NokiMo
ハルカナ
ハルカナ

fanbox


ショーダウン(リメイク)⑫ー2

「ったく……最初から遊ばずにやれっての! これだからドSは……」  子供の手と揶揄されるくらいに小さな鈴音の手と比べて智恵理の手は一般的な大人の女性を示す様に細く長く美しい。彼女の着ている真っ赤なバニースーツに見劣りないようにとつけられたであろう真っ赤な爪のマニキュアが指の動きに合わせてクネクネと動く様を見せつけられると、もうそれだけで悪寒が走る程の気色悪さを感じてしまう。智恵理は客も綾香もそのように思うだろうと理解しているため、その手の動きをしっかり皆に見えるよう晒しながら近づけていく。 「折角……椿さんの我慢顔を堪能できると思っていたんですけどねぇ……。鈴音さんに“遊んでる”なんて思われるのは心外です。だから申し訳ありませんけど……少しだけ……本気、出しちゃいますね?」  ピアノを弾くかのように指をランダムに動かしながら綾香の足の甲へと手を進めていた智恵理だったが、手のお披露目を終えるとその手を逆手に構え直して綾香の足の裏側に素早く移動しくすぐりの態勢を整える。 「かはっっはっっはひひひひひひひひひひひひひひひ、くふっっふっっ! はひぃ、かひぃ! はぁはぁ……」  二人のそのような掛け合いが行われていた中、綾香は少しだけ動きが弱まった腋の刺激に僅かに慣れを感じようやく笑いの合間に呼吸を出来るタイミングを見つけることが出来た。綾香は二人のその様な掛け合いなど気にも留めずその呼吸出来るタイミングを逃すまいと口を大きく開け必死に酸素を取り込もうとしていた。  しかし智恵理はそのような必死な様子を胡坐をかいた姿勢で下から見上げ、綾香が酸素を取り込もうと口を開けた瞬間を狙い撃って彼女の足裏に全ての指を着地させた。 「はぁ、はぁ……は――かはっ!?」  土踏まずの窪みに降り立った智恵理の指先は肌に触れた瞬間から容赦のないくすぐりを開始する。 「ギャヒッっ!? あがはっッっ!!?」  土踏まずをモジョモジョっと軽くくすぐったかと思ったら、それ以後はその指をランダムに蠢かせながら足裏全体を駆け巡るかのように這い回らせていく。  その刺激たるや綾香の想像を遥かに凌いでしまい…… 「がひゃっっ!? ひぎゃっっはっっっ!!? アギャ~~~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、うはひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、あ、あ、あじぃぃひひひひひひひひひひ!! あじの裏ぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、くすぐったひひひひひひひひひひひひひひひ、ぅえっははははははははははははははははははははははははは!!」  折角慣れ始めたと思っていたくすぐりの刺激は足元から湧き上がってくる別次元のこそばゆさに塗りつぶされ、綾香は吸おうとしていた酸素を盛大に吐き出して再び大笑いの渦に巻き込まれる事となる。 「はぎゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、あじの裏ヤバイぃぃっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、指くすぐったいぃっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、ギャ~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、うははははははははははははははははははははははははははは、やめでっっへへへへへへへへへへへへへ!! 」  マニキュアが真っ赤に塗られた細硬い智恵理の爪の先が、無防備に晒された綾香の足裏の敏感な皮膚を容赦なく引っ掻き回していく。土踏まずだけではなく、カカトの周囲や足指の付け根……足の指の先までも満遍なく辿って刺激をばら撒いていく智恵理のくすぐりに綾香は足を地団太踏むかのように動かし抵抗しようと試みる。しかし、足首に巻かれた枷がその動きを抑制してしまい、結局綾香は足指をパタパタと上下に動かす事でしか自分の“抵抗したい意志”を智恵理に伝えることが出来ない。  そのような微々たる抵抗の動きを見て智恵理が綾香の真意を知る事など出来るはずもなく…… 「あはぁ♥ 鈴音さん見て下さいよぉ♪ 椿さんったら足の指をパタパタさせて喜んでくれてますよぉ? よっぽど嬉しいんだろうなぁ……私にくすぐられて……」  などと呑気な言葉を鈴音に送っている。 「フン! それを喜んでるなんて思うんだからドSだって言われんのよ……」 「んなっ!? 私をドSだって言ってるのは鈴音さんだけですよ! そんな皆から言われている風な言い方しないでいただきたいですね!」 「何言ってんの……言われてるわよ? あんたを知ってる人間は誰でも……」 「そ、そんなの嘘です! こんなに“おしとやか”で“虫も殺せない程の慈愛”を持ってる私なんですよ?」 「そう自分で思ってるところがまた……厄介この上ないわ……」 「むぅ! 何ですかその言い草ぁ!」 「それよりも……手を止めないで頂けますぅ? 興奮すると手を止めちゃうのはあんたの悪い癖よ……」 「っと! これは失礼……」  胡坐をかいた格好で綾香の足裏を縦横無尽にくすぐり回す智恵理と、ワキの筋をコリコリ揉み解す様に強くくすぐりを入れる鈴音のダブル攻撃に晒され、綾香は枷が千切れんばかりに力の限り腕を降ろしたり足を逃がしたりしようと抵抗する。しかし綾香の力でどうにかなる程枷は弱く出来てはおらず……彼女の“逃げたい”という願望を決して叶えさせないよう手と足を頑強に拘束台へと押さえつけ、くすぐりに弱い腋と足の裏を好きに触ってくすぐって下さいと言わんばかりに無抵抗に晒させる。 「あがっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、ちょ、ちょっっ、お腹痛いぃっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、笑い過ぎてお腹がっっははははははははははははははははははは、痛いぃぃ~~っひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「あらら……お腹痛くなってきちゃった? それは大変だわぁ~~♥ どこ? 何処が痛むの? ほら教えてみなさい?」 「はぎひひひひひひひひひひひひひひひ? ど、ど、何処ってへへへへへへへへへへへ、そんなの聞いてどうすんのよぉぉっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ、んははははははははははははははははははははははは!!」 「ほらほらぁ……教えて? 何処が痛むの?」 「し、知らないわよっっ!! 馬鹿じゃないのっほっほっほっほっほっほっほ、それよりもくすぐりを止めなさいって言ってんの! それくらいわかんでしょうがぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、くははははははははははは……」 「痛いトコが分からないのぉ? それはマズいわねぇ~~もしかしたらおっきな病気かも……」 「何が病気よぉ! 笑い過ぎてお腹痛いって言ってるだけでしょっっほっほっほっほっほ、ひははははははははははははははははははははは、ゲホゲホっ! はひぃはひぃ!!」 「咳まで出てるじゃない! これは早く原因を掴まないとっ!」  鈴音はそのようにとぼけながらも綾香の腋から手を放す。 「さっきから何言ってんの! はひぃはひぃぃっっっひっひっひっひっひっひっひっひ! だ、だからこれは笑い過ぎて……」 「ココ? この辺が痛む感じかしらぁ?」  放した手を今度は大きく下にさげ綾香の脇腹の部位に手を運んだ鈴音は、そのまま綾香の脇腹をガシッと両手で掴む仕草をしてみせた。 「あぎっ!? ぎゃひぃぃぃっっっ!!? わ、脇腹っっははははははははははははははははは、脇腹掴まないでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 「凄い悲鳴ね……きっとココが痛いのね?」  なおもとぼける演技を止めない鈴音はそのまま掴んだ脇腹を揉み解す様に少しずつ指に力を加え始める。 「ち、ち、違っっははははははははははははははははは、違っっっははははははははははははははははははははは、そこ触らないでぇぇへへへへへへへへへへへへへへ、ウヘヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、んはははははははははははははははは!!」 「あぁ……これはだいぶヤバいわね……すぐに手術して治してあげないとぉ♥」 「はひ、あひっ! ヤバいって何っっひひひひひひひひひひひひひ? 手術ってなんの事よぉぉっ!!」 「あんたってばどうやら“大笑い病”を患ってるみたいだわ。この病気は一度笑ったが最後死ぬまで笑い続けてしまうという恐ろしい病なの!」 「さっきから意味わかんないこと言うなぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、笑ってんのはくすぐられてるからに決まってんでしょうがぁぁはははははははははは、はひ、はひ、はひぃぃっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「一度発症したら死ぬまで治らないとされてるけど……あんたは運が良いわ♥ 私……この病気の治し方……知ってるの♪」 「は、は、話しを聞けぇっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへ、はひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「このピンと伸びきった脇腹のココ♥ この筋の部分を~~指で力強く揉み込んでマッサージしてあげれば……」 「ぎひっ!? ちょ、ちょ、ちょっっほっ!? 嘘でしょ!?」 「大笑い病の笑いなんか吹っ飛んじゃうくらいの笑いが吐き出されるはずだから……」 「ひっっ!? いひぃぃっっ!! だ、だ、だ、ダメっっへへへへへへ!! 指が……脇腹に食い込んで……っへへへへへへへへ……はひぃぃっ!?」 「笑い終わる頃にはすっかり治っている筈よ?」 「や、や、やめてへっっ! 意味わかんないし訳わかんないっっ!! 何が大笑い病よっ! ふざけないで!!」 「だからぁ~ふざけてないってばぁ♥ それよりも……暴れないでくれる? 治療がやり辛いから……」 「ち、治療なんてしなくていいっっひひひ!? しなくていいからっっ!!」 「ダメよぉ♥ ちゃんと治さないと……あんたってば“笑いながら死ぬ”事になっちゃうわ。そんな情けない死に方……イヤでしょ?」 「ッっっ!!? ひぎはっっ!!? ゆ、指がっはっはっはっはっはっは、食い込んだ指が動き始めたっっははははははははははははははははは、ひへへへへへへへへへへへへへへへへへ……」 「ココでしょ? ココがくすぐったく感じるでしょ? それが大笑い病の初期症状ってやつよ!」 「あがっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、も、揉まないでぇぇへへへへへへへへへへへへへ、脇腹っっははははははは、指先で揉まないでっっへへへへへへへへへへへへへ!!」 「ほら……分かる? この脇腹を走る筋肉の少し固い筋……ここに“コリ”が溜まってると症状が悪化してしまうのよ? だからこの“コリ”をこれから指圧して……解してあげるわね?」 「はひっ!? いひぃぃっっひぃぃ!? そんなもの溜まってないからぁっっ!! 今すぐやめてっっへへへへへへへ!!」 「問答無用よ♥ えいっ♪ モニョモニョモニョ~~♥♥」 「はぎゃっっはっ!? ひぎゃああぁぁぁぁあぁぁぁっっははははははははははははははははははははははははははははは、わ、ワ、脇腹やばひぃぃっっっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、くすぐったいぃぃひひひひひひひひひひひひひ、それ滅茶苦茶くすぐったいぃぃぃひっひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「まだくすぐったく感じる? だったらもっと力強く指圧しなくちゃ♥ ほれほれぇ♪」 「がひゃはっっはははははははははははははははははは、いぎゃぁぁあぁぁぁっっはははははははははははははははははははははははははははははははは、うはははははははははははははははははははははははや、やめっっへへへへへへへへへへへへへへへへへ、やめでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 「鈴音先生? この患者さんはどうやら“左の足裏”にも大笑い病を患ってらっしゃるみたいですよぉ?」 「あら! それは大変ね! 智恵理ナース? そっちの手術はあんたに任せるわ!」 「はぁ~い♥ お任せください先生ぇ~♪ 今から両手を合流させて集中的に治療を開始します♥」 「それはいい考えね……あんたの手だったら、さぞかしくすぐったく感じる……いや、高い治療効果を得られるでしょうね……」 「じゃあ……椿さん? いきますよぉ?」 「ゲホゲホゲホっ! ま、待って!! 待ってってばぁぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは……ちょっと待って!!」 「そ~れ♥ コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ~~♪」 「ぃぎゃあぁぁ~~~っっははははははははははははははははははははははははははは、あじの裏ぁぁぁっはははははははははははははははははははははははは、指がいっぱい触ってるぅぅふふふふふふふふふふふふ、っはっはははははははははははははははは、いぎぃっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、くははははははははははははははははははは!!」 「何よ……折角病院のロールプレイしようと思ってたのに……結局“コチョコチョ”なんて言っちゃってるじゃない……」 「ほらほらぁ! 土踏まずを集中引っ掻きの刑ですぅ♥ こちょこちょこちょ~~♥」 「ギャ~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、こそばいぃっっひっひひひひひひひひひひひひひひひ、足裏こそばいぃぃぃぃ!!」 「まったく……。でも……まぁ良いわ♥ じゃあ私も普通にくすぐっろっと♪ ほ~らもっと笑え~~!! コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ~♥♥」 「ビギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。うぎひぃぃっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ、えはははははははははははははははははははははははは、脇腹もダメぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、そこ弱いぃぃひひひひひひひひひひひひひ!!」 「う~~ん、左足飽きました♥ なので今度は右の足裏集中攻撃ぃ~~~♪ こしょこしょこしょこしょこしょ~♥♥」 「がはっっははははははははははははは、ハヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ、いへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、苦じいっっひひひひひひひひひひひひひひひひひ、笑うの苦じいぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひ!!」 「なぁに? もう飽きたの? だったら私も……脇の下にシフトチェンジぃ♥ ほ~れ、コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ~!!」 「ギャ~~~ッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、うわはははははははははははははははははははははは、ホント苦しいって! 苦しいって言ってんでしょう! 早く止めっっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ギヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 「こしょこしょ~♥ コショコショコショ~~♪ こしょこしょ~~♥」 「コ~チョ、コチョコチョコチョコチョコチョ~! コチョコチョ? コチョコチョコチョコチョコチョコチョ~~っっ!!」 「がはひゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、ひぎぃ、いひぃぃっっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、はひ、はひ! はひぃっっひひひひひひひひひひひひひひひ、うははははははははははははははははははははは、エヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」 「こちょこちょこちょこちょ! コチョコチョコチョ~♪」 「っっは!? ぷははははははははははははははははは、あひへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ、ふへははははははははははははははははははははははは……」  一体……何時間、このような仕打ちを受け続けたのだろう?  一体……いつまで、この地獄の様な苦しみを受けなくてはならないのだろう?  確か……罰の時間は15分だったと聞いていたが、明らかにそれ以上の時間を責められているように感じる。  15分という時間がこんなに長い筈がない。ブラックジャックの勝負で言えば丁度3回分くらいの時間である筈なのに……この酸欠を強いる“くすぐり責め”とやらは一向に終わる気配を見せない。むしろまだまだ続いていきそうな勢いさえ感じられる。  こんなに苦しんでいるのに……  こんなに身体の疲労が限界に達そうとしているのに……  誰も分かってくれない。責めている彼女達はもとより……観客の誰一人として自分の苦しみを分かってくれる様子を見せない。  それはそうだろう……笑っているのだから。  笑いながら苦しんでいるのだから……説得力がないという風に捉えられているのだろう……  それが悔しくて堪らない。  こんなに苦しい思いをしているのに……観客の誰一人としてその苦しみを理解出来ないでいるという現実が、悔しくて……辛くて……怒りの感情さえも生まれてきてしまう。  こんな子供騙しな行為で無様に笑わされている自分も腹立たしい。  子供みたいな彼女に煽られながら抵抗できないのが悔しくてならない。  手の枷さえなければこんな幼女……突き飛ばして泣くまで殴ってやる事も出来るのに……  足の枷さえなければこの裏切り者のバニーを蹴り倒してスパイとして潜り込んだことを後悔するくらい踏みつけてやれるのに……  それらは一切やらせてもらえない。  手は万歳の格好で……足の方は足裏を晒しながら足首の所で柱に固定されているのだから……そのような妄想を実現できる筈もない。  悔しい……  無様に笑わされているのが……とにかく悔しい!  悔しい! 悔しい! 悔しい……  綾香がそのように憎しみを心の内に溜めていると、そこでようやく罰の終了を告げるストップウォッチの電子音がスピーカーを通してカジノ全体に伝えられる。 「はぁ~い、そこまでですわ~♥ 二人とも……ひとまず手を止めて下さいまし~♪」  ストップウォッチを手に携えた麗華がそのようにマイクに声を被せると、智恵理は呑気に「はぁ~い♥」と零して手を止め、鈴音は「もう時間? ちょっと早すぎじゃない?」と不満げな声を零して渋々手を止める。 「かはっ! ゲホゲホっ! はぁはぁはぁ……はぁはぁ……」  二人の手が止まると綾香はガクリと頭を項垂れさせて、目尻に涙を溜めながら必死に周囲の酸素を取り込もうと必死に口を開けて荒い呼吸を繰り返す。  その顔は汗と涙……そして口の端から垂れている涎によって汚され、つい先ほどまで見せていた端麗な容姿はどこへ行ってしまったのかと思える程に歪み、苦悶の表情を浮かべながら疲労の色を伺わせていた。 「ウフフ……如何でしたか? 意外に……辛かったんじゃありません? この罰……」  物足りないという表情で舞台から降りていく鈴音と心から楽しんだという表情を浮かべて司会の立ち位置へと戻っていく智恵理……。彼女達と入れ替わりに舞台へと戻ってきた麗華は、綾香の疲れ切った表情を下から覗き込んでそのように煽りを入れる。 「はぁ……はぁ……はぁ……フ、フン! これが罰? 子供に子供っぽい事させたさせただけじゃない……。こんなの……ちゃんちゃら可笑しいわ……」  息を切らせながらもそのように強がりを見せる綾香の顔を見て麗華はニヤリと笑みを浮かべる。 「そのように言っているという事は……まだ反省はなさっていないご様子ですのね?」  麗華のしたり顔に睨みの目を向けて敵意を露わにする綾香は、その言葉にも当然のように食ってかかる。 「反省? 何の事よ? 私が何について反省しなくちゃいけない訳? 私はあんた達に本気で頭を下げようなんて微塵も思っていないわよ!」 「あらら……だったら、今までいかさまをした事もまだ認めないつもりなのかしら?」 「私がいつヤったって言うのよ? 日付は? 時間は? どの卓で誰を相手にしてどれくらいの金額を巻き上げたのか……そういうのをしっかりリストアップしてから言いなさいよ! でないと……認める訳にはいかないわ!」 「アハァ♥ 強情さんですのね♪ その強気な態度……ソソられますわぁ♥」 「う、うっさい! この変態……」 「確かに……証拠は何一つありませんわ♥ あるのは……さっきの勝負で勝ちとって見せたこの仕置きショーの時間だけ……」 「そうよ! 証拠なんてないわ! だから私は認めない! 認める訳には……いかないもの……」 「だとするなら……意地でもこのショーの時間で貴女を追い詰めないといけませんわね……。いかさまを認めたうえで正式な謝罪を皆さんに見せて貰わないといけませんし……」 「誰がするかっ! こんな私が笑うだけのショーなんていくらヤっても無駄よ! 私は絶対にあんたなんかに屈したりしないっ!!」 「そうですかぁ? でも……さっきは随分と苦しそうに“やめて~”なんて叫ばれていたみたいですけど……」 「うぐっ! あ、あれは……さ、作戦よ! そう言って本当に止めて貰えれば私が楽になれるし……苦しく見せた方が客の同情も誘えるでしょ?」 「へぇ~? じゃあさっきのは……演技だとでも?」 「あ、当たり前よ! この私が……本気で苦しんでいたとでも思ってたわけ?」 「フムフム……やっぱりそうでしたかぁ……」 「な、何よ! 何か言いたげね?」 「いえ……私も思ってたんですよぉ……」 「……何を?」 「こんな“お遊び”じゃ……貴女はきっと屈服してくれないだろうなぁ~って……」 「っッ!? お遊び?」 「えぇ……ほら、言ってあったでしょう? あれは本番前の“余興”だって……」 「よ、余興……」 「最初は綾香さんに知ってもらおうと思っていましてね……特別にこの時間を用意いたしましたの♥」 「知ってもらうって……何の事よ!」 「拘束されて逃げられない身体を好き勝手に“くすぐられる”と言う事が……どんなに辛い事なのか……を、ですよ♥」 「……ッっ!!?」 「知って頂けましたでしょう? 自分の意志とは関係なしに笑わされるという……辛さを……」 「くっ……」 「でも、余興は余興ですので……今のは全く本気ではありませんでしたのよ?」 「な、なんですって!?」 「だって……ずっと笑いっぱなしではなかったでしょう? 時々手を止めて休みを入れてあげていたのですから……」  「休みを入れてあげていたって……あれは……わざとそうさせていたって言うの?」 「そうですよぉ? だって余興なんですもの♥ あんまり本気でヤっちゃうと……綾香さんがすぐに参ってしまって面白くありませんもの」 「わ、私が……彼女のくすぐりなんかに参ると……本気で思ってる訳?」 「思っていますわ♥ だってその為の仕置きショーですもの♥」 「ふざけてる! 私がくすぐりなんかに屈服するはずがないでしょ! そんな子供騙しに……」 「ちなみに……さっきの余興では貴女にも時間制限をしっかり伝えてルール通りにやめて差し上げましたけど……ココからの本番では鈴音ちゃんに全て任せてしまうのでいつやめて貰えるかは分からなくなりますわよ?」 「なっっ!? なんですって?」 「流石に呼吸困難で死んで貰っては困りますので息を吸う位の猶予は与えて貰えるでしょうけど……それも鈴音ちゃんの気分次第だと思ってくださいまし♪ 彼女の機嫌を損ねたら……下手したら死ぬ寸前まで笑わされるかもしれませんよぉ?」 「くっ……そ、そんな事言って私を脅しても無駄よ! くすぐりがどういう刺激かはさっきので十分に分かったし……これくらいなら別に耐えられない訳でも――」 「あぁ、そうそう! これもちなみに……なのですがぁ~」 「……な、何よ?」 「鈴音ちゃん……さっきの余興ではほんの少ししか力は出していませんでしたのよ?」 「は……はぁ??」 「彼女……余興の時間を使って貴女の弱点を探っていたみたいですの♥」 「じゃ、弱……点?」 「何処をどんな風に触られれば笑ってしまうのか……それを部位ごとに調べていたから、あまり本気ではくすぐれなかったみたいでして……貴女も思ったでしょう? この程度なら……耐えられるって……」 「うっぐっ!?」 「弱点の分析が終わった鈴音ちゃんのくすぐりは……さっきのくすぐりとは別だと思った方が身の為でしてよ?」 「うぅっ!? くぅ……」 「さっきまでのが“思わず笑ってしまいそうになる刺激”だとするなら……これからは“笑わずにはいられなくなってしまう刺激”に変わる筈ですから♥」 「わ、笑わずには……いられなくなる?」 「そう……彼女のくすぐりはこれから純粋な“暴力”に変わりますわ♥」 「ぼ、暴力?」 「笑っても……笑っても……笑わされ続ける……強制笑わせの暴力……ですの♥」  そこまで麗華が脅しをかけると、舞台上に横に長いキャスター付きのテーブルを手で押しながら鈴音が再び綾香の前に姿を現した。  その姿を見て麗華はお役御免だと言わんばかりに静かに舞台を降り、手に持っていたマイクを持ち主であった智恵理の手に返してあげた。  マイクを手にした智恵理は再びあの張りの良い声をマイクに当ててこのように煽りを入れ始める。 「さぁさぁさぁ! 残念ながらゲームに負けた椿嬢は鈴音さんのくすぐりに無様に笑わされてしまう事となりましたが……今のお気持ちは如何ですか?」  マイクを向けられた綾香はプイと横を向いてその煽りに言葉を零そうとしない。  智恵理はそんな綾香の態度に眉ひとつ動かそうとせず淡々と司会の進行を再開させる。 「さて、ここからはこの仕置きのメインイベント! 水城鈴音嬢による『いかさまディーラー大笑わせショー』をお見せ致します!!」  白く細長いテーブルを綾香の目の前に運び終えた鈴音は『一仕事終えた』と言わんばかりに額の汗を拭う仕草を綾香に取って見せる。  そんな彼女が運んできたテーブルの上には黒いシーツが被せられておりその上に何が乗っているのか見た目には分からないよう配慮されていた。 「フフ……これ……何かわかる?」  机の上のものが何なのか分からなく不安が募る綾香に、鈴音は答えの返ってこない分かり切った質問を彼女にぶつける。  シーツは大小様々な膨らみ見せてはいたもののその程度で中の様子が分かるはずもない綾香は当然その質問に首を横に振る。 「これはね……。これからあんたを……とことん苦しめることになる――」  鈴音はシーツの片端を摘まみ何の躊躇も見せずにそのシーツを一気に捲って机の上に何が乗せられているのか綾香に見せつける。 「ッっ!?」  机の上に整然と並べられた様々な道具達……それを見て綾香は言葉を失う。 「私のお気に入りの“コチョ具”達よ♥」  道具の中にはさっき使われた小筆や、鳥の羽根……樹脂で作られた付け爪から用途不明のステンレス製品まで……様々な道具達が披露された。 「まずはコレで……あんたのくすぐりに対する感度を滅茶苦茶に高めてあげる♥ その後の本番で泣きながらやめてって懇願させてあげるから……しっかり敏感になって頂戴ね?」  鈴音の言葉に綾香の失った言葉は戻らない。  これからこのおぞましい道具達を使って身体中を触られるのかと思うと……悲鳴の声すらも出せなくなる。  鈴音はそんな綾香の強張った表情を見て静かに嗤う。  先程……“子供騙し”だとはっきりと言った彼女の事を死ぬほど後悔させられると期待して……静かに喉の奥で嗤いを込み上げさせていく。  そして、机の上に広がった道具の中から鳥の羽根を一つ取りそれを摘まんで裏表と綾香に見せつけながらソッと呟いた。 「絶対……壊してやるから……覚悟なさい?」  と……。


Related Creators