晴れ晴れとした昼空のもと、無彩色の無骨な建物が、ぽつんとそびえ立っていた。
建川市総合病院。
戦傷者を広く受け入れているところで、セラフフレアもここへ収容された。
病院の建物の前には広場があって、車椅子に乗った患者が看護師に押されながら、散歩を楽しんでいる。
その片隅に、しゃがみこんで野良猫を撫でている少女がいた。
「……」
キョウだ。普段から寡黙なたちだが、伏せた顔が陰っていることもあるのか、ひどく憂鬱そうに見える。
猫はしばらく気持ちよさそうに撫でられていたが、ぴくっと耳を立てると、さっと近くの茂みへと去っていった。
キョウはなにかに気がついて、顔をあげる。
向こうからこっちへ近づいてくる人影がある。制服姿で黒髪をたなびかせている。
「……カイさん」
それはカイだった。彼女の表情は固く、こわばっている。猫が逃げ出したのは、その剣呑さに気づいたからだろうか。
「ミ……花井さんは?」
「命には別状はない……幸い身ごもった形跡もないようだ」
「そう」
キョウはほっと息をついた。
二人がルージュの元へ駆けつけたとき、ミサキは酷い有様だった。
ボロボロの体は白濁で穢れ、意識を失ったまま倒れ伏していた。
何度呼びかけても、薄っすらとのぞく瞳はふらふらと宙をさまよい、返事も返ってこない。息はしていても、殆ど廃人のように見えた。
「もう少し早く、駆けつけていれば……くそっ」
ばし、とカイが拳を手のひらに打ち付ける。
それを見て、キョウは視線を落とした。
相手は戦闘員のようだった。真っ当に戦って、負けるとは考えにくい。であれば、彼女の戦意を失わせたなにかがあったのだろう。
(惑わせたのは、わたしだ)
自分もカイも、感情に囚われてひどい目にあったことがある。
しかし、今回のミサキはそれと比べても抜けていたのだろうと思う。
そう追いやってしまったのは、自分が突き放してしまったからかもしれないのだ。
その時、ピリリ……と二人の通信デバイスが同時に鳴った。
二人の間に緊張が走る。
「大河原です」
カイが応答する。
「エリミネーターの一団が北西に出現、あなたたちのいる病院に進行中とのこと」
「なっ……」
二人の顔がこわばる。
「彼らの襲来までに対応できるのはあなたたちだけです」
「く……了解した」
ここには一般の傷病者も収容されている。
中には用意に移動できない重患者もいるであろうし、何より今後を考えればこの病院を失う訳にはいかない。
「ここにはミサキも収容されている……なんとしても撃退せねば。行こう、キョウ」
キョウはコクリとうなずくと、駆け出したカイの背中を追った。
ピ……ピ……。
一般病棟のとある一室。
ミサキはぼうっと白い天井を見つめていた。
外では、看護師や患者が何やらドタバタと騒がしい。
そんな喧騒にも、ミサキの体はピクリとも反応しない。
しかし――
「きゃあっ!」
誰かの悲鳴が聞こえてくる。襲撃のためではなく、慌ただしい避難準備で起きたトラブルなのだろうが、そのとき一瞬だけミサキのまぶたはピクリとしたようだった。