ディストピア・プラント:2920~⑮記憶を求めて……
Added 2022-06-21 15:27:29 +0000 UTC15:記憶を求めて…… あれから…… ……3時間くらいが経っただろうか? マリア博士と同じ末路を辿るとするなら、とっくに廃棄処分の“公開放送”が行われていてもおかしくはない時間になったのだけれど……共同スペースにある大型モニターには捕まったクラリスさんの姿を映す気配を見せない。 もしかしたら、廃棄処分にならずに済んだのでは? と淡い期待を持ちたくなるが……その期待はその後に放送された音声放送にて打ち砕かれる事となる。 『……Fuelナンバー3240ハ、首輪ノ解除行為ヲ行ッタ罪ニヨリ……廃棄処分トナリマシタ。他ノFuelハ同ジ過チヲ繰リ返サナイヨウ注意シテ下サイ……。繰リ返シマス……』 流れてきたのは映像などは一切無い結果報告をするだけの音声伝達だけだった……。 博士の公開放送での一件が思いのほか脅威と判断されたのか……クラリスさんの廃棄処分はどうやら公開放送無しで秘密裏に行われる事となったようだ。 クラリスさんはあの時『合図を送る』と言っていたが……それは恐らく公開放送があって出来た事だろう。捕まれば……それ以外に意思を伝えるチャンスなど他にないのだから……。 となれば……多分……合図というのも、マリア博士の時を再現するような……そういう事を行おうと考えていたに違いない……。場内が混乱すれば……私が動きやすくなっていただろうから……。 でも、それは廃棄処分の様子が公開放送されていなければ成り立たない手段だ…… 機械達はそれを見越して……放送するのを取りやめた可能性がある。あれだけの混乱をまた起こされては……手間が増えてしょうがないと判断したのだろう……。 つまり……ここまで待って合図らしきものが無いという事は、クラリスさんの最後の抵抗は無に帰されてしまったと考える他ない……。 彼女の助けに……頼る事は……もう出来なくなったと思った方がいいだろう…… ここからは自力で……この階のトイレへと辿り着かなければならない。 クラリスさんやマリア博士の事を助けたいと思う気持ちもあるけれど……二人が作ってくれたチャンスをその想いで無駄にする事だけは出来ない! だから……後ろ髪は引かれてしまうけど……私は私のやるべきことに集中しなくてはならない! 1階と同じ構造であれば……トイレのある場所は私達が駆けてきた通路の反対側の奥にある筈だ。 この部屋を出て、共同スペースを通って……ロボットを蹴り倒したあの通路に戻って、そこの奥のT字路を来た道とは逆の右に曲がって……少し行けば通路の途中に見えてくるはずだ。 走れば3~4分で辿り着くだろうけど……でも、そこまで息切れせずに走り込むのは難しい。陸上選手でも軍人でもない一般人の私では……そこまで追われながら一気に走り切れる確率は低いだろう。 だから……目立たないよう忍びながら行かなくてはならない。 人の目に触れないよう……就寝時間を過ぎてからの行動になるし、巡回しているであろう警備ロボット達にも気付かれないよう注意して行動しなくてはならない。 思考を読み取り居場所も監視できる首輪は外して貰えたから、慎重に行動すればバレにくいとは思うのだけど……でも、クラリスさんは確か……『音声認識』や『顔認証システム』にてロボットは識別してくると言っていた。恐らくそれ以外にも人間の体温を可視化する『サーモグラフィ』とか暗い中でも視界を確保できる『暗視センサー』なんかも搭載されているに違いない…… だから、忍びながらもトイレを目指すのであればロボットの視野範囲に入る事もご法度だ。なるべく距離を保って……ロボットが居ない道を選んで歩かないとならない。 就寝時間が過ぎれば私達は部屋から外に出てはいけない事になっている……つまりは、動く影だけでも見つかればすぐに怪しまれて警戒される事だろう…… 部屋の外にFuelは居ない事になっている筈なのだから……。 だから細心の注意を払って行動しなくてはならない。 足音も……動く影さえも見つかってはならないのだ……。 正直……心細い。 自分一人でやり遂げられるか……不安で仕方がない。 だけど……やらなくてはならない! やり遂げなくては……博士やクラリスさんが私の記憶を取り戻すために作ってくれたチャンスが無為に帰してしまう。 チャンスを作ってくれたのなら……その恩に報いらなくてはならない。今も……博士やクラリスさんは機械達の手によって……酷い仕打ちを強いられている事だろうから……。 でも……私の失われた記憶というのは……本当にそこまでして貰うだけの価値があるのだろうか? 正直、自分でもピンときていないからか……博士やクラリスさん達の想いに応えられるか自信が無い。 もしも……戻った記憶が大した記憶ではなく、私がクラリスさんの期待に応えられるような人間ではなかったら? 本当はマリア博士の方を援護しなくちゃいけない立場で、実は私の方が犠牲になって博士にチャンスを作る役回りの予定だったとかだったら? そうなれば……私はもう……どうする事も出来ない。 クラリスさんの期待に応える事も……博士の犠牲に報いる事も……出来なくなる。 それを思うと……自信が無い。 ……不安だ。記憶を取り戻すのが怖い……。 博士たちの他にも私の知らない所で苦痛を強いられたであろう人たちの犠牲を踏み躙ってしまうのではないかと思えて……気が気ではない。 だけど……やらなきゃ…… 怖いけど……やらなきゃ……駄目だ。 例え……記憶を取り戻した先に絶望しかない未来が見えても…… 犠牲になってくれた人たちの為にも……取り戻さなくてはならない! 私の……記憶をっ! ――ジリリリリリリリリリリ……! 『就寝ノ時刻デス。Fuelハ明日ノ発電ニ備エ、十分ナ睡眠ヲ取ルヨウ心掛ケテ下サイ……』 不安に押しつぶされそうになっている自分を鼓舞するように意思を固めていると、機械の音声とベルの音がFuelである私達にその日の就寝時間が過ぎた事を告げ始めた。 この放送以降は……朝になるまで私達に部屋の外に出る権利は与えられていない。 扉の鍵が自動で閉まるような事はないが……外に出れば高い確率で警備ロボに見つかるし、部屋の外で見つかって捕まれば重い懲罰を課される事になる為誰も好んで外へとは出たがらない。 だからこそ巡回する警備ロボの数も最小限に減り、首輪をしていない私は動きやすくなる。 向かうには……今のタイミングよりほかはない! 私は意を決しベッドの下部スペースから再び身を這い出し、周りに巡回ロボが居ないかどうかを壊れた扉越しに隠れながら確認する。 廊下は全ての明かりが消灯し、数メートル先の床が見えない程暗闇に包まれていた。 その暗闇の奥の方に移動する人魂の様な明かりが2~3個…… 遠くでうろうろと動き回っているそれは巡回しているロボットの電子基板とかの明かりだろう……緑や赤などの人工的な光がぼんやり見えている。 私の居る部屋からは随分と離れた位置を巡回しているようだ…… 思った通り昼間の警備よりも随分と手薄になっているのが手に取るようにわかる。それを確認した私は恐る恐る足先から廊下へと出て、床を踏みしめる音を立てないようにと慎重に床板を踏みながら身を部屋から出していった。 今朝や先程までの喧騒が嘘であったかのようにシンと静まり返った施設の廊下……。 その廊下を壁伝いに一歩……また一歩と慎重に歩んでいき、通路の角である大広間へ続く入口へと移動していく。 大広間の奥端の方には、部屋から確認できなかった別の警備ロボットが巡回している姿がぼんやり見える。 何十メートルも離れた部屋の隅と隅である為、暗闇に溶け込んだ私の姿や私の体温などは感知できていない様子……。 私は隙を伺いつつも大広間と通路を隔てている腰の高さほどしかない仕切り壁に身を隠しながら大広間の中央へと歩んでいった。 中腰の姿勢のまま部屋の中央部へと少しずつ歩みを進めると途中からは大広間の“畑区画”へと辿り着く事が出来た。 人間の食料となる野菜や芋類を機械達が育てているこの畑区画は、昼間であれば瑞々しい植物や野菜の実りを見ることが出来、武骨で無機質なイメージのある発電施設に緑豊かなアクセントで彩りを見せてくれている。 日々の過酷な生活を強いられる我々にとってこの緑豊かな区画は施設内唯一の癒しの場であると共に、残酷な発電作業をほんの一時忘れさせてくれる和みの場として重宝されている。 しかし、結局この畑も……人間達をより長くFuelとして扱う事が出来るよう施された処置の一環でしかなく……決して“植物を見て和ませてくれている”などという慈悲の目的では作られてはいない。 それを思い出すと……結局辛い現実に引き戻されてしまい、見る前よりも気が滅入る事もしばしばである。 『ッ!? 前から……別のロボットが曲がってきたっ!?』 しばらく畑区画の横を進んでいくと、私が行こうとしていた目的の通路から1台の巡回ロボットが姿を見せた。 そのロボットは私を正面に捉えると、まるで私を見つけたかのように旋回し真っすぐにこちらへと向かい始めて来た。 『バレてはないみたいだけど……ココはあのロボットの進行ルートに重なってしまう!? 今すぐ身を隠さないと!!』 ロボットはコチラを向いて接近してくるが、急ぐわけでもなく警報を鳴らすわけでもなく近づいてきている為まだ私の存在に気が付いてはいないようだ。 しかし、同じ直線上に居れば近づかれた瞬間に確実にセンサーに引っ掛かってしまう為、私は渋々仕切り壁を跨いで畑エリアへ素足で入り込み、土床に膝をついて四つん這いの状態になりながら壁に身を隠しロボットが通り過ぎるのを待った。 ――ウィィィィィン、カシャ! ウィィィ……ィィ……ィィィン……ガシャガシャ…… ロボットはいよいよ私が先程まで居た壁の真裏の場所まで移動を終え、何かを探すような仕草をとりながら私の真横に立ち塞がってしまった。 あまりにも近距離でロボットが立ち止まってしまった為『もしや本当は見つかっていんじゃないのか!? 』と、不安になる私だったが……どうやらロボットは私ではない他の何かを背の低い壁に探しているようで、壁のあちこちを手で触っている様子が壁越しに伝わってきた。 一体壁に向かって何をし始めたのか? ロボットの不可解な行動に疑問を持つ私だが、その疑問の答えは次の災難が私に降りかかる事で回答を得る事となる。 ――キュルキュル……ウィィィ……イィィィィィン、ガシャ! ウィィィィィィ…… 何かを押したり回したりするような音が壁越しに聞こえ始める。そして、その音を確認した直後に…… ――ピッ! ピピ~~~~! 何かしらの電子音が畑の至る所から鳴り始める。私はその突然の音にドキリと胸を跳ねさせ、思わず身体をビクつかせてしまう。 そしてその音を合図に畑の地面から今度は突然…… ――プシュっ! プシャァァァァァァァ~~~~~~~! シャァ~~~~~~~~~っ!! 「ッっヒッ!?」 まるで噴水の中にでも居たかのようにそこら中から細い水柱が上がり、畑全体に行き渡るよう水が噴霧され始めた。 その突然の冷たい刺激に私は思わず小さな悲鳴を上げてしまった。 見つかるか見つからないかの狭間に置かれ緊張していた所に、いきなり土の中から冷たい水が噴射され始めてしまったのだから驚いてしまうのも無理はない。 しかし小さいとはいえ声を出してしまったのはマズかった……。私の声に無警戒だったロボットが警戒の色を示し始めたのだから…… ――ウィ? ガシャガシャ? ピピピ? ウィィィィン…… 人間の声がしたような気がする……と言いたげに首振りを何度も行い畑の中の様子を確認し始めるロボット。 私は続けて出そうになった悲鳴を慌てて押し殺して、壁に背を押し付けるように縮こまり、ロボットの捜索から必死に逃れようと抵抗した。 私が壁の真裏に隠れているという事は……まだバレてはいないようだ。しかし、声は聞こえたのは確かだとロボットは思っているようで、首を左右に振りながらその場を離れようとしてくれない。 すぐ下を覗き込まれれば見つかってしまう極限状態の中……私は、シャワーの様に噴射してくる水に身体を濡らしながらも必死に声が漏れないよう口を手で覆って我慢した。 ――ウ……イィィ……イィン? ピ、カシャ! ピピっ! カシャカシャ! ウィィィ…… 周りを暗視カメラか何かで撮影しているのか……シャッターが切られるような音が真上から鳴り続けている。 声の発生源である真下を見ないでくれているのは有難いが……その代わりに畑の様々な箇所をカメラに収めて映像を分析している様子だ。 ――ピッ! ピピ…… 私がロボットの動向に意識を奪われていると、今度は畑の方の水やりスプリンクラーの方に変化が訪れ私に更なる試練を与えるべくいやらしい動きを始める。 ――シュワァ~~~~~~~ッ、シュッ、シュッ……シャァァァァ~~~~~~! 『ッっ!!?』 突然……スプリンクラーの水の勢いが増し、様々な箇所に水を届かせようと威力を強めて来た。 その数本の細い水柱が、横向きに隠れている為無防備に晒す格好になっていた私の素足に当たり始め、足裏をくすぐる様に動き始めてしまったのだ。 『うぷっくっっ!? や、やだっっ!! あ、あ、足の裏に……水がっっ!!』 まるで細いブラシで撫でられているかのような感触が私の泥まみれの足裏に這い回り、緊張していた筈の私の顔はその刺激によって瞬時に笑いを我慢する顔に変化してしまう事となった。 ――ジョワジョワ♥ ショワショワショワ~~~シュシュシュ♥ あまりのこそばゆさに足の指をバタバタ暴れさせて嫌がる仕草を見せる私だが、機械に制御されたスプリンクラーの水はそんな仕草を見て決められた水やりを終わらせる事などしない。 どこかに目でも付いているのかと思える程正確に私の足裏に水流を当て続け、耐え難いこそばゆさを私に与え続けていく。 『や、や、やだっ! この水ぅくすぐったい!! 私の弱いトコを知ってるかのように当てて来てるぅぅ!!』 ジタバタと足首を上下に曲げても水はしつこく土踏まずや足指の付け根付近を細い水流でくすぐってくる。 足を別の方向に曲げて水から逃れたいけれど……大きく足を動かせばすぐ真上に居るロボットに見つかりかねない。だから足は動かせない……逃がしたいけど逃がす事は出来ないのだ。 『ヒィィ~~~! こ、声が出そう! これ以上くすぐられたら……声が……んくぅぅぅ~~~!!』 声を出してはいけないと分かっているけど、細く鋭い刺激を生み出す水流の刺激は私の笑いたい欲を激しく掻き立てて今にも私の我慢を砕いてしまいそうな勢いで喉元を圧迫してくる。 笑ってはいけない。 こんな状況で笑ってはいけない! 笑えば絶対に見つかる! くすぐったさに負けて笑ってしまえば……見つかって捕まってしまう!! 笑ってはいけない……笑ってはいけない……笑っては………… でも……くすぐったい! 足の裏を這い回る水の刺激がまるで細い指にこしょぐられているかのようにくすぐったくて堪らない! 笑いたくないけど……笑ってしまいそうだ! 我慢しなきゃいけないけど……もう我慢が…… ヒクヒクと小刻みに痙攣を始める私の肩……硬く結んでいるはずの口も波打つように歪みこちらもピクピクと痙攣を繰り返してしまっている。 もはや我慢も限界……笑いが……口から溢れて出てしまう! これ以上やられたら…… これ以上くすぐられたら…………ッ ――シュゥゥゥゥゥ……シュ……シュシュ…………チョロチョロ…… とうとう我慢が出来なくなり口元から「プッ!」と笑いが飛び出そうとした瞬間……永遠に終わらないかと思われた水の噴射が勢いを弱め始めた。 危うく笑いだしそうになっていた私はすぐに笑いを喉の奥に押し込め、頭を振ってこそばゆさに埋め尽くされていた脳内をリセットしようと試みた。 『ハァハァ……終わった? 水やり……終わったって……事?』 声が出てしまうギリギリの所で水の勢いが弱まり、九死に一生を得たような気分で内心ほっと胸を撫で降ろす私だったのだが……その安堵は私の心に油断を生み、口元に当てていた手を離させる事へと繋がってしまう。 ――ウィィィィィィン、ガシャ、ガシャ、ガシャ…… 水の勢いが弱まったと同時に……警戒モードを解いてくれたのか、警備ロボットは私の傍の壁から少しずつ移動を始め……元辿っていた巡回ルートへ戻る為に奥の通路へと帰る仕草を見せ始めた。 私はその様子を音で確認し、恐る恐る顔を壁から覗かせロボットが去って行っているのを目で確認し直した。 『よかった……ロボットも何処かへ行ってくれたみたい……』 ロボットの警戒が解かれた事も安堵の材料となり、私はすっかり油断しその場から立ち上がろうと足に力を込めようとした。 しかし、その次の瞬間! ――シュゥゥゥ……ジュジュジュ……ジュルジュルジュル……ブシャアァァァァァァァァァァ!! 終わったと思っていたスプリンクラーの水やりが突然再開されてしまった! しかも、先程とは比べ物にならない程水の勢いが強くなり、油断した私の足裏めがけて複数の水柱が同時に当てられ思いがけない刺激を私に与え始めてしまった! 「はぎゃはっ!? ダヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!! ぅははははははははははははははははははははは、ちょっ! いきなり、またぁ!? はひゃははははは!? はひっ! しまった!!」 狂おしい程のくすぐったい刺激に再び襲われた私は、完全に終わっただろうと油断していた事もあり込み上げてきた嵐の様な笑いの衝動を堪える事が出来ず、自分でも抑えきれないほどの爆笑を大広間に響かせてしまった! 完全には遠ざかっていなかった先程のロボットも、今度こそハッキリと上げてしまった私の笑い声にすぐさま反応し……急旋回するように首をコチラに向けて回してくる。 ――ピィィィィィィィ!!! ウォンウォンウォン!! ビィィ、ビィィィッ、ビィィィッッ!! 私の姿を見るや否や身体中に付いている警告灯を真っ赤に回転させ始め、けたたましい警報音を鳴り響かせ始める。 私はその警報音を見て「もう隠れても無駄だ」と悟り、壁を乗り越えて通路を駆け出し始める。 『首輪ノ付イテイナイFuelヲ確認ッ!! 電磁銃ノ発砲許可ヲ求メマス! 電磁銃ノ発砲許可ヲ……』 警報を鳴らし右往左往し始めているロボットを尻目に、私は真っすぐに目的の通路まで全力疾走を行った。 幸い大広間の中心まで辿り着いていた為、目的の通路まではすぐだった。 後はこの通路を駆け抜けてトイレに向かうだけ…… しかしロボットの警報を聞いて急に施設の中がザワつき始める。 様々な通路から警告灯の赤い光と警告音声が鳴り響き始める。 もう立ち止まってはいけない。このまま止まらずにトイレへと駆け込まなくては…… 通路に入り、人が三人位しか横に並べないくらい狭くなった廊下を私はひたすらに力の限り走り抜けていく。 後ろからは先程の警備ロボットが銃を構えて追ってきている。すぐに追いつかれる距離ではないけど……電撃銃が直撃すれば意識が飛んでしまう為簡単に捕まってしまう事だろう。 だから意地でもあの電磁銃の弾は避けなくてはならない! あの閃光が肌に掠りでもしたら……私は卒倒させられるのだから…… ――キュイィィン…………バシュッ!! 早速ロボットがそれを撃ってきた。 「ッっ!?」 私はその音がしたのを聞き取って素早く横にステップを踏んで避けにかかる。 電磁銃の閃光は私の肩のすぐ真横を通り過ぎて壁へと走っていきT字路の壁に当たって飛散していった。 上手く避けれた……。思った通り……奴らは正確に人間の背中を狙って照準を合わせ、撃ってきている。 背中を真っすぐに狙ってきているのであれば……撃つ瞬間に横に良ければ回避は出来る。 撃つ瞬間を見極めなくては駄目だけど……今まで何度か奴らに銃を撃ち込まれてきたのだから、発射するときの音を聞けばどうにかいつ発射されるかは予測が出来る。避けるのはさほど難しい事ではない。 ――キュイィィィン…… そして、一発の弾を撃ったら、次を発射するまでに多少の充電が必要になるようだ。 連射は出来ない……だから、一対一なら電撃を食らわずに避け切る事が出来る! 私は、先程の汚名を返上するかのようにロボットの銃撃を華麗に躱し続け、いよいよT字路の奥まで走り抜ける事に成功した。 「ハァハァハァ……ココを……右に曲がれば……ッっ!?」 T字路の角を曲がると、通路の奥の方から複数の警備ロボが銃を構えて迫ってきている光景が目に映った。 休んでいる時間はない! このまま通路の途中にあるトイレへと駆け込まないと…… 私は、歯を食いしばって脚に力を込め再び通路を全力疾走し始めた。 前方数十メートルの位置には複数のロボット達…… 後ろからは先程の警備ロボが角を曲がってきている様子が気配で分かる。 トイレまでは後5~6メートル程! ロボット達よりも先にトイレへと駆け込むことが出来そうだ! と、思った矢先、前方のロボット達の構えた銃口が一斉に青い光を溜め込み始める様子が見えた。 「やばい……一斉に撃つ気だっ!」 一対一での銃撃ならば問題はない。しかしこの様な狭い通路で複数のロボットから一斉に銃撃されれば……横に避けても流れ弾が当たりかねない。 流れ弾が無かったとしても時間差で撃たれれば対処のしようが…… ――バシュッ! そうこうしている内に先頭のロボの銃口が眩しく光った。私は咄嗟にその銃口から発せられた閃光を横に避け、ギリギリその閃光から逃れる。 しかし、その横に控えていたロボット達は私が避ける事を見越していたのか、時間差を仕掛けて次の銃撃を差し向けて来る。 ――バシュ! バシュッッ!! 走りながら横に避けた私の身体には慣性が働いていてすぐには逆の方へと飛ぶという様な対抗策を講じることが出来ない。 横には逃げられない……ジャンプしても飛距離が足りなくて空中で電撃を食らってしまう。だから私は下へ逃げる事を選んだ。 横に避けた直後私は身を前に投げ出して床へとダイブしていった。受け身の事など考えている余裕はない……とにかく身を投げ出すしかなかった。 閃光は私の低くなった背中の真上を通り過ぎ、横の壁に当たって飛散した。 受け身をとる暇もなく身を投げ出してしまった為私は背中を床と壁の角に強打する事になったが、それでも痛がっている暇は無いと自分を鼓舞しながら中腰の姿勢でなおも走りを再開し始める。 そうこうしていると、後ろから迫っていたロボットからも銃の充填音が鳴り響き始める。 ――キュイィィン…… 目的の場所までほんの数メートル! 背後からは銃撃! 目の前にはロボットの集団も迫ってきている! ――バシュッ!! 後ろのロボから電磁銃が放たれる音が鳴った。 私は中腰の姿勢のまま足に力を込めトイレの入り口に向かって再び身を投げ出した! ――シュンッ! バシッ! ジジジジッ…… 電磁銃の閃光はまたもや身を低くした私の背中を通り越し壁に当たって飛散した。 私はトイレの入り口の角に横腹をぶつけるが、その痛みを構う事なく必死に手と足を使って四つん這いにないながらもトイレの中へと逃げ込んでいった。 ――バシュバシュッ! バシュッ!! 私の身体がトイレへと入った瞬間、再び放たれた複数の電磁銃の弾がトイレの前壁に当たる音が鳴り響いた。 私は四つん這いの格好のまま必死に奥の個室へと身を移動させ、ヨロヨロと立ち上がってその扉を開いた。 「トイレ……ココが……二階の……トイレ……?」 扉の中は……一階のそれと何ら変わらない普通の個室が目に飛び込んできた。 特別なものが置いてあるわけでもない。便器が特別製という訳でもない……至って何の変哲もないトイレの個室だった。 「な、なに? このトイレで……私は何をしたらいいのっ!?」 記憶はまだ戻って来てはいない。このトイレを見たからと言って……何も…… ――ガチャガチャ! ウィィィン、ガチャっ!! そうこうしている間にロボット達もトイレの入り口に集まってきている…… トイレは行き止まりだ……奥から逃げるような通路は無い。つまり……袋小路に追い込まれたのと同じ…… 私は……ロボットがトイレへと入って来ようとしているのを察し、思わずその個室の中へと身を隠した。 コレでいよいよ自ら行き止まりに閉じこもった事になる…… 逃げ場はない……。 「記憶は? トイレに辿り着けば勝手に戻ってくるんじゃなかったの!? なんで? 何も戻ってこないじゃない!!」 ロボットに追い詰められ逃げ場はなくなった。 戻る筈だった記憶も戻ってこない……。完全に詰みの状態だ。 『大人シク投降シナサイ! サモナクバ、扉ヲ破壊シテ武力デ制圧シマス!』 鍵をかけたとはいえ、このような木製の扉はすぐにロボット達に破壊され中へと入られてしまう事だろう……。 そうなれば終わりだ! 捕まるのも時間の問題だ。 どうせ捕まるのなら……せめて記憶だけでも……記憶だけでも戻って来てはくれないだろうか……? どうせなら自分がどういう人間でどういう目的をも持ってココに入いたのかを知ってから捕まりたい…… 私はトイレの中を慌てるように見まわし、記憶復活のヒントを探る。 標準的なトイレットペーパー掛け、トイレットペーパーの予備を入れておく篭……生理用の小さなゴミ箱、水洗式の便器…… 便器に水を供給する水道管……立ち上がる為の手すり……荷物を掛けるためのフック…… ――ドスン! ドスン……ゴンゴンっ!! ガシャッ!! ドンッ! ドドンッ!!! そうこうしている内にロボット達の武力行使が開始された。扉は機械の力によって激しく揺れ、すぐにも壊れてしまいそうだ…… 木製の扉……金属のドアノブ……茶色い壁…… 白い床に……白い天井…… 白い……天井? ……天井っ!? その時、たまたま見渡していた天井に私の目は釘付けになった。 そして天井の角に通気口の入り口を見つけると、そこから突然脳裏にあの光景の“続き”が蘇った記憶として再生され始めた。 ―――― ―― ― 薄暗い作戦室の様な一角……。 目の前には右目を眼帯で覆った銀髪の女性と……テーブルの上に置かれた線だらけの見取り図…… 軍服を着た銀髪の女性はその見取り図の丸で囲われ“2階トイレ奥の個室”と手書きで書かれた場所を指差し、静かな口調で私に向けて言葉を零し始めた。 『君が施設に入って七日後……23時丁度に、我々の残った兵を全て投入して発電所の防衛壁を破る予定だ……』 私は彼女の言葉を頷きながら聞き、彼女の指差しているトイレの場所を食い入るように見つめている。 『奴らの標準装備されている電磁銃は射程距離60m程である為、ロボットを打ち倒すだけならば銃火器を使って制圧する事も出来る……。しかし、そのためにはどうしても発電所の防御壁を越えて施設の敷地内に入らなくてはならない』 トイレと書かれた区画の外側には……1階の倉庫の時と同様、細い通路の様な物が伸びているのが見えた。その通路の様な物は、トイレの奥の個室だけに繋がっており……他の個室には繋がってはいない。 『この防御壁に掛けられている電磁バリアを無効化にするのが……君の役割だ。それは……理解出来ているな?』 この通路の様な物は……通気口だ。この1番奥の個室だけは更に上へと繋がっている通気口が通っている。 『君の言葉通りであるなら……この“2階トイレの奥の個室”に3階へと続く通気口が繋がっている筈だ。君はこの通気口を利用して3階にある“メイン動力区画”に侵入してくれ』 その様に説明した指令の女性……彼女の名前は……そう……確か、ジェシカ……と言った…… レジスタンスのリーダーであり私の命の恩人……。そう、ジェシカさんだ! ……思い出した。 そうだ思い出した。 彼女の事もそうだが……この計画の事も…… ……私だ。 この計画を立案したのは……私……だった……。 “トイレの通気口から3階へ上がる”という作戦を立案したのは私だ。間違いない…… 『そして7日目の23時になったら電磁バリアの動力源を……落として欲しい。勿論、電磁バリア以外の電力供給を絶ってくれている尚良いが……恐らく電磁バリアの動力も、他の電機システムも予備電源が備わっている筈だから、一時的に切ったとしてもすぐに復旧してしまう事だろう。だから、今は他の機能をマヒさせる事は考えなくていい……“電磁バリアの一時的な解除”を主目的として動いてくれ』 私は……この発電所の事をよく知っていた……。 『時間は5分あればいい。5分間バリアの防衛システムを止めてくれればその間に火薬を仕掛けて直接壁を破壊し、そこから兵士を送り込む』 それは当然だ……。 この施設は……私が……設計を担当したのだから…… 『弾丸も……爆発物さえも通さないあの電磁バリアさえ解除出来れば……残った兵力でも十分に機械達と戦えるはずだ。逆に……それが出来なければ……』 私は……発電所の開発作業員の一人だった…… 見取り図を元に空気の循環や動力の確保……作業員の休憩所から食堂に至るまでの設計図を描いたのは……この私だった。 『我々に未来は……無い』 最初は……新規の火力発電所を建設する予定だった……。 世界情勢が緊迫している事を鑑みて……世界初の“シェルター内に作られた火力発電所”を建設しようと国が総力を挙げて取り組んだプロジェクトだった。 予定通り……発電所は完成した。 有事の際に避難する事も見越して簡易的な居住区画も設けられた。 そして発電所は稼働した…… だけど……稼働を開始して数年と経たないうちに……あのロボット達の一斉蜂起が起きて…… 発電所は彼らによって作り変えられた。 発電の燃料を……化石燃料から人間の声力に変えられるよう……機械達が勝手にタービンを改造し始めた…… そしてこの……発電所になってしまった……。 『だが……もしも数パーセントでも望みがあるのなら……それに賭けてみたい。君が行おうとしている任務は……我々が行ってきたどんな作戦よりも過酷で……常に不安と恐怖を強いられながら7日間を過ごす事となるだろう……』 ロボット達は人間よりも優秀だった。 人間の女性に笑い声をどれだけ出させれば施設稼働分のエネルギー以上を搾り取れるか……それを計算して新しいタービンを開発してきた。 人間の呼吸のシステムは火力発電所のシステムとよく似ていると言われているが……機械達はそれを皮肉る様に人間の声から呼吸までをコントロールする発電施設を作り上げてしまった。 人間が機械を使ってエネルギーを得るはずだったこの施設が……逆に機械が人間を使って発電する施設に成り代わってしまった…… 私はその事実が分かった時……酷く後悔したのを覚えている。 私がロボット達の砦になる施設を作ってしまったのだ…… 私が……世の女性達を傷つけ……死ぬよりも辛い発電を強いられる原因を作ってしまったのだ…… と、後悔し……絶望した。 『君は一般人であり……我々の様な特別な訓練を受けてきた人間ではない。だからこそ過酷さが際立つかもしれないが……それでも、やってくれるか? 我々人類の最後の抵抗を……機械達に見せつける手伝いを……担ってくれるのか?』 そんな私が……この作戦に協力したいと名乗りを上げたのは……罪を清算したいと思ったからだ。 発電所を建設するのに加担してしまった罪……それはイコール……人間を虐げるロボット達に間接的だとしても加担してしまったという罪に他ならない…… 『そうか……ありがとう。本来なら……我々の仲間として正式に迎えて階級や装備を贈呈してやりたいところだが……今はその時間も資材も残されていない……。食料は尽きかけているし、戦える兵士も日を追うごとに少なくなっていっている……』 私は……罪滅ぼしをしたかった。 だから、拾われたレジスタンス……“アイアンフィスト(鉄の拳)”のリーダーである彼女に私が施設の中に詳しいことを打ち明けた。 彼女達は、元は国家転覆を狙う犯罪者……という立ち位置だった。 だけど……彼女達が手を下す前に……ロボット達に国どころか世界を転覆させられた。 地上に残った反抗勢力は……最終的には我々しか残らなかった。 国の目から隠れるために地下に潜伏していたのが功を奏し、ロボット達に隠れ家を特定される前に難を逃れることが出来た。 この施設に入る前は……彼女らと共に生き残りの市民や人間の救助を秘密裏に行ってきていた。 それで私の罪滅ぼしにしたいと思っていたけど……目の前で無抵抗な市民が捕まり発電所へ連行されていく姿を見てしまうと……私の罪がいかに重いものだったのかをまざまざと見せつけられているようで苦しかった。とてもそれだけでは……罪滅ぼしになるとは思えなかった。 だから、志願したんだ。 『恐らくこの作戦が我々の…………いや、人類にとっての最後の抵抗となる事だろう……』 あの発電所を世に出してしまった責任を……自分の手でとりたいと思ったから……。 『この作戦が成功してもこの世界に残る物は……瓦礫と鉄屑と戦争の残骸だけだ……。それがこれからの人類にとって幸せな結果になるかどうかは分からない』 博士も……同じ事を思っていたに違いない……。 マリア博士も……自分の生み出したものが人類を苦しめる道具に使われていた事に……心を痛め続けていたに違いない。 だから、私と共に……この施設に入ったんだ……。 彼女は彼女なりの罪滅ぼしをするために…… 『だが! 機械に支配され、機械に自由を奪われ、機械に人間の尊厳を踏みにじられ、機械の為だけに人生を終えていく事だけは我慢ならない!』 そう……私は……自分の罪の贖罪の為に……ここに入ったんだ。 『今も……あの発電所の中では、人間をFuel(燃料)だと呼称して創造主である筈の人間を支配している……。それがどんなに屈辱的な事なのか……君にも分かって貰えたと思う』 世界は、崩壊の一途を辿っている。戦争が残した傷跡が……人類のみならず地球環境さえも破壊し尽くし……再起不能な所まで追い込んでいる。 それは……愚かな人類が自分達よりも優秀な機械を創造してしまった事で起きた顛末だ。 皮肉にも……自分達のエゴを突き詰めて生み出したはずの機械達に反逆され、自分達の首を絞めつける結果になってしまった。 これは機械達が悪いのではない。機械に人間の汚い部分を処理させようとした人類の怠惰が生み出した……当然の報いだったのだ。 取返しなどつかない。もう世界は……元の様に戻る事もないだろう……。 それでも……私達は、自分達の生み出した“道具”に決着を付けに行かなくてはならない。 自分達の犯した罪を……自分達人間の手で終わらせなくては……この地球を授けてくれた神様にも申し訳が立たないというものだ……。 『ともに……我々の最後の抵抗を成し遂げよう! 世界は荒廃したが、それでも生き残った人類としての最後を迎えられるよう人々を解放しよう! それが……このような結果を招いてしまった人間の生き残りである……我々にできる……唯一の尻拭いなのだから……』 私は……全てを思い出した。 私が何の目的でココに入って……次に何を行わなければならないのか…… この施設が何であり、なぜ人間が機械に支配されているのか…… 外の世界はどうなっているのか……何が起きていたのか…… 思い出した。 こんな切羽詰まったタイミングだけど……全てを思い出したのだ。 ―――― ――― ―― ― 「2階トイレ……奥の個室にある……通気口っ!!」 記憶を蘇らせている間にも、機械達による扉への猛攻は続いていた。 既に木製の扉には亀裂がいくつも入っていて、今にも破壊されそうな勢いにまで損壊してしまっている。 私は、思い出すや否や視線を天井の端へと移動させる。 そして改めて確認した! 通気口の入り口! 「アレだ! アレに入らないとッっ!! で、でも……」 しかし、私はドライバーやハンマーなどの工具類を持ってはいない。 時間があればそういう道具を探して通気口の金網を外す事も出来ただろうが……今はそのような時間が与えられてはいない! 今に個室の扉は破られそうなのだから。 「くっ……折角ここまで辿り着いたのにっ!! あの金網を外す時間が無いっ!! どうするっ? どうやってあの通気口に……」 焦る私だが、時間は待ってはくれない。 扉の亀裂はやがて扉の向こう側に居るロボット達の姿が確認出来るほどに広がっていて、もはや破られるのも時間の問題だ。 「やっと記憶が戻ったのにっっ!! こんな所で捕まる訳にはいかないのにっッ!!」 ――ドン! ドスン!! ドスッ!!! メキッ! メキメキメキ…… ドアを施錠していた鍵も斜めに傾き、いよいよ扉の抵抗力が限界を迎えた。 もう数秒も猶予が無い! 次に機械が体当たりでもすれば、扉は簡単に…… もはや万事休す……逃げ場も対抗手段もない個室で、むざむざと捕まってしまう運命しか残されていないのか……? 私は何の成果もあげる事が出来ずに捕まるだけなのかっ? と、諦めかけたその瞬間! ――ガチャンッ!! ガランガランガラン…… 天井の方から激しい金属音が鳴り響き、通気口の入り口である金網が突然何もしていないのに落下してくる様子が目に映った。 「ミシャさん! こっちへっッ!! 手を伸ばしてっ!!」 続けて聞き覚えの無い声が私に掛けられる。 そして通気口の入り口から誰かの手が差し出される。 私は返事を返す間もなくその声の主を信用し便器の上に立って手を伸ばした。 声の主が何者なのか問いたい所ではあったが、もはやその猶予は一切無かった。 扉は半壊し……今にも機械達が押し寄せてきそうだったのだ。 ――ドンッ!! メキメキメキ……グシャン!! そうこうしていると扉は完全に破壊されてしまった! 扉が開くや否や構えていた電磁銃を一斉に掃射し始めるロボット達…… 個室の中は溜まっていた埃が舞い上がり一種の煙幕が広がる様にロボット達の視界を遮った。 壁に飛散した電気の残り火が出口を求め彷徨うように駆けまわっている…… 銃撃が終わり様子を伺う機械達…… しかし、そこには……私の姿は既になく…… 個室には破られた扉と、勢いよく踏み台にされ半壊してしまった便器と…… 何者かの手によって外された……通気口の金網だけが……そこには残る事となった。