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ショーダウンⅡ 『11:ニ戦目』

11:ニ戦目 「フフフ……案外良いものね? だいの大人がゲラゲラ笑って……やめてやめてって言いながら苦しんでいる姿を見れるのって♥」  1枚目・2枚目をシューターから抜き出して自分の手元に配っていく麗華をニヤついた笑みで見ながら、紅葉がその様に言葉を零す。  麗華はその言葉をムッとした表情で見返しシューターから3枚目を抜くと、それを紅葉の方へと滑らせて配っていった。 「ねぇねぇ? くすぐりってさぁ……そんなに苦しいの?」  4枚目を抜くと、それを自分の方へと寄せ、5枚目は紅葉の方へと投げる……6枚目は迷った挙句それも紅葉の方へと投げた後、7枚目は自分の方へと配った。配る順番に意味や意図などはなかったが、なるべく相手の予想とは違う順番で配りたいと思っていた麗華は自分に与えられた権限を最大限に生かしてなるべくランダムになるよう手札の配り方を工夫した。 「苦しいに決まっているじゃありませんか。自分がヤられていると想像してみてくださいまし? あの様に拘束されて好き勝手くすぐられるのですよ?」  残りのカードを配り切った麗華は、興味津々に聞いてくる紅葉にジト目を向けながらその様に答え、自分に配ったカードをホルダーに差し込んで自身の役を確認する。 『ムムっ!? 今回も……悪くはないですわね……』  麗華の最初の手はスペードの4・ハートの4・ハートの9・ダイヤの9・クラブのQと、初手からツーペアが揃っているという中々強い状態でのスタートとなっていた。この後の交換で4が来ても9が来てもフルハウスが狙えるし……そうでなくてもツーペアという役自体は勝負手としてはアリだと判断できる手でもある為、今回も運が向いていると言えなくもない。 「う~~~ん、そう言われても……いまいち想像出来ないんだよねぇ~? 私ってばさぁ……今まであんま、くすぐりって受けた事ないから~~実際どんな感覚になるのか興味あるっていうか~~♥」  一方の紅葉の方は、話の方にリソースを割いているのかあまり自分の手役には興味を惹かれていない様子で……手札を一瞬チラリと見ただけで後はホルダーに差したまま見ようともしなくなってしまった。 「された事ないと言っても……想像くらいは出来るでしょう? あの様に万歳の格好で拘束されて……手を降ろせな状態で胸の横やら、腕の付け根やら、脇腹やらを他人に触られるのです……そう考えただけでも、思わず身体を逃がしたくなる衝動が湧いて来るでしょうに?」  麗華は更なる高い手を狙ってクラブのQを捨てカードの交換を要求する。それを見て紅葉の方もチラリと自分の手札に視線を落として、カードを3枚抜いてそれを麗華の捨て札の上に置く。 「他人にワキとか脇腹とかを触られる……ねぇ? うん、まぁ……気色悪っ!! って思いはするかもだけどぉ……」 「綾香さんはその“気色悪っ!”と、思えるような刺激を与えられ続けて……今、悶えていますのよ? その刺激から逃げられないから……」 「ふむ……まぁ、気色悪いってのは嫌だけどさぁ? でも……所詮はそれだけの刺激でしょ? 痛い~とか、火傷する~とか、凍傷になる~とか……そういう“本当に生命の危機が及ぶ様な刺激”とは違うじゃない?」 「確かに……くすぐりはすぐには命の危機を覚えるような怖い刺激ではございませんけど……」 「でしょ? だから余計に想像できないんだよねぇ~~? 結局、くすぐりって何が怖いんだろうって思っちゃう……」 「くすぐりの怖さですか……。そうですね……それを素人の方に説明するのは、中々難しくはありますが……」 「くすぐられると“笑う”って言うのも……よく分からないわよね? なんで笑っちゃうのかしら?」  紅葉は麗華との会話を楽しみながらも、シューターからカードを抜いて手札の交換を進めていく。最初の1枚目と次の2枚目は自分の方に……3枚目は麗華に……そして最後の一枚は再び自分に……という具合にカードを配り終える。 「何で笑ってしまうのか? という問いには“諸説ある”としか答えようがありませんけど……しかしどういう理屈であれ、この……“くすぐられたら笑ってしまう”という身体の反応を利用して責め苦を与えるのが“くすぐり責め”の全てであると断言できますわ」 「ふぅ~~ん? じゃあ……くすぐりにめっぽう強いヒトには意味ないじゃん♪ たまにいるじゃない? 不感症で触られてもピクリともしない人……」 「そうですわね……本当に重度の不感症の方でしたら、或いは効かない事もあるかもしれませんが……」 「アハ♥ だったら、私なんて効かない部類じゃないかしら? 生まれてこのかた“くすぐったい”なんて感じた事なかったし♪」 「効かない? 感じた事ない? くすぐりの刺激はそんな易い考えで耐えられるほど甘くはありませんよ? それに、貴女はさっき……綾香さんに“想像したらこそばゆくなっちゃう”とかなんとか言っていたじゃありませんか!」 「あれはリップサービスよ♥ 本音は全くそんな事思ってもいなかった……。むしろ“くすぐりって聞いて顔を青ざめさせて馬鹿みたい”って思ってたくらいだもの♥」 「馬鹿……みたい? くすぐりが?」 「えぇ。実際、馬鹿みたいじゃない♪ エロい事をする訳でもなし……だいの大人が子供みたいに手をワキワキさせて“コチョコチョ~”とか言いながらワキとか弄るだけなのよ? 傍から見ればヤってる事がガキ臭くて……見てるだけで恥ずかしいとすら思えてしまうわ♥」  麗華は配られたカードをホルダーに挿しながらそのカードの数字を確認する。出来れば4か9の数字が入ってくれれば……と期待するが、配られた数字はその期待を裏切る様な10という数字だった。麗華は心の中で舌打ちを零しつつ、紅葉の言葉に目を細めて睨みを利かせる。 「綾香さんがあんなに苦しんでいるのに……貴女はそれを怖いとは思わないのですわね?」 「怖いなんて思う訳ないじゃない♥ むしろ楽しそうで羨ましいって思うくらいよ?」 「羨ましい? へぇ~~? くすぐられるのを羨ましいと思う人なんて……いらっしゃいますのね?」 「だってさぁ? 私ってば……あんな風に“心の底から笑う”って経験した事ないのよ~? 今だって麗華ちゃんに向けるような嘲笑を浮かべるのがせいぜいだしぃ♥ 日常で浮かべるのも愛想笑い位なものだしね♪」 「アレは……貴女が想像しているほど生易しいものではございませんのよ? 心の底から“笑う”ではなく、腹の底から“笑わされる”と考えを改められた方がよろしいですわね……」 「ふぅ~~ん? それって何が違うの? 笑う事に違いはないじゃない……」 「笑うという共通点はあっても意味はまったく違いますわ。“笑う”と“笑わされる”では身体と心への負担は段違いですもの」 「……そう? 私には一緒にしか思えないけどなぁ~」 「貴女の言う“笑う”は自分の意思でそうしようと思ってやることですが、くすぐりに“笑わされる”というのはそこに貴女の意志は介入できません。貴女が例え“もう笑いたくない”と強く思っていても、くすぐりはその意志を無視して貴女を無理やり笑わせ続けます。自分の意志ではどうにもならない笑いを生み出すのがくすぐりの笑い……そう思っていただくのが宜しいかと……」 「へぇ~~~それは……中々……怖いね♪」 「何ですか? そのニヤケた顔は! 全然怖がっているように見えませんが?」 「いやさ……そんなに真剣にくすぐりの事語るなんて思ってなくてさ♥ 麗華ちゃんの真面目な顔が滑稽に見えちゃってついニヤケちゃった♪ ごめんごめん……」 「くっっ!! その……人を馬鹿にした態度……後で絶対に後悔しますわよ!」 「うんうん♥ 分かった分かった♪ そういう事は勝てそうなときに言って頂戴ね?」 「んぐっ!」  紅葉はひとしきり麗華を小馬鹿にして笑うと、ふぅと一息ついて右手の人差し指を1の形にして掲げて別の話題を切り出していく。 「ちなみに……これは善意からの忠告だけど……」 「……?」 「この勝負……降りた方が身の為よ?」 「なっ!? はぁ??」 「もしも今の手札が微妙な手だったら……勝負せず次の機会を待った方が賢明だ……って話♥」  掲げた手をチッチと横に降ってその様に零す紅葉。麗華はその余裕たっぷりの態度に疑いの視線を強く向ける。 「な、なんですか? そんなに自信のある手をお持ちなのですか?」 「さぁ……どうかしらね? でも……勝てるかどうか微妙なラインの手役であれば……素直にそれを捨てて次の勝負に託すのも悪くはない考え方だって思わない? 意地になって張り合っても……良い事なんて無いんだから♥」 「それは……ブラフですわね! 自分が不利だからと言って……わたくしを降ろそうと……」 「クスッ♥ そうだと良いわね?」 「うぐっ! くぅ……」  麗華はもう一度自分の手札に視線を落とし自分の役を確認する。  4と9のツーペア……  勝負するには心もとない手ではあるが、ワンペアや役無しなどよりは強い役であるのは間違いない。  紅葉の言った言葉がブラフ(勝負に持ち込まない為の罠)であれば、それに付き合う筋合いはない。さっさと勝負を挑んで勝ちを捥ぎ取るのが賢明だと思う。しかし……相手はイカサマを使って自分の弱い手を捻じ曲げてくる恐れがある。今は弱くても……勝負の段になった瞬間何かを仕掛けてきてもおかしくはない……  麗華はその懸念を抱いているからこそ迷っている。  この微妙な手で……本当に勝負に行って良いものかどうか…… 「さぁ、それじゃあそろそろ……ゲームの方を進めさせて貰おうかしら……」  麗華の迷いを察した紅葉は、クスリと小さな笑いを零して麗華に促しの言葉をかける。 「フォールド(降りる)? or ベット(掛け金を出して勝負する)?」  ……と。  麗華はその問い掛けにゴクリと生唾を呑み、そして紅葉の手元を睨み見て彼女が怪しい行動をしないかを監視するように視線を集中させる。 「…………ベット……ですわ!」  視線を外さないまま麗華は手元に用意していた500万の束を紅葉の方へと押し出していく。  紅葉はその束をテーブルの中央に置き直して、麗華の方を向き直る。  彼女の顔は……笑っている。  麗華を嘲笑するような……馬鹿にするような笑いを口元に浮かべ、そして自分の手役を自慢するかのようにカードホルダーを反転させ先に自分のカードを見せつけて来た。 「私の手役は……2の“スリーカード”よ。この手に……麗華ちゃんは勝てるのかしら?」  彼女の手札を見て、麗華は思わず「ぐぅ!?」っという唸り声を上げてしまう。  紅葉の見せて来た役は麗華のツーペアよりも強い役であり……この勝負も……負け……  麗華は悔しさを口元に滲み出しながらも自分の手役も公開し……無言で負けを認めた。 「クフフ♥ 残念ね……これで二連敗っと♪」  紅葉は詰まれた500万を自分の手元へと引き寄せ、ホルダーからカードを引き抜いて捨て札の束へとプレイし終えたカードたちを重ねる。  その動作を目で追いつつも麗華は焦りの言葉を頭の中に浮かべた。 『また……負けてしまいました……。マズいですわね……このままでは何も掴めずに勝負が終わってしまう……』   2回目の勝負も負け、再び500万という大金が失われたとなると……流石の麗華にも不安と焦りの冷たい汗が額に滲み始めてしまう。  2度も勝負したのに……まだイカサマの尻尾を掴み切れていない。  きっとこういう事をしているのではないか? と、あれこれ想像しているが、その疑いはことごとく証拠に辿り着けず徒労に終わってしまっている。  イカサマの尻尾どころかその片鱗すらも見せようとしない紅葉との対戦に……麗華の焦りはピークに達していた。  まさか……本当にイカサマを仕込んでいないのではないか? と、さえ思えてくるようになっていた。  理不尽な負け方を喫していると自覚しているにもかかわらず、その負けに不合理性を見出せなくなり疑う事に自信を持てなくなっている。  次も同じように何も得られず負けてしまえば……いよいよその自信も打ち砕かれ立ち直れなくなってしまいそうだ。  それが分かっているから、麗華は余計に焦らされている。  か細くても良いから何か少しでもイカサマを行ったという片鱗を見せてくれればと……祈らざるをえなくなる。  そんな思いを麗華が巡らせていると、その不安を察したのか紅葉がさも残念だと言わんばかりの声色で語りかけて来る。 「だから言ったじゃない♥ 降りた方が身の為よ……って♪」  紅葉は気分良く勝てた事で“もうちょっと煽ってやって惨めな思いをさせてやろう”などと思って発した言葉だったが……麗華はその言葉を聞いてハッとなって顔を上げる。  そして焦りに動かなくなっていた頭をもう一度働かせ直して、先程の対戦の“不可解さ”を思い出す。 「どうして……あの時……あんなに自信満々に“降りた方が良い”と、わたくしに言ったのです? わたくしの手が弱いと……どうして分かったのですか?」  その言葉に紅葉はクスクスと笑いを零して睨み目の麗華に言葉を返す。 「何でって? そりゃあ……決まってるじゃない。麗華ちゃんの顔が不安そうだったから……揺さぶりをかけようって思っただけよ? 私も滅茶苦茶強い手って訳じゃなかったから、これで降りてくれればラッキーかなぁ~って思ってたしぃ?」  麗華は紅葉の目をジッと睨みつけて言葉を続ける。 「その割には、カードを見せる時……自信ありげに見せてくださいましたよね? まるで……勝った事が分かっていたかのように……」 「そう? そんな感じに見えちゃった?」 「1戦目の勝負の時は……お互い同時にカードを見せ合いましたわよね? しかし、今回は……貴女が一方的にホルダーを引っ繰り返してわたくしに役を見せつけた。さも……自分が勝った事を誇示するかのように……」  麗華はその様に言って紅葉の表情を鋭く観察する。すると、紅葉の嘲笑を浮かべていた口元が僅かに緊張するような力みが見て取れ……麗華は確信を得る。 『アレは……やはり“ブラフ”などではなかったのですわね。彼女はあの時点で勝ちを確信していた……。つまりは……あの時点でイカサマが完了していたという事ですわ!』  きっと……何かしらの方法で自分の役を強く出来て……尚且つ麗華の手札をも知る事が出来た。だから、自分があの時点で勝っていると確信できた。そうでないと、あの自信に満ちた態度は出来ない筈だ……  麗華はその様に想像を巡らせ、紅葉がやはりイカサマをしていたのだと再び確信を得る。  あの行動や言動は……紅葉の気の緩みと慢心が招いた“隙”であると考えるのが妥当だ。自己顕示欲の強そうな彼女だからこそ……イカサマを見抜けない自分の事を小馬鹿にしてやろうと、あのような勝ち誇った態度をして見せたに違いない。  自分のイカサマに絶対の自信を持っているから……  バレないと高を括っているから…… 『やはり……あの負けはイカサマありきの負けでしたのね! 何らかの方法で……わたくしの手札を知り、何らかの方法で自分の手札を“負けない手”に仕立て上げていた。それがどういう手法で行われているのかはまだ分かりませんけど……疑って然るべきである事は明白ですわ! 残りの1000万……これで必ず、彼女のイカサマの尻尾を掴んで見せませんと……』  麗華は再び紅葉に宣戦布告をするような睨みの視線を彼女の顔に送った。  迷いのある目から急に覚悟を決めたような目になった麗華の顔を見て、紅葉はほんの少し表情筋を強張らせてしまう。  余計な態度を取って無駄に煽り過ぎてしまった……と、少しの後悔を宿らせる様に……。  そんなカードコーナーでの2戦目の攻防が終わりを迎えている頃……ステージ上では、椅子に拘束された綾香とその背後に回った牡丹との2戦目が繰り広げられようとしていた。  少し脚の高さのある拘束椅子に両腕を万歳の格好で拘束され座らされている綾香に対し、頭の位置を合わせるよう踏み台を使って高さを得た牡丹が着物の裾から生の手を伸ばし背後から綾香の目の前に自分の手を見せつけている。  その手が、笑いを誘うようにクネクネと動いて煽るものだから……綾香はその手に触られる感触を想像してしまい背筋に寒気を催してしまう。 「綾香様ぁ? ほら……見てくださいませ♥ 私の手……。細くて……しなやかで……クネクネ動いて……とてもくすぐったそうでしょう?」  背後から差し出された牡丹の左右の手……その手は逆手に構えられていて、綾香に見せつけるよう胸の前で指を妖艶に蠢かせて見せている。指は滑らかにくねり、これに触られれば耐え難いこそばゆさを受けることになるだろうと簡単に想像がつく。  綾香の寒気はその指を見る度に寒さを増し、背筋が震えてしまう程にもどかしい想像を掻き立てられてしまう。 「私の手で……これから綾香様のこの伸びきった腋を……触って差し上げますね?」  牡丹の手は綾香の胸前からゆっくりと上へと移動し始め、“ワキ”の部位を狙い定める様に肘を曲げて構えを取る。  そのモジョモジョとランダムに動く牡丹の妖しい指遣いを見て、綾香の腋はゾワゾワと泡が湧き立つようなムズ痒さを勝手に覚え、思わず身を捩ってしまいたくなるような衝動に駆られてしまう。 「さぁ……どんな風に触られたいですかぁ? ワキの窪みを指先で優しく上下に撫でて差し上げましょうか? それとも……親指と人差し指を使ってムニムニと揉んで差し上げましょうか?」  手をワキに近づけさせながら、その言葉通りに牡丹の指は動きを真似て綾香の想像を掻き立てていく。その変化に富む指の動きを見せられた綾香は、もうそれだけで笑いが吐き出されてしまいそうなムズ痒さを覚えてしまう。 「全部の指を使って……いきなり“コチョコチョ~”ってくすぐって差し上げても良いですよぉ? 強くもなく……弱すぎる訳でもない絶妙な触り方で、綾香様のこの素敵な腋をぉ……コチョコチョ、コチョコチョとくすぐったら……綾香様はどんな反応を返して下さいますでしょうね? もしかしたら……笑ってしまうのではないでしょうかぁ? あまりにくすぐった過ぎて……」  腋の真上に持ち上がって接近した牡丹の手は、更に綾香の想像を掻き立てんとする為に彼女の顔の目の前に手を掲げて、全ての指を蠢かせてくすぐるフリをして見せた。 「ひっ!? や、や……やめて!!」  その艶めかしく蠢く指達を間近で見せつけられ、綾香はついに我慢できずに制止の言葉を叫んでしまう。  あの細い指達が……剥き出しに晒されているこのワキの肌に触れてきたら、自分はどれだけ笑う事を我慢出来るか分からない。  もしかしたら、すぐに忍耐が切れて笑い狂ってしまうかもしれない……  刺激に敏感になるよう……伸びきった格好で緊張を強いられているこのワキを……あの細い指達がカサコソと掻き毟ってくすぐって来るのだ……それに耐えられる自信など湧くはずもない。  くすぐったいに決まっている! 笑ってしまうに決まっている!!   綾香は当初の強気さを忘れてしまったかの様に、牡丹の手の動きに恐怖し弱音を浮かべてしまう。  笑ってはいけないと意識に上らせながらも、自分がくすぐられて無様に笑ってしまっている姿を想像してしまう。 『ダメだ! 駄目よ! しっかりしないと駄目っ!! 夏姫の為に……我慢しなきゃっ!! どんなにくすぐったくても……笑ってはダメ!! 私が笑えば……また夏姫を苦しめることになる!! だから絶対ダメっっ!! 私が頑張らないと……』    牡丹の煽る手の背後には夏姫の様子を映し続けているモニターがある。  そのモニターの中の夏姫は、息を切らせながら頭を項垂れさせ口から涎の糸を垂らしながら苦しそうな咳込みを繰り返している。  目隠しの左右の端からは涙が止めどなく溢れ、黒い目隠しの生地をその涙で濡らしている様子が伺える。  これ以上……彼女のに苦しい思いをさせてはいけない!  綾香は挫けそうになっている気力を奮い立たせる様にその映像を見て奥歯に力を込める。  例えどんなに狂おしいこそばゆさが襲ったとしても、夏姫の為に笑う事だけは阻止しなくてはならない……。映像の中の彼女を見る度に綾香はその様に決心を固め直すのだが……  しかし…… 「ほぉ~~ら、綾香様ぁ? 私のくすぐったい指ぃ……もっとちゃんと見て想像してください? この指が……これから綾香様のピンと張るように緊張させられたワキを触るのですよ? とっても……と~~っても……くすぐったくて……笑いがすぐに込み上げて来る筈ですぅ♥ ほらぁ……見てるだけで想像できるでしょう? この指が……自分の腋を……コチョコチョと触って来る未来を……」  牡丹の言葉に想像が掻き立てられ……綾香の身体は、牡丹の声を拒絶したがっているかのようにビクリビクリと震えてしまう。  彼女が耳元で“コチョコチョ”と囁くだけで……もう既にくすぐったい。  触られてもいないのに腋がヒクヒクと勝手に痙攣して、刺激を求める様に震え出してしまう。 「フフフ♥ 綾香様ったら……私の“コチョコチョ”って言葉を聞いたら震えちゃうんですね? それでは……もっと聞かせて差し上げましょうか? 吐息も混じらせながらぁ♥」  牡丹はそのように言って顔を綾香の腕の横からニュッと出して、彼女の耳に口が付くほど顔を近づけさせ……そして囁きを入れ始める。  妖艶な細い声で……コチョコチョコチョ……と。  その声を聞いた瞬間、綾香は悲鳴を上げて逃げる様に顔を左右振って嫌がる仕草を取ってしまう。牡丹はその嫌がる顔を両手で掴んで正面を向かせ…… 『ほ~ら、綾香様ぁ、もっと私の声を聞いてください? コチョコチョコチョ~♥ こちょこちょ~コチョコチョ~♥ こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪』  っと、くすぐる擬音を連呼し始めた。 「はっっ!? ひっ! いひぃぃぃぃっっ!! や、や、や、やめてっっっ!!」  耳の奥に無理やり送り込まれてくる“こちょこちょ”という妖しい囁き声……その声が頭に反響して思考を埋め尽くすと、綾香の身体は足の先まで激しい寒気に襲われ無意識に身体全身を震わせてしまう。 「綾香様はどんな風に“コチョコチョ”て言われるのがお好みですかぁ? こんな風に低い声でゆっくり“コチョ……コチョ……”って言われるのが良いですか? それとも……早く沢山“こちょこちょこちょこちょこちょ~”って言われるのが好きですかぁ?」  綾香の反応を面白がるように牡丹が声色を変えて擬音を様々に聞かせて来る。  ゆっくり囁きかけたり、子供っぽく沢山連呼したり、吐息を掛けながら妖艶に差し込んで来たり、言葉を強調するようにアクセントを強く切って言葉を並べてみたり、子供をあやす様に優しく語りかけてみたり……  コチョコチョという擬音だけでも実に様々な声色を使い分け、綾香に新鮮な言葉責めを強いていった。 「フフフ♥ いかがです? 言葉だけでも身体がくすぐったくなってきたでしょう?」  牡丹は綾香の耳から顔を離してニコリと微笑みながらその様に語りかける。  そして、綾香の顔を掴んでいた手もそれを放し……再び逆手に構え直してくすぐるフリを綾香に見せつけ始める。 「では……そろそろ、実際にくすぐってみましょうか……♥」  牡丹の手はそのフリを見せながら、ゆっくりと綾香の腕の付け根へとそれを近づけさせていく。 「ひっ!? や、や、やめ……て……。も、もう……やめ……」  綾香はその手が自分の腋へと近づいて来るのを目で追ってしまう。  モジョモジョとくすぐるフリをしながら近づいて来る妖艶な細い指達……それが腋の肌にあと数センチで触れてしまう所まで来ている……  やがて、指先が腋に触れるか触れないかのギリギリの所まで手が接近すると、その手が一瞬だけ間を開ける様に動きを止める。  少し身体を動かせば簡単に指先が触れてしまう様な……そんなギリギリの距離感……  綾香はその止まった指を見て思わず歯を食いしばって表情を硬化させる。  襲い来る刺激に備えて……身体全身も緊張で強張らせようとする。  そんな緊張感を牡丹は感じ取って、再び口元にクスリと笑みを浮かべなおす。  そして、先程と同じように囁くような細い声で“コチョ……コチョ……コチョ……”とゆっくり口から発し始めると……  それに合わせてまずは様子を見るかのように、人差し指をだけを出して……綾香の腋の肌を撫で始めた。  ワキの窪みの肌を……優しく労わる様な触り方で上下に……  ……コチョ……コチョ……と。


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