・・・好き勝手生きて40が過ぎた。
もちろん、好きで「好き勝手」生きたわけじゃねぇ。
惚れた女とくっついて、20代半ばで先立たれただけだ。
息子も娘もいねぇ俺には、「好き勝手」生きることが人生になっただけだ。
そんな俺にも、楽しみってもんがある。
酒にパチンコ・・・あとは、弟のガキの成長だ。
「なんちゃら戦隊」とか、ワーワー叫んで遊んでたガキも、
あっという間に、生意気な毛が生えやがる歳になったもんだ。
・・・
そんな俺が。
クソったれ・・・!!
【第一話 万年前の力】
プルルルル・・・
車内の電話がコールする。
毛深く太い指先が、目の前のディスプレイに触れた。
「国藤さん。お疲れさまです。」
「・・・なんだ?」
「もうっ、国藤さん今日も怖いですよぉ。」
「運転してんだ・・・。要件はなんだ?」
「はいはい。今客先から電話あって、パラメント産業の荷物の到着確認です。」
「あぁ、それならさっき届けた。10時20分って言っとけ。」
「はーい。ありがとうございます。あと、今日の鴨一工業の集荷。パレット3枚だそうなんで。」
「あぁ・・・分かった。んじゃ、切るぞ。」
「あっ、気を付け・・・」
プチッ
国藤栄志(くにとう えいじ)は、会話も途中で車内の通信を切った。
大型トラックのそこそこ広い運転席でさえ、狭く見えるほど大きな身体を背もたれに戻し、次の配達先へとアクセルを押し踏んだ。
(・・・暑ぃな。)
千葉県の夏の海岸沿いを、10tトラックは走りぬける。
窓ガラスごしに照り付ける日差しがジリジリと肌に焼き付く。
先ほどの配達先での荷下ろしで、すっかり汗だくになった会社指定のシャツが所々色を濃くしていた。
剥き出しになった太い両腕には、男臭さを引きただせる体毛が生え、汗の雫を浮かび上らせ光っている。
(・・? なんだ?)
栄志は眉間にシワを寄せて、前を凝視する。
強面の顔は、さらに厳つさを増して、車内の各ミラーに移っていた。
(おいおい・・・通行止めなんて聞いてねぇぞ。)
目線の先には、『通行止め 右折』と書かれた看板が立っていた。
田舎道でもあり、通行車も少ない道路で、栄志はゆっくりとブレーキを踏んだ。
(こんな道で通行止めなんて、どんな工事だ。税金の無駄使いじゃねぇかまったく・・・)
さらに目つきの悪くなった鬼の顔は、右折する道へメンチを切った。
(こんな道・・・あったか?)
ハンドルを切りながらアクセルを踏みだすと、トラックはゆっくりと走り出した。
知らぬ道だが、一本道。この業界でベテランの栄志にとっては、このようなトラブルは日常茶飯事だ。
少々疑問に感じながらもなにごともなく、前進するトラック。
しかし・・・
栄志は気が付いていなかった。
バックミラー越しに見える後方には、さきほどまであった通行止めの看板が映っていないことを・・・・。
7時間後 ---房総運輸株式会社---
「おかしいなぁー。国藤さんまだ連絡が繋がらないわ。」
女性職員は受話器を置いて、持っていたボールペンをペン刺しに立てた。
「なにかあったのかしら?あの人不愛想だけど、時間に遅れることなんてないのに。まさか・・・最近ニュースになってる謎の失踪事件に巻き込まれたんじゃ・・・!?」
女性職員は、パソコン上に映し出されるニュース記事をクリックして、つぶやいた。
「はははっ、アイツを連れ去るなんて度胸のある奴いねぇっぺ。どっかで渋滞にでもハマってるんだろ。そんなことより、もう上がりの時間だろ?俺が残るから帰っていいよ。」
作業着姿の50過ぎの男は、古びた椅子の背もたれに寄りかかり言った。
「そうですか?それじゃ所長、私は失礼しまーす。」
所長と呼ばれた男は、右手で「おつかれさん」と合図をして、一人事務所内に残る。
そして、電子タバコを大きく吸い込むと、眉間にシワを寄せてマウスをクリックした。
すると・・・
ドサッ!
「んっ!?なんだ今の音は?ホームのほうか?」
所長は物音がしたホームへと向かう。
消灯したホーム上には、未配達の荷物が行先別に仕分けをされて置かれていた。
左右にバックから付けられたトラックが、薄明かりで光る。
そして、その中央に黒い影が横たわっていた。
!!!
「おいっ!お前っ! 国藤かっ!!」
「どうしたっ!体調でも悪いのかっ!」
慌てて近寄る所長に反応し、国藤はゆっくりと起き上がる。
デカイ図体をよろめかせながら、頭を抑えた。
「くっ・・・所長か?」
「どうしたっ?救急車呼ぶぞ!」
携帯を手にした所長。
しかし、すぐにその手を制するように国藤から腕をつかまれた。
「いや、大丈夫だ。少し頭が痛ぇだけだ。それより、クソッ・・・」
「面倒なことになっちまったみてぇだ・・・」
国藤は、頭を抱えたまま事務所内にゆっくりと歩きだす。
所長はなにが起こったのか分からず、ただ普段の様子と違う国藤の後を歩いた。
ガチャっ・・・
事務所のガタがきた椅子にもたれかかる国藤。
所長はそれに沿うように横に座る。
「どうした?お前様子がおかしいぞ。熱でもあるんじゃねぇか?」
「違うんだ・・・なんて説明していいか分からねぇが・・・妙なところに監禁されてた・・・らしい。」
「はぁっ!?なに言ってんだお前ぇ・・・」
「俺だって、なにがなんだか分からねぇ・・・記憶も曖昧なんだ。気が付いたら必死になって走ってて、車見つけてここまで来たんだ。それ以外・・・」
朦朧としている国藤を見て、所長は言葉を失う。
「手術台みたいなとこに・・・横にされて・・・それで・・・クラクラっと・・・ぐっ・・・頭・・痛ぇ・・・・」
「おい!!大丈夫か!?」
「ははっ、所長・・・。俺頭イカレちまったのか。」
「いや、お前がそんな気の利いた冗談言える奴じゃねぇてことは、俺は十分分かってる。とりあえずだ。今は休め。」
「あぁ・・・そうだな・・・ちっと仮眠室使わせてもらうわ。」
そう言って、国藤は立ち上がろうとした。
その瞬間。
ガチャっ!!!
!!!!
外で大きな物音がした。
2人はすぐに顔を合わせ身構える。そして、ゆっくりと立ち上がると表を見るように窓を覗き込んだ。
すると・・・
グギャヤヤッヤヤッ---ッ!!!
「うあぁぁーーっ!!」
「なんだありゃー!!」
2人は驚きの光景に思わず声を出す。
外には、トカゲのような身体をした生き物が蠢いていたのだった。
人間のように二本足で歩行し、キョロキョロと周囲を不気味に見渡す。
そして、建物の中の2人に気が付くと、屈めた背のままに早足で向かってきた。
「おいっ!!国藤っ!!俺は夢でも見てんのかっ!!」
「くっ!!俺が聞きてぇくらいだっ!なにもかもが夢だろっ!!こんなクソみてぇなっ!!」
慌てる2人は、周囲にあったモップや金属バットを手に取る。そして、ドアに鍵をかけた。
ガンガンッ!!ドンドンッ!!
「警察に連絡すっぞっ!!」
所長はそういって、受話器をとった。
しかし、それと同時に古びたドアは蹴り開けられてしまった。
「くっ!!くそっ!なんだってんだっ!!」
所長は覚悟を決めたように、手に持った金属バットを構える。
国藤も同じくモップを力強く握り返すと・・・
クラっ・・・
「あっ・・・ぐっ・・・・」
「国藤っ!!しっかりしろっ!!大丈夫かっ!!」
「あぐっ・・・あっ、コイツら・・・・俺が拘束されてた・・・場所で・・・」
「おいっ!!しっかりしろっ!!」
所長は国藤の手首を握ると、そのまま後方へと引っ張る。
トカゲ人間は、長い舌を出し入れしながら、近づいてくる。
「コイツら・・・逃げろ・・・所長・・・」
「馬鹿っ!お前を置いて逃げれるわけねぇだろっ!!しっかりしろっ!!」
「ダメだ・・・逃げろって・・・」
「おいっ!国藤っ!! うわっ!!くそっ!!!」
クシャーーーッ!!!
ついにトカゲ人間たちは、2人に襲いかかる。
互いに分散させられ、よろめくように倒れ込んだ。
「くっ!!国藤っ!!!しっかりっ!!うおおおっ!!!」
「所長っ!!逃げろーーっ!!うおおおっ!!!」
トカゲ人間の口が大きく開き、鋭い牙を向ける。
国藤は必死に力を込めてそれに耐えるが、横目に見える所長の顔には、すでに牙が近づいていた。
「しょっ!!所長おおおーっ!! くっ!ふざけんじゃねぇーーっ!!」
ドクンドクン!!
国藤は周囲がスローモーションになったように、ゆっくりとぼやけて見える。
自らの鼓動の音がハッキリと聞こえ、体内に流れる血が熱く焼けるような感覚を感じた。
ドクンドクン!!
(ぐおおっ!!俺のせいだっ!!俺のせいで所長はぁぁーっ!!)
ドクンドクンッ!!
(俺はぁぁーっ!!俺はぁぁーー!!)
ドクンドクンドクンドクン!!!
(このっ!!)
「クソッタレがよぉぉぉーっ!!!!!」
ビカカーーッ!!!
シュビィィィイィィン!!!
国藤の大きな叫び声とともに、所内を激しい光が包み込む。
目の前にいたトカゲ人間は、その光に弾き飛ばされ壁にたたきつけられた。
そして・・・
「国藤っ!!おっ、お前・・・」
所長は口を半開きに開けたまま、目を見開いて国藤を見つめる。
そこには、会社のユニホームを着ていた国藤が、一瞬で別人と化した姿となっていた。
紫色のピッチリと張り付いたスーツを纏った男は、張りつめた筋肉をを見せつけながら肩で息をしている。
所長は、この一瞬でなにが起こったのか理解できなった。
「はぁ・・・はぁぁ・・・」
「おっ、おい、俺は夢でも見てんのか。国藤、返事しやがれっ!!」
所長は大声出し、国藤に近寄る。
それでも国藤は目を合わせず、ただ目の前にいるトカゲ人間たちを睨んでいた。
「こっ、こいつらは・・・アソコにいた奴らだ・・・俺もアソコで・・・」
「国藤っ!!とにかくここは逃げるぞっ!!」
国藤のゴツゴツとした肩を掴む所長。しかし、国藤は力強く身構え、拳に力をいれてブルブルと震えている。
「ハァ・・・ハァ・・・コイツらは俺が、ぶっ飛ばすっ!」
「何っ言ってやがっ!!」
所長の言いかけた言葉と同時に、国藤の姿が残像のように目の前からいなくなる!
そして、
ガシャーーンッ!!!
ゴゴゴオゴォ-ン!!!
国藤は一瞬にして所内の壁はじまで移動し、拳の先ではトカゲ人間の後頭部を潰していた。トカゲ人間はピクピクと身体を痙攣させると、その場で黒い煙を吐き出しながら砂のように崩れ落ちた。
「なっ、国藤っ!?なんなんだ・・・」
ガシャーーンッ!!!
ドガーーンッ!!
ゴシャガシャガシャッ!!
ドシャーーーンッ!!
所長が茫然と見つめる中、国藤はトカゲ人間たちを次々と消滅させていく。
ただ本能のままに攻撃をするその姿は、鬼のようであった。
おそらく、1分も経っていないだろう。
しかし、そこにいる2人にとっては、まさしく夢の中にいるような、そんな無限な時を感じたのであった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「国藤・・・・」
トカゲ人間の気配はすべて消え、息を荒くする国藤だけがそこに立つ。
所長は、ゆっくりと立ち上がり、国藤へ近づいた。
国藤は、半開きの口で所長を見つめ、疲れ切ったように片眉を上げる。
そして・・・
!!!
「おいっ!!」
倒れ込もうとする国藤を、慌てて支える所長。
それと同時に紫色のスーツは、スルスルと姿を消して、見知れたユニホーム姿へと戻ってしまった。
「国藤っ!!おいっ!!しっかりしろっ!! 国藤ぉぉお--っ!!」
---謎の機械が置かれた部屋---
「報告します。多数の被験者の脱走を確認。非適合者も含め17の個体が行方知らずです。」
白衣を着た男が、暗闇から現れる。
そして、その目の前にいる赤いロングコートの男が振り返った。
「失敗作の始末はすぐに行え。今世間に知られては厄介だ。」
「はっ、しかしそれが、すでに非適合者すべての生命反応は消滅しました。おそらく適合者の存在に惹かれ衝突した模様です。」
「ふんっ!「本能」というものか。力量も考えずに行動するとは、まさに失敗作だな。それで、肝心の適合者は?」
「事故の際に脳内制御装置が破壊されたため、詳しい場所は特定できません。」
「確認したところ、ナンバー42、ナンバー63、ナンバー102の適合者です。残りの適合者は研究室内で確認いたしました。」
「制御装置が機能していない状態では、どのような行動にでるか予想がつかん。早急に対応しろ。」
「はっ!承知しました。」
白衣の男はそういい、すぐにその場を後にした。
ロングコートの男は、ガラス窓越しに移るカプセルのようなものを見つめ、ニヤリと口を上げる。
「ようやくだ。ようやく辿りついたのだ・・・本来あるべき生命の力に・・・」
「数万年前の力になっ!!!」
つづく
とらまる
2020-11-11 07:43:55 +0000 UTC大和
2020-11-10 12:19:39 +0000 UTC