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メイド・イン・アンダーグラウンド②

2:秘密の部屋 「「「いただきます!」」」  西洋貴族を思わせる長く大きな食事テーブルに……私と綾先輩、その隣に瑞穂先輩が席につき、私たち3人の向かいにメイド長の佳苗さんと亜理紗お嬢様が座り、テーブルに並べられた様々な食事を前に皆が揃っていただきますの言葉を述べる。  この屋敷では食事の折はお嬢様もメイドも関係なく一つのテーブルを囲って同じ食事を食べさせて貰える。  その食事というのも新鮮な野菜や魚、果物……高級そうな肉に金箔の浮いたスープが有ったりと豪華絢爛を形にしたような食事が佳苗さんの腕によって毎夜振る舞われていた。 「そちらのハーブ酒と春野菜のサラダはうちのお屋敷で育てたものを使用させて頂いています故、少しだけ苦みや雑味が混じっている事もありますが……ご容赦くださいね?」  これら高級そうに見える食材は全部が全部外部から仕入れたものという訳ではない。鶏肉や野菜……ハーブなどの植物は屋敷の庭などで育ててそれをそのまま使っている事が多く、外部からの発注は屋敷で取れない肉類や調味料などに限られている。それをメイド長兼料理長の佳苗さんが高級料理風に仕立て上げてくれるのだからそれらが見すぼらしく見えた事は一度もない。  むしろ、毎日この様なパーティクォリティの食事を頂いて大丈夫なのかと心配になるほどだ…… 「そんな事はありませんわよ? 佳苗さんの仕込むハーブ酒は最高ですの♪ 何度飲んでも飽きが来ないのですもの♥ ね? 皆さん?」  度数の高いハーブ酒を飲んだせいかご機嫌な笑顔を浮かべながら食事に舌鼓を打つ亜理紗お嬢様。 普段は佳苗さんに甘える姿をよく目にしている事から年齢の割に幼い印象を持ちがちだが、こうしてほろ酔い加減で話をするお嬢様を見ていると大人の色気の様な眼差しを時折向ける事が有りドキリとしてしまう。 「ほらぁ……お嬢様が感想をお求めだよぉ? ユカっちも呑みなよぉ~♪」  お嬢様がハーブ酒の話をコチラに振った瞬間、チラリと見せた鋭い視線にとんでもない色気を感じ取ってしまい、私は身体を硬直させる様に固く凍らせてしまった。  そんな凍った身体を解きほぐしてくれるかのように瑞穂先輩が私用のグラスにハーブ酒を入れそれを突き出してくる。 「わ、わ、私は……その……お酒は……ダメで……」  昔からアルコールを摂取するとすぐに酔いが回って気持ち悪くなってしまうタチの私は、差し出されたハーブ酒にぎこちなく遠慮の手を横に振って見せるのだが……お嬢様と同じくすっかり酔いが回ってご機嫌になってしまっている瑞穂先輩は私の遠慮する手に強引にグラスを持たせそれを呑むよう促しを入れた。 「あ、あぅ……じゃ、じゃあ……一口だけ……」  グラスに口を付けるまでその促しは続きそうな勢いを感じた私は抵抗するのを早々に諦め、一口だけそれを呑むことで許してもらおうと口をグラスに近づけさせた。 ――クピっ。  小鳥が水を摂取するかのようにほんのちょっぴりの量のハーブ酒を口の中に啄んだつもりだったが……そのアルコール度数があまりに高かったのか私の身体は熱を発するようにカァッと熱く火照り、目の前の景色がグニャリと歪む錯覚さえも見せ始めた。 「アハハ♥ たったそれだけでもうお酒まわちゃったのぉ? 流石ユカっちだわ、アハハハハ♪」  ゲホゲホと咽て口直しの水を飲みつつ口内をリセットしようとしていた私の背中をバシバシ叩いて無邪気に喜んでいる瑞穂先輩……。私は心の中で「冗談じゃないですよ!」と怒りながらも、馴染み始めた酔いの高揚感が思いのほか心地よく感じられ……私は瑞穂先輩を睨みながらも口元を緩ませてしまう事となる。 「ほらほらぁ、飲めない人に無理に飲まそうとしてはいけませんわ♥ そういうの……今では、アルパカとかヴァルハラとか言うんですのよ?」 「お嬢様ぁ? それを言うならアルハラですよぉ。アルコール・ハラスメント! 略してアルハラですぅ~」 「アハ♥ そうだったかしらぁ? アハハハ……」  全く……こっちは頭が回っているかのように平衡感覚がおかしなことになっているというのに……お嬢様と瑞穂先輩は酔いを楽しむように呑気に笑い合っている……  結局本気で心配してくれるのはいつもこの人だ…… 「由加里さん? 本当に大丈夫? 顔……真っ赤よ? もっと水……飲みます?」  私の目の前に座っていて、私に甲斐甲斐しく水を勧めてくれている彼女……佳苗さん。 「い、いえ……大丈夫です。ほんの一口だけでしたので……」  顔を突き出して心配そうに見てくれるその優しい眼差しを見て、私はお嬢様や瑞樹先輩にはない母性を感じまたもやドキリとしてしまう。  本当は……顔を着き出した際にメイド服の切れ目から見えた豊満な二つの丘を見てしまったからドキリとしたのだけど……それでも、この様に綺麗な顔のお姉さんが顔を近づけてくれただけでも十分に心臓が高鳴ってしまうというものだ。  私や綾先輩にはない豊満すぎるその胸……それら二つの柔らかそうな胸が密着して作り上げる色気を形にしたかのような胸の谷間……私は彼女の顔とその谷間を何度もチラ見してドギマギしてしまう。 「私は……おかわり……頂けますか?」  そんな色んな感情が交通渋滞しそうになっている私の隣では綾先輩が私のそのような騒がしさに目もくれずただただマイペースに食事を進め、何杯飲んだかも分からないハーブ酒を更におかわりしようと佳苗さんにグラスを差し出している。 「え? あぁ……おかわりね? はいはい……♥」  綾先輩の前に置かれていたおかわり用のハーブ酒の瓶は既に2本ほど空になっており、彼女がどれだけお酒に強い女性なのかをその更なるおかわりを見て察することが出来る。 「あまり飲み過ぎないでくださいよ? 明日二日酔いになったとか言われたら……目も当てられませんから……」  まるで水を飲みほしているかのようにお酒を飲み干している彼女に、おかわり用のハーブ酒を更に瓶ごと手渡しした佳苗さんは呆れるように彼女に言葉を掛ける。  そんな佳苗さんの心配する顔に相変わらずの無表情を向けて綾先輩は…… 「私……二日酔いになった事……ありませんから……」  と、誰もが羨む言葉をさらっと口にして、再び受け取った瓶の中にあるハーブ酒を自分のグラスに注ぎ始めるのだった。  5者5様の風景を見せながらその日の食事会はいつも通り和やかな雰囲気を残しつつ終わりの時を迎える。  皿を片付け、食堂の掃除をし服を着替えたら後は部屋に戻って寝るだけ……  そういう段になり、早々と皿の片づけを始めようとした瑞穂先輩にお嬢様から声がかかる。 「あぁ、そうそう! 瑞穂ちゃん? 今日って確か……貴女の“番”だったわよね? 今日もアレ……やるから♥」  お嬢様の言葉に身体をビクリと反応させた瑞穂先輩。彼女は背を向けたまま僅かに身体を震わせ小さく怯えるような返事を彼女に返す。 「は、はい……。で、でもお嬢様! 今日はすぐにやるんじゃなくて始める前に少しだけ時間を頂きたくて――」  ここからの時間は後は部屋に帰って寝るだけだというのに……お嬢様は瑞穂先輩を何かに誘っているようにも見える……。22時までの間に……何かをするつもりなのだろうか? それとも……その後……?? 「だぁ~め♥ ちゃんと時間通りにあの場所へ来るのよ? 良いわね?」  酔いが残っている為なのか何なのかは分からないけど……気が付けばお嬢様の喋り口調が素の時の喋り方に戻ってしまっている……そして瑞穂先輩の背中を見る目が鋭い……  コレが何を意味する事なのか……私には理解出来ない事だけど…… 「は……は、はい……」  あの元気の塊である瑞穂先輩が皿を持つ手を震わせながら返事を返している……  もしかして……昼間のあのお喋りが実はバレていて……その仕置きをされると怯えているのか……それとももっと別の事に怯えているのか…… 「じゃ、今日も楽しみに待っておりますわ~♥ なるべく早く準備してきてくださいまし……ね?」 素の口調から再びいつものお嬢様言葉へと戻った亜理紗さんは、口調を戻すと同時にいつもの朗らかな笑顔を浮かべ……スタスタと食堂から姿を消していった。  彼女が食堂を去っても、小さく身体を震わせながら立ちすくんでしまっている瑞穂さんに私が声を掛けようとすると…… 「私も……後から行きますね? 瑞穂……さん♥」  と、佳苗さんが声を細めて先に彼女へ声を掛けた。  瑞穂さんはその言葉にもビクリと身体を震わせ、何かに急かされるように足早に食器を洗い場へと持ち込んでいく事となった。  私は瑞穂先輩のその怯えが何を意味するのか分からず……疑問を感じる余地を残しながらも自分に与えられたテーブル拭きの仕事をこなし着替えを行った後部屋へと戻る事とした。  皿洗いを急いで終わらせてその場を去ったのかどうかは分からないが、その道中……瑞穂さんの姿を見ることはなく、私は浮かんだ疑問をぶつける間もなく自分の部屋へと戻ってしまった。  そして仕事の時間が終わり……時刻は丁度22時……。  ここからの時間は鉄の掟とやらがある為部屋の外へは出られない。  しかし……私は1時間も経たない間に……掟を破り部屋の外へと出る事を余儀なくされる。  あれほど部屋へ入る前に用を足したのに……  食事の前と後に二度も用を足してて完璧だと思ったのに……  私の小さな膀胱は再び体中の水分を一点に集めるかのように膨れ上がり……私に当然の尿意を催させる……  その致したい欲の強さは尋常じゃなく……もはや通常の尿意とは一線を画すほど強力な催しで私下腹部を膨れ上げさせていた。  ほんの数分間はベッドの中で股間を抑えて我慢しようと必死に藻掻いたのだけど……  迫りくる尿意の勢いが想像以上に激しくて……  私はその場で漏らしてしまうか……ルールを破るかの二択を迫られる事となった。  ルールを破りたくはない……でも……部屋の中で漏らしてしまうのはもっと嫌だ!  部屋の外に出たと言っても……見つからなければ……それは部屋を出てない事と同じだ……  見つからなければ……大丈夫! 今回だけの一回限りであれば……  私は結局……その様に自分のルールを破りたくない精神を丸め込ませ、誰にも気付かれぬよう慎重に部屋の扉を開いて外の廊下へと出た。  普段はスリッパを履いて廊下などは歩くのだけど……足音を立てたくないというのもあるし、何よりスリッパを探して履く余裕すら自分にはなかったため……パジャマ姿に裸足の状態で部屋の外へと出る事となった。  ペタペタと床を歩いていく私の足音が廊下中に反射し……その音でバレてしまうのではないかとビクビクしてしまうが、人が居なくなってしまったかのように静まり返った屋敷は私のそんな不安をよそに何事もなく私を女子トイレへと導き、そこで無事に用を足す事を許してくれた。  大した水分を取ってもないのに……よくもこれだけの量を溜め込んだものだ……と自分でも思う程の量を流した私は、身も心もスッキリとした多幸感に包まれ、笑みさえも浮かべながら来た道を戻っていった。  用も無事に足せたし、後は来た道さえバレずに帰れることが出来れば私のミッションは完了する筈だったのだけど……、私のその予定はあの扉を横切る前にすぐに破綻してしまう事となる。  掟の中にある……開けてはいけないとされている……地下倉庫への扉……  昼間に瑞穂先輩が話していた……噂の扉がそこに近づいてきているのだが、私は彼女の話を半信半疑にしか捉えて居なかったこともあり、まさか“あの頑丈そうな南京錠が外れている訳がない”と高を括りながら扉を横切ろうとしたのだけど…… 『う、嘘!? ほ、ホントに……開いてる!?』  改めて彼女の言葉が冗談の類であると証明してやろうと扉に目をやると、そこにはあの頑丈そうな南京錠は付けられておらず瑞穂先輩の言葉の通り鍵が外された扉が目の前に現れた。  私はその事象に驚き声を上げそうになるが、自分が忍んで廊下を歩いていた事をすぐに思い出し、自分の手で口を隠しながら声が漏れないように気を付けながら再び扉の方に視線を戻す。  扉は南京錠が外されているだけでなく、その扉の中に誰かが入っていったという事を示すかのように僅かに隙間を開けている。  その隙間からは地下へと続く階段が目に映り、この部屋の奥に噂の地下倉庫への入り口が存在するのだろうという想像が容易にできてしまう。  そうなると……瑞穂先輩は鍵の開いたこの扉の中へ侵入し、奥に見える階段を降り……その終着地点にあるであろう扉を開けて地下倉庫の中を覗き見たというのだろうか?  その奥の地下倉庫というのが……彼女が言った通りの“拷問部屋”のような様子であるなら……なぜそのような部屋が存在するのか……興味を惹かれる。  そしてこの拷問部屋というのが実際にあったとするなら……なぜその部屋への扉を普段は固く閉じてあるのか……なぜ掟にする程その扉を開かせないようにしているのか……なぜ外を出歩けない筈のこんな時間にこの扉は開かれているのか……そのような疑問が次々に浮かんできて私の好奇心をこれでもかとくすぐってくる。  瑞穂先輩の様に扉の奥に進んで中の様子を見てみたい! という想いは強く持ちたいところだけど……私はしがないいちメイドの身分。屋敷のルールを破ってまで好奇心を満たしていてはいずれ身の破滅を招くかもしれない……と冷静に考え、一旦はその扉の奥へと入りたいという欲を振り払う事とした。  しかし、その欲を振り払った瞬間、その扉の隙間から誰かしらの声が階段を反響して聞こえてきてしまった為、私の好奇心は振出しに戻るかのようにその扉へと注がれる事となる。 『女の人の……悲鳴? 叫び声?? それとも笑い……声??』  壁や階段に乱反射して届けられるその声の主が女性である事だけはすぐに分かったが、乱反射しながら重なり合って聞こえてくるその声が叫んでいるのか笑っているのかそれとも泣いているのかの判断がつかず、私は思わず扉に張り付くように身体を沿わせ隙間に耳だけを差し込んでその声が何と喋っているのかを聞こうと試みた。 『……やっぱり……笑ってる?? でも……叫んでもいる?? 何かを訴えかけようとする言葉も……発してる気もする……』  結局その場で聞いていても分からない……という結論に至った私は、この声がなぜ発せられているかの事実を確認する為辺りを気にしつつも扉の隙間を自分の身体が入るサイズになるまで開いてその隙間から中へと忍び込んでしまった。  きっと……扉の鍵が開いているだけだったら、何事もなく部屋に戻れていただろうけど……悲鳴のような声が聞こえてしまったのだったら、中でどんな事が行われているのか確認しないと目覚めが悪い。  もしも、瑞穂先輩が語った通りの部屋がこの先に待っているのであれば……この悲鳴は……そういう道具によって痛めつけられている女性の声である可能性が高い。  皆が寝静まったこんな夜更けにそのような事を行っているのが……いったい誰なのか? そして誰に対してその様な事を行っているのか? それを調べないと……きっと明日からの仕事に支障をきたしてしまう。今調べておかないと……気になって気になって……夜も眠れなくなるかもしれない。  寝不足のまま仕事をするのは失礼だし、そもそもこういう声を出させているのがお嬢様の所業であるのなら……私は主であるお嬢様を疑いの目で見る事になってしまう……  出来ればそうしたくはない。  そうでないことを祈るばかりだけど……  私はその様な事を考えつつ、冷たい石の階段をゆっくり忍び足で1段1段降りていく。  素足で降りる夜の石階段が想像以上に足先を冷やし、思わず声を上げたくなりそうなほど凍えてしまうけど、私はその声が響き続ける階段を最後の1段になるまで降り続け、声が漏れ出している原因となっているであろう部屋の分厚い扉の前まで歩を進める事となった。  そこまで来るとその声の主が“瑞穂先輩”のものである事が何となく分かってくる。  彼女の甲高い声……それが特徴的な赤くて分厚い扉の隙間から光と共に漏れ出してきているのが、その扉の前に来てようやく理解出来た。  そして……その瑞穂先輩の声は……泣いている訳でも怒っている訳でもなく……ただただ笑っているだけの声であったという事実も扉の前に立つと分かってくる。  中の様子はこの隙間から覗かないと見えてこないけど……瑞穂先輩が何かに対してゲラゲラ笑っているというイメージは覗く前から付いていた。  何が可笑しくてそんなに笑う事があるかと思いはしたが、とりあえず拷問や処刑の様な恐ろしいことはされていないのだなと声の感じで理解できた事で、私はひとまず安堵の息を吐くこととなる。  しかし……その笑い声は一向に止む気配をなさず、むしろ待てば待つほどに苦しそうな笑い声にさえ変わっているように聞こえる。  いい加減笑うのをやめないとお腹が痛くなるだろうし呼吸も苦しくなるだろうとは思うのだが、それでも瑞樹先輩は笑うのをやめない。  何が彼女をそこまで可笑しくさせているのか……?  本来なら危険が無いと分かった時点でこの先は何も見ず……来た道を戻るべきだったのだが、この異様なまでに長い先輩の笑いが一体何によって引き起こされているのかを知ってしまいたくなってしまった私は……いけないと分かっていながらも、僅かに光を零している扉の隙間に顔を近づけ中の様子を覗き込む事としてしまった。  扉に近づくにつれ徐々に見え始める部屋の中の様子……。  仄暗い部屋の壁は石畳みを敷き詰めたかのような無骨な石壁として組まれ、所々に光源となっている蝋燭が配置されているのが見えて来る。  そしてその壁を辿って見ていくと……そこには見るも恐ろしい道具が並べて掛けてあるのが目についてくる。  先端に棘のついた鞭……刃渡り何センチ有るかも分からない変わった形のナイフ……何に使用するか想像したくもない人の身長程はあろう大きなノコギリ……  一度は払拭したはずの拷問部屋のイメージ……それがこの道具達を見て再び植え付けられる。  そして、その部屋のイメージを決定づけたのはそれだけではなかった。  部屋の中に置いてある家具……というか、きっと拷問や尋問を行う為に使うであろう各種“拘束器具”が視界に入ってきたため、この部屋のイメージは私が想像する陰鬱で凄惨な拷問部屋のそれである事が疑えなくなってしまった。  Y字の十字架に、断頭台の様な見た目の台……何やらケーブルが後ろに繋がった電気椅子の様な椅子に、壁や天井からは手を拘束する為であろう鉄製の枷があちらこちらにぶら下がっており、床の方にも頑丈な杭で固定された足枷なんかも見受けられた。  これらを見てもはや言い訳など出来ないほどこの部屋が普通の部屋じゃないと察した私は、この時点で急いで部屋へと戻っていればよかったものを……どうしてもこの部屋のおどろおどろしさと、瑞穂先輩の笑い声がマッチせず……結局扉をもう少し自分で開いてまでも、部屋の奥に居るであろう瑞穂先輩の様子を覗き見る事を優先してしまった。  扉をもう少しだけ開き、部屋全体を覗けるほどの隙間を作った後そこに顔を忍ばせて部屋を改めて覗き見た私は……遠くの方でぼんやり動く二つの影を視界に収める事となる。  一つは床に建てられたX字型の拘束具に立ったままメイド服を着たままの姿で拘束された瑞穂先輩の姿。  そしてもう一つは……何やら興奮気味に言葉を零しながら瑞穂先輩の身体の前で手を動かしている亜理紗お嬢様の姿……  蝋燭が光源である為、部屋の隅に居る人物を最初は着ている服でしか判別が出来ず、二人が何をやっているのかまではしっかりと見ることは出来なかったが……やがて、この小さな明かりにも目が慣れ始め目のピントも合い始めると……ようやくそこで何が行われているのかを知る事となってしまう。  なぜこのような陰鬱な空間で拘束されていているにもかかわらず面白おかしそうに瑞穂先輩は笑っていられるのか……  そもそも……なぜこのような場で瑞穂先輩は“笑って”いるのか?  その謎は……お嬢様が彼女に何を行っているかを見てようやく理解が出来た。  お嬢様は……万歳の格好で拘束され身動きできない様にされた瑞穂先輩の身体を“くすぐって”いたのだ。  くすぐっている……というのは……勿論アレである。  ワキとか足の裏を……コチョコチョ~っと触って笑わせる……アレだ。  子供たちが悪戯で行う……スキンシップの様な遊びの……ソレだ。  その“くすぐり”を瑞穂先輩に対して行っていたから、先輩はこのように笑い声を上げていたと……そういう訳だ。  私はその光景を見た瞬間、今までの緊張が抜ける様にガクリと片肩を下げてしまった。  この様な恐ろしい見た目の部屋で……まさかこのような戯れが行われていたとは思いもせず……  不安と緊張が一気に抜けてしまった結果思わず安堵の息さえ零してしまった。  何か事件に巻き込まれたか何かだったらどうしようか……と肝を冷やしたが、蓋を開けてみればまさかのお嬢様の子供の様な戯れの延長が行われていただけだったとは……  私は今度こそ心の底から安心の息を吐き切り、扉から離れようと顔を遠ざけた。 『ん? でも……お戯れであれば……なんで拘束をしてまでくすぐりを??』  一瞬安堵の表情を浮かべた私だったが、そういえば……そもそもなぜ瑞穂先輩は拘束をされているのか? そして、なぜ……既に笑っている彼女の事をまだくすぐり続けているのか?  そのような疑問が新たに浮かび、私はもう一度扉の隙間に顔を押し込んで彼女達の様子を見直した。 『あ、あれ? 瑞穂先輩……よく見たら……汗まみれ? 顔は涙や涎でクシャクシャだし……息も絶え絶えで……笑ってる?? あれ??』  よく見ると、瑞穂先輩はどれくらい笑い続けていたのか分からないが、顔は汗だくになり目からは涙を流し鼻水も涎も垂れ放題になりながらも笑い続けている。そしてその笑いの中にも「やめて!」とか「許して!」とかの言葉が入り混じり、そのくすぐりを止めて欲しそうな声も上げている。  普通の遊びや戯れで……ここまで言わすほどのくすぐりを行うだろうか? この様な顔になるまで笑わせたりするだろうか? 答えは否だけど……でも、それでもお嬢様は瑞穂先輩の身体から手を離す気配を見せない。しきりに彼女の万歳したワキの部位をまさぐって彼女を笑わせ続けている。  そんなに笑わせ続けたら……瑞穂先輩も苦しく思うだろうに……と、私はまだ事の重大さを理解出来ずに呑気にお嬢様の戯れを遠くで眺めるという体を取っていたのだが……  いつまでたっても終わらないお嬢様の執拗なくすぐりと、泣き声を上げながら許しを請う瑞穂先輩の暴れ狂う姿を見て……徐々に不穏な空気が流れている事に気付き始める。 『こ、これって……いつ終わるの? っていうか……いつから……やってたことなの?』  いつから瑞穂先輩が笑っていたか? と聞かれれば、私があの扉を横切ろうとした時から……と言いたくなるが、彼女の様子を見るとどうもそうではない気がする。  なにせ、声を意識したのがあの時であるというだけなのだから……実際に始まったのはもっと前からであってもおかしくはない。  じゃあ……いつから? 私が……トイレに行こうとした……あの時から既に?  私はいつからこの様な戯れが行われていたのかを考えている最中に恐ろしい想像を浮かべてしまう事となる。  いや……下手をすれば……22時になったと同時に……やっていた可能性だってあるんじゃないか?   そういえば……食事の終わりがけにお嬢様……瑞穂先輩に「時間通りに来ておくように」って念を押していたようだし。  もしもそうなのであれば……今は22時半を余裕で回っていると思うから……30分以上!?  下手をすれば……30分以上も……瑞穂先輩は笑わされていた可能性だってあるのだ! お嬢様のあの……戯れによって……  いや、そうは言ってもそこまで笑わせて何か良いことがあるのか? と言われれば私は何も思いつかない。そりゃ……自分のくすぐりに可愛く笑って反応してくれる姿を見るのは……微笑ましくて多少は楽しく思う事もあろうけど……あんなに顔がぐしゃぐしゃになるまで笑わせるのは……何か違う気もする。  っとなれば……アレは何かの罰なのだろうか?  瑞穂先輩の事だから、何か良からぬことをしでかして亜理紗お嬢様を怒らせてしまったのではないだろうか?  それにしては……やり過ぎな感は否めないのだけど……きっと瑞穂先輩の事だから、お嬢様を本気で怒らすような何かをしてしまったのだろう。それであんなになるまでくすぐりを……  ……しかし、なんで“くすぐり”なのだろうか?  仕置きであれば……もっとやり様などある筈なのに……  なんでわざわざ……こんな部屋に連れ込んで……あんな風に面倒くさい拘束までして“くすぐり”という罰を行う事を選んだのか……  ……理解出来ない。  お嬢様のお考えが……見えてこない。  目的や理由が理解出来ないあの行為を遠目に覗きながら、その意図を探ろうと一所懸命に考えを巡らせていた私は……実は少し前から近づきつつあったその影の接近に気付くことなく無防備に扉の隙間から顔を覗かせたままでいた。  膝を立て扉に手をついた状態で覗いていた私は足指で床を踏んるような態勢を取っていため、足裏を伸ばした形で晒していた。それを見たであろうその影は……靴も履かずに来た私の素足を足裏を狙って手を伸ばし……挨拶をするかのように私の足裏をコチョコチョっと軽く指でくすぐってきた。 「うひゃああぁぁっっ!? な、な、何ッ!!?」  突然不意を突くように襲った足裏へのおぞましい刺激に私は思わず声を上げ飛び上がる様に後ろを振り返った。  振り返った先には……私の足に手を伸ばす仕草を取ったままにこやかに笑う佳苗さんの姿が目に入る。  私はその瞬間心の中で『ヤバイ!』と叫び声を上げ、この状況に言い訳の言葉を探し始めた。  しかし佳苗さんは慌てる私の姿を見てクスリと笑みを零し、足裏をくすぐった手とは逆の手を伸ばし私の口に何かを押し当てた。  白くて柔らかい布の様な物……それが私の口に当てられ、驚いて鼻で息を吸い込もうとすると……今度は鼻腔の奥に甘くて痺れる匂いが体内に入ってくる。  その匂いは、私の身体を巡るとすぐさま私から思考能力と運動能力を奪い意識を途切れさせようと作用し始める。 「あれほどこの部屋は見てはいけないと警告しましたのに……やはり貴女も覗いてしまったのですねぇ?」  もはや自分の力では立っていられない程に力が抜けきった私の身体を、佳苗さんは両手で抱え持ちながら朦朧となっている私に言葉を掛ける。 「今晩から……忙しくなりそうですね♥ こんなにも可愛らしい女の子たちが……お嬢様のお相手になって下さるんですから……」  言葉を零しつつ私の身体を抱えながら佳苗さんは、来た道を戻らず私が覗いていた部屋の中へと入っていく。  そして……私が意識を失う前に彼女は最後にこの様に告げ私の身体をベッドの上へと移し替えた。 「知ってしまった以上……今日から貴女はお嬢様の調教を受けて頂きます♥ 貴女が心の底からこの調教を受け入れた時……改めて私達の仲間として向かい入れたいと思いますので……頑張ってご自分の性癖が曲がってくれるよう祈って下さいね? フフフ♥」  その言葉を聞き終えたと同時に……私は深い眠りについた。  とはいえ……数分の後にまた目を覚ます事となるのだけど……  残念な事に……  目覚めた時……  この出来事が夢ではなかった事を……すぐに思い知らされる事となるのだった。

Comments

ありがとうございますm(_ _)m 他の作品と並行してぼちぼち書いていく予定なので気長にお待ちくださいませ。

ハルカナ

チャプター3めちゃくちゃ楽しみにしてます!!

toshi0325monst


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