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ゴシック
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帝国②

「カリスマ」という言葉がふさわしいとされる人間をひとりだけ選べるとしたら、きっと私は迷わないだろう。私の中で、その言葉に値する人物はひとりだけだ。 立花姫菜(たちばなひめな)。 混沌に荒れたこの高校を救いになる、ただひとりの女帝だ。 水代(みずしろ)高校に入学した去年、1年生の時の私は腹立たしいほどに無力だった。 女子たちの間で密かに行われる決闘儀。それが『レズバトル』だ。他の地方などでは『花差し』や『水たまり遊び』なんて呼ばれているところもあるみたいだけど、都内にあるこの水代高校では一般的な呼び名である『レズバトル』と呼ばれている。 華の女子高生である私も、当然『レズバトル』をする。というか今どきの女子で『レズバトル』をしない子なんていない。蚊も殺せなさそうな大人しそうな文学少女も、可愛く天真爛漫にはしゃぐ少女も、みんなやる。誰かにそう迫られたからではない。女が『レズバトル』をするのに理由なんてない。強いて言うのであれば、 「女に生まれたから」 だろうか。 しかしそれは強さとは関係しない。やるからといってみんなが実力や素質を持ち合わせているわけではない。 私は持っていない人間だった。勝つことも出来ずに負けを繰り返す日々。でも勝ちたい。女として上に立ちたい。その一心でバトルを繰り返し、強くなるための努力をした。 幸い相手に困ることは無い。この水代高校にいる女子はどいつもこいつもが戦闘狂ばかり。リーダー格となる実力のある女子たちが様々な派閥を作って、敵対派閥と抗争を繰り返している。私はどの派閥にも与していないけど、バトルを誘えば断られることは無かった。売られた喧嘩を買わないのは、同じ派閥の仲間たち、そのリーダーの顔に泥を塗ることになるからだ。 私はバトルに明け暮れた。そして徐々に勝ち数が増えていき、自分でも実感できるぐらいには強くなった。努力は実を結ぶのだ。 そして、ひとりの女子に声をかけられた。 私よりも一つ上の上級生。その人の存在は知っていた。なにせ、この高校で一番と言っていいほどの有名人だ。 「私とバトルしてくれるかしら」 当然私はバトルを受けた。そして惨敗した。今までにやったどの女子よりも強く、そして華やかだった。 そして彼女はこう言った。 「あなたは特別よ。良ければ、私に付いてきてくれないかしら」 その日から、私はある派閥の一部になった。 きのう姫菜さんに指示されたのは、とある派閥のリーダー格の少女を倒すこと。今までは敵性派閥の副リーダーを私が潰して、出張ってきたリーダーを姫菜さんが潰すというやり方だったけれど、ついに私がリーダー格を任された。これは姫菜さんに認められているということであり、喜ばしいことだ。だからこそ絶対に負けられない闘いでもある。 それに、これを成功させれば姫菜さんにご褒美を貰える。 だから私は、このバトルに絶対に勝つ。 「それで?ウチらにお前らの下に入れって?」 やや赤みのある茶髪を長く伸ばしてポニーテールに纏めている女は、不快そうに私を睨みつけた。学校指定の学習机の上に座り、椅子を足置きにしている。 「そうです。あなたたち『恋歌』は多数の派閥と抗争状態にありますよね。それに仲間の何人かは既に別の派閥に流れたそうですね。この状況であれば、3年でも有数の実力者であるあなたでも全ての敵性派閥を捌くのは難しいでしょう」 「だからってノコノコとお前らの下になんか就くと思ってんのか?」 「いいえ。だから私が来たのです」 特別棟4階の会議室。水代高校の中で最も来る頻度の少ない場所と言えるだろう。この放課後にこんな辺鄙なところに来るような人はおらず、ここは絶好の密会場所となっている。私はここに、『恋歌』のリーダーである小池麗美(こいけれみ)を呼び出していた。正確には呼び出したのは姫菜さんだけど。 それに小池麗美は不満そうだった。 「そこなんだよ。立花が呼び出してきたからせっかく来てやったのに、なんでお前みたいな下級生なんだよ。もしかしてウチのこと舐めてんのか?」 「姫菜さんは多忙なんです。それに舐めてなんかいません。私が繰り出されたということは、それなりに実力は認められているみたいですよ。良かったですね」 私の挑発に小池麗美は表情を険しくさせ、眉間に深い皴を寄せた。 「言うじゃんかよ下級生。吐いた唾飲むなよ?」 「ええ。そちらこそ」 小池麗美は座っていた学習机から飛び降り、スルスルと服を脱ぎ始めた。私も真っ向から睨み合いを受けながら徐々に服を脱いでいく。 正直言って勝つのは難しいだろう。苦戦は必至で油断すれば瞬殺されるのは目に見えている。でも負けるわけにはいかない。女としてこの女には負けたくないし、なにより姫菜さんの期待を裏切るわけにはいかない。 絶対勝つ。私は自分をそう鼓舞し、脱いだ制服を投げ捨てた。


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