120.魔女王謁見(前編)
Added 2023-05-03 08:00:00 +0000 UTC昨夜、俺はエリィの城を訪れて無事に帰って来た。 エリィの様子がいつもと違ったが、話が良い方向に進んだので安心している。 勢いよくヌカれた上に帰りが遅かったので疲れ気味ではあるが……。 現在はミルフィーヌの家で昼ご飯を食べるところだ。 1階にあるリビングで、俺とミルフィーヌ、そしてザッシとプロトンと一緒に食卓を囲んでいる。 料理は彼らが用意してくれたパスタのような食べ物である。 いつも料理してもらって、すみません……! というわけで、みんなで昼食を食べ始めた。 「たくさん食べてくれ!」 龍族のザッシはいつも元気である。 「今日の味付けは私がした。なかなか上手くできたと思う」 アヒラメ族のプロトンは相変わらずクールだ。 この2人にも、俺とマリエーヌのこと、そして今後の方針について話してある。 ん……? 何かミルフィーヌの外見に違和感があるな。 おお! 明らかにミルフィーヌの髪型が変わっているぞ! 「……あれ、ミルフィーヌさん? 髪の毛を切りましたか?」 俺は彼女に尋ねた。 最近、日本のセクハラは厳しいので、中学校では職員や生徒の髪型の変化を指摘できなくなってきた。 ……が、女友達の中には『気づいてもらえると嬉しい』と言う子も一定数いたんだよな。 結局は髪の毛の話題を切り出す男への好感度次第な気がするが……。 ミルフィーヌはどう思うのだろうか? 「午前中に切ってもらってきた。サンビュルーリカはヘアカットの技術も進んでいる」 表情を変えずに淡々と説明するミルフィーヌ。 ヘ、ヘアカットの技術について言及した……だと!? 変化に気づかれて喜ぶとか嫌がるとか、そういう問題ではなかったようだ。 「すげえ似合ってますよ!」 「ミルフィーヌ様……素敵です」 ザッシとプロトンがウキウキしながら褒めている。 セミロングから、オシャレな感じのショートにしたんだな。 確かに似合っているぞ! 着物と黒髪ショートヘアって、けっこう相性良いんだね。 頬の腫れも完全に引いているので、あらためてミルフィーヌが美形だとよく分かる。 大きい瞳に高い鼻……顎はシャープで整っているなぁ。 「新しい目標に向かって気持ちを切り替えないとな」 そうか、新しいスタートだもんな。 魔女王の座を奪うために、まずはこのメンバーでスタートだ。 「……マリエーヌに吹っ飛ばされて、気合いも入ったしな」 あれ? ミルフィーヌ……ちょっと表情が曇っているように見えるぞ。 俺は彼女がマリエーヌに殴られて吹っ飛ばされるところを少なくとも3回は見ている。 さすがに殴られ過ぎてつらくなってきたのかな……? またマリエーヌと不仲にならなきゃいいけど。 なんか昨日からミルフィーヌの感情が読めないんだよな。 マリエーヌに比べたら、もともと分かりにくい表情だけどさ。 何を考えているのか分からない生徒が、後々1番大変なことになることもあるんだよな。 う〜ん、俺の気にし過ぎだろうか……? 「そういえばケンジ、昨日はお疲れだったな」 ミルフィーヌが俺のほうを向き、エリィの件を労ってくれた。 「いえいえ! ミルフィーヌさんのほうこそ、城に連れて行って下さり、ありがとうございました」 「うむ」 「昨日も話しましたが、もうエリィに濃縮液は必要ないってことでいいですよね?」 エリィの様子は、昨夜の帰り際にミルフィーヌに説明済みである。ミルフィーヌがちょっと元気がないように見えたし、顔も腫れていてつらそうだったから、早めに話を切り上げて、ひとまず帰宅したが。 「そうだな……再度確認するが、エリィは魅了状態にあるとは思えなかったんだな?」 「はい。濃縮液の効果は切れている感じでした。彼女に何があったのかは分かりませんが……」 「そうか。私もなぜ急に魅了が解けたのかは分からない。ただ、解けても問題なかった理由は予想できる。その理由の一つとして、ケンジと仲良くなったことが挙げられると思う」 「え?」 「きっかけは魅了でも、相手との信頼関係ができれば、魅了が解けても仲良くしていられるものだ」 「あ……」 俺も昨日、濃縮液を使ってエリィとの関係が深まった期間があったのが良かったのかも……って思ったな。 そのおかげで、濃縮液の効果が切れても関係性が悪くならなかったのだろう。 「思い当たる例はいろいろあるだろう」 「はい……」 俺とマリエーヌの関係、あとはミルフィーヌとザッシとプロトンの関係だな。 そう言えば、この話は初めてエリィに濃縮液を使う前にもミルフィーヌとしたな。 俺はエリィにもその話が通用するのかと、半信半疑だったけども。 って、ザッシとプロトンはどういう気持ちで聞いているんだろう……。 「……」 「……」 ち、沈黙……! ミルフィーヌに魅了されていたことに気づいているのか、いないのか……。 まぁ、深く触れないでおこう。 もう2人の魅了状態は解けているらしい。 ミルフィーヌとどう生きていくのか、魅了が解けた状態で結論を出しているからな。 彼らの意志は固く、何も問題がないのだろう。 ミルフィーヌは気にせず会話を進める。 「魅了が解けた後も恋愛関係でいられるのか、友人になるのか、もしくは険悪になってしまうのか……それは当人達次第だな」 「……はい。昨日、エリィは冷静に相談に乗ってくれたので、とても話しやすかったです。あの感じだと、僕とエリィは良い関係だと思います」 「ふむ……やはり、これ以上は濃縮液を使わずに様子見だな。ただ、油断はするなよ?」 「もちろんです! あと、エリィに昨晩打ち明けましたよ。サンビュルーリカの革命の件について」 「なっ!? もう言ったのか? いずれ協力してもらう予定ではあったが……。私が思っている以上に話しやすかったんだな……」 「はい。それはもう……」 俺の近況を聞かれたぐらいだからな。 そのままエリィに今後の目標を打ち明けたのだ。 「何か言っていたか? エリィは今回の作戦に協力的だろうか?」 「協力的ですね。僕が瀕死になったら、エリィが召喚される魔法を付与されました。まぁ、魔法というか、呪いをバージョンアップして効果を付与された形式なんですけど」 「なっ!? エリィを召喚だと!?」 ミルフィーヌが驚く。 ザッシとプロトンも『マジかよ……!?』という顔をしているぞ。 「そんなことができるのか! 興味深い。し、しかし……エリィが召喚されるなんて……大丈夫か?」 「あ、エリィがサンビュルーリカに来ちゃうと大事件になるかもしれない……ってことですよね?」 「そうだ。サンビュルーリカは厳戒態勢に入るだろう。まぁ、ケンジが瀕死になる時が訪れるとしたら、魔女王様や魔女隊に我々が殺されそうになるときだろう。我々の計画がバレたときなどだな。そうなってしまったら、致し方ないか……」 「はい……」 ミルフィーヌが俺と同じ結論に達し、納得してくれた。 そうだよね……エリィ召喚は色々とヤバいよね。 昨日はすごいって思ったけど、冷静に考えると良い方向にも悪い方向にも一気に進みそうで俺もドキドキしているよ。 「他にエリィは『まずは作戦を立てろ』……と言っていました。ちょっとまだノープランですもんね」 「そうだな。それはもっともな意見だ」 俺は強い意志を持ってサンビュルーリカに革命を起こすことを決断した。 決断したものの、どうしたらいいのか、なかなか検討がつかない。 「プランか……。エリィを含めたプランはまだない。とりあえず私は魔女隊に入るぞ。魔女王祭の日から始まる選抜試験を受ける」 「え……えぇっ!? ま、魔女隊ですか!?」 「そうだ。時間は掛かるが、出世するには魔女隊に入るのが王道だ」 「ああ! なるほど……」 そうか、その手があったか……。 よく考えてみれば順当な手段だな。 「魔女学校の教員になるという道もあるが、魔女王様に接近するためには魔女隊に入るが一番だ。今のままでは短期間で成果を上げられる作戦は何も思い浮かばんからな。まずは相手を知ることにする」 「たしかに……」 「長い道のりになりそうだ。だが、エリィがこちら側についたのはありがたい。ご苦労だったな、ケンジ」 ……そうだな。 いざとなったらエリィがいるというだけで、心に余裕ができる。 「いえいえ、そんな! ……まぁ、エリィとは僕の精液を引き換えにしたギブアンドテイクって感じでして、これからも搾精は続いてしまいますが……」 「うむ……そこはよろしく頼む。……あとは、ディストーマの協力が必要だな」 「はい。彼のことは判決が出てからですかね?」 ディストーマは魔女隊に捕まったままで、処遇について結論が出ていない。 果たしてどうなるのか……。 「そうだな。……他にエリィは何か言っていたか?」 ミルフィーヌがエリィの話に戻す。 「えっと……サンビュルーリカの本が欲しいらしいです」 「うん? 本だと?」 「そうなんですよ。目的はよく分かりませんが、魔女に興味を持っているみたいです。なんでもマリエーヌ様を仲間に引き込みたかったとか」 「ふむ……」 「あ、里の侵略とかは考えていないと思いますよ? 以前、魔女とは有益な関係を築きたいと言っていましたから。魔女の教育システムとか、魔女の存在はブルーへの刺激になる……とかも言っていたので、もしかしたら教育本が欲しいのかもしれません」 「そうか。なるほどな」 「で、お金を少々ですね……」 「ああ。私が買っておこう。客人の男であるケンジが買って、他の魔女に因縁を付けられたら面倒だしな」 「え? 本を買うだけで……ですか? やはり男は立場が低いというか、生きづらいですね……」 ん? プロトンが何か言いたそうだぞ。 「その通りだ。私たちも苦労している」 な、何かを思い出している……! 魔女に因縁を付けられたことがあるのだろうか? 里で色々とあって、ミルフィーヌの奴隷ではなくて配偶者の道を選んだのかもしれない。 まぁ、以前にミルフィーヌとの子孫を残してアヒラメ族の復興を……って言っていたから、それがメインの理由なんだろうけど。 「俺は気にしないけどな! ミルフィーヌ様と一緒にいられるんだから!」 ザッシ……その性格はサンビュルーリカでの生活に向いているかもしれない。 けど、俺は本気でブッ壊すからね? このサンビュルーリカの法を! みんな長期的な計画だと思っているかもしれないけど、俺は短期間で成し遂げるぞ! とは言え、具体的なプランはないんだけどさ……。 「サンビュルーリカは、とにかく男に厳しいのだ。それに、大きな里ではあるが閉鎖的だ。里の情報を外に出すことを嫌う者もいる。ケンジが本を買っていたら、サンビュルーリカの情報を悪用するのではないかと疑われて因縁を付けられるリスクが上がるのだ」 「な、なるほど……」 ぶ、物騒だなぁ。 日本の価値観だと、よく分からない。 学校でカツアゲする不良みたいな? いや……情報を守ろうとしているから、風紀委員的な考え方かな? 「閉鎖的とは言え、街中で売られている書物の多くは外の世界に流通しているものだ。なんの規制もない。結局は野蛮な魔女達が男に理不尽に難癖を付けたいだけだろう。……とにかく、私が買えば問題ない」 やっぱり嫌な感じだなぁ。 え……ミルフィーヌのその言い方だと、街中で売られていない極秘の書物もあるってことかな? 「そうですか……。ちなみに、外に出回ることを禁じている書物もあるんですか?」 サンビュルーリカの秘密的な? それが魔女王をその座から引きずり下ろす重要アイテムになったりして……。 「ああ。王宮と魔女学校にある書物の中には、そういったものが多い。王宮とは、魔女王様と魔女隊がいるところだ。極秘の書物は、とくに魔法の研究内容が記されたものだろう。地球の研究者で言えば、発表前の実験データに相当する」 「魔法の研究内容……」 それは興味深い。 魔女王攻略のアイテムとしてだけじゃなく、俺の戦力を強化するために役立つかも。 俺ももっと強くならないと、この先マズいんだよな……。 目標を達成するには魔女隊と魔女王と関わらなくてはならない。 遥か上の存在なんだろうけど、戦闘力をできるだけ上げておきたいよ。 さすがに戦って勝てるようになるとは思わないけどさ……。 例えば交渉することになったら、交渉する側とされる側の強さの関係って大切じゃないか? まぁ、交渉となると知識や思考力のほうが大事かな。 俺もこの世界の書物を読みまくって、せめて知識ぐらいは武装したいな……。 「ケンジ。そういった書物が里を転覆させる手掛かりになるのでは……と思っているな?」 ミルフィーヌに考えを見破られた。 「はい……そうですね」 「いい着眼点だ。やはり私が魔女隊に入って王宮で仕事をすることが望ましいな」 そうか……極秘書物に手が届く地位になれるかもしれない! 何か魔女王の秘密を握れれば……って感じか! ミルフィーヌ……ありがとう! 本当に頼りになるぜ。 「ミルフィーヌ様、今日のご予定は?」 プロトンがミルフィーヌに予定を聞いた。 マリエーヌがいなくなり、エリィが味方につくことになり、今日は新たなスタート1日目という気分である。 まだお昼になったところなので、午後の時間をどう使うか……。 「今日は王宮に行くぞ」 「お、王宮って……いまさっき話題に出ましたよね? 魔女王と魔女隊がいる、攻略相手の総本山ってことですよね!?」 「そうだ」 ミルフィーヌがうなずく。 魔女王……最終目標がいる場所だ!! マリエーヌとミルフィーヌは取り調べのときに王宮とやらに行っていたみたいだけど、俺は別の場所に呼び出されたんだよな。 部外者だからね。 簡単に王宮内には入れないのだろう。 「ただ、魔女王様には会えないがな。今回はケンジとザッシを私の奴隷にする件で行く」 あ、その件か! 契約や儀式があるってマリエーヌは言っていたっけ。 プロトンは配偶者だから今回は関係ないってことか。 「偶然でいいから、王宮内で魔女王に会えればいいのだが……」 ミルフィーヌが真剣に考えている。 「え、どういうことですか?」 「ケンジ、魔女王様や魔女隊にシラベールは使えるか? 戦闘力を数値化できる魔法だったな? 魔女王様や魔女隊の戦闘力を数値化しておきたい」 それは確かに確認はしておきたい! ミルフィーヌと魔女隊にどのぐらい差があるのか。 あと、エリィと魔女王の差はどれぐらいか……だな。 でも…… 「それは流石にバレると思います。魔女は魔力を感知する力が高いんですよね?」 「そうだ。どのぐらい相手と差があるのか、数値で確認しておきたいところなのだが。やはり難しいか……?」 「はい……難しいですね」 エリィやブルーにはバレなかったけど、マリエーヌにはコロシアムで対戦したときにバレたことがあった。 って、コロシアムで俺とマリエーヌが戦ったのは、なんだか懐かしいな! あの頃から考えたら、今の関係性は驚きだぜ! ……それはさておき、シラベールは他の人と戦闘中とか、他のことに集中していたらバレないだろう。 たしかコロシアムでのブルー戦のときは、ミルフィーヌのステータスを確認したことがあった。 この前の戦闘中は魔女学校の教員であるストマイドにさえもバレなかったぞ。 「そう言えば、対象が他の誰かと戦闘中ならイケますね……!」 「戦闘中か……。さすがに今日はチャンスがないだろう。まぁ、無理して唱えてバレることは絶対に避けたい。今後、チャンスがあれば調査を検討してくれ」 「はい!」 さすがに無理はできないな……。 今日、魔女王を偶然見かけることがあるだろうか? マリエーヌが言っていた魔女隊の隊長とやらも見てみたい。 敵の姿は直に見て確認しておきたいぜ。 あ、ちょっと緊張してしきた……。 「よし、準備を整えて出発するぞ」 昼ご飯を食べ終えて、王宮に向かう準備を開始する。 よし……色々と話したが、ミルフィーヌが魔女隊に入る試験を受けることを決めてくれたことは前進である。 魔女隊に入れば敵に近づける……か。 なるほど……。 自分では何も思いつかない中、ミルフィーヌが指針を示してくれた。 王宮に行けるのもミルフィーヌの存在があってこそだしね。 ありがたいぜ……! 俺的には、自分で何も思いつけなくて情けないけども……。 --- 昼下がり、俺とミルフィーヌ、そしてザッシは王宮に向かった。 ちなみにプロトンは留守番である。 商店街を抜け、しばらく歩くとマリエーヌと見た大きな祭壇があった。 祭壇の上には色々なものが増えているので、魔女王祭の準備が着々と進んでいるようだ。 相変わらず魔法生命体であるミランダさんが指揮をとっているようだな。 準備をしている白いローブの魔女達も街中に増えたなぁ。 ちなみに商店街にはチラホラ飾り付けされているところがあった。 きっとパレードのルートなのだろう。 さらにしばらく歩くと、王宮が見えてきた。 「あ! 見えてきましたよ!」 前を歩くザッシが指を差す。 王宮……す、すごい大きいな。 ん? あの建物は以前に見たことあるぞ。 初めてサンビュルーリカに来たときに見た、レンガ造りの城のことだったんだな。 過去のサンビュルーリカだったけど、今も城の姿は変わっていない。 赤茶色の城はかなり存在感というか重厚感があり、独特のものがあるな。 外壁には彫刻やレリーフが施されている。 窓はアーチ型のものがたくさん並んでいるな。 サンビュルーリカは広いのでまだ一部のエリアしか見ていないが、おそらく一番大きな建物じゃないか? 里のトップがいるんだもんね。 「あそこに魔女王様がいる。行こう」 ミルフィーヌが歩くスピードを少し上げた。 王宮に向かって歩き、ついに到着したぞ……! けっこう歩いたな。 入り口と思われる大きな扉もアーチ型だ。 扉の前には、見張りらしき人がいた。 白いローブの女性だ。 胸元と背中に目立つ銀色の紋章が施されていて格好良いぞ。 この白いローブが魔女隊の証なのだろうか? 「あれ、ミルフィーヌかい? 取り調べはもう終わったはずだよね? 今回は……」 見張りの女性は、ミルフィーヌと顔見知りのようだ。 親しみやすそうなお姉さん系の人だな。 「同伴している龍族のザッシと、人間のケンジを私の正式な奴隷にします。今日はその申請結果を聞きに来ました」 「ああ。そう言えば、申請書を提出していたわね。ちょっと待って……審議自体はもう始まってると思うから。中の部屋で待っていてくれる?」 ミルフィーヌ……もう動いていたのか。 仕事が早いな。 「はい、分かりました。あと、私は魔女隊の選抜試験の申し込みを行ないたいのですが……まだ間に合いますか?」 「え!? ついにミルフィーヌが……!? そう……だったら、ぜひ私たちの防衛隊への入隊を検討してね!」 「はい。受かった後の話ですが、検討します」 ぼ、防衛隊……? やはり魔女隊の中で部署が分かれているのか。 マリエーヌも魔女隊の隊長が複数いるって言っていたな。 だんだん組織の構成が見えてきたぞ。 隊はいくつあるのだろうか? あとで時間がありそうだったらミルフィーヌに聞いてみるか。 王宮の中に入り、俺の目の前に広がったのは豪華なホールであった。 天井が高いな……。 大きな円柱状の柱が天井に向かっていて、壮大な雰囲気である。 壁に埋め込まれたガラスは色鮮やかなモザイクで綺麗だな。 俺たちは待合い室のようなところに通された。 フカフカのソファーにザッシと並んで座る。 ガラスのテーブルを挟んで正面にはミルフィーヌが座っているぞ。 俺とザッシは奴隷にされるのに待遇が良いな……。 それにしても、この建物は本当に豪華だな。 部屋には豪華な鎧や雰囲気のある絵画が飾られているぞ。 「なんか圧倒されますね。この王宮」 「サンビュルーリカで1番立派な建物だからな。やはり我々が掲げた目標は高い」 「そ、そうですね……」 この組織を打ち破り、ミルフィーヌがトップになるんだもんな。 こうも財力というか権力を見せつけられると、弱気な感情が出てきてしまう。 「やはり、もっと我々の同志を揃えたいな。今のところ新たな戦力はエリィで、加入が期待できるのはディストーマ……か」 「ディストーマ……早く釈放されればいいですよね」 「ああ」 他に誰かいないかな? あ、そう言えばエリィと戦ったときにはアリスさんがいたな。 「そういえば、アリスさんはどうですか?」 「アリスか……彼女は配偶者を探しに里の外に出てしまった」 「あ、そうなんですね」 アリスさんも婚活か! そうやってみんな魔女法に則って、気に入った男を配偶者と奴隷に分別するんだな。 日本育ちの俺には、どうしても納得できないルールだぜ。 「アリスの透視魔法はサキュバス相手には有効だった」 と、透視魔法……!? そういう魔法を得意としているのか。 そう言えば彼女の特技は知らなかった……。 千里眼みたいな感じか? 「しかし、今回の相手は魔女だ。しかも飛びっきりエリートの魔女だ。昼食のときに話したとおり、特別に魔力に敏感だからな。リスクは高い」 「な、なるほど……」 俺のシラベール同様、透視していることがバレちゃうんだな。 「ただ、アリスは魔女王祭までには帰って来るだろう。基本的に参加はしないとマズいからな。アリスも魔女隊に入るよう促してもいいかもしれん。彼女の能力は法務隊にピッタリだ」 「法務隊?」 また新しい隊名が出てきた。 「日本で言うと……検事、弁護士、裁判官のような役割だ。例えば、ストマイドの事件の調査や取り調べも法務隊が行なった。警察の刑事課の業務にも近いかもしれん。あとは、今回の奴隷の申請や、魔女隊の選抜試験などの雑務も行なっている」 「なるほど。そういう仕事なんですね。あ……魔女隊の部署のことをもう少し詳しく聞きたかったんですよ。さっきの見張りの人は防衛隊なんですよね?」 「ああ、そうだ。防衛隊は里の治安を守るのが仕事だ。里内の警備が業務として挙げられる。日本で言うと……普段は交番勤めの警察や、警ら隊のような業務で、外敵が攻めてきたときは自衛隊が近いだろう」 ミルフィーヌ……めっちゃ日本の仕事で例えてくれる。 日本のことを勉強した時間は少ないはずなのに。 今更だけど、やっぱ規格外に頭が良いんだよな。 ケイラタイって何だよ……。 頭にスパコン詰めてるというか、歩くウィキペディアというか……。 「……な、なるほど」 「ちなみに魔女隊の隊員は、あの銀色の刺繍が入った白いローブを着ている」 「あ、やはりそうでしたか……! 他には何隊があるんですか?」 「他国に攻撃を仕掛ける攻撃隊と、魔法や防具の開発を行なう研究隊だ。魔女隊は計4つの隊から成り立っている」 へぇ……防具の開発? 武器は開発しないのか。 武器……使わないもんな、マリエーヌもミルフィーヌも。 ストマイドもそうだった。 魔女の特徴なのかも。 そう言えば、医療隊とか回復隊みたいなのはないのか? 魔女は攻撃的だな……。 「ありがとうございます」 魔女隊のことを大まかに把握できたぞ。 さて、審査結果のほうはどうなっているのか……。 「……審査の結果はどのぐらいで分かりますかね?」 「……そろそろ結果が出ると思うが」 「え、けっこう早いんですね」 「以前に2人とも客人として調査済みだからな。魔女王様は業務に時間を掛けないタイプで有名だし、すぐに結果は出るだろう。申請書は昨日の時点で提出したから、もう結果は出ていて最終確認をしているだけかもしれん」 「あ、そうなんですね」 魔女王は効率タイプか。 なんか『コスパコスパ、コスパが大事よ!』って口癖のように言ってそうだ。 あ……なんか俺、嫌な感じになっているかも。 教育者なので効率厨には苦手意識がある。 友人のリョウいわく、俺も要領が良いタイプらしいけど……。 そんなつもりはないんだけどなぁ。 コスパとか言ってたら中学生は教えられないよ……。 「よし……これで決まるぞ。2人が里に居続けられるのかどうかが」 ミルフィーヌが俺達に目をやると、ザッシが返事をした。 「そうですね! 結果が待ち遠しいです! そう言えばミルフィーヌ様、プロトンはどのくらい里にいられるんですか?」 「プロトンは客人のままだからな。客人でいられる期間はあと1ヶ月と少し残っている。それ以降は里を出ることになるんだ。客人として再び長期的に滞在するのは難しい。審査が圧倒的に通りにくくなる」 そ、そうなのか……! プロトンは1ヶ月ぐらいしたら、このプロジェクトから退くことになってしまいそうだ。 「その後は里の外で受精だな。子を宿すことに成功したら、プロトンがサンビュルーリカに来ることはできない」 受精って……言い方! そうか、そういうことか……。 そのパターンは、プロトンとミルフィーヌは里の外でなら会い続けることはできるんだな……? 俺とマリエーヌにもそういう選択肢はあったが、そうしてしまうとマリエーヌと暮らしながら一生のパートナーになることはできない。 俺がやるべきことは里の中でミルフィーヌをトップにすることだ。 この里を根本的に変えて、一生マリエーヌと暮らせるようにするんだ! もう決めたんだぜ! この豪華な建物を見て弱気になっている場合ではない!! 「失礼」 あ、誰かが部屋に入って来た。 白いローブを着ている女性だか、先ほどの人ではない。 クール系の美女だな。 「法務隊の者です」 法務隊の人か! 結果が出たのかな!? 「ミルフィーヌ……そちらの2名の奴隷についてですが、審査が通りました」 よし! 本当にすぐ結果が出たな! 「ついにミルフィーヌ様と!」 ザッシが喜んでいる。 「ザッシさん……」 「ありがとう、ザッシ。故郷もあるのに」 ミルフィーヌがザッシに近寄って告げた。 俺より付き合いが長いし従順だから、特別に思うところがあるのだろう。 俺は戦略的に奴隷になるだけからな……。 でも、目的を達成できなきゃ死ぬまでミルフィーヌの奴隷である。 「よかったです! 俺は故郷のことは気にしないから大丈夫ですよ!!」 ザッシ……そうだよね、故郷を捨ててまで……。 魔女の奴隷になるというのはそういうことなんだよな。 俺はその法を変える気でいるよ! あ……故郷と言えば、俺も早く地球に戻って退職願いを出さなきゃな。 「後日、儀式を行ないますので連絡をお待ちください」 法務隊の女性が事務的に伝えた。 例のマリエーヌが言っていた儀式か……。 「はい、分かりました」 ミルフィーヌが答えた。 「あと、ミルフィーヌの魔女隊への選抜試験も承認されました。こちらについても後日、詳細を通達します」 よし、よかった! 順調である。 ん? 法務隊の女性が部屋を出るのと同時に、誰か別の人が入って来たぞ!? 「こーんにちわー」 だ、誰だ? この人は……黒いマントを羽織っている。 白いローブを着ているのが魔女隊の隊員ということだが、黒いマントとは珍しい。 「え……ナイリッシュ隊長?」 ミルフィーヌが驚いている。 た、隊長だって……!? 「この前の取り調べでは、どーも」 「はい。お疲れ様でした」 取り調べ? 俺は別の場所だったからか、この人はいなかったな。 「この男達が奴隷なのねー」 「そうです。龍族のザッシと、人間のケンジです」 「ふーん」 「こちらは法務隊のトップであるナイリッシュ隊長だ」 法務隊のトップか! 金髪のショートヘアで、オシャレな感じの人だ。 ヘアスタイルがミルフィーヌと被ったな。 色白で細く、童顔だがマリエーヌと同様に猫目。 金色の瞳が特徴的だ。 身長はマリエーヌより小さめで……160センチってとこかな? それに黒いマントに銀色の刺繍。 さっきの隊員の人の白いローブより紋章の刺繍が一回り大きい。 黒地に銀だから、とても目立つしね。 この黒マントは、威厳というか威圧感がすごいなぁ……。 もしかして隊長は黒マントで、部下の隊員は白いローブって感じかな? 喋り方はやる気のない感じだ。 しかし、話すスピードは早く、頭が良さそうだ。 そして視線が……なんか嫌な感じだ。 「ミルフィーヌ……魔女隊の選抜試験を受けるんだってー?」 「はい」 「どの隊に希望するのー? まぁ、受かってからの話だけど」 「正直なところ、研究隊を考えています」 「な~るほど。まぁ、そうだよねー。魔法が得意って聞いてるし」 研究隊……か。 さっきは未定みたいなことを言っていたけど……。 本当は決まっていたんだな。 誤魔化しが効かない相手なのか? 『本当は決まってるんでしょー?』とか言ってきそうな雰囲気はある。 「あと、こっちが本題。魔女王様がお呼びだよー」 「え? ま、魔女王様が……ですか!?」 なっ!? 魔女王が自ら……!? 魔女王の名前はアインベルトだったよな。 たしかマリエーヌが言っていたぞ。 「今回、奴隷になった男達も一緒に……だってさ」 へっ!? 俺とザッシも……!? 「なっ!? 魔女王様は何を考えて……」 「私は知らないよー。ただの案内係だし」 そう言いながら、俺とザッシを一瞥するナイリッシュ隊長。 なんか苦手だなぁ、この人。 脱力した喋り方だけど、話すスピードは早い。 全てを見透かしてますよ感が出ている瞳。 というより口元かな? 少しニヤついて、こちらを見下している感じなんたま。 こういう人……いるよね。 で、ハリボテの人と、本当に頭が良い人。 この人は本当に頭が良い人なんだろうな。 魔女隊の隊長だもんな。 選抜試験を受けて魔女隊になって、その中からさらに選ばれている4人なんだから、特別な人しかなれないよね……。 「よし……行くぞ。ケンジ、ザッシ……」 ミルフィーヌが俺とザッシの名前を呼ぶが、その瞳は俺たちを見ていない。 その様子からミルフィーヌの緊張が伝わってくるぜ……!
Comments
全然構わないですよ 本編の終わりにでも書いてくだされば
超雲
2023-05-05 14:49:07 +0000 UTCご支援ありがとうございます! 長編である本作を最新話まで読んでくださって嬉しいです。 確かにエリィの城には2パターンの人間の奴隷達がいますね。 彼らに焦点を当てるとエッチな話になりそうです……が、正直なところ現在は本編を書き進めるので精一杯ですので、ご容赦ください!
Subtle@女性上位_ドMホイホイ_ノベル
2023-05-05 14:49:06 +0000 UTCここまで読ませていただきました! いやはや私の好みと合致して非常に良かったです! 魔女の里やエリィの城での男の扱いも満足でした。 そこでなのですが、まだケンジが来る前もエリィの城には人間の雄奴隷がいましたよね 彼らの話をみてみたいです。 専属になってる奴隷から、フリーの奴隷までいるようなので、彼らがどのような扱いを受け、搾られてるのか見たいです! ぜひ検討していただけたら
超雲
2023-05-03 11:24:14 +0000 UTC