに返答した。 「……それが理由か。彼の死刑を避けるため……ずいぶんとストマイドにお熱だね? もしかして彼に時空魔法を教えもらったのかな?」 「あなたに言う義務はないわね」 「へぇ、秘密なんだね。……時空魔法が使えることはウォルグリア学長にも教えていないのかな? 学長も学長でキミが時空魔法を使えることに触れていなかったね」 「それも言う義務はないわ」 「秘密が多いな……」 「あなたこそ、毒魔法に……熱線魔法? さらには爆破魔法……色々と開発しているわね。初めて見たわ、あんな魔法。しかも殺すための魔法……って言っていたわね? 魔女王様を殺した魔法も、あなたが開発しているんじゃないかしら?」  魔女王暗殺の話が出て、メディアンが足を止める。 「はははっ!! 冗談キツいな。あの殺しは異常だよ。体内から攻撃魔法を発生させるなんて、そんな魔法は聞いたことがない! しかも、あの強大な魔力をもつアインベルト様にそんなことをできる人物なんているのかい!? ストマイドの力量でそんな偉業を成し遂げられたとは思えないよ! というわけで、犯人は私じゃないよ? きっと威力集中型の熱線魔法でさえ跳ね返されて終わりだよ。私には誰が殺ったのか全く想像がつかないねぇ!!」 「そう……。ヒールレイン」  メディアンの説明について考える素振りを見せながら、ジャスミーナは爆破で受けた自分とミルフィーヌの傷を治し始めた。 「キミは犯人の目星がついているのかい、天才ジャスミーナ?」  回復されていることは気にせずに、会話に熱中するメディアン。 「天才って……さっきも言っていたけど、学生時代の古い呼び名だったわね。……目星なんて、ついているわけないじゃない。動機だったら魔女隊の隊長達にあると思うけど。もちろん、あなたにもあるでしょ?」  メディアンが言葉に詰まる。 「……どうだろうね? 動機ならキミにもあるんじゃないか? キミの会議での発言は、明らかにストマイドの味方をしていた。死刑を止めたかったんだろう?」 「当たり前よ。彼は時空魔法という分野において、教育と研究において貢献してきた。あなたの動機だって明確よね。研究費と研究方針よね。魔力石と魔法石について意見が対立していた……」 「さぁ……どうだろうね?」 「え、いやいや!! あれは露骨だったわよ!?」  無理のあるメディアンの否定。 ジャスミーナが勢いよく指摘した。 それに不快な表情を示すメディアン。 「むっ! ああ、そうだ! そうだよ!! 研究費はもちろんのことだけど、魔力石と魔法石の件も、私には耐えがたいんだ! それは教育者だけではなく、研究者の顔をもつキミも同じだろ!? そこは共感してくれないかなぁ!?」 「あら? 都合の良い時だけ、ちゃんと研究者として扱ってくれるのね? まぁ……それも答える必要はないけど」 「ふん! 本当に秘密主義だなぁ。怪しい怪しい!! 学校は研究隊よりも秘密裏に実験できそうだしねえ? じつは魔法石の開発を行なっているんじゃないか!?」 「何を言っているのよ? 私の関心は魔法石に向いていないわ。あなたの欲望でしょう、魔法石は。研究所をいくつももち、トップの立場であるあなたのほうが隠れて実験の指示を出せるはずよ。あなたのほうが怪しいわ」 「おあいにくさま! 魔女隊はアインベルト様の監視が厳しかったんだ!! ああ! キミが魔力石と魔法石の理論研究をして、私が実戦でどう使うかの応用研究をする……。最高の結果が出ると思うけどねぇ!! もしかして、利害は一致するんじゃないか!?」 「……しないわよ。あなたがそんなものを取り扱ったら、サンビュルーリカはおかしくなるわ。攻撃隊と組んでオルダンテと一緒に侵略戦争を始めるでしょ? サンビュルーリカが狂っていくと思う」 「まぁ、あらゆる国から魔力石を確保したいよね! ああっ! 素晴らしい未来が見えるよ! だから私はマリエーヌを支配する! キミは大人しくしていてくれるかい?」 「私を倒せたら、その未来は実現できるかもね。私は私で動くわ。ここであなたを止める」 「その選択……キミにとって、メリットはないと思うけどなぁ」 「侵略戦争なんてさせないわ。あとはミルフィーヌをいたぶってくれたお礼をしなきゃね。これもすごい大事」  傷の回復を済ませたジャスミーナが、ミルフィーヌを置いて立ち上がる。 舌戦を終え、ニラみ合う2人。 (また新しい魔法が立て続けに来たらマズいわね……。ミルフィーヌを守りながら勝てるかしら? 私も奥の手を使わないと……いや、逃げられるのであれば、逃走も選択肢に……って、あら? 何かしら?)  ジャスミーナが周囲の異変に気づく。 「……なんだ? 誰か来たぞ!?」  ほぼ同時に、メディアンも気づく。 2人の視線が1箇所に向かう。 「あれは……」  少し離れたところに姿を現したのは、マリエーヌとケンジ、そしてディストーマだ。 マリエーヌが、倒れているミルフィーヌにすぐに気づく。 「ミルフィーヌ……!!」  その声が届いたのか、ミルフィーヌの体が少しだけ動き、目が半分ほど開く。 「ミ、ミルフィーヌさん!?」  次に言葉を投げかけたのはケンジだ。 (マリエーヌの……声が聞こえたのか? あとは……ケンジの声か? 今までどこで戦っていたんだ? イドウスルーでやって来たのだろうか? ま、まさか……オルダンテ隊長を倒したのか!? 私は……気を失っていただけだ。くっ! 何もできなかった……。私は役立たずだな……。しかし、このチャンスは必ず生かす……!!)  ミルフィーヌは倒れたままだが、徐々に意識を取り戻している。 「へぇ……向こうから来たか。戦力外の男達もいるけど。それにしても、オルダンテも何をやってるんだか……。う~ん……ジャスミーナとマリエーヌが組むのは、ちょっと厄介かもね」  そう言いつつも、不敵な笑みを浮かべているメディアン。 「マリエーヌが来たわ。これで2対1。あら? 雨が上がってきたみたい。……なんだか形勢逆転って感じがするわね」  ジャスミーナは凛とした表情でメディアンに視線を向けた。 --- 9月は本作の続きを2話更新する予定です(9/6と9/13)。 そこまで投稿したら、いったん魔女王編の投稿は休止します。 その他の短編は完成次第投稿しますが、9月に投稿できるかどうか未定です。 ペースダウンしてしまいますが、今後ともよろしくお願い申し上げます! Subtle


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