登場人物
花井ミサキ
新東都統合学校の生徒。
素直で明るい美少女だが、多少天然の気がある。
とある縁からセラフルージュとなり、人々を守るため戦い続けているが、怪人の正体が人間であると知って迷い始めている。
処女。
本編
とある夜――ミサキはなかなか寝付けずにいた。
キョウに言われた言葉が頭から離れない。
「前も言った。そのままじゃ、痛い目に遭うって……わからないなら、もういい」
甘いのだろうか。
わかってはいる。敵を倒さねば、その分皆が傷つく。そして、選択の余地はない。
ずっしりと肺腑に重いものが溜まっている。ジェイドも、そういえば似たようなことを言っていた。
セラフィーヌの先達である二人の言葉である。気楽に考えるものでもない。
重たいものを抱えたまま沈み込むように、ミサキは眠りに落ちていった。
翌日の帰り道、ピリリ……と電子音が鳴り、ミサキは手首に目を落とした。腕時計に見えるそれはスマートウォッチ型のマルチデバイスで、ジェイドより持たされた通信装置でもある。セラフィーヌたちはこれで”彼ら”から司令を受けて戦っている。
彼らは市街全体をモニターしており、脅威が出現した際、自警団やセラフィーヌに連絡を取る。
その肝心の正体は、実はミサキたちにも杳として知れない。
高度な技術を持っているらしいことから、地下に潜った上層部の生き残りが作った組織なのかもしれないが、情報漏洩を防ぐためか極端な秘密主義で、こちらから連絡を取ることもできない。
「ルージュ。E-7地点に戦闘員の襲撃があった」
無機質な声。機械音声でもないが、加工してあるのか男女の区別もできない。
「は、はいっ」
「フォグが酷くてジェイドもアズールにも連絡が取れない……くれぐれも気をつけてくれ」
「わかりました……すぐ向かいます」
フォグとは、電波撹乱の性質を持った深い霧のことで、これが出ると強い指向性をもった電波さえ遮断されてしまう。
セラフィーヌが取り返しの付かない損害を受けるときには、だいたいこれが絡む。
(E-7……)
マルチデバイスに映し出されたマップで場所を確認する。中心街からはだいぶ外れているが、その辺りにも人は住んでいるはずだ。
「……」
気が重い。
そう感じるのは初めてのことだ。今までは、人々を守る、その一心で動き続けてきた。
E-7。そこは黒く焦げ付いたビル群が立ち並ぶ廃墟同然の場所であった。逃げ惑う人々を背にして、ルージュは戦いに突入した。
「てやあっ! たっ!」
しかし、ルージュの動きは酷く鈍い。
戦闘員など数日前まで平気で殴り倒していた相手であるのに、人間がバケモノになっていく、あの光景がちらついて一瞬躊躇してしまう。
相手が一人なら、それほど問題ではなかったろう。
しかし一瞬一瞬が積み重なり充分な隙となれば、戦闘員でさえルージュに攻撃を差し込み得る。
どむ、ごっ!
「かふっ……」
脇腹に蹴りを受け、ルージュはたたらを踏む。
「くっ……このっ!」
その戦闘員をねじ伏せると、その体を踏みつけて、さらに敵が押し寄せる。
びっ! びっ! と戦闘員の攻撃がルージュを捉え、コスチュームの端々が切り裂かれていく。
「ううっ……だめ、体が重い……!」
ルージュを取り囲み、戦闘員がわらわらとにじり寄ってくる。
「こうなったら……!」
右腕を掲げ、左手を添える。
ルージュ最大火力の技、フレイムサージ。戦闘員程度ならまとめて数十人規模で薙ぎ払える。
しかし……。
(……!)
戦闘員の仮面一つ一つの向こうに、ルージュは道行く人々の面影を見た。
(幻覚だ……っ)
ルージュは動きを止め、ずらりと居並ぶ戦闘員の顔を見渡した。
そこにはもはや無表情の仮面はなく、こちらを見つめる人、人、ひと、ヒト……。いずれの相貌も、生気なく、怨念に満ちている。
(い、や……!)
自分は、守るべき人々を殺めてきたのだろうか?
どふっ……。
鳩尾に重い衝撃。
がふり、と反吐を吐いて、ルージュはその場に崩れ落ちる。
(それ、なら、私は……)
そしてぶつん、とルージュの意識は途切れたのだった。
(後編へ続く)