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天空戦姫セラフィーヌ 第5話 ルージュ散る 前編

登場人物


花井ミサキ

新東都統合学校の生徒。

素直で明るい美少女だが、多少天然の気がある。

とある縁からセラフルージュとなり、人々を守るため戦い続けているが、怪人の正体が人間であると知って迷い始めている。

処女。


本編

 とある夜――ミサキはなかなか寝付けずにいた。

 キョウに言われた言葉が頭から離れない。

「前も言った。そのままじゃ、痛い目に遭うって……わからないなら、もういい」

 甘いのだろうか。

 わかってはいる。敵を倒さねば、その分皆が傷つく。そして、選択の余地はない。

 ずっしりと肺腑に重いものが溜まっている。ジェイドも、そういえば似たようなことを言っていた。

 セラフィーヌの先達である二人の言葉である。気楽に考えるものでもない。

 重たいものを抱えたまま沈み込むように、ミサキは眠りに落ちていった。


 翌日の帰り道、ピリリ……と電子音が鳴り、ミサキは手首に目を落とした。腕時計に見えるそれはスマートウォッチ型のマルチデバイスで、ジェイドより持たされた通信装置でもある。セラフィーヌたちはこれで”彼ら”から司令を受けて戦っている。

 彼らは市街全体をモニターしており、脅威が出現した際、自警団やセラフィーヌに連絡を取る。

 その肝心の正体は、実はミサキたちにも杳として知れない。

 高度な技術を持っているらしいことから、地下に潜った上層部の生き残りが作った組織なのかもしれないが、情報漏洩を防ぐためか極端な秘密主義で、こちらから連絡を取ることもできない。

「ルージュ。E-7地点に戦闘員の襲撃があった」

 無機質な声。機械音声でもないが、加工してあるのか男女の区別もできない。

「は、はいっ」

「フォグが酷くてジェイドもアズールにも連絡が取れない……くれぐれも気をつけてくれ」

「わかりました……すぐ向かいます」

 フォグとは、電波撹乱の性質を持った深い霧のことで、これが出ると強い指向性をもった電波さえ遮断されてしまう。

 セラフィーヌが取り返しの付かない損害を受けるときには、だいたいこれが絡む。

(E-7……)

 マルチデバイスに映し出されたマップで場所を確認する。中心街からはだいぶ外れているが、その辺りにも人は住んでいるはずだ。

「……」

 気が重い。

 そう感じるのは初めてのことだ。今までは、人々を守る、その一心で動き続けてきた。


 E-7。そこは黒く焦げ付いたビル群が立ち並ぶ廃墟同然の場所であった。逃げ惑う人々を背にして、ルージュは戦いに突入した。

「てやあっ! たっ!」

 しかし、ルージュの動きは酷く鈍い。

 戦闘員など数日前まで平気で殴り倒していた相手であるのに、人間がバケモノになっていく、あの光景がちらついて一瞬躊躇してしまう。

 相手が一人なら、それほど問題ではなかったろう。

 しかし一瞬一瞬が積み重なり充分な隙となれば、戦闘員でさえルージュに攻撃を差し込み得る。

 どむ、ごっ!

「かふっ……」

 脇腹に蹴りを受け、ルージュはたたらを踏む。

「くっ……このっ!」

 その戦闘員をねじ伏せると、その体を踏みつけて、さらに敵が押し寄せる。

 びっ! びっ! と戦闘員の攻撃がルージュを捉え、コスチュームの端々が切り裂かれていく。

「ううっ……だめ、体が重い……!」



 ルージュを取り囲み、戦闘員がわらわらとにじり寄ってくる。

「こうなったら……!」

 右腕を掲げ、左手を添える。

 ルージュ最大火力の技、フレイムサージ。戦闘員程度ならまとめて数十人規模で薙ぎ払える。

 しかし……。

(……!)

 戦闘員の仮面一つ一つの向こうに、ルージュは道行く人々の面影を見た。



(幻覚だ……っ)

 ルージュは動きを止め、ずらりと居並ぶ戦闘員の顔を見渡した。

 そこにはもはや無表情の仮面はなく、こちらを見つめる人、人、ひと、ヒト……。いずれの相貌も、生気なく、怨念に満ちている。

(い、や……!)

 自分は、守るべき人々を殺めてきたのだろうか?

 どふっ……。

 鳩尾に重い衝撃。

 がふり、と反吐を吐いて、ルージュはその場に崩れ落ちる。

(それ、なら、私は……)

 そしてぶつん、とルージュの意識は途切れたのだった。



(後編へ続く)

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