背中合わせに縛られた。~体育倉庫の罰ゲーム~
Added 2025-08-10 09:16:54 +0000 UTC・
「……では、今年の《ブラインド・ゲーム》を開始します」
低く響くその声は、体育館に設置された天井スピーカーから流れていた。
ざわついていた参加者たちは一瞬にして静まり返る。
七瀬琴音は不安げに自分の腕を見下ろした。すでに、手首にはしっかりと布製の結束バンドが巻かれている。部活帰り、たまたま誘われて見学に来ただけだったのに、気づけばこんなことになっていた。
「ルールは、簡単です。皆さんのうち半数は、“固定側”。もう半数は“探索側”です」
声の主は、脱出研究部の部長・霧生楓のはずだ。だが、さっきから姿が見えない。説明もすべて、無機質なスピーカー越しの声で進行されていた。
「固定側の参加者は、迷路のどこかに“うつ伏せ”の状態で配置されます。目隠し、口封じ、手足の拘束が施され、動くことはできません」
琴音は息をのむ。そう、今回の《ブラインド・ゲーム》はただの鬼ごっこや脱出ゲームではない。拘束――それも、本格的なものが行われるのだ。
「探索側の参加者は、目隠しと手首の拘束を施された状態で、体育館内の迷路に放たれます。頼れるのは“パートナーのうめき声”のみです。声を頼りに這いつくばって進み、パートナーを救出してください」
その言葉に、琴音の心臓が一気に跳ね上がった。
「……私、探索側なんだ」
横で息を呑んだ詩織が、そっと囁いた。「怖くなったら、声を出して。どこかで聞いてる人は、いるから」
ガシャリ、と体育館の鉄製扉が閉められる音が鳴った。
照明が一斉に落ち、完全な闇。
そして次の瞬間、琴音の視界は黒いアイマスクで覆われた。光が完全に遮断される。直後、誰かの手が彼女の背後に回り、手首の結束バンドをギュッと締め直した。
「これより、ゲームを開始します。パートナーの“声”だけを頼りに、脱出を目指してください。制限時間は、30分」
スピーカーの音が途切れた。
あたりは静寂に包まれ、遠くで誰かの【んぐぅぅっ……!】というくぐもったうめき声がかすかに聞こえた。
琴音は震える膝をつき、ゆっくりと前へと進み始める。手は使えない。目も見えない。
這うしかなかった。
「詩織……どこにいるの……?」
自分の声すら、闇の中に溶けていくようだった。
それでも、這って進むしかない。パートナーのうめき声を、ただひたすらに信じて――。
【んぐ……ぅぅっ……!】
その声が、また聞こえた。
はっきりと、琴音の耳に届いた。
「……花音……?」
震える唇から漏れた名前は、すぐに暗闇へと吸い込まれていく。
膝と肘に感じる体育館の床は冷たく、汗ばんだ体温との対比でますます不安をかき立てた。手は背中の後ろで結束バンドに固定されたまま。目の前は、アイマスクで真っ暗だ。
前に進むには、這うしかない。
「うぅ……大丈夫、大丈夫……っ」
自分に言い聞かせるように呟く。
暗闇の中、琴音は膝を擦るように前へ進んだ。少しでも前に倒れると顔から落ちそうになる。だから必死に首だけは持ち上げ、耳を澄ませる。
【んぅう……むぐ……っ】
また聞こえた。今度はさっきより、少しだけ近い。
「花音、今行くから……!」
声は出しても届かないだろうとわかっていた。でも、叫ばずにはいられなかった。
まるで壁のように立ちはだかる体育館の迷路。どこかに仕掛けられた間仕切りに、何度も頭や肩をぶつけた。角に膝を擦りむいて、息を呑む。
それでも、琴音は止まらなかった。
「(怖くない……怖くない……っ)」
心の中で呪文のように繰り返す。
だけど、それは嘘だった。
誰かの気配が通り過ぎるたび、体育館の床に響く音にビクリと震える。目が見えないぶん、音の恐怖は何倍にも膨れ上がる。
【ん……ぅ……むぅぅぅ……】
今度は……真横からだ!
琴音はピタッと動きを止め、耳を澄ませる。
確かに、そこに“いる”。
花音のうめき声だ。記憶に残る、あの声だ。
「花音……っ!」
琴音は、半ば転がるようにして声の方向へと向きを変えた。
壁があった。手が使えないため感覚でしか分からないが、板か、マットのような柔らかい素材だ。
その端を探るように、顔を寄せる。
……あった。わずかなすき間。
そのすき間から、くぐもったうめき声が漏れてくる。
【んぐっ……んーっ……!】
「花音! そこにいるんだね!? 大丈夫、もう少しで……!」
その瞬間――
琴音の足首に、なにかが“巻きついた”。
「えっ……!?」
細くて、ザラザラとした質感。
ロープだった。
ガチャン、とどこかで金具が噛み合う音がして――次の瞬間、背中に強い引きがかかった。
「きゃっ……!」
そのロープは、背中の結束バンドに繋がれた。
つまり、足首が背中の手首に向かって引っ張られたのだ。
一気に身体が仰け反り、両膝と胸が持ち上がるような形になる。
「う、うそ……なにこれ……っ!」
必死にバランスを取ろうとするが、足首と手首が連動して引き合う姿勢の中、まともに動くことはできない。
うつ伏せの姿勢から、まるでえびぞりに吊られたような不自然な状態で床に押しつけられる。
【むぅっ……んんんっ……!】
花音のうめき声が、すぐそばで響いた。
そうだ。もう、ほんの数歩。たったそれだけの距離なのに――。
「花音……っ、ちょっとだけ待ってて、お願い……!」
琴音は、足首に食い込んだロープの痛みをこらえながら、もがくように身体をくねらせた。
動けば動くほど、背中の手首に食い込む結束バンドがギチッと音を立てる。
それでも、進まなきゃ。声を、追わなきゃ。
今、ここで止まったら――彼女を、独りにしてしまう。
這い進むというより、身体をねじるように。
まるで虫のように。
苦しくて、恥ずかしくて、情けなくて、それでも。
「花音……もう少し、だから……っ!」
暗闇の中で、うめき声が返ってくる。
たとえ言葉にならなくても、その声だけは――たしかに琴音の中に届いていた。
「はぁ……はぁっ……!」
汗で頬が濡れているのか、涙なのか、もうわからない。
息を荒げながら、琴音は仰け反ったままの姿勢で、床の上を転がるように進んでいた。
足首のロープと背中の結束バンドが引き合い、強く反らされた腰は焼けるように痛む。
それでも、声を聞いてしまった以上――立ち止まるなんて、できなかった。
【ん……っ! んぐぅう……!】
うめき声は、もうすぐそこ。
床からわずかに立ち上がるような何かが、かすかに体にぶつかった。
それは――人の足だった。
「……!」
琴音は、ほとんど反射的にその足に頬を擦り寄せた。
人の体温。汗のにおい。微かな震え。
誰だって、わかる。
――花音だ。
「花音っ……!」
声を出したところで届かない。花音は答えられない。
でも、目隠しの下の瞳がじんわりと熱くなるのを感じた。
琴音は、どうにか体をひねって頬と肩で位置を調整し、花音の全身に触れるように、ゆっくりと頭を動かした。
……布の感触。キツく締められたロープ。
背中に回された手首――そこにはナイロンロープの固い結び目。
肘のあたりから、胸をぐるりと押さえ込むように巻かれた数本のロープが、上下から食い込んでいる。
さらに太もも、膝、足首。
下半身もまた、まるで梱包されたようにきっちりと拘束されていた。
「(そんな……こんなに……)」
琴音の喉から、かすれた吐息が漏れる。
これでは、どんなに叫びたくても、もがきたくても、何ひとつ自由にできない。
【んむっ……むぅ……!】
花音が必死にうめいた。
口元には何かが詰め込まれているのだろう。口からはっきりした言葉は何も出てこない。
その上から、粘着性の強いテープのようなもので押さえつけられているのか、音すらくぐもっていた。
「……大丈夫。今、そばにいるから」
琴音はそっと頬を寄せる。
暗闇の中で何も見えないのに、不思議と今だけは、花音の姿が目に浮かぶような気がした。
ぐるぐる巻きにされ、うつ伏せに倒れたまま、それでも――彼女は声を上げて、待っていてくれた。
「……もう、独りじゃないから」
目隠しの下で、琴音の目からまたひとしずく、涙が落ちた。
ほんの少しだけ、花音の体が震えた気がした。
たぶん、それは答えだった。
――見つけた。確かに、たどり着いた。
でも、ここはまだ迷路の途中。
脱出なんて、まだずっと先のこと。
【パートナーを見つけた探索側の方は、固定側の人の縄を解いてあげてください】
天井から降ってくるような無機質な声が、体育館全体に響いた。
突然のアナウンスに、琴音はびくりと肩を震わせる。
心臓の鼓動が、ぎゅっと早まる。
その指示は、今まさに、彼女に向けられたものだ。
「……っ、え?」
その意味が、脳に届いたとき――琴音は思わず言葉を漏らしていた。
「わ、私だって……縛られてるのに……っ」
そう。手首は今も背中の後ろで結束バンドに固定され、足首にはロープが食い込んでいる。しかも、それらは繋がれているせいで、身体が無理やりのけぞるような体勢になっているのだ。
自由なんて、ひとかけらもない。
動くたびにロープが締まり、痛みと不自由さだけが増していく。
「どこをどうやって解けっていうのよ……!」
声が震えていた。
悔しさなのか、情けなさなのか、それとも――
ただ、どうしようもない無力感からだったのか。
【んぐ……ぅう……っ】
花音が、くぐもったうめき声を上げた。
手首も胸も、足も、すべてがぐるぐるに縛られた状態のまま。助けを求める声は出せず、ただ必死に、目隠しの奥で何かを訴えている。
琴音は唇を噛みしめた。
「(私が何とかしないと……でも、どうすれば……!)」
目は見えない。手も使えない。足もまともに動かせない。
それでも――
「花音……ごめん、ちょっとだけ……がんばってみる」
不器用に、体をひねる。
頬と肩と腕の付け根を使い、花音の体を探る。
何か、何かできることはないか――
結束バンドの締め方? ロープの結び目? 解ける場所?
何も見えない中で、五感すべてを総動員する。
琴音の心臓は、まるで爆発しそうだった。
その時、またスピーカーから声が流れた。
【なお、制限時間を超えても縄を解けなかった場合、両者失格とします】
「なっ……」
それはあまりにも理不尽だった。
だけど、そういうゲームなのだ。
ここは“試練”の場であって、優しさも、情けも、待ってはくれない。
琴音は大きく息を吸った。
痛くても、恥ずかしくても、泣きたくても。
――それでも、進まなきゃいけない。
「……待ってて。絶対に、解くから」
うめき声の向こうで、花音の体が微かに震えた。
それが、希望なのか、焦りなのか、琴音にはわからなかった。
ただ、二人はまだ――つながっていた。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
息が切れていた。
琴音は、反り返った体をなんとか支えながら、背後に縛られた手首をぎこちなく動かす。
足首の縄と手首が繋がれているせいで、少し動くだけでも背中にギリッとした痛みが走る。それでも――
どうにかして、花音の縄を解いてあげなきゃ。
それしか、今自分にできることはないのだから。
(……どこ? どこなの……結び目……)
花音の体に触れるたび、琴音は必死にその形や位置を指先で確かめた。だが、花音の体はぐるぐると念入りに縛られていて、ロープはぴたりと密着し、ほとんど余裕がない。
どこを触っても、固い結び目に辿りつかない。
「……あ、あれっ……ちょっと待って、これ……」
小さな声で呟きながら、琴音は背中で手を回し、無理な体勢のまま花音の脇腹あたりを探る。
そこにロープの交差がある気配がした。けれど――指先が震える。力が入らない。何よりも、
(見えない……!)
目隠しによって視界が完全に奪われているのが、これほど辛いとは思わなかった。
【んむっ……ぅう……】
花音のうめき声が、切なげに響く。
琴音はその声に背中を押されるように、無理やり体をひねった。
ギシッ。
自分の足首と背中を繋ぐロープが限界まで引っ張られる。
同時に、腕に走る鈍い痛み――
「いっ……!」
思わず声が漏れた。強張った筋肉がつりかけている。
「ごめん……! 今、やるから……!」
震える声で謝る。
でも、うまくいかない。全然いかない。
指先が結び目にかかっても、汗で滑る。爪が立たず、引っ張ることもできない。
そもそも、このロープは何回巻かれているの? どこが始点? 終点?
そんな基本的なことすら、視界のない琴音にはわからなかった。
(こんなの……無理だよ……)
心が折れそうになる。
でも、そこで諦めたら――
「……やだ……!」
小さく、けれどはっきりと、琴音は言った。
「こんなとこで諦めたくない……!」
もう一度、必死に花音の体へと手を伸ばす。
わずかでも緩みを見つけたくて、指の腹で何度もなぞる。
目を見開いても真っ暗なままの世界の中、指先だけが、すべての希望だった。
【ん……んんっ……!】
花音のうめき声が、微かに震える。
琴音の存在が届いている。伝わっている。
そのたったひとつの実感が、今の琴音を動かしていた。
だが――結び目は、固いまま。緩まない。ほどけない。
そして、時間だけが無情に過ぎていく。
(お願い、あと少し……! 解けてよ……!)
背中の痛みに耐えながら、必死に指先を押し込む。
でも、ロープはまるで琴音の決意を嘲笑うかのように、微動だにしなかった。
背中合わせに縛られた。~体育倉庫の罰ゲーム~【完結】

体育倉庫の罰ゲームが始まる…
ーつづくー
声も届かず、身体も動かず。
繋がれた背中で感じるのは、恥ずかしいうめき声だけ――
学園イベント《ブラインド・ゲーム》に参加した少女たちは、目隠しと拘束の中で声だけを頼りにパートナーを探す試練に挑む。
しかし失格者には、体育倉庫での“罰ゲーム”が待っていた――。
動けない身体、奪われた視界、そして封じられた口。
くすぐり、鼻を摘まれての呼吸制限、密着拘束……羞恥と苦しさが限界を超える中、少女たちはただ背中合わせに繋がれ、うめき声を共鳴させる。
責められるたび、心までほどかれていく――
密室×拘束×連帯羞恥の決定版!
本作のポイント
全身拘束×目隠し×口封じという三重の不自由シチュエーション
足の裏・脇腹くすぐり責めで快感と羞恥のジレンマ
鼻を摘まれる責めで呼吸を奪われる恐怖と無力感
背中合わせの密着拘束で、2人の動きと声が連動して羞恥倍増
くぐもったうめき声の共鳴演出で臨場感と没入感を最大限に
スタッフの言葉責め・実況つきの観察者視点も加わる責め構造
「見えない世界」「聞こえる声」だけで感情が揺さぶられる静かな地獄