PT研:第4話ー⑤『異端審問』
Added 2023-06-21 10:21:50 +0000 UTC5:異端審問 ――学園内、某所某時間…… 「魔女狩りの歴史は今より遥か昔の12世紀、中世ヨーロッパ……その当時絶大な権力を誇っていた教会が主導で、災悪の権化である“魔女”を火刑に掛けて裁いた事が始まりとされている……」 誰かの響く声が耳に入り……私はぼんやりしながらも意識を覚醒させる。 目を開くと……ぼんやりした薄暗い部屋が見え始める…… どこかの地下室だろうか? コンクリートの床の所々に置かれたいくつかの蝋燭の明かりが細々と周囲を照らしてはいるが、ある程度広いであろうその部屋の全体までは光が届かずココがなんの部屋なのか今の時点では判断できない。 起き上がろうとしたけど何かに縛られているのか身体が持ち上がらない…… 手も足も勿論動かす事が出来ない。 私はどうやら椅子のような物に縛り付けられ身動きを取れないようにされているようだ。座面のクッションの感触と背もたれに押し付けられている感覚を感じられる。 「その後……15世紀から18世紀くらいまで間に推定で4万から6万人もの犠牲者が処刑されたと聞く……」 制服は脱がされ……カッターシャツも肌着も剥ぎ取られ下着姿で座らされている。当然のように靴も靴下も脱がされていて……それらの代わりにと言わんばかりに椅子の脚にロープでそれぞれの足首を拘束されている。 「当初は教会が主導で行っていたとされていたこの魔女裁判ではあるが、15世紀を過ぎる頃からはかえって民衆の方が積極的に密告や私刑を行うようになったという学者もいる……」 手は肘置きにロープで縛り付けられ、腹部は分厚い医療用のベルトでしっかりと固定され身動きが取れないよう処置されている。 「疫病……干ばつ、厄災、飢饉……。暗黒期のヨーロッパに影を落とすそれらの災害を民衆は魔女の仕業だとし、その疑いが僅かでもある者を片っ端から裁判にかけ火刑に処してきたのだそうだ……」 私の身体は椅子に縛り付けられ動かせないが、口の方にも枷が嵌められていて言葉を発する自由も奪われてしまっている。 「中には“自分が気に食わないから”という理由だけで嘘の密告を行い裁判に掛けられた者もいたのだとか……」 私の口を塞いでいるのは、あの日PT研で装着されていたのと同じようなボールギャグと呼ばれる口枷……。 コレを口に嵌められていると、喋りたくても「う~う~」と唸るような声しか上げられなくなってしまう。おまけに無理に喋ろうとすると涎がボールの穴から垂れて胸やら脚やらを汚す為、お腹を空かせて唸っている野良犬の様な姿にさえ映ってしまう事だろう。 恥ずかしい…… 部員の前で……とかならまだ百歩譲って知っている同士だからいいとしても……見ず知らずの誰かにこの姿を見られるのは滅茶苦茶恥ずかしい……。 まぁ、薄暗いのが唯一の救いか? 「そういう事を行う輩が居ると聞けば町や村はすぐに猜疑心で溢れる事となり、次は誰が密告されるのか? もしや自分が密告されるのでは? という疑心暗鬼が蔓延する事となる」 暗さに目が慣れ始め、徐々に部屋の構造が分かるようになってくると、私の視界には小夜子先輩の姿と先程から何やらぶつぶつと独り言を宣っている“怪しい人物”の姿が視界に入り始める。 部屋の中央には……床を一部くり抜いて造ったような“小さな堀”が存在しているのが見えてくる。 一畳分くらいの大きさのその堀はプラスチックのコーティングがされてあり、そこには床に溢れる手前くらいの水が張られている様子が見て取れる。 その小さな堀……と言うより子供用のプール? の様な物の傍に小夜子先輩の姿はあった。 先輩も私同様下着姿に剥かれているが、彼女は椅子ではなく堀りのすぐ近くの“床”に拘束されている。 「民衆は“自分がヤられる前に密告しそうな奴を先に密告してやる!”と……もはや魔女であるどうかではなくただの猜疑心から裁判の犠牲者になった者までいたそうだ……」 床には鉄板のような物が敷かれていて、その鉄板の上に複数の拘束用ベルトが備え付けられている。それらの拘束用ベルトは先輩の脚を拘束する為に用意されていてたらしく、彼女のムチッとした魅力的な太腿やら、関節の部位である膝やら、綺麗に手入れされた脛やら、彼女の大きな足を支える足首やら……を、ガッチリとその鉄の板に固定するよう拘束し、先輩に両脚を綺麗に伸ばす様な格好を強いている。 脚は間違いなく動かせないようしっかりと拘束されてはいるが、しかし完全に拘束されているのは脚の部分だけであり、手や上半身は床に固定されず動かす事が出来るようにされていた。 「その当時、魔女と疑われたものは……“自分は魔女です”と自白するまで尋問を行っていた。だから嘘であれ何であれ……捕まればほぼ有罪は免れず、認めなければ段階的に責め苦は酷くなり……最後には理不尽な判別方法を用いて命を奪っていったのだという……」 まぁ、動かせるとはいえ完全に自由である訳ではなく……手は首の裏に組む様な姿勢を取らされ、手首の部分を一纏めにするような枷をはめられ、首に付けられた“首輪”に繋げられ降ろせないように拘束されている。 手を引いたり降ろそうとすれば首輪もそれに引っ張られるため自ら首を絞めてしまう事に繋がってしまう。だから、首の後ろから腕は降ろせないし……上げる事も出来ない。 まるでジムかなにかで腹筋をする時に行う手の格好……と言えば伝わるだろうか? 首の裏に拘束された手は私から見ればその様に映っている。 「その判別方法として有名なのは“水審”という手法だ……」 上半身の拘束はそれだけである為、動かそうと思えば身体を捻る事も起き上がらせる事も自由に行えるようだけど……脚の方がしっかりと拘束されている為小夜子先輩はその場に立つなどの行動は制限されているため完全には自由だとは言い難い。 床に脚を伸ばして仰向けに寝かされ、上半身だけは起こそうと思えば起こせる格好…… そういう格好を彼女は私の目の前で強要されていたのだ。 「魔女は清い聖水に拒絶される……という考えのもと、疑いのある者の手足を縛り水の中に落として沈める。この状態で水に拒絶され浮かんでくるようであれば魔女と判断し火刑を強いるし……そのまま沈んで溺死したなら無罪になる……そういう残酷な審判方法が実際に在った……」 この拘束……一見不完全そうに見えるが、実はこれで完成されている。何故かというと、こういう拘束をする事で小夜子先輩にとあることを強いる事が出来るからだ。 「まぁ、流石に……華の女子高校生がそのような処刑染みた拷問をやる訳にはいかないから、このような可愛らしい真似事で妥協せざるを得ないのだけど……これもこれでも立派な責め苦になると思わないかい? 京堂 小夜子嬢……?」 拘束された太腿の部分は堀(プール?)の“縁”ギリギリのところで拘束がなされている。太腿より下の脚の部位は全て床に拘束されている形とはなっているが……逆に上半身の部位は堀に張ってある水の上に晒されてる格好なのである。 つまりは…… 上半身は床に寝ている訳ではないのだから、先輩が何もしていないと……お尻より上は堀の水の中に沈んでしまうことになるのだ。 上半身が水の中に沈めば……当然顔も水中に沈むわけだから黙っていると溺れてしまうことになる。だから先輩はカラダに力を込めて上半身を水面に出し続けていなくてはならない。 水面に顔さえ出ていれば呼吸は出来る為先輩はその体勢を維持し続けなければならない。力を抜けば……上半身が水の中に沈んで呼吸が出来なくなってしまうのだから…… 「貴女達……誰? 何のために……くっ! 私達に……こんな……」 上半身を持ち上げて水面上に顔を出し続ける姿勢を維持するには、主に腹部に力を込めなくては維持が出来ない。 さっき私は“腹筋をしているかのような格好”と言ったが、それはそのままの意味であり…… 小夜子先輩は水の中に沈まないよう常に腹筋をしている姿勢を維持させられているというのが今の状況だ。 顔だけを水面に上げるくらいなら、1度完全に身体を起こして上半身全部を堀から出してしまえば良いのでは? と、思うかもしれないけど……そういう事をさせない工夫が、実はもう一つ施されてしまっている。 小夜子先輩の手を拘束している手枷…… その枷には伸縮性のあるゴムの様な物が取り付けられており、そのゴムが堀の底の留め具に繋がっている。 そのゴムは、先輩が力を抜けば手を水中に引き込むくらいの長さに調整されているようで、先輩がどんなに力一杯に上半身を起こそうとしても、水面から僅か数センチくらいしか顔が上げられていない。それくらい強い力で引っ張られているのだから、先輩は上半身を起こすどころか顔を安全な位置まで上げる事もままならない。 ただでさえ腹筋に負担のかかる体勢を強いられているのに、ゴムの引き込みが加わっているのだから先輩への負担は相当のものだろうと想像できてしまう。 あの、いつも余裕ある笑顔を見せていた小夜子先輩が……これほどまでに苦痛と苦悶に歪んだ顔を見せるとは思いもよらず……不覚にも、その顔を見て興奮……じゃなくて、恐怖を覚えた事は言うまでもない。 「……我々は中世異端審問研究クラブ……学園の裏の掃除屋と呼ばれている組織だ。依頼と依頼料を受け取れば理由が何であれ告発対象者を審問に掛けて苦しめる……そういう仕事をバレないようにやっているのさ……」 そして、先程から独りで何事かの時代背景やらを喋っているこの女性(?)と、もう二人の助手の様な女性達……。 彼女らは一貫して目の部分だけを開けた大きな黒い三角型の頭巾を肩まで被り、声を変声機で変えて小夜子先輩を見下ろしながら交互に語りを続けている。見た目は秘密結社か何かの構成員の様な格好だ。 顔や声からは誰がそこに居るのかは判断できないけど……下に羽織っている黒いマントは薄手の生地である為か身体の膨らみ加減や体格を薄っすら見る事が出来、それが大人ではなく高校生の体つきだという事を悟る事が出来る。 リーダー格の女性の声は地の声が低いのだろう……機械の変声を通しても暗い男の様な声が響いているが…… 「キャハハ♥ イイ気味ねぇ♪ どう? あんたらが今までやってきた拷問とやらを逆にやられている気分は? 辛いでしょ? 苦しいでしょ? 悔しいでしょぉ?」 もう一方の一番小柄そうな生徒は逆に地が高い声なのか変声機を通すとテレビで見る万引き少女の加工された声のように甲高く聞こえる。 「……特別鍛えているボディビルダーの方でも数分で音を上げる苦痛でしょうに……よく耐えれますね? 私ならさっさと降伏して……助けの一つでも懇願するところですけど……」 最後の一人は二人の女生徒のちょうど中間くらいの背丈、声も同じく二人の中間くらいの高さでゆっくり喋っている。 三者それぞれ特徴のある喋り方だったり身長だったりしているのだが、衣装と変声機のせいでその正体を伺い知る事は出来ない。 きっと小夜子先輩も同じように思っているのだろう……歯を食いしばって力みながら困惑している様な表情も浮かべている。 そんな先輩を見て私はどうにか声を掛けようと喋れない口で「むぅ~! むぅ~!」声を上げるのだが…… 「うん? あぁ……目を覚ましたようだね? 小峯井明日香嬢……」 そんなくぐもった声を聞いて反応してくれたのは先輩ではなく、この怪しげな集団のリーダーの方だった。 「寝坊助さんだねぇ~? あんたが呑気に寝ている間に、相方の先輩はかれこれ30分以上はコレを続けているのよぉ? そろそろ腹筋が限界なんじゃないかしらぁ~? キャハハ♪」 続いて背の低い女性がはしゃぎながら甲高い声を私に掛けて来る。 「貴女……良かったですね? 今回の審問対象はあくまで彼女だけだから……貴女はこの特等席で彼女の拷問される様を高みの見物する事が出来るのです。まさに普段からの立場逆転と言ったところでしょうか? そういうシチュエーション……案外グッとくるものでしょう?」 三人目の女性が私の身体に近づきながら顔を横に傾けながらそのように喋り、クスクスと笑いを零す。 私は彼女の言葉に誘導されるように小夜子先輩の苦悶の表情を見て、複雑な感情を頭に過らせてしまう。 彼女の言う通り……いつもは理子先輩や綾ちゃんを指揮して私を責めさせ、それを楽しそうに見下ろしているのが小夜子先輩の基本の立ち位置なのだが、今は全くの逆……。拘束はされているけど私の方が小夜子先輩の苦しむ姿を上から眺められる位置に居る。 それはあまりにも新鮮な光景であり……普段では絶対に見る事の出来ない貴重なシチュエーションである故、正直興奮すら覚えてしまいそうなほどだ…… これがプレイだとか部の活動という事であれば素直に興奮するだけに留まるのだけど…… 残念ながら、この殺意さえも雰囲気として漂っている猟奇的な空間で興奮できるほど私の神経は図太くなく、怖いという思いだけが頭を埋め尽くし半ばパニックになりかけてさえいる。 もしもこの立場が逆だったらと思うと……ゾッとする寒気の方が先に過ってしまう。 「くっ! ふ、ふざけないで……私を解放しなさいっ!! このまま続けるようなら……仕返しだけでは済まなくなるわよっ!!」 水面に必死に顔を持ち上げながらもその様に声を荒げる小夜子先輩。しかし、声を上げようとすればの力が抜けてしまうのか顔が水の中に沈みそうになってしまい慌ててお腹に力を入れ直す様子が見て取れる。 「ハハハ……脅しても無駄だ。今の君に何が出来る? 君に出来る事と言えば腹に力を入れて溺れないよう努力する事だけだろう?」 その様子を嘲笑しながら見ているリーダー格の女性は、その場に座り込むと小夜子先輩の剥き出しのお腹をぺチンと平手で叩いて見せ“こういう事をされても抵抗できないだろ?”と言わんばかりに嘲笑を繰り返す。 「ぐくっっふっ!! 気軽に私の肌に触らないで! 分かっているの? 私は京堂財閥の第一令嬢……京堂小夜子よ? 私にこんな事して……ただで済まされるとまさか思ってはいないわよね?」 なんとか強気な姿勢を維持しようと語気を強める先輩だったが、腹部にかかる負担への苦痛と思い通りに動けないという悔しさが如実に表情に現われている先輩には、その言葉に説得力を持たせる事が出来ず脅し文句にすら力がこもらない。 「キャハハ♥ そんな必死そうに言われてもコッチはちっとも怖くは無いんだよねぇ~? だってほら……私達にこんな事されても何の反撃も出来ないじゃんか~? ほらぁ!」 言葉に怖さが足りていないのだから、相手も怖がるはずもなく……背の低い部下の子も面白がって先輩のお腹をペチペチと叩いて触り始める。 「くっっはっ!! ちょ、やめて! お、お腹……触らないでっ!! 力が……抜けるっ!」 あの無敵強キャラである小夜子先輩のお腹をよくもまぁそんな小馬鹿にする様に気軽にペチペチ叩けるものだと呆れる前に逆に感心してしまう。私が部活中にこんなことしたら、秒を待たずして理子先輩に取っ捕まって、何十倍……何百倍もの仕返しを受ける事になるだろう……。それを想像しただけでも震えが来るというのに……彼女を知らないであろう無知な方々の怖いもの知らず加減は恐ろしいモノだと改めて慄き呻いてしまう。 私だったらそんな事理子先輩にやれと言われても首を横に振る事請け合いなのに…… 「最近……貴女方PT研では鳴臥先生を顧問に取り込もうと動いていらっしゃるようですね? 今日もその交渉を行いに向かったのでしょう?」 私が彼女達の行いにあれこれ勝手に不安がっているのを知ってか知らず、マイペースを地で行くような三人目の部下がおっとりした口調で口を開き、小夜子先輩の顔を近くで見る為にか腰を落として視線を低くしその様に言葉を零し始める。 「ハァハァ……な、なんで……その事を……知っているの?」 「依頼主からは“その行為をやめるよう説得してくれ”と指示が届いていますので……」 「くっ……なんですって? 依頼主って……誰? ハァハァ……くぅ! 誰が何の目的で……こんな……」 「それにプラスして追加のオプション依頼もありまして……」 「……追加? オプション……??」 「依頼主の方は“PT研が生徒会の何かしらの弱みを握っている可能性がある”と睨んでいるらしく……その弱みを吐くまで責め続けてくれ……とメッセージを添えてこられました」 「……ッ!? 生徒会の……弱みって……ま、まさか……」 「心当たりがおありのようですね? でしたら素直に喋ってください……でないと、これまで以上に苦しむ事になるかもしれませんよ?」 この異端審問なんちゃら~の人たちはどうやら“依頼主”という人物に雇われて今回の凶行に及んだようだ。 しかも、私達が鳴臥先生を顧問につけようとしている事や、以前生徒会長とやり合って屈服させたという裏の出来事も情報として伝わっているようで……その依頼主とやらは相当にPT研の事を調べたのではないかという匂わせを彼女の口調から感じられる。 「それは……言わない約束になってるわ……。生徒会長とも……秘密にすると約束……したから……絶対に……教える訳には……」 「キャハハ♥ 生徒会長との約束? うちらはそんな事知ったこっちゃないのよねぇ~♪」 「そうだ。早く喋った方が身の為だぞ? 時間が経てば経つ程……苦しさは増すばかりだからな……」 「い、言えない! 絶対に……言えない! それに……誰が……そんな事を知りたがっているのよ! 先生……? 生徒? それとも……外部の……誰か?」 「さてね……。我々も依頼主の事は全く知らんのだよ。詮索はしないというのが我々のモットーでね……だから依頼する人物にも直接は合わない……。全て電子上のメッセージで済ませるからお互い顔も知らない存在という訳さ……」 「ぅくっッ! そんな……顔も見せない相手の依頼を……聞くなんて……」 「学園には顔を知られずに復讐を果たしたいと思っている生徒も居るという事さ……。我々はそういう“弱い生徒”の味方であり、正義を執行する断罪人だ……」 「何が……正義を執行……よ! お金さえ貰えば何でもするってだけじゃない! それの何処が正義よ……」 「我々は金は正義だと思っているぞ? 金は誰に対しても平等であり……誰にも同じ価値を与える。金さえ持っていれば人を雇って身を守る事も出来るし逆に自分に持ちようのない“暴力”を買う事だって出来る。正義を執行するには力が必要だ……その力というのは……今は金でどうとでもなる時代なのさ……」 「力をお金で買う? ふざけないで! それの何処に……正義が宿ってるって言うのよ! うくっ!」 「力そのものに正義は宿っていなくていいのさ……それを利用する人間が“正義”だと発していればそれが最終的に正義になるんだからな……」 「まるで……戦争に勝った国の様な……言い分ね。どんなに汚い手段を使っても……力で捻じ伏せてられたら……正義だと言ってるようなものじゃない! 勝ったものが……正義だと……」 「そう言ったつもりだが? 戦争の勝ち負けなんて突き詰めれば資金力の差で優劣がつくものだ。人を殺す為に何処まで金をつぎ込めるか? その問いに全力で金を出し切ってなお資金が尽きなかった国が戦争に勝つのさ……。そしてその戦争に負けた国は勝った国に都合のいい歴史の解釈を押し付けられ、世界の敵だったと汚名を背負わされる事になる……」 「ッ! そんなの……あなたの……勝手な解釈……」 「戦争は……勝たなければ正義ではないのさ。そして自分の国に勝利をもたらすには……リーダーの人望だけではダメ……人の多さだけでもダメ……個人の優秀さだけでもダメ……技術力の高さだけでもダメ……それら全ての要素をまとめる事が出来……かつ、より高みへと引き上げる事の出来る“資金力”こそが本当に無くてはならないモノである筈だと歴史は語っているだろう?」 「……くっ! だから、お金が正義だと言いたいの? 馬鹿らしい……」 「まぁ何とでも反論して好きに体力を消耗してくれて構わんよ……きっと、君と私は価値観が違い過ぎて平行線を辿るばかりだろうからね……分かり合えるだなんて最初からこれっぽっちも期待していないさ……」 流石はこのような凶行を平然とやってのけるリーダー格の女性だけはある。言っている事が私では理解出来ない…… きっと彼女の主張は同じくらいの狂人さを誇るうちの部長くらいでないと理解出来ないだろう。 仲間であるうちの部長くらいでないとというか狂っているとしか言いようがない。 私や生徒会長の詩織さんとかの常識人には次元が違い過ぎて……さっぱり理解出来そうもない。流石の小夜子先輩もこれには呆れている様子。 小夜子先輩の負けん気の強い性格上……きっともっと反論して論破してやりたいと思っている事だろうけど……しかしながら、彼女の言葉に反論したからといって事態が好転する訳ではない。逆に喋ることにより体力を消耗し増々お腹周りの筋力が疲弊してしまうことになるだろうし、相手を不快にさせ加虐心を煽ってしまう可能性だってある。 疲労の度合いは小夜子先輩の顔の険しさを見て悟る事が出来る。 額にかいた汗と口の震えを見れば、それがいかに限界ギリギリの状態にあるのか伺い知れる。 今は反論よりも少しでも体力を温存した方が良いんじゃないかと思える時間だ。時間を稼いで、何かしらの助けを待つべきだと思うのだけど…… 小夜子先輩のプライドがそれを許さないのか……それともやられっぱなしが気に食わないだけなのか……得意げに語っているリーダー格の女性に対して思わず減らず口を叩いてしまうことになり…… 「成程……そういう考え方をしたいって言うのなら……それじゃあ、今から私が……世の中にはお金だけでは解決出来ない事もあるっていうのを……貴女に証明して見せてあげるわ……」 「ほぉ? 金で解決できない事が……あると? それを君が知っていると言うのかい? まさか愛だとか青臭い事を言ったりはするまいな?」 「フン! そんな事知れたこと! 暴力やお金では私の……意志までは……買い取る事なんて出来やしないわ! 喋らないっていう……強い意思……それだけは……」 などと相手を挑発し始めてしまう。 余裕なんて無い癖に……なぜわざわざ煽るような事を言ってしまうのか……と、私はそれを聞いて呆れてしまう。 そんな強気な発言をしてしまうものだから、当然それを聞いたリーダー格の女性も…… 「ハハハ……それは面白い……。こんな状況に追い込まれてもまだ我々の責め苦に抗える自信があると?」 「お金が全てでないと……分からせてあげるわ!」 「そうかそうか……あくまで屈服はしない……と、言う事だな? 我々に情報を吐く気はないと……そう言っているのだな?」 「えぇ、そうよ! 耐えて……みせる! この程度の苦痛……何時間でも……」 「何時間? 我々がコレにそんな時間を掛けるつもりだと思っているのか?」 「……なに? どういう意味よ……それ?」 「今までは君が協力してくれることを願って何の“負荷”もかけずに見ているだけにしていたが……協力しないというのであればもはや君を甘やかす理由も見つからない」 「……甘やかしていたと言うの? 今の今まで?」 「本当は君の口から聞き出したいと思っていたのだが……君の意思は固そうだ……。だから君ではなく君の相方である明日香嬢の方に聞いてみようじゃないか……」 「……ッっ!? あ、明日香ちゃんに手を出すつもり? そんな事したら……」 「いやいや、手は出さんよ? そもそも依頼は君への審問と情報の聞き出ししか受けていないのだから……その様な手間のかかる事はやりたくもない……」 「じゃ、じゃあ……どういうつもり? 何で明日香ちゃんの名前がここで出るのよ!」 「彼女に手は出さないが……死にかける先輩を見て彼女の方はどう思うかねぇ?」 「……ッ!?」 「自分が喋らなきゃ目の前で先輩が死んでしまう……という状況に追い込まれたら……彼女はどうするかねぇ?」 私の名前が出た瞬間……私の顔は石化したように恐怖で固まったが、どうやら彼女は私に対してどうこうするというつもりではないらしい。 その代わりに小夜子先輩の方へ何かを行うつもりのようだ…… 傍で大人しく話を聞いていた二人の部下たちは、その言葉を聞いて何かを察したかのように改めて先輩の傍まで移動を始めた。 大人し目な女性の方は先輩の足元へ…… 小柄な女性の方は堀の縁ギリギリの場所へ…… 二人の移動に嫌な予感が募ったであろう小夜子先輩は、彼女達の無言の移動を顔をこわばらせて見ている…… 私もその様子を見ながら同じように顔をこわばらせ、緊張に心音を高鳴らせてしまう。 そんな私達の様子を見渡して、二人の“位置取り”が終わったのを見届けたリーダー格の女性は、歯を食いしばっている小夜子先輩に向けてこのような言葉を投げかけ始めた。 「そういえば……君たちPT研の方では“痛みの無い拷問”とやらの研究を行っているのだと聞いているが? それは本当かね?」 「それが何よ? そんなの聞かなくても最初から知っていた事でしょ!」 「痛みの無い拷問……傷をつけない尋問……。それは我々も気を付けている部分でもあってね?」 「……貴女達も……気を付けている……ですって?」 「なにせ……やってる事が非合法で下手したら捕まってしまうという事態にもなりかねない……。だからあまり証拠を残すわけにはいかないんだよ……」 「……それはご愁傷様ね……。でも、この件が終われば覚悟しておく事ね! 私は泣き寝入りなんて絶対にしない性格なんだから!」 「まぁ、基本的に身バレしないよう上手く逃げるし、普段は一般の生徒に紛れて各々の学園生活を送っているから捕まるようなヘマはしないのだが……やはり証拠が残るというのは尋問するうえでは気になってしまう部分でね……」 「傷を与えればその傷がどんなタイプの凶器で付けられた傷かが特定されてしまうし、その凶器が何処で入手されたかを遡られればいずれ何かしらのアシがつく……そういう事を言いたいのね?」 「理解が早くて嬉しいよ。まぁ、そうなんだが……」 「傷なんてつけられなくても特定ぐらいしてやるわ! 貴女達は知らないだろうけど、この学園には廊下の至る所に隠し監視カメラが設置されてあるのよ! 学校は安全の為と言って管理してるようだけど……それをハッキングしてモニタリングしてるクラブだってあるわ! そこに頼めば貴女達の正体くらい……」 「フフフ……そういう脅し文句は拘束を解かれてから言うものではないかね?」 「……っ!?」 「こんな場面でその様に脅されたら……こっちも容赦がし辛くなってしまうじゃないか……」 「な、なに? 何を……するつもり?」 「君達のクラブ……いや、部と言った方が良いかね?」 「そんな事どうでもいいわ! この二人はなに? 私に……何をさせるつもりなの?」 「君たちの部では、実に我々にとって魅力的な研究を行ってくれているじゃないか……」 「別に……貴女達の為にやってる研究では無いわよ……。なんでもいいからこの二人を何処かにやって!」 「今のこの状況ではピッタリだと思わないかね? 君たちの言う“痛みの無い拷問”というのを施すタイミングとしては……」 「今この状況……? ピッタリ?? 一体何を言って……」 「君たちだってやってきたのだろう? こんな風に被害者の人を拘束して……」 「私達が……やってきた? って、まさか……!?」 「身動きできない無防備な身体に刺激を送って……ゲラゲラ笑わせる拷問を……」 「く、くすぐらせるつもり!? 私の事……この子たちに……くすぐらせるつもりなの!?」 「今この状態で笑わされれば身体がどうなってしまうか……研究の第一人者である君なら当然分かっている筈……」 「や、や、やめ! やめて!! 今この身体をくすぐられたら……私……」 「果たして……笑いながら身体を起こし続ける事は可能だろうか……ねぇ? どれくらい笑いに耐えながら身体を起こしていられるだろうかねぇ? 君も嬉しいだろう? 新しい研究成果を得られる事になるのだから……」 「やめて! それは冗談じゃ済まされないわよ! そんな事をされたら……絶対に溺れて……」 「その身で体験して是非論文を書き上げてくれたまえ? タイトルはそうさねぇ……“人はくすぐられながら腹筋を何回やり続ける事が出来るのか”とかが良いか?」 その様に零すと、リーダー格の女性がパチンと指を鳴らしてまずは足の方で構えを取っている大人し目な女性の方に無言の指示を下す。 すると彼女はポケットから二本の鳥の羽根を取り出して、それを……小夜子先輩の足の裏に向けて這わせに向かった。 そして彼女はその羽根を使って先輩の無防備に晒されてしまっている素足の足裏を容赦なく撫で回し始めたのだった。