前編 → https://black-hurooke.fanbox.cc/posts/1952442
文章 wa_m
挿絵 ふろおけ
前編(https://black-hurooke.fanbox.cc/posts/1952442)
──そして、明くる朝。
沢に戻ったオーク達の前で果たしてまだトゥムルは生きていた。満足に身体の自由も利かず、一睡も出来ずに冷たい水を大量に飲みながらも、それでも。
トゥムルを生かし続けていたのは他でもない執念だ。愛する女性の元に帰りたい、決して幸福とは言い難かったお互いの人生を補いたい、添い遂げたい……オークへの憎しみや自らを欺いた人間達への恨みは夜の内に削ぎ落され、ただ純粋な渇望だけが残っている。
オーク達がロープごと水から引き揚げたトゥムルは満足に呼吸ができなくなり、ヒューヒューとか細い音を喉の奥から漏らしていた。……窒息が、既に始まっていた。これは飲んだ水のせいではなく、彼の体内を侵し続ける神経毒によるものだ。
空気を啜るように喘ぎながら、トゥムルはロープで吊るされて山の斜面を担がれていく。そこにハイオークが座して待っていた。目玉を限界まで見開いて酸欠に苦しむトゥムルの顔をハイオークが覗き込む。そのままトゥムルの全裸の身体のあちこちに鼻先をくっつけてその体臭を嗅いだ。
『……アア、ヨイ。臭クナイナ。ソレデハ、オマエヲ朝餉トスル』
彼の胃から腸に侵入した生水は下痢を引き起こし、漏らした排泄物はすっかりと急流に洗い流されて外も内も綺麗になっていた。
ついにトゥムルの死期が訪れようとしている。ハイオークはその巨躯に較べると楊枝のように見えるトゥムルのアイアンソードを摘み上げた。
『オマエ達ハ旨イ……死ヌト知ッテ絶望シ、固く縮ンダ筋ヲ噛ミキル時ノ歯応エナドハ最高ダ』
オーク達は、トゥムルの脇の下に通っていたロープをわざわざ首に結え直す。ハイオークがその片端を掴んで引き上げた。トゥムルの身体は勢い良く吊り下げられて頸部の動脈も静脈もきつく締まった。
息苦しさを感じる前に脳の血流が停まり、全身の感覚が急速に遠のいていく。
(しに……たく……な……ぃ……)
萎えた両脚が最期の抵抗を示し、土に踵を立てようと足掻いて痙攣する。そんなトゥムルの左脚に、ハイオークがアイアンソードを振り下ろした。
「ィ……や……め……‼︎」
昨日、ハイオークの脚を斬った事で脂で鈍った斬れ味の刃が、トゥムルの脚を無理やり潰す様に引き千切った。
「ぐ……ギ……ィィィィッ……!」
『昨日ノ礼ダ……脚カラ食ッテヤロウト思ッテイタ……』
そう言ったオークの足には確かに傷跡がうっすら残ってはいたが、既に完全に肉が閉じて元のように表皮に覆われている。対してトゥムルの脚はいま力なく地面に転がり、元に戻ることはなくなった。
生物としての規格が、圧倒的に違う。
千切れた動脈から音を立てて血が迸り、全身の血圧が急激に下がる。ふら付いた残り片足もバランスを失って、今度こそ首の一点のみで全体重が吊るされた。
「ぐげ……ひ……」
いっそ痛みでショック死するか、気を失ってそのまま失血死できればどんなにか楽だっただろう。
しかし、ここまで痛め付けられ血を失ってなおトゥムルの心臓は盛んに動いている。……その身体を今も追い詰めている神経毒の成分は弱い麻酔としても作用する他に、強心作用まで併せ持っていた。獲物を弱らせながらもギリギリまで生き永らえさせ、死の寸前まで新陳代謝を励起させ続ける。拷問等のごく狭い目的に特化した最悪の薬物であった。
暗く陰っていくトゥムルの視界の真正面で、自分の大事な脚が、自分が丹念に鍛え、自分の身体をここまで運び生き永らえさせてくれた脚がハイオークにしゃぶられて喰われていく。大きく発達した牙の間で大腿骨をしごくように、肉がこそがれて化け物の喉の奥に落ちていった。
それを見ながら、トゥムルの意識はいま、闇に落ちていく──。
『マダダ』
――ロープが降ろされ、トゥムルの身体は土の上に転がった。ゲヒッ、ゲヒッという甲高い音で自分が咳をするのを遠くに聞き、その度に喉が痛んだ。骨がいかれたようだった。
『マダ死ヌナ──一本一本、手足ガ喰ワレルトコロヲ全部ミテカラ死ネ』
トゥムルの脳髄は血圧の急転で浮腫み、頭蓋一杯にみちみちと膨らんで鈍い痛みを発している。世界が回転するのを地面にへばりついて耐え忍んだ。
トゥムルにまだ意識があって呼吸をしていることを見届けた後、ハイオークはロープを再度宙へ引き上げた。吊られた身体がぶらぶらと回転し、トゥムルは背後に居並んでいたオーク達を見た。それは徒党を組むことを基本知らず、刹那的で動物的だったオーク達とは思えない整然とした有様だった。……群れを成す動物は大概ボスが一番に獲物を喰らう。つまり、この者どもはトゥムルの肉を喰らう順番を待っている。
それ程自らに可食部があるのか、果たしてハイオーク一人に食い尽くされはしないかどうか、疑問に思ったがそれは食われる側のトゥムルには与り知らぬ話だ。
そして、また一閃。
昨晩トゥムル自身が剣で刺し貫いて熱を持っていた左手が、次に断たれた。
「……ぎヒッ、ぎぃッ、ぃギイイイィィィィッ……!」
『人間ニシテハ、太クテ食イデノアル良イ肉ダ……コノ腕デ、コノ俺ヲ切ッテミセタノダナ……』
切り落とされた腕の先では、節くれだったトゥムルの指がビクビクを痙攣している。ハイオークはそれを緑色の唇で食んだと思うと肘まで一息にパクりと噛みつき、咀嚼する。
ずるりと引き抜かれたそれは芯までよく焼いたリブロースをしゃぶった後のような、冗談みたいに白く綺麗な骨に変貌していた。
手首から先の小骨は肉と一緒くたにかみ砕かれて呑まれた。
「ぉれ、の、おれの、うで、うで、ぇ、え……」
またも頸動脈が閉塞し暗転していく視界の奥に残った右腕を伸ばしながら、トゥムルは狭くなった気道から絞り出すような怨嗟の声を上げた。血液の流出は既に致死的で、背骨から尻の穴に向けて体温が流れ落ちていくかのような悍ましい寒気を本人は感じている。
「かぇ、せ……か……ぇ……せ……ぅで……ぉれの……う……で……ェ」
帰りたいのだ。
ジナのところに帰りたい。あの女の腕の中で眠りたい。まぐわいたい。
信じられないような奇跡の積み重ねでこれまで生き延びてきたのだ。ここまで来たのだから、父と母と俺を逃がした老人の一族の血を、愛する女との子を遺せると信じていたのだ。
そのために、女を抱くために、子を抱くために、守るために──腕も脚も全部必要だったのに。
『……オマエ、マダソンナ体力ガアッタノカ……?』
何かに感嘆したようなハイオークが、その指に摘まんだトゥムルの剣の先でトゥムルの下半身を指した。脳の酸欠でガクガクと大きな痙攣を始めた右手が力なく垂れ下がり、首もかくんと前に倒れた──下腹部を見下ろしたトゥムルの目の前には最高潮に勃起した自分の性器があった。
「ぁ……ァ、ぁ? ……」
『……オモシロイ。クフフ、クハハハ、ガアッハハハハハハハッ‼』
心なしか鈍色のオークの顔色が紅潮していた。その勢いのままに痙攣を続ける右腕を断ち落とした。
「……ぉ……! ……ォ……ぉ……」
――その眼球がぐるりと反転して白目を剥き、瞳孔まで光の射さなくなった視界は暗く閉ざされる。喉の上からきつく舌根を圧迫され、舌が口から大きく突き出した。
残った脚も役には立たない。いまトゥムルは力尽きる──。
……しかし、またロープが手放される。
またも縊死できなかったトゥムルはズシャッと湿った音を立てて土に転がった。
『……ソウダ、戦イハ血ト子種ヲ沸キ立タセルモノダ……オマエハ良イ獲物ダ……』
聞こえない。……頭が痛い。
さむい、うごけない、
でも、まだ死んでない。
這いつくばることさえ出来ないトゥムルは、最期の力を振り絞ってブルブルと震える首を持ち上げた。そこで、恐ろしいものを見た。
腰布を取り去ったハイオークが、勃起していたのだ。
(な……ぇ……)
畏怖は言葉にすらならなかった。その凶悪な性器はトゥムルの身長の半分弱程もあるだろう。
元々ハイオークの体格自体が人間の比ではないにせよ、その中でも際立って大きく重量感がある生殖器だった。地に打ち込む丸太杭を思わせるその根元には一抱えもある陰嚢があり、岩のようなずっしりした睾丸が中で上下しているのが見えた。
鈍色の肌に比べて酷く鮮やかに赤熱した亀頭が長大な幹の先端に膨らみ、その鈴口から湧き出る大量の先走りはトゥムルの全身に塗り拡げてなお余る程の量である。
『今ヨリ、オマエニ胤ヲツケル』
戦場で斬られて、貫かれて、血を撒いて死ぬ覚悟はいつだってトゥムルの中にあった。しかし、雄でなく雌として犯されて死ぬ最期など想像していなかった。
「……ん、ぁ、んで……? ぉ、れ……、オンナ、じゃ……な、ぃ……」
吐息のような、ぎりぎり意味を成す言葉になったトゥムルの哀願をオークは嗤う。
『人間ノ牡モ、牝モ、我ラニハ違イガナイ。タダ肉ヲ包メレバソレデ良イ』
ハイオークがひん剥いた口の端から、何本もの牙が覗く。
『モウジキ殺サレルト知ッテ、萎エズマダ子ヲ遺サンスルオマノ胤ハ不遜デアル。——我ガ殺スハオマエダケデハナイ。
オマエノ血モ、胤モ、全テ犯シテ殺シテクレル』
四度目。
またトゥムルの首を曳くロープが挙上され身体が浮き上がっていく。残った右脚と既に失った三本の四肢の断面、それらをてんでバラバラに振り回しながらトゥムルは藻掻いた。その尻が、火傷する程熱いハイオークの亀頭に乗せられる。ぬるりと滑った。
『オマエヲコノママ刻ンデ殺スノハ詰マラヌ……我ヲ傷ツケタ人間ノ戦士、我ガ胤ニ屈服死ネ』
(む……り……だ……そ……ん……な……)
その肉筒の太さそれ自体がトゥムルの胴回り程もあるのだ。肛門に入るわけがない。
大きな亀頭の上に跨ったトゥムルの、首のロープが手放された。支えを失った上半身は身を捩りながらオークの首筋にしなだれかかる。そのトゥムルの尻に、ハイオークの両手が添えられた。
両の人差し指の鉤爪がトゥムルの肛門に侵入した。
「……ぉ……ォ……⁉」
神経の麻痺は末期的となり、痛みは感じなかった。
ただそれでも、ずぶずぶと鋭い異物が進む度に腸管が細切れに引き裂かれていくのは触覚で感じている。
『サア、広ゲテヤロウ……』
「ぃ……や……め……ぇ……ェェぇェ……? あがッ、が、ぁぁぁぁぁぁッ……」
ブチブチブチブチと筋繊維が断ち切れていく濡れた音がトゥムルの腹に響く。
鉤爪はすぐに、骨に突き当たって止まった。……しかしそれでもまだ、ハイオークは尻穴を割り開こうとする。
『フム、中々カタイ。……ガ』
ボぎンッ。
『モウ外レタ』
ブヂヂヂヂヂヂッヂヂイヂヂヂヂヂッ!
その瞬間、トゥムルの背骨を支えていた骨盤が大きく左右に割れた。
両の太腿の間、会陰部から男性器の根元までの肉が引き裂ける。その直上に位置していた腸菅も一緒くたに千切れて、左右に割り開かれた。
「……ォあ? ……オっ? ぉぁ、ぁオっ、おッ」
裂けた肉の間から勢いよく外に転がり出ようとした内臓。奇妙な浮遊感に悪心を催してえづくトゥムルの腹腔にその臓物を押し戻すように、ハイオークの逸物が突き込まれた。
『オオ……アタタカイゾ、……ヨイ……』
……現実に即せば、オークの群れに遭遇したところから最早トゥムルの死は定められた運命だったのだろう。
それでもトゥムルの心と身体はずっと抵抗し、戦い、諦めることなど考えはしなかった。例え手も脚も失おうが、彼は女の元へ帰るという希望を手放さなかったのだ。……そんな強靭な精神がここへ来て、ついに折れた。その脳髄の芯まで強制的に現実を刷り込まれ、絶望した。
おれは、しぬ。ころされる。たったいま。
この意識もあと三十秒、……いや、十秒も保たないだろう。骨盤を砕かれ身体を裂かれて、あの巨大な肉の杭で下半身全てを挽き潰されているのだ。
トゥムルの身体から迸った鮮血と内臓を潤滑剤代わりにしてハイオークの性器はじりじりと進む。腹筋が内臓に押し上げられて歪に膨らんだ。
人間の大動脈ほどはありそうな毛細血管ののたくる肉杭に限界まで引き伸ばされ、トゥムルの皮膚はもう肛門も臀部も見分けがつかないほどパツパツになっていた。骨盤と骨頭が粉砕されて、皮膚で繋がっているだけの両の大腿が頼りなく揺れている──その今にも引きちぎれそうな皮膚の切れ端に、トゥムル自身の男性器もまだなんとか残っていた。下半身が大半挽肉になり既に致死量を超える血液が体外に流出したにも関わらず、腹の内側から動脈を圧迫されたことと脳機能と神経の反射だけで奇跡的に勃起を続けている。
破れた陰嚢から零れ落ちた睾丸は、神経、血管と輸精管が束なった細い筋で辛うじて繋がっていた。揺られる胴体の動きに合わせてそれが跳ね回り、自身やオークの皮膚に当たって跳ねる度にビリビリ痺れるような悪寒と恐怖がトゥムルの脊髄を駆け上った。
上半身どころか、もはや目蓋を動かすことすらままならない。色が薄れてぼやけていく視界の中で、固く鍛え上げられた自分の腹筋の板が飴細工のように丸く変形し膨れ、オークの亀頭の形を透かしているのをトゥムルは認めた。
己の肉体を性玩具のように下半身に押し付けるオークの腕の動きが止まり、ついにあの肉の杭を尻で飲み込みきったことが分かった。……既に皮膚感覚を喪失し、征服者の熱い体温や硬い陰毛の存在を感じることはなかった。
『デルゾ……デルゾ、オオ、オオオオオオ……!』
……オークは、只トゥムルに挿入しただけで最初の射精を開始した。
「……ぅご、……ぉ、ッ……」
ドゥルルルウッ! ドブゥッ、ドビュルッ!
限界まで膨張したトゥムルの腹が更にもう一段盛り上がった。大砲のような激しい射出の圧力によって、ぼこん、ぼこんと腹部が周期的に膨らんでは戻る。射出と射出のその合間にも、オークの亀頭からはどろどろ溢れて流れ落ちるマグマのような精液が絶え間なく湧き出でおり、たちまちトゥムルの腹腔の容積を超えた。
途中で破断された消化管から侵入した大量の粘液が胃と食道を逆流し、半開きになった口、宙を仰いだ鼻腔、充血した目頭の粘膜の隙間から白濁を噴出する。
(……、…………。)
まさしく今この時トゥムルは死の最中にあったが、辞世の言葉どころか末期の吐息すら漏らす隙間はなかった。
火傷する程に熱く、ドロドロに煮詰まった粘度の高い精液は心臓を直接揉みしだく。そして食道から喉を経由して気道に流入し、肺胞を詰まらせ、トゥムルを溺死させようとしていた。
男を征服する牡の精子の生臭さは粘膜を通して脳を直接犯す。絡めとられるような粘つく死の闇の中にトゥムルは身を委ね、意識と共に僅かな最期の力さえも手放した。
……ビクリ、ビクリと全身を大きく痙攣させるーー。
『……モウ死ヌカ。一回ダケナド詰マラヌ……』
そう言ったオークは、物言わぬ肉の筒になったトゥムルの肉体を性玩具のように前後に揺すった。
トゥムルの腹部の皮膚は既に限界まで伸びきっていてその締め付けはきつく、抜き差しは難しい。自慰を覚えたての子供が余った包皮で先端を擦るように、トゥムルの皮膚がずれるその撓みだけを使ってオークは巨根を扱き上げた。……たちまちトゥムルの皮膚は擦り切れて血を滲ませる。すぐに破れてしまうだろう。
オークの巨根と握り込む掌の僅かな隙間に巻き込まれ潰れ、トゥムルの内腑は既に肝臓や胃まで液状に攪拌されていた。あばらの骨が粉々に砕けて、残った肺を破っていく。精悍な男前だった顔の穴という穴、そこから漏れる白濁を突き抜けて噴血した。
──短くなった体躯の中央では、残った陰茎の先端からも血と精液を吐いていた。
(…………ッ、……………………)
ハイオークのそれには比べられなくても、人間の男性が成長しうる中では最も大きい部類の立派な逸物だった。それは今、若いトゥムル自身の胤ではなく、尿管の途中から流入したオークの濃く固い精液を噴出していた。
(…………ッぉ、………ァ……………)
草原の血を引くその若者の胤は愛した女に受精させることは叶わず、ただ最期に外界に出ることすら果たせなかった。自分のモノより熱く濁った奔流に呑まれる……今、若者は自分ではなく他の牡の精液に身体の内側から前立腺と尿管を擦られ、自分が射精したのと同じかそれ以上の快楽を意識のない脳髄に刻み込まれていた。
しかし死の淵にある若者は最早、屈辱や敗北すら認識することはできなかった。
(…………、………………、……………………)
その敗北はトゥムル一人のものでなく、彼の一族、彼まで脈々と血を継いだ者達全ての敗北であり、その精子の一つ一つに至るまでが獰猛な異種族の精子の本流に呑まれてたちまち虐殺された。
ぶちゅぶちゅと醜い水音をたてながら何度も揺さぶられるトゥムルは、血と精液と潰れた内臓の混じった肉色の粘液を撒き散らす。早漏気味のオークは二度めの射精が近いのか、ピストンの速度が見る間に増した。
引き攣れるトゥムルの胴体の皮は内出血で鮮やかな紫に染まって、更にどす黒く変じ、ついには横腹に穴を開けた。
『オ、……オオ、オオオ、オオオオオオオオオッ‼︎』
雄叫びを上げたオークが二度めの射精を開始する。
最初の精液の残りが充満していたトゥムルの腹は更にもう一段、ボコンと音を立てて無様に膨張した。
この瞬間。
トゥムルの心臓は、固く凝った精液に押し潰されて破裂した。
ビクンッ! ビクンッ!
そんな力がどこに残っていたのか、死にゆく若者の身体は大きく脊柱を跳ねさせて暴れる。……その後、萎むように脱力してトゥムルの全身の運動は今度こそ完全に停止した。
(…………、 …… …… )
……顔も知らない父母や一族の願い。
幸運。
自身が恃みにした力と身体。
(……
……、
)
ここまでの人生を切り拓いてきたそれらは全て無為となった。トゥムルは戦士として死ぬ事はできなかった。夫として家庭を持ち、寝台で安らかに死ぬ事も叶わなかった。
最早男でも、人間でもない──まだ短かったその生涯は今、ただの手慰みの玩具として終わってしまった。
「オ・・・・・・オオ──オオ・・・・・・」
いまだ射精の余韻に浸るハイオークは、命を失ったトゥムルの亡骸で緩やかに陰茎を扱き続けている。それはすぐ再び本格的な律動になり、トゥムルだった肉塊から陰茎を抜く暇すらないままに三度、絶頂に向かって登り詰めていった。
そうして迎えた三度目の射精で、トゥムルの胴体のそこかしこに出来ていた傷口が内側からの圧力に負けて大穴を開けた。
噴き出した熱い精液がオークの掌に纏わり付き、チュコチュコと音を立てて白く泡立つ。
興奮しきったオークはトゥムルの肉体が摩擦に耐えられない程の勢いでピストンを続けている。ぶら下がっていただけの大腿がどこかへ飛んだ。
細かな肉片と化した下腹部は飛び散って、鳩尾から下が消えていった。
こうなっては陰茎を包む性玩具としての用すら為さないのに、オークは高速で自らの亀頭の先にトゥムルだった残骸を叩きつけた。
……ようやくハイオークが我に返った時、周りに侍ってトゥムルが絶命していく様を見守っていた下位のオーク達は淫部を熱く膨らませて震えていた。
彼らもハイオークと同じく肉に飢え、かつ数日分の性欲を溜め込んでいた。トゥムルは彼らにとっても食欲と性欲の両方を満たせる格好の餌食だったのだが、上位であるハイオークより先に獲物にあり付けるわけもない。
『……モウ遊ベヌガ、食ウトコロクライハ残ッテイルダロウ』
そう言って、ハイオークは短くなったトゥムルの亡骸をオーク達の輪の中に投げ込む。今晩もまた抑圧を重ねて、この腹の底の猛りを戦闘欲に転化する他ないと思っていたオーク達が、期待に満ちた視線をハイオークに送る。
『顔ダケハ人間達ノ見セシメニナル、残セ。——後ハ全テ喰ラッテ良イ』
……その言葉が終わる前にオーク達は捕食を開始した。
あるものは、丸く厚く筋肉が覆った肩を。
あるものは柔らかに盛り上がった胸の、乳の周りを。
あるものは、血の臭いが特に濃い喉笛を。
またあるものは、地面に飛び散り潰れた肉片を。
それら全ての肉はハイオークの臭い精液に塗れていたが、彼らオークにとって自らより上位の個体の体液は栄養豊富な精力剤として機能する。オーク達は躊躇うどころか喜んで食い尽くしていき、トゥムルの遺体は恐ろしい異種属の胃袋の中に飲み込まれていった。
棍棒でトゥムルの頭蓋が割られると、全員がその脳髄を奪い合うようにして啜りだす。他の生物の、死の恐怖で委縮した新鮮な脳髄はこの蛮族達にとっての馳走であった。
──それから数日の後。
血相を変えて宿場に駆け込んだ隊商の通報によって憲兵が向かった先……宿から二刻程の距離、原野の只中を貫く人気のない街道の上で、ボロボロに損壊した人間の頭部が回収された。
首から下は見つからず頭蓋も中身を喪っている程の有様ながら、顔面だけは殆ど無傷で残されていた。しかしそれは殺戮者の情け等ではなく、どの人間がオークの雌にされたか敢えて識別可能にするための徹底的な辱めである。
誰が見てもオークに凌辱されたと分かる、ガチガチに乾いた夥しい精液に覆われて真っ白になった死に顔。乾燥した眼窩と頬骨の下は落ち窪み、腐り始めた肉と栗の花の悍しい臭気を放つトゥムルの生首は傭兵ギルドのマスターによって身元が確認された。
死亡した傭兵に身寄りがない場合、残る兵達の生存率を上げるためにその資産は傭兵ギルドに贈与されるという慣習があった。トゥムルに婚資を贈った女がいたという事実は看過され、その遺産を金庫に接収したギルドマスターの表情は喜悦で歪んでいた。
そして、トゥムルの頭部だけの亡骸は所定の鑑別手続きを終えた後、宿場の共同墓地に葬られることすらなく荒野に遺棄された。
異種族の体液に内部まで汚染され、どのような病の元を持っているか分からず、人心を恐怖させる。
そんなものをコミュニティ内に埋葬は出来ないというのが役人の言う公的な理由だったが、トゥムル自身が言ったように彼が所詮余所者であった事もきっと無関係ではないだろう。
季節は、乾燥した風が東から吹く頃だった。草の上に転がる乾いたその肉がやがて鈍く変色し始めた頃、下着同然の貫頭衣だけを纏い酷くやつれた一人の女がトゥムルの生首の前に現れた。
悲しみと狂気で爛々と輝く眼を剥いた女は小さくなったトゥムルを見つけるなり、齧り付くように地に伏せてその顔を拾い上げた。既に硬直も解けてだらしなく緩んだ男の死相を確かめるようにじっと覗き込み、やがてその頭を肋の浮き出た胸に抱き寄せると、蓬髪を振り乱して嗚咽した。
半日もそうしていたか、やがて女は立ち上がるとその胸の腐肉を大事に固く抱えたまま、ふらふらと原野へ歩いてどこかへ消えていった。
……街道宿で娼婦をしていた一人の女がこれ以降姿を消し、その後の行方を知る者は誰一人としていなかった。
やがて、時が流れた。
国々の戦争の進展によって街道は他に移ってしまい、かつてトゥムル達も通った一帯は衰退の一途を辿っていた。草に呑まれつつある宿場の廃墟だけが過去の名残を留めている。
そこには今、「山姥」と呼ばれることになった女怪が棲むと言われていた。垢じみた斑の白髪が膝に尽くほど伸び、垂れて剥き出しにした乳房の間には表面が濁った銀鎖の翡翠のペンダントが提げてある……どうやら老いた女性らしい、それが名の由来だった。
小さく痩せこけて背の曲がったみすぼらしい姿でありながら若い強壮なオークの一団を率い、母のように崇められている。そのオーク達が人間も獣も、時にオークですらも区別なく、特に若い雌雄の番を好んで捕まえて来て、母と一緒に喰らうのだという。
その名を知らずに付近を通る不運な者達はたちまち「山姥の息子達」に叩き殺された。女怪は「息子達」が運んできた血塗れの遺骸を大事に抱えると宿場の廃墟の中に入り、綿の腐った寝台に丁寧に横たえる。
そして声を上げるのだ。
「……ぁ……なた……ぉ……きゃ、く……さ……ま……、……」
この怪物の怨念は、生きて子を成す動物が目に入る限りは消えない程のものだ。老いた肉体が死んで土に還ったとしても、「息子達」の行動様式の中にそれこそ怪物は生き続ける。
それ程のものが風化することがこの先あるとしたら、それこそ一帯がこのまま緑に呑まれて人の痕跡が全て消え去る時くらいしかあり得なかった。
人が住まうより遥かな古、この辺りは広漠とした大草原だったと言い伝えられている。さざめく草を寄せては返す、雄大な風が戻る日が来るとしたら──。その時ようやく、壊れた記憶の中で居なくなった誰かを呼ぶ怪物の無念も消えることが出来るだろう。
但しそれはいつ来るとも知れない、遠い未来の話である。
END
Exacerbate
2022-07-26 15:38:37 +0000 UTCふろおけ
2022-07-17 08:52:12 +0000 UTCふろおけ
2022-05-12 08:52:36 +0000 UTCExacerbate
2022-05-12 03:48:38 +0000 UTCふろおけ
2021-08-29 16:19:46 +0000 UTCふろおけ
2021-03-03 05:07:02 +0000 UTCふろおけ
2021-03-02 04:03:54 +0000 UTCHaken.H
2021-03-01 17:50:23 +0000 UTCRaeRae
2021-03-01 11:29:01 +0000 UTCふろおけ
2021-03-01 11:18:50 +0000 UTCRaeRae
2021-03-01 03:46:14 +0000 UTCふろおけ
2021-03-01 03:32:14 +0000 UTCascian
2021-02-28 23:21:58 +0000 UTC