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ザ・ドッグトレーナー #36『二日目:下半身失敗ルート』(⇔34)

#36 「申し訳ありませんマスター。期待に応えることが……出来ませんでした」  二日目の耐久試験の失敗……それはリサに奴隷としての適性が認められなかったという烙印を押すと共に、今後の調教が続行不能になったという事実も確定させてしまうことになったため……リサは今日付けで奴隷商のもとへと送り返す運びとなる。  定められた期間はあともう少し猶予はあるが……この耐久試験をクリアしなかった奴隷候補の精神を軌道修正し直す時間など残されている筈もなく……無駄な苦痛を彼女に与えるよりは素早く返却した方が彼女の為でもあるとあなたは判断し、早々に彼女を奴隷商へと返却する運びとしたのだ。  それだけ、あの試験は大事な分岐点だった。  リサが自分とどう向き合うか……奴隷になるという事をどのように自覚させるべきか……  あわよくばリサが自暴自棄になる前に覚悟を決めさせてやりたかった。それを引き出すのも調教師の役割だと自覚していたが……  ソフィアはそれに失敗した。  勿論、ソフィアだけの失敗だけではない為彼女だけを責めるのお門違いも甚だしいが、彼女は失敗の原因は自分だけにあると……そう思い込んでいる。ソフィアは真面目が故、この失敗は全て自分の責任だと自分にも言い聞かせている。その苦悩が張り詰めた表情にも現れているため、彼女が今どういう心境にいるかも痛いほど伝わってくる。 「姉様だけのせいではありませんわ。責め方を選んだのはマスターでしたし、私だって前の日にもっとリサさんへの配慮に気を回すべきだったと思ってますし……」  エリナがすかさずフォローを入れるが、俯いたままのソフィアは首だけを左右に振って彼女の言葉を聞き入れない。 「いいえ。私がもっと然るべきタイミングを見て彼女に言葉を送るべきでした。あんな離れた位置で話すのではなく……もっと彼女の傍で言葉を投げかけてあげれば……もっと違う感じ方になったでしょうに……」  ソフィアのその言葉にエリナは言葉を失う。  確かに……その部分はソフィアの落ち度であり、初歩的なミスである事は間違いない。  あなたはソフィアに教えていた。  どんな状況の奴隷候補であれ相手は野生の動物などではなく“人間”なのだから、調教師としての最低限の礼節は尽くしなさい……と。  大事な言葉を送る場合には出来るだけ近くで……相手の目を見ながらちゃんと話す。  簡単で単純で当たり前すぎる教えだが、奴隷を調教するという特殊な仕事を請け負っている我々はその当たり前の事を度々怠ってしまう傾向にある。  抵抗できない奴隷候補を見るとつい自分達がまるで上の立場の種族であるかのような錯覚を受ける事があり、奴隷候補をまるで自分の奴隷だと言わんばかりに必要以上に責め立ててしまう場合がある。  確かに立場や身分は違うかもしれないが……種族は同じ人間であり、決して野に放たれた動物や廃棄処分にさせられたロボットとかではない。  だから二人には常々、奴隷候補は奴隷としてではなく自分達の教えを請いに来た生徒だと思えと伝えてあった。    相手は知性ある人間なのだ。ちゃんと目を見て話すという……そのちょっとした気配りを入れるだけで、言葉にしなくても奴隷候補には伝わるものだ。 『自分の事を見て話してくれている』『ちゃんと自分の事を見てくれている』……と。  境遇や仕打ちが酷いだけに、奴隷候補は自分の事を動物以下になったんじゃないかと卑下する者も多いが……こうした気配りが為される事で言葉にしなくても彼女達は感じてくれるのだ。  『自分達はまだ、人間として扱われる可能性があるんじゃないか……?』と。  そういう気持ちの芽生えが奴隷候補の認知を変えるきっかけにもなってくれる。  奴隷になるという事が、必ずしも人間である事を捨てるというものでもないかもしれないと、考え直す猶予を与えてくれる。  誰かの奴隷になる……という事は、確かに今まで当たり前に過ごしてきた普通の生活には戻れなくなるという事であり……普通の人間からすれば自身の安全が脅かされる不安なものに映るかもしれない。しかし、どういう環境であれ食事をして睡眠をとって生活をしていくというサイクルは変わらない。奴隷として買われるというのは敵に捕虜として捕まるという事では無い。形は変われど生活していかなければならないというのは現実の世界と同じなのだ。  だから、考え方は変えなくてはならない。  苦痛に感じる事は嫌だと思うかもしれない……苦しい事を強要されるのも、恥ずかしい事を強制されるのも……人間的ではないと感じるかもしれない。  しかし、いくら喚いても現実は変わる事は無い。いくら拒否をしても未来も変わらない。いくら懇願しても売られた過去も変えられない。  環境は何も変えられない……。  自分の手では絶対に変えられないし、自分の力で打破できる問題でもない……そう思えたなら……環境に適応する様……考え方を変えるべきなのだ。  それは現実世界でも同じだ。  会社に勤める事もそう……慣れない新生活を送る時もそう……新しい家族ができた時もそう……  ヒトは環境が変わるたびにその環境に最適な行動を行える様考え方をその都度変えられる生き物である。  そういう適応力を発揮するのはこの世界でも同じことだ。ただ……世界自体が非現実すぎて、受け入れるのが難しいという違いはあるのだが…… 「私は……リサが足裏の刺激に弱いと知っていて……手加減を出来ませんでした。彼女の笑い声を聞くと……どうしても……手が……止められなくなってしまって……」 「姉様……それはわたくしだって同じことです。私達だって人間なのですから……欲を抑えきれなくなる事なんてザラにあります」 「自分が欲望に忠実に責めてしまっている事に彼女が疲弊し過ぎてやっと気づきましたが……その後頭が真っ白になってしまって……言われたことも守れず……罪悪感から彼女の要求を呑む形になってしまって……」 「……姉様……」 「マスター! 今回の失敗は私の責任です! ですから、ルルシア様の所へは是非私を送って……私に罰を受けさせてください!」 「ちょ、姉様!! 私にだって責任があると……」 「エリナ。その言葉は嬉しいけど……今回は駄目……」 「……っえ?」 「ずっと……後悔が頭から離れなくて……苦しいの。あの時ああするべきだった……とか、もっとこうしていれば……とか、そういう言葉が頭から離れなくて……ずっとあの場面を思い出してしまうの!」 「……………………」 「きっと……今私はどんな些細な事を命じられても、今日の失敗がフラッシュバックして仕事をこなせないかもしれません……。それだけ、自分が許せないんです!」 「自分が……許せない?」 「エリナが言うように、今回は色んな要因でリサの調教が失敗したのかもしれません。でも、どんなに不利な要素があったとしてもそれに適応して調教をこなすのも調教師の務めだと思うんです! それを分かっていて私は自分の欲に負けてしまった……」  ソフィアの潔癖とも言うべき真面目さはエリナが心配する程によく自分を追い詰めることがある。自分の力量が足りなかったから駄目だったのだ……とか、自分の技術に問題があったから失敗したのだ……とか、事ある毎に自分に責任があると思い込む節が彼女にはある。  それが技術の研鑽に繋がっている内はとても謙虚で素晴らしい事だと思えるが……度が過ぎれば彼女自身の気力を尽きさせかねない。  “エリナくらい気を抜いて楽にやれ”とまでは言わないが、少なくとも失敗したら自分を責めるという癖だけは直してもらいたいとは思っている。  しかし、あなたもエリナもソフィアに近すぎるがあまり、彼女をありのままに育ててあげたいと思ってしまう。彼女の思いに寄り添ってあげたいと考えてしまい、つい彼女のそんな悪癖に変化を付けられずにいる。  恐らく……この悪癖はあなたやエリナでは直せないものなのだろう。  環境が近いが故……想い合える関係であるが故……彼女の悪癖も個性だと受け入れてしまっている。  変えてあげたいが……そもそもソフィアに変わる気が無ければ、変えられるモノも変えられない。  こんな慣れ合った環境では……彼女を変えてあげるきっかけは中々に生まれにくいものなのだ。 「このままだと作業に差し支えてしまいます! だから……マスター! 私に罰を受けさせてください! ちゃんと……罰を受けて……ちゃんと考え直したいんです!」 「姉様……。でも、相手はあのルルシア様なのですよ? くすぐりに笑い悶えて苦しむ顔を見るのが大好きな……あの……」 「……分かってる」 「服なんて着せてもらえないと思いますわよ……素っ裸にされて……全身をあの小さな手に弄られる事に……」 「し、知ってる! きっと……酷い事になるってのも……覚悟してる……」 「姉様は不感症だといつも言ってますけど……多分……ルルシア様には通用しないと思いますよ?」 「わ、分かってるってば! それも含めて覚悟してるって言ってんの!」 「姉様……」  この屋敷に居ては変えられないのであれば、彼女を外に行かせてみて新しい刺激を受けて来るのも何か変わるキッカケにはなるかもしれない……あなたは二人の会話を聞きながらもその様に思い至った。 『条件が満たされなければ罰として1日ソフィアかエリナのどちらかを奉仕に赴かせる……』  ルルシア嬢はあなたにそう告げていた。  ソフィアを彼女のもとに奉仕に行かせるという事はつまり、ソフィアはルルシア嬢の赴くままにくすぐりプレイを強要されるという事と同意だ。  彼女が、お気に入りのソフィアをくすぐらない訳がない。下手したら拘束して丸一にかけてくすぐり続けるという凶行に及ぶ事だってあり得る。  いちお、五体満足の状態で返すようにという念は押しているが……手足はついていても精神がヤられて帰って来る事になれば目も当てられない。  ルルシア嬢がそこまで鬼畜でないことを祈りたいが…… 「とにかく! 私はもう決めたんです! 今回の失敗はちゃんと責任を取ってルルシア様に謝りにいきたいって……」  これもソフィアの成長の為か……  自分達では出来ない事も、外部の人間であるルルシア嬢になら違ったアプローチでソフィアに新しい刺激を与えて貰える。  普段は責める側だったソフィアも……ルルシア嬢の屋敷の中では売られた奴隷と身分は変わらなくなる。その環境の変化が、ソフィアに良い刺激になると良いのだけど…… 「マスター! 良いでしょ? 私が今回の罰を受けたいんです! お願いです許可してください!」  ソフィアの懇願とエリナの反論を同時に聞きながらも、あなたはとうとう首を縦に振る仕草をソフィアに見せた。  彼女の真面目さは折り紙付きだが、頑固さは更にその上を行く強固なものだとあなたもエリナも理解している。  だから、あなたが首を縦に振った以降はエリナも反論する言葉を慎んだ。  ここまで言っても意思が変わらないのだから彼女の決意は相当に固いものなのだろうと……その表情を見て悟らされた。  ソフィアの顔は、追い詰められた子猫の様に張り詰めていて余裕がない。  しかし、あなたが顔を縦に振った事でその表情も徐々に和らぎを見せ始め、彼女を見送る日である次の朝にはすっかりいつもの澄ました表情に戻っていた。  ソフィアはルルシア嬢が出した迎えの車に乗り込み、あなたとエリナに軽く手を振って「行ってきます」と小声で零す。  その声は不安を感じさせるように小さくか細かったが、その声とは裏腹に前を向く表情は凛としていていかにもソフィアらしい顔つきになっていた。  あなたも不安が無いと言えば嘘になるが……この罰を受け、ソフィアに何か一つでもプラスになる様なモノを見つけて帰って来てくれれば良き糧になったと素直に喜べる……  あなたは、ソフィアを乗せた黒塗りの車が軽くクラクションを鳴らして出発したのを見送って屋敷へと戻っていった。  エリナも、同じように複雑な表情を浮かべ日々の業務に戻っていくのだった。 →#73 ソフィア差し出しルートへ


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