「う……く……」
アズールが目を覚ますと、ヘビ怪人の姿はなかった。あのまま外に出て行ってしまったらしい。
「追わ、ないと……!」
あのヘビ怪人の正体が何であれ、追う以外の選択肢はない。このあたりは避難が完了しているが、居住区はそう遠くはないのだ。
セラフィーヌのコスチュームには治癒能力も備わっている。
無論生命に関わるような致命的な損傷にはその能力も及ばないのだが、とりあえず動けるようにはなっているようだ。
センサーを頼りに怪人を追跡する。
瓦礫を飛び越え、少し大きめの広場に出ると、怪人は何かを見つめたまま棒立ちになっていた。怪人は二本の足で立っていて、どうも四肢は自在に出し入れできるようだ。
「ここは……っ」
アズールはぞくっとした。
ここは公園の跡地であり、男の家族がよく遊んでいた場所だ。
男には一人息子がおり、キョウより一回りほど年下だった。
「おじさんっ!」
声をかけられ、くるりとヘビ怪人が振り向いた。
ヘビのような目、という言い回しがあるが、たしかに睨み据える瞳に圧力がある。アズールは背筋に緊張が走るのを感じた。
「ひひ、ああ、そうか。君がセラフィーヌってやつか……さっき死んだと思ったのに」
(会話ができる……? いや、それより)
「おじさんでしょ! 近所の……私、私を覚えてないの!」
「!?」
ヘビ怪人が目を丸くして、しかしすぐににやりと笑う。
「ああ、水無瀬さんとこのキョウちゃんだったね……久しぶり。そういえば、あそこはうちの家だったんだっけ……忘れていたよ」
「おじさん……!」
アズールは怪人に名乗っていない。
さっき殺されかけたことも忘れ、思わず喜色を浮かべる。世界崩壊前の自分たちを知る、唯一の知人を見つけたのだ。
「よく、うちに遊びに来ていたね……」
「そうだよ、おじさん……。でも、その体は……」
「うん、この体はね……彼らにもらったんだ」
「彼ら……?」
「君たちがエリミネーターと呼ぶ存在だよ」
つまり、男性はエリミネーターに捕まり、改造されてしまったということか。
「おじさん、私と一緒に来て。私たちの仲間にも、彼らの技術を研究している人がいる。今すぐじゃなくても、いつか……」
「元の体に戻れるかい?」
こくん、とアズールはうなずいた。
「それはありがたい。でも、結構だよ……」
「!?」
「この体、実にいいんだ……人間なんかより、ずっと強くて……なんでも思うがままにやり放題さ」
ぎん、と俯せっていた怪人の瞳に力が宿る。
「だから、君の体で楽しませてもらうよぉ!!」
しゃあっ、と威嚇音とともにヘビ怪人が踊り込んでくる。
アズールは迎撃の姿勢も取れていない。
ガツン、と鈍い衝撃。とっさにかざした腕ごと薙ぎ払われていた。
「あううっ!」
たたらを踏むがなんとか姿勢は保ち、諦めずに呼びかける。
「おじさん!」
「ごめんねえ、君のことは殆ど覚えていないんだ……それより、その体で楽しむことで頭がいっぱいなんだよっ!!」
「そ、そんなっ!」
セラフィーヌが怪人の凌辱に遭うことは、その場に居合わせたこともあって覚悟の上だ。しかし、まさか知人かも知れない怪人にその毒牙を向けられようとは思わなかった。
が、がっ!
振るわれる腕が、アズールの肉体を二度三度と打ち据える。
「お願い、そんなことやめてください……!」
攻撃はできない、しかし、このまま乱暴される訳にはいかない。中途半端な心持ちで、アズールは相手と退治することになった。
青く輝く光剣を出現させ、怪人に突きつける。
不意に、怪人が笑みを浮かべた。そして次の瞬間、しゅるん、とその体が変異した。
「えっ!?」
なんと、人型に蛇の頭と尾がついた形態であったのが、ヘビそのものになったではないか。
それはアズールの足元に素早く飛び込むと、足に絡みついてくる。
「い、いやっ!!」
しゅるしゅるっ!
一瞬のうちに、アズールはヘビに絡めとられた。
「こ、これじゃ……」
怪人は肌に密着しており、どうにも攻撃ができない。
そして……。
「うっ!」
ぢくり、と首筋に鋭い痛みが走った。怪人の毒牙が、アズールの首筋に噛み付いたのだ。
そして……。
「あ、うう……」
アズールの瞳が、とろんと淀み、意識が遠くなっていく。
かくかくと膝が笑っている。立っているのがやっとだった。
とととっ、とアズールはけつまずき、崩れた公衆トイレの壁に両手をついた。
怪人は器用にも、アズールの股間のスーツをめくり上げ、性器を露出させる。
「やっ……」
誰かが見ているわけではないが、恥部が日の下にさらされ、アズールの顔は羞恥で真っ赤になった。
「ほー。さすがに結構丈夫なんだねえ。この毒、普通の人間なら即死レベルなんだけど」
「毒……?」
「まあちょうどいいか……ひひっ。そこらのメスに使っても死姦にしかならなかったし」
ヘビそのものとなってアズールに巻き付いた怪人の腹部が開き、そこから人もかくや、という大きさのペニスが現れた。
「おじさっ……! だめっ!」
その意味するところは一つだ。一瞬、凌辱されたセラフィーヌたちの記憶がフラッシュバックする。
「じゃあいただくよっ!」
「あっ!」
ずぶっ……! ぶつ、ぶつっ……!
「あがっ! あっ! あああっ! ……!!」
アズールの小さい膣口に怪人のペニスが突きこまれる。
びりっと電撃の奔ったような痛みがあって、ぶわりと脂汗が浮いた。
股間を伝う熱い液体を感じる。破瓜の血だった。
(こんな、こんな初めてなんて……!)
あまりそういうことに興味がある方ではなかったし、この時勢にロマンチックな失い方を期待していた訳では無いが、これではあんまりだった。
「う……ううう……ひくっ」
ショックのあまり、頬を涙が伝う。
「おやおや……初めてだったんだね……でも大丈夫、いっぱい気持ちよくして、その後優しく殺してあげるからね……」
ずちゅるっ、ずっ、じゅくっ!
怪人がピストンを開始する。
「やめ、てえっ、痛いっ! 痛いぃ……っ!」
怪人のペニスは本物のヘビよろしく奇っ怪な形をしていて、鉤爪のような突起がいくつもついていた。それがガリガリとアズールの中を引っ掻くのだから、たまったものではない。体をがっちりと硬直させ、痛みに耐える。
「くううっ! あがっ……あ、あっ!!」
「ふふ……本当に痛いだけかい?」
怪人がふと呟いた。
痛みに苦しむアズールが、それを聞いている暇などないはずだ。
しかし、その言葉はするりと入ってきた。
「うそ……なんで……?」
じんじんとした痛みの内側から、せり上がってくる快楽。
それに気づいてしまい、困惑と失望に青ざめる。
おそらくは、毒の成分のひとつなのだろう。
「いや、あぁ……っ、そんな、気持ちよくなんて……っ」
体は正直だ。
交合の悦びに打ち震えているかのように、アズールの身体は愛液をふんだんに分泌し、ピストンを迎えるように腰を揺らしてしまっていた。
「うそ、うそっ……あんっ! ああっ!」
声色にも、悦びの色が混ざっている。
「ふふふ……そろそろいくよっ!!」
ぞくりと悪寒が走る。
怪人に、しかも知人に種付けされる二重の恐怖がアズールを襲う。
「いやいやいやっ! だめえええーーーっ!!」
どびゅるるるるっ!!
「熱っ……っ!! ああああああああああーーっ!!」
ぞくぞくっ!
思い切り背をそらし、アズールは絶頂し、精を受け止めた。
胎内で渦巻く熱い精液に、目覚めさせれたメスの本能が喜んでしまう。
ぶびゅる……るるっ……。
射精が終わり、アズールは壁にもたれた。
「あはぁぁ……あ……」
(私……イッてしまった……怪人のちんぽで……♥)
「げはははっ! ふうう~なかなかいいおまんこだったよ! ひひっ!!」
口ぶりも、行いも、かつての男性ではない。
(ああ、もう、この人は……)
自分が知っているひとではないのだ。
記憶の欠片が残っているようでも、それはあくまで断片的であり、本人の人格はとうに失われているのだ。
そう思いたかった。隠されていた本性が現れたのだなどと、考えたくない。
それで、アズールの中で、なにかがぶつんと切れた。
「ふうううっ!!」
アズールの体が青く光り始める。
「な、なんだぁっ!?」
ヘビ怪人は、アズールの能力を知らなかった。
冷気を司る――引いては、エネルギーをやり取りする能力。
びきびきびきっ!
アズールに打ち込まれたヘビ怪人の陰茎が凍りついていく。それは根元にまで至って、やがては胴体にまで及んでいった。
「うおおおおおっ!」
びきびきと、ヘビ怪人の半身が凍りつき、ひび割れていく。
「こ、このクソガキがぁぁっ」
その口ぶりに、もはや親切だった”おじさん”の面影はない。
ヘビ怪人は人型に戻ると、半ば凍りついた下半身を引きずりながら、アズールに襲いかかる。
「はっ!」
たんっ、とアズールが跳躍する。
そしてヘビ怪人の直上から、青い閃光が一筋、地面へ向けてはしった。
「ぐぉぉお……そんな、馬鹿な……こんな、ガキに……」
ヘビ怪人の肩から腹部にかけて、ぱっくりと肉がのぞいている。
そしてそのままどすんと膝を付いて、やがて地面に突っ伏した。
「はぁ、はぁ……」
キョウは動かなくなった怪人を見下ろして、ぐっと拳を握りしめた。
両親を目の前で失ったキョウにとって、彼はエリミネーター襲来以前との唯一のつながりを残した存在と言ってよかった。
しかし、それももはや潰えた。
股間から滴る体液、そして涙を拭おうともせず、キョウはじっと怪人を見下ろしていた。
一人ぼっちの帰り道――苦い記憶を振り払うようにキョウは首を振る。
そして、ミサキのことを思う。
他人と群れることが好きじゃなくて、いつも独りだった。
余計なちょっかいを掛けてくる人間は今までもいたが、ミサキはちょっと違う。
本当に純粋に、自分に興味があって近づいてくるらしい。
鬱陶しさもあるが、そんなに悪い気分でもない。
でも、無垢すぎる。
羨ましいとも思う。しかし、その甘さを持ち続けている限り、痛い目に遭うのは自分だ。
そしてそれは、他人に諭されて理解するものではない。
いつか、実感を持って学ばねばならない。その時、もしミサキの身に危害が及ぶようであれば、自分が助けてやらねばならないだろう。
キョウにはそれが、遠い未来のことではない気がした。
第五話に続く