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私が受け持つクラスは私立R女学園の最上階にあった。
隣の教室とはやや距離があり、なんだか静かで寂しい感じがする。
今日も真面目な女生徒たちを相手に教壇に立っていた。
そこへーーーーー望まぬ訪問者が。
「全員大人しくしやがれ」
「........」
男の言う通り私は両手をあげて床に跪いた。
現在、R女学園はとある理由で半数しか登校していない。
このクラスもその例に漏れず普段なら20人の女生徒がいるのだが今は半数の10人だった。
それは男にとっては都合が良い。
「全員靴下を脱いで口に入れろ」
「「!?」」
「なんでそんな事.......」
「エレナさん!」
私は女生徒の一人を制して言った。
「皆さん大人しく従ってください」
「そんな!」
男は拳銃をチラつかせた。
無意味に彼女たちを怖がらせて混乱を招かないよう教師である私にだけ見せたのだ。
「安全を最優先します」
「くっ........」
プライドの高いエレナは最後まで抵抗したが、他の生徒もいる。
「分かって」
「はい.......」
「「もごもご.......」」
「「「おぁああ......」」」
みんな顔に皺がよっている。
「チンタラしやがって、次はこいつらを拘束しろ女教師!」
「急に.......拘束道具なんて無いわ」
「身動き出来なきゃ何でもいいんだよ」
男は教室内を物色すると、委員長がさりげなく身体で隠していたガムテープを見つけると私に投げつけた。
「ぐるぐる巻きだ.........2人1組でな」
交渉のチャンスはここしか無い。
「人質なら私がーーーー」
「黙れ」
「っ!!」
取り付く島もなさそうだった。
「状況が理解出来てないなら説明してやる」
ーー俺はS市で起きた銀行強盗の犯人だ。テレビで幾度となく顔は見てるだろう。警察に追われる事2日間、それは壮絶な逃亡だった。そしてこの学校までやっとの思いで逃げてきたのさーー
「それは分かったわ、でも生徒たちは......」
「俺がここにいる事をお前達しか知らない。誰一人として外に出すわけない行かないんだよ」
男の言い分はわかった。
しかし華奢な身体の女子もいるのだ。
「絶対に動かないからーーー」
「んもぉああああああああ!!」
「!?」
男は1番近くにいたコノハを床に押し倒して馬乗りになった。
「んぉおお!?ぉおおおおお!」
コノハは両手を後ろに捻りあげられ、苦痛に顔が歪む。
「んんんぅ!!んううううう!!」
両脚をバタつかせて抵抗するが無意味だった。
「俺をイラつかせるな」
「やめて、言う通りにするから!」
私は思わず叫んだ。
「おぅううううう!」
コノハは相変わらず床に組み敷かれている。
「皆さん、隣の子とペアになって座ってください」
「「んん......」」
「「「うぐっ.........」」」
コノハの姿を見た他の生徒たちは口にパンパンに詰められた靴下を噛み締めながら私の言うことに従った。
『ビィィーーーーー.......』
「んんっ!んんーーーー!!」
「ごめんね......」
既に4組8人を縛り終えた私は最後のペアにガムテープを巻き付けていた。
動けないように念入りに。
「足を揃えて」
「うぉんんん!!」
「むぐぅううう!!」
彼女たちの両脚を折り曲げて、正座をさせるように縛った。
これは男の要求だ。
2人纏められ、さらにはその両方を正座をさせるように縛れば一歩たりとも移動できないだろう。
「「ふぐぅうううううっ!!」」
「大丈夫、きっと助かるから」
膨らんだ頬を撫でるようにして2人を宥めた。
「ふうんぅううううううう!!」
背後で呻き声がしたかと思うとクラスのリーダーが血相を変えて藻搔いていた。
委員長......我慢して、ハツネさんが苦しそうにしてる。
「んうぅぅ!」
委員長のペアのハツネが連動してゆさゆさと揺らされていた。
「忘れていた、お前にはこのガキ共のスカートの中から携帯を没収する役も担ってもらおう」
「..........」
私は男に言われるがままに動いた。
2人1組で床に転がる彼女達のポケットから携帯電話を取り出して行く。
「妙な真似はするなよ?」
「しないわよ」
小さくごめんねと言いながら時には私が彼女達を強引に動かしてポケットに手を滑り込ませた。
10台の携帯が教卓の上に並べられた。
「もうコレはいらんな」
ガチシャンガシャンと男は携帯を1つずつ壊していく。
「ううううう!」
(ミカコさん!耐えて!)
「スマホの一つや二つで煩い奴らだな」
この男には永遠に理解できまい。
彼女達にとってはたくさんの思い出が詰まった大切な物である事を。
しかし彼女たちの身の安全を確保できるかもわからない状況だ。
申し訳ないが諦めてもらうしか無い。
「おっと忘れてたぜ、アンタのもだ」
「.....はい」
タイトスカートの中からピンクの携帯を掴んで男に渡した。
「ずいぶんと派手だな」
「んんん........」
「ふぅ......ふぅ........」
「くふぅ.........」
みんな額から汗が流れている。
お互いの背中の熱気を感じているのだから当たり前だ。
それにこの緊張した場面。
彼女達の息はどんどん上がっていく。
ガムテープの隙間から自分の靴下を通して必死に呼吸してる子もいる。
「んふゔぅーーーーー....んぅゔーーーーー.....」
ルルはこの時期、花粉に悩まされていた。
塞がれた2つの空気孔。
顔を真っ赤にして両目の焦点も合ってない。
危険だーーーーー
私は隙を見て非常ベルを2回鳴らした。
『ジリリリリリィィイイ!!!』
と甲高い音が校内に鳴り響く
「てめぇ!こいつらがどうなってもいいのか!」
「ふぅううううん!」
「むぅぅ!」
『校内に不審者が侵入したと思われます、全員慌てずに校庭に避難してください』
端的なアナウンスが流れた。
「逃げるなら今のうちよ?」
「やりやがったな........」
遠くの方から『キャーー』とか『ワァーー』と言った悲鳴にも似たような叫び声が聞こえて来た。
この階には此処を除いて4つのクラスがある。
その全ての女生徒たちが一目散に階段を駆け降りているのだ。
その数およそ40人。
大混乱とまでは行かないが、日頃の避難訓練が役に立たないほどにパニックになっているようだった。
(お願い........気付いて.........!)
部屋の配置上、このクラスは孤立していて階段を降りるためにわざわざ覗きに来る者はいなかった。
「お前は何をしでかすか分からん、次はないと思え!」
「.........」
男は教室に留まった。
直に私の受け持つクラスの避難が完了しない事で学校側はこの教室内の異変に気がつくだろう。
「女教師さんよ、鍵穴を潰すのを手伝え」
男はガムテープで縛り上げた私を乱暴に歩かせた。
この教室は内側から鍵を掛けることができる。私立では珍しくも無いこの仕組みが裏目にでるわけだ。
廊下に出た私は縛られた両手をぎこちなく使って鍵穴を潰した。
これで内から鍵を閉めてしまえば外から開ける事はできない。
『ガチャン』
2つの扉は封鎖された。
「その息遣いを見るにだいぶ消耗してきたみたいだな」
「「んぐぐぐ.......」」
男はルルとサエの2人組を見下ろして足で踏みつけていた。
「やめなさいっ!!」
私はそれを教卓の上で脚を高らかにあげた状態で見る事しか出来ない。
海老反りにされた身体はまるで言う事を聞かず藻搔いてどうこうなる拘束ではなかった。
「女教師さんには非常ベルを鳴らした罰を与えないとな」
「何する気なの!」
どんな酷い事をされても耐えぬく自信があった。
ベルを鳴らした時点で覚悟は出来ている。
「怯まないんだな」
「犯されてでも生徒を守って見せるのが教師なのよ」
「勘違いしてないか?」
「なにがよ!」
この時、私は男の言う通り勘違いしていた。
女がこの状況で想定しうる最大の罰は"そういうこと"だと思い込んでいた。
「本当はQ銀行で使う予定だったんだがな、アンタも教師なら連帯責任という言葉を知ってるな」
「「「!」」」
私を含め、教室内の全員が青ざめた。
「そんなものここで使ったら貴方も......」
「そうだな」
「そうだなって!」
「俺は失敗したんだ、テレビの報道通り"犯人"は一銭も盗むことが出来ずに逃亡中の身だ」
男は言った。
「俺と共に心中してもらうぜ」
「やめて!やめてよぉんむぅうううう!」
「自分のタイツの味を堪能してろバァカ」
「「「んぐぅうううううう!!」」」
緊張した空気の中で履いていたタイツはじっとりと濡れていて気持ち悪かったが、今はそれどころでは無い。
教卓の真横にセットされた時限爆弾のカウントダウンは着実に進んでいる。
「ううううう!ううううううう!!」
教卓の上でガムテープを軋ませながら藻搔いた。
「やめておけ、打ちどころによっては怪我じゃ済まないからな」
こいつは私が教卓から落ちた時の話をしているのか!?
あと数分で木っ端微塵になるかもしれないこの時に。
「俺はあのデカいロッカーの中にでも隠れるかな、運が良ければ或いは..........」
「むぅうううう!(卑怯者!)」
ドアの外は複数の教員でごった返していた。
「何が起きてるんだ!」
「んもぉうううう!!」
「あぅうううんんん!」
初めこそ鍵穴をいじっていたらしいが、次第に体当たりでドアをぶち破ろうとし始めた。
彼等は時限爆弾が仕掛けられている事はおろか"不審者"がこの教室内に留まっている事にすら気付かないだろう。
廊下の外、ドアの窓からでは教卓が邪魔で爆弾は見えない。
ロッカーの中で息を潜める男にも当然のように気付かないだろう。
「ハルコ先生!」
「ふぅううううううんんん!!」
私達は全員猿轡を施されているので外の教員達にピンチを伝える事もできないのだ。
「んっ!んんーーーーーっっ!!」
「「ふぅうううう!!」」
女生徒たちは折り畳まれた膝を懸命に動かしていた。
「んんーーーーっ!」
委員長が身をギシギシと捩り、爆弾の存在を伝えようとしている。
「ダメだこのドアは頑丈すぎる!」
「一度警察に通報すべきでは?」
「しかし我が校のセキュリティの甘さ世間に......」
「何としてでも我々で解決するんだ」
この保身に走る阿呆どもめ。
私や女生徒たちの命がかかってるというのに。
「んぅゔゔゔゔゔ!(何してるの!)」
くそっ......
もどかしい。
口が塞がれてしまった上に携帯がぶっ壊された今、連絡手段が皆無だった。
「んくぅぅぅぅ......」
私は教卓の上から他でも無い自分が縛り上げた女生徒たちを見渡した。
その時、コノハの異変に目が吸い付いた。
「んっ......んっ........んぅうう!」
彼女は自分の近くに落ちているスマホに歩み寄ろうとしていた。
「んんっ!?」
(何で.......あの子のも壊されたはず.........)
いや、確かハツネは携帯を2台持ちしていた。
という事はあれはハツネの予備の..........
「んんんんんん!!」
私はコノハに望みを託して藻搔き始めた。
ロッカーの中に潜む男の注意を少しでも自分に向けるためだ。
もしコノハの不審な動きが男に伝わればその時点でアウトだ。
「んぉぉおおおお!」
私を縛るガムテープは『ビチビチ』と音を立てる。
決して自分では剥がせそうに無いが藻搔く時に出る音やタイツが吸収しきれなかった呻き声は男の耳に届いているだろう。
(お願い......バレないで........)
「んんんんんんん!!」
私は必死に暴れた。
"よく聞き取れません"
「んぅうう!?」
「ぐぅううう!おぁああ!」
「んむぅふぅううう!?」
あぁ!もう!!
せっかくスマホを手にしたコノハだったが肝心のパスコードが開けられなくてモタモタしていた。
猿轡のせいで音声認識も使えない。
遠くで拘束されたハツネと呻き声でやりとりしている。
「んぉううう!(緊急連絡ーー!)」
「んごぉううう!(暗証番号は!?)」
コノハはしっかり者だが常識知らずな所があった。
警察や消防といった緊急連絡はロックされた画面からでも可能だという事を彼女は知らないのだ。
「ふぶぅうううう!(貸して!)」
コノハの背後で一緒に縛られているレオナが身体を右に左に動かしてスマホを奪い取ろうとしている。
「おんんんんん!(やめてよ!)」
しかし、慌てるコノハはその意図に気付かない。
口の中に"靴下"という名の枷を嵌められているだけでこんなにも上手くいかないものなのか!
「んぉうううう!(落ち着いて......)」
そんな事をしているうちに
残り時間は2分となってしまった。
全員パニックになって背後にいる相手の事も考えず藻搔き始めてしまった。
「んんんん!」
「うううう!」
「ふぉおうううう!」
もう教室内はめちゃくちゃだ。
皆んな冷静さを失って、自分に巻き付くガムテープを剥がそうと躍起になっている。
(皆んな、お願いだから冷静に.......)
残り時間は1分、
その時
『バルルルルルルル』
と轟音が聞こえた。
「女教師さんよ、同情するぜ」
男は『ガタン』とロッカーから出て来ると教卓の上のオブジェと化した私にそう言った。
「ガキの女だらけの意味不明な呻き声で賑わってるな、これじゃあ獣の集団と変わらねぇ」
「むうぉおおお!!(解け!!)」
「スマホ一つ扱えねぇとはな」
「んんん!?」
(まさか..........バレてた..........)
「まったく........拘束されたお前たちが汗だくのまま暴れたせいで女特有のストロベリーの香りが充満してやがる」
男は怪訝そうな顔で鼻をつまみながら机を1つ手に取って教室の真ん中に置いた。
その際にエレナとハツネの2人組が邪魔だったらしく乱暴に退けた。
そして机の上に立ち上がり天井に向かって拳銃をぶっ放した。
『バァンバァンバァン.........!』
追い込まれて気が狂ったのか。
男の出現を伝えるべく私は必死に廊下へと目線をやる。
「なんだ今の音は!」
「銃声......!?」
ドアをこじ開けようと画策する教員達は突然の銃声と私の視線でやっと理解したらしい。
「刺激するな......まだ......中にいる!」
「ですが.......」
「ははははははは!」
男はぶち抜かれた天井を見上げて高らかに笑う。
「んんん!」
(何がおかしいの!ここは最上階で上に逃げ場なんてーーーーーー!?)
『バルルルルルルル』
と聞こえた轟音の正体は..........ヘリの音だった。
「時間ピッタリだぜ!」
(まさか............!)
「間抜けな女教師さんよぉ、俺は最初から死ぬつもりなんてなかったんだよ!」
「んぐぅゔゔゔゔゔゔ!?」
「せっかく藻搔いたのに剥がせなくて残念だったなぁ」
「あぅううううゔゔゔ!!」
「じゃあな、哀れな女共よ!」
そんな助けてよ!
言い放つや否や男はカギ付きロープを天井に投げ、軽快な動作でよじ登っていった。
『バルルルルルルル』
と校庭側の窓の外からヘリが飛び去っていくのが見えた。
「「「ふゔぅもぉおおおおおお!」」」
残り時間はーーーーーー10秒。
〜終〜