その日の夜。
中野五月はいつも以上に疲弊した身体をベッドに投げ出していた。
夕食を終えたあとすぐに入浴を済ませ、火照ったままの肉体は使用しているせっけんの香りで包み込まれている。
仰向けになった状態で天井を見つめているのは、そこに特段何かがあったからではない。彼女の頭の中では昼間の出来事が鮮明に思い起こされており、自然と無気力な格好になっているだけだった。
五月が思い出しているのは、男の熱り立つ肉棒の感触。息を荒げて顔を歪める姿。そして舌先で感じた、亀頭から溢れ出す精液の味。
先端からとぷとぷと溢れ出てくる精液を舐めとり、その味を確かめたのは初めての経験。強烈な匂いに、形容し難い不思議な食感は、彼女の人生の中で最も淫らな欲望を掻き立てる興奮材料になった。
それと同時に湧き上がる一つの後悔。それはあと一歩踏み出せず先送りにした口淫の機会だ。
舌先で少し触れたのみで、咥えるには至らなかった男の陰茎。
胸に挟まれたままビクビクと脈打ち、我慢汁でコーティングされて艶めく亀頭の姿を今でも鮮明に思い返すことができる。
きゅんと疼く下腹部と乳首を少し撫でながら、明日も男との約束があることに頬が緩む。
この気持ちが恋などではないことを彼女は理解している。
二乃と肉体関係のある男の間に割って入ろうなどと思っているわけではない。二人が交際しているわけではないということは、以前の男の反応を見れば明らかなのだが、このまま『ふしだらな関係』でいることは、不思議と不快な気分でもなかった。
一人の男が、自分のする行為によって性的絶頂を迎える姿に、彼女は少なからず魅了されていたのだ。
明日は男にどんなことをしてみようか、次第に興奮し始めた考えを強引に心の奥に押し込めて、五月は目を閉じる。
今日が終われば、また男に会うことができる。だったら、すぐに寝てしまうのも良いかもしれない。
深い呼吸で暗闇に思考が落ちかけたとき、階段を上がって五月の部屋の前で立ち止まった足音があった。
(誰……でしょうか……)
戸を叩く音で意識が引き戻され、五月はその扉をゆっくりと開けた。
「五月、もう寝てた?」
頭で揺れる大きなリボンを触りながら、四女―中野四葉が神妙な面持ちで立っていた。
「まだ寝てませんよ、どうしたのですかこんな時間に」
「ちょっと聞きたいことがあってね、いい?」
「え、ええ。構いませんが」
普段とは違う雰囲気の四葉に対して、五月は奇妙な違和感を覚えていた。
四葉は姉妹の中でも最も溌剌とした性格で、姉妹同士の会話でこんな表情を見せることは殆どない。
だからこそ、彼女の言葉に五月はひどく動揺した。
「あのね、五月今日の昼休み、何してた?」
「…………え」
睡眠直前でぼんやりとしていた頭が、一瞬にして冴える。
見られた、聞かれた、どこで、どうして、いつ。様々な雑念が湧き上がって考えがまとまらず、言葉が出てこない。
「お昼休み、ですか。え、えっと……何でしょう? 普通に昼食を取っていましたけど」
当たり障りのない、露骨に穴の空いた乱暴な返答に四葉の表情が曇る。
「食堂に来なかったから私探しに行っちゃってね、クラスの子にも聞いて……」
それ以上言わないでほしい。
何も言わずに引き下がってほしいといくら念じたところで、四葉の言葉は止まらない。
「屋上に行ったの」
五月の身体が強張り顔が引き攣る。
「よ、四葉」
床を見つめる四葉の言葉が一瞬詰まり―
「もしかして、彼氏できたの!?」
目を輝かせて問いかける四葉を、五月は強引に自室へと引き入れた。
◇
翌日の放課後。
「気持ち良いですか?」
「ん……んっ」
誰もいない屋上のベンチで、五月は男の乳首を撫で回していた。
時折口で吸い付いては舌先で転がし、充分固くなる頃には陰茎が苦しそうにスラックスの中で震えているのが確認できる。
男の気分を興奮状態にまで押し上げるのは、そう難しいことではない。五月ほどの美少女が擦り寄って身体を触ってくるのだから、大抵の男子はすぐにでも劣情を湧き上げてしまうだろう。
それに加えて、男の身体には乳首という弱点がある。愛撫する心理的ハードルは性器よりも低く、反射的に発せられる甘い声は聞いている五月にも興奮作用が働く代物だ。
「苦しそうです、出してあげますね」
ファスナーを下ろしてパンツの中を弄り、勃起した肉棒を優しく掴んで引っ張り出す。
既に我慢汁が先端から出始めており、ムワッとした熱気が服の中から同時に吐き出された。
「恥ずかしいので、見ないでくださいね」
「何……する気だよ……」
「目を閉じていてくださいっ!」
強い口調に気圧されて、男がぎゅっと瞼を閉じる。
五月の鼻息が亀頭を掠め、ぷにっとした感覚が左右に振られ、ピチャピチャと厭らしい音を立てて裏筋に触れる。
そして、温かい空間に亀頭が閉じ込められた。
最初にこつんと当たった固いものが何なのか、男は積み重なった経験で知っていた。
ぎこちなく前後に動きながら、肉棒は手に握られて亀頭だけが異様な快感に包まれている。
「んっ、んっ、んっ」
右の乳首は五月の細指に弾かれ続け、性器を満たす贅沢な快楽に意識が飛んでもおかしくない。
五月が漏らす声が聞こえ、男は我慢ができなくなっていた。
ゆっくりと目を半開きにして下を見ると、口を窄めていやらしく男を見上げる五月の顔が視界に映った。
「五月の口……気持ち良い……っ」
「目を閉じていてと言ったのに、本当にどうしようもない人ですねっ」
◇
ずるずると身体の奥から精液を引きずり出されるような感覚に、男の腰が浮く。
「まだ出そうですか?」
「もう……無理っ! そんなに吸われたら……やばい……っ!」
吸い付きながら亀頭の後ろをくどいほどに舐め回し、口の中から陰茎が開放された頃には、男は天を仰いで息を荒げていた。
過剰なまでの愛撫は五月が不慣れな故でもあるのだが、一人の少女が自分の性器に対してこれほどまでに奉仕している姿は思春期の男子には刺激的過ぎる。
裏筋を舌先でぺろりと掬い上げ、雁首に付いた精液がなくなるまで何周も舐め取る。射精したばかりで敏感になった肉棒に、優しい奉仕の強弱がたまらない。
「そんな、そこ……だめだって……っ」
「気持ち良さそうな顔をして、何が駄目なんですかっ?」
一旦は静まりかけた陰茎が再び固くなり、五月の表情が綻ぶ。
「ちゃんと、綺麗にしてあげますからね」
再び口の中に捕らえられた亀頭の感覚に、男の身体がビクリと跳ねた。
◇
帰宅した五月は、四葉の悪戯な笑みを見て思わず大きな声を出した。
「違うと言っているじゃないですかっ!」
「えへへ、照れなくてもいいのにー!」
幸いなことに、男と五月の関係性は四葉に知られていなかった。
四葉は屋上で二人が談笑している姿をちらりと見ただけだったようで、会話を盗み聞く勇気が出ずに立ち去ったという。元来四葉は嘘をつくのが苦手な性格なので、その言葉を五月は素直に受け入れた。
しかしながら、交際しているのかという問いを明確に否定した五月に対して、四葉はまるで信じようとしない。
この場合、動揺のあまり中途半端な否定をしてしまった五月にも落ち度はあるのだが、昨日から四葉は五月のことを面白おかしくからかっている。末っ子である五月は、四葉が唯一"お姉ちゃん”できる存在であり、妹の恋愛事情が気になってしまうのも姉の性というものだろう。
だがこの姉妹の微笑ましいじゃれ合いは、場合によっては笑うことができないほどの状況を生み出してしまう。
「何騒いでるのよ?」
二階の廊下から見下ろす姉妹―二乃の姿を見て、五月は反射的に目を反らしてしまった。
【Side:S 五女-ゴブンノイチ- つづく】
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11/6(土)21:30公開予定
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