21.勇者としての意地があります【宿屋に泊まったらパーティの女賢者に魔法責めされて、超絶イキ地獄を味わいHPが0になった】
Added 2022-03-18 08:30:00 +0000 UTC雷の勇者リットは、一瞬にしてデスヌーダの背後に回った。 その姿を必死で追っていたのはルーだ。 彼女は、目で追うだけで精一杯だった。 (う、嘘……!? 手首を切断したと思ったら、すぐに移動を開始しました……。と、とんでもない速さで……! けど、出血がヒドいです。地面に血が滴り落ちるほどでした……。どうやって攻撃するつもりでしょうか? 魔法……ですか? 呪いのリングが外れてレベルが元に戻ったとは言え、勇者様の雷魔法が……どこまで効くのでしょうか!? 両手を切断してしまって剣が持てないから、奥義は使えないはずです!) 3メートルに達するほど、大きくなったデスヌーダの体。 膨れ上がった筋肉により体の横幅も広がっている。 増えた死角を利用し、背後に潜む勇者。 デスヌーダは後ろからの殺意を察知する。 しかし、大きな筋肉が邪魔して振り返るのが遅れる。 その隙を突いて勇者は飛び跳ね、敵の首に噛みつく。 勇者の目は今までに見たことがないほど鋭く、そして血走っている。 (か、噛み付いた……ですって!? なりふり構わず!! 殺気が凄まじいです!) ルーは、勇者の命を懸けた戦いを見て圧倒された。 「う……そ……。な、なにを……?」 レインの口からも驚きの言葉が漏れる。 「……ぐ、あああぁっ!? き、貴様! 背後から噛みつくとは!」 ルーの風魔法によって、デスヌーダについた無数の切り傷。 勇者の歯は、その切り傷をえぐり、敵の肉体に食い込んでいく。 デスヌーダの首からは青色の血液が流れ出ている。 勇者は腕と足を絡ませている。 手首から先を失いはしたが、残った腕の部位を使って必死にしがみついているのだ。 激しく抵抗するデスヌーダから振り落とされないようにしている。 「勇者様……ま、まさか……船室で私にしたように……!?」 ルーが勇者の攻撃方法に気づいた。 勇者は噛むのを一瞬ゆるめ、必死で詠唱を開始する。 「……雷の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん! 我が歯にその魂を集めたまえ! サンダーストライクッ!!」 彼の奥義、サンダーストライクを放つ。 「あぎゃああああぁっ!! き、貴様ぁー!!」 デスヌーダの体内に電流が流れる。 「雷の精霊よ!! その魂の一部を我に譲ることを許したまわん……我が歯にその魂を集めたまえ……サンダーストライク!」 勇者の追撃が止まらない。 しがみつく勇者を振り落とそうと、デスヌーダが抵抗する。 「……雷の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん、我が歯にその魂を集めたまえ……サンダーストライクッ!!」 3発目のサンダーストライクが放たれた後で、デスヌーダの抵抗が止まる。 「お、おおおっ!! おおおうぅ……!!」 声を上げながら、ゆっくりと前に倒れるデスヌーダ。 体から煙が上がっている。 焦げ臭い匂いが辺りを漂う。 倒れた体の上には勇者が乗っている。 少し離れた位置にいるルーは、目を細めて勇者の様子を確認する。 「ゆ、勇者様……く、口が……歯が……」 勇者の口周り、歯はボロボロだった。 かつてルーが船内で受けたサンダーストライクのときとは異なり、勇者は本来のレベルに戻っている。 しかも手加減無用の全力である。 サンダーストライクの威力は、あのときとは比べ物にならない。 それを立て続けに3発も撃ち込んだ。 「やった……の?」 勇者の怒涛の奥義に言葉を失っていたレインが口を開いた。 ルーも視線を勇者に送る。 「ゆ、勇者様……デスヌーダを……倒せたんですか!? そ、そこまで……ボロボロになって……」 ルーの声が聞こえたのか、勇者はデスヌーダの巨体から降り、彼女のもとへ向かう。 「……」 もう勇者の喉は焼け、声を出せない。 そんな中、デスヌーダの体が動き出す。 勇者の全力の奥義を受けたにもかかわらず、立ち上がったのだ。 「……う、うおおおおっ! フザけるな!! 最終形態位いぃー!!」 デスヌーダは止まらない。 彼の体が今度は縮み始めた。 元の姿に戻った……ように見えたが、皮膚の色は紫色のままだ。 大量に存在していた筋肉は小さくなった体に凝縮され、その破壊力を保っていた。 体が小さくなり、スピードは上がっている。 内在するその魔力は、今までとは比べものにならないほど増大している。 「ひぃっ! ま、まだ変化を……」 レインが恐怖し、倒れたまま後退する。 ルーも予想外の変化を見て、血の気が引く。 「そ、そんな……!! ……だ、第4形態……ですか!? ゆ、勇者さま!! う、後ろーー」 ルーが喋り終わる前に、視界の中にいたはずの勇者の姿が消えた。 瞬時に、ルーのすぐ近く、自分の剣を地面に突き刺した位置に姿を現す。 勇者は、ボロボロになった口で剣の柄を咥えた。 そのまま首を大きく振り、地面から剣を抜く。 彼の行動一つ一つに、一切迷いはない。 (……勇者様!? 動きだけではなく、決断も……は、早いです……!! 敵を倒せていなかったときのことを予想して、さらなる変化をしたときのことを予想して、次の行動を考えていたんですか……!? けど、勇者様の声はもう……口の中が焼けて……おそらく詠唱できない!!) ルーは圧倒されながらも、冷静に状況を分析する。 彼女は心配そうに見守っている。 そんな心配を他所に、勇者の目に迷いはなくデスヌーダの命を奪うことだけを考えている。 「き、貴様……雷の勇者!! そんな状態で……剣も……握れないのに……まだ戦うか!! 私の最終形態の恐ろしさ! 味わうが良い!!」 デスヌーダは、今までとは比べ物にならないほどの魔力を放出しようとしていた。 それを感じたルーとレインの背筋が凍る。 デスヌーダが一歩前に出て魔力を放出しようとした瞬間、ルーの視界から再び勇者が消えた。 目で追えないほどの速さ。 気づくと、デスヌーダの顔面に剣が突き刺さっていた。 その左目から剣の柄が飛び出ており、後頭部からは剣先が露出している。 剣が敵の顔面を貫通しているのだ。 致命傷と思われる攻撃を放った勇者は、デスヌーダの体から落ちていた。 地面にうつ伏せの状態で倒れている。 (……つ、突き刺しました!! 咥えたまま……信じられない速さで突き刺しました!!) ルーがゾッとした表情を浮かべる中、デスヌーダが叫び出す。 「ぐおおおおっ!! 雷の勇者め!! だが……私はまだ……動ける!!」 まだ彼は絶命していない。 両足で立ちながら、勇者への反撃を狙っている。 (デスヌーダ!! 顔面を刺されてなお、まだ動けるっていうんですか!?) 次の瞬間、倒れている勇者が仰向けになった。 そして、勇者の体から無数の雷が放たれた。 デスヌーダの顔面に突き刺さった剣に、放たれた無数の雷が収束する。 「なあぁっ!? 魔法……だと!? う、うぅ、うぎゃああああっ!!!」 剣を通して、デスヌーダの体内に電気が流れていく。 (む、無詠唱……ですか!?) これまで勇者は、魔法を使うときは必ず詠唱していた。 今……彼はとても喋れる状態ではないにもかかわらず、確かに雷魔法が勇者から放たれた。 先ほどのサンダーストライクにより勇者の顔面はボロボロである。 だが、その目は確かに見開き、デスヌーダを射抜いている。 勇者が意図的に放った、雷魔法サンダーボルトである。 (まさか……今、できるようになったんですか!? この戦いの中で無詠唱を……!! 勇者様は……まだ……成長していた……) デスヌーダが白目を剥き、倒れた。 もはや動かない。 徐々に、その体が灰になっていく。 「や、やりました!! デスヌーダを倒しました! でも……勇者様! か、顔が! 火傷が! 腕からの出血も!」 ボロボロになって倒れている勇者に、ルーが駆け寄る。 レインも立ち上がり、よろよろと近づき驚きの声を上げた。 「す、すごい……すご過ぎる。な、なんなのよ……この強さ……。け、獣みたいだった……!! 両手を切断し、絶望的な……殺されるかもしれない……この場面で……なんの躊躇もなく……」 駆け寄って来たルーは、倒れる勇者に寄り添った。 そして彼に言葉をかける。 「勇者様……あなたを舐めていました。その戦闘力だけではなく、その強い意志に圧倒されました。くぐってきた修羅場が違ったというわけですね……」 (……ル、ルー? なんだ? 何か喋っているな……もう……よく聞こえない……) 勇者の意識が消えかけている。 「あなたは……両手を捨ててまで、呪いのリングを外して戦いに挑みました。剣も握れない圧倒的に不利な、命賭けのこの戦況で、臆することなく……これほどまでの力を発揮できるのですね。これが……雷の勇者……」 (ルー……もう一度、エ、エッチなことを……したかった……) そんなことを考えながら、勇者の意識は途切れた。