The.UnderCover~潜入捜査官:神崎琉姫~12
Added 2019-06-26 15:07:50 +0000 UTC12:愛染姉妹 「千里! 千里ッ!! 起きて!! 千里!!」 石壁に囲まれた薄暗い小部屋に響き渡る泣き腫れた声。壁にグッタリと背中を預けて意識を失っていた少女はその声に意識を呼び起こされ薄目にその声の主を覗き見る。 「……あ……れ……? 姉……さん??」 ぼんやりとした暗闇に浮かんだ心配そうな顔をした人物……。彼女にはその顔に見覚えがあった。 「姉さん? 私……」 肩まで伸びた外はね癖の強い青い髪……自分よりも小柄な背丈に童顔な女性……。それは紛れもなく千里の姉である愛染美香その人であった。 「大丈夫? 怪我とか……してない?」 実の姉をその目に収めるのはおよそ何日ぶりだろう? いつから自分はココに閉じ込められたのだろう? そのような疑問が頭の中を駆け巡ったが、それよりも何よりも姉に会えたという喜びが先にピークを迎え千里は姉の胸に飛びつく様に抱き付いた。 「あ痛たたたた! ちょっっ! 待って! 千里、待って~~!」 「姉さんっっっ!! 私っ! 私……」 「分かってるっ!! あんたが何をされてきたのか……分かってるから!」 「……姉さん?」 嬉しさに我を忘れるように抱き付いた(というよりも覆いかぶさった)千里を姉は丁寧に引き離し、少し距離を開けてコホンと咳払いをする。 「まったく……あんたの方が背が高いんだから抱き付かれたら潰れちゃうっちゅーの!」 「あぅ……ご、ゴメン……」 「いいからホラ……この上着を羽織りなさい」 琉姫と同じ肌露出の高いレースクイーン服を着せられ部屋に閉じ込められていた千里に、青いつなぎの様な上着を差し出した美香。千里はそれを胸の前に手繰り寄せキュッと感情を込めて握りしめた後、いそいそと袖を通そうと服を広げ直した。 「着ながらでいいから……聞いて?」 服のサイズが姉のサイズであるため服が小さく袖に手を通すのも難儀してしまっている千里だが、姉の神妙な雰囲気の語り口調に何かしらの告白があるのだろうと眉をひそめて服を着るペースを落としていく。 「私ね……取り返しのつかないことを2つもしちゃったの……」 明るさが取り柄である姉の暗く沈んだ表情を初めてみた千里は、ゴクリと息をのみ小さく「うん」と促しの声を添える。 「1つは……私の大事な先輩を……騙してココへ……連れてきてしまった……って事……」 「大事な先輩?」 「警察学校で1年先輩だった琉姫先輩……あんたも会った事……あるでしょ?」 「あぁ……うん。神崎さん……だよね?」 「そう。私は彼女を騙してしまった……。ココへ行かせれば100%罠に嵌められるって分かっていたのに……」 「それってもしかして……私の……せい?」 「ううん、私が……クスリ欲しさに……勝手に――」 「嘘っ! それ嘘でしょ? 私が人質になっているせいで……姉さんが無理させられていたんでしょ? あの人に……」 「うぅ……ま、まぁ……それも少しは……有る……けど……」 「聞いてるよ! 姉さん、仕事場の……過去の保管庫からクスリの材料を横流しするのを強要されていたんでしょ? 私に危害を加えさせないために……」 「……………………」 「ゴメン……私の意思が弱かったから……あんな誘い文句に乗って……クスリを1度でも使っちゃったから……」 「……いいの。私も……使ったから……」 「姉さんも? で、でも! 私なんて……その後癖になって……何度も……。そして、お金が払えなくなって……ココに……」 「……私なんてあんたの倍以上も打ってしまったわ……。私だって意志が弱い……。琉姫さんみたいに強くなんて……ないから……」 「姉さん……」 「フフ……知ってる? 私の借金……クスリだけで200万を越えているらしいわ……。とんだ笑い種よね? 妹を助けるために協力していたのに、今や妹よりもクスリにハマってるなんて……」 「………………」 「これが私の取り返しのつかない事2つ目……。あんたの思う姉さん像は……、これで崩れちゃったでしょ? 脅しに簡単に屈服して……欲望にだらしない……借金まで莫大に作ってしまっているダメな姉……それが私なの」 「……………………」 「この罪滅ぼしは必ずしなくちゃいけない……。あんたを助けて……私は琉姫先輩も助けにいって……そして……」 「……姉さん……」 「ちゃんと自首しなくちゃ……よね? 強制されたとはいえ……ハマっちゃったんだから。クスリに……」 「私だって……一緒に行く! 私も……クスリの誘惑に今も……勝てないし……」 「千里……」 「………………」 「うん、そのためにもこの地下から脱出しないといけないわ!!」 「……脱出?」 「そう! ここは、クスリにハマってお金が工面できなくなった子を監禁して……闇市場に売り捌くためにタイミングを待っているだけの牢獄よ!」 「闇市場?? 売り捌く??」 「千里? あんた……クスリを使って気持ち良くなっていた時に、こういうのを書かされていたって知っていた?」 「……なに……コレ?? 隷属関係承諾書??」 「あいつらは、私達が快感に酔って意識も朦朧としている間にこういう紙にサインさせてたの」 「これって……」 「そう! 闇市の奴隷商に売り捌くために必要になる“本人がサインした奴隷承諾書”よ」 「ど、ど、奴隷!!?」 「今の闇市場は取締が厳しくなっていて、人権を無視した奴隷取引を禁止しているわ。でも、自ら“奴隷になりたい”という意思証明書があれば違法にはならない……。養子縁組と同じ手続きを踏まされることになるから……」 「い、違法だよ! それは無理やり書かせた事になるだろうし……」 「無理やりでも何でも本人が認めれば証明書は有効になっちゃうわ」 「認めなければ? っていうか私は……絶対認めない!」 「その時は、クスリで作った借金を即日払えって……要求されるでしょうね……」 「む、無理だったら?」 「人知れず……土か海の底……」 「そ、そんな……」 「だから認めるしかない……。養子縁組という名の奴隷になって売り飛ばされる事を……」 「酷い……そんなの酷い……」 「私はクスリの材料を紛失という名目で横流しするっていう役割があったからまだ借金があっても自由にさせて貰ってたけど……千里は違う。私の知らない所で売り払われていてもおかしくはなかった……」 「私……危なかったんだ?」 「えぇ、そういう流れがあるって聞いていたから、連絡がつかなくなって慌てて……」 「……神崎さんに相談した?」 「うぅ……相談というか……強引に潜入してもらったと言うべきでしょうね……」 「神崎さんに私の救出をして貰う予定だった……って事?」 「ううん、先輩が捕まるのは……間違いなかったの」 「えっ?」 「だって……琉姫先輩を欲しがっていたのは……彼女だったから……」 「……三城屋 楓……リーダー?」 「そう。この区域の管轄である警察署の薬物取締課の主要人物を抑えれば動きやすくなるから、どんな理由でもいいから彼女をよこせって……ずっと言われていたの……」 「……姉さんだけに飽き足らず……取締課まで手中に収めたかった……って言う事?」 「まぁ、私のような地下に潜って仕事してる人間よりは警察の動きが分かりやすいって踏んだのかもだけどね……」 「成程……」 「だから私は、彼女が潜入捜査で来ている事や、いつの日付でどんな格好で来るとか……そういう事を詳細に話したの……信用してもらうために……」 「信用……させる為?」 「そう。今……琉姫先輩は予定通り楓さん達に嬲られている真っ最中なの……」 「も、もしかして! 姉さんが自由に動くために……神崎さんを囮にしたって事!?」 「……その通りよ。楓さんはその事にまだ気付いていない。私がこの警備もスッカラカンになった監禁部屋に侵入しているなんて夢にも思っていない筈よ……」 「それは……かなり酷い事してない? 姉さん……」 「知ってる。だから……罪滅ぼしは何でも受けるわ! 琉姫先輩が許してくれるまで……どんな仕打ちでも受ける覚悟でこの作戦を立てたの!」 「……そっか……」 「うぅ……でも怒るだろうなぁ~~。あの眼で睨まれると……足震えちゃうんだよなぁ~~」 「……だったら……私も一緒に怒られるよ!」 「んえ??」 「だって……もとはと言えば私の責任なんだから……」 「そ、それは……あんたが考えなくて良い事よ。起きてしまった事は姉である私が責任を果たすんだから……」 「いいの。神崎さんが理不尽な怒り方したら、私がしっかり説明して許しを乞いてあげるから。私が全部悪いんです~って」 「だから、あんたは関係……」 「あるでしょ!」 「うぐっ……」 「姉さんばっかりにおんぶにだっこは……私も嫌だし……モヤモヤするし……」 「うぅ……」 「それにこうして作戦は成功したでんしょ? 神崎さんのおかげで……」 「う、うん……」 「私だって彼女にお礼も謝罪もしたいの!」 「………………」 「でもその前に……」 「……うん、そうね……」 「ココを……出なくちゃ!」