NokiMo
ハルカナ
ハルカナ

fanbox


ショーダウン(リメイク)㉗

27:そして……雨が晴れる様に幕は閉じていく  その日は……1年前のあの日と同様に激しい雨が夜の摩天楼を包んでいた。 「それでは、ここからの時間は皆さんお待ちかね! 本日のメインマジカリストである“AYANA”のお二人にご登場して頂きましょう!」  外で降りしきる雨と雷の轟音に負けず劣らず、とある建物のとあるフロアでは威勢のいい紹介アナウンスと共に、派手な光と煙が立ち上る中、舞踏会にて付けるような蝶を模した目元を隠すマスクを付けた身長差のある二人の女性が颯爽とその舞台に現われた。 「皆様に置かれましてはもはや説明不要の超人気イリュージョニストであるAYAとNATU! この“マジカルONステージ”が始まって以来不動の人気ナンバーワンを取り続けている彼女達! 今宵も皆様を夢か現か判断できない不思議な世界に連れて行って下さる事必至です! 顔を下や横に向けていてはいけません! どうぞ最後まで、彼女達のイリュージョンをその目に焼き付けていってくださいませっ!」  身体のラインが際どく映る布面積の小さい衣装を身に纏うスタイル抜群のメインイリュージョニストAYAと、そんな彼女の真逆を行くようにスレンダーな身体をよりスレンダーに見せるスーツを纏って彼女のイリュージョンの助手的な役割をこなすNATU。  彼女達のイリュージョンは……“娯楽ステーションホテル『JOY・CUPSULE』”の設立以来常に人気ナンバーワンの地位を守り続けるという快挙を成し遂げ、客の中には彼女達のショーを見る為だけにホテルの予約を数か月先まで埋めるという熱心なファンも現れ始めていた。  マジックショーやイリュージョンを専門に行うフロアである“マジカルONステージ”は、メインステージステージを囲む様に客席が円状に設置された円形闘技場の様な作りになっており、イリュージョニストやマジシャンの見事な技法を前後左右どのような角度からも見られるよう設計されてある。それ故、同業のマジシャンたちからは“世界一マジックのやり辛いステージ”だと称され、並のマジシャンではそのステージの予選にすら入る事も出来ないくらい敷居の高いステージであると認識されている。  全ての方角から客の厳しい視線が浴びせられ、少しでも隙のある手品やイリュージョンを行えばすぐにSNSなどで拡散されてしまう程の厳しいステージ……それがマジカルONステージというフロアなのだが、AYAとNATUはそのようなプレッシャーを毛ほども感じさない堂々としたショーの数々を行って客達を魅了していった。 「フフ……。彼女達……緊張のキの字も感じさせませんわね♥」  そんな二人のショーを観客席の一角で見届けている人間が3人……  一人は、AYAとNATUとも縁の深い彼女……縦ロール金髪のお嬢様風保険調査員の麗華。その隣には、相変わらず周りの空気に合わせようともしないで携帯ゲーム機をガチャガチャ言わせながらショーを片目に見ている子供の様な容姿を持つ鈴音……。 「いや……実際、あいつらはスゲェよ……。こんなどの角度からも客に見られるステージで自分たちのマジックを完璧に成功させちまうんだから……」  更に麗華から見て鈴音の反対側に座して腕を組みながら返答を零しているのは、あの時と同じグレーのスーツを着たこのホテルオーナーであり設立者である結城。  3人はまるで同窓会でも開くかのように彼女達のショーを眺めつつポツリポツリと会話を交わしていた。 「“どうせ作るなら今までにないハイレベルなマジックショーを行える舞台を作りたい……”そのように仰って本当に作ってしまったのは貴方ではありませんか? 背後からも手品の様子を見られるようにするなんて……マジシャン泣かせもいいとこですわよ?」  グレーのスーツに負けずあの時の衣装を心がけたと言わんばかりの派手で真っ赤なドレスを着こんだ麗華は、ご自慢のファー付き扇子を華麗に広げ口元を隠す仕草を取る。 「でもそのお陰でこの“マジカルONステージ”は、施設内人気ナンバーワンだ。特にあいつらのイリュージョンはプロのマジシャン達も唸るくらいのクオリティで、彼らがワザワザ演者の背後を取れる席を予約して彼女達のタネを明かそうと必死になるくらいなんだぜ?」  鈴音はステージに立つ二人の煌びやかな振る舞いを見て、フン! と不機嫌そうな息を吐くが、彼女達の大掛かりなイリュージョンが進行していくと思わずゲーム機から目を離しってしまい、アクションゲームの主人公を不慮の事故に合わせる回数が増え始めてしまう。 「それは良かったですわね♥ このホテルも軌道に乗ってきたようですし……彼女達のショーが注目されていると分かると、彼女達をお願いした私も鼻が高いですわ♪」  麗華はそのように呟くと、扇子をパタンと閉じ相変わらずのワザとらしいお嬢様笑いを彼に返す。  それを聞いた結城はハァと力の抜けた息を吐き、昔の事を思い返す様にピントの合わない遠い目でショーを眺めながらを“あの時”の出来事をゆっくり語り出した。 「いや……まさか……俺に対する願いってのが……こいつらの為のショーを作ってくれないか? っていう内容だったとは思いもよらなかったぞ。俺はてっきり……自分たちの“仕置きショーを行えるフロアを作って欲しい”とか言い出すんじゃないかって……ドキドキしてたぜ……」  あの時……仕置きが終わるまで結城を残していた理由……それは、自分の為の願いを叶えたいという想いも多少なりにはあったがそれだけの為に彼を残したわけではなかった。とある人物と約束した事を守るために残って貰ったという理由の方が大きい。  そのとある人物というのは夏姫……  夏姫と交わした約束…… “仕置きが終わっても綾香を守る為に動いて欲しい”と願い出た彼女との約束を果たす一つの策として、結城にあの場に残って貰い……この、マジックショーフロアの提案を行ったのだった。  ホテルのフロアを作り変え総合娯楽施設へと転身させようとしていた結城のプロジェクトに目を付けた麗華は、夏姫に言われるまでもなく“あの一件”を最後まで解決するとなればそうする事が最初の一歩になると考えていた。  綾香は確かにディーラーとなったその日から不正を行っていた。その不正によって被害を受けた客達も大勢いる事だろう。その罪は消えない……彼女がディーラーをやめても……その罪は消えずに残るのだ。  しかし、元を辿れば……彼女が不正に手を出すことになった原因は彼女の過去に大きく関係している。  駆け出しのマジシャンをやっていた頃の彼女に訪れた不運……。その不運こそが彼女の人生を不正の道に曲げてしまった犯人であり元凶でもある。  もしあの時……あのような不運が彼女を襲わなかったら……  ちゃんとしたマジシャンとして活躍出来ていたなら……  きっと不正などに手を出さず真っ当な人生を送れていたに違いない。マジシャンとしての輝かしい未来が約束されていたに違いない……麗華は彼女の過去を調べた際にそのように思い至っていた。  だから、彼女にはやり直す機会を与えてあげたい。彼女が本当の意味で輝ける舞台に立たせてあげたい……。  そういった思いがあったが故、結城という社長に声をかけ……彼に不正暴露の協力を仰ぎ……彼の弱みさえもチラつかせながらも綾香の為の舞台を作ってくれるよう頼み出た。  一介の保険調査員である彼女がなぜそこまで他人の女性に手を尽くすのか? 誰しもがそう思うかもしれないが、彼女にも綾香に似た悲惨な過去があり今に至っている。  保険会社の社長である父と小学校の教師を行っていた母に何不自由なく育てられた麗華。将来は母親の様に学校の先生になる事を目標を掲げて日々懸命に学生生活を営んでいた彼女だったが……彼女が中学生になったある日……父親の経営していた保険会社が大掛かりな保険詐欺にあい倒産に追い込まれ……会社を潰された父はその後自殺……女手一つで麗華を育てる事となった母は、のちに病に伏す事となり麗華を残して病死……。  まだ義務教育すらも卒業していなかった彼女は父を亡くして僅か2年で天涯孤独の身となってしまう。  親戚は彼女の受け入れを拒否……このままでは施設に送られるかもしれないと判断されかけた時に声を掛けてくれたのが、今彼女が所属しているエレメンタル保険会社の社長だった。  大手として数えられていた父の保険会社とは子会社という関係ではあったが、父の王道的な保険会社とは違い様々な特殊な保険を扱う会社として麗華の父もその会社と親しくやっていた。  社長どうしで個人的に頻繁に飲みに行くほど仲が良く、麗華にも親しく接してくれていた。  そんな彼が彼女の身元引受人となってくれたおかげで、彼女は保険の道へと歩み出す事となる。  自分の身を引き受けてくれて育ててくれた恩を返したい……という想いも彼女にはあったが、本心は“あの事件”への切なる思いが先行し保険調査員としての道を歩む決心をした。  父の会社を襲った大規模な保険詐欺事件……  アレによって会社を潰しても払いきれない程の返済金請求を受けた彼女の父は……自分の身に生命保険をかけ……自殺した。  しかし……当時保険の事など知りもしなかった麗華でさえも“自殺では保険はおりない”という事実は知り得ていた。  父は必死に事故を装って自殺をしようと試みていたようだが……結局この件は自殺だと片付けられ保険もおりず……ただただ悲しみと虚しさだけが麗華には残される事となった。  保険金詐欺で会社を潰された父が……今度は自分が保険金詐欺を誘発するかのような行いで自殺し……結局命だけが儚く失われていった……  当時の麗華にとって……この出来事は何一つ理解出来ず……何一つ納得できない出来事だとして心の奥底に呪いの様に染み着いた。  そのような過去があったからこそ、彼女の徹底した調査至上主義な性格は構築されたし……特に詐欺……保険に対する詐欺行為には細心の注意を払って行動するよう努めてきた。  だから綾香の調査を行った際……彼女に並々ならない親近感を覚えたのは言うまでもない。  麗華にとっては敵となるだけの存在だったはずの綾香……。しかし彼女の不正を誘発した事件の悲惨さは麗華にとっても心の棘に引っ掛かって同情を禁じ得ない思いを込み上げさせた。  しかし……麗華は保険調査員であって……どこぞの聖人でも慈善事業家でもない。同情をしたからと言って毎度そのような人間が現れたら同じように同情していてはキリがない。  だからこそ彼女も決別したかった。  自分のそのような過去の引っ掛かりとも……その件によって同情してしまう弱さも……この一件限りで決別してしまいたかった。  保険調査員としてやっていくには……その様な非情さも身につけなくてはならないとやってはいけないと分かっていたから。  決別するタイミングを作るにはこの保険が正式に世に出る前でなくてはならなかった。保険が本採用した後は自分も……正規の保険調査員として雇用される事となるのでこのような勝手な行いなど考える事も許されなくなる……。  自分も……過去と決別したかった……。その想いが綾香の過去と重なり、麗華に此度の行動を起こさせた。  今後は顔色一つ変えずに事件を公平に調査する調査員にならなくてはならない……その為の儀式の一つだ……と、麗華はそのように今回の件を納得させた。  綾香の為だけではない……  夏姫の約束を果たす為という訳でもない……  自分の過去と自分の甘さから決別する為の儀式……その様に思い込ませ、鉄の意志で結城を説得した。  綾香の……止まっていた人生の時間を、再び動かしてあげる事こそが自分の次の人生の時間も進むはずだと信じて……。 「貴方にはご迷惑をかけましたし……あの時は弱みをチラつかせて脅すような真似をしてまで綾香さんを任せてしまって……申し訳ないと思っておりますわ」 「なんだ今更? 柄にもねぇな……」 「いえ、今更だからこそ……しっかりと謝っておきたいと思っていますの。だって……もうこのような機会は……作ることは出来ませんから……」 「いいって事よ。あの時はこのホテルに何を詰め込むか思案する段階だったんだ……逆に案を出してくれて感謝してるくらいだぜ? ほら……こんなに大盛況だしよ♪」 「それは結城社長の手腕の賜物でしょう? 流石……やり手は違いますわね……」 「よせよ、気色悪い。お前が素直に人を褒めるってのは何か裏が有りそうで怖いんだ……」 「んまっ! 相変わらず失礼極まりありませんわね!」 「感謝で言えば……あのカジノの情報を細かく教えてくれた事にも感謝してもし切れないんだぜ?」 「あのカジノ?」 「綾香たちが務めていたあの極悪カジノ……あそこの事さ……。あのカジノのせいで母体のホテルにまであらぬ噂が立てらる所だったんだ……それを未然に防げて本当に助かった!」 「あぁ! そういえば、そのカジノの事も聞こうと思っていましたの! 今……あのカジノはどのようになっていますの? 良ければ教えて下さりませんか?」 「あのカジノは……俺が手を下すまでもなく勝手に経営不振によって潰れていったんだ……」 「やはり……潰れていましたか……。それは……あのオーナーの不正絡みが原因で?」 「いや、あの一件以来、俺が圧を掛けたおかげもあってかあのカジノは不正を行わなくなったらしいんだ。だからカジノもホテルの方も評判はあれ以上悪くはならなかったが……結局あのオーナーが普通の経営ってのに慣れていなかったのが原因で……金のやりくりが出来なくなって潰れたって報告を受けてるぜ?」 「不正によって経営を成り立たせていたが故に、それを封印してしまえば経営すらおぼつかなくなった……と、その様な感じですわね……彼らしい末路ですわ……」 「でも、俺が圧を掛ける前にそれ以上の圧をかけてたのはあんただったんだろ? あの件の綾香の扱いもほとんど触れられないくらいに小さい知らせに留まっていたし……オーナーも人が変わったかのように客達に愛想を振りまいてたし……別のカジノに来たみたいな感覚さえ覚えたぜ?」 「フフ……それはどうでしょうね? 私の力などちっぽけなものでしてよ?」 「フン! 良く言うぜ……」 「っで? そのカジノの跡地には……今は何が入っておりますの?」 「ん? あぁ……そこはまだテナントも何も入れてないんだ」 「何も入っていない? 空のままですか? 一等地に立ってるホテルなのに勿体ない」 「いや……あのホテルは今後うちの第二のJOY・CUPSULEとして改装を施すつもりだから、今は敢えて空けているんだ」 「んまぁ! もう第二弾を建設予定ですの!? それはまた手の早いことで……」 「波に乗っている時に次の大きな波を起こす! ってのが俺のもっとうなんでな♪ それに今度こそ、ここには入れられなかった“ストリップ劇場”を施設の中に入れたいと思っているんだ! カジノ跡地のでかいフロアに複数のダンスフロアを設置して様々な鑑賞が出来るよう工夫をするつもりだ! どうだ? いい考えだろ?」 「そういえば……その様な事仰ってましたわね……。その為に空けてらしたんですのね? そこ……」 「でもよぉ! 頭の固い役員共はストリップのロマンが分かってないんだよ! やれ風営法がなんだとか、設置には警察の許可が云々とか……入れないことを前提に俺の話を聞きやがるんだよ!」 「それはご愁傷様♥ 説得も大変ですわね……」 「もし入れることが出来たらあんたんトコのあの子! 智恵理とか言ったっけ? 彼女もストリッパーとしてどうだ? 彼女なら店のトップに居続けるくらい素晴らしいダンサーになると思うが……」 「冗談は寝てから言ってくださいまし!」 「えぇ~? 彼女良いんだけどなぁ~~? ほら見ろよ! あの司会っぷり! 保険屋にしておくのは勿体ないくらい可愛くてさぁ。スタイルは抜群だし、ちょっと無表情になる所もそそられるし……特にあの泣き黒子が無性に男たちの性欲を掻き立てちまうんだよなぁ~♥」 「彼女は私の大切な仲間ですの! そのような下衆な視線に囲まれるような場に置いて良いワケが有りませんわ! 今日だって……自分はもっと近くで彼女達の事が見たいと言うから……無理やりココの司会を演じてますけど……なんですの? アノ衣装! あんな際どいバニー衣装を着させて司会を行うんでしたら無理やりにでも止めてましたのに!」 「い、いや……アレは……彼女の自前の衣装だぞ? 普段はマジシャンたちより目立たない様に黒の地味なスーツ姿で司会をして貰ってるんだ……」 「えっ!? そ、そうなのですか? そ、それは失礼……」 「あぁ……あのさ……お嬢? 智恵理のやつ……アレ、絶対面白がって司会に入ってるわよ?」 「鈴音ちゃん? そ、そうなの?? そのようには……思わなかったのですが……」 「ほら見て? 智恵理の顔……。あいつらが司会が智恵理になってるって気付いてドギマギしてるのをいやらしい笑みを浮かべて眺めてるでしょ? あいつってばそういうとこは変わらずドSなのよ……」 「う、うぅ~~ん……そう言われてみれば……保険調査の時よりも生き生きしているような……」 「馬鹿馬鹿しい……。なんでお嬢も智恵理も敵だった奴のショーを見たがろうとするのよ! 私はこんなお子様向けのショーなんて興味ないって言ったのに……」 「えぇ~? その割にはさっきからゲーム機そっちのけでショーに夢中になっていませんこと?」 「むぐっ!? ち、違うわよ! 私はあいつらの粗を探しているだけっ! どうせタネが有るんだろうし……そういうのを見つけて掲示板に晒してやろうと思ってるだけよ!」 「っで? そのタネとやらは分かったのかしら?」 「……むぐぅ…………うぅ…………」 「フフフ……鈴音ちゃんも相変わらず、素直じゃありませんわね?」 「ちゃ、ちゃんって……呼ばないでよ! 子供じゃあるまいし……」 「はいはい♥」  様々な色鮮やかなイリュージョン……軽快なトーク……そしてAYAお得意のカードマジックなどを挟み、ショーはいよいよクライマックスの大掛かりなイリュージョンへと向かうための準備がスタッフの手によって進められていた。  煌々と照らされた複数のスポットライトが集まる赤いステージの上……そこには、どこかで見た事のあるような大きなY字型の台と人を拘束する為にあるであろう枷がその先端に取り付けられていた。 「それでは準備も整ったようですので、本日のAYAとNATUによる最後のイリュージョン! “拘束入れ替わりマジック”を行って貰おうと思います!」  智恵理のアナウンスがホール中に行き渡ったのを確認したAYAは、相棒であるNATUに靴を脱ぐよう指示をする。するとNATUはそれに従うように靴と靴下を脱ぎ裸足になり、拘束台のあの小さな足場に足を置いて自ら万歳の格好となり手と足の枷をスタッフに付けられていった。  スーツ姿に裸足という格好になり手足を拘束されたNATUは客席の正面に見える麗華たちの客席の方を見て口元を僅かにニヤつかせて見せ、AYAの進行を待った。。  そのニヤつきを見て首を縦に振って見せたAYAは、彼女も同じように口元をニヤつかせながら拘束台の上から大きな黒いシーツを被せ、NATUの足以外の身体全て隠れるようそのシーツで覆い隠してしまった。 「さて……皆さま! 靴を脱いで裸足になった彼女に今掛けられたこのシーツ……このシーツは特別な素材で出来ていまして、実は彼女の姿を異次元に飛ばしてしまう事が出来るようになってます!」   AYAがこのようにイリュージョンの語り文句である言葉をヘッドセットのマイクに入れ始めると、それに合わせてシーツが生きているかのように勝手に蠢き始め観客の目を驚かせた。  シーツの中には人間がちゃんと入っているかのように体のラインに沿って膨らみを見せているが、中がどのようになっているかは客側からは見ても分からない。  ただ……シーツからはみ出た足だけは変わらずにそこにあるので、NATUがそのシーツの中に居るのだろうなという想像をすることは出来る。  しかし、実は……そのシーツの中……その中に拘束されている筈の人物はすでにNATUではなかった。  NATUではない誰かがこのシーツの中に入っているのだが……消えてしまったNATUはその誰かと入れ替わる様に観客の席へと移り変わって、何食わぬ顔で隣の客に向かって言葉を述べ始めた。 「お久しぶりですね……麗華さん……」  その席とは……麗華のすぐ隣……鈴音が座っていたその席だった。 「わ、わっ!? な、夏姫さん!? い、いつの間にそこに??」  ついさっきまで話していた人物が完全に別人へと入れ替わっていた事に素の驚きを見せてしまう麗華だったが、NATUの人差し指が彼女の口に被さる事で声を上げてはいけない事を察し、その驚きを呑み込むことを余儀なくされた。 「ショーの途中なので少しだけですが……お姉さまに無理言ってここへ来させて貰いました♥」 「な、夏姫さん……貴女どうやって……」 「ちなみに、マジックのネタバラシをしにここに来た訳ではありませんよ? ちゃんとお礼を言えてなかったので……お姉さまに代わって私が参った次第です……」 「お、お礼??」 「あの時の……私との約束をちゃんと守って下さってありがとうございます。そして、お姉さまの身も案じてくださって……本当に感謝してもし切れません。お姉さまもちゃんとお礼を言いたいと言っておられましたが……ほら……お姉さまはああいう性格でしょ? だから……素直に会うことが出来ないみたいでして……」 「私が……来ることを知っていましたの?」 「知ってましたよ? そこの……結城社長がわざわざ教えてくれたんですから♥」 「んなっ!? ゆ、結城社長っ!?」 「ハハ……いや、いちお耳に挟ませておこうと思っただけだが……まさか、こんな会い方をしに来るとは……恐れ入ったよ……」 「どういう事ですの? これはマジックショーの演目中ですのよね?」 「お姉さまにはこの為だけに新しいイリュージョンを書き下ろして貰ったんです♥ ビックリしたでしょう? いきなり入れ替わったから♥」 「そ、そりゃ……ビックリもしますわよ……。でも……思ったよりも元気そうで……良かった……」 「お陰様で♥ 私とお姉さまは二人三脚で第二の人生を歩んでいけてます♥」 「そ、そう……それは良かったですわ。出来れば……あの時のやり過ぎてしまった仕置きの謝罪も綾香さんには直接しておきたかったのですが……」 「そういうの……麗華さんも苦手なんでしょ?」 「うぅ……まぁ……それは……そうですわね……」 「お姉さまも直接顔を突きあわせて謝られるのは恥ずかしいみたいで……ですから、あの時のお礼をこのイリュージョンには盛り込でやるって意気込んでました♥」 「あの時の……お礼?」 「お姉さま……ああ見えて結構根に持つタイプでして……♥」 「ど、どういう意味ですの??」 「ほら……私がこの席に来ているということは……分かるでしょ? あのシーツの中には今……誰が入っているのか……」 「…………ッっ!?」  NATUの促しでハッとなりステージに視線を移し直した麗華は、シーツの隙間からチラリと見えている素足がNATUのモノよりも小さくなっている事に気付き、彼女の言う“お礼”の意味を悟ってしまう。 「ちょ、ちょ、ちょっとっっ! 何なのこれっっ!! 誰よ私をこんなトコに拘束したのはッっ!! 前が見えないじゃないっっ! コレ外しなさいよぉォ!!」  先程までNATUの声を拾っていたヘッドホンには彼女ではない別の誰かの声を拾いスピーカー越しにその声が拡散される。それを聞いた観客達は誰の声が入っているのか分からず困惑を極める反応を皆が取りホールは今まで以上に喧騒を極める事となる。 「おやおや? これはNATUの声ではありませんねぇ? 一体誰の声なのでしょうか……?」  不敵に笑みを浮かべるAYAは拘束台ごと掛けられたシーツを勢いよく剥ぎ取り、その声の主が誰であるのかを観客達の目に晒してみせた。 「まぁ! 鈴音ちゃんがステージにっ!?」  その姿は先程隣で携帯ゲームに耽っていた筈の鈴音その人だった。それを見た麗華は再び素の驚きを露わにし「なんで、なんで?」とNATUにそのタネを聞こうと縋り寄った。 「フフフ……久しぶりね……鈴音“ちゃん”……元気にしてたかしら?」  マイクを切りそのように不敵に挨拶を交わすAYAに、なぜ自分がココに運ばれたのかを悟った鈴音は顔を引き攣らせAYAの顔を黙って睨み返した。 「あの時は……ほんっとうに……お世話になったわね! 今日はお礼も兼ねてその仕返しをさせて貰うから……覚悟してね?」  そのように告げるとAYAはマイクの電源を入れ直し観客にショーの続きを演出する言葉を述べ始める。 「さてさて、いつの間にか入れ替わったNATU! 彼女は一体どこへ行ったのでしょう? そしてこの子供の様な見た目の彼女は一体どこから来たのでしょう?」  AYAの煽りに反論を零そうと口を開く鈴音だったが、その口から言葉が出る前に再びあのシーツが被せられてしまった為に言葉の勢いが殺され結局反論できないままに再びシーツ暗がりに包まれる事を余儀なくされる。 「このまま普通にNATUを呼び戻しても構わないのですが……今回のショーは特別なので、いつもとは違った入れ替わりをお見せしたいと思います!」  そのように告げると綾香はポケットより一枚の白い鳥の羽根を取り出し…… 「NATUは特に足の裏をくすぐられる事に非常に弱いのですが……このお客様は如何でしょう? NATUと同じように……くすぐったがってくれますでしょうか?」  と、言葉を零してその場に膝を曲げてAYAは腰を屈めた。 「ちょ、ちょ、ちょっと!? な、何言ってんの??? くすぐりって何よ!? 何も聞いてないわよ!」  鈴音は手足を動かそうと藻掻こうとするが、手はいつの間にやら枷に繋がれ万歳の格好を……そして足は足首の所の枷によって台に固定する形で拘束されている事に気付き嫌な予感を走らせる。  NATUと同じように裸足に剥かれた鈴音の素足が目の前でジタバタと暴れるさまを見てAYAは満足げな笑みを零すと、手に持った羽根を何の躊躇もなく彼女の足裏に這わせコチョコチョとくすぐり始めた。 「ちょ~~~っほほほほほほほほほほ!! はにゃはははははははははははははははははは、にゃにすんのよぉぉぉほほほほほほほほほほほほほほほ!! うはははははははははははは、くすっ……くすぐったいぃぃひひひひひひひひひひひひひ、やめなさいよぉぉ!!」  くすぐりが始まると共に弾けるような笑いを吐き出し始める鈴音……。それを下から見ているAYAはさも満足げな笑みを浮かべ羽根のくすぐりを速めていく。 「だぁ~~っはははははははははははははははははは!! や、や、やめっっ!! ほんとにくすぐったいぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ、足はだめっっへへへへへへへへへ!! だめぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  シーツを波立たせる程の暴れっぷりを見せつつ笑い悶える鈴音に、観客の視線は釘付けとなり誰一人そのシーツの中の人物がNATUであろうとは思っていない。 「あはっっはははははは、ダヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! お願っっははははははははははははははは、わだじ、くすぐるのは得意だけどくすぐられるのはダメなのぉぉほほほほほほほほほほほほほほ!! んへへへへへへへへへへへへへへへ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、うはははははははははははははははははは!!」  右に左に上に下からナナメに至るまで、1年前の恨みを晴らすかのように彼女の逃げられない足裏を執拗に羽根先でくすぐり回すAYAは、彼女の笑い悶える様子を見てニンマリと笑みを浮かべなおす。  そして、満足いくまで彼女の笑い悶えを耳に収めると……今度はイリュージョンの続きに戻る事を示唆するように突然くすぐるのをやめ、姿勢を元の立姿勢へと戻していった。  シーツ越しからも聞こえる鈴音の息を切らした悶え声……その声を聞きつつ綾香は羽根をポケットへと仕舞いなおし、客席に向けて高々と人差し指を掲げカウントダウンをするように数字を三つ数え始めた。 「3……2……1……イリュージョン!」  カウントダウンを数え終わるや否や鈴音に被せてあったシーツを素早く捲り取ると……  そこには、麗華の隣に居た筈のNATUが先程と同じように手足を拘束された姿で見事に入れ替わっている様子が客たちの前に晒された。  今しがた話をしていた筈のNATUが今度は遠く離れたステージへと戻っている事に驚いた麗華は、彼女が座っていた筈の隣の席を素早く振り返るが……彼女の隣にはすでにNATUの姿はなく……代わりにぐったりと疲れ果てた姿の鈴音がだらしなく椅子に座らされている様子が目に入ってきた。 「以上! AYAとNATUの拘束入れ替わりマジックでした! ありがとうございましたぁ~!」  ステージには客席に向かって深々とお辞儀をするAYAとNATUの姿……  彼女達の挨拶が終わると、割れんばかりの拍手が観客達の手によって奏でられ……その拍手に見送られながら舞台を包む丸い円柱状のカーテンがステージには降りていった。  一体どのようにしてNATUと鈴音を入れ替わらせたのか……  麗華はもとより入れ替わった本人である鈴音にも理解が出来ていない。  その素晴らしい手際のイリュージョンを見て……麗華はキツネに摘ままれたような顔で口を引き攣らせ…… 「ハハ……全く。この様なものを見せられれば……そりゃあ……人気が出るに決まってますわ……」   と、言葉を零し、客達に続いて彼女自身もカーテンに包まれていく彼女達に惜しみない拍手を送った。  そして、ショーの幕が完全に下り切り……映画の見終わりの様にホールの照明が点けられショーの終わりを告げるアナウンスが流れ始めると、麗華はぐったりと項垂れた鈴音を背に負ぶってその場を後にした……  外に出ると……アレほど激しく打ち付けていた雨がいつのまにやら上がっており……夜の摩天楼に、風俗街のネオンにも負けない月明りが煌々と差し込んでいた。  麗華はそんな眩しいほど明るい月明かりを見ながら、呼びつけたタクシーに乗り「フゥ」と息を吐いて横たわる鈴音の姿を眺めた。  そして……そこはかとなく満足そうな笑みを浮かべて……次の目的地でもある一際電飾の明るい大きなホテルへとそのタクシーを向かわせるのだった。  その大きなホテルには……あの時同様……大きなカジノが併設されている。  麗華達はそのカジノへ次の依頼をこなす為に出向いていく……。  様々な賭博施設が乱立するこの巨大都市には無数の不正が今日も獲物を求めて牙を研いでいる。  その牙は……時に致命的な傷を客に負わせる事にもなる。  しかし、それが“牙”である以上……折る事さえ出来れば無力にする事も出来る。  不正の牙を折る事……それが麗華達に課せられた使命であり、役割である。  彼女達が居る限り……折られない牙などない……  今日も……彼女達は……飢えた牙を狩りに……夜の摩天楼へと繰り出していく……  絶え間なく生え変わっては鋭くなっていく……その牙をまた折る為に……  ショーダウンRe~暴かれた美人ディーラーの秘密~ ……完…。


Related Creators