123.マリエーヌ召集
Added 2023-05-24 08:00:00 +0000 UTCサンビュルーリカを出発したマリエーヌは、その日の夜に目的地に到着していた。 彼女が訪れたのは飛空艇の往来がある里だ。 夜間の便がなかったため、そのまま宿屋で一泊して翌朝になった。 飛空艇の出発まで、里の中を歩いて時間を潰しているところだ。 木造りの民家が立ち並ぶ大きな里。 遠くのほうでは飛空艇が何台も立ち並んでいるのが見える。 マリエーヌは行き交う人々の中で歩きながら、考え事をしていた。 (それにしてもケンジ……ブッ飛んだことを言い始めているわ。サンビュルーリカに革命を起こすなんて……) マリエーヌはサンビュルーリカの大きな力に萎縮しているところがある。 10代のころ、初めてサンビュルーリカに来てから、ずっと嫌な感じを受けてきた。 サンビュルーリカ出身者たちの大きな圧力。 他里出身の彼女にとって、若いころに感じたサンビュルーリカへの畏怖は大きく、拭い切れないものになっていた。 (……私は私で、やるべきことをやるわ。自分の大家族をつくって、アダマーリカみたいに小さくていいから、自分の里をつくるのよ!) 独自の目標に向かって突き進むマリエーヌ。 子づくりをするパートナーを探しに、彼女は大陸を越えて旅立つ。 (家族って……どんな感じなのかしら? 私の両親……どんな人だったんだろう?) アダマーリカで聞いたストマイドの言葉がマリエーヌの頭をよぎる。 (お母さんにお父さん……。どんな人だったんだろう? お母さんはお父さんと、どうやって出会ったんだろう? もともと里の中で生まれて暮らしていた2人なのかな? そうだったら、私の実の父親ね。外で見つけてきた男の人だとしたら、育ての父親になるわね。その場合、その人を奴隷にするのか、子づくりするパートナーにするのか……お母さんはどんなことを考えて決断したんだろう? 兄と姉もいたなんて、初めて知ったわ) マリエーヌが想像力を働かせている。 それと同時に、家族を失ってしまった悲しさや悔しさが押し寄せてくる。 (くっ……! 過去のことを考え始めると、ずっと考えてしまうわ。もうみんな殺されてしまったんだもの。私は未来のことを考えなきゃ。自分の家族をつくるの。そして、ケンジを奴隷として一緒に暮らして……) マリエーヌはアダマーリカの一件以来、よく過去のことを考えるようになっていた。 しかし、未来に目を向け、アダマーリカには行かずに旅立つことにしたのだ。 (……ストマイドのことは絶対に許せない) 里の中を歩きながら、考え事を続けるマリエーヌ。 飛空艇が往来する里だけあって栄えており、人口も多い。 周囲を歩く親子を目にすると、どうしても故郷のことを考えてしまう。 (この前の戦いで私はケンジとの未来を選んだから、ストマイドを殺せなかった。あの男……法で死刑になればいいのに) 深い思考の中に入っていると、マリエーヌの前から黒い着物姿の男が近づいてきた。 「ぜぇっ……ぜぇっ……。いた! マリエーヌ……よかった! よかったぜぇ……飛空艇に乗る前に会えた……ま、間に合った」 マリエーヌが息切れしながら騒ぐ男を注視する。 ボサボサの頭と無精ヒゲに見覚えがあった。 何より、この世界では珍しい着物と刀で確信する。 「え、あれ……? 攻撃隊の……隊長? オルダンテ隊長ですよね?」 見覚えがあったので、マリエーヌはオルダンテに確認した。 「ああ、そうだよ! ぜぇっ……ぜぇっ……」 魔女王の命令によって、夜中に走り出したオルダンテ。 徹夜で走り続け、マリエーヌに追いついたところである。 「……お前に魔女王様から招集がかかった! 明日……いや、もう今日だ! 今日の夜の会議への出席命令だ! 早めにサンビュルーリカの王宮に行ってくれ」 「え、会議……ですか? 王宮って……なんで私が?」 「魔女王祭の件だ! ストマイドの死刑のことじゃねえのか? 俺も昨夜、直接言われたんだよ。詳細は知らねぇ。人使いが荒いぜ……」 マリエーヌが驚く。 (隊長自ら来るなんて。しかも伝えられたのが昨夜? こ、この人……徹夜で走って来たってことかしら……?) 「こういう雑務は法務隊にやらせろよな、まったく……。まぁ、俺の移動するスピードは速いけどよ」 (わ、私に言われても……) と思ったが、口に出して言うのはやめた。 「……それにしても、魔女王様に気に掛けられているんだな、お前」 マリエーヌが目を見開いて少し驚く。 「そうなんですか? 分かりませんが……」 「首席で魔女学校を卒業したんだっけか? 卒業試合で優勝し、卒業研究でも研究隊のメディアンのところで新しい混合魔法を開発したんだったな……。業績はすごいけど、そんなにすごい奴には見えないぜ。調子に乗りやがって……。俺の代なんて、お前の師匠のメディアンがいたし、天才ジャスミーナもいたからな。チッ」 舌打ちをするオルダンテ。 魔女王との納得できない関係と走り続けた疲れが原因でイライラが溜まり、マリエーヌに当たり散らした。 (そ、そんなことを言われても……) マリエーヌは面倒臭そうだが、ブチ切れたりはしない。 サンビュルーリカの隊長まで上り詰めた彼の実力を知っているからだ。 もし喧嘩になったら、彼女はねじ伏せられてしまうだろう。 「あ、じゃあ戻りますね。すぐに出発すれば余裕で間に合いますので」 「ああ。俺も一休みしてから、会議開始までには戻る。寝てねーからブッ通しはキツい」 (また……走るのね。すごいスピードと体力だわ) 圧倒的な権力と魔力をもつ魔女王の指示には逆らえない。 マリエーヌはサンビュルーリカに戻ることにした。 --- マリエーヌがサンビュルーリカに到着する頃には、すでに日が沈み始めていた。 (……間に合ったわ。会議まで時間は充分あるわね。先に魔女王様に報告しておこうかしら……) 王宮の中に入り、ホール内に佇んで考えるマリエーヌ。 「あれれぇ!? マリエーヌ……じゃないかぁ!?」 話しかけてきたのは、研究隊の隊長であるメディアンだ。 「あ……メディアン隊長、ご無沙汰しております」 銀縁メガネをかけ、その赤髪を左側でサイドアップにした色白の女性。 魔女にしては小柄で160センチ弱。 ゆったりとした白衣を着ているので分かりづらいが、体は細い。 しかも童顔で、日にあまり当たっていないため、子供のような肌である。 40歳に近い年齢にも関わらず、サイドアップの髪型も相まって非常に幼く見える。 「会うのは魔女学校を卒業したとき振りかなぁ!? 成長しているようで感心するよ!! いや、ホント……関心関心」 ハイテンションで話し続けるメディアン。 久し振りに会うマリエーヌに興味深々のようだ。 「ありがとうございます」 「キミの開発した混合魔法……サイクロンボールだったね? 見事な成果だったよ! 今回の魔女隊への入隊試験を受ける気はないのかな? 受かったら、ぜひ研究隊に来て欲しいなぁ!!」 「え? いやいや! 私、魔女隊に入る気はないんですよ!」 メディアンは銀縁眼鏡を右手でつまみながらマリエーヌに近寄る。 「え、そうなのか……? ま、まさか、まさかだよ? 魔女学校の研究のほうに興味が出てきたとか?」 「え? いえいえ! 私は家庭を築きたいので……!」 「……ふうん。まぁ、それを大事にする気持ちは分かるけど。魔女学校で教えられてきたことだからね。けど、キミほどの実績があって魔女隊の隊員にも魔女学校の教員にもならないとはね……」 「……」 気まずい空気が流れるが、マリエーヌは何も言わない。 (すごい面倒だわ。でも、一応かつての師匠なのよね。指導してもらったことは全然ないけど……) そんな沈黙をメディアンが破る。 「……まぁ、いいや。なんで今日は王宮に来たんだい? 誰かに用かな?」 「魔女王様から招集が掛かりましたので」 「アインベルト様か。今は王室か寝室にいるんじゃないかな? 夜から会議が入ってるけど、まだ時間があるから」 「そうですか。ありがとうございます。では……とりあえず王室に向かいますね」 メディアンに挨拶をした後で、マリエーヌは王室に向かった。 (今日だけで隊長2人と話して、さらに魔女王様と……。疲れるわ。私を評価してくれるのは嬉しいけど、魔女隊への勧誘だなんて。サンビュルーリカになんて留まりたくないわよ。もう……サンビュルーリカは気が滅入るわ) ホールを抜けて螺旋階段を上がっていると、前からミランダが下りて来た。 メイド服を着た魔法生命体である。 「マリエーヌ様ですネ。アインベルト様がお待ちしていマスので、ご案内しマス」 ミランダに導かれて王室に案内されたマリエーヌ。 大きなアーチ型の扉の先には、白いロングドレスを身にまとった魔女王アインベルトが座っていた。 その両サイドには、ケンジが来たときと同様に、白いローブを着た魔女隊の隊員が5人ずつ横一列に並んでいる。 後ろの壁に設置してあるモザイクガラスは夕日によって昼間とは異なる輝きを放っている。 その光によって照らされ、怪しい雰囲気を放つ魔女王が口を開く。 「マリエーヌ……よく来ましたね。旅立っていたところ、Uターンさせて悪かったですね」 「……いえいえ! 問題ありません。魔女王様、ご無沙汰しております」 「そうですね。魔女学校を卒業したとき以来かもしれません。昨日旅立ったのは、パートナーを探すためだそうですね?」 「はい。パートナー探しを再開しました。もしかして……なにか問題がありましたか?」 「いいえ。同学年に神童ミルフィーヌがいたにもかかわらず、首席になったあなたです。その後の動向が気になるだけですよ。そう言えば、先ほどミルフィーヌも新しい奴隷達と王宮に来ていました。彼女も奴隷達と一緒にこの部屋に来ましたよ」 銀色の長い髪を少し揺らしながら、魔女王が上品に笑う。 (え……! ケンジも来たのね! 奴隷の申請かしら? いよいよ作戦スタートってわけね。ケンジ……魔女王様を目の当たりにして、怖気付いていなきゃいいけど。サンビュルーリカは圧倒的な力をもつ里なのよ。私は魔女学校で嫌というほど味わってきた。早く解放されて自分の里を作りたい……! ケンジからはすごい意志の強さを感じた。信じてもいいかな……って思った。でも……こうして魔女王様と対峙してみると、本当に何とかできるのかしら? ……って思っちゃうわ) マリエーヌが味わってきた魔女王の絶対王政には良い印象がない。 先に述べたように、他里出身者に対する圧倒的な差別も嫌な思い出だ。 この巨大な里に立ち向かう気力は学生時代に底をついた。 (サンビュルーリカとは、早く縁を切りたいのが本音だわ……) 否定的な考えがよぎる中、魔女王が続けて口を開く。 「そのときにミルフィーヌの奴隷の人間から申し出があったんですよ。ディストーマの罰を軽くして欲しい……と。あなたと同様にディストーマの被害者でしたね」 (え……! ケンジ!? 魔女王様に意見を!? や、やるわね……。やっぱりなんかすごいのよね、アイツ。ごちゃごちゃと喋って、なんだかんだで意見を聞いてもらっちゃうのよね。弱いのに。チキュウ人のほうが処世術が上手いのかしら? それとも、ケンジが特別にすごいのかしら……?) 「マリエーヌ……取り調べの報告書を見ると、ディストーマの処罰に対しては意見を言っていないようでした。今日は夜から会議があります。魔女王祭が近いですからね。あなたにも出席してもらい、意見を求めます。今日、あなたを呼び戻したのはそのためですから」 魔女王の銀色の瞳がマリエーヌを射抜く。 「……はい、分かりました」 返事をしながら、マリエーヌは思考を巡らす。 (ケンジ達は、ディストーマの力を必要としているってことよね。ディストーマは私を犯そうとした変態野郎で、しかも私を尾行して逆恨みの復讐をしようとしていた根性ひん曲がり野郎だけど、ストマイドと違って私の故郷には何もしていない。ケンジ達が思い通り動けるなら……話を釈放に持っていった方がいいかな? まぁ、あと100発ぐらい殴りたいし、口も聞きたくないし、あいつの時空魔法なんかに私は頼りたくないけど) ディストーマとの溝が埋まることはなさそうだが、サンビュルーリカ転覆という大きな野望のためには、彼のトランスタイムが必要かもしれないと思うマリエーヌ。 彼女はディストーマ釈放の意見を述べるようだ。 「あの、魔女王様……」 静かなトーンで尋ねるマリエーヌ。 「なんでしょう?」 「ストマイドについては……どうなるのでしょうか?」 「彼の処罰についても、夜の会議で決定しましょう」 「は、はい……」 (オルダンテ隊長が言っていたとおりね……) 「それでは、よろしくお願いします」 王室を後にするマリエーヌ。 ついに今夜、魔女王祭に向けた会議が始まる。