The.UnderCover~潜入捜査官:神崎琉姫~14
Added 2019-06-26 15:11:39 +0000 UTC14:志乃と美香 「はぁはぁはぁ……ゲホゲホゲホ!! はひ、は、はぁ、はぁ、はぁ!!」 薄暗い蝋燭の炎しか光源を持たないこの石壁に囲まれた部屋の中央のステージで、琉姫は膝立万歳の姿勢のままグッタリと頭をうな垂らせ、必死に呼吸と咳き込みを繰り返している。 「まったく……強情なお嬢さんね、琉姫ちゃんは……」 6人による集団くすぐり責めと僅かな休憩を交互に繰り返され、何時間が経ったのか皆目見当もつかないが……琉姫はまだ意識を保っていた。 楓による再三の“気持ち良くなりたくはない?”という甘い問い掛けに、彼女は首を横に振り続け……辛うじて意識を保ちながらも笑い苦しみ続けた。 その頑なな態度に楓も根を削がれ、溜息交じりに頬に手を当て困り顔を浮かべる。 何か……クスリを使いたくなる良い手はないものだろうか? 小休止を挟み汗まみれになって慢心疲労でぐったりしている琉姫を眺めながらボンヤリ思いを巡らせていると、彼女の部下から興味深い報告が耳に届けられる。 「あら、それは良い報告ね♥ すぐにこの部屋へ連れてきなさいな♥」 その報告を聞くやいなや呆けていた表情に活気が戻り、座っていた椅子からガタンと立ち上がるなりニヤけた笑顔で琉姫の正面へと歩を進める。 「どうしてもおクスリを使ってくれない琉姫ちゃんに……これからとってもいい見世物を見せてあげようと思ってますの♥」 「み、せ……も……の?」 「これを見ている間は貴女も休めるわけだし……きっとおクスリを使いたくなっちゃうとも思うし、一石二鳥ですわ♥」 「なに……を……する……つもり?」 琉姫をくすぐっていた6人の女性達はいつの間にか琉姫から離れ、春奈の指示のもと何もなかった空間に作業を分担して何かを設置していく。 琉姫が拘束されているステージ目の前に、女子が持つには重すぎてしまいそうな鋼鉄製の柱……というよりも十字架に似た置物と言うべきか? 十字架の形を模してはいるが手を拘束する柱とは別にもう1本……足を拘束する為に有るであろう横に伸びた柱が追加で組み込まれている。丁度カタカナの“キ”を真っ直ぐにしたような柱……それが目の前の床に立てられ何本もの太いネジなどで固定されていく。 あれよあれよという間に目の前に建てられていく“キ”を模した柱に、琉姫は嫌な予感を募らせながらもそれが完成するのを眺めておくことしか出来ない。 手を伸ばせば届きそうな距離にあるその柱……。しかし万歳拘束された琉姫にその柱を触る事は叶わない。 「はぁ~い♥ それじゃあ……お友達を連れて来て頂戴♥」 柱が完全に床に固定された事を確認した楓は、平手をパンパンと2回打って“彼女”を連れてくるよう部下に命じる。 「お、と……も……だち?」 その合図とともに奥の扉がゆっくりと開き……光の加減から逆光に2つの、背丈に差がある影が現われる。 それらの影が部屋に入る事で姿を鮮明に映し出した時、琉姫は驚きの声を2度上げる事となった。 「ち、チーフっッ!!? そ、それに……美香っっ!!?」 先頭を歩かされていたのは背の低い琉姫の後輩……愛染美香だったが、彼女の格好を見て更なる驚きが琉姫を襲う。 「何で……ココに?? それに……なんで……裸……なの?」 右手で胸を、左手で股間を恥ずかしそうに隠しながら歩かされていた後輩の格好は、一糸も纏わない裸というあられもない格好だった。 顔を真っ赤にさせつつ俯いて止まりそうになっている彼女を、その背後から歩くのを促しながらついてきた琉姫の上司……五十嵐志乃。彼女は裸などではなくしっかりと紺のスーツを着用していた。 「ウフフ♥ あの2人を見ればもう何となく想像きますでしょ? 誰が貴女の敵で……誰が間抜けな裏切り者さんか……」 「敵?? 裏切り者??」 「あら……分かりませんの? ほんと……鈍感さんね? だったら教えてあげる♥」 「………………」 「貴女の上司……志乃ちゃんは、私の仲間♥ そして、貴女を騙して焚きつけた本人である美香ちゃんは私の“元”仲間だった子ですのよ♥」 「チ、チーフが……仲間?? 美香まで……?? “元”仲間??」 「そう……ついさっきまでは美香ちゃんも仲間だったんだけどねぇ~~やっぱり裏切っちゃったみたいなの……そうよね? 志乃ちゃん?」 「えぇ……残念だけど、妹さんを逃がしちゃいましたわぁ……」 「やっぱり……それが目的で私の命令した“琉姫ちゃんをおびき寄せる計画”に賛同してくれたのね?」 「私を……おびき寄せる??」 「そう。違法薬物取締課で私の息がかかっていない人物は貴女だけですもの……だから、ご挨拶がてら私達と共にこの薬を広めて貰う仲間になって貰おうと思ってね……」 「じゃあ……妹を心配していた美香のあの態度は……演技だったっていうの??」 「ううん、それは本物だと思うわ……だって、本当に逃がしちゃうんだもの……琉姫ちゃんを囮にして……」 「私を……囮に?」 「ご、ごめんなさい……琉姫先輩……。私……これしか……思いつかなくて……」 「美香……」 「まぁ、そういう事をさせない様に志乃ちゃんを見張り役に立てたんだけど……まんまと逃がしちゃったって訳ですのよね?」 「……そうですね。まんまと逃げられましたぁ……」 「まさか……ワザと逃がしたりしてないでしょうね?」 「いいえ~2対1じゃどちらにしても不利でしたし……♥ それに、私の任務は“見張る事”だけでしたでしょう? 追跡とか捕獲は任務に入っていませんでしたよねぇ?」 「ふぅ~~ん、まぁいいですわ。後で私の部屋にきなさい。たっぷりその身体に聞いて差し上げますから」 「は、はぁ~い♥」 飄々とした笑顔で受け答えをする志乃が一瞬だけ琉姫と目を合わせた。そして楓の隙を縫うように真面目な目線でウインクを一度だけ送った。 それが何を意味する合図なのか……琉姫には読み取れなかったが、裏切り者だと聞かされた彼女に何かしらの事情があるのではないかと考え直させるのには充分な合図ではあった。 「それじゃあ……この裏切り者ちゃんに制裁を与えなくちゃいけないわよね? ……志乃ちゃん?」 「はぁ~い~~♥ 承知しておりますよぉ~~」 また通常の朗らかな笑顔に戻った志乃は美香を背後から羽交い絞めにし、引き摺る様に急遽用意された“キ”の形をした拘束台へと運んでいく。 「や、やめてくださいっっ!! 私は……ちゃんと言われた通りに古い薬物とか違法な媚薬とかを横流ししたじゃないですかっッ!!」 志乃の羽交い絞めに必死に抵抗を見せる美香。その拘束が外れる事はないが自分の犯してきた罪を喚き散らしながら楓の情に訴えようとしている。 「美香……あんた……」 今朝方彼女がまた盗まれた……と見せてきた遺失物の窃盗リスト。その中には違法薬物も含まれていた。それら全て彼女自身が窃盗して横流ししていたという現実を突きつけられ琉姫は言葉を失う。 身内に裏切り者が……しかも後輩だけでなく上司さえも麻薬組織の息がかかっていたなんて……。あの優しくも丁寧なチーフの指導も、人間臭く自分を頼ってくれた後輩の態度も……琉姫が配属され今に至るまで……いや、警察学校で苦楽を共にしてきた時間さえ嘘に思えて……辛い悲しみが何度も胸を打ち据えてくる。 そんな絶望の表情を浮かべて騙された憎しみを睨みに変えて志乃を見ると、またも彼女は真面目な目を琉姫に向けた。 その目……いつもの朗らかな目ではないその目……。見覚えがある。 本気で自分に指導を加える時の……あの真っ直ぐな目。 いつも何を考えているか分からない糸目でニコニコと笑顔を振りまく彼女だけど……真面目な話をする時だけはその目をする。 さっきの合図……それと、今の“何かに気付け”と言わんばかりの目配せ……。琉姫はその目を見てハッとなる。これが何らかのメッセージである事に。 『チーフ? もしかして……私に何か……伝えようと……??』 そして志乃は最後に小さく首を縦に2回振った。その動きに……琉姫はある事を思い出し、そして自分の今の状況を再確認した。 万歳の格好で膝立の格好で拘束され身動きが取れない……。 露出の高いレースクイーンの服を着せられ、肌も露出させられている……。 先程までその露出した肌をくすぐられ、今は疲労困憊の状態……。 目の前には拘束具が設置され……。 今まさにそこに拘束されようとしている後輩の姿が目の前にある。 彼女は叫んでいる……。自分の罪を……自分のしてきた……罪……を? 「私は貴女の言う通りしたんですよ! 言われた通りに! 横流しを……」 罪を?? いや、そうではない。操られていた事を……暴露……している? 「こんな事して……タダじゃ済まないですよ! 妹がっっ!! 必ず妹がっっっ!!」 暴露しているこの叫びを……もし、他の誰かに聞かせられたら……。 もし、外の誰かに……聞かせられたら……。 聞かせ――…… 『はっっっ!!? そ、そうか! もしかしてこの時の為にチーフはアレを??』 慌てて琉姫は顎を引きグッと自分の胸元を見る様な仕草を取る。 そして楓にバレないようにと不自然な動きをしないように気を付けながら顎の先端で服の襟部分を押さえてみる。 ――カチッ。 小さなクリック感と共に何かしらのスイッチが入った音がした。 これがなにを意味するスイッチなのか……それは琉姫が一番よく知っている。 潜入する前に説明されたのだから……志乃自身に。 志乃との連絡を行う為渡された丸いワッペンサイズの通信機……。それを最初に支給されたこの衣装の襟部分に縫い付けたのは琉姫自身だ。だから思い出せた……自分の手で落としたり敵にばれたりしない様に縫い付けたのだから……。 隠したのが襟の裏地の中であるため、手を使わなくても少し横を向いて顎で押せばスイッチは簡単に入れられる。そして、この喚き散らして抵抗する美香の声も拾う事が出来る。 もしこの通信の受信機を……チーフ以外の人間が持っていたとするならば? この後輩の必死のアピールを拾わせるために合図を送っていたとするなら? そういう事を込みで琉姫に目配せをして気付かせようとしたのであれば、今その通信を受けて取れる“子機”のような物は彼女が持って居るはずがない。きっと……信用できる誰か……警察関係の誰かに預けてきたに違いない……。 もしそうなら……。琉姫のその想像が合っていたなら……。 チーフは裏切ってなどいないと言う事になる……か? やはり何かしらの事情を抱えている事になるのではないだろうか? 真意は分からない。でも、すでに通信機のスイッチをオンにしたにもかかわらずチーフの身体から受信機の漏れ出す音は聞こえてはこない。それはつまり……そういう事ではないだろうか? 琉姫は今……複数の現実を突きつけられ混乱に陥っている。 美香が裏切った。チーフが裏切った。どちらも裏切っていない?? それともまた別の思惑がそれぞれに有るのか? 裏の事情など全く聞かされていない琉姫には、今この状況がどういう流れになっているのか把握できてはいない。出来てはいないが、今は自分の行き付いた答えを信じて行動をするしかない。 この必死の声が、誰かの持つ通信機に拾われている事を信じて……。 「折角、妹を助けるためにこんな島に来たのにっ!! 約束が違うじゃないですか!! 琉姫先輩を誘い出したら妹はこの“南沖島”から解放してくれるって……約束だったじゃないですかっ!!」 「そんな約束はしていないでしょ? だめよ、嘘ついたら……」 「私は信じてました!! こんな奴隷商まがいな事やめて、妹を無事に解放してくれることを!!」 「貴女が信じようと信じまいと……それはどうでも良い事ですのよ? だけど……私を裏切った罰はしっかりと受けて貰いますわ」 「くぅっっっ!! 私を殺すんですか? 用済みになったから私の事……消すっていうんですか!」 暴露のついでに自分の処遇についても演技交じりに確認を取ろうとした美香だったが、ここで返された言葉に思わず言葉を失ってしまう。 「……そうよ♥ これから貴女の“処刑”を開始しますの……」 制裁という言葉から一定の苦痛を与えられるだけの処罰だと勝手に思い込んでいた美香だったが、軽い気持ちでつけた殺すと言う言葉が、まさかこれからの処遇に合致していたなんて思いもよらなかった。 楓の放った“処刑”という言葉……。 恐らく彼女の性格上……脅しや冗談などではなく本当にそのままの意味で用いる事だろう。美香は彼女の残虐性を痛い程に知っている。商品価値すらも無くなった少女を簡単に海へ放り出す事が出来る悪党だと言う事は理解している。 だから、その言葉の重みが一瞬で彼女の喚き散らしを沈めてしまう。 これから行われる事への恐怖に、足がすくみ始める。 「さぁさ、彼女も大人しくなったみたいだし……みんな? 美香ちゃんを縛り上げてくださいまし♥ 身動きが一切取れなくなるように……ね♥」 「ひっっ!? ま、まって!! し、志乃さん? 話が……違……」 2人の間にどんな“話”がなされていたのか? それは琉姫には計り知れない事ではあるが、美香は羽交い絞めへの抵抗を強くさせその拘束を振りほどこうと暴れ始めた。 「ゴメンなさいね……」 しかし、志乃は小さな謝罪を零すばかりで美香の羽交い絞めを解こうとはしない。 そうこうしている内に手も足も楓の部下の女性達にしっかりと握られ、片手ずつ……まずは横に伸びた柱の両端にある革製の拘束具にそれぞれ通されてしっかりとその枷をはめられ拘束された。 身体に対して斜め上にそれぞれ上げさせられた両手。そして今度は両足も大きく股を開かせて台座の上に立たせ、下に伸びた横柱の端についた枷にそれぞれ足首を拘束される。 大きく手足を開いた大の字……と言うよりは手が斜め上に拘束されている為“X字”に近い格好で拘束された美香は、最後に身体を支えるためのベルトを腰に回され、きつくベルトを締められ身体を柱に密着させられた。 そして、足を乗せていた台座を取り払われると……美香は裸のままX字の格好で宙に浮いたような格好にさせられる。 「ちょっとお腹が窮屈かもだけど……すぐに意識できなくなるくらい苦しむ事になるから安心なさい♥」 ツカツカと楓が琉姫と美香の間に割り込んでお互いの顔を見比べる。 そして琉姫の顔を覗き込んでニンマリと笑い……こう言った。 「さぁ、琉姫ちゃん? しっかり目に焼き付けておいて下さいまし……これが、私を裏切った者の末路ですのよ♥」――と。