121.魔女王謁見(後編)
Added 2023-05-10 08:00:00 +0000 UTC俺とザッシ、そしてミルフィーヌは法務隊の隊長に連れられて移動した。 壮大なホールを通り螺旋階段を上がっていく。 奥に進んでいくと、大きなアーチ型の扉が見えた。 ナイリッシュ隊長が扉を開けると、王室が目の前に広がる。 王室は広く、床に敷かれた赤い絨毯は色鮮やかな糸で織り上げられているぞ。 その先には玉座があり、女性が座っているな。 あの人が……魔女王なのか!? 両サイドには白いローブを着た女性達5人ずつ立っているぞ。 魔女王と思われる女性は、豪華な白いロングドレスを身につけている……! 身長が高くてスタイルが完璧だな!! 細いのに……きょ、巨乳だ!! 俺のオッパイスカウター的には……Hカップかな? 銀色でロングのストレートヘアは誇り高い感じがするぞ。 大きくてやや釣り上がった銀色の瞳も気高さが滲み出ている。 う、美しいなぁ……! その美しさとともに、威圧感もある。 美女がゴージャスに振り切ったような感じだ。 ちなみに、後ろの壁にはホールで見たのと同じ色鮮やかなモザイクガラスがある。 日差しの光で輝いており、魔女王が神々しく見えるぞ! き、緊張するぜ……!! 「……来ましたね、ミルフィーヌ。……会うのは魔女学校の卒業以来でしょうか? 奴隷2名の確保、嬉しく思います」 ゆっくりと話し始めたぞ! お……大人の女性のエロい声だな!! 「魔女王様、ありがとうございます」 ミルフィーヌが深々と頭を下げる。 やはりこの人が魔女王か。 身に付けているネックレスとピアスとブレスレットが銀色だ。 魔女隊のローブや隊長のマントに刺繍されている紋章も銀色である。 魔女王の髪の毛と瞳の色を意味していたのか……! そういえば、祭壇に置かれていた像や宝石も銀色だったな! す、すごい権力を感じてしまう……!! 「もう1名、アヒラメ族の雄を客人として招いていますよね? あの雄はどのようにする予定ですか?」 プロトンのことだな。 さっきも会話に出た。 って、お……『雄』!? 「彼は配偶者にする予定です。客人の期間が終了したら、ゆくゆくは里の外で配偶者として接触する予定です」 「そうですか……」 普通に会話が進んでるけど、威圧感がハンパないな! 戦闘力の低い俺でも分かるぞ! 自然と体が震えてくるんだよね……。 俺は震えを抑えるので精一杯だ。 こ、この恐怖感……エリィ以来か……? ヤバ過ぎるだろ……。 戦闘力がエリィ級なのだろうか? しかし……ここでビビっちゃマズい。 俺はこの里を変えることを目標としているんだ。 「あの……初めまして、魔女王様。ケンジと申します。一つ質問してもよろしいですか?」 部屋の中がピリついたのがわかった。 次第に魔女王の両隣にいる白いローブの人達がザワつく。 「ケンジ……!? な、なにを……」 ミルフィーヌが驚いている。 こ、これは……職員集会で新卒の先生が空気を読まずに生意気な発言してしまった雰囲気かもしれない。 「え~? すごい度胸」 ナイリッシュ隊長が冷やかす。 俺……奴隷になるんだもんな。 発言したのは流石にマズかったか……。 さっきはプロトンのことを雄呼ばわりしていた。 奴隷だからというよりは、男だからかもしれない。 いや、そもそも新米がしゃしゃり出るのは嫌がられるよな。 しかし、この空気にヒヨっていては、俺はこの先やっていけないだろう。 ミルフィーヌに任せきりで焦りを感じている自分もいる。 「なんでしょう? ミルフィーヌの奴隷の人間」 魔女王が答えてくれた。 あ……喋って良い感じね。 周りの人たちの空気がめちゃめちゃ悪いけど。 「あの……先日捕まったディストーマの状況を教えていただけませんか?」 釈放にして欲しい……。 そして俺たちに協力して欲しい……という下心がある。 「おい! ケンジ!」 ミルフィーヌ……ご、ごめん! 調子に乗り過ぎてしまったか……。 「いいのですよ、ミルフィーヌ。私に会話を切り出す雄は珍しい。自分のことを地上最強だと思っている魔人ぐらい珍しくて笑えてきます。ディストーマの件ですか。彼は未遂ですからね。時空魔法の使い手ということも合わせて、そんなに重い罪にはしたくはないのです。あなたは被害に遭った人物の一人です。どう考えているのですか?」 魔女王……! なにその例え!? って、それよりも……俺に質問してくれたぞ!? 自分の意見を言わなくては! 「……ディストーマさんにも悪いところがありました。が、最終的には改心していましたので、罰を軽くして欲しいのです」 本当は釈放して欲しいけど、このぐらいの主張が精一杯だ。 権力や圧力を感じてしまって強い主張をすることは難しいぞ。 「……なるほど。被害者のあなたが根に持っていないのであれば、釈放でもいいのですが。いや、違いますね。1番の被害者であるマリエーヌの意見が必要ですね」 そうだよね、マリエーヌの気持ちが大切だ。 おお……魔女王は被害者の気持ちを汲んでいるんだな。 なんだ、ちゃんと話せば分かる感じじゃないか。 ……って、最初のほうは嫌な感じだったよね? 『雄』って言い方は、ちょっと良くないな……。 奴隷という立場になるから仕方ないのか……。 あと、変な例えは俺のことをバカにしていたのか? 『自分のことを地上最強だと思っている魔人ぐらい珍しくて笑えてきます』……だと? 魔女が地上最強だという自負から来るユーモアなのか? よ、よく分からなかったぞ……。 例えるなら、集合写真でクラス全員が目をつぶってしまったぐらい珍しくて笑えてくる……とかさ。 その光景を想像すると面白いのでは? あ、この世界に写真はないか。 脳内で楽しいことを考えて魔女王の恐怖に勝とう。 「それにしても、あなた……人間にしてはかなり強いほうですね?」 「え!?」 「元々の素養に加えて、すでにミルフィーヌの魔力を取り込んでいるということですね」 「……そ、そうです」 ミルフィーヌの魔力は1回エッチしたので取り込んた。 マリエーヌの魔力もたくさん取り込んでいるぞ。 これはわざわざ言わなくてもいいか? 俺が悩んでいると、魔女王が続けて喋り始める。 「とはいえ、あくまでも人間にしては……です。ミルフィーヌに仕えるのであれば、もっと精進してください」 「は、はい……」 「それにしても……私の直感ですが、もっと強い力を秘めているような気がします」 「え……」 俺に……強い力? 「一見すると小さく無力に見えますが……。あなたは強い魔力を秘めているように感じます」 強い魔力だと? それは……マリエーヌの魔力か? マリエーヌとミルフィーヌの魔力でそんなに差を感じるのか? あ! もしかしてエリィの魔力じゃないか? 昨日は呪いのバージョンアップもしてもらったし。 そういえば、マリエーヌと初めて会ったときはエリィの呪いを『嫌な魔力』って言われたけどな。 今回、エリィが俺の味方をする心を持ったからだろうか? あ……もしかしたら、マリエーヌとミルフィーヌの魔力で嫌な感じが薄まっただけかもな。 「まるでアリのようですね。小さな体にもかかわらず、じつは大きな力を持っているアリです」 また例えたぞ! この世界にもアリがいるのね。 自分の体重より遥かに重い物を運ぶって話だよな。 地球の生態系と同じ? 理科の先生としては気になるところだ。 あ、そう言えば犬もいたな。 同じ生物もいるわけだね。 「まぁ、強いことは良いことです。奴隷とは言え、上を目指してください。虫ケラの世界にも序列があります。その秘めた強い魔力を顕在化し、最強の奴隷を目指してください」 「……は、はい!」 魔女王に俺の魔力を診断されてしまった。 なんかオーラ診断している占い師みたいな雰囲気だな。 魔女王が例えばかりしているから、俺もどんどん例えちゃうよ? それにしても、虫ケラって言い方は嫌な感じだと思うけどね!! 「とは言え、ストマイドとの戦いで魔封じの腕輪と身隠しの腕輪を使ったのは関心できませんが……」 ええっ!? 急にダメ出し!? 「ああいった道具に頼らず、自分が持つ本来の魔力で戦うべきです」 「は、はい……」 魔封じの腕輪とか身隠しの腕輪みたいなアイテムに否定的なのか。 なんか強いこだわりがあるんだな。 戦闘力の低い俺は、むしろそういうアイテムをたくさん揃えたいんですけど……。 「さて、ミルフィーヌ。今日はわざわざありがとうございました。あなたの世代はマリエーヌもいますし、注目されているのですよ。奴隷が決定したということで見てみたかったのです」 「そうでしたか。ありがとうございます」 「あと、用件がもう一つあります。今日の夜、魔女王祭の会議があります。魔女隊の隊長達だけではなく、魔女学校の責任者も呼んでいます。元魔女学校の教員であるストマイドへの罰の件も話しますからね。その会議に出席して下さい。この件に深く関わっている重要参考人のミルフィーヌと……人間のあなたもです」 「は、はい! えぇっ!?」 お、俺も……!? 「あなたも被害者ですからね。ストマイドに拉致されそうになっています。実行犯はディストーマですが」 あ、そうか。 え……会議? 「……そうそう。ディストーマのことも、そこで話します。今、マリエーヌをサンビュルーリカに呼び戻していますから」 マリエーヌは昨日の朝に旅立ったばかりだよ!? 魔女王の招集は結構ムチャクチャだな! って、そんな重用な会議に俺が!? なんてこった! これは……ピンチ!? いや、サンビュルーリカの主要メンバーが集まるし、色々と知ることができるだろうから逆にチャンスか!? 「会議に決して遅れてはいけませんよ? 私の時間を無駄にしないでください。会議も効率よく進むよう協力してください」 あ……最後に効率厨の一面が出たな。 いや、効率厨ならマリエーヌが旅立つ前に言ってよ! そこはちょっと怒っちゃうけど、文句を言えるはずもない……! --- ナイリッシュ隊長に連れられて、先ほどの待ち合い室に戻った。 彼女は金色の瞳を俺のほうに向けているぞ。 「まったく……とんでもない奴隷だね。度胸あり過ぎー。夜の会議まで、この部屋で待っててね」 そう言い残し、隊長は去って行った。 俺たちは先ほどと同じようにソファーに座る。 「驚いたぞ、ケンジ。私より魔女王様と会話していたじゃないか」 ミルフィーヌが話を切り出した。 「あ、怖かったですけど……少しでも計画を進めようと思いまして」 変な例えのおかげで、わりと『なんだこの人……ヤバ過ぎて周りから煙たがられている人』感が出ていたので恐怖が薄らいだところはある。 これまでエリィと対峙してきた経験も役立った。 とくに出会ったころのエリィは、隙がなかったからな。 危険な相手と話すための免疫がついていたのかも。 「彼女の本性を知ったら、男は恐怖を感じて会話すらままならないぞ」 「えっ!?」 本性!? その本性は垣間見えていたけどね!? さらにヤバい本性があるのか……。 「いずれにせよ、あとは儀式さえ済ませれば、ケンジとザッシは私の正式な奴隷としてサンビュルーリカで動ける」 「俺はミルフィーヌ様に尽くしますよ!」 ザッシが元気だ。 「そうだな。期待している。しっかり働いてくれよ」 ザッシを鼓舞した後で、ミルフィーヌが俺のほうを向く。 「ケンジには研究をサポートしてもらう。まぁ、最初は私とディスカッションをするぐらいだが……」 「研究……分かりました」 「私は研究で成り上がる。まずは魔女隊の選抜試験に備えないとな」 「選抜試験……魔女王祭で行なわれるんでしたね。具体的には何をするんですか?」 「自分の特技を祭壇で見せるのだ。それが一次試験だ。後日、通過者による本選が始まる」 「なるほど」 「ミルフィーヌ様なら余裕ですよ!」 ザッシが応援している。 「そうだといいが……。ケンジも戦闘力を向上しておこう。魔女王様が指摘されたように、伸び代が大きいのかもしれん。私とザッシを相手に鍛錬を積んでもらう」 「はい! それはもう、がんばりますよ!」 戦う機会がこの先あるのかは分からない。 そうだとしても、いい加減、俺も強くならないと先が心配だ。 この世界では戦闘力が高いのか低いのかは大事なことなんだ。 「……最終目標との対面に成功したわけですけど、相手は強敵ですね」 とてもシラベールは使えなかった。 それでも、なんとなく分かった。 「ケンジ……さすがに分かったか。強さの面から見ても権力の面から見ても、魔女王様を引きずり下ろすのは雲を掴むような話に思えるかもしれん」 「はい、そこを何とかしたいです」 正直、絶望した。 人間にもたまにいる。 教授とか、社長とか、政治家とか……見ただけで雲の上の存在だな……って思っちゃう人。 う〜ん……どうやったらミルフィーヌを魔女王にできるのだろうか。 「そうだ。何とかするためには策を練るしかない。……さっきも言ったが、やはり手駒を揃えたい。エリィはなんとかなった。次はディストーマだな。さっきはよく話題に出してくれた。魔女王がディストーマ釈放に前向きであることが分かったな。夜の会議でも釈放に前向きな意見をマリエーヌが言ってくれれば何とかなりそうだ」 ミルフィーヌ……よかった。 さっきは俺が会話するのを止めていたからな。 話が良い方向に動いて良かったぞ。 マリエーヌの意見か……。 それは難しいかもしれない。 アダマーリカではディストーマと険悪な感じだったしな。 「魔女王様は、時空魔法を使えると分かっているディストーマを利用することを考えているはずだ」 あ、そうだな。 さっき魔女王はディストーマが時空魔法を使えることに言及していた。 「確かにそうですね。得に……トランスタイムは特別な魔法ですもんね」 「ああ。ディストーマが魔女王様の奴隷にされてしまう可能性もある」 ど、奴隷か……。 その展開はマズい。 「そうなったら、釈放されてもディストーマとの接触は難しくなってしまう……」 そ、そうだな……。 会議で何とかなるのか? 「夜の……会議次第ですか?」 「実際のところ、魔女王様次第だ」 う……! 会議と言いつつも、民主的ではないのかも。 魔女王の発言権がめちゃくちゃ大きいんだろうな……。 う~ん……どうしたら今のサンビュルーリカの法律をひっくり返せるだろうか。 「あの……例えばですよ? 例えば魔女王様にバトルで勝てる見込みって、どのぐらいありますか?」 「ケンジ……物騒な考え方になったな」 「あ、なんかすみません。魔女王祭でパレードがあるって聞きまして。外に出るなんて……チャンスなのかなって」 「チャンスはないな……。魔女王様は圧倒的な戦闘力だ。私の召喚魔法やマリエーヌの新技を駆使したところで全く歯が立たないだろう。例えエリィが来たとしても、パレードには魔女隊の隊長達がいる。総合的な戦力は魔女側のほうが上だろう」 マリエーヌの予測と同じか! やっぱり魔女王はエリィ級ってことだな。 「そうですか……。では、魔女隊の隊長はどのぐらいの強さなんでしょうか?」 「隊長クラスが相手だと、そうだな……。例え隊長1人でも、私とマリエーヌ2人がかりでもどうなるか……。ストマイドよりは間違いなく強いんだ」 お、おお……!? そういうレベルか……。 それはヤバいな。 「隊長たちは、魔女学校の先生より強いんですね……」 「ああ。魔女学校は教育と研究が専門だからな。一方で魔女隊は戦闘を前提とした組織なんだ。ただし、もちろん例外的に強い教員もいるぞ」 「なるほど」 「余談だが、研究についても違いがある。魔女隊の研究隊は実践的な研究が中心で、魔女学校は基礎的というか、学術的というか……例えば魔法の基礎的な理論や、失われた古代の魔法を解明している。あと、魔女隊のほうが枠は広く、学校の教員は枠が狭い。魔女学校の教員は枠が決まっている。私がいた学校は大きいほうだが、教員の枠は30人ほどだな。魔女隊の研究隊は人数の制限がない。今や300名を超えていて、サンビュルーリカの各地に研究所がある。研究をしたい魔女は枠が広い魔女隊に進みがちだ」 「ああ。地球で例えるなら、魔女隊は企業で、魔女学校は大学って感じですかね?」 「そういうことだな。ちなみに、攻撃隊、防御隊、法務隊はそれぞれ50名ぐらいの精鋭で編成されている」 おお……だいぶ魔女隊の全体像が見えてきたぞ。 「そうなんですね……! ちなみに、隊長たちはどんな人なんですか? ナイリッシュ隊長は見ましたけど……。なんか立て続けに聞いて申し訳ないのですが……」 「いやいや、構わない。敵を知っておくのは重要なことだ。……まず、攻撃隊の隊長は男だ。名は【オルダンテ】という。40歳ぐらいだったはずだ」 「男……」 「そうだ。ストマイドと同様、男にも関わらず成り上がった」 「おお……すごいですね」 「ああ。この世界では珍しく刀を扱う。とにかくスピードが速いんだ」 この世界にも刀があるのか……。 攻撃隊っていうぐらいだし、とても強そうな人だな。 「防御隊の隊長は女性だ。【レブリナート】という名前で、じつは魔女王様の娘なんだ。今年で30歳だった気がするぞ」 「え!? む……娘!?」 おいおい! 魔女王は何歳だよ!? 魔女は老けないんだな……。 ま、まさに美魔女……! 「レブリナート隊長は、バリアントを極めた使い手だな」 「バリアント……」 昨日、ミルフィーヌも使っていた防御魔法のことか。 色々と応用できそうな魔法だよな。 隊長ともなると、とんでもない熟練度なのだろう。 「研究隊の【メディアン】隊長はもはや研究漬けの狂人だ。彼女もオルダンテ隊長と同様、40歳ぐらいだな。実践的な魔法の研究に人生を捧げている。私は魔女学校の研究のほうが好きだがな」 そうか……魔女隊と魔女学校で研究分野が違うんだな。 「それでもミルフィーヌさん……あ、ミルフィーヌ様は魔女隊の研究隊を目指してくれるということでしたよね?」 「ふっ。仲間内であれば『ミルフィーヌさん』でいいぞ」 そうさせてもらおうかな……。 ミルフィーヌに依存し過ぎてもダメだ。 自分でマリエーヌとの道を切り開かないとね。 いつもミルフィーヌ様って呼んでたら、マリエーヌが怒っちゃいそうだし。 「……じつは今の私の研究場所は小さな学校だ。以前、ケンジが地球に強制的に戻ってしまった時期に就職した。サキュバスについて、そして召喚魔法やテンイスルーの理論、アヒラメ族の精液などについて研究させてもらっていたのだ。ちなみに私がテンイスルーを習得していたことは秘密にしている。里から抜け出せることがバレてしまうと行動しづらくなるだろうからな。……いろいろと軌道に乗っていたが作戦優先だ。そこは退職し、魔女隊の研究隊を目指す。私が魔女王になる未来が来たらいくらでも自由に研究できるから構わない」 「あ、ありがとうございます……。どこかの学校で研究していたんですね。知りませんでした」 「ああ。元々いた学校のほうが環境は整っているのだが、いろいろと事情があってな」 遠い目をしている。 き、聞かないでおこう……。 「さて、法務隊長も一応説明しておくか。ナイリッシュ隊長は、隊長の中では最年少だ。たしか現在30歳手前で……27歳か28歳ぐらいだったはずだ」 最年少……なるほど。 魔女はみんな若々しいが。 一番若いのか! す、すごいな……。 ミルフィーヌ……あり得ないほど頭が良いのに他人の年齢は結構あやふやなんだな。 『ふっ。実力に年齢なんて関係ないだろう?』……って感じか? 俺がそんなことを考えていると、ミルフィーヌが部屋のドアに視線を向ける。 「ん? 誰か来たみたいだな」 続けて、ノックの音がした。 「……どうぞ」 ミルフィーヌが呼びかけると、ドアが開いた。 お? 誰かが入ってきたぞ。 白衣姿の女性だ。 ブロンドの長い髪に青い瞳、色っぽい綺麗な女性……前に一度会ったことがあるぞ。 名前は何だったけな……。 「ミルフィーヌ、あなたが来ているって聞いてね」 挨拶をされて、ミルフィーヌが深くお辞儀をする。 「ジャスミーナ先生、ご無沙汰しております」 そうだ、ジャスミーナ先生だ! マリエーヌと一緒にストマイドの手掛かりを探しに魔女学校に行ったときに会ったんだ。 「うん、久し振りね。サンビュルーリカにいるのは知っていたけど、最近はぜんぜん会いに来てくれないんだもん。私の元を離れて研究に没頭していたみたいだけど」 ん? さっきミルフィーヌがしてくれた話だな。 私の元を離れて……? これが色々な事情かも。 「なかなか忙しくて……申し訳ありません。私も早く一人前になりたかったので……」 「そう。まぁ、いずれは独立しなくちゃダメよね。……そう言えばあなたも今夜の会議に参加するって聞いたわ。魔女学校からは私とウォルグリア学長も会議に参加するわよ」 学長か……見たことないな。 名前は【ウォルグリア】ね。 「学校側の責任者も参加すると聞いていましたが、学長とジャスミーナ先生でしたか」 「ええ。元教員のストマイドが問題だからね……私たちも参加しないと」 「そうですね……」 元同僚が犯人だもんな。 学校側はストマイドを庇うのだろうか? サンビュルーリカに貢献している面もあった……とか? 「……それにしても、その2人は何者? その男の子……マリエーヌと一緒にいた気がするけど?」 ジャスミーナ先生が俺とザッシのほうを見た。 ちょっと嫌な感じである。 「色々ありまして、2人とも私の奴隷になりました」 「へぇ……その龍族はともかく、戦闘力の低い人間はどうなのかしら?」 んん……!? 嫌な視線は俺に向けられていたのか……。 「ジャスミーナ先生、奴隷に必要なのは戦闘力だけではありませんよ?」 「そうかしら? あなたがそう言うならいいんだけど、心配だわ。奴隷は魔女の身を守ってくれる男の子じゃないと。最低限の戦闘力は必要よ」 「魔女王様いわくポテンシャルはあるみたいなので、これから鍛えますよ」 「え、そうなのね……」 俺のことを一瞥して、部屋から出て行った。 「ミ、ミルフィーヌさん、なんか……ちょっと傷つきました」 「ケンジ……これが魔女の世界だ。まぁ、私の師匠だ。許してくれ」 「あ、そうでしたね……」 たしかミルフィーヌの卒業研究を指導していたんだよな。 マリエーヌが言っていた。 「ジャスミーナ先生は天才だ。本物の天才なんだ。戦いで使用する魔法の研究ではなく、いつも魔法の本質について考えている。難解な研究テーマをいくつも思いつき明らかにしてきた。独自の理論を構築している」 「そうなんですね……」 ……なるほど。 大学はとことん疑問を突き止めるもんな。 企業の研究は、新製品をつくり、それが社会にとって役立ち、売れれば良いもんな。 大学は世の中で役に立つかどうかは実際のところ関係ない。 『研究費を獲得するために、申請書には何かしら社会貢献できる展望を書く』……って大学の先生が言っていたけどね。 まぁ、俺は1年しか研究していないから、詳しくは知らないけども。 「さて、会議はどうなるのか……」 魔女王、魔女隊長、魔女学校……さらに被害者のマリエーヌと俺、そして重要参考人のミルフィーヌ。 夜の会議……ヤバそうだなぁ。 まだ時間があるから、待ち時間が余計に緊張するぜ。 とにかく、さっきは魔女王の威圧感が凄すぎて絶望した。 けど……勇気を振り絞って発言できたぞ。 俺は前進しなくてはならない。 タイムリミットは1年だからな。 その後はマリエーヌが配偶者を見つけてヤリまくって、ヤリマンマリエーヌになってしまう。 そんなことは絶対にさせない……!! 俺はマリエーヌと幸せになるんだ! で、でも……魔女王、あらためて思い出すとヤバ過ぎだよなぁ……。 どうしたらその座をミルフィーヌが奪えるのだろうか……!?