昼下がりの初星学園。窓から射し込む陽射しが廊下を明るく照らすその中で、花海咲季の顔色だけは異様に青白かった。
「くっ……な、なんでこんな時に……っ!」
制服の上から腹を押さえ、震える指先に爪が食い込む。普段なら負けん気と闘志を纏ったその瞳も、今は苦痛に滲んで揺れていた。
――グゥウウウ……ッ! ギュルルルルル……!!
腹の奥から響く音は、まるで勝負を挑んでくる対戦相手の咆哮のようだ。
「わ、わたし……負けない……こんなのに……っ!」
震える声を必死に張り上げる。勝利を重んじる咲季にとって、今向き合っているのはステージでも試験でもなく――己の腹痛。
汗がこめかみから滴り落ち、太腿に伝う。制服のスカートの下で脚は小刻みに震え、じっとしていられない。
「トイレ……はやく……絶対に、絶対に間に合わせる……!」
――タッタッタッタッ……!
革靴が廊下に響く。だが走るたびに腹部を内側から刺すような痛みが走り、
―― グギュルルルピィーーッ! グピーーギュルーッ!!

そのたびに身体を折り曲げざるを得ない。
「お、お腹、痛っ……! ううっ……も、もう……限界……かも……」
それでも、足を止める選択肢はなかった。
咲季にとって「負ける」ことは許されない。例え相手が腹痛でも、下痢という現実でも。
廊下の先、視界が滲み、霞む。その奥に――救いのドアが見えた。女子トイレのマーク。
「あと少し……っ! ぜ、絶対に……負けない……!」
彼女の心臓は鼓動を荒げ、腹部は抗議するように蠕動を続ける。汗で濡れた頬に髪が貼り付き、瞳は必死に前を見据える。
勝負は、まだ終わっていなかった。
どうにか女子トイレの個室に滑り込み、和式便器にしゃがみ込んだ瞬間、花海咲季の体は堰を切ったように反応した。
――ビチビチビチビチィィッ!! ドバババババッ!!!
便器の底に茶色い水流が叩きつけられ、飛沫が跳ね上がる。勢いは止まる気配を見せず、彼女の下腹部は痙攣を繰り返しながら容赦なく内容物を吐き出していく。
「くっ……! はぁっ……! ま、まだ……止まんない……っ!」
顔を紅潮させ、瞳を潤ませながらも、咲季は必死に声を押し殺した。額からは滝のように汗が滴り、太腿を濡らして床へと落ちていく。
――ブビュルルルルルッ!! ジャババババッ!!

腹の奥で暴れるように走る痛みに耐えながら、彼女は両手で腹を押さえ込んだ。便器の水面は茶濁し、泡がぷくぷくと浮かび上がる。鼻を突く酸っぱい匂いが個室の中を満たした。
「こ、こんなのに……負けるわけ……ない……っ! わたしは……絶対に勝つんだから……!」
その声は震えていたが、彼女らしい闘志の火は消えていなかった。
――ピチャァァァッ…… ビチュビチュビチュッ……!
力強い奔流はやがて細かい断続音へと変わり、滴り落ちる水様便が便器の底で小さく弾ける。
「はぁっ……はぁっ……っ……! お、お腹……もう……限界……」
吐き出すものを失った身体は、鉛のような重さに沈む。肩で荒く息をしながら、咲季は膝を震わせ、その場にしがみつくようにしゃがみ込んでいた。
勝負は終わった。だが、それでも彼女の胸の奥では――「もうお腹壊さないようにする」という強い決意だけが、消えずに残っていた。