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21.勇者としての意地があります【宿屋に泊まったらパーティの女賢者に魔法責めされて、超絶イキ地獄を味わいHPが0になった】

 雷の勇者リットは、一瞬にしてデスヌーダの背後に回った。 その姿を必死で追っていたのはルーだ。 彼女は、目で追うだけで精一杯だった。 (う、嘘……!? 手首を切断したと思ったら、すぐに移動を開始しました……。と、とんでもない速さで……! けど、出血がヒドいです。地面に血が滴り落ちるほどでした……。どうやって攻撃するつもりでしょうか? 魔法……ですか? 呪いのリングが外れてレベルが元に戻ったとは言え、勇者様の雷魔法が……どこまで効くのでしょうか!? 両手を切断してしまって剣が持てないから、奥義は使えないはずです!)  3メートルに達するほど、大きくなったデスヌーダの体。 膨れ上がった筋肉により体の横幅も広がっている。 増えた死角を利用し、背後に潜む勇者。 デスヌーダは後ろからの殺意を察知する。 しかし、大きな筋肉が邪魔して振り返るのが遅れる。 その隙を突いて勇者は飛び跳ね、敵の首に噛みつく。 勇者の目は今までに見たことがないほど鋭く、そして血走っている。 (か、噛み付いた……ですって!? なりふり構わず!! 殺気が凄まじいです!)  ルーは、勇者の命を懸けた戦いを見て圧倒された。 「う……そ……。な、なにを……?」  レインの口からも驚きの言葉が漏れる。 「……ぐ、あああぁっ!? き、貴様! 背後から噛みつくとは!」  ルーの風魔法によって、デスヌーダについた無数の切り傷。 勇者の歯は、その切り傷をえぐり、敵の肉体に食い込んでいく。 デスヌーダの首からは青色の血液が流れ出ている。 勇者は腕と足を絡ませている。 手首から先を失いはしたが、残った腕の部位を使って必死にしがみついているのだ。 激しく抵抗するデスヌーダから振り落とされないようにしている。 「勇者様……ま、まさか……船室で私にしたように……!?」  ルーが勇者の攻撃方法に気づいた。 勇者は噛むのを一瞬ゆるめ、必死で詠唱を開始する。 「……雷の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん! 我が歯にその魂を集めたまえ! サンダーストライクッ!!」  彼の奥義、サンダーストライクを放つ。 「あぎゃああああぁっ!! き、貴様ぁー!!」  デスヌーダの体内に電流が流れる。 「雷の精霊よ!! その魂の一部を我に譲ることを許したまわん……我が歯にその魂を集めたまえ……サンダーストライク!」  勇者の追撃が止まらない。 しがみつく勇者を振り落とそうと、デスヌーダが抵抗する。 「……雷の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん、我が歯にその魂を集めたまえ……サンダーストライクッ!!」  3発目のサンダーストライクが放たれた後で、デスヌーダの抵抗が止まる。 「お、おおおっ!! おおおうぅ……!!」  声を上げながら、ゆっくりと前に倒れるデスヌーダ。 体から煙が上がっている。 焦げ臭い匂いが辺りを漂う。 倒れた体の上には勇者が乗っている。 少し離れた位置にいるルーは、目を細めて勇者の様子を確認する。 「ゆ、勇者様……く、口が……歯が……」  勇者の口周り、歯はボロボロだった。 かつてルーが船内で受けたサンダーストライクのときとは異なり、勇者は本来のレベルに戻っている。 しかも手加減無用の全力である。 サンダーストライクの威力は、あのときとは比べ物にならない。 それを立て続けに3発も撃ち込んだ。 「やった……の?」  勇者の怒涛の奥義に言葉を失っていたレインが口を開いた。 ルーも視線を勇者に送る。 「ゆ、勇者様……デスヌーダを……倒せたんですか!? そ、そこまで……ボロボロになって……」   ルーの声が聞こえたのか、勇者はデスヌーダの巨体から降り、彼女のもとへ向かう。 「……」  もう勇者の喉は焼け、声を出せない。 そんな中、デスヌーダの体が動き出す。 勇者の全力の奥義を受けたにもかかわらず、立ち上がったのだ。 「……う、うおおおおっ! フザけるな!! 最終形態位いぃー!!」  デスヌーダは止まらない。 彼の体が今度は縮み始めた。 元の姿に戻った……ように見えたが、皮膚の色は紫色のままだ。 大量に存在していた筋肉は小さくなった体に凝縮され、その破壊力を保っていた。 体が小さくなり、スピードは上がっている。 内在するその魔力は、今までとは比べものにならないほど増大している。 「ひぃっ! ま、まだ変化を……」  レインが恐怖し、倒れたまま後退する。 ルーも予想外の変化を見て、血の気が引く。 「そ、そんな……!! ……だ、第4形態……ですか!? ゆ、勇者さま!! う、後ろーー」  ルーが喋り終わる前に、視界の中にいたはずの勇者の姿が消えた。 瞬時に、ルーのすぐ近く、自分の剣を地面に突き刺した位置に姿を現す。 勇者は、ボロボロになった口で剣の柄を咥えた。 そのまま首を大きく振り、地面から剣を抜く。 彼の行動一つ一つに、一切迷いはない。 (……勇者様!? 動きだけではなく、決断も……は、早いです……!! 敵を倒せていなかったときのことを予想して、さらなる変化をしたときのことを予想して、次の行動を考えていたんですか……!? けど、勇者様の声はもう……口の中が焼けて……おそらく詠唱できない!!)  ルーは圧倒されながらも、冷静に状況を分析する。 彼女は心配そうに見守っている。 そんな心配を他所に、勇者の目に迷いはなくデスヌーダの命を奪うことだけを考えている。 「き、貴様……雷の勇者!! そんな状態で……剣も……握れないのに……まだ戦うか!! 私の最終形態の恐ろしさ! 味わうが良い!!」  デスヌーダは、今までとは比べ物にならないほどの魔力を放出しようとしていた。 それを感じたルーとレインの背筋が凍る。 デスヌーダが一歩前に出て魔力を放出しようとした瞬間、ルーの視界から再び勇者が消えた。 目で追えないほどの速さ。 気づくと、デスヌーダの顔面に剣が突き刺さっていた。 その左目から剣の柄が飛び出ており、後頭部からは剣先が露出している。 剣が敵の顔面を貫通しているのだ。 致命傷と思われる攻撃を放った勇者は、デスヌーダの体から落ちていた。 地面にうつ伏せの状態で倒れている。 (……つ、突き刺しました!! 咥えたまま……信じられない速さで突き刺しました!!)  ルーがゾッとした表情を浮かべる中、デスヌーダが叫び出す。 「ぐおおおおっ!! 雷の勇者め!! だが……私はまだ……動ける!!」  まだ彼は絶命していない。 両足で立ちながら、勇者への反撃を狙っている。 (デスヌーダ!! 顔面を刺されてなお、まだ動けるっていうんですか!?)  次の瞬間、倒れている勇者が仰向けになった。 そして、勇者の体から無数の雷が放たれた。 デスヌーダの顔面に突き刺さった剣に、放たれた無数の雷が収束する。 「なあぁっ!? 魔法……だと!? う、うぅ、うぎゃああああっ!!!」  剣を通して、デスヌーダの体内に電気が流れていく。 (む、無詠唱……ですか!?)  これまで勇者は、魔法を使うときは必ず詠唱していた。 今……彼はとても喋れる状態ではないにもかかわらず、確かに雷魔法が勇者から放たれた。 先ほどのサンダーストライクにより勇者の顔面はボロボロである。 だが、その目は確かに見開き、デスヌーダを射抜いている。 勇者が意図的に放った、雷魔法サンダーボルトである。 (まさか……今、できるようになったんですか!? この戦いの中で無詠唱を……!! 勇者様は……まだ……成長していた……)  デスヌーダが白目を剥き、倒れた。 もはや動かない。 徐々に、その体が灰になっていく。 「や、やりました!! デスヌーダを倒しました! でも……勇者様! か、顔が! 火傷が! 腕からの出血も!」  ボロボロになって倒れている勇者に、ルーが駆け寄る。 レインも立ち上がり、よろよろと近づき驚きの声を上げた。 「す、すごい……すご過ぎる。な、なんなのよ……この強さ……。け、獣みたいだった……!! 両手を切断し、絶望的な……殺されるかもしれない……この場面で……なんの躊躇もなく……」  駆け寄って来たルーは、倒れる勇者に寄り添った。 そして彼に言葉をかける。 「勇者様……あなたを舐めていました。その戦闘力だけではなく、その強い意志に圧倒されました。くぐってきた修羅場が違ったというわけですね……」 (……ル、ルー? なんだ? 何か喋っているな……もう……よく聞こえない……)  勇者の意識が消えかけている。 「あなたは……両手を捨ててまで、呪いのリングを外して戦いに挑みました。剣も握れない圧倒的に不利な、命賭けのこの戦況で、臆することなく……これほどまでの力を発揮できるのですね。これが……雷の勇者……」 (ルー……もう一度、エ、エッチなことを……したかった……)  そんなことを考えながら、勇者の意識は途切れた。


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