132.隊長戦 ーマリエーヌサイドー
Added 2023-07-26 08:00:00 +0000 UTC~現在の服装について~ マリエーヌ: 紫色のミニスカートとマント、白Tシャツ、網タイツに紫色のブーツ オルダンテ: 黒色の頑丈な布地の着物、魔女隊隊長の黒いマント、草履、腰に2本の刀 (ケンジ: 疾風の服) --- ケンジは階段を駆け降りるマリエーヌの後ろ姿を視界に捉えていた。 追いつくのに時間が掛かると分かっていても必死で階段のほうに足を踏み出すケンジ。 マリエーヌは彼に逃げるように指示し、置き去りにして走り出した。 自身の魔力を最大限使い、体内で身体能力に変えながら。 敵は黒い着物姿で2本の刀を腰に差している中年の男。 階段の途中で立ち止まり、腰を落として刀の鞘を左手で握っている。 雨で濡れた黒髪が揺れて見えるほどの激しい殺意をマリエーヌに向けている。 「マリエーヌ、てめぇ! やる気だな!? 王宮では不意打ちされただけだからなぁ!! 今の俺は本気だ!! 少しでも気を抜いたら……お前は一瞬で死ぬぜ!!」 足を止めて叫ぶオルダンテ。 腰を落としたまま右手で刀の柄を持ち、抜刀の準備をする。 マリエーヌを確実に葬り去るために集中力を高め始めた。 (攻撃隊隊長のオルダンテ……すごい殺気ね!!) 地球でのエリィ戦と比較すると敵の戦闘力は劣る。 しかしエリィとは異なり、敵からは明確な強い殺意がある。 さらに不利な要因として、マリエーヌはサンビュルーリカの権力者にどこか尻込みしてしまうことが挙げられる。 学生時代、この里で排他的な扱いを受けたためだ。 (本気で行かなきゃ時間稼ぎにもならない! 他の隊長が来る前にケンジが逃げてくれれば構わないわ……!!) 勝ちを意識せずに、時間を稼ぐことを考えるマリエーヌ。 敵との実力差は理解している。 それでもケンジの命は救いたい。 それほど大切な存在になっていた。 全身を強化したマリエーヌがさらに踏み込み、階段を駆け降りていく。 オルダンテとの距離が一瞬で縮まる。 彼女は右ストレートを放つ体勢に入る。 「単純な軌道だなぁ!? 読みやすいぜ!! 死ねえっ……!!」 オルダンテの抜刀。 マリエーヌの右腕を斬り落とし、さらに首を刎ねる勢いの斬撃が放たれた。 咄嗟に技を解いてスピードダウンするマリエーヌ。 (は、速過ぎるわ! ケンジへの斬撃の時とは桁違いね! パンチが届く前に腕を切られてしまうわ……!!) 走る速度を落とすのと同時に、その場に屈んで敵の斬撃をかわす。 「なんだよ!? フェイントかよっ!?」 オルダンテの攻撃により斬られたのは、マリエーヌが着ていたマントの一部分だけだ。 斬撃をかわされたオルダンテが両手持ちに切り替える。 懐に潜り込んだマリエーヌが起き上がるタイミングに合わせて横一文字の斬撃を放つ。 「……ウォーターウォールッ!!」 彼の斬撃が届く前に魔法を唱えたマリエーヌ。 彼女の高い声とともに、オルダンテの足元から吹き上がる巨大な水の壁。 厚さ2〜3メートルほど、その幅は階段の端から端までの20メートルほどである。 その周囲にも水が吹き荒れ、環境効果によって増幅された威力を物語っている。 彼の体は水の壁に飲み込まれ、上方に向かう。 「ぶほほぉっ!? このっ……! また水系の魔法かよ! 雨のせいで発動が早い!! 水圧も強烈だぜぇ……!」 王宮で対処したように刀を振り、水の壁を部分的に消滅させて呼吸を確保する。 しかし、マリエーヌが絶え間なく発生させている水の壁がオルダンテを再び飲み込む。 「まだよ! ……サンダーストーム!!」 空高く湧き上がる水の高さは30メートルを超えていた。 ビルに換算すると10階ほどの高さである。 マリエーヌが続けて放った魔法は雷系の魔法。 頭上の黒く滲んだ雨雲から雷が発生した。 水の壁の上方に何発もの雷が横並びに落ちる。 高さ15メートルあたりで水流に飲み込まれているオルダンテを電流が襲う。 「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃっ!!? ごぼぼぼぉっ!!」 水の中で溺れながらダメージを受けるオルダンテ。 (し……痺れるぜ! 連続で電撃かよ!! 環境効果がマジで厄介だな! これだけ規模が大きい魔法なのに発動までが早い! その上、魔力の消費が少ないんだよな。早めに流れを断ち切らないと面倒だぜ!!) 溺れ、さらに痺れながらも思考し続けるオルダンテ。 一方で、地上にいるマリエーヌも追撃することを考える。 (敵の専用魔法は炎……!! ここで魔法刀を使っても効果は薄い! 魔法戦なら私が圧倒的に有利よ!) 魔女の里で生まれた男は一系統の魔法しか使えない。 【専用魔法】と呼ばれており、魔女に勝てない要因の一つになっている。 オルダンテは王宮内で見せたように炎の魔法しか使えない。 炎を刀に纏わせた『魔法刀』として鍛え上げた技を使えるが、雨天によって効果は薄れてしまう。 「いくわよ!! ウィンド……ウォールッ!!」 マリエーヌが水の壁の内部に風の刃を発生させた。 下からは風の刃、上からは雷撃が迫ってくる水の牢獄が完成した。 「ぶはぁっ!! てめえッ!! いい加減にしろよ……!!」 自身の体を襲っていた痺れが取れた隙を突き、刀を振り回すオルダンテ。 彼の周囲の水の壁が消滅していく。 すぐに呼吸し空気を取り入れて空中で体勢を立て直した。 彼は瞬時にズブ濡れの黒マントを脱いで空気抵抗を減らし、宙を舞いながら反撃に出る。 「おりゃああああっ!!」 オルダンテは右手に持つ刀を振り回し、発生し続けるマリエーヌの魔法を消滅させながら落下していく。 そのあまりに速い斬撃に、水の壁はもちろん、風の刃も、そして上空から迫る雷撃さえも消滅させてしまう。 オルダンテの異常な剣速に驚くマリエーヌ。 (刀を振り回しているだけで、私の魔法が斬られて消えていく……!?) マリエーヌが発生させた3種類の魔法を攻略し、階段で構えるマリエーヌに向かって降下するオルダンテ。 (こっちに向かって来る!! 環境効果があっても私の魔法は通用しないの!? とにかく反撃しないと!!) オルダンテは落下しながら刀を両手持ちで振り上げる。 マリエーヌに狙いを定めて振り下ろすつもりだ。 動揺を抑え、その動きを追うマリエーヌ。 彼女は両の手の平を上空にかざした。 その周囲には火花を散らす大きな球体が発生している。 「まだよ!! ……サイクロンボールッ!!」 混合魔法を放つマリエーヌ。 雷系と風系の魔法を掛け合わせた混合魔法、サイクロンボール。 直径およそ2メートルの、まるで雷雲と台風を凝縮したような大きな球体。 環境効果の恩恵を受け、電流や火花がこれまで以上に激しく渦を巻く。 20発以上のサイクロンボールが、激しくカーブしながら上空に放たれる。 「混合魔法……か!? たいした速度じゃねえな!」 空中にもかかわらず、魔法の変則的な動きを予測して素早くかわすオルダンテ。 避け切れない時は刀を使って魔法を消滅させ、マリエーヌに向かって落下する。 「そ、そんな……!!」 「おいおい! この混合魔法……メディアン隊長のお墨付きの魔法だろ? そんなもんかよっ!? どうせこの後は殴りかかって来るんだよな!? ……そのまま死ね!!」 マリエーヌは再び魔力で身体を強化し、地面を蹴って空に向かう。 降下してくるオルダンテを迎え撃つ。 「おいおい! バカ正直だな! 格上相手に真っ向勝負なんて悪手じゃねえか!?」 接近する2人。 そして振り下ろされるオルダンテの刀。 マリエーヌは上昇しながら咄嗟に自分のマントを脱いだ。 「ぬあっ!? な、なにぃっ……!?」 濡れたマントに刀が巻き込まれる。 オルダンテの動きが空中で止まった。 「……せいっ!!」 マリエーヌの長い脚から上に向かって放たれた蹴り。 右足でオルダンテの顎を全力で蹴り上げる。 「ぐほおぉっ!? ナ、ナメんなよ……!!」 オルダンテがマントに巻き込まれた刀を捨てた。 そいて、腰に差している2本目の刀を抜く。 「なっ!?」 予想していなかった斬撃。 ともに地面に落下するまでの間に、何度も体を斬り付けられるマリエーヌ。 着地後、2人とも階段を転げ落ちた。 (くっ! 全身を斬られた……! 致命傷ではないけど……) マリエーヌの左頬、右の二の腕、左の腹、右のフトモモに傷ができ、出血している。 動けなくなるような致命的な傷ではないが、すぐに止血できるようなものでもない。 激しく振りつける雨が傷口に入り痛みが増す。 (参ったわね……。環境効果があるのに……混合魔法さえも通用しない。この出血だと、私が動けなくなるまで時間はあまりない……) マリエーヌのほうが階段を長く転げ落ちた。 2人の位置関係は逆転し、マリエーヌは跪いた状態で敵を見上げている。 一方のオルダンテは起き上がりながら落とした刀を拾う。 「良い蹴りだったな……。少しは効いたぜ」 マリエーヌをニラみながら言い放った。 拾った刀にはびしょ濡れのマントが絡みついている。 その紫色のマントを刀から剥がすオルダンテ。 (蹴りのダメージは少しだけなの? 私は全力で蹴ったのに……) オルダンテは無精髭の生えた顎を左手でさすりながら、2本の刀を鞘に戻す。 「……お前の戦法はだいたい分かったぜ。環境効果の影響で魔力を節約できて威力も高まる水・雷・風の魔法、もしくは混合魔法で俺の隙を作り、魔力で身体能力を上げて攻撃……って感じだろ?」 テンションを下げて冷静に分析するオルダンテ。 階段をゆっくりと下り、マリエーヌに近づいていく。 (オルダンテ……攻撃隊の隊長。戦いになると頭が回るのね) 「マントを使うアイデアで攻撃を回避した結果、俺に1発蹴りを喰らわすことができた。……だが、マントはもう使えないぜ」 マリエーヌまでの距離は約2メートル。 ゆっくりと刀の柄に手を添えた。 そして冷たく……静かに口を開く。 「お前……次で死ぬぜ。何かあるなら最後に喋っときな?」 「くっ……!」 立ち上がろうとするマリエーヌ。 さらに傷口から出血する。 その血液は階段に流れ続け、次第に雨で薄まっていく。 「何もねえのかよ……? ん……? なんか上で声がするな?」 階段の上のほう、校舎があるほうから現れたのは制服を着た生徒達だ。 「大きな音がすると思ったら、マリエーヌ先輩!? オルダンテ隊長と戦っている……!! な、なんで……!?」 「そ、そんな! マリエーヌさんが何か悪いことをしたの!?」 「血塗れよ! マリエーヌさん、負けないで……」 騒ぎに気づいて、生徒達が階段の上のところまでやって来たのだ。 (学校の生徒たち!? なんでこんな危険なところに……!! 先生は何をやっているのかしら!?) マリエーヌが焦る。 「学校のガキどもかよ……! やかましい……!! あの制服を見てるとイライラするぜ」 オルダンテの心がザワつく。 階段の上には4人の生徒。 赤ネクタイと青ネクタイの女子が2人ずつである。 「ちょっと! 危ないわ! 下がってて! 先生達は何をやってるの!?」 立ち上がり、注意をするマリエーヌ。 オルダンテが一歩前に出る。 「うるせえな。青ネクタイだけじゃなくって赤ネクタイも一緒にいるじゃねえか。……会議で教員達が言っていたことは本当だったのか。お前の影響で赤ネクタイが調子付いて青ネクタイと仲良くしてんのかよ。どうせ男を奴隷にすることには変わりないんだろ……お前ら魔女は。とくに赤ネクタイは途中から里に来たクセに、元々いた男を奴隷にしてるから余計にムカつくぜ。俺には青ネクタイの金魚の糞にしか見えなかったからな。マリエーヌ……お前も赤ネクタイだったよな。どうせ、お前もミルフィーヌの糞だったんだろ?」 オルダンテは刀を鞘から抜き、怒りのままに前進する。 そしてマリエーヌの右のフトモモを刀で突き刺す。 「くっ!? う、ううぅっ……!?」 貫通したオルダンテの刀。 苦悶の表情になり、後退するマリエーヌ。 再び階段を転げ落ちる。 (うぅっ!? み、右脚が……! これじゃあもう、まともに動けない……。体術ではなく魔法で応戦しないと……。ケンジはどうしたのかしら……? ちゃんと逃げられたかしら?) マリエーヌは、めげずに立ち上がろうとしている。 「これでもう動けないだろ? そのまま聞けよ。……俺はずっと、この里で魔女達に奴隷のように扱われてきた。10代後半のときは、あの学校のあの制服を着た奴らの奴隷にされたんだ。青ネクタイのグループはもちろん……他里から来た無能な赤ネクタイのグループまで俺にメチャクチャしやがった……!! 絶対に見返してやるって思った。その後、魔女隊に入隊できても一般の隊員じゃ俺への扱いは変わらねぇ。……隊長になって、全員コキ使ってやると決めたぜ。それが俺の夢だった。……でもよ、隊長になれても今度はアインベルトのやつに性奴隷としてオモチャみたいに扱われ続けるハメになったんだぜ……!?」 オルダンテが自分の過去を語り出した。 階段の上では生徒達が叫び続けている。 「あ、ああ……マリエーヌ先輩の脚が!!」 「マリエーヌさんが何をしたって言うのよ!?」 「今日は学校は休みで、先生達がいないんです! 私達はたまたま卒業研究をしていて……!」 「た、助けられる先生が誰もいませんっ!!」 生徒達の悲痛の声が聞こえてくる。 彼女達の近くにはケンジが立っており、彼の声も聞こえてきた。 「……マリエーヌ様!! 今、そっちに行きます!」 その声にマリエーヌが驚く。 (え、ケンジが生徒達の近くにいる!? ま……まだいたの? せっかく私が時間を稼いでいたのに……! あ……! ケンジの隣にいるのは……ナイリッシュ隊長!? そうか……いつの間にか彼女が到着していて逃げられなかったのね。……ケ、ケンジが危ないっ!!) いつの間にか、ケンジの隣にはナイリッシュがいた。 ナイリッシュはケンジの言葉を聞いて、彼の前に移動した。 明らかにケンジの動きを妨害している。 (ナイリッシュ……!! やっぱり隊長達は皆、結託しているのね……) 歯を食いしばるマリエーヌ。 右脚の痛みに耐えて再び起き上がろうとする。 前方には自分に近づくオルダンテが見える。 「……でもよ、それでもずっと逆転の時を狙ってきたんだぜ。今日がその時だ。アインベルトのやつは死んだ。誰が殺ったか知らないが、感謝してる。お前を殺して俺が魔女王になれば、このクソみたいな里の風向きは変わる。俺が……男がトップになるんだぜ? 俺の夢が現実になる」 ゆっくりと階段を下りながら、自分のことを語り続けるオルダンテ。 (ケンジを……逃がさないと……) マリエーヌはそれどころではない。 「チッ。俺が話してんのに、何を見てんだ?」 オルダンテが後ろを振り返る。 「……おっと、あの人間はナイリッシュといるのか。あれじゃあ動けねえな。まぁ、動けても何もできないか。また時空魔法を使ってもバリアで里の外には出れないから、行き先はバレバレだぜ」 再び前を向き階段を下りるオルダンテ。 マリエーヌの目の前に到着し、刀を振りかざす。 「やめてください! オルダンテ隊長……!!」 「こんな強行手段、許されるんですか!? ナイリッシュ隊長! これは法務隊の意志なのでしょうか!?」 「逃げてぇっ! マリエーヌ先輩ッ!!」 生徒達が叫び続けている。 隊長達のジャマをすれば自分が犯罪者になってしまうかもしれない。 その場で殺されるかもしれない。 そのため、叫んでお願いするというギリギリの主張を繰り返している。 (え……? あの子達、なんで……あんなに私を応援しているの……? とくに……赤ネクタイの子達は、とても必死だわ) 生徒達が主張する内容を把握し、マリエーヌが困惑し始めた。 とくに、必死に叫ぶ赤ネクタイの子達には鬼気迫るものがある。 (あ……そういえば以前にケンジが、私が首席で卒業した影響で赤ネクタイの子達の立場が上がった……とか言っていたわね。本当だったのね……) 以前、アダマーリカについて調査する際、ケンジと一緒に魔女学校を訪れたときのことを思い出した。 このことについては会議でウォルグリアも言及していたが、マリエーヌの記憶にはケンジの言葉が残っていた。 (サンビュルーリカでは嫌なことばっかりだった……。とくにこの里の出身者にイジメられて……嫌な感じの先生も多くて……。でも、私が……この学校に何か影響を与えていたのね) マリエーヌの心が少し動く。 彼女にとって、自分の働きが他者に何か良い影響を与えた……と実感したのは初めてのことだったのかもしれない。 嬉しい……という感情が湧き上がるマリエーヌ。 これまで彼女は、一心不乱に目標に向かって来た。 周りからどう評価されているのか、あまり気にしないように生きてきた。 自分に向けられた嫌な言葉にとらわれても、早々に切り捨てるように努めてきた。 他者をシャットアウトしていた彼女が、自分の影響を受けた後輩達の存在にはっきりと気づいたのだ。 (ちょっと……こんな情けない姿は後輩達に見せられないわね) 自分を応援する彼女達に不甲斐ないところは見せられない……この場を切り抜け、ケンジとともに自由に生きる一つの道を後輩に示したい……そんな気持ちが芽生えた。 (……逃げずに最後まで戦う。ケンジと一緒に逃げる! 私はやるわ!) 立ち上がるマリエーヌ。 「……しぶてえな。まだそんな目をして立つのかよ。その出血……そろそろ意識を失ってもいいと思うけどな。いいぜ。心を折って命乞いさせてやる。あの学生達の泣く顔が見てみたいぜ」 刀を2本抜き、それぞれを両手に持つオルダンテ。 (に、二刀流……!! 攻撃回数が2倍……か、かわせない……!!) 「これが俺の最強の攻撃の型だ。まぁ、お前ごときに二刀流になる必要はないけどな」 オルダンテの攻撃が放たれる。 立ち上がったマリエーヌが衣類とともに切り刻まれていく。 「おらおら!! やっと、堂々と! 魔女を痛ぶれる!! 死ぬまで……徐々にズタボロにしたかったぜぇ! 魔女を! 一度でいいからよお!!」 響き渡った学生達の応援。 それに呼応して目を輝かせたマリエーヌ。 それら全てが気に入らずにオルダンテの残虐性を増す。 さらに痛みと出血が増え、マリエーヌは窮地に追い込まれていく。 「俺は……何者だ!? どこまでいっても認められない! お前は良いよなあ……マリエーヌ!! アインベルトに認められて嬉しかったのか!? 首席で卒業して嬉しかったのか!? 後輩達に心配されて、応援されて嬉しいかよ!? いいよなあ、マリエーヌ!! 一瞬でも魔女王になれて!! お前の人生は最高だったなぁっ!!」 再びマリエーヌが勢いよく刻まれる。 後ろに倒れ、階段を転がり、仰向けに倒れた。 その白いTシャツ、紫色のミニスカートのほとんどが赤く染まる。 ……が、上体を起こして血塗れになった顔面を敵に向ける。 その瞳はハッキリとオルダンテをニラみつけていた。 「チッ。なんだその目は? まだ命乞いしないのか? お前が死んだ後は、俺が魔女王になるぜ」 (なんとか……なんとかしないと……考えなきゃ……こいつに勝つ方法) 出血が多く、思考力が鈍る。 それでも必死に考えるマリエーヌ。 「……」 「……命乞いはしないんだな? じゃあ殺すぜ。……お前が生き残ってもらっちゃ俺は困るからな。お前は脅威だ。攻撃隊の隊長まで上り詰めた俺の存在意義がなくなっちまう。俺が魔女王になったとしてもな」 「え……? どういう……こと?」 ここまで圧倒的な力の差を見せられたのに、彼は自分のことを驚異と表現した。 マリエーヌからすれば、全く意味が分からない。 「お前の戦闘力は脅威なんだよ! 俺の立場がなくなるんだ……!!」 オルダンテが倒れているマリエーヌに近づく。 「は? ど……どういうことよ?」 オルダンテの脳裏には、アインベルトから言われた『マリエーヌは攻撃隊の隊長として素質がある』という言葉が刻まれていた。 「お前の攻撃力は、俺を凌ぐポテンシャルを秘めているんだよ! この里の魔女達を見返し、コキ使うのに邪魔なんだ!」 「は……?」 「くっ!! お前には分からないだろうな……!! この里で男として生まれて、身も心もボロボロにされてきた俺の気持ちがよ! 絶対に、この里の魔女達を見返してやる! 全員だ!! 俺が最強の攻撃力を持ち続ける! 40歳になっても! 50代になっても60代になっても……俺が最強の攻撃力を持ってなきゃいけないんだよ!! この力と、サンビュルーリカのトップという申し分ない権力で支配してやる! 分かったか!!」 そう叫ぶ彼の表情は狂気に満ちている。 自分の立場を、自分が存在する意義を脅かすマリエーヌを恐れていた。 「な、なに? なん……なのよ……」 「死ね……そして来世は、この里の男に生まれてみろ。お前にも分かるぜ、俺の苦労がよ」 その言葉を聞いて、マリエーヌの表情が歪む。 (ク……クソみたいなセリフ!! 私のことを何も知らないくせに! こんな奴に殺されてたまるか!) 「なんか言いてえことがあるみたいだな。……なんとか言ってみろよ」 オルダンテがマリエーヌを蹴り飛ばす。 自分には得られなかったものを持っているマリエーヌが憎くて仕方がない。 トドメを刺さずに痛ぶっている。 「ぐぅっ……!?」 階段を数段転げ落ち、うつ伏せになって倒れるマリエーヌ。 その意識は朦朧としてきた。 それでも思考を続け、意識を維持する。 彼女はオルダンテへの反論を考えているわけではない。 (まずいわ。オルダンテは変だし、私の意識は薄れているし。ケンジ……何か策はないかしら? あなただったら何かしら思いつくのよね。私にできること……) うつ伏せの状態のまま顔を上げ、遠くにいるケンジを見る。 戦う策がないか必死で考えるマリエーヌ。 ……しかし、彼女の体は動かず、その意識を失いつつあった。 「……何も言わずに奴隷の人間に助けを求めているのか? 男をゴミのように扱って来た分際で、最後に男に頼るのか……? もう本当に……死ね」 オルダンテが刀を1本だけ鞘に納めた。 残りの1本を両手で持って振りかぶる。 (ま、まずい……!) 死の恐怖が彼女を襲った。 オルダンテが最後の一撃を放とうとしていることを理解した。 (こんな……ところで……) もう一度気持ちを奮い立たせようとするが、やはり体は動かない。 確実に自分の首を狙っている。 そんな中、彼女の目の前で異変が起こる。 (え……な、なに? 誰かが前に立っている!?) 突如として、マリエーヌとオルダンテの間に誰かが現れた。 (こ、この後ろ姿は……ケンジ……なの!?) うつ伏せの状態から見上げた先にいたのは……ケンジの後ろ姿だ。 マリエーヌとオルダンテの間で立ち尽くしているケンジが口を開く。 「……へっ? い、いや……ええええっ!? ちょ……ちょっと! ちょっと待って下さいよぉっ!? あの……とりあえず……その刀は、絶対に振り下ろさないでくださいっ!!!」 突然の出来事に1番驚いているのはケンジ自身だった。 --- 次の話はコチラです↓ https://mariene-novel.fanbox.cc/posts/5689425