The.UnderCover~潜入捜査官:神崎琉姫~5
Added 2019-06-26 14:53:17 +0000 UTC5:面接 『ちょっと……コレは聞いてないんですけどぉ~~!!』 翌日の朝、潜入先であるミズホモーターズを訪れた琉姫は、着替えを促され通された更衣室のロッカーの前で憤りを心の中でぶちまけていた。 『なんでオーナーに話は通っている筈なのに“面接”からしなくちゃならないのよっ! おかしいでしょ!!』 心の中でブツブツと文句を垂らしながらも、仕方なしに着てきたスーツを脱いでいく琉姫。手には昨日上司から預かったレースクイーン用の肌の露出の高い衣装が握られていた。 『しかも! この服に着替えさせるなんてっ!! 何考えているのよ!! オーナーはっっ!!』 警察署で着こなしてきた紺色のスーツとスカートを渋々脱ぎ去り、ロッカーの中に掛けてあったハンガーにそれを預けた琉姫は、その露出の高い服を手で広げて改めて視線が行くであろう露出ポイントを自分の目で確認した。 臍のみならず下乳でさえはみ出てしまいかねないビキニスタイルの胸当て。しっかりと胸に被せても胸の付け根付近までは隠せておらず胸の谷間やその膨らみも見えてしまっている。 その上には襟の付いた一見しっかりした作りのジャケットを羽織るが、袖は極端なほどV字にカットされていて胸横から肩側までの腋ラインを全て曝け出してしまっている。手を少しでも上に伸ばそうものなら、腕の付け根にある琉姫の柔らかな美ワキが衆人の目に晒される事となる。 腰の部分をベルトで留めているタイトスカートだって上に負けてはいない。 辛うじてお尻や秘部を隠してはいるものの少し斜め下から覗けば今日穿いている下着の色からどんな形状の下着を穿いているかさえも見て取れてしまう。 上下ともにラバー質の生地を使用している為か着心地は窮屈感を感じさせるし、生地がピチっとしている為傍目には身体のラインが必要以上に浮き出て見え、まるで裸にさせられている様な錯覚さえ伺えてしまう。 初めてこんな服を着る人にとっては恥ずかしいことこの上ない。こういう格好に疎い琉姫には尚更その恥ずかしさが際立ってしまう。 こんな服を着て人に見られる“面接”を受けるなど、羞恥の極みである。出来れば今すぐ潜入を取り消したい! 取り消してこの羞恥心を煽ってやまない服を破り捨てて家に帰ってしまいたい……。 そう思いはしたのだけど……。琉姫の頭にはすぐに後輩の顔が浮かんでしまう。あの悲しそうな……妹が心配でたまらない顔が……何度も頭を過っていく。 数分の葛藤の末琉姫は大きく「はぁ……」と息を吐き、そしてまた渋々手に持った布面積の小さい衣装に着替え直していった。仕方がないのだと何度も自分に言い聞かせて……。 「神崎さぁ~ん? 準備できたっスかぁ~??」 丁度上も下も着替えが終わったタイミングを見計らってか、ロッカールームのドア2回分のノックと女性特有の高い声が部屋に転がってくる。 「は、はい!」 この声にビクリと身体を反応してしまった琉姫は、上擦った声で返事を返し、いそいそと荷物をロッカーへと仕舞い込んで声のした入口へと軽い駆け足で近づく。 そしてゴクリと一度だけ唾を飲み込むと扉を開き、声の主と初対面を果たした。 「おぉ。すっごく可愛いじゃなっスか♥ 良く似合ってますよ♪」 声の主は琉姫と同じくらいの背格好で、肩まで伸びた茶色い髪は毛先がクルンとカールしているのが特徴的な……いかにも元気そうな見た目の顔立ちをした女性だった。 ニッと笑った顔は片側の八重歯が覗き、目もクリッとしていて可愛気がある。容姿は幼く見えてしまうが彼女も琉姫と同じくハタチを越えており、それが証拠と言わんばかりに琉姫よりも深く刻み込まれた胸の谷間を持って母性の強さと大きさをこれでもかと象徴していた。 「じゃあ、コッチについて来て下さいな♪ オーナーと先輩が待っているっスから♥」 別に小さいというわけでもない琉姫の胸元なのだが、自分の胸が実は小さいんじゃないだろうか? と錯覚させてしまう程彼女の胸はたわわに実っていた。その胸を間近で見せつけられしばし意識がその胸へと吸い込まれてしまっていた琉姫は、手を引いて誘導しようとする無邪気な彼女に小声の返事を返す事しか出来ないでいる。 「あ、あの……貴女は?」 痛い程引っ張られて行く腕にやっとの思いで足を追いつかせ、最初の会話を切り出した琉姫に手を引っ張る女性は振り返って無邪気に微笑ん見ながらその質問の答えを返してあげた。 「私は、秋沢 春奈(あきざわ はるな)っス! ココに入って4ヶ月目のまだまだ新人だけど、琉姫さんの事いっぱいサポートしますので、これから宜しくッス☆」 キラッと流れ星でも落ちてきそうな明るさで自己紹介を行った彼女はこの会社に入ってまだ4ヶ月なのだと言う。 その割にはレースクイーンの衣装の着こなしも、身の振る舞い方も堂々としていてとても新人だとは思えない。自分が署に配属された時なんて半年以上は緊張してガチガチに神経を尖らせていたものだけど……などと入社当時の事を思い出そうとした琉姫だったが、そう言えば2か月目には今みたいに就業時間が来ても眠りこけるようになっていたっけ……と自身の図太い態度も負けてはいなかったと思い出し、変な納得感を得てしまう。 「はい! ココ! この部屋で2人が待ってますよ♪ さ、入って入って~~」 自分よりも後輩が入る事がそんなに嬉しいのか、春奈は満面の笑みで琉姫の背中を両手で押す。 琉姫は「ちょっっ! 待って!」と慌てた言葉を零すのだが、彼女はお構いなしに面接会場の扉を勝手にノックし始める。 そして琉姫に代わって「しっつれぃ しまぁ~~す♥」と、およそ面接を受ける者の挨拶とはかけ離れた言葉を唱えて勝手に扉を開いていった。 「あ、え?? ちょっっ!」 あれよあれよの間に面接室へと押し込まれた琉姫は慌てふためきながらも、正面の机に座る面接官と思しき女性達にペコリと頭を下げて恥ずかしそうに自分が座らされるであろう空いた椅子の傍へと歩を進めた。 パタンと閉じた面接室の扉……。一瞬シンとした沈黙が部屋を包んだが、その沈黙は面接官である片方の女性が破ってくれる事となった。 「ゴメンなさいね? 騒がしかったでしょ? あの子……」 その言葉に琉姫の緊張はフッと一瞬楽になり、クスクスと上品に笑う面接官の女性に「はい……まぁ……」と返事を返した。 「それじゃあ、その椅子に座って貰えますかしら?」 黒真珠のように深みのある光沢を宿した美しい長髪をサラリと手で馴らしながら美人顔の女性は琉姫に席につくよう促す。 彼女もまた琉姫や春奈と同じ露出の高い服を着用していた。 そしてその美人の隣で物静かに琉姫の様子を伺っている妙齢の女性が一人。彼女は他のレースクイーン達とは違いスポンサーのタグを複数つけたオレンジ色のつなぎを着用している。琉姫はすぐにその女性がオーナーである事を理解した。 「はい、それじゃあ面接を始めますわね」 オーナーである女性が神妙な面持ちでこちらを伺っているのに対し、妙に明るい笑顔を振り撒きながら面接を取り仕切っていくレースクイーンの彼女。未だ一言も言葉を発しないオーナーに違和感を覚えつつも琉姫は「はい」と小さく返事を零した。 「それではまずは……名前と年齢、以前どんな仕事をしてきたのかを簡単に話して頂けますかしら?」 「え、えと……。神崎……琉姫。27歳……以前の職業は、警――じゃなくて、公務員です……いちお」 「へぇ~公務員をなさっていましたの? 市役所の職員……とかかしら?」 「え、えぇ。そうです……」 「27歳という事は結構長く勤められていたハズですわよね? そんな貴方がなぜレースクイーンに転身なさろうと決心したのかしら? 収入の安定感なら公務員の方が抜群に良いハズですのに……」 「そ、それは…………。夢……だったからです! レースクイーンになるのが……」 「……夢?」 「は、はい。子供の頃から……憧れていまして……」 「ふぅ~ん……なるほどぉ? その夢を叶えようと公務員もやめてココを選んだというわけですのね?」 「……はい」 嘘をつくことが苦手な性格である琉姫とって“警察官”という自分の身分を隠しながら面接に臨むのは苦手な射撃訓練を行う事よりも難しい。声は上擦り唇は震え、何を突っ込まれて聞かれるか分からない不安に額から冷たい汗が伝う。 言葉を返しながらも手は落ち着かず自分の意思とは無関係に自身の短くなった髪先を弄る仕草をしてしまう。 どんな役職でどんな仕事をしていたのか……そんな事を追及されれば嘘がばれてしまうかもしれない……。 昨日まで夜な夜な考えてきた自分の設定が簡単に嘘だと見破られてしまうかもしれない……。 琉姫の不安は時間を追うごとに、言葉を返すごとに増していく。 「ウフフ♥ それは良い判断だったのかもかもしれませんわね……」 しかし、琉姫の不安とは裏腹に面接を仕切っている女性は、特に琉姫の過去を掘り下げようという気概は見せない。 「貴女のそのプロポーション……」 その代りに下からボディラインを舐めるように見上げる熱い視線が琉姫に注がれる。 「くびれた腰……適度に膨らんだ胸……白くて艶やかな健康的な腕……」 まるで品定めをされているかのような色を帯びた視線。言葉と共に各部位を見られていると意識した琉姫は自分の露出した箇所を隠したいと思うのだが、布面積の少ないこの衣装で隠せる箇所などほとんどなく……面接官によるこの視線による辱めを黙って耐える事しか許されない。 「素晴らしいわ♥ とても私好み……いえ、レースクイーン向けのボディをお持ちよ♪」 上に下にと視姦するかのように目線を這わせた彼女は心なしか頬を赤く染めつつもコホンと咳払いをし、また朗らかな笑顔を琉姫に向け直した。 「それじゃあ……ポーズを見せていただこうかしら?」 「……え? ポーズ??」 「そう……ポーズですの♥ レースクイーンをやるにあたってポーズをとる事こそがその身体をより魅力的に見せてくれますのよ?」 「えっ? 今から……ですか?」 「えぇ……やって見せて頂戴♥」 「で、で、でも! 私……ポーズなんて練習したことありませんし……」 「あら? 憧れて面接に挑んだのであればポーズをとる事くらい勉強していると思っていたけれど……そうじゃなかったみたいですわね?」 “しまった!”と、琉姫は焦りの言葉を心の中で零す。表の表情は眉1つ動かさずクールな顔を崩してはいないが内心は嘘がばれてしまったのではないかと焦りの色を濃くさせてしまう。 油断して出てしまった本音が潜入の最初の一歩さえ踏めず終わってしまうかもしれない……琉姫は自分の軽率な言葉選びに後悔の念を禁じ得ない。 「しょうがありませんわねぇ~それならば私が少し……教えて差し上げますわ♥」 しかし、やはり琉姫の不安は的を得ない。面接を仕切っている女性は琉姫を怪しむどころか優しく微笑みを浮かべて席を立ち、ツカツカとハイヒールの音を部屋中に響かせながら琉姫の座る椅子の真横へと移動してくる。 「さぁ、立ってちょうだい?」 座っていた時には気付けなかった彼女の背の高さ。ハイヒールのせいもあるだろうが琉姫よりも頭一つ分高いその身長に妙な威圧感を感じてしまう。 「そう。じゃあそのまま“ワキ見せ”のポーズ……やってみましょうか♥」 「わ、わ、ワキ……見せ?」 「えぇ……。レースクイーンにとって基本中の基本ですのよ?」 「え、えっと……? あの……」 「ほら、右手を思い切って頭上まで上げて……」 「は、はひ?? んへ??」 「ほ~~ら! 恥ずかしがらずにやるの!」 ワキ見せのポーズを取れと言われ頭が真っ白になってしまった琉姫は、隣に立つ美人顔の面接官に焦りの顔を向けてしまう。 こんな袖も何もない衣装を着た状態で腕を上げたら普段誰にも見せる事など無いワキが丸見えになってしまう。水着などを着て自然にワキを晒す事には抵抗など無いが、人に指示されあえてワキを見せるポーズを取るとなると話が変わってくる。 他人に見られる事を意識してワキを見せる事に慣れていない琉姫には羞恥のハードルが高すぎた。そもそもそんな練習など参考程度にしかしてきていないのだから慣れていないのは当然である。 「こんな風に、右手を上げて~~」 顔を羞恥の色に染めて恥ずかしがる琉姫の腕を掴んで面接官の女性は無理やり彼女の腕を引っ張り上げていく。 一瞬その行為に反射的に抵抗してしまいそうになる琉姫だが、この面接が潜入の為の第一歩である事をすぐに思い出し繰り出そうとした護身術の構えを密かに解いた。 「はぁ~い、そのまま頭の上に腕を置く様に肘を曲げてぇ~~そのままキープよ♥」 抵抗しなくなった琉姫の腕を楽しそうに自分好みの格好に仕立てていく面接官。右の腕を頭上で曲げさせた後すぐさま琉姫の正面に回り左腕も掴んでこちらも右腕同様に上げさせていった。 「左の手は伸びてきた右手を掴んで~~」 両手を万歳するような格好となった琉姫は無防備に晒された自身の腋を意識してしまい恥ずかしさに頬を真っ赤に染めていく。普段腕を上げる事など造作もない行為なハズなのに……ワキを見せる事を意識して腕を上げていくという行為は、なんだか胸や性器を曝け出すかのような恥ずかしさを伴い、イケナイ事をしているかのような錯覚に陥ってしまう。 「うん。いいわ♥ このポーズのままお尻を少し横に突き出して……これで完成ですの♪」 頭上を横切る右腕を左手で掴むような格好……。そして挑発するかのように腰をくねらせてお尻を横に突き出す淫靡な姿……。 確かに雑誌などで見るレースクイーンはこのような格好をしていたように思う。 しかしそれを素の状態で再現するのはこんなにも恥ずかしい事なのか……。琉姫は顔を真っ赤に染め羞恥心を表に出さないようにする為か唇を軽く噛んだ。 「ウフ♥ しっかり手入れされていて……ツルツルの良いワキじゃない♥」 正面からジロジロと琉姫の伸び切った腋を覗き込む面接官。言葉にしてワキを見た感想を伝えてくる彼女に琉姫の恥ずかしさは頂点に達する。 「あ、あ、あの……もう……降ろして――ンひゃっ!!?」 恥ずかしさのあまりポーズを解除して良いかと尋ねようとした琉姫だが、面接官はその言葉を遮る様に彼女の腋に手を伸ばし人差し指を立ててその腋をなぞり始めた。 「ワキを見せると言う行為はね、レースクイーンが衆人に自分をアピールする為の最高の武器なの。自分をアピールすると言う事は自分の所属する会社……果てはスポンサーになってくれている会社のアピールにも繋がるのよ。だから……このラインをしっかりと見せつけてあげなさい♥ このラインを……」 細くて長い人差し指が琉姫の腋窪の丘陵をサワリサワリと繰り返し撫で上げる。 そのゆっくりした動き……触るか触らないかの絶妙なタッチに琉姫はこそばゆさを感じずにはいられない。 「ちょ、ちょっっっ!! その触り方、気色悪いですっっ!! やめて下さい!!」 軽く身体を左右に振りその行為をやめさせようと試みる琉姫だが、ほんのり頬をピンク色に染めた面接官の女性はやめるどころか淡々とマイペースに触りながら自分の話を続ける。 「ワキからは特有のフェロモンが出ていると聞くわ♥ このフェロモンを嗅ぎたくて男達は貴女の腋に夢中になってしまうの……だから、しっかり見せてあげなさい。このいやらしいワキのラインを……堂々と……」 「うくっっ!! や、やめ……はうぅぅぅぅぅっっ!!」 何度も何度もワキの丘陵を撫で上げる細指のこそばゆさに思わず笑ってしまいそうになる琉姫だが、このような場で無様に笑う姿を晒すのはそれこそ羞恥の極みに達してしまうと自覚し、唇を更に強く噛んで必死に笑いたい衝動と戦った。 そんな我慢して腕を上げている彼女を見て面接官はニンマリといやらしい笑みを零し更なる悪戯を彼女に強いる。 「んひっ!!? ちょっっっっ!! 何するんですかぁぁぁっは!!? や、やめっっっ!!」 片手だけでは飽き足らず反対の手も琉姫の美ワキに這わせ、今度は容赦なく全ての指を蠢かせて無防備な腋の筋を堂々とくすぐり始めた。 「ほら! 腕は降ろしちゃダメ! これも面接の一種なの! ワキの触り心地も確かめなきゃ参考にならないわ♥」 「にひぃぃぃっひっひっひっひっひ……んぐぅぅぅぅ!! 参考にってなんですかぁぁぁ! や、やめっ! くすぐったい!!」 崩れそうになる体勢をどうにかキープし、降ろしたくて堪らない腕もギリギリ維持してくすぐったさに耐える琉姫。 そんな彼女の頑張りに枷を繋ぐように面接官は腕を降ろさせないよう釘を刺す。 「アハ♥ とっても柔らかくて触り心地の良いワキね♥ 良いわぁ~とっても好みのワキよぉ♥ ンフフフ♥ もう少し我慢なさい! 私が下げて良いと言うまでワキ見せポーズを続けるの! いいですわね?」 いつの間にか人差し指だけで触っていた片方の腋の方も反対側と同じように全ての指を使ってまさぐり始めている彼女のくすぐりに、琉姫は身を捩って身体を折り曲げようとしながら抵抗しようとする。でも、このまま面接官の言葉に逆らって初潜入を白紙に戻してしまうのだけは避けたくて渋々彼女の悪戯に耐える事を選択してしまう。 腋の筋をコチョコチョと触りまくって刺激する気色の悪いむず痒さに、嫌悪感と笑意が同時に襲い琉姫の頭を混乱させる。 笑ってはいけない場所で笑いたくなっている自分と、敏感な皮膚を撫でられ気色悪さを感じてしまっている自分。快と不快が入り混じる感情がどちらも尖っていてどちらに傾いていいかも分からない。じれったくて不愉快な感情……だけど顔は反比例するように笑顔になっていく。ワキを触られる度に普段笑顔を零す事も少ない表情に笑いの形が形成されていく。 「その恥ずかしがる顔も……笑いを堪えている顔も最高よ♥ まさに逸材ね……嫉妬しちゃうわ♥」 「やっはっっ! やめっっ!! やめてくださいっっひ!! 触るのをやめてッッ!!」 首を横に振り身を左右に捩りながら琉姫は必死に笑うまいと口を噤む。しかし、笑うまいとすればするほどに口元は緩み始め、拒否の言葉を零すと同時に笑いの一部が溢れ出してしまう。 「これから私達がしっかり“教育”してあげますわ♥ 楽しみにお待ちなさいね?」 最早腕を上げておくのも限界! と思い始めた矢先、面接官の女性は両腋をくすぐっていた手をスッと降ろしニコリと優雅な微笑みを浮かべながら自分の席へと戻っていった。 気色の悪い責め苦を受けた琉姫は、彼女が席に戻り「降ろしてもいいわよ」という言葉を聞いてからゆっくりと腕を降ろしていく。 こんなにも長い間両手を上げていた事など無かった琉姫には降ろした瞬間の腕が自分のモノではないかのような錯覚を受ける程に重く感じた。笑いを堪えるのに力んでいた為呼吸も乱れ、額にはほんのり汗を浮かべてしまっている。 たかだか1~2分程の戯れであったはずなのに、琉姫の疲労感は警察学校で訓練してきた柔術の授業よりもしんどく感じられた。 このしんどさが単純に腕を上げていただけだからというモノではないことぐらいは考えなくても答えに行き着く。 ワキを見せる恥ずかしさ、触られる嫌悪感、腕を降ろす事や笑いを我慢させられる圧迫感……それらが合わさって自分の体力を大いに削っていったのだとすぐに気づいてしまう。決して体力がないだとか訓練が足りないだとかそういう類の落ち度ではない。ほんの数分間ワキを弄られただけで大幅に削られたのだ……気力も体力も……。 「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……」 席に力なくパタンと腰を落ち着けた琉姫は未だに息が整わない。心臓の鼓動も普段の倍以上に脈打っているのが自分でも分かる。疲労感と脱力感が同時に襲い強烈な気怠さを身体全体に感じる。 「ウフフ♥ “今日のトコロは”これくらいにしておいてあげますわ。明日からのレッスンも……しっかり頑張って下さいましよ?」 「……は、はい? じゃ、じゃあ……私の面接は……合格で……良いと言う事ですか?」 “明日からのレッスン”という言葉を聞いて自分の面接はどうやらアレで良かったらしい……と判断した琉姫は、どうにか潜入の為の第一関門を突破できたようだとホッと息を吐く。 「当然ですわ♥ 貴方の様な子がうちに入ってくれたら会社も活気が出ていい感じになりますもの♥」 「は、はぁ……ありがとう……ございます……」 「そうそう、ごめんなさいね? まだ名乗ってすらいなかったわね……。私はミズキモーターズの専属レースクイーン兼チーフトレーナーを任されている三城屋 楓(みきや かえで)ですの。よろしくお願いするわね」 「は、はい!」 「そしてずっと黙ったままだったけど、隣で難しい顔をしている彼女が……オーナーの三洲穂 咲枝(みずほ さきえ)さん……覚えておいてね?」 「……はい」 肘を机につき両手を組んで手の甲に顎を乗せ小難しい表情を向けるオーナーの咲枝。何か考え事をしているのか……それとも琉姫に訴えたいことが有るが含んでいるだけなのか……どちらとも取れる様な眼差しでジッと彼女を見つめ続けるオーナーに、言い知れぬ不気味さを感じ取った琉姫は少し警戒色を強めてペコリと頭を下げた。 チーフにも言われた“薬物使用の実行犯かもしれない”という言葉通り……オーナーの顔はやはり何かを含んでいる様な表情をずっと続けている。 それが何を表すのか? この時の琉姫には知る由もなかったが、面接の終わり際に楓が扉から退出した後静かな声で一言だけ琉姫へ言葉を零した。 たった一言…… 「ごめんなさいね……」と。