ショーダウン(リメイク)⑭
Added 2021-11-02 13:51:39 +0000 UTC14:塗布 「フフ……意外だったでしょ? 見た目からしてくすぐったそうなこの爪……実はくすぐる為に用意したものではないのよ♥」 羽根でのくすぐりに過剰な笑いを搾り取られた綾香にとって、この極端に尖った形をした付け爪は想像を絶するほどのこそばゆさを生むに違いないと過度な想像を植え付けられたが……実際にそれで足裏を掻かれると、くすぐったさよりももっと別の感覚が足裏を襲った。 「い、痛っ!! ちょ、痛いっっ!!」 てっきりこの爪で足裏の神経を優しく撫で上げておぞましい程のこそばゆさを与えて来るだろうと想像していた綾香だったが、鈴音の手はその想像通りには動かなかった。 くすぐっているというよりもむしろ強く引っ掻いていると表現する方が正しい…… 例えるなら、痒くなった箇所を必死に引っ掻いているかのような力強さで足裏の皮膚を引っ掻いている。 樹脂で作られている為ある程度柔軟性はある方だが爪の先端はしっかりと尖っている為、そのような引っ掻き方をすればくすぐったさよりも先に痛みを発するのは誰が見ても明らかだ。しかし鈴音はくすぐったさとは逆の反応をしている綾香の様子を見ても強く引っ掻く動きを止めず、足裏全体が爪で引っ掻いた赤い線で一杯になるよう様々な角度で引っ掻きを加えていった。 「な、何がしたいのよッっ!! こんなのくすぐりでも何でもないじゃないっ!! まさか、私の事くすぐりで屈服できないと悟って暴力で屈服させようって思っているんじゃないでしょうね?」 左右の足裏全体に爪の跡が残るくらいまで引っ掻き回した鈴音は、赤い線が沢山引かれた綾香の足裏を見てニンマリと笑みを零す。そして足裏は終わりだと言わんばかりにその場に立ち上がって、今度は綾香の背後へ回り込んで背の高さを嵩増しするための台座に足を掛ける。 「安心して? ちゃんとこれからくすぐってあげるから♥ でも、本番を始める前にこれだけはやっておかなくちゃならないから……ちょっと痛いかもしれないけどもう少し我慢して頂戴ね?」 台座によって高さを得た鈴音はそのまま綾香の腕の付け根に向けて爪を付けた両手を移動させ、彼女の腋の部位にその爪先が当たるよう手を添えてそのように言葉を零した。 そして、綾香の返事を待たず爪先を綾香の腕の付け根の柔皮膚に突き立てると、足裏と同じようにある程度の力を込めて一気に脇の下までのラインを引っ掻いてみせた。 「はひっっっ!? い、痛いっっ!! そのなぞり方痛いんだってばっっ!!」 腋の箇所であれば痛みよりもくすぐったさが勝るのでは? と僅かに警戒した綾香だったが、その爪の引っ掻きから送り込まれる刺激はやはりくすぐったさよりも痛みの方が遥かに強かった。 くすぐりとは真逆の鋭い痛みが綾香を襲う。 その痛みは我慢できない程の痛みという訳ではないが、尖った爪で強く掻かれればその掻かれた部位はヒリヒリと熱を持つような鋭い痛みを綾香に与える。 なぜ突然鈴音はこのようなくすぐりとは関係のない刺激を足裏や腋の部位に施そうと思ったのか? なぜ、その爪で普通にくすぐらなかったのか? 綾香にとっては不可解極まりない彼女の行動だが、しかし鈴音はこれで手順通りの行動を行っているのだ。 彼女にとってはこの痛みを伴う引っ掻きこそが次のくすぐりの下準備となる。それを証明するように鈴音はようやくこの不可解な引っ掻きの本当の理由を綾香に明かし始めるのだった。 「どう? 引っ掻かれた箇所……痛く感じるでしょ?」 「ッっ!? い、痛いに決まってるでしょ! 見なさいよコレ! 引っ掻いた箇所が赤く腫れちゃってるじゃないっ!!」 足裏同様ワキから脇の下にかけてのラインにも爪が引っ掻いた箇所は全て肌が赤みを発し、彼女が何処を掻いていったのか一目で分かる程に跡が浮き上がって見えてしまっていた。 「でも……ちょっと違和感的なもの……感じない? ほら……特に……さっき引っ掻いた足裏の方なんて……今はどう感じる?」 ワキの引っ掻きを終えた鈴音は、綾香の体側部から手をゆっくりと引いていき両足でジャンプするように台座から飛び降り子供の様な振る舞いで床に着地した。 そして道具が置かれたテーブルの方へと綾香に背を向けながら歩んでいき、手に装着していた付け爪を丁寧に外していく。 「ど、どう感じるって……まだ痛むに決まってるでしょ! あんたの引っ掻き方が強すぎて、今も掻かれたところがヒリヒリしてんのよ!」 「まだ……ヒリヒリしてる? そう感じてるんだ……? ふぅ~ん」 「な、なによ? 何が言いたいわけ?」 「いや……ほら……足裏の方を引っ掻いたのって腋の方より前じゃない?」 「そんなの当たり前じゃない! 今更それが何よ! ホント何なの? その含んだような言い方……いい加減ムカついてくるわ!」 「あらごめんなさい? 私ってばこういう含ませて喋るのが癖なの♥ 許して頂戴ね?」 「い、いいからハッキリ言いなさいよ! 何が言いたいの?」 「だ~か~ら~♥ おかしいと思わない? 時間を置いたハズの足裏の痛みが……まだ続いているっていうのは……♥」 「ッっ!? な、なんですって?」 綾香は鈴音に指摘されハッとなり改めて足裏に意識を向けなおす。 確かに……まだヒリヒリする感覚が感じられている。しかも、掻かれた全ての箇所が鮮明に思い出されるほど、全ての掻き跡の痛みを未だ感じられている。 意識はしていなかったが……改めて考えるとこれは異常な事態だと思える。 鈴音の引っ掻きはある程度強くはあったが……そこそこの時間は経ったのだから痛みや掻かれた感触が静まっていてもおかしくはない。なのに、数分経ったはずの足裏の引っ掻きを未だ引っ掻かれた直後のように感じてしまうのはおかしい。 普通なら触られた感触などすぐに忘れてワキを触られた不快感の方に意識が向くはずなのに……意識をすればするほど足裏がまだ引っ掻きが続いているかのようにヒリヒリと火傷したかのような熱い痛みを感じてしまう。 これはどういう事なのか? 自分の足裏はなぜこんな継続的な刺激を感じ続けてしまっているのか? 綾香は困惑しながらも徐々に嫌な予感という名の重い不安を胸の奥に募らせていった。 「あんたは“まだ痛みを感じてる”って言ってるけど……本当にそう感じてる? 実はちょっと違うように感じてるんじゃない? 例えばそう……“さっき引っ掻かれて痛かった記憶が蘇ってきてしまう”……とか言う表現の方がしっくりくるんじゃない?」 鈴音に指摘され綾香はドキリとしてしまう。 彼女の言った例え……それがまさにその通りだったのだ。 最初の“痛い”と思った記憶が強烈すぎて綾香は足裏がまだ痛みを発していると勘違いをしていた。痛みなどとうの昔に消え失せ、別の感覚が足裏を包んでいたのに……綾香は“まだヒリヒリ痛む”と本能が防衛反応的に思い込ませてその感覚を意識しないよう自分を騙すよう振る舞っていた。 しかし鈴音に指摘された事をきっかけにその自分を胡麻化そうとしていた意識は崩れてしまった。自分を騙してまで“痛い”フリをしていたその足裏は……彼女の言葉によって本来の感覚を綾香に与え始める。 「あっ……がっ……はっ!? な、な、何これ? なんか……足の裏が……熱くて……ムズムズ……する?」 強く引っ掻かれた事によって出来た無数の赤い引っ掻き跡……その全ての引っ掻き跡が鈴音の言葉の直後に一斉に泡立つようにムズ痒さを発し始めた。 「あひっ!? ちょっっ! やだ!! 引っ掻かれた跡が熱を発してる!? なに? 何なの? 何が起きてんの??」 強烈な炭酸を傷口に塗って染み込ませたかのような揮発感のある泡立ちを足裏に感じた綾香だが、足裏の見た目はほとんど変化はない。ただ……鈴音に掻かれた跡がさっきよりも赤みを増したかな? という程度の微差はあれど、彼女が体感しているような熱を発するような何かがある訳でもなし、ましてや肌が泡立っているような感覚を証明するような出来事は足裏では起きていないのだ。 「どうやら効いてきたみたいね? 反応が薄かったからちゃんと塗れてないのかと思っちゃったわ♥」 綾香の反応を見てそのように零した鈴音。それを聞いた綾香はこの異変の原因が彼女の行った何かに起因しているという事に気付く。 「塗ったってどういう事!? 何か……塗ったの? 私の足に……」 そこまで言葉を発すると綾香は鈴音の付けていたあの樹脂製の爪に視線を移す。 するとさっきまでは意識もしていなかったその爪に、何かしらの仕掛けがあったことを示す証拠が付着していた事に気付かされる。 「そ、その付け爪っ! 先端が濡れているように見えるけど……まさか!」 「アハ♥ 分かっちゃった? そう……あんたの想像通り……この爪にはとある仕掛けが施されてあったのよ♥」 「し、仕掛け!?」 「この付け爪のそれぞれの爪の先端部分には目には見えない程小さな穴が開いててね……力を込めてこの爪で引っ掻く動作をしたら爪の中に仕込んであった薬液が適量染み出す様に細工されてあるの♥ 丁度……子供の時に使った“液状のり”のような仕組みだって説明した方が分かり易いかしら? ほら……アレって、ボディ部分を押し込んだらのりが出るでしょ? そういう感じで引っ掻いたら出て来るタイプの塗布具だと思って貰ったらいいわ♥」」 「薬液? 塗布具?? な、な、何を言ってんの? こ、この塗ったやつって……何なの? 危険な薬とか……まさか毒とかじゃないでしょうね!?」 「大丈夫♪ 効果が切れれば身体に害はないわ。副作用とかもないから安心して? それに……これは危険な薬物とかではないから法に触れるようなモノでもないの♥ ただ……」 「た、ただ……なによ!」 「これから二時間くらいはその足に靴とか履かない方がいいと思うわ♥ きっと靴を履こうとするだけで悲鳴を上げて悶絶する事になると思うから……。まぁ、こういう風に拘束されてるあんたには警告するだけ無駄ではあるんだけどね? そういうこと出来ないし……」 「く、靴を履くだけで悶絶する? わ、私が? それはどういう意味?」 「え? どういう意味って……そのままの意味だけど? 多分今なら……自分で触っても笑っちゃうんじゃないかしら? あまりにも刺激が強すぎて……」 「だ、だからっ! その……塗った薬って何なのよ! 私の足に何を塗ったのっ!!」 「なぁ~に? まだ分かんないの? 案外……鈍感なのね?」 「う、うっさい! いいから答えなさい! 何を塗ったのっ!!」 「本当は薄々気付いているんでしょ? この薬の……効果♥」 「し、知らないわよ! 分かる訳ないでしょ!」 「じゃあ……複雑な事は無しに……簡単に……ごく簡単にその効果を教えてあげる……」 「う、うぅ……」 「この薬はね?」 「…………くっ……」 「あんたみたいに鈍感な女でも……塗られた所を触られれば……」 「うぐっ! うぅぅっっ……」 「たちまちに飛び跳ねて悶え始めてしまうくらい強力な……」 「ッっ!!?」 「神経を敏感にしちゃう……オ・ク・ス・リ・よ♥」 「はひっっ!!?」 焦らすような鈴音の物言いに綾香は思わず声を上げて身を震わせてしまった。 彼女が言ったように……綾香もこの薬がどういう類のものなのか薄々は勘づいていた。 熱を持っている感覚はあるのに空気が少しでも揺らげばその動きにおぞましい程の寒気を感じて思わず身震いしてしまったり、未だ赤く線が引かれた引っ掻き跡が痛いような熱いような痒いような……よくわからない感触を発し続けジッとしてなどいられない不快感を常に感じてしまっている。 寒気を感じたり熱さを感じたり痛みを感じたり……観客の発する声にさえ神経が振るわされているような感覚を意識してしまい、胸の奥がザワつきすぎて落ち着かない。 こんな状態で鈴音にさっきのようにくすぐられでもしたら、一体どれほどの狂おしい刺激を受ける事になるのか想像すらできない。 意識を足に向けるだけですでに笑いが込み上げてきてしまう。 触られた瞬間の刺激を想像してしまい、喉の奥が笑っているかのように勝手にヒクヒクと軽い痙攣を起こしていく。 きっと……鈴音の言った言葉に嘘はない。 神経の脈動すらも感じてしまう程肌の感覚が鋭敏になっているのを自分でも感じている。 あの爪はこれを塗る為の道具に過ぎなかったのだ。 綾香の肌を敏感にする為の…… これからのくすぐりをより効果的に行うための下準備のための道具だったのだ…… 「ちなみに……痛みを感じる程強く引っ掻いたのにも理由が有るのよ? まぁ、もう分るでしょ? 実際それを感じてるだろうし……」 鈴音の言わんとすることは最後まで聞かなくても理解できている。彼女がなぜ強く引っ掻いたのか……その理由も今しがた答えに行きついた所だ。 「強く引っ掻かれれば……そこはずっと意識に残り続けるでしょ? 特に……引っ掻かれた箇所が敏感にさせられたんだから尚更……」 鈴音の言葉に頷きを見せて同意の意志を彼女に伝える。彼女が言った言葉……その一言一句は綾香が感じていた感覚と相違ない。 「優しく撫でても薬液は出るけど……でも、それじゃあ足裏に満遍なく塗られるだけで“特別感”ってやつがないじゃない?」 今……綾香の足裏は鈴音の引っ掻いた跡が無数に残っているが、その一つ一つ全ての力加減や引っ掻くスピードまでリアルに思い起こせるほど脳裏に刺激が刻み込まれている。 痛いと感じた箇所だけは未だその痛みも思い起こせるし……その部位の神経が今どういう状態なのかも頭の中で想像できてしまう。 彼女の言う“特別感”と言うのはそういう事だろう。優しく薬液を塗られていたなら別段何処を触られても同じようにしか感じないかもしれないが、強く引っ掻かれればその部分だけは他の部分より強い刺激を受けたという記憶が残ってしまう。だから鮮明に覚えているし、その部位を“特別”触られたくない! とも思えてしまう。 「要は……痛みを加えることで、ココの部分は敏感になっているぞってマーキングしてあげたのよ♥ 犬が縄張りを主張するかのように……ココは敏感になってるから触られたらヤバいぞって身体に刻み込んでおしえてあげたの♥ 優しいでしょ? わ・た・し♥」 時間が経つほどにみるみる足裏の感覚が鋭敏になっていくのを感じる。 神経が足の皮膚と同化してしまっているかのように空気の揺らぎを敏感に感じ取ってしまう。 こんな感覚を感じた事は今までない。これほど足裏の感覚が鋭くなったことなどある筈もない。 だから戸惑ってしまう。どう対処すればいいか分からず……頭の中が混乱してしまう。 「あぁ、そういえば……勿論ワキにも塗ってあるから♪ そろそろそっちも敏感になってきた頃合いでしょ?」 鈴音の言葉にハッとなって綾香は思わず自分の腋を自分で見てしまう。 すると、今まで意識が足裏に向いていたおかげで感知せずに済んでいた体側部の感覚が今では足裏と同様に異常なほど敏感になっている事に気付かされる。 「はひっ!? あっっ、かっっ! わ、わ、ワキ!? ワキも……敏感にッっ!?」 コチラもワキを中心に脇の下までの引っ掻かれたラインが、痛いような痒いような寒いような熱いようなムズムズするようなくすぐったいような……という綾香自身もどういう感覚なのか判断できない多種多様な感覚が襲い、そこも敏感になり始めている事を彼女に無言で訴えかける。 綾香はその不快感を抑えたいととっさに腕を降ろそうとしてしまうが、手首に巻きついた枷が当然のように綾香のその行動を抑止する。動きを制限されている事を改めてそれによって思い知らされた綾香だったが、その僅かな動きをした事によってワキに風が当たりその刺激だけでも綾香は背筋を震わすほどの寒気を味わう羽目になった。 ただ腕を左右に振ろうとしただけなのに…… 綾香は風がワキに当たったと感じただろうが実際は僅かに空気が揺らいでその密度の差が感じられただけの事だった。普通なら感知すらできないであろうそんな些細な変化も今の綾香は敏感に感じられる。それを知ってしまった綾香は顔色を青黒く染め絶望を孕んだ目で鈴音を見る事となる。 「あらあら……どうしたの? 口を震えさせちゃって~♪ なんか怖い事でも……あったのかしら?」 ワザとらしく腋の近くでそのように言葉を零す鈴音。 彼女の吐いた息すらも綾香にとってはくすぐったい。 もう……どうしようもないくらい……くすぐったく感じてしまう。 「も、も、もう……やめて! こんな状態で……触られたら……私……」 「触られたら……どうなっちゃうのぉ~? こんな状態になったお姉ちゃんは……私のコレに触られたら……どうなっちゃうのかなぁ? クフフ♥」 鈴音は子供のように意地悪な笑みを浮かべて先程付け爪と入れ替わりで手に取った2本の“筆”を綾香の目の前にかざして見せつける。 「ひっ!? ま、ま、まさか、それ……使うつもりじゃ……ないわよね?」 先程智恵理が使っていた筆よりも一回り大きいその筆は、鈴音の手の動きに合わせて山型に生えそろった毛先をピョコピョコと動かしその柔軟性を綾香に見せつける。 「神経が敏感になる媚薬がどれほど強烈か……まずは足裏で試してあげる♥」 そのように言葉を零すと綾香の制止を聞こうともせず鈴音は再び床に胡坐を組んで座り込んだ。 そして両手に持った筆を彼女の嫌がる声を無視して足裏へ向かわせ、自分がさっき引っ掻いたあの付け爪の跡に向けて先端を近づけさせていった。 緊張するようにドクドクと脈打つ足裏の引っ掻き跡……そこに毛先の揺れる筆の先端が僅かに触れた瞬間、綾香はこれまでに上げた事ない絶叫をカジノホールに響き渡らせるのであった。