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124.死が漂う魔女王祭会議(前編)

 夜になり、俺とミルフィーヌは魔法生命体のミランダさんに案内されて会議室に通された。 ザッシは帰宅し、ミルフィーヌの家でプロトンと一緒にいるはずだ。 お、俺……大丈夫か? 1人だけ場違い感がすごくなりそう。 王宮の会議室は広く、天井も高い。 大きな長方形のテーブルが置かれているぞ。 椅子は扉から真っ直ぐの方向に向かって1番奥、いわゆる『お誕生日席』に1つ。 おそらく魔女王の席だろう。 残りの椅子は両サイドに5つずつだ。 どの椅子も高貴な装飾が施されているが、お誕生日席の椅子が一番立派である。 テーブルの上には高価そうな燭台が置かれている。 そんな豪華な会議室だが窓はない。 この部屋の一番奥に魔女王が座ると思うと、広さとは相反して圧迫感が生じてくる。 「なんだか緊張します。まさか僕が出席するなんて……」  こんな立派な部屋で会議か……。 「ケンジはストマイドの件で深く関わっているしな。今日、魔女王様に質問したから興味深く見られた可能性もある。だが心配するな。私がいるし、マリエーヌも来るだろう」  会議室に入った俺とミルフィーヌは、向かって左側の手前のほうに座るよう指示された。 俺が入り口に1番近い席で、ミルフィーヌはその隣の席である。 「マリエーヌさん、よくいらっしゃいましタ。コンバンハ。席はこちらになりマス」  次に会議室に入って来たのはマリエーヌだ! ミランダさんが誘導する。 「マリエーヌ様!」  俺が呼びかけると、マリエーヌが驚いた表情を浮かべた。 「え……ケンジも会議に参加するの!? ミルフィーヌはともかく……」 「魔女王様の意向だ」  ミルフィーヌが答えた。 マリエーヌは俺の隣の隣の席……つまりミルフィーヌの隣の席に座らされた。 俺たちよりも魔女王に近い位置だ。 ストマイド事件の最大の被害者だもんな。 「ウォルグリア学長とジャスミーナ先生、コンバンハ。こちらにお座りくだサイ」  今度は魔女学校の先生たちが入室した。 ミランダさんが2人を俺らと同じ列の上座に案内する。 ジャスミーナ先生はさっき会ったけど、ウォルグリア学長という先生は初めて見るぞ。 魔女っぽい黒色のローブを身につけている女性である。 ウェーブがかかった黒髪ロングで、センター分けだ。 鼻が高く、彫りの深いハッキリとした顔立ちだぞ。 バッチリ大人のメイクをしている。 30代ぐらいに見えるけど、学長になるぐらいだから、本当はもっと年上なのかも。 魔女王を始めとして、魔女はみんな若く見えるからな。 あ! もしかして学長は、マリエーヌが入学したときの担任の先生だろうか? 思い出してきたぞ。 ちなみに学長の席は俺が座っている列の1番奥で、ジャスミーナ先生の席がその隣……つまりマリエーヌの隣である。 ミルフィーヌとマリエーヌが席を立って挨拶する。 「ジャスミーナ先生、先程はどうも。ウォルグリア学長、ご無沙汰しております」 「ご無沙汰しております、マリエーヌです」  こういうところは2人とも礼儀正しい。 俺も席を立って会釈しておこう。 出しゃばらずに紹介されたら喋る……って感じでいいかな? 奴隷だし……。 「はい、お久し振りです。2人とも成長していて何よりです」 「……マリエーヌね。あの後まさか、ストマイド先生とあんなことになるなんてね……」  ジャスミーナ先生が例の件について触れたぞ。 そうそう、ストマイドと対決する前に、俺とマリエーヌでジャスミーナ先生に会いに行ったんだよな。 「そうですね……驚きました」  マリエーヌの表情が曇る。 ジャスミーナ先生は、まだ犯罪者のストマイドをストマイド『先生』と呼んでいるんだな。 『ストマイド先生にあんなことをされるなんてね』じゃなくって『あんなことになるなんてね』……か。 考え過ぎかもしれないけど、ストマイドの肩を持ってる感じがあるな……。 まさか減刑を主張するのか? マリエーヌもそれに気づいて表情が曇ったのかもしれない。 このまま気まずい空気になってしまうのか……と思ったら、部屋にたくさん人が入って来た。 「魔女隊の隊長の皆様が入室しマス」  ミランダさんの声が会議室に響く。 4人の隊長達が慣れた様子で入室し、俺たちが座っている席の反対側に勝手に座っていった。 1番奥……つまり俺から見て1番左側に座った男が喋り始める。 「ふぅっ。移動で疲れたぜ……! 会議は苦手だ。今日は魔女王祭の話し合いだろ? 長くなりそうだな。少し憂鬱だぜ……」  男ってことは……あの人が攻撃隊の隊長だな。 ミルフィーヌから聞いたとおり、着物姿で刀を腰に差しているから間違いない。 そんなにゴツくはないが、鍛えていそうな体だ。 魔女の里に生まれる男は基本的にヒョロいからな。 身長も俺より低いみたいだぞ。 「それにしても……走り過ぎて疲れたぜ……。誰かさんのせいでな!」  えっ!? この人……文句を言いながらマリエーヌのことを見たぞ!? 手で頭を掻きながら、ちょっとイライラしている。 な、なんだなんだ!? マリエーヌは……気にしていない! 無表情で遠くを見ている! 「さ~て、魔女王祭はどうなるんでしょうねー」  ニヤニヤしながら話しているのはナイリッシュ隊長である。 この人とはすでに会話済みだ。 法務隊だったよね。 金髪のオシャレなショートへアをイジりながら楽しそうにしている。 「メインはストマイドの件……ですよね? お母様の意見は死刑だと思いますけど……。私もこれまでどおりの基準からして死刑でいいと思います」  お母様……魔女王様のことか? ということは、この女性がバリアントを極めた防衛隊のレブリナート隊長だな。 魔女王の娘なのは、彼女と同じ銀髪だから本当なんだろうな。 って、髪型が……オシャレな感じのショートヘア!? 銀髪ショートへアもなかなか良い感じだ。 って、この人もミルフィーヌもナイリッシュ隊長も全員、同じ美容室じゃん!! は、流行ってんのかな……? 「レブリナート隊長は保守的ですねー。まぁ、サンビュルーリカは徹底した現状維持で成り立ってきましたけど。とは言え、時空魔法は貴重じゃないですかー? 魔女王様は、そこで悩んでいるんじゃないかな……と思います。そうじゃないですか、メディアン隊長……?」  ナイリッシュ隊長がペラペラ喋っている。 1番若いはずなのにめちゃめちゃ喋るな。 この人が1番、『空気をつくる人』っぽいな。 学校のクラスで言うところの、カースト上位者たち……1軍グループだ。 授業中、この手の人が喋ると皆が話を聞く。 「うん! そうかもねぇ! 私たちには意見する権利があるけど、結局はアインベルト様の一存だよねぇ! 下手に意見してイジメられたら身も蓋もないし。それよりも研究費増額の話がしたいわぁ! あと魔力石と魔法石の話もしたいわぁ……!!」  このテンション高めな赤髪サイドアップの人が、研究隊の隊長かな? 名前はメディアンか。 なかなか個性的っぽいな。 隊長はみんな紋章入りの黒マントを着ているけど、この人だけ白衣を着ているし。 自分の興味あることしか関心がないタイプだろうか? けど、優秀で結果を出していれば許されるんだよな。 メディアン隊長の見た目はすごい幼く見えるけど、ミルフィーヌは40歳近いって言っていたんだよな……。 ちなみに、このメディアン隊長がオルダンテ隊長の隣に座り、レブリナート隊長、ナイリッシュ隊長の順に座っている。 席には年齢順で座ってるっぽいな。  で……【魔力石】と【魔法石】? これは初めて聞く単語だ。 どんな石なんだろう? 名前から単純に考えると、魔力をもつ石と魔法の効果をもつ石のことだろうか? あとでミルフィーヌに聞いておきたいな。 「アインベルト様がいらっしゃいましタ」  お……ミランダさんが深々と頭を下げているぞ! ついに魔女王が入って来る。 えぇっ!? 魔女王と、その後ろに裸の男が3人……。 全裸だと!? ど、どういうことだ? みんな、手錠で両手が拘束されている! って、そのうちの1人はディストーマ!? ……と、ストマイドもいるじゃないか! 残りの1人は知らん! い、いきなりヤバいッ! この会議は……ヤバいぞおっ!! 「皆さん。お集まりいただき、ありがとうございます」  予想どおり1番奥の席に座った魔女王。 ストマイド達は魔女王の後ろで横一列に並ばされている。 「今夜の議題は魔女王祭についてですね」  魔女王が会議の内容について話を切り出す。 「まずは死刑執行について議論します。……今年の死刑執行の候補者はストマイドです。死刑にするかどうか、皆さんはどうお考えですか?」 「……」 「……」 「……」  ち、沈黙……!? みんな、様子を伺っているのか? この会議……どういう感じで進んでいくんだ? もしかして、魔女王がスタンスを示した途端に、全員が『御意!』……って感じなのか? 俺は全裸の男3人が気になって仕方がないぞ。 「あ、そうそう。ちなみに処刑法は、このような演出を考えています。グラビティウォール」  魔女王が後ろをチラリと見る。 えっ!? 今、まさか……魔法を唱えたのか!? 「ぷぎゃあっ……!!」  ストマイドでもディストーマでもない、俺の知らない男が潰れた。 突然、上から下方向に押し潰された。 粘土細工で作った怪獣を上からハンマーで壊すように、文字どおり押し潰されたのだ。 男の体からは、血液が放射状に飛び散った……。 え……ええぇっ!? はあああぁっ!? う、嘘だろ……!? 「あら? この雄の死に様は汚いですね」  男が潰されて殺された……。 俺の位置からは、もう男の体が見えない。 立ち上がって確認する勇気もない。 でも、潰されていくのは見えた。 見てしまった……。 「いつも同じように魔法を使っているつもりですが、個体によって潰れ方や血の吹き出し方がかなり異なるようです」  お、おいおい……。 魔女王……さも当然のように人を殺すのかよ! すごい自然に殺したよね!? 発言も、日々ルーティンのごとく殺してます……って感じだし!! 知らない男が1人殺された……。 この里、やはり男に人権はない。 おそらく潰された彼も重い罪を犯した人なんだろうけどさ。 それにしても、オモチャのように急に殺すなんて……。 ……ミルフィーヌの言っていたとおり、魔女王はヤバい。 この里はヤバい。 グラビティウォール……って言ったか? グラビティ……つまり重力ってことか? この世界で初めて見たぞ、そんな魔法。 あんなの……どうやって防ぐんだよ!? 「ミランダ、掃除をしておいて」 「かしこまりましタ」  魔女王の指示により、ミランダさんが死体の処理をしているぞ。 み、見ないようにしよう……。 彼女は死体を手際よく撤去したようだ。 すぐに部屋から出て行った。 「……」 「……」 「……」  みんな、喋らないな……。 今の光景、王宮の会議では日常なのか!? こんなことを日常的にみんながやってるわけではないよね? 魔女王がブッ飛んでいるだけだと願うぞ……!!  ……マリエーヌは何を考えているのだろう? 死刑については、『ストマイドは死刑になって当然』……と考えているはずだ。 彼女は家族が殺されているからね。 その事実を知らされて、時間が経過するほどに彼女を苦しめていたはずだ。 アダマーリカでは興奮状態にあったけど、その後1人になって冷静に考えれば考えるほど辛くなっていくんじゃないか? 失恋した当日よりも、翌日以降のほうがつらい。 俺は家族を奪われたことはないから、そんな失恋の経験から推測するしかないのだが……。 「魔女王様……ストマイドを死刑にするかどうかは、けっこう難しい問題なんじゃないですかー? みんな、黙っちゃってます。そこにディストーマがいますね? まずは彼のほうをどうするか話しませんか?」  ナイリッシュ隊長が堂々とした態度で、そしていつもと同じ口調で質問する。 自分の名前を呼ばれて、魔女王の後ろに立っているディストーマの体がビクってなった。 「はい。それも今日、議題にしようと思っていました。ディストーマの被害に遭ったのは、付き纏われて殺害されそうになっていたマリエーヌと、そこに座っている人間です。すでに人間のほうは罰を軽くして欲しいと私に言ってきました。マリエーヌのほうはどうですか?」  魔女王がマリエーヌに視線を送る。 「……はい。私は釈放してもいいと思っています。ディストーマに関しては」  マリエーヌ! 減刑ではなく、釈放まで主張してくれるなんて! 学生時代も含めて嫌な思いをしたけど、おそらく俺たちの作戦にディストーマが必要なことを考慮してくれたのだろう。 教師の仕事をしていた俺的には、まだディストーマは人間的に未熟なんだと思っている。 もちろん俺も成熟しているわけじゃないけどね。 ディストーマが良いほうに向かって、マリエーヌと和解が進む可能性はあるんじゃないかな……。 そんな未来になってくれればと思うよ。 「へぇー? 心が広いねー」  ナイリッシュ隊長がマリエーヌを煽るように発言した。 「まぁ、実害がないと言えばないな。実行犯はストマイドだしよ」  続けてオルダンテ隊長がコメントする。 「けど、精神的にはキツかったでしょ? 尾行されていたわけだし」  今度はジャスミーナ先生がマリエーヌに問い掛けた。 そうだよね……間違いなくディストーマも、マリエーヌに復讐しようとしていたんだ。 「……気にするほどの相手じゃありません」 「はははっ! 確かにそうだねぇ!」  メディアン隊長が笑い出す。 何か知らんがツボに入ったようだ。 彼女のよく分からない笑い声で変な空気になった後、再び魔女王が口を開いた。 「マリエーヌの意見は分かりました。それでは釈放の方向で進めましょう。私としては、ディストーマの時空魔法を評価しています」  魔女王が後ろを振り向き、ディストーマのほうを見る。 「ディストーマ……あなたは魔女隊への入隊を任命します。私の推薦なので選抜試験は免除します」  魔女王の突然の決定により、隊長たちが次々と喋り出す。 「ええぇっ!? それは流石に驚きですよー」 「お、俺は苦労して魔女隊に入りましたが……!?」 「お母様……選抜試験なしは前例が……」  魔女王は、隊長たちの発言を跳ね除けるように喋り続ける。 「時空魔法は貴重です。取り調べで判明しましたが、彼は随分と腕を上げたようです。まさかトランスタイムを使えるとは思いませんでした。法務隊で活躍してもらいましょう」  法務隊の隊長であるナイリッシュが発言する。 「私としては、ありがたい話ですねー。これで法務隊は仕事を遂行しやすくなる。ありがとうございます、魔女王様」  法務隊か……。 調査とかでトランスタイムを使うつもりか? ディストーマがあっさりと釈放され、しかも魔女隊に入れたのは好都合だ。 王国転覆に向けて、内部から探りを入れられるぞ。 俺はミルフィーヌと目配せをする。 どうやら彼女も同じことを考えていたようだ。  話はまとまったが、オルダンテ隊長とレブリナート隊長は不満そうだ。 メディアン隊長は何かを思いついたようで、ハイテンションで喋り出した。 「そうか! ストマイドのほうは過去には行けないんだよね!? 1度トランスタイムを使っちゃってるから……!!」  その発言に魔女王が反応する。 「そうです。トランスタイムでさらに過去へ行くことはできない。だからストマイドは必要ないのですよ。そして、未だにマリエーヌへの復讐心が消えていない。執念が強過ぎると無様ですね。若い時、魔女隊の選抜試験を受け続けたオルダンテぐらい執念深くて無様です」  また変な例えをし始めたぞ!? ……って、オルダンテ隊長を傷つける例えじゃないか!? ほら、彼の顔が引きつっているよ……!! また空気が悪くなるぞ!! やはり魔女王は男を目の敵にしているのだろうか? どうせ例えるなら、オナニー後にチンコにくっついて剥がれないティッシュぐらい執念深い……のほうが面白いでしょ? あ、下ネタか。 男にしか分かんないし……。 「魔女王様! けど、ストマイドは強くて戦力になるじゃないですかっ!! タイムストップは対象との魔力差がないと効かないだろうけど、セルフトランスタイムは最高じゃないですか!! セルフトランスタイムを魔女隊の隊員にかける研究をしたいですよおっ! 戦力アップのために!! もはやセルフじゃないけどね!」  メディアン隊長の勢いがヤバいな。 話が完全にストマイドのほうに移ったぞ。 この隊長は魔法の研究をしたいし、その魔法で戦力アップをしたいんだな。 そのためにはストマイドを死刑にさせたくない……というスタンスのようだ。 「そう、そうなんですよ。ストマイドの有用性。それについて皆さんの意見を聞きたい」  え……善悪じゃなくて、有用か有用じゃないかで死刑を判断するのか……!? こ、これが魔女の世界なのか!? けど、ディストーマを自分の都合で減刑・釈放にしようとした俺も本質的には変わらないか……。 せめてストマイドの件では、俺はマリエーヌの気持ちを最大限尊重した主張をしたい。 マリエーヌにとってマズい方向に行ったら、がんばって発言しよう。 マリエーヌはどう考えているんだろう? ストマイドは魔女王祭で死刑になるのか、それとも……?


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