ショーダウン(リメイク)⑨
Added 2021-10-06 09:54:41 +0000 UTC9:拘束 「ちょっっ! わ、分かったからっ! 自分で立つから無理やり引っ張らないでっ!!」 ステージの隅で手を摩りながら座り込んでいた綾香に、あの氷の様な硬い表情をした青髪のバニーが近づき「準備が出来たのでこちらへおいで下さい」と告げたが、綾香はその言葉を無視して手の摩りを続けた。 するとその青髪のバニーは小声で「では、失礼」と一言零すと背中を摩って元気付けようとしていた夏姫を手で払い除け、彼女の脇に手を入れ込んで力づくで立ち上がれせようと力を込め始める。 その強行的な行動に綾香も慌てて言葉を返して彼女の腕を振りほどき、仕方なしにと言わんばかりにヨロヨロと力なく立ち上がり、ステージに設置されたY字型の拘束台をぼんやりと眺めた。 その拘束台は見上げなくては上の方は見ることが出来ない程大きく、Y字に分かれた両端部には手を拘束する為であろう革製の枷が左右それぞれに設置され、それが外れてしまわないようと必要以上に太い留め具で固定されているのが目についてしまう。 手の拘束枷と対をなすようにY字台の下部には足を拘束するための枷もしっかり用意されており、こちらも絶対に枷が外れないようにと太い留め具で台に固定されているのが見て取れる。 「足置きが小さいのでこちらの台を踏み台にして登って下さい……」 綾香がその拘束台を虚ろな目で眺めていると……青髪のバニーである智恵理が2段くらいの段差がある踏み台を用意し拘束台のすぐ隣にそれを置いてコレを使うようにと促しを入れて来た。 綾香は表情を曇らせながらもその促しに大人しく従い台座に足を乗せようと足を上げた。 「あ、お待ちください。お嬢からはこの台へ上がる前には靴と靴下は脱いで貰う様指示を受けておりますので、一旦足の履物を全て脱ぎ素足になってから上がって頂けますか? 脱いだものはこの台の隣に置いてくださって構いませんので……」 綾香がハイヒールのままでその台に登ろうとすると、すかさず智恵理が待ったをかけ“履物を全て脱ぐ”よう別途指示を下す。 なぜ履物を履いていてはいけないのかと綾香は目で訴えかけようと智恵理の方を向くが、当の彼女は綾香のそんな視線に意を介さず相変わらずの冷めた視線を送り続けている。そんな彼女に何を聞いても満足の出来る答えは返ってこないだろうと悟った綾香は、渋々ながら彼女の指示に従う為に自身の履物に手をかけそれを脱ぎ始めた。 カジノ側から支給された艶々しい黒のハイヒールを片方ずつ脱ぐとそれを踏み台の横へ並べて置く綾香……後はその下に穿いていた丈がくるぶしより下までしかないフットカバータイプの短い靴下を脱ぐだけなのだが、普段露出の多いディーラー服を着慣れている彼女でもその靴下を脱ぐ事に躊躇いが現れる。 仕事着であるならば仕方なしと諦めて肌の露出も我慢できるが、元来人に肌を見られるのが好きではない綾香にとって“人前で素足を晒す”という行為自体に慣れておらず……靴に守られていないという無防備感も相まって中々靴下を脱ぐ決心がつかない。そんな彼女の戸惑いを見て智恵理が「脱げないのでしたらお手伝いしましょうか?」としゃがみ込んだものだから綾香は慌てて「だ、大丈夫!」とだけ返し、踏ん切りの付かなかった手を勢いに任せて靴下の裾に掛けさせそれを一気に下へずらし込んで履物を全て脱ぎ去るのだった。 足を露出するのは気が引けたが……人に触られるくらいなら自分で脱ぎ去ったほうがマシ! そのように割り切ってもう片方の靴下も脱いだ綾香はそれを靴の中に押し込むと、その後は吹っ切れたように台座の上に足を置き直して一気に拘束台の1番上まで登り切って見せた。 「では、その台座から今見えている小さな“足置き”にカカトを揃えて乗せて立っていただき、台の柱に背中を預けるように直立姿勢になって少しの間待っていてください」 足首に付けるであろう枷のすぐ下には彼女が“足置き”と表現した出っ張りが確かに存在した。しかしその出っ張りの大きさはせいぜい拳を握った手の大きさ程度であり“足置き”という名を冠しているがカカトから足先まで全てを乗せられるようには出来ていない。 せいぜい乗せられるとして……智恵理の言葉通り“カカト”の部分だけしか納まらないだろう。 綾香はその極端に狭く小さい“足置き”を不審に思いながらも言われた通りカカトだけを合わせるようにそこへ乗せ、台座からその足置きへと身体を移動させた。 しかし足置きにカカトを乗せられても自分の体重をその一点で支えるのはかなり不自由で、綾香は自分がその拘束台から落ちてしまわないよう必死に柱の端を手で掴んで自分の身体を支えようとする。 智恵理はそのような綾香の必死さに気を配る様子もなく、足置きに置かれた彼女の足を早速と言わんばかりに枷で固定を始める。 丁度足首の部位を固定するために用意されていたであろう赤いエナメル質の頑丈そうな枷が二つ……。智恵理はその枷のベルトを力の限り引っ張って綾香の足首にきつく巻き付け、ベルトの留め金も限界ギリギリの部分を選んで締め上がる様に固定し、綾香のカカトが柱にめり込んでしまうのではないかと思える程強く柱に押し付けて拘束を施した。 両足共にその枷が巻かれ足の拘束が終わると智恵理はすぐさま、先程綾香が拘束台を上るのに利用した台座を使って綾香の横に立ち、未だバランスを保とうと柱を掴んでいる綾香の片方の手を無造作に掴んでそれを無言で手枷の方へと引っ張り始めた。 「ちょっ! 待って! そんな乱暴に上げさせないでっ!」 何も告げず淡々と拘束だけを行おうとする智恵理の強引な誘導に綾香は堪らず声を出し手を下げようと力を込める。しかし智恵理は綾香の言葉など無視するように、下げようと力んだ手をそれ以上の力で上げさせ直し、手首が枷の中央に来るよう力で運び込んでいった。 「やっ、やめて!! ヤるんならもう少しゆっくりヤってよ!」 綾香の訴えなど気にも留めていない様子の智恵理は、彼女がどんなに喚いても無言で手の拘束を続けていく。 どんなに彼女が不快に思っていようが……どんなに痛みを感じていようがお構いなしに手の枷をきつく手首に巻き込んで柱への拘束を完了させる。 やがて……両足に続き左の手までも拘束された綾香は、感情を持たないロボットのような態度で接してくる智恵理に嫌悪感を覚えつつも徐々にこの拘束台と一体になるかのように拘束されていく自身の身体の不自由さに不安を募らせていく。 「わ、分かった! 自分で上げるから! だから、無理やり引っ張らないで!」 左の手の拘束を終えた智恵理が台座から降り、その台座を右手側の横に置いた事で次は右手を拘束される番なんだと悟った綾香は、彼女が手を伸ばす前に自分から掴んでいた柱から手を放し自分の力でその腕を枷の方に向かって伸ばし始めた。 抵抗しても力によって無理やり拘束させられる……だったら乱暴に扱われる前に自分から手を上げてしまおうと考えに至った結果ではあったが……しかし、この“自分で手を上げる行為”というのがいかに難しい事なのかを思い知らされる事となる。 「自分でヤると仰ったのでしたら……早くヤって頂けませんか? 時間が勿体ないので……」 人の手によって引っ張られながら上げる手より……自分の意志で上げる手の方が何倍も重く感じてしまう。こんなにも自分の手が重かったなんて思いもよらなかった綾香は、自分で宣言しておきながら中々手を上げることが出来ないでいる。 この手の重さは自身の腕の重さもさることながら“上げれば自由を奪われる”という結果に対しての精神的な抵抗が起因している事を綾香は自覚している。 拘束なんてされたくない……この手を上げれば自由を奪われる……そのようなこれから確実に訪れるであろう身体への抑制が怖くて中々手を上げさせられない。 しかし、ちゃんと腕を上げないとまた乱暴に拘束される事にあるのは明らかなのだから諦めるしかない。智恵理の手が今にも痺れを切らして伸びてきそうに構えているのだから……尚更だ。 結局……時間をかけた割には手枷の所まで手首は届かず、最終的には智恵理の引っ張る力を借りながら枷を嵌めて貰う事にはなったが、手を上げた事に後悔をし始めた頃には綾香の両手両足はそれぞれの枷によって固定され自由を完全に奪われる事となった。 手を降ろしたくても……斜め上に限界まで上げさせられた手は枷の拘束によって台の最上部に固定されてしまい降ろす事も動かす事も出来ない様にされた……。 足をバタつかせようと思っても……こちらは足首の部位に巻かれた枷が綾香の足をキチンと揃えた状態で直立不動にさせ、柱に押し付けるように強く拘束していて脚を曲げる事も許されない拘束が成されている。 唯一良かった事はカカトだけで体重を支える形となっていた綾香の身体を、枷が手足を拘束する事によって柱に磔てくれた為バランスを崩す心配が無くなったというところだけだが……逆を言えばこの拘束がいかに綾香の身体を拘束台にしっかり磔にしているかを証明している事へも繋がる。つまりは綾香の身体は完全にY字台の形通りに拘束され動けなくされたのだ。何が起きようとも…… 「くっ……うっ……うぅ…………」 枷が付けられただけでこれ程手足の自由を奪われるとは想像だにしていなかった。 マジシャン時代に脱出マジックなるものを経験したことはあったが……マジックの時はこれ程キツく枷を嵌められていなかったため……枷を嵌められる事への抵抗感もさほど持ってはいなかった。 しかし智恵理の拘束は“綾香を決して逃がさない”という意思を宿らせているかのように強く……マジックの時の様な緩さは微塵も感じられない。その意志が伝わるだけでも綾香の不安は大きく膨らみ……そして増していった。 拘束される事でこんなにも不安な気持ちになるとは思ってもみなかった。 今まで当然のように行えていた手や足の動作がたったこれだけの拘束で封じられてしまったと思うと……それだけで不安は膨らむ一方だ。 今の自分は何をされても抵抗は出来ない…… 綾香の脳裏にはその言葉だけが浮かんでは消えてを繰り返している。 そんな不安に駆り立てられ焦りの表情を浮かべている綾香に、不敵な笑みを浮かべた麗華が様子を伺おうとゆっくりと近づいてくるのが目に入った。 綾香は自分が不安に思っている事を悟られまいと慌てて睨み目を作り、麗華の笑みに文句の一つで返そうと手の枷をガシャガシャとわざとらしく鳴らせて抵抗の意志を見せる。 「クフフ……どうですの? 結構恥ずかしいものでしょう? こんな風に一切動けないよう拘束されて皆さんの前に晒されるのは……」 扇子の内側でクスクスと笑いを零す麗華に、綾香は「フン!」と鼻で息をついてそっぽを向く仕草を取る。 「別に!! 晒されるのなんて、今更何とも感じないわ!」 拘束されたのもそうだが、未だ明かされていない“お仕置き”とやらの内容も不穏さを煽り彼女の心臓をバクバクと高鳴らせている。だが、弱みなど見せてはいけない。この女に自分が今不安な感情を抱いているなど絶対に悟られたくはない。だからあえて強気な態度を取って見せる。自分は平気だと自分自身を鼓舞しながら…… 「そう? 私なら、そんな露出の多い衣装を着せられてそのような恥ずかしい態勢で拘束されれば……恥ずかしくて泣いてしまいそうでしてよ?」 胸は見て下さいと言わんばかりに谷間を露出させ、上着の丈の短さも相まって腹部や腰回りの肌もしっかり露出している。更には、上着よりも更に短い丈のディラーパンツを穿かされ、その裾からはモデルかと思われるほどスラリと伸びた美しい脚や引き締まった太腿なども惜しげもなく晒されている。バニーの衣装も露出は激しい方だがディーラーの服もそれに引けを取らない程に肌の見える部分が多い…… 普通女性なら着せられただけでしゃがみ込んむ程恥ずかしさを覚えるものだろうが、綾香はその服を着てずっとディーラー業をこなしていた。だから、麗華が思うほど羞恥心が煽られる事はなかったのだが…… 「特にほら……人前で靴を脱がされ……裸足にさせられて、その無防備なナマ足を人に見られるなんて……凄く恥ずかしいとお思いませんかぁ?」 「……あ、足? 足が……何よ? 別に……恥ずかしくなんて……」 裸足にさせられたことなどあまり意識すまい……と、あえて頭からその部位の事を抜いて考えていた綾香だったのだが……麗華にそのように指摘されると嫌でも意識させられてしまう。 普段はヒールの高い靴だったりブーツを履いて足を周囲の目から守っていたが……今はそのような履物を履かされていない……靴下やストッキングさえも穿いていない……全くの素足の状態だ。 部屋でもスリッパを履くなどして足の露出を控えている自分なのに……今は自分の部屋に居る時よりも足の露出が多い。そんな自分の足を不特定多数の人間に見られていると意識させられると……途端にその事が恥ずかしく思え顔が赤く火照り返ってしまう。 ただ裸足でいるというだけの事なのに…… 自分の足を近くで眺める麗華の目があまりにいやらしさを纏っていたため性的な恥ずかしさまでも感じ始め、その事が羞恥の感情を異常に焚きつけてくる。 「そ、そんなに近くで……見ないでよっ! 気持ち悪い!」 足の甲にキスでもするのではないかという勢いで顔を近づけてきた麗華に綾香は顔を真っ赤にしながら拒否の言葉を放つ。 しかし麗華はその言葉を聞きもしないで更に顔を近づけ…… 「実は……私……。綺麗な女性の素足を見るの……とっても好きなんですの♥ 特に貴女の様な……プライドの高そうな女性の拘束されたナマ足を見るのは、最高に興奮しますわぁ♥」 と、熱い息を零しながら言葉を返す。 「か、顔を近づけるな! この変態っ!!」 足の甲に息が掛かるくらいに麗華の顔が接近すると、綾香はその行為だけでも嫌悪の寒気を背中に感じ堪らず大声を発してしまう。その大声に麗華は「あらあら……」と声を零してマイペースな言葉を彼女に返す。 「フフフ、良いですわぁ……その照れを隠すために敢えて語気を強める態度♥ この態度がいつまで続けられるか……これから楽しみになっちゃいます♥」 そのように言葉を零すと麗華はニヤリと笑みを浮かべ綾香の足先にフッと軽く息を吹きかけた。 その生暖かい息が爪先から足の指に流れ込むと綾香は先程の大声にも負けない悲鳴を上げ更なる嫌悪の感情を露わにした。 「クスクス……良い反応ね♥ でも、私が好んでいる箇所は……何も貴女の足だけという訳ではありませんことよ?」 悪戯を楽しむ子供の様な笑顔を向けながら麗華はしゃがみの姿勢を解除し綾香を見上げながら立ちの姿勢に戻る。そして右手の人差し指を彼女の胸の谷間に向けて指し示すとさらに綾香を辱める言葉を彼女に言い放った。 「豊満なお胸の膨らみ……それらが押し付け合って作られている見事な谷間……確かに殿方はそういう性的な部分に魅力を感じるものでしょうが……私は違いますの♥」 「っ……ッっ!?」 胸に振れるか触れないかの絶妙な位置まで人差し指を近づけ……その指を谷間のラインの沿って登らせていく。 登った先には襟元から露出した彼女の鎖骨が存在し、麗華はその鎖骨のラインを更に辿って肩の方へと指を滑らせていく。 「丸みを帯びた綺麗な肩……そして贅肉がほとんどない引き締まった腕の付け根……それらも素晴らしいとは思いますけど、ココの魅力には敵いませんわよね?」 肩から二の腕へと登っていくのかと思った麗華の人差し指だが、彼女の指はその付け根の部分で動きがピタリと止まる。 「貴女のココ……大変に素晴らしいわぁ♥ シワひとつ無いくらい伸びきっていて……とても柔らかそう……♥」 麗華の指はそのまま腕の付け根の少し下の方へと移動し、ココが目的地だと言わんばかりにその指先で円を描いて綾香にアピールを行う。 「はっ、ひ!? な、な、何? わ、ワ、ワキっ!?」 麗華が円を描いた場所は綾香の言葉通りの箇所だった。 綾香の着ているディーラー服は胸の露出を強調する為なのか袖の部分もカットされている。 それどころか横から見れば胸の付け根や肋骨の筋まで見える程にパックリと裂けたようなデザインになっている。 そうであるが故、手を大きく上げさせられて拘束されれば嫌が応にもワキの部位は大きく露出してしまう事となる。 麗華はその様子を意識させるためにワザと指で円を描いてその部位に注意を向けた。 「こ、こんなトコ好きだなんて……あんたどれだけの変態なのよっ!!」 「あら……そうは言いますけど、案外こういう部位の方が好って言う殿方もおりましてよ? ほら……私がココの話をし始めたら……皆さん興味津々で貴女のワキ……見始めていますわよ? ほらぁ……♥」 綾香は更に顔を真っ赤に染めて声を荒げる。まさか、胸や腰のくびれなどではなく“ワキ”を注視してくるとは思いもよらず、不意を突かれた驚きが羞恥の感情をより強めてしまい普段指摘を受けても何とも思わない筈のワキの部位に異常な恥ずかしさを感じる事となった。 ステージの外は照明などが消されている為綾香の目には観客たちの視線を直接見ることは出来ないが……それでも感じてしまう。皆が……自分のこのワキを……いやらしい目で見つめていると……。 あまりに羞恥の感情が高まってしまった為綾香は、せめて見られる事だけでも防ぎたいと腕に力を込めて腋を閉じようと試みるが手首に巻かれた枷がその動きを阻害し彼女の腕を万歳の格好に留めてしまう。万歳の格好である限りワキの露出は当然免れないが、綾香がどんなに力を込めてその枷はビクともせず彼女の手を柱の端に留め続け万歳の格好を解除する事は叶わない。これにより自分は誰にどれだけワキを見られていようとその視線からワキを守る事も出来ないと悟らされてしまう。 至極当然の事で最初からその様な事は分かり切っていた事だが……いざ実際にそれを意識させられると途端に恥ずかしさと不安が強くなってしまう。 「ちゃんと毛の処理はしてますぅ? 少し黒ずんでいるんじゃありませんの? ほらぁ……皆に見られているのですよぉ? 貴女の恥ずかしいワキを♥」 下から見上げるようにその意地悪な笑みと言葉を浴びせ羞恥を煽って来る麗華に綾香は奥歯を噛みしめてこの恥ずかしさに抵抗する。 何も出来ない自分が悔しくて恥ずかしくて堪らないが、麗華のその嬉しそうな顔を見ると腸が煮えくり返りそうなほど腹が立ち、怒りが勝手に込み上げてくる。 自分の意志で自由に動かせない身体のもどかしさ……そんな状態を不特定多数から見られ続ける恥ずかしさ……綾香は狂わんばかりの羞恥の感情に苛まれるが、それをも凌駕する怒りの感情を麗華へぶつける事でどうにかその恥ずかしさを和らげることが出来た。 殺してやりたいくらいに憎い! その感情を沸々と滾らせ睨み目を鋭くさせていく。 「アハハ……凄い睨みですわね♥ あぁ……ご安心くださいまし? さっきのは冗談ですの♥ ちゃんと綺麗でスベスベなワキですわよ♪ 誰に触られても文句ないくらいの……ね♥」 麗華の言葉尻が不穏を纏っていたが綾香にはその言葉を気にする余裕すらない。とにかく怒りの感情を絶やしてはいけないと、麗華の顔を睨んでバカだのアホだの変態だのと罵る言葉を吐いて気を紛らわせる。 たかが身体の部位を煽られただけで恥ずかしがってしまったなどという情けない自分を認めたくなかった。そういう感情を抱いたという事自体も彼女に悟られたくなかった。それは弱みとして付け込まれてしまう可能性があるから…… 「はぁ~あ……さて……綾香さんをからかうのは……そろそろ良いかしらね?」 興奮するようにハァハァと荒い息を上げる綾香とは対照的に麗華の方は涼しい顔をしてそのように言葉を零しステージ袖に立っていた智恵理の方を向いてコクリと頷いて見せる。 それを見た智恵理は同じく頷きを一つ交わしてポケットからマイクを取り出すと、彼女と入れ替わる様にステージへと登りスポットライトが当たる中暗がり居る観客に向けて手を伸ばして、先程までの彼女の印象からは180度かけ離れた元気な声をマイクに発し始めた。 「皆様ぁ? お待たせいたしましたぁ! これより、いつものショーの時間を借りまして……椿 綾香のお仕置きショーを執り行いたいと思いまぁ~~す♥」 勝負の時や拘束の時に見せた物静かで冷徹な印象だった彼女とは異なり、弾けんばかりに響き渡る透き通った元気な声……人間が変わってしまったかのようなこの変貌ぶりに綾香は先程の恥ずかしさなど何処かへ吹き飛ばしてしまう位の驚きを覚えてしまう。 「さて、先程の勝負を見ていなかったお客様の為に簡単にこのお仕置きがなぜ行われるかを説明しますが……。彼女……そう、ここに拘束されています椿 綾香というディーラーは……なんと日頃から常習的にいかさまを使って不正な勝ちを重ねている悪徳ディーラーであると噂が絶えませんでした!」 彼女の張りのある元気な声がフロア全体に響き渡ると、ステージの近くに居なかったカジノ客にもそのアナウンスが届き何事かとその様子を興味本位で覗く人達も増え始める。 「わが主でもあります白洲川 麗華お嬢様はその噂が本当かどうかを確かめるのと……もし噂が本当であればそれを断罪しようと思い立ち彼女へ勝負を挑みました! 結果……苦戦は強いられたものの最後は彼女のいかさまを逆手に取って見事な勝利を納め、同時に彼女の罪を暴き切って見せたのです!」 観客と同じくステージ脇の暗がりに身を寄せた為他の客に見えているかは甚だ疑問ではあるが、麗華はニコリと微笑んだ表情を浮かべ暗がりへ手を振ってそのアナウンスに応えた。 「昔から悪いことをした子供には親が手を上げてでも躾をしてきたものですが、大人になっても悪さをしたならばやはり誰かが罰は与えなくてはなりません! 今回の件のように“自分の行いが間違っていない”と勘違いしている彼女には、それ相応の報いを受けて貰わなければ誰も納得しないでしょう! 特に……彼女によって負けを強いられ多額のお金を巻き上げられた男性の方は……」 智恵理が客をそのように煽ると、暗がりからは次々に「そうだ!」「それが当然だ!」とうヤジが飛び交い始める。 その声に、綾香はフン! と鼻を鳴らしながら横を向き聞き入れようとしないせず、まるで反省の色を見せない顔で不機嫌そうに眼を閉じる。 「皆にも納得してもらえるような制裁をその場で与えたい……そのように考えた麗華お嬢様は、普段ならダンスや歌などで盛り上がていたであろうこのショーの時間を買い取って彼女への仕置きをショーとして公開する事を思いつかれ、今このようにステージ上にしっかりと設置した“断罪の拘束台”に彼女を乗せて手足を動かせぬよう自由を奪った次第なのです」 場内で唯一スポットライトが照らしているステージの中央には大掛かりなY字型の台が太いネジによって決して倒れないようステージ上に固定されている様が見て取れる。その拘束台に胸や脚を露出させられた美人ディーラーが拘束されているのもあり皆一様に興奮の歓声をそこかしこから上げていく。 「このように手足を枷でしっかりと拘束された彼女はもはや何をされても抵抗など出来ません! 例えば鞭で叩かれ暴れまわりたくなるほどの痛みを与えられても……彼女は勿論、暴れる事も痛い箇所を摩る事も、痛みから逃げる事も許されません!」 智恵理のその言葉に色めき立っていた観客たちは興奮していた声のトーンを徐々に落としていく。仕置きという言葉が性的な何かを強いる行為だと勝手に思い込んでいた観客たちは、てっきり綾香にセクハラまがいの何かを強いて辱めるだけだろうと想像していたのだが、智恵理のその痛みを連想させる煽り方に思わず残虐な方の仕置きの方を想像してしまう。 もしかしたら……本当に鞭やらバットやらで叩いて仕置きするのではないだろうか? そのように客達がざわつき始めたのを見た智恵理は、持ち前の営業スマイルを存分に零しながらそうではないという事を説明し始める。 「あぁ……鞭で叩くというのはモノの例えですよ? 実際は彼女にそんな暴力的な仕置きをする訳ではありませんのでご安心ください♥」 その言葉に客達はそれぞれ安堵の息を零しざわつきをゆっくりと鎮めていった。 「痛みを与えたりはしませんが……しかし反省はしっかりと促さなくてはなりません! ですから我々は“とある方法”を使って彼女の心も身体も苦しめていこうと思っています!」 痛みを与えず心も身体も苦しめる……という智恵理の曖昧な説明に、未だ仕置きの内容は想像しきれていない観客たちは再び隣近所の客と言葉を交わしあーじゃないか? こーじゃないか? と議論を重ね始める。 「痛みを与えずに行う罰とは何なのか……気になりますよね? 早くどんな仕置きをするのか知りたいですよね?」 その煽りに客達は一様に頷きを返す。 綾香も……彼女の司会進行に興味を示さないよう目を閉じ不機嫌そうな顔で横を向いていたが、自分に行われる仕置きの正体が何なのかは気になる様子で片目だけを開けて彼女の姿を視界に入れ直した。 「では今回……その仕置きをメインで担当してくれる彼女にどのような仕置きが行われるのか聞いてみましょう!」 智恵理がそのように振ると、タイミングを合わせるようにスポットライトの一つが綾香の背後で出番を待っていた彼女に移動した。そこには子供用の背の低い椅子に腕を組んで座り「出番が遅い!」と言わんばかりに不機嫌そうな表情を作って座っている鈴音の姿が照らし出された。 「彼女が本日、椿嬢の仕置きをメインで担当する仕置き人! 水城 鈴音ちゃんです! 皆さん拍手でお迎えくださいっ!」 白い子供用のドレスを身に纏い、片手には携帯ゲーム機を携えて椅子から立ち上がった彼女を見た観客は、皆拍手よりも戸惑いの声を零してしまっている。その観客たちの様子を見て鈴音は不機嫌な顔を一層険しくさせ仕方なしに立ち上がって見せた。 立ち上がった事で彼女の背の低さが露呈し客達の間では彼女が子供なのではないかという疑問をが湧くが、それを見越した智恵理はすぐにマイクでフォローらしきものを入れる。 「皆さんの言いたいことは分かります! なぜ子供がこんな所に!? と思っている方も多いでしょう! しかしご安心ください! 彼女は立派に成人しております! このような見た目ではありますが入場制限に引っ掛かったりはしてないんです!」 智恵理の補足が入った事でポツリポツリと拍手をする客も増えたが、鈴音はそんな歓迎など二の次に智恵理の方を睨んで持っていたゲーム機を投げつけた。 「そんな説明されて私が喜ぶと思って煽ったんなら、あんたも後で許さないんだからね智恵理!」 勢いよく飛んできたゲーム機をマイクを持っていない方の手でバシッと顔の横で受け止めて見せた智恵理は、不機嫌な顔を浮かべる鈴音に笑顔を崩さないまま平謝りを入れる。そんな謝り方で機嫌が直るわけもなかったが、ステージの中央に歩み出た彼女に綾香が声を掛けると親も殺さんばかりの敵意は綾香の方に向く事となった。 「フン! 私の周りで短気を起こすの止めてくれる? 子供の騒がしいのは昔から嫌いなの……私……」 その言葉を聞いた鈴音は額に血管を浮き出させながら無言で拘束台の根元を勢いよく蹴り上げた。 あまりに勢いがあったためか台の柱はしばらく蹴られた衝撃で震え続け、金属の鈍い音がカジノ中に響き渡る事となる。 「私は子ども扱いされるのが死ぬほど嫌いなの! 次に私の事指して“子供”って口走ったら……死ぬことも覚悟なさい! ……痛っ……くぅぅ……」 あまりの暴力的な行動に一瞬綾香はたじろいでしまうが、柱を蹴った足が想像以上に痛みを発したようで脅し言葉を零しながらもしゃがみ込んでしまった鈴音を見て「やはり子供だったか……」と、安堵の息を吐いてしまう。 そして見た目も中身も子供であると判断した綾香は、続けて彼女を煽るような言葉を紡ぎ立てる。 「お嬢ちゃん大丈夫ぅ? 脚……折れてないかしらぁ? 成長途中の脚で蹴ったら……そりゃあ痛いに決まってるじゃない。馬鹿ねぇ……」 それを聞いた鈴音はしゃがみ込みながらも肩をプルプル震わせて怒りを露わにする。そしてしゃがんだ姿勢を続けながら下から響く声で綾香に言葉を返し始めた。 「馬鹿? 今……私の事を……馬鹿って言った?」 「言ったわよ? 行動がお子ちゃまみたいで馬鹿みたい……って意味でね……」 「お子ちゃま? へぇ……お子ちゃま……ね? ふぅ~~ん」 「あら? なんで怒ってるの? 私はあんたの事“子供”なんて言ってないわよ? ちゃんと言葉を変えて言ってあげたでしょ? お子ちゃまとかお嬢ちゃん……って♪」 綾香がそのように煽った瞬間、鈴音から何かが引き千切れるようなブチッ! という音が聞こえた気がした。そして顔を下に向けたまま肩を震わせて彼女が立つと今まで見せた事のない笑顔を綾香に向け、怒っていたのが嘘であったかのように無邪気に笑いながら言葉を零し始めた。 「アハハ♥ お姉ちゃんってば……また私の事馬鹿にしたよね?」 そのあまりの変容振りに背筋に寒気を感じた綾香だったが、このまま舐められるわけにはいかないと彼女も強気な態度で言葉を返す。 「したけど? それがどうかした? まさかあの程度で怒ってたりしないわよね? 子供じゃあるまいし……」 「フフフ……怒るなんて……もうそんな次元じゃなくなっちゃったよ♥ お姉ちゃんのお陰で……」 「ど、どういう意味かしら? 怒り過ぎておかしくなっちゃった……とか?」 「ううん、違う違う~♥ 似てるけど……逆だよぉ……」 「ぎゃ、逆??」 「怒りの感情を通り越して……楽しくなってきたの♥」 「た、楽しく……なってきた? それはどういう意味――」 そこまで会話が交わされると鈴菜の笑顔が突然色を消し、先程まで以上に顔に闇を纏った睨み目へと変化させる。 その敵意を剥き出しにした睨み目に綾香はビクリと身体を反応させ思わず顔を引き攣らせてしまう。 「この馬鹿な女をこれから私の好きなようにいたぶれるって想像したら……途端に楽しくて仕方なくなってきたって言いたいのよ! 当然ヤられる覚悟は出来てんでしょう? そこまで煽る余裕があるんだから……」 真顔から発せられる圧の強い言葉が綾香を途端に不安に陥れる。 どうせ子供の様な容姿なのだから……仕置きとはいえ、やる事も子供染みた何かだろうと楽観的に考える事で自分の境遇の辛さを胡麻化していたが……この言葉と敵意を剥き出しにしたこの目を見るにつけそんな生易しい仕置きではないだろうと今更ながら思い至らされる。 それはそうだろう……あの用意周到な麗華が企画した仕置きなのだから…… きっと自分にとって辛すぎる何かを強いられるに決まっている…… 考えない様に虚勢を張ってはいたが……もはやこんな子供っぽい彼女にさえその虚勢を張る事も出来なくなり始めた。 こんな子供の様な見た目の彼女にさえも…… 「あれぇ~? お姉ちゃんったらどうしたのぉ? 急に身体……震え始めてるみたいだけど?」 虚勢を張って勢いという名の熱を身体に帯びていた綾香は、その勢いが静まるのを感じ今度は途端に寒気を感じるようになった。 その寒気は……肌の露出が多い衣服のせいではなく……金属製の柱に背中を当てている為に引き起こされた寒さでもない。 下から這い寄って来る不安という名の寒気。 鈴音の顔はそんな綾香の不安を煽る様に妖しい笑みを浮かべている。 そして、顔が引き攣ったままの綾香にワザとらしく可愛い声を上げて言葉を伝える。 「たぁ~っぷり可愛がってあげるからね? 楽しみにしててね? ……哀れな……お姉ちゃん♥」 鈴音はそのように言葉を零すと両手を自身の顔の前に運んで可愛く指をワキワキ動かして見せる。 まるで…… これから行う仕置きが…… 楽しみで仕方ないと……言わんとするように……。