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20.若き才能が立ち向かいます【宿屋に泊まったらパーティの女賢者に魔法責めされて、超絶イキ地獄を味わいHPが0になった】

 俺は前方にいる2人のもとに駆けつけた。 その少し先で静かに喋っているのは……魔族だ。 俺が聞き間違えていなければ、奴は確かに自分のことを【デスヌーダ】と言った。 その姿は、一見すると人に見えなくもない。 190センチほどの高身長で、引き締まった筋肉。 褐色の肌……。 上半身は裸で、下には黒い腰巻きを装備している。 しかし人間とは異なり……大きな黒い翼が生えている。 ここが大きな違いだ。 突如として出現した魔族は、冷徹な目でこちらを見ている。 「我が名はデスヌーダ。この世界の……新たな魔王になる者だ」  現状を把握したレインが口を開く。 「デスヌーダ……この大陸にいる魔族ね。魔王軍の元幹部……」  そう、この大陸にいるのは分かっていた……。 まさか……魔物に町を襲わせているのがデスヌーダだったとは! 「魔族ですか……私たち2人で戦います。勇者様は下がっていてください」  駆けつけた俺に、ルーが指示を出す。 「この2人が今の仲間か? そうか……私が放った魔物を一掃したのも、お前達だな?」  デスヌーダがルーとレインに視線を合わせる。 「だったら……なんだって言うのよ?」  レインが強気な態度でデスヌーダに近づく。 「レイン! 不用意に近づくな! ルー!! お、俺のリング……外せないか?」  町の魔法屋まで行くとなると、往復20分はかかる。 走っても……往復10分ぐらいか? そもそも魔法屋は閉まって、店主は避難しているだろうし。 ルーの魔法でなんとかならないのだろうか? 「勇者様……またそんなことを……。もう戦いが始まりますよ。そんなに外したいなら、戻って魔法屋に行って下さい。逃げないでくださいよ? 勇者様の子供がいるかもしれませんからね?」 「なっ!? そんな余裕は今、ないだろう? 俺は……ルーのことを心配してだな……」 「デスヌーダは魔王ってわけではないんですよ? 私は今、あの魔族からそれほど脅威は感じません。私とレインの2人がいれば問題ありませんよ……。一応、私は後衛で戦いますから、心配無用です」  ルー……確かに魔王ではないけどさ! 実際にデスヌーダと対峙してみると、脅威は……確かにそれほど感じないな。 俺は『デスヌーダが強い』という話を聞いていただけだ……。 俺が……恐れ過ぎている? どうする? この2人で勝てるのか? 「話は済んだ? ……やるわよ、ルー」 「ええ、レイン。もちろんです」  2人の表情が変わった!  こ、この迫力……!! さっきまでとは異なり、本気で戦うつもりだ! 一気に集中した状態に入った! この魔族はそこら辺の相手とは格が違う……という認識はちゃんとしてくれているようだ。 よし……この2人を……信じよう! 危なくなったら、俺も魔法で援護するぞ!!  まずは……レインが動いた! 猛スピードで前進している……! 「おりゃあああっ……!!」  レインは拳に炎を纏わせているぞ! 敵の前で急停止し、右のストレートを放つ!! 「う……! なんだその炎は!? 貴様……何者だ!?」  意表を突かれたデスヌーダが防御に回る。 両腕で顔をガードしたぞ! 「私は……賢者よっ!!」  レインのパンチがガードされる……が、攻撃は止まらない!! 炎を纏った拳撃がデスヌーダを襲う。 「どりゃああああっ……!!」  レインの……怒涛のラッシュだ!! 右と左のパンチ、ローキックと膝蹴りも織り交ぜて、次々と攻撃をヒットさせていく……!! 「ぐふぅっ!!」  右のミドルキック!!  強烈な1発が綺麗にデスヌーダの横腹に入った! 「……チャンス!!」  レインの拳が炎から氷に!! その氷が伸びて…… 「ぐはああっ!?」  デスヌーダの胸を一突きだ!! 胸から青い血を吹き出しながら、仰向けに倒れたぞ!? う……動かなくなった。 「なんだ……私1人で充分だったわ。たいしたことなかったわね」  レインはそう言い放ち、後ろでスタンバイしていたルーのほうを振り向く。 「本当に……たいしたことなかったですね」  今度はルーが振り返り、俺のほうを見る。 ジト目だ……。 倒せたのであれば良かった。 想像以上に彼女達が強かったんだ。 ……ん? いや、待て……。 倒れたデスヌーダがわずかに動いている! 「いや……まだだ!! デスヌーダを見るんだ!」  ……なんとなく、嫌な予感がする。 デスヌーダの体が……変化しているのか? 奴の肌の色が……紫色になった!? そして、立ち上がったぞ……。 ん!? 体が……一回り大きくなっている! 2メートルを越す巨体になっている!! 「変化……した!?」  レインが驚いている。 変化……なんか既視感があるな。 「そうだ! そう言えば、魔王も……戦闘中に変化していた! しかも、2回も変化した!」  かつての仲間と戦った魔王戦を思い出した! 最終決戦だったのでよく覚えている! 2回……つまり第3形態まで変化していた! 「オオオオオオオォッー!!」  突如、雄叫びを上げるデスヌーダ! 本能のままに叫んでいる! 変化前は理知的な印象だったが、今は違う!! とても暴力的で破壊的な印象を受けるぞ! な、なんだ!? 風圧が……来る!? いや、魔力を放出したのか!? 叫ぶのと同時に!! 「うわあああああぁっ!?」  俺の体が宙を舞う! う、後ろのほうに吹っ飛んでしまっているぞ! そして地面に体を打ち付けられた!! い、痛い……。 ここら辺は荒れ地なので余計に痛い。 こんな広範囲な攻撃をしてくるとは、参ったな……。 そうだ! ルー達は!? あ……前にいた2人は……余裕で耐えているな。 さすがだ……! やはり前衛にレイン、後衛にルーの陣形で戦うようだ! 向かって来るデスヌーダに、ルーが手の平を向ける。 「明らかなパワー系になりましたね!? ……重力の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん。我が右手にその魂を集めたまえ! ……沈降魔法オモ・クナール!!」  ルーの魔法だ! 体が重くなる魔法だな!? ……通用するのか!? あ! デスヌーダの動きが鈍ったぞ! 「かなり魔力を注ぎ込みました! 重力は2倍になっています……!! 効いて良かった!! レイン!!」 「わかっているわ! 私は……攻撃する!! ……気流の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん! 我が全身にその魂を集めたまえ……風魔法ウィンドアップ!!」  レインは風魔法で自身のスピードを上げたぞ!! そして、やはり拳に炎を纏っている! い、いや……右手に炎、左手は氷だ!! 右手で戦い、左手でトドメを刺すつもりだな! 2種類の魔法を拳に纏っている……!! ルーが補助にまわって、上手く連携しているな! こ、これは……良いコンビネーションだ! 「おりゃあああぁっ……!!」  レインが怒涛のラッシュを再開する!! 次々と敵の身体にヒットしている……! ただ……デスヌーダのやつ、完全なパワー系になっているぞ! フィジカルが強化されているせいで……ダメージを与えている感じはしない!! 「甘いぞぉっ!! そんな攻撃じゃ、次期魔王の私は倒せない!! オオオオオオオォッー!!」  再びデスヌーダが吠えた!! またしても魔力を放出したんだ! 氷の拳を使う間もなく、レインが後退する。 それにしても……すごい魔力の放出だ。 後ろに吹っ飛ばされた俺の方にまで、圧力を感じるぞ。 ルーとレインの2人は後退しつつも倒れずに耐えている!! な、なんてこった……! 変化後のデスヌーダ……強いな!? 「くっ! デスヌーダ!! 賢者を舐めないで!」  魔力を放出し続けるデスヌーダに、レインが突っ込んでいく!! 左手の氷を放つつもりだ!! 「あっ!! レイン! そ、そこは突っ込むな!」  魔力放出中は……危険だぞ!! 「くぅっっ!」  ああぁっ! 近づくほどに、魔力放出による影響を受けてしまっている!! デスヌーダの間合いの中で、レインの動きが止まってしまった!! レイン……そこは突っ込んじゃダメだ! 放出が終わるまで待たないと!! 素質があっても……まだ若い! 「隙だらけだ……小娘!!」  デスヌーダが、その巨体を一歩前に進めてパンチを繰り出す!! 「きゃあああぁっ!?」  レインの顔面にヒット!! 第2形態のデスヌーダ……強い!! ここまでの強さを持っているとは! 次期魔王と主張するだけのことはあるな……!! 「レインが……!! 大丈夫ですか!?」  レインの足がグラついている。 今にも倒れそうだ! ……が、レインはすぐに体勢を立て直して戦い続けた。 デスヌーダからの魔力の放出はおさまり、接近して打撃を放つことができている! 一方、ルーは俺のところまで後退してきた。 「勇者様……えらく吹っ飛びましたね? 大丈夫ですか?」 「俺は大丈夫だよ!」 「あの……デスヌーダは、あともう1段階変化する可能性がありますか?」 「あ、ああ……おそらく。魔王はそうだった。……って、レインをあのまま戦わせていて大丈夫か!? レインを……助けないと!」 「私の重力魔法がまだ効いているので、さっきみたいにムリに突っ込まずに冷静に戦えば大丈夫でしょう。ただ、ダメージは与えられていないですね……。氷の拳が、あの体に刺さるのかどうか。あ、繰り出すみたいです!」 「くらえ! デスヌーダッ!!」  レインが相手の隙をとらえ、氷の拳を繰り出した! 先端の尖った氷が、敵の胴体を突き刺そうとする!! 「なぁっ!? そ、そんな……私の氷が……」  ……突き刺さらない!! 皮膚で止まり、氷が砕け散ってしまった!! 「これは……私も加勢しないとマズいですね。ただ、今は重力魔法を維持するのに魔力を使い過ぎていて、他に何もできないんですよ。重力をもとに戻したら……レインが危険です」  そうか……明らかに劣勢だ。 やはり町まで逃げて、魔法屋の店主を探しに呪いのリングを外してもらうように頼むか? そんなことをしている間に、2人が殺されてしまうか……。 むしろ相手に背を向けて逃げたところを狙われそうだ。 ルーの魔法を使ってみんなで飛んで逃げても、相手も飛んで追って来るはず。 デスヌーダには……翼があるからな。 ……どうする? 「なかなかやるじゃないか! 小娘たち……!! オオオオオオッ!!」 「見てください、勇者様! デスヌーダが……ま、また変化しています! さ、最終形態……!?」  筋肉の膨張が激しい。 さらに……大きくなっていく!! 「う、嘘……でしょ!?」  レインが呆然としている。 劣勢の状態での、相手の戦力アップ……。 こ、心が折れかけているのか!? 「わ、私の……私の魔法が……弾かれました!!」  なぁっ!? 重力2倍の効果が切れてしまったのか……!! 魔法防御も上昇しているのだろうか!? 「くっ! 重力1.5倍で魔法をかけ直します……!!」  ルーが詠唱を始める。 デスヌーダ……もう体が3メートル近くになっているぞ!? あんな大きな体から放たれる攻撃を喰らったら……一撃で死んでしまう!! 「魔法は効きました! き、効きましたけど……」  圧倒的な威圧感を放っている! こ、これは……厳しいな……!! 「……に、逃げろ! 2人とも! 死ぬぞ!! 逃げるんだ! ルー! 俺が時間を稼ぐから! いいから、飛んで行け!」  俺は慌てて前進する。 レインが……殺される!! ルーと2人で逃げてくれ!! ひ……一回り大きくなったデスヌーダが右腕を振り上げている! 「雷の勇者めぇっ!! 逃げるぅっ!? 逃がさんぞおおぉっ!!」  言葉使いがさらに荒くなっている……!! デスヌーダのハンマーパンチが、再びレインの顔面をとらえた。 「きゃ、きゃあああっ……!!」  レ、レインが……!! その場で崩れ落ちた! ……が、すぐに起き上がろうとしている! 両腕でのガードが間に合ったんだな!? よ、よく……耐えた!! 「う、う、うわあああぁっ!? も……もう……ムリィ……!! こんな……大きな……体……」  な、なぁっ!? 両腕を負傷したのか!? ……ダ、ダメだ! 立ち上がるのをやめて、座り込んでしまったぞ!? 戦うことをやめてしまっている! こ、心が折れてしまったんだ!! 「まずは1人目えぇっ……!! トドメだぁっ!!」  デスヌーダがレインの前でゆっくりと右の拳を振り上げる。 「ヒッ!! た、助けて……」  くっ! 恐怖のあまり、レインが涙を流している……!! 急げ! 俺! 俺の今のレベルじゃ戦力外で厳しいだろうけど! 俺は詠唱を試みようとした。 「勇者様!! 重力魔法を解除して……私が助けます!!」  ルーがデスヌーダに近づいていく! 重力魔法の代わりに……なんの魔法を放つんだ!? もう時間がないぞ!? 右の手の平を前に出し、集中している!! 「……ギャアアアアアッ!?」  デスヌーダが叫ぶ! 奴の全身に……細かい無数の切り傷がついていく!! か……風魔法!? ルーが無詠唱で、連続で風魔法を放っている! さすが無詠唱! 発動が早い!! 敵の青い血が地面に滴り落ちている……! デスヌーダはたまらず、後退し始めた!! よし! レインへのトドメの攻撃を止めることに成功した! 「癒しの精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん! ……我が左手にその魂を集めたまえ! 回復魔法……ヒール!!」  ルーが風魔法を放ちながらレインのところまで行き、座り込んで回復する。 俺もあとについて行く。 「……もう……ムリ」  レ、レインが諦めているぞ! 圧倒的な体格差と重い攻撃に心が折れている!! な……涙を流しながら、ブツブツ言っている! 「ルー……このままじゃマズい! 俺の呪いのリング、外してくれ!」  ルーが首を横に振った。 風魔法と回復魔法を同時に使用しながら、俺に返事をする。 「ごめんなさい……私には解除できないんです……本当に……魔法屋に行かないと……」 「なっ! そ、そうか……できないのか……!!」 「勇者様! 前っ……!!」  う……巨体を揺らして、こちらにデスヌーダが近づいてきている!! 「そっちの女がこの風魔法を放っているのかぁっ……!? そして……回復魔法もできるのかぁっ!」  風の刃を無数に受け続けながらも、こちらに進んで来た! 回復に魔力を割いたぶん、風魔法の威力が弱くなってしまったのだろうか!? 「くっ! レイン! 心を強く持って下さい! エリートの意地を見せて下さい!」  そう言い残し、ルーが立ち上がる。 レインへの回復をやめて、攻撃に専念する気だ。 「火炎の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん……我が右手にその魂を集めたまえ……炎魔法ファイアダスト!!」  ルーの炎魔法だ!! 彼女の右手から、無数の火の玉が発射される!! 直径1メートルほどの炎の玉が何発も何発も放たれる。 「う、ううぅっ!? うおおおおっー!?」  よし! デスヌーダに全て直撃している!! 「勇者様! レインを連れて離れて下さい! ……大地の精霊よ、その魂の一部を我に譲ることを許したまわん……我が右手にその魂を集めたまえ……岩石魔法メテオライト!!」  な、なんだ!? 岩石魔法!? そ、空から、大きな岩が数十個降って来た!? 岩の直径は3メートルほどだ! デスヌーダの今の体と同じぐらいだぞ! な、なんて魔法だ!! に、逃げろ……!! 「おおおおっ!? オオオオッー!?」  超高速で大きな岩がデスヌーダにぶつかっていく!! 岩石魔法メテオライトって言ったのか!? な、なんだそれは……!! また知らない魔法をルーが使っている! 俺はレインを抱えて後退した。 ルーも同様に後退している。 「はぁっ……はぁっ……!! ……ど、どうですか!!」  ルーの息が上がっている。 す、すごい魔法だった!! これは……決まっただろ!?  辺りに岩の破片と土埃が舞っている。 やがて静まり、デスヌーダの巨体が姿を現す。 「ぐふぅっ……! こんな魔法が使えるなんて……優秀だなぁ? けど……効かないなぁ……!!」  効いていない!? う、嘘……だろ!? 「な……くっ……そんな……本当に……ほとんど効いていないです! わ、私は……全力で撃っているのに!!」  単純に、デスヌーダのフィジカルが強い! うすら笑いを浮かべながらデスヌーダが前身し、ルーの前まで来た。 敵の体は傷だらけではあるが……すべての傷が浅い。 全く致命傷を与えられていない……! 「さて……そろそろ殺すかぁっ……!!」  デスヌーダが近づいてくる。 「こ、来ないで下さいっ……!! う、うわああああっー!!」  ルーの無詠唱!! 再び風魔法を放っている! しかし……デスヌーダは止まらない。 小さな傷が増えていくだけだ。 「たいした威力ではないぞ……? さっきの隕石で魔力が切れてきたのかぁっ?」 「そ、そんな……。あ、あああぁ……」  なにっ!? ルーが涙を流し始めた! 恐怖……か! 死の恐怖を感じてしまったのか!? レインも……まだ動けない。 ある程度、ルーが回復してくれたはずだが、痛みではなく恐怖で動けないんだ! しゃがみ込んだまま、体が震えているのが……わかる。 このままでは先頭にいるルーが殴られてしまう! ルーのお腹には、俺の子がいるかもしれないんだ!! 「もう……終わりかぁっ!?」  傷だらけのデスヌーダがルーの前まで来た。 そして拳を振り上げる。 「た、たすけ……て……きゃあああっ!!」  俺は全力で走り、ルーを抱き抱えた。 俺の顔面にデスヌーダのパンチがかする。 うぅっ……! 俺の頬から血が……!! な、なんて風圧!! 「ゆ、勇者……さまぁ……。あ、ああ……よかった……ですぅ……」  ルー!? 何やら俺の左手に温かい液体が!? これは……お、おしっこ!? おしっこを漏らしているのか!? こ、これは……参ったな……。 もうルーも……戦えない。 「雷の勇者ああぁっ!! やっと……お前の出番かぁ!? こんな半端な女どもに戦わせて……。準備運動はとっくに終わっているぞぉっ!?」  デスヌーダ……やはり体が大きくなるとともに、喋り方も荒っぽくなっているな。 最初の雰囲気は無くなっている。 ……さて、状況を整理しよう。 レインは動けるぐらいは回復しているし、まだ魔力も残っているだろうけど、心が折れている。 ルーはノーダメージだが、やはり心が折れている……。 魔力は、ほとんど残っていないだろうな。 そして、俺……呪いのリングを2つ装備した今の実力じゃ……どうしようもない……。 今の俺のレベルでは……何もできない! 次元が違い過ぎるんだ……!! このまま……全滅か? 全滅……するわけにはいかないよね!! 俺はルーをそっと地面に寝かせ、彼女から返してもらった自分の剣を抜いた。 「ようやく……やる気になったか! 雷の勇者!!」  俺は剣を逆手に持ち、地面に突き刺す。 そして、自分の両手を剣の刃めがけて思いっきり振り切った。 自分の両方の手首を……切断するように。 「勇者……さま……!?」  ルーの驚きの声が聞こえた。 俺の両手……手首の辺りから先までが宙を舞う。 俺の両手が体から切断されたのだ。 「な! なぁっ!? じ、自分の手を!? 雷の勇者……血迷ったかぁっ!?」  デスヌーダが大声を上げる。 「は!? う、嘘……!? な、何を……?」  後ろでレインも動揺している。 「ゆ……勇者さまぁっ!!」  ルーが叫ぶ。 ……ルーとレイン。 2人とも、死ぬかもしれない……という恐怖に負けてしまった。 命をかけた、本当に殺されるかもしれない戦いは、まだ経験したことがなかったのかもしれない。 ルー対レイン戦では、2人とも殺し合うことをそれとなく示していたけど、実際は本当には殺せないんだろうな……って俺は思っていた。 もちろん、彼女達の才能はすごいし、将来性も……ものすごくある。 ……けど、命を懸けて戦った経験がなかったんだ。 あくまでも、まだ……若者なんだ。  俺は……命をかけた戦いを乗り越えてきた。 勇者はな……殺されるかも……って思ってからが勝負なんだよ。 世界の平和を守るという使命を果たすために、命をかけなきゃいけない。 勇者は……負けられないんだ。 ここは俺が、命を懸けて戦う!  俺は視線を下に向け、出血している自分の腕を確認した。 よし……呪いのリングは2つとも外れている。 手首から先とともに、地面に落ちたのだ。 「……デスヌーダ! 俺が相手だ!」  俺が放った大声に敵が反応する。 「雷の勇者……! 自ら切り落とすとは……一体なんの真似だぁっ!?」  切断面からの出血がヒドい。 この戦いは……短期戦に持ち込む。 俺は死ぬかもしれない……。 けど……ルーと、お腹にいるかもしれない俺の子供を守るぞ。 「デスヌーダ……なんの真似……だと? ……ハンデに決まってるだろっ!!」  俺はデスヌーダに向かって突進した。


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