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【限+文】Side:M 次女-ゴブンノイチ- #05(Fin)

その日の授業が終わったのは、普段よりも三十分ほど早かった。

この学校ではB日課と呼ばれている短縮授業が行われたためである。

理由自体は教職員会議が予定されているからのだが、そのことを知る生徒たちは多くはない。

そもそも、少しでも早く授業が終わるという特別感の前では、早く終わる理由など至極どうでも良いことなのだ。

放課後を告げるチャイムが学校中に響き、帰宅する生徒たちの足音と話し声で校内は一瞬にして騒々しくなった。

男も帰宅しようと持ち物を整理していると、クラスメイトの雑踏から一人の少女が自分の許へと近づいていることに気が付いた。

「お疲れ」

「あぁ、お疲れ二乃。行くのか?」

「そうよ」

「……分かったよ」

夜まではこれと言って予定がなかったため、何も告げない二乃の真意を察して男は頷いた。

学校で二乃が話しかけてくる用事など、一つしかない。

先に教室から出ていく二乃の姿を、男は追わない。

生徒たちがある程度居なくなるのを待ってから、男は屋上へと向かう。

二乃と一緒に肩を並べていたら、それこそ二人の親密さを周囲にアピールしているようなものだからだ。

携帯端末へ事前の連絡をして来るのが通例ではあるが、今日のように突発的な約束の取り付けが稀にあり、その度に男は気恥ずかしさで小さくため息を漏らしている。

男が屋上に着くと、ベンチに座った二乃がぽかんと空を眺めていた。

「よっ」

「ん」

断りなく隣に腰掛けた男に、二乃は何も言わない。

それどころか、身体を擦り寄せて男の肩に頭を預けた。

「疲れたのか?」

「ううん、なんとなくよ」

二乃のリボンが首に擦れてむず痒いのだが、無意識のうちに首を二乃の方へと傾けている男にとって、この状況はまるで彼女ができたかのような気分だった。

この幸福な時間が続けばどれだけ幸せだろうか、などという雑念を心の中で押しつぶし、ここに呼ばれた意味を思い返す。

彼女にとって、男との関係は遊び。男はそういうふうに理解している。

どれだけ性格的な問題があろうと、二乃は紛うことなき美少女だ。

だからこそ二乃が男に慣れているという先入観が拭い去れず、自分が弄ばれているだけの存在なのだという認識に支配されている。

「今日、アンタの前の席の子見てたでしょ。いやらしい顔してたわよ」

「え、見てない……けど……」

不満そうな顔をした二乃を、男は見ることができない。

だが、二乃が不満であるということは分かった。

「ぅ……っ」

ワイシャツ越しに、二乃が爪先で男の乳首を引っ掻いたからだ。

連動するように亀頭がビクッと震え、内股にじんわり力がこもる。

「髪の毛ジロジロ見てたじゃない、まさか首筋とか見てたの?」

「ち、ちがうって、あれはその……頭が動く度に揺れるポニテが気になっただけで……」

「やっぱり見てたんじゃないっ」

最初はどこにあるかも分かりづらかった男の乳首が、今ではぷっくりと膨らみ始めている。

ワイシャツ越しに隆起した乳頭が布に影を落とし、弄ってほしいと言わんばかりに存在を主張していた。

「変態っ」

「ぁ、ぁ、あっ」

「あの子もアンタが乳首で感じる変態だって知ったら驚くわよ?」

この短い期間で、二乃は男の扱いにすっかり慣れてきていた。

「ん……っ、一生懸命腰振って、んっ、プライドとかないわけ?」

「二乃っ、二乃……っ!」

度重なる前戯の末、壁に手をついてからお尻を突き出した二乃に、男が後背位の体勢で熱り立つ肉棒を出し入れしていた。

二乃の柔肌に男の腰がぶつかって軽快な音が弾け、男と二乃の乱れた声がひっそりと響いている。

「はぁっ、んぁっ、熱いし、大きいし……っ、奥、当たってんのよっ」

「わかるよ、二乃の……気持ちいいところ、ねっとり絡みついて……俺……っ」

「ほら、おっぱい、好きなんでしょ? しっかり揉みなさいっ」

「乳首……固くなってる……」

「う、うるさいわよっ。余計なこと言ってないでちゃんと弄りなさいよ!」






二人が満足するほどの絶頂を繰り返した頃には、周囲の光景は茜に染まり始めていた。

身なりを整えてから屋上を後にして、運動部の生徒たちを横目に帰路につく。

「アンタ、最近また乳首弱くなったんじゃない?」

「そ、そんなことないだろ」

「家で一人で弄ってるんじゃないでしょうね? 男のくせに乳首でオナニーなんてマゾすぎよ」

「決めつけんなって!」

初めて二乃が男の自宅に行ってから一ヶ月近い時間が経ち、こうして下校することも馴染み始めていた。

世間的な視点では、この光景は交際中の男女のそれにしか見えず、情事の後であるということなど誰も分からない。

小声で呟いた二乃の挑発に反論した男の声など、他人は誰も気に留めない。

「ふふ……アンタの困った顔ほんと面白いわ」

「意地悪な女」

「変態男が私に何か言ったかしら?」

「……なんでもない」

「ふふ……」

二乃の悪戯な笑みを見て、男の頬が思わず緩む。

この関係がもっと誇れるものだったらどれほど良いのだろうという思考が脳裏をよぎるが、それは考えても仕方のないことなのだ。

現状男を取り巻く環境において、周囲に知られてはいけないことはこれだけではない。

「あまり調子に乗ると、アンタが女ったらしの変態だってみんなに言いふらしてやるわ」

「やめてくれ……って、お、女ったらしって何だよ!」

「だってそうでしょ? 彼女と別れたと思ったらすぐに他の女の子に告白されて、断ったら今度は別の女とこんなことしてるんだもの」

「あぁ、そういう……とにかくあることないこと適当言うのは駄目だからな」

「何よその言い方、ご主人さまに向かって生意気なこと言うんじゃないわよっ」

勘違いをして揚げ足を取られるということもなく、二乃に悟らせないまま、ぶれた話の筋を男は少しずつ微修正した。

「はいはい、じゃあ俺こっちだから」

男と二乃の帰路は、途中の交差点で別れる。男が雑な挨拶をして手を振り、左の道へ進む。

「……あ、ちょっと」

二乃の小さな呼びかけを小走りで回避する。

男は少ししてから、軽い足音が別の方向に消えていくのを聞いた。

一人になった帰り道で、男はほっと肩を撫で下ろした。

男には夜に来客の予定があり、その訪問者と二乃が鉢合わせるようなことがあってはならないからだ。

自宅アパートに着くと、予定よりも少し早くにその人物が待っていた。

「悪い、待たせたな」

「ううん、いま来たところ」

「鍵開けるから」

ポケットから鍵を取り出そうとした男は、ようやく異変に気がついた。

普段自宅の鍵を収納しているポケットに、鍵が入っていない。

「え、まじかよ」

「どうしたの?」

「っと、鍵がないんだよなぁ……」

男が慌てたように鞄の中を漁ってから、無意味なことだとは思いつつ二階から階段を駆け下りる。

来る途中に落としたか、それで気が付かないということがあるか。

冷静に考えを整理しながら見上げた視線の先には、見覚えのある少女が立っていた。

「探し物でもしてるのかしら?」

無意識で瞼が開き、焦りで呼吸が浅くなる。

聞き慣れた声、見慣れたニーハイソックス。初夏の気温にも関わらず羽織ったカーディガン。

「二……乃……っ」

「ふふん、鍵が無いんでしょ? 探し物はこれじゃないかしら?」

意地悪な声と表情が、男の思考を停止させる。

「なんで、お前が……」

「な、何よ怖い顔して、アンタが屋上で落としたのよっ。渡そうとしたのに無視して行こうとするアンタが悪いのよ」

声が出ない。

(まずい、どうすれば)

二乃からすれば、また男の家に行く口実が必要だった。

こっそり後ろをついてって、からかいついでに鍵を渡そうという流れで自宅に上がり込むことができれば二乃としては上々。

予定があると断られればそれはそれで諦めが付く。

男からすれば、この行為自体は許せることだった。

しかし、タイミングだけが悪かった。

「お、おう、ありがとな」

「何かお礼しなさいよっ」

「あの……悪い、今日は人が来ることになってて」

厳密に言えばその人物はすでに来ているのだが、訪問者と二乃を会わせるわけにはいかず、曖昧な言い回しで帰宅を促した。

「あ、っそ。まぁ、仕方ないわね」

残念そうな二乃の顔が男の心に突き刺さるが、振り返る背中を見送ることしかできない。

しかし、世の中はそんなにうまくできてないものである。

「鍵、あった?」

聞き覚えのある声に、二乃の足が静止する。

ゆっくりと振り返る二乃の動きを、男は止めることができない。

上を見上げる二乃と、二階の廊下から見下ろす影の視線が、はっきりと交差した。

「なんで、アンタがここに……っ」

歩道を照らす街灯とアパートに備え付けられた灯りが、周囲の暗さに合わせてぽつりと点灯し始める。

驚きに満ちた二乃の表情と、二乃を見つめるもう一人の少女の顔を照らし出した。

【S&M -ゴブンノイチ- へつづく】

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※二乃編は一旦の終了を迎えましたが、まだ物語は続いていきます。

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