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PT研:第4話-④『接触』

4:接触 「だから、さっきから何度もハッキリ言ってるでしょ? 私はそんな怪しい部の顧問なんて引き受けたくはないと。分かったらさっさと出ていってもらえる?」  焦げ茶色の長い髪を赤いシュシュでポニーテールに纏め、上着は体操服……下は教員用の青のジャージ姿といういかにも体育教師のような風貌で、椅子の肘置きに片肘を付いて交渉に訪れた私と小夜子先輩を交互に睨みつけている鳴臥先生……。その睨み目は明らかに私達を敵視しているかのような鋭さが見て取れ、私は怖くてその目を直視する事が出来ないでいた。 「しかし、先生もご存じでしょう? 部に昇格したからには必ず顧問の先生を付けないといけない決まりがあるんです。顧問につかれていない先生と言えば鳴臥先生くらいしか思いつきませんし……名前だけの在籍でも構いませんので了承してもらえませんか? 決してご迷惑はおかけしませんから……」  交渉の場という事だから、てっきり“部長”がその役を担うものだろうと勝手に思っていたのだけど……蓋を開けてみれば副部長の小夜子先輩が交渉の場に立ち今もそれを続けている。  最初こそ『部の参謀なんだし交渉も上手い筈』と期待をしていたのだけど……正直、部長と比べると役不足である事は否めない。 「顧問についていない先生なら他にも居るでょうが! 1年を教えてる数学教師の佐藤先生とか、3年の大柳先生とか!」  小夜子先輩のおっとりとした口調では迫力が無いし……勢いも感じられない。かといってお得意の“弱み”をチラつかせて脅すとかいう卑怯技を使う様子も見せないし……これならなぜ彼女が交渉役に立ったのか疑問しか浮かばない。 「そう……かもしれませんが、でも……我々は、鳴臥先生に顧問として来て貰いたいと思ってまして……」 「とにかく嫌のものは嫌なの! あなた達の様な倫理も道徳も無視したような活動をする部に手を貸すなんて真っ平ごめんよ! 分かったら出ていって頂戴!」  部長ならここで『まるでうちの活動を見て確認したかのような口ぶりですなぁ? それでは実際にどういう事を行っているか教えて頂けませんかねぇ?』とかねちっこく噛みついて、最後には『では本当にそういう事をやっているか見て貰いましょうか?』などと言って無理やり部室に引き摺り込んで、実力(拷問)行使にて了承を得る流れを作るだろうけど…… 「そ、そうですか……残念です。では、今日はここまでにして……また改めて後日、お願いにあがろうと思います」  小夜子先輩はそういう隙をついた交渉に慣れていないのか……鳴臥先生の圧に負けすぐに身を引こうとしてしまう。 「何度来ても同じことよ! もしまたしつこく勧誘するようだったら……今度は手を挙げてでも追い返すつもりだから……覚悟しておきなさい?」  先生は拳を振り上げる素振りを見せ私達に脅そうとするが、小夜子先輩はその姿から一切目を逸らさずジッと彼女の顔を見つめているようだった。暴力歓迎部の副部長であるからそういう直接的な暴力には怖さを感じていないのだろうか? ちなみに私は手が上がった瞬間「ヒッ」と情けない悲鳴を上げ身を守る様に後退っていたのは言うまでもないのだけど…… 「わ、わ、わかりました……すぐに出て行きます。出て行きますので……暴力だけは……」  あれだけ堂々と先生の顔を直視していた小夜子先輩なのに、一呼吸を置く間を設けたかと思うと今度は突然人が変わったかのように怯えた風な演技をして怖がる姿を見せ始める。演技するにしても明らかにわざとらし過ぎると思えるその間の取り方に、鳴臥先生は疑う様なジト目を先輩に向け明らかな警戒の色を示し始めた。 「出て行きます……出て行きます……。ちゃんと出て行きますから……その拳は振り下ろさないでくださいね? でないと……」 「でないと……なによ?」 「万が一怪我をしてしまったりしたら……保健室の“四ツ星先生”の所に……行かなくちゃならなくなりますから……ね♥」 「…………ッっ!?」  小夜子先輩のその言葉に鳴臥先生の表情が一瞬固くなるのが見て取れた。  怪我をしたら……という言葉に反応したのか、それとも四ツ星先生の部分に反応したのか……私には判断できなかったのだけど、小夜子先輩は何かを理解した様子で口元にいつもの嬉しそうな笑みを浮かべている。 「じゃあ明日香ちゃん? 今日はそろそろお暇しましょうか……」  先輩がそのように告げると、私の返事を聞かずして彼女は身体を出口の方へと向けなおし、独りでさっさとその出口の方へと歩み出していってしまった。 「あ、ちょ! 先輩!」  結局何の成果も得られないまま帰ろうとしている小夜子先輩に私は釣られるように出口に向かおうとするが……  私が先輩に追いつく前に彼女の方が先に歩を止め、後ろを向いたまま思いもよらぬ言葉を紡ぎ始める。 「あぁ、そうそう……もし知らないのでしたらアレなので、これは教えておいてあげますね?」  職員室の扉に手を掛けたままその様に零す彼女に、私も鳴臥先生も言葉を呑み込む。 「先生がさっき“顧問についていない”と仰っていた先生方ですが……1年の佐藤先生は、陸上部の現顧問である今村先生が産休で来月から休むために陸上部の顧問代理として着任する予定です……」 「んなっ!? 何でそんな事あなたが知って……」 「あと……3年の大柳先生は今年の末に寿退職を予定されている様なので……こちらも顧問としては対象外になりますね♥」  突然の衝撃的な情報の応酬に私も鳴臥先生も目を白黒させて驚いてしまう。 「そ、そ、そんな情報……私ですらまだ聞かされてないわよ? 何処で聞いたの! その情報……」 「あぁ、ご安心を♥ 大柳先生の情報はまだ職員間に共有されていない情報ですので、先生が知っていないのも当然ですから……」 「だから! そんな個人的な情報をどこで仕入れたかって聞いてんのよ! 公表されてもない情報だったら尚更……」 「私はそういう……出回っていない情報を収集するのが趣味でして♥」 「……っな…………」 「先生方の面白そうな情報……他にもたくさん知ってたりもするんですよ?」 「そ、それは……どういう事? まさか私の事も嗅ぎまわっているんじゃ……」 「嗅ぎまわるだなんて人聞きの悪い……。趣味で集めてるって言ったじゃありませんか♥」 「……ッっ!!?」 「では、また改めて“交渉”させて頂きますね? 日を改めて……」  そこまで言葉を零すと小夜子先輩は職員室の扉を開き部屋の外へと出て行った。  鳴臥先生はそんな彼女に向かって「待ちなさい! 京堂!」と声を荒げているけど、私も先生に一礼だけして部屋を出て先輩が開いたドアを閉めて行った。  教務員室からは鳴臥先生の怒声がまだ聞こえてきている。  一方の小夜子先輩は、部屋を出る鳴り携帯電話を取り出して誰かと通話を始めている様子。 「和音ちゃん? 今先生との最初の接触を終えたわ♥ 予想通り……彼女は顧問になる気はさらさら無いみたい♪」  楽し気にその様に報告を行っている相手は……どうやら部長のようだ。   「えぇ、えぇ……。うん……そう♥ 情報通り……彼女の強気な態度は無理して作っている仮面に過ぎないっていうのが、実際の話し方の仕草を見て理解出来たわ♥ 手を振り上げて脅そうとしてきたけど節々に抵抗感が拭えきれていない跡が見られたし……語気を強める時の視線の向きも、相手の顔を見て怒鳴れなかったり……後は細々した所を上げてもキリがないわ♥」  話の内容を聞くに、この交渉はどうも最初から成功させようとという気概で行った交渉ではなかったと悟らされる。  話を行う中で小夜子先輩は先生の表情やら仕草をしっかり観察していたようだ。そして、彼女の態度が張りぼてであるということも見抜いたようだ。(私はそういう綻びを見つける前に目を伏せてしまっていたから、気付きようもなかったのだけど……)  だとすると、今回の接触は本交渉の前の準備段階だった……という事が薄々分かってくる。  これも情報集めの一環だったのだろう……と。 「うんうん、勿論♥ ちゃんとチラつかせておいた♪ 鳴臥先生ってば……ホントに嘘がつけないカラダなのね? かなり素直なリアクションを取って見せてくれ滑稽だったわ♥」  職員室から部室までの人気の少ない渡り廊下……。  普段、携帯電話など使っているそぶりすら見せない小夜子先輩なのに……今日は堂々と廊下を歩きながら喋りまくっている……  聞かれていいないようならば……別にいいとは思うけど……。聞く人が聞けばヤバイ内容だと思えるような会話を今しているような気がする……  大丈夫なのだろうか?  こんな、存在をアピールするような大声で電話の応対をして……本当に大丈夫なのだろうか?  嫌な予感がする……  何故か分からないけど……そこはかとなく不穏な空気が流れている気がしてならない。 「……えぇ。私の方は大丈夫。まだ彼女には何も伝えていないから……私が吐かない限りは……」  と、何やら不穏な会話が始まったなぁと思い始めた矢先……小夜子先輩の歩みのスピードが極端に落ちる。  まるで……誰かが追い付くのを待つかのように……  その歩調はかなりゆっくりな歩みに変わり…… 「フフ……こういうのは初めてだから、ちょっと怖い気もするけど……いい経験になると思ってるわ♥」  部室へと続く最後の曲がり角を曲がった瞬間、目の前には黒い三角形の目出し覆面をした誰かが廊下の真ん中に立ち塞がり……慣れた手つきで手に持っていたスプレーを小夜子先輩の顔面に向かって吹き付ける。  小夜子先輩はそれに抵抗もせず冷静に携帯電話をポケットに仕舞い込むと、その場に倒れ込むように膝を崩していった。  それを目の当たりにした私は身に危機感を覚え、助けを呼びに戻ろうと急いで振り返ったのだが…… ――プシュ!  いつの間にか後ろに立っていた同じような覆面姿の誰かに……振り向きざまにスプレーを吹きかけられ……  数秒も経たないうちに意識が薄れ始めて……  私と小夜子先輩は、その誰に担ぎ上げられながら部室とは逆の道へと連れ去られていったのだった。 ―――――― ―――― ――  園内某所…… 「そっかぁ。やっぱりPT研が交渉に来たのねぇ? 香澄ちゃん……大丈夫だったぁ? 酷い事……されてない?」 「う、うん……されて……ない……」 「よかったぁ♥ 香澄ちゃんに何かあったら……私ィ……悲しくなっちゃうからぁ……」 「だ、大丈夫……。うん……。というか、聞いていたよりあっさり身を引いていったって感じで……」 「あっさり? へぇ? それじゃあ……手は出してこなかったのねぇ? 生徒会の時とは違って……」 「生徒会? あいつら……生徒会に何かしたの?」 「あ、ううん……気にしないで?」 「……?」 「最初は様子見……って事かしらね? 香澄ちゃんの様子を伺う為の……」 「なんか……そんな感じだった。また来るとか言ってたし……」 「そっかぁ。だったら次は警戒しておかないと駄目ね? あいつら……何をしでかすか分かったものじゃないから……」 「だ、大丈夫よ“癒々花(ゆゆか)”! 私なら……大丈夫。何をされても……屈服なんてしないから……」 「ホントにぃ?」 「うぅ……。うん……多分……」 「私は心配だなぁ~? 香澄ちゃんってば怖い事とか痛い事とか苦手でしょう?」 「苦手……だけど……。でも大丈夫! 癒々花の事を想えば……多少の事は……」 「嬉しい♥ そう言ってくれるなら安心ね♪ だったら私も香澄ちゃんの事を信じるわ♥」 「まかせて! 逆に暴力を振るわれたらそれを証拠として訴えてやるつもりなんだから!」 「そうね♥ 手を出したらもうその時点でPT研は終わり♥ 逆に手を出す様仕向けても良いかもしれないわね?」 「う、うん! だから……次に奴らが交渉に来たら……そうなるよう仕向けてみる! 証拠になる様に録音も回しながら……」 「身体を張ってくれるのは嬉しいけどぉ……無理はしないでね? 香澄ちゃんに傷でもついたらって考えると……私……気が気でいられなくなっちゃうから……」 「大丈夫。例えカラダを張る事になるとしても……私は癒々花との“この時間”を奪おうとする何者にも立ち向かっていくつもりよ! それがPT研であれ監査部であれ校長であれ……誰であれね!」 「フフフ♥ 香澄ちゃんが顧問なんかになっちゃったら……私との、この甘くとろける時間が過ごせなくなっちゃうものね?」 「そうよ! だから……絶対に……絶対に顧問なんかにはならない! 絶対に……」 「いい子ね……♥ どう? 今から少し時間あるけど……今日もする?」 「……う、うん……癒々花……。私……実は……もう我慢できない!」 「……よぉ~し♥ じゃあ気持ち良くなる前に……いつもの“おまじない”かけてあげよっか♥」 「……うん♥」 「イイ? 私の目をよぉく見て? 目を離しちゃ駄目よ?」 「……………………」 「……私が右を見たら……同じように右を見るの……良いわね?」 「……うん」 「香澄ちゃんは……私の事が好き……よね?」 「……好き……」 「私の事が大好きで……堪らないわよね?」 「大……好き……。堪らない……」 「私の事が好きで好きで堪らない……そうよね?」 「好きで好きで……堪らない……」 「だったら、私の言う事……聞いてくれるわよね?」 「……聞く。なんでも……聞く……」 「私の事……気持ち良くしてくれる?」 「……うん♥」 「私の事気持ち良くしてくれたら……香澄も同じように気持ち良くなれるよ……♥ すっごく……すっごく……気持ち良く……なれるの♥」 「気持ち……良く……なる……。すっごく……気持ち良く……」 「この気持ち良さを知ったら……もう……私から離れられない……。私の事を……もっと好きになっちゃう……」 「好きに……なっちゃう……。好きに……」 「さぁ、私と気持ち良くなりましょ? 気持ち良くなって……もっと私の事……好きになっちゃいましょ?」  「好き……好きになる……好き……。癒々花……好き……♥」 「フフフ♥ コレを味わいたいなら……顧問になんてなったらダメよぉ? 顧問なんて引き受けちゃったら……この快感が味わえなくなる……」 「顧問は……引き受けない。気持ち良く……なりたい……。癒々花……好き……」 「大丈夫。この“繋がり”があれば貴女はPT研なんかに負けないわ♥ 絶対に……ね?」 「負け……ない。私は……負け……ない……」 「PT研の暴挙を告発したら……またこれまで以上にココで気持ち良くなりましょうね?」 「PT研を……告発……。邪魔者……居なくなる……」 「そう、邪魔者は排除しましょう♥ 私達の邪魔をする者は誰であれ……」 「邪魔者は排除……癒々花と……気持ち良く……なる」 「そうよ……。それで良いの……それで……♥」 「これで……イイ……の……。これで…………♥♥」 「フフフ……♥(やっとの思いで手に入れたこの楽園……絶対に手放しやしないわ! 私の邪魔をする者は誰であれ……排除して見せる! 必ず……)」」


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