133.隊長戦 ーケンジサイドー
Added 2023-08-02 08:00:00 +0000 UTC前の話はこちら↓ https://mariene-novel.fanbox.cc/posts/5677610 今回の話はマリエーヌとオルダンテの戦いが始るところからスタートします。 --- 俺はマリエーヌを追いかけて階段を降り始めようとしたが、途中で引き返してきた。 マリエーヌが水系の魔法を放ったからだ。 上空に水の壁が吹き上がり、そこから周囲に吹き荒れる水の勢いも強烈である。 もし無理に突進して水の壁の本体に巻き込まれでもしたら、吹っ飛ばされて死んでしまいそうだ。 俺は……完全に足手まといである。 元いた位置……つまり、階段の上まで戻って戦いを見守ることにした。 彼女とオルダンテが次元の違う戦いを繰り広げている。 ど、どうしよう……!? 俺にできることはシラベールぐらいか? しっかりと能力値まで見てみよう。 俺はシラベールを唱えた。 --- マリエーヌ 種族: 魔女 レベル 903 HP 3931/3931 MP 7486/8050 ちから 2027 たいりょく 2243 かしこさ 5246 すばやさ 4045 うんのよさ 2540 オルダンテ 種族: 魔女(♂) レベル 5526 HP 16870/16915 MP 24175/24307 ちから 8905 たいりょく 9279 かしこさ 12421 すばやさ 45866 うんのよさ 7432 --- オルダンテ……つ、強えっ!! ストマイドのレベルは2500~3000ぐらいだったはずだ。 約2倍もあるじゃないか! 能力値的にはとくに素早さがズバ抜けているな。 桁が1つ違うじゃないか……。 --- ナイリッシュ 種族: 魔女 レベル 6060 HP 19453/19453 MP 115144/115144 ちから 13516 たいりょく 15770 かしこさ 129525 すばやさ 21899 うんのよさ 12006 --- ……ん? さらにもう1人のステータス? 勢いあまって、プラス1回唱えてしまったか!? この人はMPと賢さが桁違いに高いぞ!? 名前は……ナ、ナイリッシュって……!! 「はい、どうもー」 彼女は階段を上がって来ており、俺の近くまで来ていた! 法務隊の隊長で……俺の苦手なタイプの人なんだよね。 金髪のショートヘアに童顔猫目で金色の瞳。 色白で細く、身長も160センチほどで強そうには見えないけど……めっちゃ強いなぁ。 この人は拷問室から一番先に出て行ったんだ。 挨拶されたから、返事ぐらいはしておくか……。 「さ、先ほどはどうも。あらためまして……こんにちは。ははは」 ど、どうする……!? まさか俺が隊長と1対1になるとは……!! 「……もはやオルダンテ隊長は、犯人が誰でもよくなってるよね? 魔女隊の隊長達は、マリエーヌが次期魔女王と分かった時点で意見は同じ。どうにかして自分が魔女王になれるように動く……だね。彼女を殺るのが1番手っ取り早いと考えたんだろうね。まぁ、それには同意かな」 普通に喋り出したぞ!? 相変わらずの早口だ。 俺と戦う様子ではないな……。 「……悪いけど、このままキミの隣に立たせてもらうよー。私はキミのことをナメていないからねー。ストマイド事件の取り調べ内容は頭に入っている。キミがあの戦いでマリエーヌを勝利に導いたキーパーソンだということは分かっているからね?」 う……やりづらいなぁ、この人。 ストマイドみたいに俺の存在を無視するような人なら動きやすいのに……。 で、この人もマリエーヌを殺す方向で動くんだな。 「あとさ……キミは何者なのかな? 当然のようにマリエーヌと同行しているけど、時空魔法を使えたり、マリエーヌだけではなくディストーマにも気に入られていたり……。しかもミルフィーヌの奴隷になるという申請が通った。なんだか違和感があるね。キミはマリエーヌに従っていたんでしょ?」 ストマイド事件の取り調べに続いて、ミルフィーヌの奴隷になる申請もしたから、俺のことはある程度バレている。 「何者って……普通に人間ですよ。あの……僕を見張っているだけで、殺しはしないんですか?」 「普通の人間ね……」 なんか考えているようだけど、余計な情報は言わないぜ。 「まぁ、いいや。私はキミのことを殺しはしないよ。頭が良い男は興味があるんだよねー」 お、俺に……興味があるだと? 「私は魔女王暗殺の犯人が気になるね。魔女王より強い人が周囲にいる訳だから、それはもうただの驚異だよ。で……キミは誰が犯人だと思ってるの?」 「え……少なくとも僕たちではないですね。本当に。ディストーマさんも含めて」 「へぇ、ディストーマもキミら側なんだね? 本当になんでキミとディストーマの間に深い信頼関係があるんだか。……どんな手を使ったのかな?」 「まぁ……たまたまですよ」 ディストーマを説得したことについては、王国転覆に関わることなので取り調べでは言っていない。 ディストーマとの関係は、本当は俺が結構がんばったわけだけどね……。 「……すごいね。ディストーマは気難しそうなのに。みんなで仲良く……何を狙ってるのかなー?」 王国転覆を狙っていたんだけども。 ……ただ、魔女王が殺害されたことにより、状況が変わった。 「……」 「私が言いたいこと、わかるよねー? 魔女王の暗殺を……みんなで狙っていたんじゃない? マリエーヌの成長は著しい。ミルフィーヌには知恵がある。じつは魔女王を殺す術を身につけているんじゃないの? オルダンテ隊長は単純だから、マリエーヌにそんな力があるって想定せずに戦っているみたいだけど。ふふっ」 ちょ、ちょっとオルダンテをバカにしている……。 それにしても、俺達を疑っているんだな。 犯人を突き止めたいから俺を殺さないのだろうか? 俺に興味があるってのは意味がわからないけども。 「本当に……僕たちは何もしていませんよ?」 そんな話をしていると、大きな音が聞こえた。 階段の下ではマリエーヌが攻撃魔法を放ち続けている。 あそこだけ天変地異が起こっているぞ。 両者のレベル差は大きいけど、新技と魔法の環境効果とやらで押し切れるか……? この里の男は……俺のシラベールだと魔女(♂)と出る。 男の人たちは一系統の魔法しか覚えられなかったはずだ。 過去でミルフィーヌが言っていた。 オルダンテは炎系の魔法だけしか使えないはずだから、この天候じゃ環境効果は意味を成さないだろうな。 「おお、すごいすごい。マリエーヌが魔法で押しているように見えるねー。今のところは。……で、キミ達が犯人じゃないっていう証拠は? 出せる?」 ナイリッシュが会話を再開した。 証拠なんて出せないよ……。 昨夜はマリエーヌと一緒に寝てたけど、それは証拠じゃないもんな。 まぁ、俺とマリエーヌの関係を知られることになるから言わないけど。 それにしても、この隊長……強行的に白状させようとはしないのか? 「あの……僕の考えていることを知りたかったら、自白魔法をかければいいじゃないですか?」 「ははっ! キミみたいな弱者に自白魔法をかけたら、精神が崩壊するよ? 自白しても再起不能。それは残念だね」 「……残念?」 「私の話し相手になって欲しいだけ。この里の連中はバカばっかりでねー。とくに男」 「……」 俺はこういう人……嫌いなんだよね。 自分は頭が良いと思っている。 才能があって、地位もある。 まぁ、それよりも何が嫌って、他人のことをバカにしている感じだ。 そこは……心の中でそう思っていたとしても隠さないと。 頭が良いとは言え、この人は詰めが甘いところもある。 ストマイド事件の取り調べでは根掘り葉掘り、そんなに俺たちのことを深くは調べられていないんだよね。 ディストーマ、ストマイド、マリエーヌの関係を中心にした取り調べだった。 主に俺とマリエーヌがアダマーリカに向かった時点からだ。 マリエーヌとミルフィーヌは魔女学校時代のことも聞かれたかもしれないが。 ストマイドが先生をしていたわけだし、ディストーマも生徒だったからね。 あくまでもストマイドの犯罪についての調査だった。 俺の素性までは調べられていないし、エリィと出会ったことさえ話題になっていない。 自分が頭が良いと思っているみたいだけど、甘いぜ。 俺たちを相手にするのに、エリィが選択肢に入っていない。 俺たちはエリィを呼び出せれば……勝てる。 この場を覆せるのだ。 エリィのレベルは本当に桁が違うからな。 隊長達は、まさかサキュバスの王が出てくるなんて想定していないだろう。 もっとも、オルダンテみたいに即死級の攻撃を仕掛けてこられたら召喚されないだろうけど。 ナイリッシュが仕掛けてきたら、俺は全力でアイスウォールで防御して一命を取り止めるぞ。 ちゃんとエリィが召喚されればいいけど……。 ん……? 向こうで動きが…… 「……あ、あぁっ!? マリエーヌ様!!」 マリエーヌの腕やお腹から血が吹き出した! そして……2人とも落下したぞ!? マリエーヌから、かなり大量の血が……流れている。 よく見えなかったが、紫色のマントを脱いで防御に使ったみたいだ。 今日は白いTシャツだから出血がよく分かるぞ……。 あれだけ大規模に放っていた攻撃魔法は消えてしまって、激しい雨だけが降り注いでいる。 「あらら。オルダンテの剣速の前では、あの程度の攻撃魔法じゃ無力みたいねー」 そんな……最後は混合魔法のサイクロンボールも使っていたのに! おそらく雷系と風系の魔法を掛け合わせた魔法のはず。 環境効果をもってしても、刀を振るうだけでかき消されてしまったのか……。 と、思考していると後ろから誰かがやって来た。 俺とナイリッシュの近くにいるぞ。 だ、誰だ? 学生!? 制服を着た子たちが4人、俺たちの近くに来たぞ!? え!? マリエーヌを……応援している!! めっちゃ尊敬されてるじゃん、マリエーヌ!! そうだよね……この学校はけっこう、リスペクトマリエーヌ状態だった! これは嬉しいんじゃないか、マリエーヌ!? 「あ……オルダンテ隊長、イライラしているねー」 なぁっ!? う、うぅっ……!? マリエーヌが刀で脚を刺されてしまったぞ……!! これは本当にヤバくなってきた。 こんな簡単に……あのマリエーヌがピンチになっている。 女子学生達も悲鳴を上げている。 俺が……行かないと!! 「マリエーヌ様!! 今、そっちに行きます!」 「だからさ、キミは私の話し相手だってー。ここで私がキミを気絶させて、あっちの戦いに参戦して2対1にしてもいいんだよ?」 ナイリッシュが俺の目の前に移動して道を塞いだ。 そして不敵の笑みを浮かべて脅してきやがったぞ……。 くっ……!! それだともう、今よりも絶望的な状況になってしまうじゃないか……!! 「で……オルダンテ隊長って本当に単細胞って感じだと思わない?」 また俺の隣に移動して普通に会話を再開したぞ!? この人は……どれだけ俺と話をしたいんだよ……!? 「この里、バカばっかりでつまらないんだよねー。優秀なあらゆる種族の雄を里に引き入れたいよ。とくに優秀な人間は大歓迎。人間は頭がいい。頭が悪い魔女や男、奴隷は出て行って欲しいね」 「……!」 ナイリッシュが言っているのは……優生思想か。 俺の世界では狂気を生んだ価値観だ。 こ、これだ……! 俺が感じていた、この人の嫌な雰囲気の正体……!! 中学校の教師として、俺も一応たくさんの人と接してきた経験がある。 この隊長は、なんか嫌だなって思っていたよ。 「ナイリッシュ隊長……あなたも魔女王になりたいんですか?」 「ん? そうだよー。前魔女王は、パートナーを里の中に入れなかったからね。優秀なパートナーと子供をつくれてはいるけど、優秀なパートナーを里に残せないんだよ。親の教育の大切さを分かっていない。私が魔女王になったら、頭が悪かったり弱かったりする魔女や男、奴隷達は全員処刑かな」 ま、また過激なことを……。 これまでのサンビュルーリカより事態が悪化するぞ。 「教育が大事なのは共感できます。ですが……」 「……ですが?」 「優生思想ですよ、それだと」 「ん? なにそれ?」 「人の命に優劣をつけ、劣っている者を淘汰する考え方です。僕の国ではあり得ないですよ」 「ははっ! どこの国ー!? 強い者が弱い者を搾取するのは、強いものだけが生き残るのは、当然のことだよ。自然の摂理ってやつ」 「……」 ここは俺がいた世界とは違う。 この意見は受け入れられないか……。 パートナーが里に入れないのがおかしいということと、教育が大事というのは同意見だけどさ。 くっ! 不快だったので熱くなってしまった。 余計な議論をしてしまったか……。 この人にはなるべく情報を渡したくない。 って、あ…… 「……マ、マリエーヌ様!!」 全身をズタズタに切られている! ところどころ衣服が切られているのが、この位置からでも分かる。 さらに血が流れている……! しかも、いつの間にかオルダンテが二刀流になっているぞ!? マリエーヌが階段を転げ落ちて倒れてしまっている……。 もうこの状態はマズい……本当にマズいぞ。 「うわあ、オルダンテ隊長……めっちゃストレス溜まってんねー。あんなに怒って、みっともない」 オルダンテ……さっきから大声で里の闇をマリエーヌにぶつけているぞ。 サンビュルーリカで受けた苦しみと、マリエーヌへの嫌味だ! ……って、マリエーヌだって本当に大変だったんだぞ!? そもそもマリエーヌに言うのは筋違いじゃないか? 若い世代のマリエーヌに言うなんて……か、格好悪い!! 格好悪いぞオルダンテ! おじさんだったら、若者に道を示せ! ……と、思ってしまうが、この世界はおじさんだろうと、男だと奴隷のような扱いを受けたままなのかも……。 魔女王がそんなことを言っていたしな……。 でもさあ、それでもさあ、マリエーヌに言うのは違うじゃん? 魔女王に言うなら格好良いけどさあ。 これはムカついてきた。 ……って、本当にマリエーヌがヤバい。 なんとかできないか……? このナイリッシュという隊長と、会話はできるんだ。 マリエーヌが死なない方法……。 隊長達の誰かが魔女王になれればいいんだよね? マリエーヌが魔女王だから、権利を譲ればいいだけでは……? よく考えたら、魔女隊の隊長全員の前で権利を譲る旨の発言をするだけで良くない? 「あの、マリエーヌ様が『魔女王にはならない』と隊長全員の前で言えば済む話じゃないでしょうか? 魔女王になる権利を放棄というか譲渡するというか……」 「……ふっ。甘いねー。マリエーヌは本当にそう言ってくれるのかな? 例えばいきなり『魔女隊の隊長解任』『現魔女法を即時廃止』『サンビュルーリカ解散』とか言ってしまえば、それで色々と覆っちゃうよね? だから私は、あのとき拷問室から出て行ったんだよー。私が言っている意味、わかるかなー?」 「……」 ……そうだな。 彼女達からしたら、マリエーヌが本当に権利を放棄するとは限らない。 でも、マリエーヌが殺されるぐらいだったら何としてでも権利を放棄させるぞ。 「……そう言ったら、マリエーヌ様を攻撃すればいいじゃないですか」 「発言の場を整えたら、ウォルグリア学長とジャスミーナ先生、他の魔女学校の先生達も来るよね。彼女達がどう動くは分からない。マリエーヌを守るかもよ? 魔女王の殺した犯人が魔女学校側だったら、こちらに勝ち目はないでしょ」 くっ……! そうか……。 「……考えてますね。とても慎重に」 「当たり前ー。あ、オルダンテがさらにヒートアップしてるね。そろそろマリエーヌを殺すのかな? 最後まで分からないけど、このまま簡単に殺せるのであればマリエーヌは犯人じゃなかったってことだねー」 どうする? もう時間がない……! マリエーヌはさらに斬られ、蹴り飛ばされ、また階段を転がり落ちているじゃないか……!! もう服のほとんどが赤く染まっているぞ!! 顔面まで血塗れだ……。 「……マリエーヌが死ねば、魔女法的には次の魔女王がいない状態になる。マリエーヌが遺言状を書く暇はなかったはずだしねー」 「もし次期魔女王がいない状態になったら、魔女法的にはどうなるんですか?」 「そんな事態、魔女法は想定していないよ。そのフェーズに入ったら、皆はどうするかな……? 無法地帯かな……サンビュルーリカは内戦状態になるかも」 「……なるほど。生き残った人物が魔女王になる……と?」 「そう」 「結局、1番強い魔女が王だということですね?」 「そういうこと。優生思想……だっけ? 何も間違っていないと思うけど」 「……」 「さぁ、話はここまで。決着がつくよー」 「あぁっ!! マリエーヌ様……!!」 立てなくなっているマリエーヌ。 その目の前にオルダンテ。 ヤバい……マリエーヌが殺される。 ナイリッシュの俺への攻撃を誘うか。 もうエリィ召喚しか道は残されていない。 「ナイリッシュ……隊長」 「ん?」 「僕と戦いませんか? 僕はマリエーヌ様を助けたいので」 「は? 相手にならないでしょ?」 「わかりませんよ? 一矢報います。あなたを倒せば、僕はマリエーヌ様を助けられますから」 「ははっ! バカみたい。……と思ったけど、ウソじゃなさそうだねー。長年、取り調べをやっているから、相手が何か勝算があって言っているのかどうかは、なんとなく分かるよ。それにキミ、なんとも言い難い異質な魔力を秘めているのが感知できる。魔女の魔力に隠れてハッキリとしないけどさ」 うっ! 魔女王同様、エリィの魔力を感知されているのか……? この人も魔力を感知する力が高いな。 「じゃあ、ナイリッシュ隊長……あなたを攻撃しますね」 「私と戦うことに拘るねー? 私からの攻撃に……何か発動条件があるのかなー?」 くっ……! 頭の回転が早い! 「キミが何を隠し持っているか分からない。もしかしたらキミが犯人かもしれない。……とは言え、前魔女王様を殺害できるほどの魔力ではないか。まぁ、私に危害を加える可能性はあるから、攻撃せずにこのままお話しだねー。マリエーヌが本当に大人しく殺されるのかを見守りながら」 し、しまった……!! これならナイリッシュにいきなり襲い掛かればよかった! どうする? どうする……!? ああ! オルダンテが刀を振り上げた! 嫌だ……止めたい止めたい! 俺はマリエーヌを守るんだ! あそこに俺が行かなきゃ!! そうだ! オルダンテに攻撃されたら俺は即死だけど、ワンチャン、エリィが召喚されるじゃん! 首が刎ねられても、何秒間は意識があるって聞いたことあるし! 本当かどうか分からないけども! 何秒間かは瀕死の状態でしょ!? とにかく来てくれ……エリィ! 俺は……あそこに行ってマリエーヌを守らなくちゃ! あの場所に……行く!! ……ん? 俺が動き出そうとしたところ、俺の目の前が一瞬だけ暗くなった! な、なんだ……!? 「……へっ? い、いや……ええええっ!?」 目の前には刀を振り上げているオルダンテ……!? はい!? 何が起きた!? 「ちょ……ちょっと! ちょっと待って下さいよぉっ!? あの……とりあえず……その刀は、絶対に振り下ろさないでくださいっ!!!」 い、一瞬で移動した……!? ということは……後ろには血塗れのマリエーヌがいるんだな!? 俺がなんとかしないとマリエーヌが危ない!! 「はぁっ!? おいおい、ザコ野郎!! どこから湧いて出てきた……!?」 「いや、あ、あれぇ!? あ、ちょっと待ってくれませんか……!? 何が起きたか考えるのでっ!! とにかく、その刀は絶振り下ろさないでくださいよ!?」 オルダンテ以上に俺が驚いているぞ。 これ……瞬間移動したのか!? 「な、なにを言ってやがる! おい! ナイリッシュ! この人間をちゃんと見てろよ!」 「いやー。ちゃんと隣で見てましたよ? 今、何が起こったんですかねぇー?」 「ケンジ……!! 危ないから下がって!!」 後ろから手を延ばして俺の足首をつかむマリエーヌ。 マリエーヌが重傷だ……! うつ伏せの状態で倒れていて、もう起き上がれそうにない。 血が雨水ととも大量に流れている……。 「オルダンテ隊長ー! その人間、私はけっこう気に入っているので殺さないでくれますかー? じつは時空魔法を使える貴重な人材ですし」 「はぁっ!? おいおい! お前な……」 じ、時空魔法……!! もしかして俺は、テレポーテーションの魔法……テレポスを使ったのか? 過去の魔女学校でディストーマが瞬間移動を使っているのを実際に見たことがあるぞ。 よし! この新たに習得した魔法で逃げ切るぜ!! 「おい! ザコ野郎! どけ! 一緒に殺しちまうぞ!?」 テレポスで割り込めたのはいいけど……オルダンテが今にも攻撃を仕掛けてきそうだ! 俺がいるとマリエーヌを攻撃できないのは、ナイリッシュが俺を殺したくないからか……。 ……俺の命をカードに交渉できるか? いや、オルダンテからしたら俺を殺さないように蹴り飛ばせばいいだけだよな。 その後でマリエーヌを確実に殺すだろう。 危機的状況下で新しく習得したテレポスを使って、逃げの一択だ。 「テメェ!! 早くどけよ!! おかしな真似をするなよ!?」 「マリエーヌ様……!! そのまま僕の足をつかんでいてください!」 マリエーヌにそう伝えながら、俺はもう1度念じた。 もう1度テレポスを使って階段の下まで逃げるしかないぜ! さっきよりも、もっと遠くへ! もっと遠くまで行くイメージで! また一瞬だけ目の前が暗くなった。 すぐに辺りの状況を確認する。 俺はマリエーヌと一緒に階段のさらに下に移動していた。 これは……成功したってことだな! 「はっ!? ま、また消えただと!? マリエーヌと一緒に一瞬で!? おおおおおいっ!! あのクソ人間! 容赦無く斬ればよかったぜ!」 「オルダンテさーん! 私の話を聞いてましたかー? まずは落ち着いてくださーい! 彼は時空魔法の使い手なんですって! でも、あの魔力じゃ遠くには移動できません! あ、ほら! すぐ下にいますよー!」 「ん? なるほど……時空魔法か! テレポスを使ったってことだな!?」 上のほうから会話が聞こえる。 オルダンテがギリギリ見える位置だ。 ナイリッシュや学生達の姿は見えず、声しか聞こえない。 どうやらオルダンテが落ち着きを取り戻したようだな。 俺がテレポスを使ったこともバレてしまったようだ……。 って、この距離が俺の限界なの!? 20メートルぐらいかな? とにかく最初に使ったときと同じぐらいである。 そ、そんなぁ……。 「なによ、ケンジ……新しい魔法を使ったわけ?」 「そうみたいです!」 「すごい……でも、敵は近くにいるわ。すぐに来るから……ケンジは逃げなさい! まだ私……魔力はたくさん残っているから戦える!!」 マリエーヌ……何をムチャなことを言っているんだ!? 顔面も体も、そんなに血塗れの状態なのに……。 あ、オルダンテが階段を下りて、こっちに向かっているぞ! 「マリエーヌ様! 僕は逃げませんよ! もっと遠くに移動します! ……テレポス!」 再び階段の下、遥か遠くに向かうように魔法を唱えた。 ……が、さっきと同じ距離しか移動していない!! 「ダ、ダメです……! ちょっとずつしか移動できません! ……いや、ちょっとずつでも!」 「ケンジ……!! 私が戦うからケンジだけでイドウスルーで逃げて! 無駄使いすると魔力が尽きるわ!」 マリエーヌ……まだそんなことを!! ……って、げげぇっ!? オ、オルダンテがすぐそこに! 相変わらず速いな!! 「おらあああぁっ!! ザコ野郎! どかないと斬るぞ!!」 「やめてください! ……テレポス!」 オルダンテが接近したのでテレポスを使うしかない! ても、また同じ移動距離だ……!! くっ……!! 「クソが! てめえ、この野郎!! 何回も唱えるな!」 俺の移動距離の限界はこの程度なのか……。 まだイドウスルーのほうが逃げ切れる可能性が高いか……? マリエーヌの魔力は残っているんだろうけど、その傷を回復しないと戦えないでしょ。 俺のヒールレインが通用しないのは確認済みだし……。 よし、追われてもいいからイドウスルーで逃げて、誰か回復魔法を使える人を探すぞ!! 現在どうなっているか分からないけど、やっぱり……ミルフィーヌかな? 「ケンジ、もういいわ。私が……殺る」 マリエーヌ!? いや、なんか目つきがヤバい。 命を捨てる覚悟で戦う気か!? 俺の足を掴んだまま立てもしないのに、残った魔力で何をする気だよ!? 「おい、ナイリッシュ! キリがねえ! この人間を殺すぞ!」 「いや、ちょっと待ってくださいよー。私もそっちに行ってますから」 くっ! ナイリッシュも階段を下りて来た! 奴も参戦するのか!? あ、マリエーヌが立ち上がった! 「ケンジ、どいて。傷口を炎系の魔法で焼いて血を止めれば……余裕で戦えるから! 絶対に2人で生き残るわよ!」 ……セリフはめちゃめちゃ嬉しいけど、ムチャだよマリエーヌ!! フラフラじゃないか! 戦う前は、『ここで私は死ぬ』みたいなことを言っていたから、考えを変えてくれて嬉しいけども! 血を止めても、そもそも血が足りなくなっちゃってるんだよ! 殺気立っているマリエーヌが俺の体をどけて前に出ようとする。 前からはオルダンテとナイリッシュが向かって来ている!! 「……間に合ったみたいだね」 そんな状況の中で、後ろから誰かの声が聞こえた。 ん? この声は誰だっけ……!? 聞き覚えのある声だぞ!? 「え……ディストーマさん!?」 突如として背後に現れたのは……ディストーマだ!! 「あ、あんた……何しに来たのよ!!」 マリエーヌが警戒する。 前方からはオルダンテが大きな声で叫びながら向かって来る……!! 「はぁっ!? おい、てめえ……ディストーマ!! そっちの味方をするのか!? それとも魔女隊として、俺たちの言うことを聞くのか!?」 その言葉に一瞬ためらうディストーマ。 すぐに目を見開いて前進し、俺とマリエーヌに触れる。 「えっ!? ディストーマさん!?」 「テレポス……」 ディストーマが静かに唱えた魔法は、俺と同様の魔法……テレポスだった。 目の前が真っ黒になる。 こ、これは……ありがたい!! 俺とマリエーヌを逃がしてくれたってことだよね!? ディストーマは俺より絶対に移動距離が長いでしょ!! これで逃げ切れる……のか!?