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ハルカナ
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くのいち姉妹と恐怖のくすぐり屋敷:9

9:絶望の深淵 「ぷひゃっっっっ!? んひゃあっぁぁあぁはははははははははははははははははははははは、ちょ、ちょ、ちょっと待ってぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! ダメッッ!! そんなトコ触っちゃダメぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇぇ!!!」  美月の身体の左右に陣取ったマジックハンドは、それぞれ指で摘まむ様に持った小さな茶色い羽根をヒラヒラと上下に動かし、彼女の伸び切って晒された素肌の生腋へと這わせていく。  腋の緩いカーブを描いている窪み部分。こそばゆい刺激を敏感に感じ取る神経が集まったこの箇所を、小魚が餌に群がるかのように複数の羽根先がコチョコチョと這い回っている。  吊り革にぶら下がっていて全体重を腕に預けている美月の腋は、これでもかという程ピンと伸び切っていて緊張を強いられている。自重を支えるために筋力を腕に集中させている為、浮き出た血管や筋肉の筋がはっきりと腋の窪み周辺にも現われ、その腋に力がこもっている事を見た目に分からせている。  そんな力んでいる腋の筋を、乾燥してケバケバした細い羽根先がツツツ……ツツツ……と撫で上げるものだから、剥き出しの神経を逆撫でされているかのような錯覚を感じ美月はゲラゲラと笑い始めてしまっていた。  命懸けの状況に置かれているのだから笑ってはいけない事など百も承知だが、あまりのこそばゆさに美月は無条件で笑わされる。笑っている余裕など一片すらない状況なのに…… 「んはぁぁっははははははははははははははははははははははははは!! やめっっへへへへへへへへへへへ!! や、やめてぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! やめなさいったらぁぁぁ!! こ、このっ!!」  美月は笑いながらも怒りの声を上げ身体を振ってくすぐったい刺激から逃れようと身を捩る。  しかし、ぶら下がった状態の美月は身体を捩ってもすぐに元の位置に戻らなくてはならない。ずっと身体を捻った状態にし続けるには相当の筋力を要してしまうのだから……。 「ぷはっははははははははははははははは!! や、やめ!! ふざけないでぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! と、止めてよぉぉぉぉぉぉぉ!! 早く止めてぇぇへへへへへへへへへへへへへへ!! お、落ちるぅぅ!! 落ちちゃうぅぅふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」  どんなに身体を捻っても吊り革一点で身体を支えている美月に変えられるのは腋の窪みの形くらいのもの……。  どんなに捻っても、マジックハンドの羽根くすぐりから逃れる事は出来ない。無駄に体力を消費するだけである。 「ウフフ♥ どう? 死の恐怖を感じながら笑わされる気分は……。堪らないでしょ?」  笑い悶え、手を離せば奈落の底に落ちてしまうという緊張感に顔を青ざめている美月に梢の声が挑発を加える。この命懸けの場でふざけた“悪戯”を仕掛けるマシンを操る無慈悲な女性。憎むべき敵……外道なくのいち……。  頭の中では様々な蔑称を浮かべる美月だったが……それは口に出さず、笑いながらも仕方なしにこの機械を止めてほしいという意思だけを言葉として紡ぐ。 「は、は、早く止めなさいぃぃぃぃひひひひひひひひひひひ!! は、早くっっふふふふふふふふふふふ!! 早くぅぅふあぁぁぁぁははははははははははははははははははははははははははははは!!」  懇願はやがて強い言葉となって訴えを起こす様になっていく。強い言葉になれば成る程に美月に余裕がなくなり落ちてしまうという焦りを梢に伝えてしまう。  気丈に振る舞っていたが美月だって多感な女子高生と言うお年頃……。死の恐怖に耐えるなんて、修行では出来ても実際に自身に現実として突き付けらて受け入れられる人間なんてそうは居ない。  まだ死にたくはない。生きていたい……。  彼女だって普通の生活を送ってきた期間が長いのだから、そう思ってしまうのは当然である。 「助かりたい……でしょ? 死ぬのが怖くなってきた……でしょ?」  そんな彼女の心情を汲み取った梢はニヤリと口角を上げ静かにマイクへ声を入れる。 「少しでも長生きしたいって願うなら……稲穂が伝えた情報を私に教えなさい。誰がこの屋敷に潜入したのか……早く吐いてしまいなさい」  死にたくなければ情報を吐け……と聞こえかねないその言葉に、美月は笑い悶えながらも一瞬“楽になりたい”という考えが頭を過る。  死の恐怖に怯えながら必死に落ちないように掴まっているこの状況から解放されるならば、自分の知る情報を吐いてしまっても仕方ない……と思いかけるが……。 「あひひひひひひひひひひひひひひひ!! い、い、言えないっっひひひひひひひひひひひひ、それは言えないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」  美月は寸前の所で踏みとどまる。  そしてその意思を梢へとぶつける。 「どうして? 貴女の母親は貴方達を裏切ったのよ? そんな彼女に義理立てる必要は……もうないでしょ?」 「だ、だ、だめっっへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 絶対に教えないぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! 絶対にぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひ、んははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」  自分が死の淵に追い込まれている時ほど甘い考えや逃げの思考は出易いもの……。修行中にそれを教えてくれたのは他ならぬ稲穂だった。自分達を裏切った師ではあるが、彼女の教えは悔しいかな間違ってはいなかった。  この言葉は自分が甘えそうになっていた事を寸前の所で自分に気付き直させ、美月の決意に再燃の火を灯す。  どうせ自分はこの女に殺される……。殺される相手に自分の身可愛さに情報を喋って死んでいくなんて……無様すぎてくのいちとして歩み出した自分を否定しながら死を迎える事になってしまう。  それだけは嫌だった。  くのいちになろうとしたきっかけは確かに義母を助けたいという一心だったが、それ以外にもくのいちという存在は美月の中で正義を感じていた。世の中を命懸けで良い方向に導きたいという憧れと期待……それを稲穂に投影していた。  稲穂には裏切られたとしてもその正義は色褪せてはいない。  自分の正義は……死の間際であっても貫き通したい。それが美月の答えだった。 「そう? まだ絶望が足りなかったみたいね? じゃあ……もっと苦しめてあげる。死の間際に立たされてもその言葉を吐けるか……試してあげようじゃない!」 ――ピッ!  スピーカー越しに梢が何かしらのスイッチを入れた音が漏れ聞こえる。  その音と同時に、待機していた羽根を持っていない4本のアームが突然動きを見せ美月の脚に沿って下へと場所を移し始めた。 「はひひひひひひひひひひひひ!! 絶対ぃぃぃひひひひひ、言わないっっっ!! 絶対にぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!」  足元へと降りていったアーム達はそれぞれがその自由に動く指を使って器用に履いていた草鞋を掴んで彼女の足からそれを脱がしていく。  そしてその脱がせた草鞋をポイと奈落の底へ捨て去ると、4本のアームは早速と言わんばかりに美月の裸足の足裏に指を這わせ始める。 ――コチョコチョコチョ…… 「はひっっ!? あひひひひひひひっっ!? ちょ、ちょっっっっっ!!」  その機械仕掛けの指達は美月の無防備な足裏を指の先で掠ってくすぐっていく。  敏感な土踏まず……カカトや指の付け根は勿論、足の端の方や母指球のふもと……母指球と小指球の間の谷間など、こそばゆさを感じるあらゆる箇所に20本の指が這い回っていく。 「ぶひゃっっっっ!!? んひゃあぁあっぁぁぁあははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、や、やめっっひぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇひぇ!! だ、だめっっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!  美月は思わず足を振ってそのこそばゆさから逃れようと試みる。しかし、動くことを察知したのかアームのうち2本が足首に絡みつき、その足を振ろうとする美月の動きを抑止してしまう。  宙に吊られている状態の美月に足を振る以外にその刺激から逃れる方法はなく、裸足にさせられた足裏はすぐにアーム達によるくすぐりに支配される事となった。 「さぁ……あとどれくらい耐えられるかしら? 5分? 10分? それとも……30分以上も粘れるのかしら?」 「うぴゃあぁぁぁははははははははははははははははははははははは、くす、くすぐったひぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! んはぁぁぁはははははははははははははははははははははははははははははは!!」 「ほらほらぁ! 手が吊り革から離れそうになってるわよ? 大丈夫? もう落ちちゃうんじゃないの?」 「えひひひひひひひひひひひひひひ、いははははははははははははははは!! 手がっっ痺れてっっへへへへへへへへへへへへへへへ、感覚がぁぁぁはははははははははははははははははははは!!」 「少し休みたいでしょ? 手を離して地に足をつけて休ませたいでしょ? だったら答えなさい!! 情報を漏らしたのは誰なのっッ!!」 「うひへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ! あへひふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、んひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! じぇ、じぇったい、言わないぃぃぃひひひひひひひひひひひ!! 絶対教えないぃぃぃぃぃぃひひひひひひひひ、んははははははははははははははははははははははは!!」 「むくぅっッ!? まだ強情張る気? 本当に落ちるわよ? いいのっ?」 「んひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、わだじはぜっだい喋らないぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! 死んでも喋らないぃぃひひひひひひひひひひひひひひ、くはははははははははははははははははははははははははははは!!」  腋の窪みを小さな羽根がコショコショと摩り、足の裏をマジックハンドの小さな指達がコチョコチョとくすぐっている。吊り革に掴まり必死に腕だけで身体を支え、落下してしまうのを耐えようとする美月をこの無慈悲なくすぐりは大いに笑わせている。  笑ってはいけないと思えば思う程可笑しくて堪らなくなり、死の淵に立たされているにもかかわらずゲラゲラと笑いが吐き出されていく。笑っている場合ではないハズなのに……。 「そう! だったら……これでどう? これは耐えられない筈よっ!!」 ――ピピッ!  スピーカーからは再びリモコンか何かを操作する音が鳴り響く。  すると、腋を羽根でこしょぐっていたアームの内2本だけがその羽根をポイと放棄し、次の命令を受け取った事を表すように美月の背後に回った。 「はひっ!? はひひひひひひひひひ?? な、何っ?? 何を……」  背中に回ったアームはそこから手だけをニョキっと美月の胸横から突き出し、くすぐる振りをする様に指を蠢かせ始める。 「う、うぞっっ!? ま、ま、まさかぁぁ!?」  そしてその指達はゆっくりと美月の胸横……腋と脇腹の丁度中間にある、あばら付近に触れていき……。 「ま、ま、待っで! そ、そこは……ダ……メ――」  一気にモニョモニョとまさぐり始めた! 「――んぶふっっっっっっッッ!!!」   指が肋骨の間にめり込み、その皮膚奥で指先がムニムニっと強く動き始めると美月は思わず肺の中の息を思いっきり吹き出し……そして―― 「んぶひゃああぁぁぁっぁああぁぁぁぁあぁああぁはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、ひぎゃああぁぁぁはははははははははははははははははははははははははははははは!! だ、だ、だ、ダメぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! それはだめぇぇぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  溜め込んでいた笑いを一気に吐き出すように盛大な大笑いを口から放ってしまう。 「おひゃぁぁぁああぁぁはははははははははははははははははは!! らめらめらめぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!! 耐えらんないっっひひひひひひひひひひひ、いひひひひひひひひひひひひひ!! こんにゃの耐えらんないぃぃっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひっひ!!」  身体に電撃が走ったかのような痺れる様な強烈なこそばゆさ! 美月はその刺激に宙吊りでありながらも身体を弓なりに大きくビクつかせ、身体を暴れさせようと左右に捻ろうとする。しかし身体を左に傾けても右に捻じってもピタリと胸横に張り付いたマジックハンドからは逃げられない。  機械の手は美月の嫌がりなどお構いなしに、いやらしい指遣いで肋骨の間を強くくすぐっていく。 「おひゃあぁひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、いへははははははははははははははは、んぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! 力が入んないぃぃぃひひひひひ! 手にちかりゃが入んないぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ、んはははははははははははははははははははははははははははは!! やめへぇぇぇぇぇぇぇぇ! やめへぇぇぇへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」 「止めてほしかったら分かってるでしょ? ほら! 落ちたくなかったらさっさと吐きなさい!! 誰? 情報提供者は誰なのッ!!」 「んはぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁ、も、も、もうダメ!! もう限界ぃぃひひひひひひひひひひひひひひ!!」 ――ズルッ!  激しい絶笑を繰り返す美月の左手は握力の限界を迎え、右手よりも先に戦線を離脱してしまう。左手は吊り革から力なくズレ落ち、もはや身体を支えているのは右腕一本のみとなってしまった。 「は、早く言いなさいっッ!! さもなくば本当に落ちるわよ? 言えば助けてあげるわ!! 助けてあげるからっッ!!」  支えるものが右腕一本だけとなった美月に対し機械の手は容赦がない。脱落した左腕をくすぐっていたマジックハンド達は最後の抵抗を見せる右の腋に回り込み、元々くすぐっていたアーム達と合流して一斉に短い羽根を無防備で無抵抗な右の腋窩に突き立て這い回していく。  伸び切った腋の窪みは10本もの茶色い羽根に這い回られおぞましいこそばゆさを美月に伝えている。  美月は力尽きた左手でどうにかその羽根を払おうと試みるが、左手は思う様に上げられず抵抗の意思が伝えられない。  もはや全体重を握って支えている右手も感覚がなく、ズルズルと指先が吊り革から滑るように離れそうになっていく。 「いひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! しゃ、喋らないっっひひひひひっひひひひひひひひひひ!! じぇったい喋らないぃぃぃぃひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!! んはははははははははははははははははははは、いひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」 「ご、強情ね! いいから喋るのッ!! 落ちるわよ! 早く言わないと本当に……」  小指が離れ……薬指も吊り革を放し……親指もズレ落ちていく。  今、吊り革を掴んでいるのは実質中指と人差し指だけ……。  そんな状態で身体の全体重を支えられるはずもなく、美月もいよいよ最後の時を覚悟した。  そして梢の言葉も耳に入れようとせず、最後に放った言葉は…… 「し、時雨…………助けてあげらえなくて……ゴメンね――」  最後の最後は自分の身を案ずる言葉でも屈服の言葉に縋る訳でもなく、義妹への謝罪の言葉が口から零れた。  そして、美月は自分から中指と人差し指の力を抜き……スッと闇に呑まれる様にその身を縦穴の奥に吸い込ませていく。 「うくっっ!! な、なんで! なんで喋ららないのよっッ!! うぐっっっっ!!」  梢はマイクがオンになっているのも構わず、屈服させられなかった憤りの声を悔しそうに上げる。  美月は落下しながらも『自分はやり切った』と自分を誇りながら目を閉じ、意識を途切れさせていった。  完全に意識が無くなった後、美月の身体は深い縦穴の底へと辿り着き……    その身を地に衝突させた。 ―――――― ―――― ――  あの高さから落ちたのだから床に衝突すれば身体などバラバラになってしまう事だろうが……  美月の身体は無事だった。  身体だけでなく……その命も……。  落下後に衝突した床……  それはただの床ではなく、柔らかな素材で作られたクッションが高さを持たせて敷き詰められていた。  落下しても助かるように……。  落下しても死なないように……。  これが何を意味するのか、意識を失った美月にはまだ判断は付かない。  しかし次に目を覚ました時、全てが明かされる事となる。  目の前に広がる信じられない光景と共に……。


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