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ディストピア・プラント:2920~⑦決死の呼びかけ~

7:決死の呼びかけ  無慈悲にも無数の手はマリア博士の身体を埋め尽くすかのように群がり、拘束され無防備にされてしまっている哀れな身体中の彼女の肌を機械の指で触り回して嬲り始めた。 ――コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ! 「ギャ~~~~~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、や、だ、はっっははははははははははははははははははは、待って! もう少しだけ待っでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、いひゃ~~っははははははははははははははははははははははは!!」  先程までの羽根の刺激が愛撫を主体とした寒気を催すようなもどかしい刺激だとするならば、今度のくすぐりは指の感触が強く感じられる機械式の指に撫でられたり引っ掻かれたり指圧されたりをされている為、くすぐられている感覚は羽根よりもはっきりと強く神経に伝えられ、より一層のこそばゆさを生み出してしまっている。  その光景はもはや……見ているだけで吐き気をも催しそうなほど自らの身体にリアルな嫌悪感を与え、モニターを見る事を憚られる女性達が散見し始める程である。 「ぃぃひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、ぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ひゃはははははははははははははははははははははは、ゲホゲホゲホっ! ぅにゃ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、やはははははははははははははははははははははは」  身体を埋め尽くすほどのくすぐりハンド達ではあるのだが、全てが機械の手のくすぐりという訳ではない。  足裏や膝裏、腰や尻や背中……首筋や二の腕や手のひらをくすぐる機械は引き続き羽根の手が担当している。  触られる刺激に敏感な箇所は羽根で……  腋や脇の下、脇腹などの強い刺激に弱い側面のラインにはしっかりとした指にて刺激を送る等……  適材適所を使い分け責め立てる様子がその様子からは伺える。 「だぇひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ぅぇははははははははははははははははははははははははは、ひぃひぃっ! おでがいぃぃひひひひひひひひひ、これだけは伝えさせてぇぇへへへへへへへへへへへへへへへ!! これだけ伝えるだけでいいからぁはははははははははははははははははは、少しでいいから機械を止めてぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  博士は笑い狂いながらも必死に機械に対して懇願を始める。  その想いが伝わる筈はないと理解していながらも、懇願しない訳にはいられない……  なにせ、そのくすぐりは……博士の呼吸を乱すばかりでなく、声も出せなくなる程の窒息を与え始めているのだから…… 「かっっひっっひははははははははははははは!? げはっッゲホゲホ! ぐひへへへへへへへへへへへへへへへへへ、んへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、おでがいぃひひひひひひひひひひひひひひひひ、止めてぇへへへへへへへへへへへへ!! 苦し過ぎてぇへへっへへへへへへへへへへへへへへへ長く喋れないぃィ~ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!! うぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  足裏に群がる羽根の集団……  大きく伸びをするように反らされたその大き目な足裏に、羽根の毛先がコチョコチョと這い回っている。  定番の土踏まずは勿論、その左右の側面の皮膚……カカトの方にも複数……そして反り返りの頂点に位置する母指球や小指球の膨らみに至るまで、羽根の指がコチョコチョ動き回ってくすぐり回している。  足指の間に入り込んで指股をくすぐる羽根……足指の関節を優しく撫でてくすぐる羽根……足指の腹や爪の先端までも くすぐり尽くす羽根達……そして足の甲を撫で上げる無数の羽根、羽根、羽根……  足裏は羽根によって蹂躙の限りを尽くされていた。 「ギャ~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、くすぐっっははははははははははははははははははは、くすぐっっはひいぃぃひひひひひひっひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  羽根は博士の下を潜り脛や膝の裏や太腿の後ろなんかも列をなしてくすぐり回している。その列は尻、腰、背中、首裏と続き二の腕や肘の裏にまで続いている。 「だひゃめへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、エギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、いひひひひひひひひひひ、キシシシシシシ、だぁはははははははははははははははははは、やはぁ~~~っはははははははははははははははははははははは!!」  強く引っ張られるように万歳を強要され無防備にされてしまっている“腋”には小さく細い機械式の指が複数集まり、その部位を囲い込むように構え順番に指を這わせてたかと思えば一斉に集中攻撃を仕掛ける様にワキの窪みやらワキの端をモニョモニョと揉み解すくすぐりを行っている。 「えぎひひひひひひひひひひひ、はひひひひひひひひひひひひひひ、うひぃやぁはっっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、笑いがぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、笑いが止めらんないぃぃひひひひひひひひひひひ!! ダメダメぇ~~っへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへもう無理ぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、ぃひひひひひひひひ、ぅへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  脇腹にはしっかりとしがみつくように指が大きく開かれてその部位を掴んでいる手が数本……その手達は脇腹に口を開けて噛みついているような格好を維持しながら指だけをモニョモニョと蠢かせて横腹の薄肉を揉み解している。  その揉み込みがいかに強く成されているのか……画面越しにもその皮膚の歪みようが見て取れ理解できてしまう。  指に力が入るたびにその力に逆らえず柔肌が形を変えていく様は、まさにマッサージのソレと大差がないと想像がつく。  脇腹の部位をそのように揉み解されて……くすぐったいと感じない筈がない。  そんな事をされれば身体を捩ってでも必死に逃げようと思うものだが……博士の身体はその動きすらも許されていない。  腹部近くのベルトと太腿に巻かれたベルト……更には胸の少し下に巻かれたベルトにより頑丈に拘束され切っている博士の身体は……僅かに身体を横に傾けるという動作さえもさせて貰えない。 「ひぎぃぃっ!? ぃえはっっはははははははははははははははははははは、ひぃ~~~~っひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、うあっはははははははははははははははははははははははははは!!」  ワキの責め……脇腹の責め……それらに負けず劣らずの責めを行っている脇の下へのくすぐり……この部位は特に念入りに責めが行われるよう羽根の手と指の手両方が配置され様々に手を尽くして博士を笑わそうと責めている。  肋骨の浮き出た隙間に指をめり込ませる様に強く押し込んで、皮膚の奥でモニョモニョとマッサージし始めたかと思えば、羽根の手を使ってワキの窪みの少し下の敏感な部位をコショコショと薄く触って笑いを引き出そうとしたり……はたまた胸の付け根のツボを的確に突くように指先をグリグリと押し付ける刺激を加えたかと思えば、複数の羽根で胸の膨らみの周囲をなぞり上げる責めを行ったり……  博士が笑い疲れて声の勢いを落とそうとするのを見計らうように新たな刺激を彼女に与え、笑いが途切れないよう新鮮なくすぐったさを彼女に与え続けていく……  それ故、博士は笑う事以外の行為を極端に制限され……息つく間もなく呼吸を吐き出す運動を続けさせられているのだ。 「はひぃぃひひひひひひいっひひひひひひひひひひひひひ、言わなきゃぁあははははははははははははははは、これは……言わなきゃぁ~~っはははははははははははははははははははははは、ゲホゲホゲホ!!」  度重なる笑いの応酬に、口を閉じる事も出来なくなった博士の口元からはダラダラと唾液が垂れ続けており、とても正気を保っている状態には見えなくなってきている。  咳き込み、酸欠に苦しみ、それでも笑い狂っている彼女を見ていると……悲惨以外の何ものでもない情景であると言わざるをえない。  そんな彼女だが、まだ伝えきれていない事実というものがあったようで、その事を伝えようと笑い苦しみながらも必死に隙を伺い言葉を紡ごうと努力する。 「ハヒ、アヒ! ぃひひひひひひひひひひひ、んへへへへへへへへへへへへへへへへ、ミシャざんっ! 聞いてっっへへへへへへへへへへへ!! 私の計画はッっ……失敗ぃひひいっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、失敗じでしまったぁ~ははははははははははははははははははは!!」  私の計画は失敗した……彼女は確かにそういった……。 「本当は、わだじがぁはははははははははははははは!! 私が貴女と同じ房に入ってぇへへへへへへへへへへへへへ、記憶を取り戻させてぇへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへ、あ、あ、アレを外す筈だったぁぁはははははははははははははは!! でも別の階に入れられたからぁははははははははははは、そ、それは……出来なくなってしまってぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  笑いのノイズが激しく聞き取り辛いが、どうやら計画では彼女は私と同じ房に入る予定になっていたようだ。アレを外す……と言っているが……それは恐らく首輪の事だろう。この様な状況に陥っていてもこの放送を聞いた人間に“首輪を外す”と言う希望を想起させないよう配慮しアレと言葉を濁したのには感服の念を抱かない訳にはいかない。 「私の記憶が戻るのもぉほほほほほほほほほほほ、遅れたっははははははは、遅れてしまったぁぁははははははははははははははははは、ごめんなざいぃィひひひひひひひひひひひ、もっと早くに思い出していればぁぁはははははは、何か打開策が考えられたぁはッっははははははははははははははははは!!」  くすぐりによる強制笑いを引き起されながらも必死にそのように言葉を紡ぐマリア博士……  その様子をモニタリングしているであろう機械達は“まだ彼女に余裕がある”とみなしたようで、彼女を更に笑わせようとすべく新たな攻め手を追加し始める。 「はぎっっ!? いぎゃっっっ!? やめっっっ……」  追加された手は今ある手よりも更に小さい……針金のように細く小さな指を持った小型のマジックハンド達だった。  それらの手は、博士の浮き出た鎖骨や肋骨、内太腿の付け根の恥骨等を挟み込みその骨ごとモニョモニョと揉み解し始めた。  その刺激は……見ている私達の想像では測り切れない程の刺激であったらしく……博士はその瞬間から身体中を自分の意思とは無関係にビクビクと痙攣させ今まで以上に激しい笑いを吐き出す事態に追い込まれる事となる。 「ギャーーーーーーーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、いやーーっははははははははははははははははははははははははははははは、そんにゃのだめぇぇへっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへっ、えへへへへへへへへへへへへへへへ、耐えらんないぃ! こんなの耐えらんないぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」  体中の浮き出た骨を引っ掻くようにコソコソと動き回るその手の動きは、身体を這い回る小さな虫のよう見えるが、その指の力強さは想像以上の強さであり皮膚をくすぐる手よりもハッキリした刺激を彼女に与えているようだ。  博士はそれ以後、操り人形が雑に躍る事を強要されているかの様に身体をビクつかせ、叫び散らすような笑いを吐き出すよう強制される。  肋骨、鎖骨、肩甲骨、恥骨に留まらず背骨の一部や尾てい骨……膝の頭や足のくるぶしに至るまで……くすぐったさを感じるであろう骨という骨に群がってその小さな指は揉み解す刺激を送り込んで来る。そのくすぐったさに……博士はアイマスクの端から涙を流しながら必死に笑うという行為を強いられ続ける。 「ィギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ぎひゃははははははははははははははははははははははははは、ミシャしゃんっっ! 記憶が戻って無くてもぉほほほほほほほほほほほほほほ、これだけはどうにか成し遂げてぇへへへへへへへへへへへ!!」 『廃棄処分者ノ言動ニヨリ、Fuel達ノ感情ガ、危険域マデ高マリツツアル事ヲ感知! 廃棄処分者ノ言動ハ危険ト判断! 公開放送ヲ中断致シマス!』 「2階のトイレにぃぃひひひひひひひひひひ!! トイレに行けば思い出せるハズだからっッはははははははははははははははは、どうにかして辿り着いてぇへへへへへへへへ!! 一番奥のぉほほほほほほほほ、トイレぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ――」 ――ピッ! ……ブツン!  その放送は博士の最後の“トイレ”と言う言葉を絶叫したところで強制的に終了を迎えてしまった。  博士の最後の言葉が痛烈に耳奥で反芻され、モニターがブラックアウトしたと同時に足先から頭の先に抜けるような電流が走り抜け、鮮明な映像と共に私の脳に再び記憶が蘇り始めた。 ―――― ――  薄暗い部屋の机の上に……緑色の複数線で描かれた何かの地図を見下ろしている私……  向かいにはもう一人……誰かが居る気配がするが、地図を見ている私からはその人物の茶色の服の端しか視界に入っていない。 『2階トイレの一番奥の個室……』  濃い茶色の服の……これは恐らく軍服か何かだろうか?  そういう緊迫感を感じさせる衣装を着た女性が、地図を指差しながら私に話しかけてきた。 『……ココからなら……行けるんだな?』  声は女性のものだが……低音で重みがあり迫力がある。  私はこの声に聞き覚えがある……しかし、誰なのかははっきりとは思い出せない。  私は彼女の言葉を聞いて顔を上げる。  そこでようやく……私は彼女の顔を思い出す。  銀色のショートヘア……  細く鋭い前髪の隙間から見える右の眼には眼帯が付けられており……私を見ている左の眼は睨むように鋭い。左の頬には線を引くようにできた火傷の跡……  唇の右端にも刃物か何かで切られたような傷が縦に入っており、何かしらの紛争か何かを経験してきたかのような傷を複数抱えている。  服はやはり軍服だった。  何処の組織のどんな部隊の軍服かは分かりかねるが、右胸の上に勲章のような物が複数飾られている所を見るに……かなり武勲を上げてきた戦士なのであろうと想像がつく。  私はそんな彼女の問いに対して言葉を発さず頷きによって返答を返す。 すると彼女は片目を瞑りつつ頷きを入れて私に言葉を返した。 『……分かった……それは君を信じよう……。しかし本当に構わないのか? 君は何の訓練も受けていない“一般人”なのだろう? あの中がどれだけ過酷な場所なのかは知っているだろうに……』  彼女の言葉の中に“一般人”という言葉が挟まれた。  それにより私は……軍か組織とかとは関係のない一般人であったという事が伺い知れる。  そんな私がなぜこのような軍の作戦指令室の様な場所に入れて貰えているのか……そういう類の記憶はまだ戻ってきてはいない。  しかし、どうやらこの指令室に居る私は何かしらの覚悟を持ってそこに居るらしく……軍服の女性に向かって力強い頷きを再び行って自分の覚悟を彼女に示している。 『そうか……その覚悟があって協力をしてくれるという事であれば非常に有難い。なにせ……我々の中に“あの施設”に入って戻ってきた者はいないのだから……どうしても中の情報には疎いという状況だ。ようやく手に入れたこの設計図さえも……見て理解する事など出来やしなかった……。だから、内部の事情に詳しい君のような者が作戦に参加してくれるというのであれば、作戦の成功率も上がるというものだ……』  私はここで……もう一度設計図と呼ばれた線だらけの紙に視線を落とす。  白い用紙に緑色の線が3Dモデルを描いているかのように複雑に交差して形を成している様子が見て取れる。  私は……この設計図とやらを見ても……何一つとしてピンとこない。  彼女の口ぶりでは私は“この線だらけの設計図を理解出来る人物”であると語っているようだが……設計図とやらを思い出しても肝心のその読み方を思い出せないのが問題なのか、私の目にもそれが何を示しているのか理解出来ない。  しかし、私の目は確かに設計図の丸で囲ってある部分を迷いなく見つめている。  丸の横には線が引いてあって“2階トイレ一番奥の個室”という手書きの情報が書き加えられている。  今の私では……その情報を見ていなければ、その四角く書かれた線が2階のトイレであると認識など出来ない。  それほどこの設計図とやらは……見る者に情報を殆ど与えない簡素なものなのだ。  これを見てトイレなど……分かる人間がいるのか? と思える程……味気ない設計図を私は眺めて頷きを入れている。 『あまり不安にさせるような事を言いたくはないが……あの施設に入って、必ずしも二階の居住区に配置されるとは限らない。もしも運悪く……“一階の居住区”に配置された場合は相当な困難を極める事になる……』  私は設計図を見ながらトイレの場所から何やらだだっ広い空間が描かれた箇所に視線を移した。その空間の端には小さく“1FーB3”と数字とアルファベットが書かれているのが視界に映る。 『そして……今回君の記憶回復のトリガーであり“首輪”を外す役を担ってくれるマリア博士とも……同じ階に入れられるとは限らない……。もしも二人が“別々の階”に入れられたりすれば……君は記憶を取り戻す事も出来ずに……作戦失敗となる可能性が高まるだろう……。更に言えば……君たちが一階に収容されてしまえば、記憶は取り戻せても……二階のトイレに辿り着くという事自体が難しくなってしまう……。ハッキリ言って……不確定な要素が多すぎてリスクしかない作戦となるが……君は本当にそれでも参加してくれると……頭を縦に振ってくれるのか?』  1FーB3と書かれた箇所から視線を横にずらして1FーC2と書かれた小部屋を見る私。その視線の先には細い道の様な物が外に伸びていて、それらが複数の道と交差している様子がその視線に映し出される。  私はそれをしばらく眺めながら顔を上げ再び軍服の女性の鋭い目をしっかりと見返し大きく頷きを返した。  その頷きが私の揺らがない決意の表れであったのだろう……まるでお辞儀をするかのような深い頷きを彼女に見せて、私の記憶はまた途切れる事となった。 ―――— ―― ……ィィピィィィィィッッ! ピピピピピピ! ピピピピピピ! ピピピピ―― 「……はっ!?」  真っ黒になったテレビ画面を遠い目で見つめて記憶の復元を行っていた私が記憶の海原から意識を戻すと、そこにはけたたましい警戒音を鳴らしながら複数の警備ロボットが右に左にと慌てて動き回っている様子が目に映り、思わず私は自分の首輪が思考の異常を検知したのではないかと確認してしまう。 「私の首輪は……鳴って……ない?」  意識を持って行かれていたお陰か私の首輪は音を発さず黄色いランプをチカチカと灯すだけに留まってくれていた。思考の乱れが度を越してしまうと、このランプは赤に変わり点滅も激しくなるという特性がある。しかしそのレベルに達していなかったと言うことは、どうやら今の記憶回復では思考の乱れには至らなかったのだと判断できる。  ではこのロボたちは……一体何に対して動き回っているのか……?  それはすぐに理解出来た。  私と共に博士の廃棄処理のライブを見ていた女子たち……彼女達の首輪が一斉に感情の起伏を感知し、警告音を発してしまっていたのだ。 『規定水準以上ノ思考ガ検知サレ……』 『直チニ、危険思考……及ビ、抵抗感情ヲ捨テ……』 『規定水準以上ノ思考ガ検知サレマシタ! 直チニ……』 『危険思考……及ビ、抵抗感情ヲ……』  様々な場所で首輪の警告音とロボットたちのサイレンが鳴り響いている。  恐らくこの放送を見ていた者のほとんどが博士の言葉を聞いて動揺してしまったのだろう……  彼女は……処分される立場に居ながら必死にカメラに向かって呼び掛け、私の記憶を呼び起こそうと言葉を紡いでくれた。  その行動を見た、何も知らない女子たちは……きっとこう思ったに違いない……  『自分達の知らない所で……何かしらの計画が動き始めているのでは?』と。  それによって“もしかしたら助けが?”という感情が呼び起こされ……捨て去っていた筈の“希望”の二文字を想起させてる事になったのだろう。  だから……このように首輪も反応を示し、機械達も大慌てで対応に追われる事態になってしまっているのだ。  その様子は阿鼻叫喚……とまでは言わないが、騒然としている事は確かだ。  ポジティブな感情が高まってしまった者や、想像して期待を持ってしまった女子たちにイエローカードを出さなくてはならないとロボットたちが総出で対応している。  私はその光景を視界に入れながらも思考に波を立てないよう無感情を貫きつつ自分の部屋へと戻っていった。  部屋へ戻ると、先に戻っていたであろうクラリスさんがベッドに腰掛けて私の帰りを待っていた。 「良いところに戻ってきてくれました! 今なら感情を悟られず会話が出来るはずです。少し……話をしても良いですか?」  私が部屋に戻るなりクラリスさんはそのように言い、自分の隣に座るよう手招きを行った。私はその招きにつられクラリスさんの横に腰掛け彼女の言葉を待った。 「外があれだけ騒然としているので、今は……恐らく首輪の検知能力を下げていると私は踏んでます。これだけの大騒ぎになったのですから……対応が終わるまでは検知も緩くせざるをえないでしょう。だから、少しの間なら具体的な話をしても大丈夫だと思います……」  と、説明した彼女は私の目を真剣な眼差しで見つめ…… 「いいですか? 今から言う事は……すぐに忘れてください。というか、意識しないよう勤めてください! いいですね?」 「は、はい……」 「貴女が誰で……どのような使命を持った人間かは存じ上げません」 「……………………」 「正直……当初、私は貴女を利用して……私が立てていた“脱出計画”を成功させようとさえ思っていました……」 「……だ、だ、脱出……計画!?」 「しかし、貴女は恐らく……この施設を機械達の支配から解放するために入ってきた人間であると……マリア博士の言葉で確信を持ちました! だから……」 「……えっ!? ちょ…………っ!?」 「だから……その首輪は――」 「待って……。私はまだ記憶が……」 「――私が……博士の代わりに……外してあげようと……思います」 「……ッっ!!?」  驚き、顔を固めてしまう私に……彼女はそのように告げたのだった。  首輪はそんな私の心の動揺を察してもランプを赤にせず黄色を維持し続けている……  彼女が言った通り……  検知の尺度が緩められているおかげだろう。  彼女は動揺する私に自分が行おうとしていた計画を静かに話し始めた……  そして、彼女が口走った……  “首輪を外す”という言葉の意味も……  ……知る事となる。


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